【実施例】
【0044】
以下、実施例等により本実施形態を具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下ではメタノールを「MeOH」と、エタノールを「EtOH」と、プロパノールを「PrOH」と、イソブタノールを「isoBtOH」と、それぞれ表記する場合がある。
【0045】
なお、各実施例及び比較例における反応成績(転化率、選択率、回収率及び通算選択率)は、以下の条件に従ったガスクロマトグラフィー分析によって求めた。
(ガスクロマトグラフィー分析条件)
装置 :6850A(アジレント・テクノロジー株式会社製)
使用カラム:DB−WAX(アジレント・テクノロジー株式会社製)
分析条件 :注入口温度200℃、検出器温度250℃
カラム温度:40℃で10分保持後、250℃まで15℃/分で昇温
検出器 :熱伝導度検出器(TCD)
【0046】
[実施例1]
(第一工程)
(触媒調製)
太平化学産業製の「第三リン酸カルシウム」15gをイオン交換水35gに懸濁させ、エバポレーターを用いて50℃で水を除いた。これを150℃で3時間乾燥させた後、600℃で3時間焼成を行った。得られた焼成体を粉砕後、粉砕体を10〜20メッシュを通過する大きさに揃えてヒドロキシアパタイト触媒Aを得た。このヒドロキシアパタイト触媒AのCa/Pモル比を、ICP(発光分光分析)により測定したところ、1.67であった。
【0047】
(前処理)
上記のように調製したヒドロキシアパタイト触媒A7gを、内径18mmφのSUS316製反応管に充填した。窒素を40cc/minで流しながら電気炉にて加温し、充填した触媒層を400℃で安定させた。
【0048】
(反応)
窒素の供給を停止し、1−プロパノール22.4質量部と、メタノール77.6質量部とを混合した原料液(モル比:(メタノール)/(1−プロパノール)=6.5)を流速6.00g/hr(1−プロパノールのWHSV=0.19hr
-1)で反応管に通した。
【0049】
3時間経過し、定常状態(420℃)に達したところで、生成物を氷トラップにより採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、1−プロパノールの転化率は99%、イソブチルアルデヒドの選択率は9%、イソブタノールの選択率は78%であった。これらの転化率及び選択率を表1に示す。なお、メタノール回収率は以下のように算出した。
MeOH回収率= (回収されたMeOH量)/[(仕込みのMeOH量)−(イソブタノールもしくはイソブチルアルデヒドの生成に消費されたMeOH量)]
【0050】
転化率を維持するように徐々に反応温度を上げていき反応開始から240時間後には反応温度が440℃に達した。この時点で分析したところ、1−プロパノールの転化率は96%、イソブチルアルデヒドの選択率は3%、イソブタノールの選択率は83%であった。
【0051】
(第二工程)
(原料)
実施例1の第一工程の反応液を蒸留し、純度98%のイソブタノールを得た。
【0052】
(触媒調製)
硝酸銅30gをイオン交換水270gに溶かし、そこへ酸化マグネシウム(和光純薬製)10gを加え、加熱還流を1時間行った。その後、10wt%水酸化ナトリウム水溶液300mLを加え、室温まで冷却した後、沈殿物を濾別した。濾液がpH7.5になるまで沈殿物をイオン交換水で洗浄し、120℃にて20時間乾燥後、粉砕して10〜20メッシュを通過する大きさに揃えて銅マグネシア触媒を得た。
【0053】
(前処理)
上記のように調製した銅マグネシア触媒7gを、内径18mmφのSUS316製反応管に充填した。窒素を80cc/minで流しながら電気炉にて加温し、充填した触媒層を150℃で安定させた。急激な発熱を避けるため水素ガスを徐々に加えて水素濃度を15vol%とし、その後240℃まで昇温した。そのまま3時間保持することにより触媒を還元した後、窒素ガスでパージした。
【0054】
(反応)
触媒層が370℃となるまで昇温し、窒素の供給を停止し、蒸留生成したイソブタノール原料液(純度98%)を流速5.6g/hr(イソブタノールのWHSV=0.72hr
-1)で反応管に通した。3時間経過し、定常状態に達したところで、生成物を氷トラップにより採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、イソブタノール転化率は87%、イソブチルアルデヒドの選択率は84%であった。第一工程、第二工程を通してのイソブチルアルデヒド選択率(通算選択率)は75%であった。なお、イソブチルアルデヒドの通算選択率は下記式に基づいて算出した。
通算選択率=「第一工程のイソブタノール選択率×第二工程のイソブチルアルデヒド選択率+第一工程のイソブチルアルデヒド選択率」
【0055】
[実施例2〜3]
(第一工程)
原料アルコールのモル比及び反応温度を表1に示したモル比及び反応温度に変更したこと以外は実施例1と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表1に示す。
【0056】
(第二工程)
実施例2〜3の第一工程の反応液を各々蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表1に示す。
【0057】
[比較例1]
(第一工程)
(触媒調製)
シュウ酸二水和物2.43gをイオン交換水40gに溶かし、そこにメタバナジン酸アンモニウム(NH
4VO
3)1.50gを加えて50℃にて撹拌して均一溶液とした。そこへ二酸化チタン(富士チタン工業製TA−300)40gを加えて50℃で30分間撹拌を行った後、エバポレーターを用いて水を除き、150℃で3時間乾燥した。その後、乾燥体を空気雰囲気下500℃で3時間焼成した。得られた焼成体を粉砕後、10〜20メッシュを通過する大きさに揃えてV
2O
5−TiO
2触媒を得た。
【0058】
(前処理及び反応)
ヒドロキシアパタイト触媒Aに代えて、上記のように調製したV
2O
5−TiO
2触媒を用いて反応温度を350℃とした以外は、実施例1と同様に前処理及び反応を行った。反応成績を表1に示す。
【0059】
(第二工程)
比較例1の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表1に示す。
【0060】
[比較例2]
(第一工程)
(触媒調製)
酢酸銅一水和物((CH
3COO)
2Cu・H
2O)1.28gをイオン交換水20gに溶かし、そこへ二酸化チタン(富士チタン工業製TA−300)20gを加えて50℃で30分間撹拌を行った。エバポレーターを用いて水を除き、150℃で3時間乾燥した。その後、乾燥体を空気雰囲気下500℃で3時間焼成した。得られた焼成体を粉砕後、粉砕体を10〜20メッシュを通過する大きさに揃えてCu−TiO
2触媒を得た。
【0061】
(前処理)
上記のように調製したCu−TiO
2触媒7gを、内径18mmφのSUS316製反応管に充填した。窒素を80cc/minで流しながら電気炉にて加温し、充填した触媒層が150℃になるように安定させた。急激な発熱を避けるため水素ガスを徐々に加えて水素濃度を15vol%とし、その後240℃まで昇温した。そのまま3時間保持することにより触媒を還元した後、窒素ガスでパージした。
【0062】
(反応)
ヒドロキシアパタイト触媒Aに代えて、上記のように調製したCu−TiO
2触媒を用い、反応温度を380℃とした以外は、実施例1と同様に反応を行った。反応成績を表1に示す。
【0063】
(第二工程)
比較例2の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表1に示す。
【0064】
[比較例3]
(第一工程)
(前処理及び反応)
実施例1にて調製したヒドロキシアパタイト触媒Aを用い、原料アルコールとしてプロパノール38.5質量部、メタノール61.5質量部の割合(モル比:メタノール/(1−プロパノール)=1)で混合した原料液を流速3.45g/hr(プロパノールのWHSV=0.19hr
-1)とした以外は、実施例1と同様に前処理及び反応を行った。反応成績を表1に示す。
【0065】
(第二工程)
比較例3の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表1に示す。
【0066】
なお、転化率と選択率の間には相関関係があるため、以上の実施例1〜3及び比較例1〜3の第一工程では、メタノール転化率が同程度となるよう反応温度を調整し、同程度の転化率としたときの選択率を評価するものとしている。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例1〜3と比較例3について、原料アルコールの比(メタノール/1−プロパノール比)とイソブチルアルデヒドの通算選択率との相関、及び、原料アルコールの比(メタノール/1−プロパノール比)とMeOH回収率との相関を
図1に示す。比較例3に対して、用いるメタノール量を2倍にした実施例3、4倍にした実施例2、6.5倍にした実施例1では、イソブチルアルデヒドの通算選択率が概ね2倍以上となっており、モル比(メタノール/(1−プロパタノール))が2以上で急激にイソブチルアルデヒドの通算選択率が向上することがわかる。
【0069】
さらに、
図1から、ヒドロキシアパタイトを用いた反応において、メタノールを過剰に用いることにより、メタノール回収率が高くなることから、原料の分解反応や重合反応などの副反応が抑制されていることがわかる。
【0070】
以上のとおり、実施例1〜3に係る製造方法によれば、メタノール回収率89%以上かつイソブチルアルデヒド通算選択率70%以上を達成でき、比較例1〜3に対してメタノール回収率とイソブチルアルデヒドの通算選択率の双方において優れた結果が得られることがわかる。すなわち、実施例1〜3に係る製造方法によれば、アルコール原料の副反応を抑制しつつイソブチルアルデヒドを効率よく製造することができ、工業的に有利であることがわかる。
【0071】
[実施例4]
(第一工程)
原料アルコールとしてメタノールとエタノールを用い、モル比をメタノール/エタノール=7.5とし、エタノールのWHSVを0.14h
-1とした以外は実施例1と同様に前処理及び反応を行った。
【0072】
3時間経過し、定常状態(411℃)に達したところで、生成物を氷トラップにより採取し、ガスクロマトグラフィーにより分析したところ、エタノールの転化率は92%、イソブチルアルデヒドの選択率は3%、イソブタノールの選択率は62%であった。反応成績を表2に示す。
【0073】
(第二工程)
実施例4の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応を行った。反応成績を表2に示す。
【0074】
[実施例5]
(第一工程)
(触媒調製)
硝酸カルシウム4水和物(Ca(NO
3)
2・4H
2O)40.3gをイオン交換水160gに溶かし、そこへ25質量%アンモニア水溶液140gを加えてpH12以上の溶液Aを得た。別途、リン酸水素2アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)13gをイオン交換水315gに溶かし、そこへ25質量%アンモニア水溶液85gを加えてpH10〜11の溶液Bを得た。常温で溶液Aを撹拌しながら、50分間かけて溶液Bを滴下し、その後80℃へ昇温して30分間撹拌した。この際、溶液中に白色沈殿が生じた。この白色沈殿を濾別し、150℃で3時間乾燥した後、空気雰囲気下600℃で3時間焼成した。得られた焼成体を粉砕後、粉砕体を10〜20メッシュを通過する大きさに揃えてヒドロキシアパタイト触媒Bを得た。この触媒のCa/Pモル比をICP(発光分光分析)により測定したところ、1.73であった。
【0075】
(前処理及び反応)
ヒドロキシアパタイト触媒Aに代えて、上記のように調製したヒドロキシアパタイト触媒Bを用いた以外は、実施例4と同様に前処理及び反応を行った。反応成績を表2に示す。
【0076】
(第二工程)
実施例5の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0077】
[実施例6〜8]
(第一工程)
原料アルコールのモル比及び反応温度を表2に示したモル比及び温度に変更したこと以外は実施例4と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0078】
(第二工程)
実施例6〜8の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0079】
[実施例9〜11]
(第一工程)
実施例1の第一工程にて調製したヒドロキシアパタイト触媒Aの焼成温度を表2に示した焼成温度に変更したこと以外は実施例4と同様の条件で触媒調製、前処理及び反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0080】
(第二工程)
実施例9〜11の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0081】
[実施例12]
(第一工程)
(前処理及び反応)
実施例1にて調製したヒドロキシアパタイト触媒を、温度150℃で3時間乾燥した以外は、原料をエタノール32.4質量部、メタノール67.6質量部の割合(モル比:メタノール/エタノール=1)で混合した原料液を流速3.02g/hr(エタノールのWHSV=0.14hr
-1)とした以外は、実施例4と同様に前処理及び反応を行った。反応成績を表2に示す。
【0082】
(第二工程)
実施例12の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0083】
[実施例13]
(第二工程)
(原料)
実施例1の反応液を蒸留し、純度98%のイソブタノールを得た。
(触媒調製および前処理)
実施例1の第二工程に記載の触媒を用い、前処理も同様に行った。
(反応)
反応温度を320℃とした以外は、実施例1の第二工程と同様に反応を行った。イソブタノール転化率は72%であり、イソブチルアルデヒドの選択率は59%であり、イソブチルアルデヒドの通算選択率は40%であった。
【0084】
[比較例4]
(第一工程)
(触媒調製)
硝酸銅1.25molをイオン交換水800gに溶解し、40℃に保ち、A液を得た。また、炭酸ソーダ1.63molをイオン交換水1000gに溶解し、40℃に保ち、B液を得た。さらに、酸化亜鉛0.629molをイオン交換水300gに分散し、40℃に保ち、C液を得た。また、日産化学工業株式会社製アルミナゾル200(アルミナ含有量10%)を用い、アルミナとして0.078mol含有する量をイオン交換水160gに分散し、60℃に保ち、D液を得た。撹拌下、B液へA液を添加した後、C液を添加し、更に炭酸ガスを6L/hrの速度で吹き込み80℃まで昇温し、30分間保持した。反応終了後60℃まで冷却した。このスラリーにD液を添加し、30分間撹拌した後、ろ過して、更にイオン交換水4000gにて洗浄し、水切り後、組成物ケーキを得た。これを80℃にて15時間乾燥した後、空気雰囲気下にて380℃で焼成した。得られた焼成体を粉砕後、10〜20メッシュを通過する大きさに揃えてCu−ZnO触媒を得た。
【0085】
(前処理)
上記のように調製したCu−ZnO触媒7gを、内径18mmφのSUS316製反応管に充填した。窒素を80cc/minで流しながら電気炉にて加温し、充填した触媒層が150℃になるように安定させた。急激な発熱を避けるため水素ガスを徐々に加えて水素濃度を15vol%とし、その後240℃まで昇温した。そのまま3時間保持することにより触媒を還元した後、窒素ガスでパージした。
【0086】
(反応)
ヒドロキシアパタイト触媒Aに代えて、上記のように調製したCu−ZnO触媒を用い、反応温度を300℃とし、エタノールメタノール比=6.5とし、原料液を流速17.4g/hr(エタノールのWHSV=0.40hr
-1)とした以外は、実施例4と同様に反応を行った。反応成績を表2に示す。
【0087】
(第二工程)
比較例4の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0088】
[比較例5]
(第一工程)
(前処理及び反応)
原料をエタノール32.4質量部、メタノール67.6質量部の割合(モル比:メタノール/エタノール=1)で混合した原料液を流速3.02g/hr(エタノールのWHSV=0.14hr
-1)とした以外は、実施例4と同様に前処理及び反応を行った。反応成績を表2に示す。
【0089】
(第二工程)
比較例5の第一工程の反応液を蒸留し、実施例1の第二工程と同様の条件で反応まで行った。反応成績を表2に示す。
【0090】
なお、転化率と選択率の間には相関関係があるため、以上の実施例4〜13及び比較例4〜5の第一工程では、エタノールの転化率が同程度となるよう反応温度を調整し、同程度の転化率としたときの選択率を評価するものとしている。
【0091】
【表2】
【0092】
実施例4,6〜8と比較例5について、原料アルコールの比(メタノール/エタノール比)とイソブチルアルデヒドの通算選択率との相関、及び、原料アルコールの比(メタノール/エタノール比)とMeOH回収率との相関を
図2に示す。比較例5に対して、用いるメタノール量を2倍にした実施例8ではイソブチルアルデヒドの通算選択率が5.0倍となっており、用いるメタノール量を3倍にした実施例7ではイソブチルアルデヒドの通算選択率が6.0倍となっており、用いるメタノール量を4倍にした実施例6ではイソブチルアルデヒドの通算選択率が13倍となっており、用いるメタノール量を7.5倍にした実施例4ではイソブチルアルデヒドの通算選択率が13.8倍となっており、モル比(メタノール/エタノール比)が4以上では第一工程の選択率が急激に向上し、通算のイソブチルアルデヒド選択率も急激に増加することがわかる。
【0093】
さらに、
図2から、ヒドロキシアパタイトを用いた反応において、メタノールを過剰に用いることにより、メタノール回収率が高くなることから、原料の分解反応や重合反応などの副反応が抑制されていることがわかる。
【0094】
また、実施例4,9〜12について、焼成温度とイソブチルアルデヒドの通算選択率との関係を
図3に示す。焼成温度の上昇につれ、イソブチルアルデヒドの通算選択率が向上することがわかる。
【0095】
以上のとおり、実施例4〜13に係る製造方法によれば、メタノール回収率57%以上かつイソブチルアルデヒド通算選択率20%以上を達成でき、比較例4〜5に対してメタノール回収率とイソブチルアルデヒドの通算選択率の双方において優れた結果が得られることがわかる。すなわち、実施例4〜13に係る製造方法によれば、アルコール原料の副反応を抑制しつつイソブチルアルデヒドを効率よく製造することができ、工業的に有利であることがわかる。