特許第6384758号(P6384758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384758
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】付着物除去方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/00 20060101AFI20180827BHJP
   B24C 11/00 20060101ALI20180827BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B24C1/00 C
   B24C11/00 B
   H01L21/68 N
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-199638(P2014-199638)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68188(P2016-68188A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143410
【弁理士】
【氏名又は名称】牧野 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】清水 千博
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 紀仁
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−239417(JP,A)
【文献】 特開2005−203724(JP,A)
【文献】 特開2005−040873(JP,A)
【文献】 特開2010−232624(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0111023(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00−11/00
C30B 1/00−35/00
H01L21/67−21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜プロセスにおいて治具に付着する治具よりも硬質である付着物を除去する付着物除去方法であって、
弾性を有するゴムからなる中実のコアの表面に、付着物よりも硬質な硬質粒子からなる砥材を固着させてなる噴射材を用意し、
前記コアは、JIS K6253に規定される硬度がA30〜90で、弾性率が1〜10MPaであり、
前記噴射材を治具表面に斜め方向から噴射し、
前記噴射材が治具表面に衝突したときに前記コアが弾性変形し、前記砥材を治具表面で面方向に変位させることにより付着物を除去することを特徴とする付着物除去方法。
【請求項2】
前記噴射材のコアは平均粒径が0.1〜2.0mmであることを特徴とする請求項1に記載の付着物除去方法。
【請求項3】
前記噴射材の硬質粒子は平均粒径が0.9〜22.0μmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の付着物除去方法。
【請求項4】
前記噴射材を治具表面に噴射する噴射角αは、治具表面に対して40°≦α≦80°であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の付着物除去方法。
【請求項5】
前記治具は石英ガラスまたはカーボンを主材料として形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の付着物除去方法。
【請求項6】
前記成膜プロセスは、有機金属気相成長法(MOCVD法)であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の付着物除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜プロセスにおいて、成膜装置で用いられる治具に付着した付着物を除去する付着物除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイスや硬質皮膜を形成した治工具の製造等に成膜プロセスが用いられている。これらの成膜プロセスにおいて使用する治具には、成膜する材料が付着する。この付着物は製品特性の劣化などをまねくおそれがあるため、定期的に除去することが必要である。例えば、半導体デバイスの製造プロセスで用いる成膜装置は、被処理材であるウェハを載置するトレイ、被処理材をトレイ上の所定の位置に保持するサセプタ、サセプタに対向して設けられ、チャンバー内のガス流を制御するための対向板などの治具を備えている。これらの治具は温度、雰囲気等の使用条件を勘案して、例えば、トレイはSiCまたは表面にSiCがコーティングされたカーボン、サセプタはカーボン、対向板は石英ガラスにより形成されている。
【0003】
このような治具に付着した付着物の除去方法として、特許文献1には、半導体製造装置用の炭化珪素製治具を10体積%以上の硝塩酸水溶液または弗硝酸水溶液に30分以上浸漬することにより付着物を溶解除去する方法が開示されている。また、硬質皮膜を除去する方法として、特許文献2には、TiN、TiCN等の硬質皮膜が形成された処理対象表面に、硬質皮膜より硬い砥粒を噴射するブラスト加工により、硬質皮膜を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−78375号公報
【特許文献2】特開2006−305694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
硬質の付着物が、損傷を受けやすい材料からなる治具に付着する場合、例えば、成膜プロセスとして有機金属気相成長法(MOCVD法)により、GaNやSiなど硬質被膜が治具に付着する場合、トレイ、サセプタ、対向板などの治具は、石英ガラスまたはカーボンを主材料として形成されており、付着物との硬度差が大きくなる。つまり、損傷を受けやすい治具の表面に、硬質の付着物が存在している状態となる。
【0006】
特許文献1に記載の技術のように、薬液を用いて付着物を溶解除去する方法では、このような硬質皮膜を除去するためには数時間を要し、作業効率が悪い。そのため、予備の治具を用意する必要がある。また、薬液に治具を浸漬するため、大きな浸漬槽や多量の薬液が必要となる。
【0007】
また、特許文献2に記載のように、硬質の砥粒により付着物を除去しようとすると、成膜プロセスにおいて一般的に用いられている治具、特に石英ガラス、カーボンからなる治具は、硬質の付着物が除去されたとたんに非常に強い加工状態に曝されることになり、治具の表面が大きな損傷を受けてしまうという問題があった。
【0008】
そこで、本発明では、成膜プロセスにおいて治具に付着する付着物を除去する付着物除去方法であって、治具の損傷を低減し、効率よく硬質の付着物の除去を行うことができる付着物除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、成膜プロセスにおいて治具に付着する治具よりも硬質である付着物を除去する付着物除去方法であって、弾性を有するゴムからなる中実のコアの表面に、付着物よりも硬質な硬質粒子からなる砥材を固着させてなる噴射材を用意し、前記コアは、JIS K6253に規定される硬度がA30〜90で、弾性率が1〜10MPaであり、前記噴射材を治具表面に斜め方向から噴射し、前記噴射材が治具表面に衝突したときに前記コアが弾性変形し、前記砥材を治具表面で面方向に変位させることにより付着物を除去する、という技術的手段を用いる。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、弾性を有するコアを備えた噴射材を治具表面に斜め方向から噴射することにより、従来の噴射材を用いた付着物除去方法のように、噴射材の衝突による衝撃で付着物を除去するのではなく、コア表面に存在する小さな砥材がコアの変形に伴い面方向に変位することにより付着物を除去することができる。噴射材が治具に衝突したときにコアが弾性変形するため噴射材による治具への衝撃を小さくすることができるとともに、小さな加工単位により、治具への負荷が小さい面方向への力で付着物を除去することができるので、治具の損傷を小さくすることができる。また、噴射材を治具に噴射するだけで治具から付着物を除去することができるため、簡単かつ短時間に付着物の除去を行うことができる。治具よりも硬質の付着物を除去する場合に、治具に大きな損傷が生じやすいので、本発明の付着物除去方法を好適に用いることができる。噴射材の砥材を、付着物よりも硬質な材料からなるものとすることで、硬質の付着物の除去を効率的に行うことができる。噴射材のコアを天然ゴム又は各種合成ゴムにより形成すると、治具に衝突する際の衝撃力が得られ、且つ治具を損傷しない硬さとすることができる。さらに、治具に衝突したときに十分に変形することができる弾性率とすることができるため、砥材の変位を大きくすることができるので、効率的に付着物を除去することができる。
【0015】
請求項に記載の発明では、請求項1に記載の付着物除去方法において、前記噴射材のコアは平均粒径が0.1〜2.0mmである、という技術的手段を用いる。
【0016】
請求項に記載の発明のように、噴射材のコアの0.1〜2.0mmとすると、治具への衝突時の変形量が大きく、砥材の面方向への変位を十分に得ることができるとともに、治具への衝撃を小さくすることができるので、好適に用いることができる。
【0017】
請求項に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の付着物除去方法において、前記噴射材の砥材は平均粒径が0.9〜22.0μmである、という技術的手段を用いる。
【0018】
請求項に記載の発明のように、噴射材の砥材の平均粒径を0.9〜22.0μmとすることにより、十分な付着物除去を可能にするとともに、噴射材が治具に衝突したときの砥材による衝撃を軽減し、砥材が付着物を除去するための加工単位を小さくすることができるので、より一層治具の損傷を小さくすることができる。
【0019】
請求項に記載の発明では、請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の付着物除去方法において、前記噴射材を治具表面に噴射する噴射角αは、治具表面に対して40°≦α≦80°である、という技術的手段を用いる。
【0020】
請求項に記載の発明のように、噴射角αを治具表面に対して40°≦α≦80°とすることにより、噴射材による衝撃が小さくすることができ、治具に大きな損傷を与えないようにすることができるとともに、砥材を適切な力で付着物に押しつけて付着物を効率よく除去することができるので、好適である。
【0021】
請求項に記載の発明では、請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の付着物除去方法において、前記治具は石英ガラスまたはカーボンを主材料として形成されている、という技術的手段を用いる。
【0022】
請求項に記載の発明のように、治具が石英ガラスまたはカーボンを主材料として形成されている場合、従来の砥粒を用いた付着物除去方法では治具が大きな損傷を受けるが、本発明の付着物除去方法では、極めて小さな損傷に留めることができ、好適である。
ここで、「石英ガラスまたはカーボンを主材料として形成されている」とは、他の成分が添加されている場合や、被膜が形成されている場合(例えば、SiCコーティングを施したカーボン)、などを含む概念である。
【0023】
請求項に記載の発明では、請求項1ないし請求項のいずれか1つに記載の付着物除去方法において、前記成膜プロセスは、有機金属気相成長法(MOCVD法)である、
という技術的手段を用いる。
【0024】
請求項に記載の発明のように成膜プロセスとして有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いる場合、形成する被膜はGaNやSiなど硬質のものが多く、トレイ、サセプタ、対向板などの治具とは硬度差が大きいため、従来の砥粒を用いた付着物除去方法では、付着物を除去可能な条件で処理を行うと、治具が大きな損傷を受けてしまう。本発明に係る付着物除去方法によれば、治具に損傷を与えずに、効率よく硬質の付着物の除去を行うことができるので、有機金属気相成長法(MOCVD法)で用いる治具の付着物除去に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】噴射材の構造を模式的に示す断面説明図である。図1(A)は全体図、図(B)、(C)は砥材の固着状態を示す拡大図である。
図2】付着物の除去に用いるブラスト加工装置の構成の模式図である。
図3】本発明に係る噴射材を用いた付着物除去のメカニズムを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明で用いる噴射材1は、図1(A)に示すように、弾性を有する材料からなるコア10の表面に硬質粒子からなる砥材11を固着して形成されている。砥材11は、図1(B)に示すように、コア10に表面から突出して配置されている、または、図1(C)に示すように、公知の方法により、例えば、コア10の表面に樹脂材料などからなる固着剤12により固着されている。図1(B)に示すような噴射材1は、例えば、機械的な衝撃力によりコア10に砥材11を埋め込む、などの方法により製造することができる。また、図1(C)に示す固着剤12は後述するコア10の変形に伴う砥材11の変位を妨げないように、材質、量などを選定する。図1(B)、(C)の何れの場合も、表面が非湿潤状態であると噴射材1同士が結合したり治具100の表面に噴射材1が付着したりするのを抑制することができる。
【0027】
コア10は、噴射条件で治具100に衝突したときに十分な弾性変形を生じるとともに形状を復元する材料からなる。特に、天然ゴム又は各種合成ゴムなどのゴム材料を用いると、治具に衝突する際の衝撃力が得られ、且つ治具を損傷しない硬さとすることができる(例えば、JIS K6253;2012に規定される硬度がA30〜90)。また、治具に衝突したときに十分に変形することができる弾性率(例えば、1〜10MPa)とすることができる。さらに、治具100に衝突したときにコア10より液体が溶出することがないので、噴射材1の表面が湿潤状態となることがない。コア10は、砥材11に比べ十分に大きく、例えば、平均粒径0.1〜2.0mm程度のものを用いることができる。本実施形態では、平均粒径0.7mmの不定形のコアを用いる。コアは球状、チョップなど各種形状のものを採用することができる。
【0028】
また、コア10は、例えば、エチレンプロピレンゴム、シリコンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム等の電気絶縁性の材料からなるものを用いると、噴射材1が静電気力により治具100に付着しにくいため、好ましい。
【0029】
砥材11は、付着物の硬さなどを勘案して適宜選択可能であるが、付着物よりも硬質な材料からなるものを用いると、硬質の付着物の除去を効率的に行うことができる。例えば、有機金属気相成長法(MOCVD法)で用いるトレイ、サセプタ、対向板等の治具100に付着する付着物は、成膜成分であるGaNやSiなど硬質のものが多いため、酸化アルミニウム、炭化けい素、ダイヤモンドなどの硬質材料から、付着物よりも硬質な材料を選定することが好ましい。
【0030】
砥材11は、噴射材1による衝撃を小さくし、1つの砥材11が付着物を除去する加工単位を小さくして治具100の損傷を小さくするために、コア10に比べ十分に小さくすることが好ましい。例えば、本実施形態では、平均粒径0.9〜22.0μmの炭化けい素を用いる。
【0031】
また、砥材11は、コア10の表面を覆い、十分に付着物を除去することができるようにするため、コア10の表面の50〜90%を覆うように担持することが好ましい。
【0032】
図2に示すように、付着物の除去に用いるブラスト加工装置2は、噴射材1を治具100に噴射するためのノズル21と、噴射材1を治具100に噴射し、付着物の除去を行うブラスト室22と、ブラスト室22内に治具100を配置するテーブル23と、噴射材1を貯留し、ノズル21に所定量の噴射材1を定量供給する噴射材ホッパー24と、ノズル21に圧縮空気を供給する圧縮空気供給装置25と、噴射材1と研磨された治具100の切削粉を回収するとともに、再使用可能な噴射材とそれ以外の粉粒体である粉塵(再使用不可の噴射材及び前記切削粉)を分級する分級装置26と、分級装置26から粉塵を排気除去する集塵機27と、を備えている。
【0033】
ノズル21は、治具100の表面に対して所定の傾斜角αで噴射材1を噴射可能に構成されている。
【0034】
付着物の除去は以下の工程により行う。まず、付着物を除去する治具100をブラスト室22内のテーブル23上に配置し、ノズル21の傾斜角αを所定の傾斜角となるように設定する。
【0035】
次に、所定の噴射条件でノズル21から噴射材1を噴射し、斜め方向から治具100に衝突させる。ノズル21には圧縮空気供給装置25により圧縮空気が供給され、先端より圧縮空気が噴射される。噴射材1は、噴射材ホッパー24によって供給量が制御され、圧縮空気がノズル21内を通過する際に発生する負圧により、ノズル21に供給される。ノズル21に供給された噴射材1は、圧縮空気と混合されて混合気流を形成し、治具100に対して噴射される。
【0036】
このとき、ノズル21を治具100に対して走査する、または、治具100をテーブル23上に配置した回転テーブル(図示せず)に固定して該回転テーブルを回転させることで治具100を回転させる、などにより、所望の範囲に噴射材1を衝突させて、付着物を除去する。
【0037】
治具100に衝突した後に飛散した噴射材1及び治具100から除去された付着物は、集塵機27のファンにより吸引回収され、分級装置26に空気輸送されて分級される。分級装置26において分級された噴射材1のうち、再使用可能な噴射材1のみ、噴射材ホッパー24の貯留タンクに再投入されて使用される。
【0038】
図3に噴射材1による付着物の除去方法を模式的に示す。ここで、黒塗りで示す砥材11a、11bの挙動に注目する。ここでは、GaN膜などの付着物110が石英ガラスからなる対向板などの治具100の表面100aに付着している場合を例に説明する。
【0039】
ノズル21から治具100に対して傾斜角αで斜め方向に噴射された噴射材1は、図3(A)に示すように治具100に衝突すると、図3(B)に示すように、コア10が表面100a(付着物110)に沿って弾性変形する。
【0040】
このとき、砥材11aはコア10の変形に伴い、図中左方向に変位する。噴射材1が付着物110に接触している間に、砥材11は、治具100に対する押圧力が負荷されながら変位するため、付着物110の表面が、押圧力が負荷された砥材11により面方向にこすられる。
【0041】
続いてコア10は更に変形し、図3(C)に示すように、砥材11aは更に左方向に変位するとともに、砥材11bは右方向に変位する。このように付着物110の表面に接触した砥材11がそれぞれ変位することにより、付着物110は砥材11により面方向にこすられることとなり、付着物110の一部が除去される。このとき、隣接する砥材11が離間するように変位することもある。
【0042】
そして、図3(D)に示すように、噴射材1はコア10が弾性により形状を回復して治具100から跳ね返り、除去された付着物110ともに飛散する。
【0043】
上述のように、弾性を有するコア10を備えた噴射材1を治具100の表面100aに斜め方向から噴射することにより、従来の噴射材を用いた付着物除去方法のように、噴射材の衝突による衝撃で付着物を除去するのではなく、コア10の表面に存在する小さな砥材11がコア10の変形に伴い治具100の面方向に変位することにより付着物110を除去することができる。噴射材1が治具100に衝突したときにコア10が弾性変形するため噴射材1による治具100への衝撃を小さくすることができる。また、小さな加工単位により、治具100への負荷が小さい面方向への力で付着物110を除去することができる。これにより、治具100の損傷を小さくすることができる。また、噴射材1を治具100に噴射するだけで治具100から付着物110を除去することができるため、簡単かつ短時間に付着物110の除去を行うことができる。ここで、砥材11は、コア10の変形に伴い面方向に変位し、付着物110に面方向の力を十分に負荷する必要があるので、コア10に例えば粘着剤のようなものにより付着しているのではなく、しっかりと固着されている必要がある。更に、治具100に衝突した噴射材1は跳ね返る際に形状が元に戻るので、跳ね返った噴射材1は繰り返し使用することができる。
【0044】
噴射材1のコア10をゴム材料により形成すると、コア10の弾性率が低く(数MPa程度)治具100に衝突したときの変形を大きくすることができるので、衝撃を小さくすることができる。また、砥材11の変位を大きくすることができるので、効率的に付着物110を除去することができる。
【0045】
噴射材1のコア10の平均粒径を0.1〜2.0mm、好ましくは0.3〜1.5mmとすると、治具100への衝突時の変形量が大きく、砥材11の面方向への変位を十分に得ることができるとともに、治具100への衝撃を小さくすることができるので、好適に用いることができる。
【0046】
噴射材1の砥材11を、付着物110よりも硬質な材料からなるものとすることで、硬質の付着物110の除去を効率的に行うことができる。また、砥材11の平均粒径を0.9〜22.0μm、好ましくは0.9〜10.0μmとすることにより、十分な付着物除去を可能にするとともに、噴射材1が治具100に衝突したときの砥材11による衝撃を軽減し、加工単位を小さくすることができるので、より一層治具100の損傷を小さくすることができる。これは、特に付着物110が治具100との硬度差が大きい場合、例えば、付着物110がGaNやSiなど硬質のものである場合に有効である。また、付着物110の強度や治具100の強度によっては、砥材11の平均粒子径を0.1μm程度とすることもできる。なお、上述の平均粒子径は、JIS R6002;1998に規定の電気抵抗試験方法にて測定することができる。
【0047】
噴射角αを治具100の表面100aに対して40°≦α≦80°、好ましくは45°≦α≦65°とすることにより、噴射材1による衝撃が小さくすることができ、治具100に大きな損傷を与えないようにすることができるとともに、砥材11を適切な力で付着物に押しつけて付着物110を効率よく除去することができるので、好適である。
【0048】
更に、傾斜角αを小さくすると、噴射材1が治具100の表面100aに衝突する面積を増大させることができるので、一度に広い領域の付着物110の除去が可能となり、効率的である。
【0049】
本発明の付着物の除去方法は、硬質の付着物が、損傷を受けやすい材料からなる治具に付着する場合に好適に用いることができる。例えば、そのような成膜プロセスとして有機金属気相成長法(MOCVD法)が挙げられる。成膜プロセスとして有機金属気相成長法(MOCVD法)を用いる場合、形成する被膜はGaNやSiなど硬質のものが多い。トレイ、サセプタ、対向板などの治具は、石英ガラスまたはカーボンを主材料として形成されており、付着物との硬度差が大きい。ここで、「石英ガラスまたはカーボンを主材料として形成されている」とは、他の成分が添加されている場合や、被膜が形成されている場合(例えば、SiCコーティングを施したカーボン)、などを含む概念である。従来の砥粒を用いた付着物除去方法では、付着物を除去可能な条件で処理を行うと、治具が大きな損傷を受けるが、本発明に係る付着物除去方法によれば、治具に損傷を与えずに、効率よく硬質の付着物の除去を行うことができるので、有機金属気相成長法(MOCVD法)で用いる治具の付着物除去に好適に用いることができる。
【0050】
(変更例)
複数個のノズルを用いて付着物の除去を行うことができる。この場合、それぞれのノズルが噴射する噴射材が互いに干渉することがないように配置する。これにより、処理効率を向上させることができる。
【0051】
上述した実施形態では、吸引式のノズルを備えたブラスト加工装置を用いたが、噴射材ホッパーの貯留タンクに供給される圧縮空気により貯留タンク内の噴射材を定量した後に噴射材を噴射する加圧式のノズルを備えたブラスト加工装置にも適用することもできる。
【0052】
(実施形態の効果)
本発明の付着物除去方法によれば、治具100の損傷を小さくすることができるとともに、噴射材1を治具100に噴射するだけで治具100から付着物110を除去することができるため、簡単かつ短時間に付着物110の除去を行うことができる。また、コア10、砥材11の構成、噴射角αなどを適切なものとすることにより、より一層上記効果を有効に奏することができる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の実施例を比較例とともに示す。ここで、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
硬質の付着物がGaNである石英ガラスからなる対向板を模擬するために、石英ガラス基板に約50μmのGaN膜を形成したものを試料として用意した。
【0055】
噴射材は、実施例では、平均粒径0.7mmの不定形の弾性体であるゴム材料のコアに、平均粒径12μmの炭化ケイ素からなる砥材をコアの表面積に対して90%となるように表面に固着させたものを用いた。コアは、実施例1では天然ゴム、実施例2ではエチレンプロピレンゴムを用いた。比較例では、比較例1:平均粒径14.0μmのアルミナ砥粒、ビッカース硬度Hv2200(WA#800:新東工業株式会社製)、比較例2:平均粒径180μm、モース硬度M3.5のメラミン樹脂砥粒(PSM80:新東工業株式会社製)、比較例3:平均粒径180μm、ビッカース硬度Hv530のガラスパウダー(GP105:新東工業株式会社製)を用いた。
【0056】
噴射材を試料に噴射する装置として、新東工業株式会社製のブラスト加工装置MY-30を用いた。ノズルは、ノズル径φ8mmのサクション式(重力式)のノズルを用いた。処理条件は、ノズルの傾斜角は60°、噴射時間は510秒、噴射距離は100mmとした。噴射圧力は実施例、比較例2では0.4MPa、比較例1ではでは0.25MPa、比較例3では0.07MPaとした。
【0057】
付着物除去処理の評価は、付着物である被膜の除去が良好になされたか否か、基板の損傷が許容範囲内か否かという2つの観点により行った。基板の損傷は処理部と未処理部との段差により評価し、50μmをしきい値とした。
【0058】
評価結果を表1に示す。実施例1、2では、被膜除去を短時間で良好に行うことができ、基板の損傷も許容範囲内であった。一方、比較例2では被膜除去を良好に行うことができず、比較例1、3では被膜を除去することはできたが、基板の損傷が大きかった。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例によれば、短時間で基板の損傷が極めて小さい状態で付着物除去が可能であり、本発明の効果が確認された。
【0061】
また、被膜除去作業の操作が完了した試料をエアブロー洗浄した後観察したところ、コアに電気絶縁性の材料を用いた実施例2の方が試料に付着した噴射材の量が少なかった。
【符号の説明】
【0062】
1…噴射材
2…ブラスト加工装置
10…コア
11…砥材
12…固着剤
21…ノズル
22…ブラスト室
23…テーブル
24…噴射材ホッパー
25…圧縮空気供給装置
26…分級装置
27…集塵機
100…治具
100a…表面
110…付着物



図1
図2
図3