(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Ti及びZrの各々の水酸化物を形成する工程において、アルカリ加水分解の後、少なくとも2回の遠心分離により、前記Ti及びZrの各々の水酸化物を精製することを含む請求項3に記載の方法。
前記合成工程において、前記原料水溶液及びこれと共に供給される前記水の流量の合計が、前記流通式反応装置の全体を流通するのに要する時間が30分未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(BCTZ)などのペロブスカイト型複合酸化物は、一般に、チタン酸カルシウム鉱(ペロブスカイト)と同様な結晶構造を有し、式ABO
3で表される複数の金属元素からなる酸化物である。このようなペロブスカイト型複合酸化物を成形し、焼結することによって、誘電性、圧電性及び半導性を有する誘電体セラミックスが得られる。こうして得られた誘電体セラミックスは、近年、コンデンサー、電波フイルター、着火素子、サーミスター等として、通信機や電子計算機のような電子機器に汎用されている。典型的には、この誘電体セラミックスは、電極金属と交互に積層されて一体に形成された積層セラミックスコンデンサーとして利用されている。
【0003】
従来から行われているペロブスカイト型複合酸化物の製造方法の例として、固相法及び湿式法が挙げられる。固相法は、例えば、Ca、Ba等の炭酸塩又は酸化物と、Ti、Zr等の酸化物とを混合し、1000℃程度の温度でか焼した後、湿式粉砕し、濾過乾燥することを含む。しかし、か焼されたペロブスカイト型複合酸化物の粒子が凝集するため、湿式粉砕しても、粒径1μm以下に微細化することが困難である。固相法によって得られたこのようなペロブスカイト型複合酸化物の粒子は、平均粒径1μm以上の破砕物状であるため、焼結して誘電体とする際に、焼結性に劣る。例えば、チタン酸バリウム粒子の場合、これを緻密な焼結体とするには約1400℃以上の高温での焼成が通常必要となる。しかし、高温での焼成によって、コンデンサー用誘電体として最適である0.5〜1μm程度の粒径を大きく上回る約5μm乃至数十μm程度にまで結晶が成長し、微細な粒子からなる焼結体を得ることができない。
【0004】
湿式法によるペロブスカイト型複合酸化物の製造方法には、アルコキシド法、共沈法、水熱合成法等が含まれる。湿式法によれば、平均粒径1μm以下のペロブスカイト型複合酸化物が形成され、比較的低温での焼成によって焼結体が得られることが知られている。しかし、チタン酸バリウムの製造を例にとれば、いずれの方法も以下に述べるような実用上の不都合を有している。
【0005】
アルコキシド法は、例えば、バリウムアルコキシドとチタンアルコキシドを混合し、加水分解するか、又はチタンアルコキシドと水酸化バリウムを反応させて、チタン酸バリウムを得ることを含む。この方法は、アルコキシド原料が高価であり、副生するアルコールを回収する必要があるため、工業的な実施は困難である。共沈法は、例えば、水溶性バリウム塩とチタン化合物の加水分解生成物とを強アルカリ存在下に加熱して、反応させて、チタン酸バリウムを得ることを含む。この方法では、反応に用いたアルカリを洗浄によって除去することが困難である。
【0006】
アルコキシド法及び共沈法によるこれらの不利益を解決する手法として提起された水熱合成法は、例えば、水酸化バリウムとチタンの水酸化物又は酸化物の混合物を水熱反応させることを含む。水熱合成法においては、水性媒体中の溶存バリウム成分の残留によるバリウム/チタン比率の不均一を解消するため、例えば、水熱反応後、溶存バリウム成分を不溶化させ元素比を制御することが提案されている(特開昭61−31345号公報)。
【0007】
特開平6−321630号公報には、低廉で且つ良好な焼結性を有するセラミック誘電体用組成物として、(a)Ba、Ca等よりなるA群から選ばれる少なくとも1種の元素及び(b)Ti、Zr等よりなるB群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むペロブスカイト化合物を主成分として含有する組成物であって、上記ペロブスカイト化合物が仮焼法によるペロブスカイト化合物と湿式法によるペロブスカイト化合物0.5〜50重量%からなることを特徴とするセラミック誘電体用組成物が提案されている。
【0008】
また、特開2010−120850号公報には、良好な焼結性を有するセラミック誘電体用組成物の製造方法として、Ti、Zr等から選ばれる少なくとも一種のB群元素の含水酸化物を100〜300℃の範囲の温度で水熱反応に付して、上記含水酸化物を脱水する第一工程と、上記第一工程で得られた反応生成物とBa、Ca等から選ばれる少なくとも一種のA群元素の水酸化物とを水性媒体の存在下、100〜300℃の範囲の温度で水熱反応させる第二工程を含むことを特徴とするペロブスカイト型化合物を含有する組成物の製造方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、上記の特開昭61−31345号公報に記載された方法によって得られたチタン酸バリウムは、その粒子の酸素格子中に水酸基を含んでいるため、加熱時に脱水反応が起こって、粒子内にnmオーダーの空孔が形成される傾向がある。チタン酸バリウムを薄層焼結体とする際に、このような空孔によって、クラックやデラミネーションが生じる原因となりうる。
また、上記の特開平6−321630号公報には、経済的な観点から、湿式法の水熱処理における反応温度は実用上300℃以下が好ましいこと、及び、その実施例では専らオートクレーブを用いたバッチプロセスによる水熱処理の実施が記載されている。このような低温でのバッチプロセスでは、長い反応時間が必要となり、また所望の生成物の製造効率は劣ったものとなる。実際、当該文献の実施例では、水熱処理に数時間を要している。
これと同様に、特開2010−120850号公報には、やはり実用上の観点から、300℃を超える加熱温度は問題が生じること、及び、その実施例では専らオートクレーブを用いたバッチプロセスによる水熱処理の実施が記載されている。実際、当該文献の実施例では、特開平6−321630号公報と同様に、水熱処理に数時間を要している。従って、これらの文献の方法によれば、プロセスそれ自体の非効率性が、低温反応による経済的利益を上回るという不都合が生じている。
さらに、ペロブスカイト型複合酸化物であるチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(チタン酸バリウムに対してBaサイトの一部がCaで置換され、Tiサイトの一部がZrで置換された化合物であり、BCTZと称される。)について、サブミクロンあるいはサブサブミクロンオーダーの均一なナノ粒子を、効率的に得た合成例は、これまで報告されていない。小さくかつ均一なBCTZナノ粒子の効率的な合成法の開発が期待されているが、上記の先行文献に開示された方法をBCTZナノ粒子合成に適用しても、同様の不都合が生じる。
これらの従来技術の不都合に鑑み、好ましくは、小さくかつ均一な粒径を有するBCTZナノ粒子を、短時間で効率的に得ることが可能である新規な製造方法を提供することが望まれている。
【0011】
従って、本発明の課題は、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(BCTZ)のナノ粒子を、短時間で効率的に得ることが可能である新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、鋭意研究の結果、ペロブスカイト型複合酸化物であるチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(BCTZ)のナノ粒子の製造方法において、特定の原子比を有するBa、Ca、Ti及びZrの各々の水酸化物を含む原料水溶液を、水と共に、流通式反応装置中で250℃以上の温度にて水熱反応に付し、BCTZナノ粒子を連続的に得ることによって、上記課題が解決され得ることを見出した。また、このような方法によって、小さくかつ均一な粒径を有するBCTZナノ粒子を得られることが分かった。
【0013】
上記課題を解決するための本発明の構成は、以下のとおりである。
[1]
ペロブスカイト型複合酸化物であるチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(BCTZ)のナノ粒子を製造する方法であって、
Ba、Ca、Ti及びZrの各々の
水酸化物のみを含む原料水溶液を、水と共に、流通式反応装置に連続的に供給し、250℃以上の温度を含む水熱条件下、これらの成分を反応させることによって、前記BCTZナノ粒子を連続的に得る合成工程を含み、
前記原料水溶液において、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)が1より大きいことを特徴とする上記製造方法。
[2]
前記合成工程が、374℃以上の温度及び22.1MPa以上の圧力を有する超臨界水又は亜臨界水を用いて行われる、上記[
1]に記載の方法。
[
3]
前記原料水溶液が、
Ti及びZrの各々の塩を、アルカリで加水分解し次いで精製することによって、Ti及びZrの各々の水酸化物を形成する工程、並びに、
このTi及びZrの各々の水酸化物を含む第一水溶液と、Ba及びCaの各々の水酸化物を含む第二水溶液とを合わせる工程
によって調製される、上記
[2]に記載の方法。
[
4]
前記Ti及びZrの各々の水酸化物を形成する工程において、アルカリ加水分解の後、少なくとも2回の遠心分離により、前記Ti及びZrの各々の水酸化物を精製することを含む上記[
3]に記載の方法。
[
5]
前記合成工程において、前記原料水溶液の供給に先立って、前記流通式反応装置に水を供給して前記水熱条件を予め設定しておくことを含む上記[1]〜[
4]のいずれかに記載の方法。
[
6]
前記合成工程において、前記原料水溶液及びこれと共に供給される前記水の流量の合計が、前記流通式反応装置の全体を流通するのに要する時間が30分未満である上記[1]〜[
5]のいずれかに記載の方法。
[
7]
前記合成工程が、
前記原料水溶液の供給系統、及び、この原料水溶液と共に供給される前記水の供給系統の両方に、水を流通させること、
次いで前記流通式反応装置内の圧力を22.1MPa以上に高めること、
圧力が高められた前記流通式反応装置内の温度を374℃以上に高めること、
前記流通式反応装置内の圧力及び温度を前記所定値に至るまで高めた後、前記原料水溶液の供給系統への水の流通を停止すること、
次いで前記原料水溶液を前記流通式反応装置に連続的に供給すること
を含む上記[1]〜[
6]のいずれかに記載の方法。
[
8]
更に、前記合成工程から得られた生成物溶液を連続的に回収し、前記BCTZナノ粒子をこの生成物溶液から分離する工程を含む上記[1]〜[
7]のいずれかに記載の方法。
[
9]
前記分離が遠心分離によって行われる上記[
8]に記載の
方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、Ba、Ca、Ti及びZrの各々の
水酸化物のみを含む原料水溶液(原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)が1より大きいもの)を、水と共に、流通式反応装置に連続的に供給し、250℃以上の温度を含む水熱条件下、これらの成分を反応させることによって、従来と比べて非常に短時間で、効率的に、小さくかつ均一なBCTZのナノ粒子を連続的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のペロブスカイト型複合酸化物であるチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(BCTZ)のナノ粒子を製造する方法は、Ba、Ca、Ti及びZrの各々の金属イオンを含む原料水溶液を、水と共に、流通式反応装置に連続的に供給し、250℃以上の温度を含む水熱条件下、これらの成分を反応させることによって、前記BCTZナノ粒子を連続的に得る工程を含む。この原料水溶液において、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)が1より大きいことが必要である。
【0017】
本発明において、チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム(BCTZ)とは、製造後に分離された状態において、IPC発光分光法による元素分析にて、式(Ba
xCa
1−x)
a(Ti
yZr
1−y)O
3(式中、xが0.9以上1.0未満であり、yが0.9以上1.0未満であり、aが0.9以上1.1以下である。)で表される元素組成の化合物を意味する。BCTZは、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。上記の式中において、a(すなわち、Ba及びCaの原子モル数計/Ti及びZrの原子モル数計)は好ましくは0.92以上1.08以下であってよく、より好ましくは0.95以上1.05以下であってよく、さらに好ましくは0.98以上1.02以下であってよい。また、x及びyは、理想的には、0.94±0.02の範囲である。
【0018】
ここでのIPC発光分光法による元素分析とは、気体に高電圧をかけることによってプラズマ化させ、さらに高周波数の変動磁場によって、そのプラズマ内部に渦電流によるジュール熱を発生させることで得られる高温のプラズマを用いてサンプルを原子化・熱励起し、これが基底状態に戻る際の発光スペクトルから、元素の同定・ 定量を行う方法である。
【0019】
BCTZのナノ粒子とは、平均粒径が1ミクロン未満のBCTZ粒子を意味する。BCTZナノ粒子の平均粒径は、好ましくは100nm以下であってよく、より好ましくは30nm以下であってよい。ここでの平均粒径の測定方法については後述する。
【0020】
Ba、Ca、Ti及びZrの各々の金属イオンを含む原料水溶液において、それぞれの金属イオンの濃度は、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)が1より大きく、Ba及びCaの合計に対するBaの原子モル比が0.9以上1.0未満であり、かつ、Ti及びZrの合計に対するTiの原子モル比が0.9以上1.0未満である限りは、特に限定されない。Ba及びCaの合計に対するBaの原子モル比は、好ましくは0.92以上0.99以下であってよく、より好ましくは0.94以上0.98以下であってよく、最も好ましくは約0.96である。Ti及びZrの合計に対するTiの原子モル比は、好ましくは0.91以上0.98以下であってよく、より好ましくは0.92以上0.96以下であってよく、最も好ましくは約0.94である。原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)は、好ましくは1.05以上であってよく、より好ましくは1.1以上であってよい。原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)の上限は、特に限定されないが、原料コスト抑制の観点から例えば10以下であってよい。
原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)を1より大きくすることで、流通式反応装置における連続的な反応によっても、目標とする元素組成を有するBCTZナノ粒子を短時間にて得ることが可能になる。
【0021】
金属イオン源となる化合物は、水に溶解し、かつ所定の金属イオンを供給可能である限りは、特に限定されない。このような化合物の例としては、ハロゲン化物、水酸化物、硫酸塩、亜硫酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、硫化物、硝化物等が挙げられる。Ba、Ca、Ti及びZrの各々の金属イオンを含む原料水溶液は、典型的には、これらの金属の少なくとも1種の水酸化物が水に溶解した形態のものであってよい。
【0022】
ここでの用語「原料水溶液」は、ごく一部の固形物が完全に溶解しない形で浮遊又は懸濁している状態を包含する意図で用いられる。原料水溶液が浮遊又は懸濁している固形物を含む場合のその割合は、特に限定されないが、反応装置の保全の観点から小さいほど好ましい。浮遊又は懸濁している固形物の割合は、溶解している物質に対して通常は5質量%以下であってよく、3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、1質量未満であることが最も好ましい。
【0023】
本発明の反応においては、原料水溶液の供給量に対し、通常はそれに匹敵する程度の体積比にて、好ましくはそれに対して過剰な体積比にて、水が供給されてよい。
【0024】
本発明の反応は、250℃以上の温度を含む水熱条件下で行われることが必要である。本願で言及される「水熱条件」は、亜臨界状態及び超臨界状態を包含する。反応温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは水の臨界温度である374℃以上であってよい。反応圧力は、特に限定されないが、好ましくは水の臨界圧力である22.1MPa以上であってよい。反応促進のため、超臨界状態が最も好ましい。
【0025】
本発明の反応に用いられる流通式反応装置は、反応原料を流通式(バッチ式に相対する意味である。)にて連続的な反応に供することが可能である限りは、特に限定されない。
【0026】
流通式反応装置を用い、水と、原料水溶液とを連続的に供給し、かつ生成物を連続的に回収することによって、短時間で効率的に目的物質であるBCTZナノ粒子を得ることが可能である。また、このような流通式反応装置の使用により、250℃以上の温度を含む水熱条件下での迅速な反応と相俟って、より小さくかつ均一なナノ粒子を生成させることができる。
【0027】
本発明によるBCTZナノ粒子の製造方法の非限定的な一実施形態について、
図1を参照して更に説明する。
【0028】
図1に示されるとおり、本実施形態に係るBCTZのナノ粒子製造方法は、概略、以下の3つの工程を含む:
工程(a):Ti水酸化物/Zr水酸化物の形成;
工程(b):Ti/Zr/Ba/Ca各々の水酸化物を含む原料水溶液の形成;及び
工程(c):水熱条件下でのBCTZナノ粒子の連続的合成。
【0029】
より詳細には、当該製造方法において、
工程(a)は、Ti及びZrの各々の塩を、アルカリで加水分解し次いで精製することによって、Ti及びZrの各々の水酸化物を形成する工程であり、
工程(b)は、このTi及びZrの各々の水酸化物を含む第一水溶液と、Ba及びCaの各々の水酸化物を含む第二水溶液とを合わせて、原料水溶液を得る工程であり、
工程(c)は、Ba、Ca、Ti及びZrの各々の水酸化物を含む原料水溶液を、水と共に、流通式反応装置に連続的に供給し、250℃以上の温度を含む水熱条件下、これらの成分を反応させることによって、BCTZナノ粒子を連続的に得る工程である。
【0030】
本実施形態の製造方法の工程(a)では、Ti及びZrの各々の塩の水溶液に、アルカリを添加してこの塩を加水分解し、次いでこれを精製することによって、精製されたTi及びZrの各々の水酸化物を得る。
工程(a)に使用されるTiの塩及びZrの塩は、当該原子とイオン化合物を形成可能な陰イオンとの塩である限り特に限定されないが、通常は、ハロゲン化物やオキシハロゲン化物であってよく、より典型的には、塩化物やオキシ塩化物、あるいはその水和物であってよい。Tiの塩及びZrの塩の典型的な例としては、四塩化チタン、オキシ塩化ジルコニウム八水和物が挙げられる。Tiの塩及びZrの塩の水溶液中の各元素の濃度は、通常は、Ti及びZrの合計に対するTiの原子モル比が0.9以上1.0未満であり、好ましくは0.91以上0.98以下であってよく、より好ましくは0.92以上0.96以下であってよい。この原子モル比は、最も好ましくは約0.94である。
この水溶液に用いられる水は、好ましくは、蒸留、ろ過、イオン交換等の手法によって精製された水であってよい。以下の工程において用いられる水も、これと同様である。
【0031】
工程(a)に使用されるアルカリは、特に限定されないが、例えば、LiOH、NaOH、KOH、NH
4OHが挙げられる。これらのアルカリは、単独で用いてもよいし、複数種のものを組み合わせて用いてもよい。ここでのアルカリは、通常、水溶液の形態で用いられる。工程(a)でのアルカリの添加は、pHが7を超えるアルカリ性に達するまで行うことが必要であるが、好ましくはpHが7.5を超えるまで、さらに好ましくはpHが8を超えるまで、最も好ましくはpHが8.5を超えるまで行う。典型的には、工程(a)でのアルカリの添加は、pHが9になるまで行ってもよいし、pHが9超になるまで行ってもよい。また、工程(a)でのアルカリの添加時の条件は、特に限定されないが、例えば、大気圧下、常温(10℃〜40℃程度)にて、10秒から10分程度の適切な時間をかけて行われてよい。
【0032】
工程(a)でのアルカリ添加によって、Tiの塩及びZrの塩が加水分解されてこれらの元素の水酸化物(固形物として沈殿)、並びに未反応の原料及び副生成物の混合溶液を得ることができる。得られるTi水酸化物及びZr水酸化物は、オキシ水酸化物や、オキシ水酸化物の水和物の形態をとり得る。例えば、TiO(OH)
2、ZrO(OH)
2等が挙げられる。ここで不純物を可能な限り除去し、Ti水酸化物及びZr水酸化物を精製する操作を行うことが好ましい。ここでの不純物の除去法は、特に限定されないが、例えば、水溶液の遠心分離及びそれに次ぐ上澄みの廃棄を単一回行なうか、又は、複数回繰り返す操作を行うのが最も一般的である。これらの操作を複数回繰り返すことがより好ましい。このようにTi水酸化物及びZr水酸化物の精製を行うことによって、後続の水熱反応における副反応が抑制され、その結果、均一かつ小さい粒径の複合酸化物のナノ粒子の合成がより促進されうる。
【0033】
本実施形態の製造方法の工程(b)においては、工程(a)によって得られた精製済みのTi水酸化物及びZr水酸化物を含む第一の水溶液に、Ba水酸化物及びCa水酸化物を含む第二の水溶液とを合わせることによって、これらの4種の各元素の水酸化物を含む原料水溶液が形成される。
工程(b)に使用されるBa水酸化物及びCa水酸化物は、水和物の形態であってもよい。Ba水酸化物及びCa水酸化物は、市販のものを用いてよい。また、Ba水酸化物及びCa水酸化物は、Ti水酸化物及びZr水酸化物について上述したのと同様の精製処理を施したものであってよい。Ba水酸化物及びCa水酸化物の水溶液中の各元素の濃度比率は、通常、Ba及びCaの合計に対するBaの原子モル比が0.9以上1.0未満であり、好ましくは0.92以上0.99以下であってよく、より好ましくは0.94以上0.98以下であってよい。この原子モル比は、最も好ましくは約0.96である。
【0034】
工程(b)にて形成されるBa、Ca、Ti及びZrの各々の水酸化物を含む原料水溶液は、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)が1より大きくなるように調製される。原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)は、好ましくは1.05以上であってよく、より好ましくは1.1以上であってよい。原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)の上限は、特に限定されないが、原料コスト抑制の観点から例えば10以下であってよく、通常は5以下であってよく、より典型的には3以下であってよい。形成される原料水溶液におけるBa、Ca、Ti及びZrの各々の水酸化物の濃度は、特に限定されないが、典型的にはBaの水酸化物及びTiの水酸化物の各々は0.05〜1.0mol/lの範囲、並びにCa及びZrの水酸化物の各々は0.002〜0.01mol/lの範囲とすることができる。
【0035】
工程(b)における諸成分の混合・攪拌には、マグネティックスターラーや超音波等の手段を用いてよいが、十分な混合・攪拌が可能である限りはこれらに限定されない。工程(b)で調製された原料水溶液には、さらにアルカリを添加する必要はない。工程(b)での混合・攪拌による原料水溶液の調製のための条件は、特に限定されないが、例えば、大気圧下、常温(10℃〜40℃程度)にて、10秒から10分程度の適切な時間をかけて行われてよい。
【0036】
本実施形態の製造方法の工程(c)においては、Ba、Ca、Ti及びZrの各々の水酸化物を含む原料水溶液を、水と共に、流通式反応装置に連続的に供給し、250℃以上の温度を含む水熱条件下で、これらの成分を反応させることによって、BCTZナノ粒子を連続的に得ることができる。
【0037】
工程(c)では、原料水溶液を、水と共に、流通式反応装置に連続的に供給し、かつ生成物を連続的に回収することによって、短時間で効率的に目的物質のペロブスカイト型複合酸化物であるBCTZナノ粒子を得ることが可能である。また、このような流通式反応装置の使用により、250℃以上の温度を含む水熱条件下での迅速な反応と相俟って、より小さくかつ均一なBCTZナノ粒子を生成させることができる。
【0038】
工程(c)における原料水溶液及びこれと共に供給される水の流通式反応装置への供給速度は、特に限定されないが、これらの成分の流量の合計が、前記流通式反応装置の全体を流通するのに要する時間が30分未満であることが好ましい。この合計流量の流通時間は、実施スケールにもよるが、より好ましくは10分以内であり、さらに好ましくは1分以内であり、一層好ましくは10秒以内であり、より一層好ましくは5秒以内であり、最も好ましくは2秒以内である。このような短い流通時間によっても、所望の小さくかつ均一なBCTZナノ粒子を生成させることが可能である。なお、原料水溶液及びこれと共に供給される水は、ミクロ的な視点からは、流通式反応装置中において通常乱流を形成しているが、計算上、これらの成分の合計流量の流通時間を擬似的に反応時間とみなすことができる。原料水溶液の供給速度とこれと共に供給される水の供給速度との比率は、特に限定されないが、通常は後者の前者に対する比率を1以上としてよい。
【0039】
工程(c)の反応は、小さくかつ均一な結晶成長を促進させるため、250℃以上の温度を含む水熱条件下にて行われることが必要である。反応温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは350℃以上、更に好ましくは水の臨界温度である374℃以上であってよい。反応圧力は、特に限定されないが、好ましくは水の臨界圧力である22.1MPa以上であってよい。流通式反応装置を用い、250℃以上の温度を含む水熱条件下にて反応を連続的に行うことによって、短時間で効率的に目的物質のペロブスカイト型複合酸化物であるBCTZナノ粒子が得られ、また多くの場合、得られるナノ粒子は小さくかつ均一な粒径を有することが分かった。
【0040】
工程(c)のための非限定的な装置セットの概略が、
図2に示される。この装置セットは、水1を反応系に輸送するための第1の水輸送ポンプ2、第1の水輸送ポンプから輸送された水を反応系到達前に加熱するための加熱手段3、原料水溶液4を反応系に輸送するための投入シリンダ5、原料水溶液4の反応系への輸送に先立って輸送経路に水6を充填するための第2の水輸送ポンプ7、流通式反応装置の連続的な反応系を構成する管形反応器8、反応系から排出された生成物溶液を常温程度に冷却するための冷却手段9、並びに冷却された生成物溶液10を一時的に貯蔵した後に回収するための回収シリンダ11を有する。
【0041】
このような流通式反応装置を用いた反応の実施手順は、特に限定されないが、典型的には、第1の水輸送ポンプ2及び第2の水輸送ポンプ7の双方から管形反応器8に向かって所定流量で水(1、6)を供給すること、管形反応器8を所定の反応圧力(例えば20MPaを超える圧力、好ましくは臨界圧力である22.1MPa以上の圧力)に設定すること、原料水溶液4を投入シリンダ5に導入すること、管形反応器8を所定の反応温度(250℃以上の温度、好ましくは臨界温度である374℃以上の温度)に設定すること、第2の水輸送ポンプ7を停止すること、投入シリンダ5から原料水溶液を管形反応器8に向かって所定流量で供給すること、管形反応器8から得られた生成物溶液を冷却手段9によって常温程度に冷却すること、冷却済み生成物溶液10を回収シリンダ11に送入・貯蔵すること、次いで原料水溶液の供給を継続しつつ回収シリンダ11から排出される冷却済み生成物溶液10を回収することを含む。
【0042】
工程(c)において、原料水溶液の供給に先立って、流通式反応装置に水を供給して水熱条件を予め設定しておくことは好ましい。このように水熱条件を予め設定しておくことによって、原料水溶液の反応の開始が早まることになり、反応装置中で昇温中に生じる副反応が抑制されて反応速度及び原料転化率がより大きくなり、ひいては得られるBCTZナノ粒子の小型化・均一化につながる。
【0043】
工程(c)においては、通常、流通式反応装置から排出される生成物溶液中に含まれる反応生成物を分離・精製することによって、目的物質のペロブスカイト型複合酸化物であるBCTZナノ粒子を高い純度で得ることができる。この分離方法は、特に限定されないが、典型的には、生成物溶液の遠心分離、上澄み液体の廃棄、及びこれに次ぐ乾燥によって行なうことができる。より好ましくは、生成物溶液の遠心分離及び上澄み液体の廃棄を複数回繰り返してもよい。
【0044】
本発明の製造方法によって得られるBCTZナノ粒子の粒径は、特に限定されるものではないが、より低温での焼結により緻密な焼結体を得る観点から、小さいほど好ましい。例えば、その平均粒径の下限は、一般的には2nm以上、より一般的には5nm以上、より典型的には10nm以上であってよい。また平均粒径の上限は、通常200nm以下、典型的には100nm以下、好ましくは80nm以下、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは40nm以下、最も好ましくは30nm以下であってよい。BCTZナノ粒子の形態は、通常、球形又は擬似球形である。なお、ここでは、倍率2.6×10
5にて撮影した複合酸化物の透過型電子顕微鏡写真において、任意の5cm×5cmの枠内に完全に含まれている粒子群を目視にて観察し、個々の粒子について粒子形状が略円形であれば任意の二箇所の差し渡し径の平均値をとり、粒子形状が略楕円形であれば長径相当と短径相当の平均値をとり、それら粒子全体の平均値を計算し、それをBCTZナノ粒子の平均粒径とした。
【0045】
また、より低温での焼結によって緻密な焼結体を得る観点から、BCTZナノ粒子の少なくとも10%が、40nm未満の粒子径を有することが好ましい。BCTZナノ粒子の少なくとも20%が、40nm未満の粒子径を有することがより好ましい。BCTZナノ粒子の少なくとも30%が、40nm未満の粒子径を有することがさらに好ましい。BCTZナノ粒子の50%超が、40nm未満の粒子径を有することが最も好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例の記載によって更に詳細に例証するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
BCTZ(BaCaTiZrO
3)のナノ粒子の製造例を説明する。
本実施例に用いた流通式反応装置を含む装置セットの概略を
図3に示す。すなわち、
図3に示すように、精製水を反応系に輸送するためのポンプ1、ポンプ1から輸送された水を反応器への到達前に加熱するための加熱部、オキシ水酸化チタン、オキシ水酸化ジルコニウム、水酸化バリウム八水和物、及び水酸化カルシウムを含む原料水溶液を反応器に輸送するための投入シリンダ、この原料水溶液の反応器への輸送に先立って輸送経路に水を充填するためのポンプ2、管型反応器(長さ1m;1/8インチ管)、反応器から排出された生成物溶液を常温程度に冷却するための冷却部、並びに、冷却された生成物溶液を一時的に貯蔵した後に回収するための回収シリンダを有するものを、装置セットとして用いた。
【0048】
原料水溶液の調製を以下のとおり行った。
1)水200gに四塩化チタン水溶液(5mol/l)16.9gとオキシ塩化ジルコニウム八水和物1.16gとを溶解させた。
2)この水溶液に、5mol/lの濃度の水酸化カリウム溶液をpH9になるまで加えた。
3)この溶液に対して、10000G、5分の条件で遠心分離を行い、上澄みの液体を廃棄した。
4)沈殿物に水200mlを加え攪拌した。
5)この溶液に対して、10000G、5分の条件で遠心分離を行い、上澄みの液体を廃棄した。
6)沈殿物に水100mlを加え、さらに水酸化バリウム八水和物23.6gと水酸化カルシウム0.23gを加え、ガラス棒で細かく砕いて溶解させた。
7)溶液に水を加え、全体の体積を600mlとした。
これらの手順における溶液の混合・調製には、マグネティックスターラー及び/又は超音波を使用した。
得られた原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)は、1.3であった。
【0049】
以下のとおりの手順にて反応を行った。
1)ポンプ1から36ml/min、ポンプ2から10ml/minの流量で水を流した。
2)反応器の圧力を30MPaまで上げた。
3)原料溶液を投入シリンダに導入した。
4)反応器の温度を400℃まで上げた(
図3に示すように、加熱部出口の温度を約452℃に、原料溶液との合流箇所直前での温度を約435℃になるように調整した)。
5)ポンプ2を停止し、投入シリンダから原料水溶液を10ml/minの流量で送液した(原料水溶液及びこれと共に供給される水の流量の合計が、反応器の全体を流通するのに要する時間を1秒とした)。
6)冷却部では、冷却後の生成物溶液が約24℃になるまで冷却を行った。原料水溶液の反応器への供給を継続しながら、回収シリンダから排出される生成物溶液を回収した。
【0050】
以下のとおりの手順にて、生成物溶液から目的物質であるBCTZ(BaCaTiZrO
3)のナノ粒子を回収した。
1)生成物溶液に対し、10000G、5分の条件で遠心分離を行い、上澄みの液体を廃棄した。
2)上澄み液体廃棄後の沈殿物に200mlの精製水を加え、振とうや超音波で再分散させた。
3)10000G、30分の条件で遠心分離を行い、上澄みの液体を廃棄した。
4)上澄み液体廃棄後の沈殿物に200mlの精製水を加え、振とうや超音波で再分散させた。
5)10000G、30分の条件で遠心分離を行い、上澄みの液体を廃棄した。
6)60℃、10時間の条件で、上澄み液体廃棄後の沈殿物に真空乾燥を行なった。
7)乾燥されたBCTZナノ粒子を回収した。
【0051】
得られたBCTZナノ粒子について、生成物試料の透過型電子顕微鏡写真を、
図4(a)(倍率2.6×10
5)及び
図4(b)(倍率4.0×10
5)に示す。
図4(a)から分かるように、得られたBCTZナノ粒子の実質的に全ては、40nm未満の粒子径を有していた。また、BCTZナノ粒子は、高い均一性を有していた。
図4(b)においても、
図4(a)と同様に、得られたBCTZナノ粒子の実質的に全ては、40nm未満の粒子径を有しており、BCTZナノ粒子は、高い均一性を有していた。
【0052】
この実施例で得られたBCTZナノ粒子のX線回折パターンを
図5に示す。これは、BCTZについて既知のパターンと一致していることが分かった。
また、得られたBCTZナノ粒子のICP発光分光法による分析を行ったところ、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)は、1.01であった。
【0053】
[実施例2]
原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)を1.2とした以外は実施例1と同様の方法に従って、BCTZナノ粒子の調製及び精製を行った。
得られたBCTZナノ粒子について、生成物試料の透過型電子顕微鏡写真を、
図6(a)(倍率2.6×10
5)及び
図6(b)(倍率4.0×10
5)に示す。
図6(a)から分かるように、得られたBCTZナノ粒子の殆どは、40nm未満の粒子径を有していた。また、BCTZナノ粒子は高い均一性を有していた。
図6(b)においても、得られたBCTZナノ粒子の殆どは、40nm未満の粒子径を有しており、BCTZナノ粒子は、少しばらつきが見られるものの高い均一性を有していた。
【0054】
この実施例で得られたBCTZナノ粒子のX線回折パターンを
図7に示す。これは、BCTZについて既知のパターンと一致していることが分かった。
また、得られたBCTZナノ粒子のICP発光分光法による分析を行ったところ、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)は、0.975であった。
【0055】
[実施例3]
原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)を1.5とした以外は実施例1と同様の方法に従って、BCTZナノ粒子の調製及び精製を行った。
このように得られたBCTZナノ粒子のICP発光分光法による分析を行ったところ、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)は、1.07であった。
【0056】
[実施例4]
原料水溶液及びこれと共に供給される水の流量を5分の1にすることによって、それらの流量の合計が反応器の全体を流通するのに要する時間を5秒とした以外は実施例1と同様の方法に従って、BCTZナノ粒子の調製及び精製を行った。
このように得られたBCTZナノ粒子のX線回折パターンは、BCTZについて既知のパターンと一致していることが分かった。
【0057】
[比較例1]
原料水溶液における原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)を1.0とした以外は実施例1と同様の方法に従って、BCTZナノ粒子の調製及び精製を行った。
このように得られたBCTZナノ粒子のICP発光分光法による分析を行ったところ、原子モル比:(Ba+Ca)/(Ti+Zr)は、0.87であった。
【0058】
実施例1の結果から分かるように、本発明の製造方法によって、サブサブミクロンオーダーの均一なBCTZナノ粒子が、流通時間(反応時間)1秒という短時間で効率的に得られることが分かった。また、原料水溶液中の原子モル比又は流通時間を変化させた実施例2〜4においても、所望のBCTZナノ粒子が得られた。
それに対して、原料水溶液における原子モル比を本発明の範囲外に調整した比較例1では、規則正しい結晶構造を有する所望のBCTZナノ粒子を得ることはできなかった。