(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、近年、資源の有効利用が環境保護対策の一環等として強く求められており、製紙工場において排出される黒液や、バイオエタノール抽出後の溶液等のリグニン含有液も注目を集めている。例えば、製紙工場においては、蒸解工程において多量の黒液が排出されており、この黒液は蒸解薬液由来のナトリウムや硫黄等のアルカリ薬品のほか、リグニン等の有機物を含む。現在、この黒液に含まれるリグニンの有効利用が種々検討されており、例えば、特許文献3は、リグニン含有液から炭素微粒子を製造する方法を提案する。この提案は、リグニン含有液を微小液滴化・乾燥して微粒子とし、この微粒子を熱分解して炭素微粒子を製造するというものである。
【0007】
同文献は、このようにして製造される炭素微粒子がカーボンブラック等の代替品になることを期待しており、さまざまな試験結果を開示して製造される炭素微粒子が有用であることを明らかにしている。
しかしながら、電子写真トナー用の炭素微粒子は、他の用途に用いられる炭素微粒子とは異なるそれ特有の性質を有することが要求される。具体的には、例えば、炭素微粒子の結着樹脂中における分散性が重要な品質性能となり、加えて、帯電性や粒子径等が既存の電子写真トナー用顔料と同程度であることが要求される。
この点に関して、上記特許文献3は、例えば、段落[0056]において「本発明の製造方法で生成された炭素微粒子は軽量であり、比表面積が市販の活性炭と同等であるものも存在するため、タイヤ等のゴムの補強剤としての利用の他、活性炭、除放材、黒色顔料、トナー、カラフィルター、導電材料、静電防止剤、電池電極材料、及び粘性流体等としての利用が期待される」としている。つまり、同文献は、得られる炭素微粒子のトナー用途を一般論として挙げるに留まり、電子写真トナー用とするに好適な炭素微粒子の製造方法を提案するものではない。
【0008】
本発明が解決しようとする主たる課題は、黒液等のリグニン含有液から電子写真トナー用とするに好適な炭素微粒子を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題を解決するための本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
リグニン含有液から電子写真トナー用の炭素微粒子を製造する方法であって、
前記リグニン含有液に無機塩を混合して無機塩混合液とし、
この無機塩混合液のリグニン濃度を5〜7(質量/容量)%となるように調節し、
この無機塩混合液を
スプレードライヤにおいて280〜330℃の熱風を吹き込むことにより液滴化及び乾燥して無機塩含有微粒子とし、
この無機塩含有微粒子を
100〜200℃で放置した後に500℃以上で熱分解して熱分解微粒子とし、
この熱分解微粒子から無機塩を除去して前記炭素微粒子とする、
ことを特徴とする電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0010】
〔請求項2記載の発明〕
前記無機塩混合液の液滴化及び乾燥をスプレードライヤで行い、
このスプレードライヤにおける前記無機塩混合液の噴霧量を6〜12L/hrとする、
請求項1記載の電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0011】
〔請求項3記載の発明〕
前記無機塩混合液の液滴化及び乾燥をスプレードライヤで行い、
このスプレードライヤにおける前記無機塩混合液の噴霧圧を0.2〜0.5MPaとする、
請求項1又は請求項2記載の電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0012】
〔請求項4記載の発明〕
前記無機塩の主成分をメタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムと
し、
前記リグニンと前記メタ珪酸ナトリウムと前記水酸化ナトリウムとの混合質量割合を100:269〜888:18〜51となるように調節する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0013】
〔請求項5記載の発明〕
前記無機塩含有微粒子の放置を1〜4時間かけて行ったうえで、前記無機塩含有微粒子の熱分解を1〜6時間かけて行う、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0014】
〔請求項6記載の発明〕
前記無機塩混合液をフィルターに通した後、前記液滴化及び前記乾燥を行う、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0015】
〔請求項7記載の発明〕
前記無機塩の除去は、前記熱分解微粒子をスラリー化し、フィルタープレスに圧入し、
正洗浄した後に一次圧搾し、更に逆洗浄した後に二次圧搾して行
い、
前記正洗浄及び一次圧搾に際して排出された一次ろ液をpH12〜14として前記スラリー化に利用する、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0016】
〔請求項8記載の発明〕
前記熱分解微粒子をスラリー化した後、前記フィルタープレスに圧入するに先立ってフィルターに通す、
請求項7記載の電子写真トナー用炭素微粒子の製造方法。
【0017】
(主な作用効果等)
本発明者等は、種々の試験を行い、その過程で無機塩含有微粒子の熱分解温度と得られる炭素微粒子の帯電性とが相関性を有することを知見した。そこで、更に試験を重ね、熱分解温度を500℃以上にすると、帯電性の条件を満足する電子写真トナー用炭素微粒子が得られることを知見し、もって本発明を完成するに至った。
【0018】
なお、前述特許文献3は、段落[0028]において「本発明でいう熱分解とは、リグニンを含む有機物顔料を300℃〜1200℃で加熱して炭素化することをいう。一般的には熱分解は、500℃から800℃で行われる」としている。しかるに、この熱分解温度は、単に炭化するのに適する温度を規定したものである。つまり、本発明が創作される前においては、無機塩含有微粒子の熱分解温度と帯電性とが相関性を有するとの知見が存在しなかったため、引用文献3の存在を知見していた本発明者等も、当該引用文献3から本願発明を想到することができなかった。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、黒液等のリグニン含有液から電子写真トナー用とするに好適な炭素微粒子を製造する方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
本形態に係る炭素微粒子の製造方法は、リグニン含有液を原料とする。このリグニン含有液としては、例えば、製紙工場の蒸解工程等において排出される黒液や、バイオエタノール抽出後の溶液等を使用することができる。特に、本発明において、リグニン含有液原料として黒液を使用するのが最適である。
【0022】
〔無機塩の添加等〕
リグニン含有液は、必要により、酸化、脱水等して、脱水ケーキとし、
図1に示すように、この脱水ケーキC1を、コンテナ等を使用して撹拌槽70まで搬送し、この撹拌槽70に供給する。また、撹拌槽70には、無機塩X及びろ過清水等の水Wを供給する。無機塩X及び水Wは、各別に撹拌槽70に直接供給することもできる。ただし、撹拌槽70における処理の安定化を図るために、両者X,Wをいったん予備槽60に供給し混合したうえで、流路R1を通して撹拌槽70まで流送し、当該撹拌槽70に供給するのが好ましい。
【0023】
この撹拌槽70において得られるリグニン及び無機塩Xを含むスラリー(無機塩混合液)S1は、リグニン濃度が5〜10(質量/容量)%となるように調節するのが好ましい。4〜7(質量/容量)%となるように調節するのがより好ましい。
リグニン濃度が7(質量/容量)%を上回ると、後述するスプレードライヤ80において得られる無機塩含有微粒子の外殻が厚くなり過ぎ、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去して得た中空状粒子が硬くなり過ぎるため、最終的に得られる炭素微粒子の結着樹脂中における分散性が要求される品質性能を満たさなくなるおそれがある。他方、リグニン濃度が5(質量/容量)%を下回ると、上記無機塩含有微粒子の外殻が十分な厚さとならず、フィルタープレス120において無機塩Xを除去する際に中空状粒子が不均一に崩れてしまうため、最終的に得られる炭素微粒子の粒度分布がブロードになるおそれがある。
【0024】
リグニン含有液と混合する無機塩Xとしては、メタ珪酸ナトリウムを使用するのが好ましく、メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを組み合わせて使用するのがより好ましい。メタ珪酸ナトリウムを使用すると、後述する無機塩Xの洗浄が容易になる。
【0025】
メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを組み合わせて使用する場合、リグニンとメタ珪酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの混合質量割合は、100:269〜888:18〜51となるように調節するのが好ましい。また、100:296〜592:18〜32となるように調節するのがより好ましい。
リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合は、100:100〜888が好ましい。
リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合が100質量部を下回ると、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去するのが困難になるおそれがある。また、無機塩Xの混合割合が100質量部を下回ると、熱分解中に当該無機塩Xが溶融してしまい、得られる熱分解粒子を中空状に出来なくなるおそれがある。
他方、リグニン100質量部に対する無機塩X(メタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム)の混合割合が888質量部を上回ると、後述するフィルタープレス120において無機塩Xを除去する際に中空状粒子が不均一に崩れてしまい、最終的に得られる炭素微粒子の粒度分布がブロードになるおそれがある。
【0026】
本形態の撹拌槽70には、モーターMを駆動源とする撹拌翼71が備えられている。この撹拌翼71による撹拌によって、脱水ケーキC1中のリグニン及び無機塩Xが均等に混合される。また、撹拌槽70、あるいは上記した予備槽60には、高濃度での処理を可能とするために、加温装置を備えるのが好ましい。
【0027】
〔液滴化及び乾燥等〕
撹拌槽70において得られたリグニン及び無機塩Xを含むスラリー(無機塩混合液)S1は、流路R2を通して液滴化・乾燥手段であるスプレードライヤ80まで流送し、このスプレードライヤ80において液滴化及び乾燥する。このスプレードライヤ80内には、例えば、送風手段Fから送風が行われ、また、スラリーS1が図示しないスプレーノズルから噴霧される。
【0028】
スラリーS1の流送に際しては、フィルターたるスリーン75を通すのが好ましい。スクリーン75を通すことで、スラリーS1中の未溶解物によって上記スプレーノズルが詰まるのが防止される。なお、スクリーン75としては、例えば、150〜250メッシュのものを、好ましくは200メッシュのものを使用することができる。
【0029】
スプレードライヤ80にはスラリーS1とともに熱風G1を吹き込み、スラリーS1を液滴化及び乾燥して無機塩含有微粒子とする。この際、スラリーS1の噴霧量は、4〜12L/hrとするのが好ましく、6〜10L/hrとするのがより好ましく、6〜8L/hrとするのが特に好ましい。噴霧量が12L/hrを上回ると、最終的に得られる炭素微粒子の粒子径が大きくなり過ぎ、電子写真トナー用としての品質性能を満たさなくなるおそれがある。他方、噴霧量が6L/hrを下回ると、最終的に得られる炭素微粒子の粒子径が小さくなり過ぎ、電子写真トナー用としての品質性能を満たさなくなるおそれがある。
【0030】
また、スラリーS1の噴霧圧は、0.2〜0.5MPaとするのが好ましく、0.3〜0.5MPaとするのがより好ましく、0.4〜0.5MPaとするのが特に好ましい。噴霧圧が0.5MPaを上回ると、最終的に得られる炭素微粒子の粒子径が小さくなり過ぎ、電子写真トナー用としての品質性能を満たさなくなるおそれがある。他方、噴霧圧が0.2MPaを下回ると、最終的に得られる炭素微粒子の粒子径が大きくなり過ぎ、電子写真トナー用としての品質性能を満たさなくなるおそれがある。
【0031】
さらに、スプレードライヤ80に吹き込む熱風G1の温度は、280〜330℃とするのが好ましく、300〜330℃とするのがより好ましく、320℃とするのが特に好ましい。このように温度調節することによって、スプレードライヤ80からの排風温度が130℃となるようにすると更に好適である。
【0032】
スプレードライヤ80において得られる無機塩含有微粒子は粉末状であり、ファンにより流路R3を通してサイクロン90まで風送し、このサイクロン90で捕集するのが好ましい。
【0033】
サイクロン90においては、無機塩含有微粒子が集塵され、底部から排出される。他方、無機塩含有微粒子が集塵された後の排ガスは、流路R4を通してバグフィルタ91まで風送される。このバグフィルタ91においては、排ガス中に残存する微細な無機塩含有微粒子が集塵される。
【0034】
バグフィルタ91において微細な無機塩含有微粒子が集塵された後の排ガスG2は、大気中に排気することもできるが、排風ファンF2を有する流路R6を通して適宜の酸化処理設備50に送ることもできる。排ガスG2は、二酸化炭素ガスを含んでおり、また、熱を有する。したがって、排ガスG2を酸化処理設備に送り、酸化処理ガスとして使用することで、二酸化炭素ガスの有効利用及び排出量削減が実現される。また、排ガスG2が有する熱も有効利用される。なお、バグフィルタ91に変えてスクラバー等を使用することもできるが、排ガスG2が有する熱(排ガスG2は、例えば、130℃程度の温度を有する。)の有効利用という観点からは、バグフィルタ91を使用する方が好ましい。
【0035】
〔熱分解等〕
サイクロン90及びバグフィルタ91において集塵された無機塩含有微粒子は、流路R5を通して熱分解手段たる外熱ジャケット100aを有する外熱式のロータリーキルン100まで送り、このロータリーキルン100内に供給して熱分解する。
【0036】
この熱分解は、好ましくは500℃以上、より好ましくは550〜1200℃で行うのが好ましく、600〜750℃で行うのがより好ましく、600〜700℃で行うのが特に好ましい。熱分解温度が1200℃を上回ると、最終的に得られる炭素微粒子の帯電性が不十分になり、電子写真トナー用としての品質性能を満たさなくなるおそれがある。他方、熱分解温度が500℃を下回ると、最終的に得られる炭素微粒子の帯電性が高くなり過ぎ、取扱い難くなるおそれがある。
【0037】
無機塩含有微粒子の熱分解は、1〜6時間かけて行うのが好ましく、2〜3時間かけて行うのがより好ましい。本形態の無機塩含有微粒子は中空状であるところ、この熱分解を急速に行うと系内の水蒸気濃度が上昇し、リグニン成分が溶融して中空状を維持できないおそれがある。
【0038】
無機塩含有微粒子に含まれる水分や結晶水がロータリーキルン100内に留まることを防止するためには、熱分解処理前に無機塩含有微粒子の温度を100〜200℃として1〜4時間放置するのが好ましい。
【0039】
熱分解に際して発生した熱分解ガスN1は、外熱ジャケット100aに熱風を供給する熱風炉101の燃焼用ガスとして使用する。この熱分解ガスN1の使用により、熱風炉101に新たに供給するLPGガス等の燃料N2の使用量を減らすことができる。
【0040】
熱風炉101で生成した燃焼ガスは、外熱ジャケット100a内に供給し、ロータリーキルン100の外熱源として利用する。さらに、外熱源として利用した後の外熱ジャケット100aから排出された排ガスG3は、上記排ガスG2と同様に、二酸化炭素ガスを含んでおり、また、熱を有する。したがって、排ガスG3も、流路R7を通して適宜の酸化処理設備50に送り、酸化処理ガスとして使用するのが好ましい。排ガスG3を酸化処理ガスとして使用することで、二酸化炭素ガスの有効利用及び排出量削減を実現することができ、また、排ガスG3が有する熱が有効利用される。
【0041】
ロータリーキルン100において熱分解した熱分解微粒子C2は、有機物が熱分解され炭化されているものの、脱水ケーキC1と混合した無機塩X由来の無機塩を含有する。そこで、次に、熱分解微粒子C2を洗浄して当該熱分解微粒子C2から無機塩を除去する。以下、詳細に説明する。
【0042】
〔スラリー化等〕
熱分解微粒子C2は、
図2に示すように、コンベア等を使用してスラリー化槽110まで搬送し、このスラリー化槽110に供給する。スラリー化槽110には、熱分解微粒子C2とともに、ろ過清水等の水Wを供給し、熱分解微粒子C2をスラリー化する。このスラリー化は、得られるスラリーS2の固形分濃度が10〜30質量%となるように、好ましくは15〜20質量%となるように行う。
【0043】
スラリー化槽110には、モーターMを駆動源とする撹拌翼111が備えられている。この撹拌翼111による撹拌によって、熱分解微粒子C2の分散が迅速に行われ、また、分散濃度が均一化される。
【0044】
スラリー化槽110内のスラリーS2は、必要により、例えば60℃に加温することができる。この加温は、スラリー化槽110に供給する水Wを加温することによって、あるいはスラリー化槽110自体を加温することによって、あるいは熱分解微粒子C2が保持する熱を利用することによって行うこと等ができる。
【0045】
〔脱水等〕
スラリー化槽110において得られたスラリーS2は、流路R8を通して脱水手段たるフィルタープレス120まで流送し、このフィルタープレス120に圧入する。ただし、このスラリーS2の流送に際しては、その途中においてスラリーS2をフィルターたるスクリーン115に通すのが好ましい。スラリーS2をスクリーン115に通すことによってフィルタープレス120における無機塩の除去を均一に行うことができ、一部無機塩が除去されていない炭素微粒子が製造されてしまうのを防止することができる。
【0046】
脱水手段としては、フィルタープレス120に変えて、例えば、ベルトプレス等を使用することも考えられる。また、スクリーン75としては、例えば、150〜250メッシュのものを、好ましくは200メッシュのものを使用することができる。さらに、スラリーS2をフィルタープレス120に圧入するに先立っては、当該スラリーS2に含まれる無機塩を沈殿させ、沈殿した無機塩を除去することもできる。
【0047】
スラリーS2をフィルタープレス120に圧入した際に発生する圧入ろ液D1は、廃液処分することもできるが、前述した予備槽60に返送し、この予備槽60に供給するのが好ましい。フィルタープレス120は無機塩Xの除去を行う手段であり、圧入ろ液D1は無機塩Xを含む。したがって、圧入ろ液D1を予備槽60に返送することで、圧入ろ液D1に含まれる無機塩Xが再利用されることになり、予備槽60に新たに供給する無機塩Xの量を減らすことができる。
【0048】
圧入ろ液D1は、ただちに予備槽60に返送することもできるが、
図3にも示すように、検知手段121においてpH及び電気伝導度を検知し、圧入ろ液D1の状態を確認したうえで予備槽60に返送するのが好ましい。この際の圧入ろ液D1は、通常pH12〜14、好ましくはpH13〜14である。また、電気伝導度は、通常13〜20S/m(ジーメンス毎メートル)、好ましくは18〜20S/mである。
【0049】
フィルタープレス120に圧入したスラリーS2は、ろ過清水等の水Wによって正洗浄した後、一次圧搾する。この正洗浄及び一次圧搾に際して排出された一次ろ液D2は、無機塩Xを含むものの正洗浄に利用した水Wによって無機塩Xの濃度が極めて薄くなっている。したがって、予備槽60に返送するのは効率的ではなく、スラリー化槽110に返送するのが好ましい。なお、この工程において排出される一次ろ液D2は、続いて行う二次洗浄において無機塩Xが溶解し易いpHに維持するという観点から、pH12〜14とするのが好ましく、pH13〜14とするのがより好ましい。また、電気伝導度は、通常、8〜12S/m、好ましくは10〜12S/mである。
【0050】
一次圧搾が終了したら、水Wを使用して逆洗浄を行い、更に二次圧搾を行って脱水ケーキC3を得る。また、この二次圧搾が終了したら、フィルタープレス120に窒素、空気等の置換ガスG4を吹き込む。この置換ガスG4の吹き込みにより、脱水ケーキC3中の無機塩Xを含む水分が置換ガスG4によって置き換えられ、水分率及び無機塩Xの含有率がより低下する。
【0051】
逆洗浄、二次圧搾及びガス置換に際して排出された二次ろ液D3は、ただちに廃液処理することもできるが、検知手段121においてpH及び電気伝導度を検知し、無機塩Xが除去されているか否か、つまり洗浄の進み具合を確認するのが好ましい。なお、この工程において排出される二次ろ液D3は、通常pH8.0〜9.5、好ましくはpH8.0〜9.0である。また、電気伝導度は、通常、100〜1200μS/m、好ましくは100〜500μS/mである。
【0052】
〔粉砕・乾燥等〕
洗浄後の炭素微粒子は、例えば、平均粒子径が1〜20μm、より好ましくは平均粒子径が1〜12μmで、外殻の厚さが50〜200nmの中空状であり、また、嵩密度が40〜60kg/m
3である。したがって、極めて軽量である。
【0053】
しかるに、当該炭素微粒子を電子写真トナー用とする場合は、より微細であることが要求される。そこで、脱水ケーキC3は、コンテナ等を使用して分散槽141まで搬送し、この分散槽141において、ろ過清水等の水Wや有機溶剤等と混合して炭素微粒子の分散液とする(スラリー化)。この炭素微粒子の分散液は、流路R9を通してビーズミル等の湿式粉砕機140へ流送し、この湿式粉砕機140において炭素微粒子を湿式粉砕する。この湿式粉砕によって、例えば、1〜20μmであった炭素微粒子が50〜200nmとなるまで粉砕される。
【0054】
この湿式粉砕後の炭素微粒子は、そのまま液体品として製品化することも、流路R10を通して乾燥機130に流送等し、この乾燥機130において乾燥して乾燥品として製品化することもできる。
【0055】
乾燥機130としては、例えば、自然対流式、定温式、循環式等の各種形式のものを使用することができる。ただし、炭素微粒子は非常に嵩密度が低いため、熱風による飛散を防止するという観点から、定温式の乾燥機を使用して乾燥するのが好ましい。この乾燥の温度は、好ましくは100〜130℃、より好ましくは110〜130℃である。この乾燥によって炭素微粒子の乾燥品が得られる。
【実施例1】
【0056】
次に、本発明の実施例を説明する。
本発明者等は、製紙工場の蒸解工程において排出される黒液をリグニン含有液として使用した試験を行った。この黒液(pH14,固形分濃度50〜60質量%)は、酸化、脱水等して、pH1.0〜2.5、水分率40〜50%、灰分率0.5〜3.0%の脱水ケーキ(一次ケーキ)とした。
【0057】
この一次ケーキは、固形分濃度が14.3(質量/容量)%、28.6(質量/容量)%となるようにスラリー化した。このスラリー化に際しては、無機塩としてメタ珪酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを添加した。この添加は、リグニン1.0kgに対して、メタ珪酸ナトリウムが2.96kg、水酸化ナトリウムが0.18kgとなるように行った。なお、この添加量によると、固形分濃度が13.1(質量/容量)%の場合においてはリグニンの濃度が約4(質量/容量)%となり、固形分濃度が26.2(質量/容量)%の場合においてはリグニンの濃度が約8(質量/容量)%となる。
【0058】
無機塩を添加した後のスラリーは、スプレードライヤで液滴化及び乾燥し、無機塩含有微粒子とした。スプレードライヤに供給するスラリーの噴霧量は6L/hr、噴霧圧は0.45MPaとした。スプレードライヤに供給する際のスラリーの温度は40〜80℃、スプレードライヤに供給する熱風の温度は320℃、スプレードライヤから排気されるガスの温度は120℃であった。
【0059】
スプレードライヤにおいて得られた無機塩含有微粒子は、サイクロンを使用して集塵(回収)した。集塵した無機塩含有微粒子の成分構成は、質量基準でリグニン:無機塩:水=2:6.28:0.82であった。
【0060】
無機塩含有微粒子は、外熱式のロータリーキルンを使用して有機分を熱分解(焼成)した。熱分解温度は700℃、焼成時間は2時間とした。得られた熱分解微粒子の成分構成は、質量基準でリグニン:無機塩:水=0.5:4.5:0.0となった。
【0061】
熱分解微粒子は、加温したろ過清水を使用してスラリー化した。このスラリー化は、固形分濃度が10%及び20%の二種類となるように行った。得られたスラリーは、いずれも温度が60℃であった。
【0062】
熱分解微粒子のスラリーは、フィルタープレス(ろ過面積0.6m
2、ろ室容積7.8L、ろ布:ポリプロピレン製)に圧入し、更に正洗浄、一次圧搾、逆洗浄、二次圧搾、ガス置換をして脱水ケーキ(二次ケーキ)とした。圧入圧力は0.2MPa、一次圧搾圧力及び二次圧搾圧力は1.5MPa、洗浄液の供給圧力は0.1MPa、置換ガスの供給圧力は0.5MPaとした。洗浄液としてはろ過清水を使用し、置換ガスとしては空気を使用した。二次ケーキの成分構成は、リグニン:無機塩:水分=0.48:0.01:3.8であった。この結果から無機塩が十分に除去されていることが分かる。
【0063】
なお、本発明者等が試験したところによると、一次ケーキに添加する無機塩の質量をリグニン1.0kgに対して9.0kgとした場合は、上記二次ケーキに含まれる無機塩が4.0質量%となり、また、添加する無機塩の質量をリグニン1.0kgに対して0.98kgとした場合は無機塩を除去することができなかった。このことから、脱水ケーキに添加する無機塩は、リグニン100質量部に対して314質量部以上とするのが好ましいことを知見した。
【0064】
無機塩を除去した後の二次ケーキは、定温式乾燥機を使用して乾燥した。この乾燥速度は、0.12kg/日とした。また、乾燥温度は、120℃とした。このようにして得られた炭素微粒子(乾燥品)のサンプル写真を、
図4及び
図5に示した。
図4の(1)は得られた炭素微粒子(二次粒子)のサンプル写真であり、(2)は当該炭素微粒子の外殻部分を拡大したサンプル写真である。また、
図5は別のサンプル写真である。これらの写真から、得られた炭素微粒子(二次粒子)は中空状であり、外殻がナノスケール一次粒子によって多孔質状であること等が分かる。
【実施例2】
【0065】
〔噴霧量と粒子径との関係〕
本発明者等は、スプレードライに供給するスラリー(無機塩混合液)の噴霧量と、得られる炭素微粒子の粒子径との関係を調べる試験を行った。当該スラリーの噴霧量を12L/hrとした場合において得られた炭素微粒子の粒度分布グラフを
図6に、累積粒径表を表1に示した。また、得られた炭素微粒子のサンプル写真を
図7の(1)に、当該炭素微粒子の外殻部分を拡大したサンプル写真を
図7の(2)に、それぞれ示した。同様に、上記スラリーの噴霧量を6L/hrとした場合において得られた炭素微粒子の粒度分布グラフを
図8に、累積粒径表を表2に示した。また、得られた炭素微粒子のサンプル写真を
図9の(1)に、当該炭素微粒子の外殻部分を拡大したサンプル写真を
図9の(2)に、それぞれ示した。なお、上記スラリーの噴霧圧は、いずれの場合も0.45MPaとした。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
この試験の結果、スラリーの噴霧量を12L/hrとした場合は二次粒子のD50(累積50%の粒子径)が16.62μmであるのに対し、6L/hrとした場合は二次粒子のD50が11.12μmであり、33%小径化されることが知見された。したがって、スラリー(無機塩混合液)の噴霧量は得られる炭素微粒子の粒子径に影響し、スラリーの噴霧量を6〜12L/hrとすると、電子写真トナー用とするに好適な炭素微粒子が得られると考察した。
【実施例3】
【0069】
〔噴霧圧と粒子径との関係〕
本発明者等は、スプレードライに供給するスラリー(無機塩混合液)の噴霧圧と、得られる炭素微粒子の粒子径との関係を調べる試験を行った。この試験は、スラリーの噴霧量を12L/hr、噴霧圧を0.45MPaとした上記試験との関係で考察することとし、スラリーの噴霧量を12L/hrとしつつ、噴霧圧を0.20MPaとする試験を行った。得られた炭素微粒子の粒度分布グラフを
図10に、累積粒径表を表3に示した。また、噴霧圧を0.45MPaとした場合の
図7の(1)とは別のサンプル写真を
図11の(1)に、噴霧圧を0.20MPaとした場合のサンプル写真を
図11の(2)に、それぞれ示した。
【0070】
【表3】
【0071】
この試験の結果、スラリーの噴霧圧を0.45MPaとした場合は二次粒子のD50が16.62μmであるのに対し、0.20MPaとした場合は二次粒子のD50が19.39μmであり、大型化されることが知見された。したがって、スラリー(無機塩混合液)の噴霧圧は得られる炭素微粒子の粒子径に影響し、スラリーの噴霧圧を0.2〜0.5MPaとすると、電子写真トナー用とするに好適な炭素微粒子が得られると考察した。
【実施例4】
【0072】
〔熱分解温度と帯電性との関係〕
本発明者等は、スプレードライで液滴化及び乾燥して得た無機塩含有微粒子を熱分解する温度と、得られる炭素微粒子の帯電性との関係を調べる試験を行った。この試験は、熱分解温度を500℃、600℃、700℃及び950℃と変化させ、得られた炭素微粒子の体積抵抗率(Ω・cm)を調べることで考察することとした。得られた炭素微粒子の体積抵抗率と熱分解温度との関係を、
図12に示した。
【0073】
この試験の結果、熱分解温度を高くすると体積抵抗率が下がること、つまり帯電性も下がること、他方、熱分解温度を低くすると体積抵抗率が上がること、つまり帯電性も上がることが知見された。この試験の結果から、熱分解温度を500℃以上、好ましくは500〜1200℃とすると、電子写真トナー用とするに好適な帯電性を有する炭素微粒子が得られると考察した。