【実施例1】
【0035】
実施例1は、製品の長手方向にカップの長手方向を合せた状態で、半凝固金属スラリーを排出する方法が成形上合理的な製品を成形する場合に用いるスラリーを作ることを想定しており、従来の方法であれば縦横比の小さい略円錐台形状等のスラリーを用いる必要があるが、これを用いない方法として考案したものである。
【0036】
(1)電磁撹拌を行うにあたり、平面図において縦横比の小さい円筒容器(軸対象形状)を使用せず、
図1(A)に示すような長小判型のスラリー容器1を使用した。容器の寸法は概略長さ155mm、幅45mm、深さ60mmで、長さ方向の両端は、半径R22.5mmの半円弧状の平面形状である。
【0037】
製品の平面図における縦横比としては、
図1(A)に示すように、約3〜4程度(長さ155mm/幅45mm程度)である。なお、従来の半凝固金属スラリー用容器は、縦横比≒1(軸対象形状)〜1.5程度である。
【0038】
また、プレス等にて雄、雌型一対の金型内で加圧成形する場合、金型内へのスラリー投入の際や成形時の液相の垂れ落ちを防ぐ必要があるため、従来の半凝固鋳造の固相率:約30%〜40%)の場合と比較して、半凝固金属スラリー(成形素材)の固相率を約40%〜70%(固相率)と大きくとっている。
【0039】
スラリー容器1の材質は、SUS304で、
図1(A)〜(C)に示したように、上面は開口し、深さ方向に抜き勾配(6度程度)があり、その他の面は塞がれ水漏れしない容器となっている。
なお、溶湯10は、スラリー容器1の底面から45mm程度の高さまで投入される(
図1(B)、(C)参照)。
【0040】
実施例1では、
図2(A)、(B)に示すように、このスラリー容器1を、半凝固金属材料製造装置の一部を構成する電磁撹拌装置50の中心に合せて置く。なお、スラリー容器1の板厚は熱量計算によって、均一な温度分布が得られるように、底板(1a)、底縦壁のコーナー部(1b)、側壁部(充填深さより下部:1c、側壁飛散防止部(充填深さより上部:1d)に分けて設定している(
図1(B)等参照)。
【0041】
(2)電磁撹拌は、
図1(A)平面や
図2(A)平面(水平面)内において溶湯が回転する横回転撹拌方式(水平面内にて回転する攪拌方式;
図1(A)、
図2(A)の溶湯の回転方向X参照、
図3の矢印X参照)で行った。
【0042】
横回転撹拌の場合、スラリー容器内に投入された金属溶湯が回転流動し円筒状の容器でも容器から飛び出したり、飛沫を発生したり、飛び出さなくても内壁の高い位置まで流れ上がって(駆け上がって)冷却され、堅いスラリーや凝固片となったりする過流動問題があるが、実施例1では、長小判型のスラリー容器1を使用しているため、長辺側と短辺側で金属溶湯の速度(回転半径)が異なり、小径部1A、1Bにおいて上記の問題が顕著に表れる(
図3参照)。
【0043】
このため、実施例1では、以下のようにして、上述したような溶湯の流れ上がり(駆け上がり)を抑制して、良好な攪拌を行なうことができ、以って高品質な半凝固金属材料(半凝固金属スラリー)を製造できるようにした。
【0044】
すなわち、
(3)上記の過流動問題を防止するため、半凝固金属材料製造装置の一部を構成する流動抑制装置2を設置した。
この流動抑制装置2を設置した状態について、
図2により説明する。
流動抑制装置2は溶湯が付着しないように予め塗型剤やBN粉末を塗布したSUS304材の棒状部材の一例である底付管(
図2(B)において下端が有底の鞘管(シース管))2bと、該底付管(有底鞘管)2bを支持すると共にスラリー容器1の上面に載置される蓋状部材2a1(2a2)と、を含んで構成されている。
ここで、実施例1に係る底付管(有底鞘管)2bが、本発明に係る流動抑制手段(流動抑制部材)の一例に相当する。
【0045】
図2(A)、(B)に示すように、蓋状部2a1(2a2)をスラリー容器1の両端付近(小径部1A、1B)に設置すると、蓋状部2a1(2a2)に立設されている底付管2bは、
図2(B)に示されるように、略垂直方向に延在するようになっている。
【0046】
そして、この設置状態(
図2の状態)のときに、底付管2bはその下端2b1が、スラリー容器1内の溶湯10内に所定深さまで侵入するように配設されている。すなわち、底付管2bの下端2b1は、
図2(B)に示すように、スラリー容器1の底面から上方に所定距離の位置となるように調整されている。
【0047】
底付管2bの設置位置(
図2(A)平面(水平面)における位置:平面位置)と、その下端2b1の先端位置(深さ位置、
図2(B)平面(垂直面)における位置、高さ方向位置)については、予め予備試験などにより、溶湯10が過流動しスラリー容器1から飛び出したり(
図3参照)、飛沫の発生およびスラリー容器1の内壁の高い位置まで溶湯が流れ上がり(駆け上がり)過ぎたりすることを抑制できることが確認された所定位置に調整(選択)されている。
【0048】
すなわち、実施例1では、
図2(A)、(B)に示すように、底付管2bを、電磁攪拌により生じる溶湯10の横方向回転流れXの中であって、両端部(小径部)1A、1Bへの入り口手前(横方向回転流れXの上流側)に設置することで、溶湯10の横方向回転流れに衝突させて小径部1A、1Bに進入する溶湯10の流れに乱れを生じさせて溶湯10の流速を抑えることで、流れ上がり(駆け上がり)を効果的に抑制している。
【0049】
言い換えると、底付管2bは、スラリー容器1の上方から溶湯10の横方向回転流れに交差するように溶湯10中に挿入され、溶湯の横方向回転流れXに乱れを与えて溶湯10の流動(流速)を抑制するように作用する。
【0050】
流動抑制装置2の蓋状部材2a1、2a2及び底付管2bは、注湯機(ロートなど)100と干渉しないように配設されている。
【0051】
なお、実施例1に係る流動抑制装置2の底付管(有底鞘管)2bとしては、溶湯10の横方向回転流れXに略直交する方向に並べて立設される2本のSUS304の外径φ3.7mm、肉厚0.5mmの底付管(有底鞘管)を使用した(
図2(A)参照)。
【0052】
2本の底付管2bの設置位置(
図2(A)平面(水平面)における位置:平面位置)は、外側(スラリー容器内壁側)の底付管2bはスラリー容器1の内壁から10mmの位置に配設され、並列される内側の底付管2bとは10mmの間隔を取っている。
【0053】
また、2本の底付管2bの下端2b1の先端位置(深さ)は、スラリー容器1の底面から5mm程度の高さ位置となるように蓋状部材2a1(2a2)の裏面から突出するように配設されている。底付管2bの垂直方向に対する立設角度は、底付管2bと、スラリー容器1の内壁と、の隙間が高さ方向において略均一となるように、
図1(C)に示したスラリー容器1の内壁と同じ角度(6度)に立てて設置することができるが、これに限定されるものではなく、例えば底付管2bを略垂直に設置しても良いものである。
【0054】
実施例1では、外側(スラリー容器内壁側)の底付管2bの更に中央寄りに同じ立設角度で10mm間隔のところにもう1本設置し、一つの小径部1A(或いは1B)の溶湯10の横方向回転流れの入り口手前毎に、計2本の底付管2bを蓋状部材2a1(2a2)に支持させるようにしたが、蓋状部材2a1、2a2を小径部1A、1Bに対応させてそれぞれ独立して設ける構成とし、各蓋状部材2a1、2a2は相互に分離して個々にスラリー容器1から取り外せる構造とすることができる。但し、蓋状部材2a1、2a2を一体的に接続した構成とすることも可能である。
【0055】
このように、実施例1に係る流動抑制装置2によれば、底付管2bにより、スラリー容器1内の溶湯10の層流の流れ(主流)にカルマン渦を発生させ乱流として層流方向の流速を減速させることで、過流による弊害(スラリー容器小径部における内壁への溶湯の流れ上がり(駆け上がり)や外部への飛び出しなど)を抑制することができた。
【0056】
また、実施例1に係る流動抑制装置2によれば、底付管2bによる乱流の発生により、スラリー容器1の中央部の溶湯と、スラリー容器1の内壁側の溶湯の入れ替わりも発生させることができるため、一層、半凝固スラリーの均質化に貢献可能である。
【0057】
ところで、実施例1は、SUS304の底付管(有底鞘管)2bを使用して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明に係る流動抑制手段としては、内部に空間を有する棒状部材や中実の棒状部材、底のない管状部材、板、網形状など何れの形状であっても良いもので、スラリー容器1内の溶湯10中に挿入され、スラリー容器1内の溶湯10の層流の流れ(主流)に作用して、その流速を低減できれば特に形状や材質が限定される良いものである。また、長手方向に直交する横断面形状も、円形状に限定されるものではなく、楕円形状、多角形形状、星形状など適宜の形状とすることができる。
【0058】
ただし、底付管(有底鞘管)とすることで、例えば、内部に熱電対等の温度センサを配設することで溶湯(半凝固スラリー)の温度を計測して温度管理に役立てたり、或いは内部に発熱手段を備えて構成しカートリッジ式ヒータなどとして機能させることで半凝固スラリーの温度を制御する機能を備えさせることができる。
【0059】
また、底付管(有底鞘管)2bの材質は、本実施例のように、溶湯が付着しないように塗型剤やBN粉末が適用(塗布)されたSUS304材などの非磁性の金属材料とすることができるが、一般的にアルミ溶湯に対する濡れ性の少ない、窒化ケイ素やサイアロンその他のセラミックスなどの無垢材などとすることができると共に、金属であっても上述したSUS304材やタングステン系の金属等のような非磁性体であれば、表面処理や塗型剤、離型剤を適用することで採用することができる。
【0060】
また、実施例1では、底付管(有底鞘管)2bを、
図2(A)の平面において、各小径部1A、1Bへの入り口手前(横方向回転流れXの上流側)に、溶湯10の流れに略直交する方向に2本平行に並べて配設したが、これに限定されるものではなく、各小径部1A、1Bへの入り口付近に底付管(有底鞘管)2bを設置すれば良いものであるし、1本、3本以上を配設することができるし、複数設ける場合でも溶湯10の流れに略直交する方向に平行に並べなくても、所望に流れ上がり(駆け上がり)を抑制できれば適宜にその本数やレイアウトは変更できるものである。
【0061】
ここで、実施例1に係る半凝固金属材料の製造方法について説明する。
ステップ1(S1)では、流動制御装置2をスラリー容器1に設置し、電磁攪拌装置50による電磁撹拌を開始し、その後、所定の温度に調整された金属溶湯10を注湯機(ロート等)100を介して所定量注湯する。なお、スラリー容器1へ溶湯10を投入開始する時点から、電磁攪拌装置50をONして電磁コイルによる電磁攪拌を行ない、ステップ2で電磁攪拌装置50を停止するまで、電磁攪拌を継続する。
【0062】
なお、流動制御装置2(底付管2b(流動抑制部材))をスラリー容器1に設置した状態で、かつ、電磁攪拌装置50を作動させた状態で、溶湯10をスラリー容器1へ投入することで、溶湯10が高温で流動し易い状態から攪拌を開始できるので、より均質な半凝固金属スラリーを得ることができるが、流動し易いがために、同時に過流動の問題が生じ易いので、攪拌開始初期から、底付管2b(流動抑制部材)を溶湯10内に挿入して、溶湯10の過流動の問題が生じることを抑制することが好ましい。
但し、溶湯10をスラリー容器1に投入した後や攪拌開始後に、底付管2b(流動抑制部材)を溶湯10に挿入するような構成を採用することも可能である。
【0063】
ステップ2(S2)では、溶湯10の温度延いては流動性が低下して所定の流動性になった時点(流動する液相が所定に残っている時点;所定の固相率の半凝固金属スラリーが得られた時点)で、電磁攪拌を停止する。
【0064】
次に、ステップ3(S3)では、所定時間、半凝固金属スラリー(半凝固金属材料)10を沈静させた後、専用の容器搬送装置(図示せず)でスラリー容器1を所定の位置まで移動し、転倒させて半凝固金属スラリー10をスラリー容器1から排出する。半凝固スラリー10を直接プレス機械の金型内に排出しても良いし、半凝固スラリー10を一旦搬送アーム等に渡し、そのアームを金型内に移動させて、プレス機械の金型内に半凝固スラリー10を供給するといったスラリー搬送装置を使用することもできる。
【0065】
その後、ステップ4(S4)にて、半凝固金属スラリー10は、下金型および上金型でプレス成形に供されて成形製品とされる。
【0066】
使用済みのスラリー容器1は、スラリー容器清掃ステーションに送られ、必要に応じて冷却、清掃、離型剤塗布を経て再度利用する。
【0067】
以上のように、実施例1に係る半凝固材料製造方法及び装置によれば、電磁攪拌により横回転方向流れを与えられているスラリー容器中の溶湯に対して、流動抑制装置2の一部を構成する流動抑制手段である底付管2bにより、スラリー容器1内の溶湯10の層流の流れ(主流)にカルマン渦を発生させ乱流として層流方向の流速を減速させることで、過流による弊害(スラリー容器小径部における内壁への溶湯の流れ上がり(駆け上がり)や外部への飛び出しなど)を抑制することができる。
【0068】
従って、実施例1によれば、比較的長細い(平面図(水平面)において縦横比が大きい)形状の半凝固スラリーを電磁攪拌により製造する場合であっても、良好に攪拌して均質な半凝固スラリーを製造することができる。
【0069】
なお、実施例1では、金属溶湯10の注湯器100は中央に一箇所としたが、これに限定されるものはない。また、注湯器100の形状は円形、楕円等、どのような形でも良い。
【0070】
また、実施例1では、溶湯10の注湯開始とともに、一定時間電磁撹拌を継続し、電磁撹拌の終了直後に流動制御装置2をスラリー容器1から取り外した後、半凝固スラリー(半凝固金属材料)を沈静させる構成とすることができるが、これに限らず、流動制御装置2の取り外しは、電磁撹拌終了後でも良いし、沈静後取り外しても良いものである。
【実施例2】
【0071】
実施例2は、比較的長細い(平面図(水平面)において縦横比が大きい)形状かつ複雑な形状の製品を得るための成形で用いる半凝固金属スラリーを製造することを想定しており、従来の方法であれば半凝固金属スラリーの流動性を高めて、流動距離を大きくする成形を行う必要があり、高品質の成形が困難であった製品であるが、これを半凝固金属スラリーの品質を高く維持しながら半凝固金属スラリーの形状を製品形状に近くすることで高品質な成形製品を得られるようにした例である。
【0072】
実施例2では、比較的長細い(平面図(水平面)において縦横比が大きい)形状かつ複雑な形状の製品形状に近い半凝固金属スラリー(素材)を作るため、
図4(A)に示すように、イ字型(或いはT字型)のスラリー容器20を使用した。
【0073】
図4(A)、(B)に示したように、スラリー容器20のイ字型の斜め横方向に延在される長手方向部分21の中心線は、両端が上方へ曲がる半径(R)360mmの円の1/4周長に対応しており、かかる形状の長手方向部分21は概略長さ560mm、幅40mm、深さ約60mmで、両端部の小径部20A,20BはR20mmの円弧形状として形成されている。
【0074】
スラリー容器20のイ字(T字)の縦線部分22の中心線は、イ字の横線部分(長手方向部分21)に対し45度の傾きをもって交差し、縦線部分22は、中心長さ125mm、幅40mmを持って、イ字の横線部分(長手方向部分21)に接続されている。
【0075】
接続部のコーナーは広角部23がR20mm、挟角部24はR25mmの曲線とし、深さ60mmで最下端部の小径部20CはR20mmの円弧形状とした。
【0076】
スラリー容器20の材質はSUS304で、
図4(A)、(B)に示したように、上面は開口し、深さ方向に抜き勾配(6度)があり、その他の面は塞がれ水漏れしない容器状となっている。
【0077】
なお、スラリー容器20の板厚は熱量計算によって底板、底縦壁のコーナー部、側壁部(充填深さより下部)、側壁飛散防止部(充填深さより上部)に分けて設定しても良いが、ここでは一定板厚として抜き勾配を6度としている。
【0078】
実施例2では、電磁撹拌はリニア電磁撹拌装置60を使用した。
そして、
図5(A)に示すように、イ字(T字)の横線部分(長手方向部分21)の上側に沿って、左から右にN極とS極が移動する曲率半径R320mmの凸曲線(スラリー容器20に向かって凸)の周長230mmと210mmのリニア電磁コイル61、62を2か所設置した。
【0079】
また、
図5(A)において、イ字(T字)の横線部分(長手方向部分21)の下側に沿って、右から左にN極、S極が移動する曲率半径R400mmの凹曲線(スラリー容器20に向かって凹)の220mm長のリニア電磁コイル63を、右端部より中央方向に向けて(イ字(T字)の縦線部分22に向けて)、1個設置した。
【0080】
更に、
図5(A)において、イ字(T字)の横線部分(長手方向部分21)の下側に沿って、左端部より中央方向に向けて(イ字(T字)の縦線部分22に向けて)、同じ曲率半径R400mmの凹曲線(スラリー容器20に向かって凹)の185mm長のリニア電磁コイル64を、1個設置した。
【0081】
更に、
図5(A)において、イ字(T字)の縦線部分22の左側には直線の75mm長のリニア電磁コイル65を上から下方向にN極、S極が移動するように設置した。
【0082】
これらリニア電磁コイル61〜65は、全てスラリー容器20の外壁から10mm程度の間隙をもって設置した。
【0083】
また、実施例2においても、過流動問題(スラリー容器小径部20A、20B、20Cにおける内壁への溶湯の流れ上がり(駆け上がり)や外部への飛び出しなど)を防止するため、流動制御装置30、31、32を設置した。
【0084】
実施例2に係る流動制御装置30、31、32は、実施例1と同様の考えに基づくもので、それぞれ、スラリー容器20の端部(小径部)20A、20B、20C付近上方に載置される蓋状部材30a、31a、32aと、該蓋状部材30a、31a、32aにそれぞれ取り付けられている底付管(有底鞘管)30b、31b、32bと、を含んで構成されている。具体的な設置位置について、
図5(A)、(B)に一例を示している。
【0085】
図5(A)、(B)に示したように、蓋状部材30a、31a、32aに取り付けられている底付管(有底鞘管)30b、31b、32bを、電磁攪拌により生じる溶湯10の横方向回転流れXの中であって、端部(小径部)20A、20B、20Cへの入り口手前(横方向回転流れXの上流側)に設置することで、溶湯10の横方向回転流れXに衝突させて端部(小径部)20A、20B、20Cに進入する溶湯10の流れに乱れを生じさせて溶湯10の流速を抑えることで、流れ上がり(駆け上がり)を効果的に抑制することができる。
【0086】
底付管(有底鞘管)30b、31b、32bの設置位置(
図5(A)平面(水平面)における位置:平面位置)と、その下端30b1、31b1(32b1)の先端位置(深さ位置、
図5(B)平面(垂直面)における位置、高さ方向位置)については、予め予備試験などにより、溶湯10が過流動しスラリー容器20から飛び出したり、飛沫の発生およびスラリー容器20の内壁の高い位置まで溶湯が流れ上がり(駆け上がり)過ぎたりすることを抑制できることが確認された所定位置に調整(選択)されている。
【0087】
実施例2においても、実施例1と同様、蓋状部材30a、31a、32aにはそれぞれ2本の底付管(有底鞘管)30b、31b、32bが設けられているが、2本の底付管(有底鞘管)30b、31b、32bの設置位置(
図5(A)平面(水平面)における位置:平面位置)は、外側(スラリー容器内壁側)の底付管2bはスラリー容器20の内壁から10mmの位置に配設され、並列される内側の底付管とは10mmの間隔を取っている。
【0088】
なお、実施例2における、電磁撹拌、溶湯の給湯、沈静、取出し、流動制御装置30の取り外し、スラリー排出、スラリー容器20の移動清掃等の手順は、実施例1のステップ1〜ステップ4にて説明した内容と同じである。
【0089】
実施例2に係る半凝固材料製造方法及び装置によれば、電磁攪拌により横回転方向流れを与えられているスラリー容器中の溶湯に対して、流動抑制手段である底付管(有底鞘管)30b、31b、32bにより、スラリー容器20内の溶湯10の層流の流れ(主流)にカルマン渦を発生させ乱流として層流方向の流速を減速させることで、過流による弊害(スラリー容器小径部における内壁への溶湯の流れ上がり(駆け上がり)や外部への飛び出しなど)を抑制することができる。
【0090】
従って、実施例2によれば、比較的長細い(平面図において縦横比(長さ/幅)が大きい)形状かつ複雑な形状の製品形状に近い半凝固スラリー(素材)を電磁攪拌により製造する場合であっても、良好に攪拌して均質な半凝固スラリーを製造することができる。
【0091】
以上のように、実施例1、2において、長小判型形状のスラリー容器2、イ字型(T字型)形状のスラリー容器20のように、比較的細長い(平面図において縦横比が大きい)形状や複雑な形状で端部に小径部を有するスラリー容器にて半凝固スラリー(半凝固金属材料)を、横回転撹拌およびリニア方式撹拌の電磁撹拌によって製造する場合であっても、流動抑制手段を使うことにより、過流による弊害(スラリー容器小径部における内壁への溶湯の流れ上がり(駆け上がり)や外部への飛び出しなど)を抑制することができ、以って高品質の半凝固スラリーを製造することができる。
【0092】
このことから、各種のプレス型に適応した形状の半凝固金属スラリーの製造が可能で、比較的細長い(平面図において縦横比(長さ/幅)が大きい)形状や複雑な形状であっても、良好に攪拌して均質で高品質な半凝固スラリーを製造することができるため、以って半凝固金属材料を用いても比較的細長い形状や複雑な形状の成形品を高品質に成形することができる。
【0093】
実施例2にて使用したリニア電磁コイルの模式図を、リニア電磁コイル64を代表として、
図6に示す。
図6に示すように、リニア電磁コイル64は、U、V、Wの3相のコイルを集中巻にて巻線してあり、隣り合わせた3相の同種のコイルは互いに時計回り、反時計回りと異なる方向にて巻線を行っている。
【0094】
すなわち、隣接する、例えばU1、U2(V1,V2;W1,W2)のコイルは異なる方向にて巻線を行っているため、電圧を印加するとU1、U2(V1,V2;W1,W2)はそれぞれ、S、N極、又は、N、S極となり、U1、U2(V1,V2;W1,W2)間にて磁界が発生し、溶湯(半凝固スラリー)10をU1(V1,W1)→U2(V2,W2)、もしくは、U2(V2,W2)→U1(V1,W1)の方向へ移動させる力が生じる。
【0095】
このようなレイアウトで、3相コイル(U、V、W)を、溶湯(半凝固スラリー)10の流れ方向(横方向回転流れ)Xに沿って複数個(
図6では2個を表示)設置することで、スラリー容器20内の溶湯(半凝固スラリー)10を移動(流動)させる力を発生させることができる。
【0096】
上記各実施例では、固相率が約40%〜70%の半凝固金属スラリーを一例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明は、半凝固金属スラリーの固相率にかかわらず、溶湯に横方向回転(水平方向回転)を与える電磁攪拌において、過流による弊害(スラリー容器小径部における内壁への溶湯の流れ上がり(駆け上がり)や外部への飛び出しなど)を、流動抑制手段により抑制するものに適用可能である。
【0097】
また、上記各実施例では、スラリー容器の形状を、長小判型、イ字型(T字型)を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、従来同様のバケツ型などの軸対象形状(円筒状・円錐台形状)などであっても、溶湯に横方向回転(水平方向回転)を与える電磁攪拌において、過流による弊害(スラリー容器小径部における内壁への溶湯の流れ上がり(駆け上がり)や外部への飛び出しなど)を、流動抑制手段により抑制するものに適用可能である。
【0098】
以上で説明した実施の形態は、本発明を説明するための例示に過ぎず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは勿論である。