(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンから変速機第1入力シャフトへの動力伝達を断接する第1プレートを有する第1クラッチと、前記エンジンから変速機第2入力シャフトへの動力伝達を断接する第2プレートを有する第2クラッチとを備えるデュアルクラッチ装置であって、
第1油圧室内に供給される油圧によって前記第1プレートを押圧して前記第1クラッチを接にすると共に、第1油圧キャンセル室内に収容された第1スプリングによって前記第1プレートから離反されて前記第1クラッチを断にする第1ピストンと、
第2油圧室内に供給される油圧によって前記第2プレートを押圧して前記第2クラッチを接にすると共に、第2油圧キャンセル室内に収容された第2スプリングによって前記第2プレートから離反されて前記第2クラッチを断にする第2ピストンと、
前記第1油圧室及び前記第2油圧キャンセル室に油圧を供給する第1供給ラインと、
前記第2油圧室及び前記第1油圧キャンセル室に油圧を供給する第2供給ラインと、
前記第1供給ラインに設けられて、前記第1油圧室及び前記第2油圧キャンセル室への油圧の供給を許可又は遮断する第1開閉弁と、
前記第2供給ラインに設けられて、前記第2油圧室及び前記第1油圧キャンセル室への油圧の供給を許可又は遮断する第2開閉弁と、
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開閉を制御する開閉弁制御手段と、を備え、
前記開閉弁制御手段は、前記両開閉弁のうちの一方の開閉弁を開放して一方のクラッチを接にし、且つ他方の開閉弁を閉止して他方のクラッチを断にしたクラッチ接続状態を、前記両開閉弁を閉止して両クラッチを断にする両クラッチ切断状態に変更する場合、前記一方の開閉弁を閉止するとともに前記他方の開閉弁を開放した後、前記他方のクラッチが接になる前に、前記他方の開閉弁を閉止する
ことを特徴とするデュアルクラッチ装置。
エンジンから変速機第1入力シャフトへの動力伝達を断接する第1プレートを有する第1クラッチと、前記エンジンから変速機第2入力シャフトへの動力伝達を断接する第2プレートを有する第2クラッチとを備えるデュアルクラッチ装置であって、
第1油圧室内に供給される油圧によって前記第1プレートを押圧して前記第1クラッチを接にすると共に、第1油圧キャンセル室内に収容された第1スプリングによって前記第1プレートから離反されて前記第1クラッチを断にする第1ピストンと、
第2油圧室内に供給される油圧によって前記第2プレートを押圧して前記第2クラッチを接にすると共に、第2油圧キャンセル室内に収容された第2スプリングによって前記第2プレートから離反されて前記第2クラッチを断にする第2ピストンと、
前記第1油圧室及び前記第2油圧キャンセル室に油圧を供給する第1供給ラインと、
前記第2油圧室及び前記第1油圧キャンセル室に油圧を供給する第2供給ラインと、
前記第1供給ラインに設けられて、前記第1油圧室及び前記第2油圧キャンセル室へ供給する油圧を調節可能な第1開閉弁と、
前記第2供給ラインに設けられて、前記第2油圧室及び前記第1油圧キャンセル室へ供給する油圧を調節可能な第2開閉弁と、
前記第1開閉弁及び前記第2開閉弁の開閉を制御する開閉弁制御手段と、を備え、
前記開閉弁制御手段は、前記両開閉弁のうちの一方の開閉弁を開放して一方のクラッチを接にし、且つ他方の開閉弁を閉止して他方のクラッチを断にしたクラッチ接続状態を、前記両クラッチを断にする両クラッチ切断状態に変更する場合、前記他方のクラッチを断にしている他方のスプリングの付勢力よりも小さな油圧力が、前記他方のクラッチを断接する他方のピストンに対して他方の油圧室側から作用するように前記他方の開閉弁を開放するとともに、前記一方の開閉弁を閉止する
ことを特徴とするデュアルクラッチ装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的なデュアルクラッチ装置では、クラッチを接続する場合は、油圧室内に油圧を供給すると共に、油圧キャンセル室内から油圧を開放し、ピストンをストローク移動させてクラッチプレートを互いに圧接することで実現される。また、クラッチを切断する場合は、油圧室内の油圧を開放すると、油圧キャンセル室内のリターンスプリングがピストンをクラッチプレートから離反することで実現される。各油圧室への油圧の供給又は油圧の開放は、各油圧室にそれぞれ対応して設けられた電磁バルブのON/OFFを切り替えることで制御される。
【0006】
このため、例えば、少なくとも一方の電磁バルブに断線や固着等の故障が生じると、各クラッチが接続状態で保持されて、変速機の二重噛み合いを引き起こす可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、変速機の二重噛み合いを効果的に防止することができるデュアルクラッチ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様のデュアルクラッチ装置は、エンジンから変速機第1入力シャフトへの動力伝達を断接する第1プレートを有する第1クラッチと、エンジンから変速機第2入力シャフトへの動力伝達を断接する第2プレートを有する第2クラッチとを備えるデュアルクラッチ装置であって、第1ピストンと第2ピストンと第1供給ラインと第2供給ラインと第1開閉弁と第2開閉弁と開閉弁制御手段とを備える。第1ピストンは、第1油圧室内に供給される油圧によって第1プレートを押圧して第1クラッチを接にすると共に、第1油圧キャンセル室内に収容された第1スプリングによって第1プレートから離反されて第1クラッチを断にする。第2ピストンは、第2油圧室内に供給される油圧によって第2プレートを押圧して第2クラッチを接にすると共に、第2油圧キャンセル室内に収容された第2スプリングによって第2プレートから離反されて第2クラッチを断にする。第1供給ラインは、第1油圧室及び第2油圧キャンセル室に油圧を供給する。第2供給ラインは、第2油圧室及び第1油圧キャンセル室に油圧を供給する。第1開閉弁は、第1供給ラインに設けられて、第1油圧室及び第2油圧キャンセル室への油圧の供給を許可又は遮断する。第2開閉弁は、第2供給ラインに設けられて、第2油圧室及び第1油圧キャンセル室への油圧の供給を許可又は遮断する。開閉弁制御手段は、第1開閉弁及び第2開閉弁の開閉を制御する。開閉弁制御手段は、両開閉弁のうちの一方の開閉弁を開放して一方のクラッチを接にし、且つ他方の開閉弁を閉止して他方のクラッチを断にしたクラッチ接続状態を、両開閉弁を閉止して両クラッチを断にする両クラッチ切断状態に変更する場合、一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放した後、他方のクラッチが接になる前に、他方の開閉弁を閉止する。
【0009】
上記構成では、第1開閉弁を開放すると、第1油圧室及び第2油圧キャンセル室への油圧の供給が許可されるので、第1供給ラインを介して第1油圧室及び第2油圧キャンセル室へ油圧が供給される。第1油圧室に油圧が供給されると、第1ピストンが、第1油圧室側からの油圧力によって移動して、第1プレートを押圧して第1クラッチを接にする。また、第2油圧キャンセル室に油圧が供給されると、第2ピストンが、第2スプリングの付勢力に加え、第2油圧キャンセル室側からの油圧力によって第2プレートから離反される。このため、例えば、第2開閉弁に断線や固着等の故障が生じても、第2ピストンを確実に第2プレートから離反させることができ、変速機の二重噛み合いを確実に防止することができる。また、第2開閉弁を開放した場合には、第1油圧キャンセル室に油圧が供給されるので、第1ピストンを確実に第1プレートから離反させることができ、変速機の二重噛み合いを確実に防止することができる。
【0010】
また、クラッチ接続状態から両クラッチ切断状態に変更する場合、開閉弁制御手段は、両開閉弁のうちの一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放する。例えば、第1(他方の)クラッチが断、第2(一方の)クラッチが接である第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、開閉弁制御手段は、第2開閉弁を閉止するとともに第1開閉弁を開放する。第2開閉弁が閉止されるので、第2油圧室への油圧の供給が遮断され、第2ピストンは、第2スプリングの付勢力によって第2プレートから離反される。また、第1開閉弁が開放されるので、第2油圧キャンセル室への油圧の供給が許可されて第2油圧キャンセル室に油圧が供給され、第2ピストンは、第2油圧キャンセル室側からの油圧力によって第2プレートから離反される。すなわち、第2ピストンは、第2スプリングの付勢力に加え、第2油圧キャンセル室側からの油圧力によって第2プレートから離反されるので、第2クラッチを断にする際の第2ピストンの応答性を向上させることができる。
【0011】
また、開閉弁制御手段は、一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放した後、他方のクラッチが接になる前に他方の開閉弁を閉止する。例えば、開閉弁制御手段は、第2(一方の)開閉弁を閉止するとともに第1(他方の)開閉弁を開放した後、第1クラッチが接になる前に第1開閉弁を閉止する。このため、第1クラッチが接になる前に第1油圧室に供給される油圧が遮断されるので、確実に両クラッチ切断状態にすることができる。
【0012】
また、開閉弁制御手段は、他方の開閉弁を開放した後、他方のクラッチが接になる前に他方の開閉弁を閉止する。例えば、開閉弁制御手段は、第1(他方の)開閉弁を開放した後、第1クラッチが接になる前に第1開閉弁を閉止する。第1開閉弁を開放すると、第1油圧室に油圧が供給されるので、第1ピストンが第1プレートを押圧する方向へ移動する。また、第1クラッチが接になる前に第1開閉弁を閉止すると、第1プレートを押圧する方向へ移動していた第1ピストンが、第1スプリングの付勢力によって第1プレートから離反する方向へ移動して、両クラッチ切断状態になる。このため、両クラッチ切断状態から第1クラッチを接にする場合、第1ピストンが、第1スプリングの付勢力によって第1プレートから離反する方向へ完全に移動していない(戻っていない)場合があり、この場合、第1ピストンが第1プレートを押圧する方向へ予め移動しているので、第1クラッチを接にする際の応答性が高まる。
【0013】
また、本発明の第2の態様のデュアルクラッチ装置は、上記第1の態様のデュアルクラッチ装置であって、一方の開閉弁が閉止されてからの経過時間、又は他方の開閉弁が開放されてからの経過時間の少なくとも一方を計時する計時手段を備える。開閉弁制御手段は、クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放した後、他方のクラッチが接になる前であるか否かを計時手段が計時する時間に基づいて判定する。
【0014】
上記構成では、開閉弁制御手段は、一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放した後、他方のクラッチが接になる前であるか否かを計時手段が計時する経過時間に基づいて判定する。例えば、第1(他方の)クラッチが断、第2(一方の)クラッチが接であるクラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、第1開閉弁が開放されてから第1クラッチが接になるまでの時間(第1クラッチ接時間)を予め実験やシミュレーション等によって求め、求めた第1クラッチ接時間よりも短い時間を所定時間に設定する。開閉弁制御手段は、第2開閉弁を閉止するとともに第1開閉弁を開放した後、計時手段が計時する第1開閉弁が開放されてからの経過時間が上記所定時間に達した時に、第1クラッチが接になる前であると判定して第1開閉弁を閉止する。
【0015】
また、一方の開閉弁を閉止した状態で他方の開閉弁を開放すると、一方のピストンは、一方のスプリングの付勢力に加え、一方の油圧キャンセル室に供給される油圧によって一方のプレートから離反され、他方のピストンは、他方のスプリングの付勢力に抗して他方のプレート側への移動を開始する。すなわち、一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放した後、他方の開閉弁を閉止しない場合には、一方のクラッチが断になった後、他方のクラッチが接になる。このため、開閉弁制御手段は、一方のクラッチが断になったときに他方の開閉弁を閉止することにより、他方のクラッチが接になる前に他方の開閉弁を閉止することができる。例えば、第1(他方の)クラッチが断、第2(一方の)クラッチが接である第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、第2開閉弁が閉止されてから第2クラッチが断になるまでの時間(第2クラッチ断時間)を予め実験やシミュレーション等によって求め、求めた第2クラッチ断時間を所定時間に設定する。開閉弁制御手段は、計時手段が計時する第2開閉弁が閉止されてからの経過時間が上記所定時間に達した時に、第2クラッチが断になった(第1クラッチが接になる前である)と判定し、第1開閉弁を閉止する。
【0016】
また、一方のクラッチが断になってから他方のクラッチが接になるまでの間に他方の開閉弁を閉止した場合には、少なくとも一方のクラッチが断になるまでは他方の開閉弁が開放されて一方の油圧キャンセル室に油圧が供給されるので、一方のクラッチを断にする際の一方のピストンの応答性を確実に向上させることができる。例えば、第1(他方の)クラッチが断、第2(一方の)クラッチが接である第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する際に、第2開閉弁の閉止と第1開閉弁の開放とが略同時に行われる場合、上述した第2クラッチ断時間と第1クラッチ接時間とを予め実験やシミュレーション等によって求め、求めた第2クラッチ断時間よりも長く且つ第1クラッチ接時間よりも短い時間を所定時間に設定する。開閉弁制御手段は、計時手段が計時する第2開閉弁が閉止(第1開閉弁が開放)されてからの経過時間が上記所定時間に達した時に第1開閉弁を閉止する。
【0017】
また、本発明の第3の態様のデュアルクラッチ装置は、上記第1の態様のデュアルクラッチ装置であって、一方のクラッチを介してエンジンからの動力が伝達される一方の変速機入力シャフトの回転数を検出する回転数検出手段を備える。開閉弁制御手段は、クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放した後、回転数検出手段が検出する回転数に基づいて一方のクラッチが切断したか否かを判定し、一方のクラッチが切断したと判定したときに他方の開閉弁を閉止する。
【0018】
上記構成では、開閉弁制御手段は、一方の開閉弁を閉止するとともに他方の開閉弁を開放した後、回転数検出手段が検出する一方の変速機入力シャフトの回転数に基づいて一方のクラッチが切断したか否かを判定し、一方のクラッチが切断したと判定したときに他方の開閉弁を閉止する。例えば、第1(他方の)クラッチが断、第2(一方の)クラッチが接である第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、第2クラッチが接から断になったときの変速機第2入力シャフトの回転数の低下割合を実験やシミュレーション等によって求めて所定の低下割合として設定し、第1開閉弁を開放した後の単位時間当たりの変速機第2入力シャフトの回転数の低下割合が、上記所定の低下割合以上になったときに第2クラッチが切断したと判定する。上述したように、第2開閉弁が閉止された状態で第1開閉弁を開放すると、第2クラッチが断になった後、第1クラッチが接になるので、開閉弁制御手段は、第2クラッチが断になったことを判定することにより、第1クラッチが接になる前であることを判定する。
【0019】
また、本発明の第4の態様のデュアルクラッチ装置は、エンジンから変速機第1入力シャフトへの動力伝達を断接する第1プレートを有する第1クラッチと、エンジンから変速機第2入力シャフトへの動力伝達を断接する第2プレートを有する第2クラッチとを備えるデュアルクラッチ装置であって、第1ピストンと第2ピストンと第1供給ラインと第2供給ラインと第1開閉弁と第2開閉弁と開閉弁制御手段とを備える。第1ピストンは、第1油圧室内に供給される油圧によって第1プレートを押圧して第1クラッチを接にすると共に、第1油圧キャンセル室内に収容された第1スプリングによって第1プレートから離反されて第1クラッチを断にする。第2ピストンは、第2油圧室内に供給される油圧によって第2プレートを押圧して第2クラッチを接にすると共に、第2油圧キャンセル室内に収容された第2スプリングによって第2プレートから離反されて第2クラッチを断にする。第1供給ラインは、第1油圧室及び第2油圧キャンセル室に油圧を供給する。第2供給ラインは、第2油圧室及び第1油圧キャンセル室に油圧を供給する。第1開閉弁は、第1供給ラインに設けられて、第1油圧室及び第2油圧キャンセル室へ供給する油圧を調節可能である。第2開閉弁は、第2供給ラインに設けられて、第2油圧室及び第1油圧キャンセル室へ供給する油圧を調節可能である。開閉弁制御手段は、第1開閉弁及び第2開閉弁の開閉を制御する。開閉弁制御手段は、両開閉弁のうちの一方の開閉弁を開放して一方のクラッチを接にし、且つ他方の開閉弁を閉止して他方のクラッチを断にしたクラッチ接続状態を、両クラッチを断にする両クラッチ切断状態に変更する場合、他方のクラッチを断にしている他方のスプリングの付勢力よりも小さな油圧力が、他方のクラッチを断接する他方のピストンに対して他方の油圧室側から作用するように他方の開閉弁を開放するとともに、一方の開閉弁を閉止する。
【0020】
上記構成では、上記第1の態様のデュアルクラッチ装置と同様に、第1開閉弁を開放すると、第1油圧室及び第2油圧キャンセル室への油圧の供給が許可される。このため、例えば、第2開閉弁に断線や固着等の故障が生じても、第2ピストンを確実に第2プレートから離反させることができ、変速機の二重噛み合いを確実に防止することができる。また、第2開閉弁を開放した場合には、第1油圧キャンセル室に油圧が供給されるので、第1ピストンを確実に第1プレートから離反させることができ、変速機の二重噛み合いを確実に防止することができる。
【0021】
また、開閉弁制御手段が、他方のスプリングの付勢力よりも小さな油圧力が他方の油圧室側から他方のピストンに作用するように他方の開閉弁を開放する。例えば、第1(他方の)クラッチが断、第2(一方の)クラッチが接である第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、第2スプリングの付勢力よりも小さな油圧力が第2油圧室側から第2ピストンに作用するように第2開閉弁を開放する。このため、第2開閉弁を開放しても、第2油圧室側からの油圧力によって第2ピストンが第2プレートを押圧する方向へ移動せず、第2クラッチが接にならない。すなわち、開閉弁制御手段は、第2開閉弁を開放して、第2クラッチを接にすることなく、第1油圧キャンセル室に油圧を供給して第1クラッチを断にする際の第1ピストンの応答性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のデュアルクラッチ装置によれば、変速機の二重噛み合いを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の第1実施形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
図1に示すように、本実施形態に係るデュアルクラッチ装置10は、デュアルクラッチ式変速機1に接続され、エンジンEからの回転力をデュアルクラッチ式変速機1に伝達する。デュアルクラッチ装置10は、第1湿式クラッチC1と、第2湿式クラッチC2とを備えている。なお、符号11はエンジンEの動力が伝達されるクラッチ入力シャフトを示している。
【0026】
デュアルクラッチ式変速機1は、変速機第1入力シャフト12A、変速機第2入力シャフト12B、出力シャフト2、及びカウンタシャフト3を有する。変速機第1入力シャフト12Aは、筒状に形成される外軸であって、例えば、デュアルクラッチ式変速機1の奇数段で使用される(
図2参照)。変速機第2入力シャフト12Bは、変速機第1入力シャフト12Aの中空軸内に軸受け13を介して回転自在に軸支される内軸であって、例えば、デュアルクラッチ式変速機1の偶数段で使用される(
図2参照)。出力シャフト2は、変速機第1入力シャフト12A及び変速機第2入力シャフト12Bの回転軸と同軸に配置される。カウンタシャフト3は、変速機第1入力シャフト12A、変速機第2入力シャフト12B、及び出力シャフト2の回転軸と平行に配置される。各シャフト12A,12B,2,3には、複数のギヤが設けられ、各ギヤによって複数のギヤ列4〜9が構成される。
【0027】
複数のギヤ列4〜9は、第1減速歯車列4、第2減速歯車列5、3速4速歯車列6、1速2速歯車列7、リバース歯車列8、及び7速8速歯車列9の順番でエンジンE側から順に配置される。第1減速歯車列4は、変速機第1入力シャフト12Aの第1入力ギヤ4aとカウンタシャフト3の第1中間ギヤ4bとによって構成される。第2減速歯車列5は、変速機第2入力シャフト12Bの第2入力ギヤ5aと第2中間ギヤ5bとによって構成される。3速4速歯車列6は、出力シャフト2の第1出力ギヤ6aとカウンタシャフト3の第3中間ギヤ6bとによって構成される。1速2速歯車列7は、出力シャフト2の第2出力ギヤ7aとカウンタシャフト3の第4中間ギヤ7bとによって構成される。リバース歯車列8は、出力シャフト2の第3出力ギヤ8aとカウンタシャフト3の第5中間ギヤ8bとアイドラーギヤ8cとによって構成される。7速8速歯車列9は、出力シャフト2の第4出力ギヤ9aとカウンタシャフト3の第6中間ギヤ9bとによって構成される。
【0028】
出力シャフト2の第1出力ギヤ6a、第2出力ギヤ7a、及び第3出力ギヤ8aは、出力シャフト2に対して回転自在に設けられ、第4出力ギヤ9aは、出力シャフト2に固定的に設けられる。第1出力ギヤ6aは、第1スリーブ70の移動によって出力シャフト2に対して断接可能であり、第2出力ギヤ7a、及び第3出力ギヤ8aは、第2スリーブ71の移動によって出力シャフト2に対して断接可能である。カウンタシャフト3の第1中間ギヤ4b、第2中間ギヤ5b、第3中間ギヤ6b、第4中間ギヤ7b、及び第5中間ギヤ8bは、カウンタシャフト3に固定的に設けられ、第6中間ギヤ9bは、カウンタシャフト3に対して回転自在に設けられる。第6中間ギヤ9bは、第3スリーブ72の移動によってカウンタシャフト3に対して断接可能である。
【0029】
図2に示すように、デュアルクラッチ式変速機1では、第2スリーブ71の移動によって出力シャフト2と第2出力ギヤ7aとを接続した状態で、エンジンEの動力をクラッチ入力シャフト11から変速機第1入力シャフト12Aに伝達すると1速となり、変速機第2入力シャフト12Bに伝達すると2速となる。また、第1スリーブ70の移動によって出力シャフト2と第1出力ギヤ6aとを接続した状態で、エンジンEの動力をクラッチ入力シャフト11から変速機第1入力シャフト12Aに伝達すると3速となり、変速機第2入力シャフト12Bに伝達すると4速となる。また、第1スリーブ70の移動によって変速機第2入力シャフト12Bと出力シャフト2とを接続した状態で、エンジンEの動力をクラッチ入力シャフト11から変速機第1入力シャフト12Aに伝達すると5速となり、変速機第2入力シャフト12Bに伝達すると6速となる。また、第3スリーブ72の移動によってカウンタシャフト3と第6中間ギヤ9bとを接続した状態で、エンジンEの動力をクラッチ入力シャフト11から変速機第1入力シャフト12Aに伝達すると7速となり、変速機第2入力シャフト12Bに伝達すると8速となる。
【0030】
図3に示すように、デュアルクラッチ装置10は、第1湿式クラッチC1と、第1ピストン23と、第2湿式クラッチC2と、第2ピストン33と、油圧回路40と、第1電磁バルブ(第1開閉弁)60と、第2電磁バルブ(第2開閉弁)65と、電子制御ユニット(開閉弁制御手段、計時手段)80(以下、ECU(Electric Control Unit)と称する)とを備える。
【0031】
第1湿式クラッチC1は、クラッチ入力シャフト11と一体回転するクラッチハブ20と、クラッチハブ20にスプライン嵌合する複数枚の第1内側プレート21Aと、変速機第1入力シャフト12Aと一体回転する第1クラッチドラム22と、第1内側プレート21A間に交互に配置されて第1クラッチドラム22にスプライン嵌合する複数枚の第1外側プレート21Bとを備えている。
【0032】
第1ピストン23は、円筒状に形成され、各第1プレート21A,Bを軸方向に押圧可能であり、クラッチハブ20に形成された円環状の第1ピストン室24内に摺動自在に収容されている。この第1ピストン室24内には、第1ピストン23によって第1油圧室25A及び、第1遠心油圧キャンセル室(第1油圧キャンセル室)25Bが区画形成されている。また、第1遠心油圧キャンセル室25B内には、第1ピストン23を各第1プレート21A,Bから離反する方向に付勢する第1リターンスプリング(第1スプリング)26が収容されている。なお、符号Sは、第1ピストン23と第1ピストン室24との隙間をシールするシール部材を示している。
【0033】
第1油圧室25Aに油圧が供給されると、第1ピストン23は、軸方向にストローク移動して各第1プレート21A,Bを互いに圧接させる(第1湿式クラッチC1:接)。一方、第1油圧室25Aの油圧が降下し、且つ第1遠心油圧キャンセル室25Bに油圧が供給されると、第1ピストン23は、第1リターンスプリング26の付勢力及び、第1遠心油圧キャンセル室25B内の油圧力によって各第1プレート21A,Bから離反して圧接状態を開放させる(第1湿式クラッチC1:断)。なお、本明細書において、油圧とは、圧油によって対象物の単位面積あたりに作用する力である。また、油圧力とは、圧油によって対象物に作用する力であり、油圧と面積とを乗じた値である。
【0034】
第2湿式クラッチC2は、クラッチハブ20にスプライン嵌合する複数枚の第2外側プレート31Aと、変速機第2入力シャフト12Bと一体回転する第2クラッチドラム32と、第2外側プレート31A間に交互に配置されて第2クラッチドラム32にスプライン嵌合する複数枚の第2内側プレート31Bとを備えている。
【0035】
第2ピストン33は、円筒状に形成され、各第2プレート31A,Bを軸方向に圧接可能であり、クラッチハブ20に形成された円環状の第2ピストン室34内に摺動自在に収容されている。この第2ピストン室34内には、第2ピストン33によって第2油圧室35A及び、第2遠心油圧キャンセル室(第2油圧キャンセル室)35Bが区画形成されている。また、第2遠心油圧キャンセル室35B内には、第2ピストン33を各第2プレート31A,Bから離反する方向に付勢する第2リターンスプリング(第2スプリング)36が収容されている。なお、符号Sは、第2ピストン33と第2ピストン室34との隙間をシールするシール部材を示している。
【0036】
第2油圧室35Aに油圧が供給されると、第2ピストン33は、軸方向にストローク移動して各第2プレート31A,Bを互いに圧接させる(第2湿式クラッチC2:接)。一方、第2油圧室35Aの油圧が降下し、且つ第2遠心油圧キャンセル室35Bに油圧が供給されると、第2ピストン33は、第2リターンスプリング36の付勢力及び、第2遠心油圧キャンセル室35B内の油圧力によって各第2プレート31A,Bから離反して圧接状態を開放させる(第2湿式クラッチC2:断)。
【0037】
油圧回路40は、オイルパン41と第1電磁バルブ60とを接続する第1上流供給ライン(第1供給ライン)43と、第1上流供給ライン43から分岐して第2電磁バルブ65に接続された第2上流供給ライン(第2供給ライン)45とを有する。分岐部よりも上流側の第1上流供給ライン43には、エンジンEの動力で駆動するオイルポンプOPが設けられている。第2上流供給ライン45には、絞り弁47が設けられた潤滑用油供給ライン46が接続されている。
【0038】
第1電磁バルブ60には、第1下流供給ライン(第1供給ライン)50が接続されている。この第1下流供給ライン50は、クラッチハブ20内で第1油圧室用ライン50Aと、第2キャンセル室用ライン50Bとに分岐形成されている。第1油圧室用ライン50Aの下流端は、第1油圧室25Aに接続され、第2キャンセル室用ライン50Bの下流端は、第2遠心油圧キャンセル室35Bに接続されている。
【0039】
第1電磁バルブ60は、非通電時(OFF)はスプリング61の付勢力によって閉止され、ECU80により通電(ON)されると開放される。第1電磁バルブ60が開放(ON)されたときは、第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35Bに圧油が供給される。一方、第1電磁バルブ60が閉止(OFF)されたときは、第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35Bに圧油が供給されず、第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35B内の圧油は、油戻しライン62を介してオイルパン41に戻される。
【0040】
第2電磁バルブ65には、第2下流供給ライン51(第2供給ライン)が接続されている。この第2下流供給ライン51は、クラッチハブ20内で第2油圧室用ライン51Aと、第1キャンセル室用ライン51Bとに分岐形成されている。第2油圧室用ライン51Aの下流端は、第2油圧室35Aに接続され、第1キャンセル室用ライン51Bの下流端は、第1遠心油圧キャンセル室25Bに接続されている。
【0041】
第2電磁バルブ65は、非通電時(OFF)はスプリング66の付勢力によって閉止され、ECU80により通電(ON)されると開放される。第2電磁バルブ65が開放(ON)されたときは、第2油圧室35A及び第1遠心油圧キャンセル室25Bに圧油が供給される。一方、第2電磁バルブ65が閉止(OFF)されたときは、第2油圧室35A及び第1遠心油圧キャンセル室25Bに圧油が供給されず、第2油圧室35A及び第1遠心油圧キャンセル室25B内の圧油は、油戻しライン67を介してオイルパン41に戻される。
【0042】
ECU80は、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等(図示省略)によって構成され、弁制御部81と計時部82とを有し、開閉弁制御手段及び計時手段として機能する。
【0043】
計時部82は、後述する両クラッチ切断状態にする際に、第1電磁バルブ60がONにされてからの経過時間を計時する。なお、後述するように、第1電磁バルブ60のONと第2電磁バルブ65のOFFとは、略同時に行われるので、計時部82は、第2電磁バルブ65がOFFにされてからの経過時間を計時してもよい。
【0044】
弁制御部81は、第1電磁バルブ60及び第2電磁バルブ65の開閉を制御することにより、第1湿式クラッチC1を接にして第2湿式クラッチC2を断にする第1クラッチ接続状態(
図4参照)と、第1湿式クラッチC1を断にして第2湿式クラッチC2を接にする第2クラッチ接続状態(
図5参照)と、第1湿式クラッチC1及び第2湿式クラッチC2を断にする両クラッチ切断状態(
図3参照)とを切り換える。
【0045】
図2に示すように、デュアルクラッチ式変速機1では、奇数段(1速、3速、5速、及び7速)のとき、エンジンEの動力は、クラッチ入力シャフト11から変速機第1入力シャフト12Aに伝達される。このため、弁制御部81は、
図4に示すように、第1電磁バルブ60をON、第2電磁バルブ65をOFFにして第1クラッチ接続状態にする。例えば、デュアルクラッチ式変速機1が1速に設定される場合には、第2スリーブ71の移動によって出力シャフト2と第2出力ギヤ7aとを接続した状態で、弁制御部81が第1電磁バルブ60をON、第2電磁バルブ65をOFFにして第1クラッチ接続状態にする。これにより、エンジンEの動力は、クラッチ入力シャフト11から変速機第1入力シャフト12Aに入力され、第1減速歯車列4、カウンタシャフト3、及び1速2速歯車列7を介して出力シャフト2に伝達される。
【0046】
また、
図2に示すように、デュアルクラッチ式変速機1では、偶数段(2速、4速、6速、及び8速)のとき、エンジンEの動力は、クラッチ入力シャフト11から変速機第2入力シャフト12Bに伝達される。このため、弁制御部81は、
図5に示すように、第1電磁バルブ60をOFF、第2電磁バルブ65をONにして第2クラッチ接続状態にする。例えば、1速から2速へシフトアップする際には、各スリーブ70〜72を移動することなく、出力シャフト2と第2出力ギヤ7aとを第2スリーブ71によって接続したままの状態で、弁制御部81が第1クラッチ接続状態から、第1電磁バルブ60をOFF、第2電磁バルブ65をONにして第2クラッチ接続状態に変更する。これにより、エンジンEの動力は、クラッチ入力シャフト11から変速機第2入力シャフト12Bに入力され、第2減速歯車列5、カウンタシャフト3、及び1速2速歯車列7を介して出力シャフト2に伝達される。
【0047】
また、
図2に示すように、デュアルクラッチ式変速機1では、偶数段から奇数段(2速から3速、又は4速から5速、又は6速から7速)にシフトアップする場合、各スリーブ70〜72のうちのいずれかのスリーブの移動が生じるので、第1(他方の)電磁バルブ60をOFF、第2(一方の)電磁バルブ65をONにして第2湿式クラッチC2を接にした第2クラッチ接続状態(クラッチ接続状態)から、第2湿式クラッチC2を断にして両クラッチ切断状態に変更し、スリーブを移動させた後、両クラッチ切断状態から第1湿式クラッチC1を接にして第1クラッチ接続状態に変更する。第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、弁制御部81は、第2電磁バルブ65をOFFにすると略同時に、第1電磁バルブ60をONにし、計時部82が計時する経過時間(第1電磁バルブ60をONにしてからの経過時間)が予め定められている所定の経過時間に達したときに、第1湿式クラッチC1が接になる前であると判定して第1電磁バルブ60をOFFにする。なお、上記所定の経過時間には、第2電磁バルブ65をOFFにしてから第2湿式クラッチC2が断になるまでの時間(第2クラッチ断時間)と、第1電磁バルブ60をONにしてから第1湿式クラッチC1が接になるまでの時間(第1クラッチ接時間)とを予め実験やシミュレーション等によって求め、求めた第2クラッチ断時間よりも長く、且つ第1クラッチ接時間よりも短い時間が設定される。
【0048】
次に、
図6に基づいて、各リターンスプリング26,36の最適な付勢力の設定について説明する。なお、
図6において、R
A1は第1ピストン23の外径、R
B1は第1遠心油圧キャンセル室25Bの外径、R
A2は第2ピストン33の外径、R
B2は第2遠心油圧キャンセル室35Bの外径、Pは油圧、F
S1は第1リターンスプリング26の付勢力、F
S2は第2リターンスプリング36の付勢力、CLはクラッチ入力シャフト11の回転軸をそれぞれ示している。また、上記外径とは、回転軸CLからの半径を表す。
【0049】
第1リターンスプリング26の付勢力F
S1は、以下の条件式(1)を満たすように設定され、第2リターンスプリング36の付勢力F
S2は、以下の条件式(2)を満たすように設定される。
【0052】
上記のように構成されたデュアルクラッチ装置10では、クラッチ入力シャフト11から変速機第1入力シャフト12Aに動力を伝達する場合は、
図4に示すように、第1湿式クラッチC1を接(第1電磁バルブ60:ON)、第2湿式クラッチC2を断(第2電磁バルブ65:OFF)にする。第1電磁バルブ60がONになると、第1油圧室25Aのみならず、第2遠心油圧キャンセル室35Bにも油圧が供給されるため、第2ピストン33には、第2リターンスプリング36の付勢力F
S2、及び第2遠心油圧キャンセル室35B内の油圧力の双方が作用する。その結果、例えば、第2電磁バルブ65に断線や固着等の故障が生じても、第2ピストン33を確実に各プレート31A,Bから離反させることが可能となり、変速機の二重噛み合いを確実に防止することができる。
【0053】
また、クラッチ入力シャフト11から変速機第2入力シャフト12Bに動力を伝達する場合は、
図5に示すように、第1湿式クラッチC1を断(第1電磁バルブ60:OFF)、第2湿式クラッチC2を接(第2電磁バルブ65:ON)にする。第2電磁バルブ65がONになると、第2油圧室35Aのみならず、第1遠心油圧キャンセル室25Bにも油圧が供給されるため、第1ピストン23には、第1リターンスプリング26の付勢力F
S1、及び第1遠心油圧キャンセル室25B内の油圧力の双方が作用する。その結果、例えば、第1電磁バルブ60に断線や固着等の故障が生じても、第1ピストン23を確実に各プレート21A,Bから離反させることが可能となり、変速機の二重噛み合いを確実に防止することができる。
【0054】
また、第1リターンスプリング26の付勢力F
S1を、第1ピストン23に作用する第1油圧室25Aと第1遠心油圧キャンセル室25Bとの油圧力差よりも大きく設定し、第2リターンスプリング36の付勢力F
S2を、第2ピストン33に作用する第2油圧室35Aと第2遠心油圧キャンセル室35Bとの油圧力差よりも大きく設定するので、第1及び第2湿式クラッチC1,C2が確実に切断されることになり、変速機の二重噛み合いを効果的に防止することが可能になる。
【0055】
また、弁制御部81は、第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、第2電磁バルブ65をOFFにすると略同時に、第1電磁バルブ60をONにする。第2電磁バルブ65がOFFにされるので、第2油圧室35Aへの油圧の供給が遮断され、第2ピストン33は、第2リターンスプリング36の付勢力F
S2によって各第2プレート31A,Bから離反される。また、第1電磁バルブ60が開放されるので、第2遠心油圧キャンセル室35Bへの油圧の供給が許可されて第2遠心油圧キャンセル室35Bに油圧が供給され、第2ピストン33は、第2遠心油圧キャンセル室35B側からの油圧力によって各第2プレート31A,Bから離反される。すなわち、第2ピストン33は、第2リターンスプリング36の付勢力F
S2に加え、第2遠心油圧キャンセル室35B側からの油圧力によって各第2プレート31A,Bから離反されるので、第2湿式クラッチC2を断にする際の第2ピストン33の応答性を向上させることができる。
【0056】
また、弁制御部81は、第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、第2電磁バルブ65をOFFにすると略同時に第1電磁バルブ60をONにした後、第1湿式クラッチC1が接になる前に第1電磁バルブ60をOFFにする。弁制御部81が第1電磁バルブ60をONにした際には、第1油圧室25Aに油圧が供給されるので、第1ピストン23が各第1プレート21A,Bを押圧する方向へ移動する。その後、第1湿式クラッチC1が接になる前に第1電磁バルブ60をOFFにすると、第1油圧室25Aに供給される油圧が遮断されるので、各第1プレート21A,Bを押圧する方向へ移動していた第1ピストン23が、第1リターンスプリング26の付勢力F
S1によって各第1プレート21A,Bから離反する方向へ移動して、両クラッチ切断状態になる。このように、第1湿式クラッチC1が接になる前に第1電磁バルブ60をOFFにすることにより、確実に両クラッチ切断状態にすることができる。
【0057】
また、弁制御部81は、第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する場合、第2電磁バルブ65をOFFにすると略同時に第1電磁バルブ60をONにし、計時部82が計時する経過時間が上記所定の経過時間に達したときに、第1電磁バルブ60をOFFにする。上記所定の経過時間は、第2クラッチ断時間よりも長く、且つ第1クラッチ接時間よりも短い時間が設定される。すなわち、弁制御部81は、第2湿式クラッチC2が断になった後であって、且つ第1湿式クラッチC1が接になる前に第1電磁バルブ60をOFFにする。このように、少なくとも第2湿式クラッチC2が断になるまでは第1電磁バルブ60が開放されて、第2遠心油圧キャンセル室35Bに油圧が供給されているので、第2湿式クラッチC2を断にする際の第2ピストン33の応答性を確実に向上させることができる。
【0058】
また、例えば、2速から3速にシフトアップする際には、2速の第2クラッチ接続状態からスリーブ70,71を移動するために両クラッチ切断状態に変更し、スリーブ70,71の移動後に第1クラッチ接続状態に変更する。両クラッチ切断状態から第1クラッチ接続状態に変更する際には、第2クラッチ接続状態から両クラッチ切断状態への変更時に各第1プレート21A,Bを押圧する方向へ移動していた第1ピストン23が、第1リターンスプリング26の付勢力F
S1によって各第1プレート21A,Bから離反する方向へ完全に移動していない(戻っていない)場合がある。この場合、第1ピストン23が各第1プレート21A,Bを押圧する方向へ移動予め移動しているので、第1湿式クラッチC1を接にする際の応答性が高まる。
【0059】
なお、本実施形態では、上記所定時間に、第2クラッチ断時間よりも長く、且つ第1クラッチ接時間よりも短い時間を設定したが、これに限定されるものではなく、第1クラッチ接時間よりも短い時間であればよい。例えば、第2クラッチ断時間を上記所定時間に設定してもよく、弁制御部81は、計時部82が計時する経過時間(第1電磁バルブ60をONにしてからの経過時間)が第2クラッチ断時間に達した時に、第2湿式クラッチC2が断になった(第1湿式クラッチC1を接になる前である)と判定し、第1電磁バルブ60をOFFにしてもよい。或いは、上記所定時間に、第2クラッチ断時間よりも短い時間を設定してもよい。
【0060】
また、本実施形態では、偶数段から奇数段(2速から3速、又は4速から5速、又は6速から7速)にシフトアップする際に行う第2クラッチ接続状態から両クラッチ切断状態への変更について説明したが、奇数段から偶数段へシフトダウンする際に行う第1クラッチ接続状態から両クラッチ切断状態への変更時にも適用することができる。この場合、第1(一方の)電磁バルブ60をOFFにすると略同時に第2(他方の)電磁バルブ65をONにした後、第2湿式クラッチC2が接になる前に第2電磁バルブ65をOFFにする。
【0061】
また、本実施形態では、弁制御部81は、第2クラッチ接続状態を両クラッチ切断状態に変更する際、第2電磁バルブ65をOFFにすると略同時に、第1電磁バルブ60をONにしたが、第2電磁バルブ65のOFFと第1電磁バルブ60のONとは略同時に行わなくてもよい。第2電磁バルブ65のOFFと第1電磁バルブ60のONとが異なるタイミングで行われる場合であっても、第2電磁バルブ65をOFFにしてから第1電磁バルブ60をON(又は第1電磁バルブ60をONにしてから第2電磁バルブ65をOFF)にするまでの時間が一定であれば、計時部82は、第1電磁バルブ60がONにされてからの経過時間、又は第2電磁バルブ65がOFFにされてからの経過時間のいずれの経過時間を計時してもよい。
【0062】
また、本実施形態では、ECU80が弁制御部81と計時部82とを有し、開閉弁制御手段及び計時手段として機能したが、これに限定されるものではない。例えば、ECU80は、弁制御部81を有して開閉弁制御手段として機能し、ECU80とは別に設けられた計時部(計時手段)が計時する経過時間を取得してもよい。
【0063】
次に、本発明の第2実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態に係るデュアルクラッチ装置90は、両クラッチ切断状態にする際に第1湿式クラッチC1が接になる前であるか否かの判定を、変速機第2入力シャフト12Bの回転数に基づいて行う点が上記第1実施形態とは異なり、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0064】
図7に示すように、デュアルクラッチ装置90は、変速機第2入力シャフト12Bの回転数を検出する回転数センサ(回転数検出手段)91を備える。
【0065】
回転数センサ91は、変速機第2入力シャフト12Bの回転数を検出してECU80へ逐次出力する。
【0066】
ECU80の弁制御部81は、第2クラッチ接続状態(
図5参照)を両クラッチ切断状態(
図7参照)に変更する場合、第2電磁バルブ65をOFFにすると略同時に、第1電磁バルブ60をONにする。その後、弁制御部81は、回転数センサ91が検出する変速機第2入力シャフト12Bの回転数から単位時間当たりの変速機第2入力シャフト12Bの回転数の低下割合を求め、求めた低下割合が予め定められている所定の低下割合以上になったときに第2湿式クラッチC2が断になったと判定する。すなわち、弁制御部81は、第2湿式クラッチC2が断になったと判定することにより、第1湿式クラッチC1が接になる前であると判定して第1電磁バルブ60をOFFにする。なお、実験やシミュレーション等によって、第2湿式クラッチC2が接から断になったときの変速機第2入力シャフト12Bの回転数の低下割合を予め求め、求めた低下割合を上記所定の低下割合に設定する。
【0067】
上記構成では、弁制御部81は、変速機第2入力シャフト12Bの回転数に基づいて第2湿式クラッチC2が断になったか否かを判定することにより、第1湿式クラッチC1が接になる前であるか否かを判定することができる。
【0068】
なお、本実施形態では、変速機第2入力シャフト12Bの回転数の単位時間当たりの低下割合と、予め定めた所定の低下割合と比較することにより、第2湿式クラッチC2が断になったか否かを判定したが、これに限定されるものではない。例えば、変速機第2入力シャフト12Bの単位時間当たりの回転数差等を用いて、第2湿式クラッチC2が断になったか否かを判定してもよい。
【0069】
次に、本発明の第3実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態に係るデュアルクラッチ装置100は、第1実施形態の第1電磁バルブ60及び第2電磁バルブ65に替えて第1油圧調節弁101及び第2油圧調節弁102を設けたものであり、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0070】
図8に示すように、デュアルクラッチ装置100は、第1上流供給ライン43及び第1下流供給ライン50に接続される第1油圧調節弁(第1開閉弁)101と、第1下流供給ライン50に設けられる第1油圧センサ103と、第2上流供給ライン45及び第2下流供給ライン51に接続される第2油圧調節弁(第2開閉弁)102と、第2下流供給ライン51に設けられる第2油圧センサ104とを備える。
【0071】
第1油圧調節弁101は、第1下流供給ライン50を介して第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35Bに供給される油圧を調節可能である。第1油圧調節弁101が開放(ON)されたときは、第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35Bに圧油が供給される。一方、第1油圧調節弁101が閉止(OFF)されたときは、第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35Bに圧油が供給されず、第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35B内の圧油は、油戻しライン62を介してオイルパン41に戻される。
【0072】
第2油圧調節弁102は、第2下流供給ライン51を介して第2油圧室35A及び第1遠心油圧キャンセル室25Bに供給される油圧を調節可能である。第2油圧調節弁102が開放(ON)されたときは、第2油圧室35A及び第1遠心油圧キャンセル室25Bに圧油が供給される。一方、第2油圧調節弁102が閉止(OFF)されたときは、第2油圧室35A及び第1遠心油圧キャンセル室25Bに圧油が供給されず、第2油圧室35A及び第1遠心油圧キャンセル室25B内の圧油は、油戻しライン67を介してオイルパン41に戻される。
【0073】
第1油圧センサ103は、第1下流供給ライン50の油圧を検出してECU80へ逐次出力する。第2油圧センサ104は、第2下流供給ライン51の油圧を検出してECU80へ逐次出力する。
【0074】
ECU80の弁制御部81は、第1(他方の)油圧調節弁101をOFF、第2(一方の)油圧調節弁102をONにして第2湿式クラッチC2を接にした第2クラッチ接続状態(クラッチ接続状態、
図8参照)から、第2湿式クラッチC2を断にして両クラッチ切断状態(
図9参照)に変更する場合、第2油圧調節弁102をOFFにすると略同時に、第1油圧調節弁101をONにする。弁制御部81は、第1油圧調節弁101をONにする際、第1油圧センサ103が検出する第1下流供給ライン50の油圧が所定の油圧となるように第1油圧調節弁101を制御する。
【0075】
上記所定の油圧には、第1油圧調節弁101が開放された際に第1油圧室25A側から第1ピストン23に作用する油圧力が、第1リターンスプリング26の付勢力よりも小さくなる値が設定される。例えば、
図9のデュアルクラッチ装置100では、上記所定の油圧は、以下の条件式(3)を満たすように設定される。なお、
図9において、R
A1は第1ピストン23の外径、R
C1は第1ピストン23の内径、P
1は油圧、F
S1は第1リターンスプリング26の付勢力をそれぞれ示している。また、上記外径及び内径の双方は、回転軸CLからの半径を表す。
【0077】
なお、上記所定の油圧を求める条件式は、上記条件式(3)に限定されない。例えば、第1ピストンの形状が他の形状である場合には、他の条件式であってもよい。
【0078】
上記のように構成されたデュアルクラッチ装置100では、第2クラッチ接続状態(
図8参照)を両クラッチ切断状態(
図9参照)に変更する場合、第2油圧調節弁102をOFFにすると略同時に、第1油圧調節弁101をONにする。第1油圧調節弁101をONにすることにより第1油圧室25A(及び第2遠心油圧キャンセル室35B)に供給される油圧は、予め定められた上記所定の油圧であるので、第1ピストン23に作用する油圧力は、第1リターンスプリング26の付勢力よりも小さいので、第1油圧調節弁101をONにしても第1ピストン23が第1湿式クラッチC1を接にする方向に移動しない。また、第1油圧調節弁101をONにすることにより、第2遠心油圧キャンセル室35Bに油圧が供給されるので、第2リターンスプリング36の付勢力に加え、第2遠心油圧キャンセル室35B側から作用する油圧力によって、第2ピストン33が各第2プレート31A,Bから離反して圧接状態を開放させて、第2湿式クラッチC2が断となる。従って、確実に両クラッチ切断状態にすることができ、且つ第2湿式クラッチC2を断にする際の第2ピストン33の応答性を向上させることができる。
【0079】
なお、両クラッチ切断状態にしてスリーブを移動した後、第1湿式クラッチC1を接にする際には、弁制御部81は、第1下流供給ライン50を介して第1油圧室25A及び第2遠心油圧キャンセル室35Bに供給される油圧を上記所定の油圧から増大させるように第1油圧調節弁101を制御してもよい。
【0080】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例および運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0081】
例えば、上記実施形態では、デュアルクラッチ装置10,90,100を、
図1及び
図2に示すデュアルクラッチ式変速機1に接続したが、他の構造のデュアルクラッチ式変速機に接続してもよい。例えば、第1湿式クラッチC1が偶数段に対応し、第2湿式クラッチC2が奇数段に対応するデュアルクラッチ式変速機等であってもよい。