(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6384890
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20180827BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20180827BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
C07F7/18 W
B60C1/00
C08L21/00
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-107109(P2018-107109)
(22)【出願日】2018年6月4日
【審査請求日】2018年6月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000110077
【氏名又は名称】東レ・ダウコーニング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 佳範
【審査官】
水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−340819(JP,A)
【文献】
特開平10−017579(JP,A)
【文献】
特開2012−031149(JP,A)
【文献】
特開2003−171418(JP,A)
【文献】
Journal of Organometallic Chemistry,1979年,164,11-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式中、R
1は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、
Aは、下記一般式(2):
【化2】
(式中、R
2〜R
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)
または、下記一般式(3):
【化3】
(式中、R
8はアザジシラシクロアルカン環を形成する炭素数2〜10の2価炭化水素基であり、
R
2、R
3、R
4およびR
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)で示されるビスシリルアミノ基である}
で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、
下記一般式(4):
【化4】
(式中R
9およびR
10は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、nは0〜2の範囲の整数である)
で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させて、
下記一般式(5):
【化5】
(式中A,R
1、R
9、R
10は上記同様の官能基であり、nは上記と同じ意味である)
で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する方法において、
前記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物
が対応するアミノ基含有不飽和炭化水素化合物をシラザンを用いてシリル化したビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物であり、当該ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を精留した後に、水洗または吸着剤により処理することにより
下記一般式(6):
【化6】
(式中、R
11〜R
16は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基である)
で示される有機ケイ素化合物、および
下記一般式(7):
【化7】
(式中、R
17〜R
19は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基であり、
m、x、y、zはm+x+y+zの合計が3であり、かつ0〜3の範囲の同一又は異なる整数である)
で示されるアミン化合物
をその合計含有量が0.2質量%以下となるように
低減する工程を備え、かつ、
前記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、上記一般式(6)で示される有機ケイ素化合物と上記一般式(7)で示されるアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下であるものを用いることを特徴とする、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項2】
上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物および上記の一般式(4)で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物のヒドロシリル化反応を80℃以上190℃以下の温度範囲において実施することを特徴とする、請求項1に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項3】
上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、
下記一般式(8):
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
6、R
7は上記同様の官能基である)
で示される化合物の含有量が10質量%以下のものを用いることを特徴とする、
請求項1または請求項2に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法であって、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、上記の一般式(8)で示される化合物の含有量が0.25質量%以下のものを用いることを特徴とする、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(1):
【化9】
{式中、R
1は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、
Aは、下記一般式(2):
【化10】
(式中、R
2〜R
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)
または、下記一般式(3):
【化11】
(式中、R
8はジシラシクロアミン環を形成する炭素数2〜10の2価炭化水素基であり、
R
2、R
3、R
4およびR
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)で示されるビスシリルアミノ基である}
で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、
下記一般式(4):
【化12】
(式中R
9およびR
10は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、nは0〜2の範囲の整数である)
で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させて、
下記一般式(5):
【化13】
(式中A,R
1、R
9、R
10は上記同様の官能基であり、nは上記と同じ意味である)
で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する際のヒドロシリル化反応の促進方法において、
前記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物
が対応するアミノ基含有不飽和炭化水素化合物をシラザンを用いてシリル化したビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物であり、当該ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を精留した後に、水洗または吸着剤により処理することにより、
下記一般式(6):
【化14】
(式中、R
11〜R
16は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基である)
で示される有機ケイ素化合物、および
下記一般式(7):
【化15】
(式中、R
17〜R
19は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基であり、
m、x、y、zはm+x+y+zの合計が3であり、かつ0〜3の範囲の同一又は異なる整数である)
で示されるアミン化合物の合計含有量
をその合計含有量が0.2質量%以下となるように
低減する工程を備え、かつ、
前記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、上記一般式(6)で示される有機ケイ素化合物と上記一般式(7)で示されるアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下であるものを用いることを特徴とする、ヒドロシリル化反応の促進方法。
【請求項6】
さらに、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、
下記一般式(8):
【化16】
(式中、R
1、R
2、R
6、R
7は上記同様の官能基である)
で示される化合物の含有量が10質量%以下のものを用いることを特徴とする、請求項5に記載のヒドロシリル化反応の促進方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法をその製造工程に含むことを特徴とする、合成ゴム材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法をその製造工程に含むことを特徴とする、自動車用途タイヤゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法に関するものであり、ヒドロシリル化反応を促進することで、製造時間を短縮することができ、かつ、反応のコントロールがしやすい安全なプロセスであって、目的とする化合物の反応効率、生産性および収率に優れ、かつ、簡便かつ安全な製造工程で廃棄物の生成量を抑制して実施可能である。さらに、本発明は、当該方法を用いたヒドロシリル化反応の促進方法、当該製造方法により得られたビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の使用またはその製造工程を含むことを特徴とする合成ゴム材料等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス(シリル)アミノ基含有有機ケイ素化合物はシランカップリング剤、表面処理剤、樹脂変性剤、接着付与剤として有用であり、近年では低燃費タイヤ用途に使用される合成ゴム(特に、変性共役ジエン系ゴム)等の製造に広く使用されている(例えば、特許文献1または特許文献2など)。このため、工業的生産プロセスを用いて、当該有機ケイ素化合物を安定的に、かつ大量に供給する方法が求められている。
【0003】
ビス(シリル)アミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法としては、対応するビス(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素化合物とケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物を白金触媒存在中ヒドロシリル化反応により製造する方法が知られている(たとえば、特許文献3または特許文献4など)。
【0004】
一方、原料であるビス(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素化合物の製造方法は、たとえば対応するアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を、対応するクロロシランでシリル化反応させて製造する方法(特許文献1、特許文献5など)や、対応するアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザンなどのジシラザン化合物を用いてシリル化する方法(特許文献6など)、さらには、モノシリルアミノ基を有する不飽和炭化水素化合物を酸触媒で不均化する方法(特許文献7)が知られている。
【0005】
しかしながら、上記のいずれかの方法を用いて原料であるビス(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素化合物を製造した場合であっても、当該ビス(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素化合物とケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物とを白金系等のヒドロシリル化反応触媒存在下、ヒドロシリル化反応させると当該反応が途中で停止してしまったり、転換率が著しく低くなってしまったりする場合がある。さらに、上記の方法は反応のコントロールが難しく、ケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物の滴下中に突然発熱反応が開始して、反応系の急激な温度上昇や突沸が発生することがあり、工業的な生産プロセスにおいて、目的とするビス(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素化合物を安全かつ高効率に製造することは甚だ困難であった。
【0006】
一方、特許文献8には、ビス(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素化合物に含まれる不純物のうち、モノ(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素の含有量を5.0質量%以下として、ケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物を白金触媒存在中ヒドロシリル化反応させることを特徴とするビスシリルアミノ基を有するシラン化合物の製造方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献8の反応条件を用いる場合、ヒドロシリル化反応の停止を抑制することに一定の効果は得られるが、依然として、ケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物の滴下中に反応が暴走しやすく、特に工業的スケールで生産する場合の反応のコントロール、生産性および安全性における課題を解決するものではない。また、仮に当該反応条件を採用しても、特にヒドロシリル化触媒の使用量(たとえば、白金金属量)が少ない場合には、十分に反応が進行しない場合があり、その収率や反応効率においても十分ではない。このため、簡便かつ安全な製造工程であって、工業的スケールにおいても、反応効率、生産性および収率に優れたビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−171418号公報
【特許文献2】特開2016−169381号公報
【特許文献3】特開平10−017579号公報
【特許文献4】特開平11−21289号公報
【特許文献5】特開平06−293948号公報
【特許文献6】中国特許公開106749377号公報
【特許文献7】特開平10−218883号公報
【特許文献8】特開2018−070506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、工業的生産スケールに適合した製造方法であって、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を反応のコントロールがしやすい簡便かつ安全な製造工程で生産することができ、かつ、目的とする化合物の反応効率に優れるため製造時間(サイクルタイム)を短縮できるため、生産性および収率に優れた製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法であって、反応のコントロールがしやすく、簡便かつ安全に実施可能なヒドロシリル化反応の促進方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記の製造方法を用いて供給されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の使用またはその製造方法を含むことを特徴とする合成ゴム材料(特に、ゴムタイヤ含む)の製造方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、鋭意検討の結果、本発明者らは、ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、ケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させてビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する方法において、ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として特定の有機ケイ素化合物および特定のアミン化合物の含有量を一定量以下に抑制することで、原料物質のヒドロシリル化反応が促進され、かつ、当該反応の暴走を抑制して反応コントロール性に優れた製造方法を提供できることを見出し、本発明に到達した。さらに、当該反応温度を80℃以上190℃以下に管理して実施することで、暴走反応をより低減させ、反応コントロール性および反応効率等をさらに改善可能であることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
具体的には、本発明の課題は、以下のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法により解決される。
[1]下記一般式(1):
【化1】
{式中、R
1は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、
Aは、下記一般式(2):
【化2】
(式中、R
2〜R
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)
または、下記一般式(3):
【化3】
(式中、R
8はジシラシクロアミン環を形成する炭素数2〜10の2価炭化水素基であり、
R
2、R
3、R
4およびR
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)で示されるビスシリルアミノ基である}
で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、
下記一般式(4):
【化4】
(式中R
9およびR
10は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、nは0〜2の範囲の整数である)
で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させて、
下記一般式(5):
【化5】
(式中A,R
1、R
9、R
10は上記同様の官能基であり、nは上記と同じ意味である)
で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する方法において、
前記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、
下記一般式(6):
【化6】
(式中、R
11〜R
16は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基である)
で示される有機ケイ素化合物、および
下記一般式(7):
【化7】
(式中、R
17〜R
19は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基であり、
m、x、y、zはm+x+y+zの合計が3であり、かつ0〜3の範囲の同一又は異なる整数である)
で示されるアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下であるものを用いることを特徴とする、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
[2] 上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を精留した後に、水洗または吸着剤により処理することにより、当該一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物中の、上記一般式(6)で示される有機ケイ素化合物および上記一般式(7)で示されるアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下となるように低減する工程をさらに有する、[1]に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
[3] 上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物および上記の一般式(4)で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物のヒドロシリル化反応を80℃以上190℃以下の温度範囲において実施することを特徴とする、[1]または[2]に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
[4] 上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、
下記一般式(8):
【化8】
(式中、R
1、R
2、R
6、R
7は上記同様の官能基である)
で示される化合物の含有量が10質量%以下のものを用いることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1項に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
[5] [4]に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法であって、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、上記の一般式(8)で示される化合物の含有量が0.25質量%以下のものを用いることを特徴とする、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法。
【0012】
同様に、本発明の課題は、以下のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物に関するヒドロシリル化反応の促進方法により解決される。
[6] 下記一般式(1):
【化9】
{式中、R
1は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、
Aは、下記一般式(2):
【化10】
(式中、R
2〜R
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)
または、下記一般式(3):
【化11】
(式中、R
8はジシラシクロアミン環を形成する炭素数2〜10の2価炭化水素基であり、
R
2、R
3、R
4およびR
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基である)で示されるビスシリルアミノ基である}
で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、
下記一般式(4):
【化12】
(式中R
9およびR
10は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、nは0〜2の範囲の整数である)
で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させて、
下記一般式(5):
【化13】
(式中A,R
1、R
9、R
10は上記同様の官能基であり、nは上記と同じ意味である)
で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する際のヒドロシリル化反応の促進方法において、
前記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、
下記一般式(6):
【化14】
(式中、R
11〜R
16は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基である)
で示される有機ケイ素化合物、および
下記一般式(7):
【化15】
(式中、R
17〜R
19は互いに独立に、炭素数1〜20の1価飽和炭化水素基であり、
m、x、y、zはm+x+y+zの合計が3であり、かつ0〜3の範囲の同一又は異なる整数である)
で示されるアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下であるものを用いることを特徴とする、ヒドロシリル化反応の促進方法。
[7] さらに、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、
下記一般式(8):
【化16】
(式中、R
1、R
2、R
6、R
7は上記同様の官能基である)
で示される化合物の含有量が10質量%以下のものを用いることを特徴とする、[6] に記載のヒドロシリル化反応の促進方法。
【0013】
また、本発明の課題は、上記のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物に関する、合成ゴム材料の製造方法および自動車用途タイヤゴムの製造方法により解決される。
[8] [1]〜[5]のいずれか1項に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法により得られたビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を用いることを特徴とする、合成ゴム材料の製造方法。
[9] [1]〜[5]のいずれか1項に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法をその製造工程に含むことを特徴とする、合成ゴム材料の製造方法。
[10] [1]〜[5]のいずれか1項に記載のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法により得られたビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の使用を特徴とする、自動車用途タイヤゴムの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法は、工業的生産スケールに適合した、反応のコントロールがしやすく、簡便かつ安全な製造工程で実施することが可能であり、かつ、目的とする化合物の反応効率に優れるため製造時間(サイクルタイム)を短縮できるため、生産性および収率に優れるものである。また、本発明にかかるヒドロシリル化反応の促進方法は、反応のコントロールがしやすく、簡便かつ安全に実施可能であり、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の生産性および収率を改善できるものである。また、本発明により、上記の製造方法を用いて供給されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の使用またはその製造方法を含むことを特徴とする合成ゴム材料(特に、ゴムタイヤ含む)の製造方法等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法等について、詳細に説明する。
【0016】
本発明は、ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、ケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させてビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する方法において、ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、
下記一般式(6):
【化17】
(式中、R
11〜R
16は互いに独立に、炭素数1〜10の1価飽和炭化水素基である)
で示される有機ケイ素化合物、および
下記一般式(7):
【化18】
(式中、R
17〜R
19は互いに独立に、炭素数1〜10の1価飽和炭化水素基であり、
m、x、y、zはm+x+y+zの合計が3であり、かつ0〜3の範囲の同一又は異なる整数である)
で示されるアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下であるものを使用することを特徴とする。本発明の技術的効果、特に反応のコントロール性を改善し、安全かつ高い反応効率でヒドロシリル化反応を実施する見地から、その合計含有量がビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物に対して0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.02質量%以下〜当該物質の検出限界以下まで除去され、実質的に含有しないことが最も好ましい。
【0017】
これらの一般式(6)で示される有機ケイ素化合物および上記一般式(7)で示されるアミン化合物は、ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物の不純物として混入する成分であるが、発明者らは、これらの成分がヒドロシリル化反応の主たる阻害要因であり、反応における転換率(反応効率)および反応コントロール性に影響する主たる因子であることを見出し、これら成分の合計含有量を上記範囲となるように除去することで、工業的スケールにおいても本製造方法に係るヒドロシリル化反応が停止せず、かつ、反応を安定してコントロールでき、反応効率を改善できることを見出し、本発明を為すに至ったものである。
【0018】
本発明におけるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物は、下記一般式(1):
【化19】
で示される。
【0019】
式(1)中、R
1は窒素原子を含んでもよい炭素数1〜10の2価炭化水素基であり、その具体例としては、メチレン、エチレン、プロピレン(メチルエチレン)、トリメチレン、メチルトリメチレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デカメチレン、イソブチレン基等のアルキレン基;フェニレン、メチルフェニレン基等のアリーレン基;エチレンフェニレン、エチレンフェニレンメチレン基等のアラルキレン基;3−アザブチレン、3−アザヘキシレン基等の窒素原子含有アルキレン基等が挙げられる。R
1中の窒素原子の含有部位は特に限定されず、R
1中の炭化水素基の水素原子の一部または全部はその他の置換基で置換されていてもよく、この置換基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、(イソ)プロポキシ基等の炭素数1〜5のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子等が例示される。
【0020】
式(1)中、Aは、下記一般式(2):
【化20】
または、下記一般式(3):
【化21】
で示されるビスシリルアミノ基である。
【0021】
式(2)および式(3)において、R
2〜R
7は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、例えば、炭素数1〜20ののアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基等が挙げられる。R
2〜R
7である一価炭化水素基は、その分子構造において特に制限されず、直鎖状、分岐鎖状または環状の一価炭化水素基であってよい。好適には、R
2〜R
7は炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6の1価飽和炭化水素である。
【0022】
具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イコシル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、テキシル、2−エチルヘキシル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状のアルキル基;ビニル、アリル、プロペニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられ、工業生産上の見地から、R
2〜R
7は、メチル、エチル、イソプロピル、sec−ブチル、tert−ブチル基が好ましい。
【0023】
式(3)において、R
8はジシラシクロアミン環を形成する炭素数2〜10の2価炭化水素基であり、たとえば、直鎖状または分岐鎖状のアルキレン基、アリーレン基、アラルキレン基等が挙げられる。工業生産上の見地から、R
8はエチレン基、プロピレン基、プロピレン基等のアルキレン基であることが好ましい。
【0024】
なお、R
2〜R
7、R
8は上記各炭化水素基の水素原子の一部または全部はその他の置換基で置換されていてもよく、この置換基の具体例としては、メトキシ、エトキシ、(イソ)プロポキシ基等の炭素数1〜5のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シアノ基;アミノ基;炭素数2〜10のアシル基;トリクロロシリル基;それぞれ各アルキル基、各アルコキシ基が炭素数1〜5である、トリアルキルシリル、ジアルキルモノクロロシリル、モノアルキルジクロロシリル、トリアルコキシシリル、ジアルキルモノアルコキシシリルまたはモノアルキルジアルコキシシリル基等が挙げられる。
【0025】
上記の式(1)で表されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物の具体例として、N,N−ビス(トリメチルシリル)アリルアミン、N,N−ビス(トリメチルシリル)メタリルアミン、N,N−ビス(トリメチルシリル)ブテニルアミン、N,N−ビス(トリメチルシリル)ヘキセニルアミン、N,N−ビス(トリメチルシリル)デセニルアミン、N,N−ビス(トリメチルシリル)ビニルアニリン、N,N−ビス(トリエチルシリル)アリルアミン、N,N−ビス(トリエチルシリル)メタリルアミン、N,N−ビス(トリエチルシリル)ブテニルアミン、N,N−ビス(トリエチルシリル)ヘキセニルアミン、N,N−ビス(トリエチルシリル)デセニルアミン、N,N−ビス(トリエチルシリル)ビニルアニリン、N,N−ビス(t−ブチルジメチルシリル)アリルアミン、N,N−ビス(t−ブチルジメチルシリル)メタリルアミン、N,N−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ブテニルアミン、N,N−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ヘキセニルアミン、N,N−ビス(t−ブチルジメチルシリル)デセニルアミン、N,N−ビス(t−ブチルジメチルシリル)ビニルアニリン、N,N−ビス(トリイソプロピルシリル)アリルアミン、N,N−ビス(トリイソプロピルシリル)メタリルアミン、N,N−ビス(トリイソプロピルシリル)ブテニルアミン、N,N−ビス(トリイソプロピルシリル)ヘキセニルアミン、N,N−ビス(トリイソプロピルシリル)デセニルアミン、N,N−ビス(トリイソプロピルシリル)ビニルアニリン、N−トリエチルシリル−N−トリメチルシリルアリルアミン、N−トリエチルシリル−N−トリメチルシリルメタリルアミン、N−トリエチルシリル−N−トリメチルシリルブテニルアミン、N−トリエチルシリル−N−トリメチルシリルヘキセニルアミン、N−トリエチルシリル−N−トリメチルシリルデセニルアミン、N−トリエチルシリル−N−トリメチルシリルビニルアニリン、N−t−ブチルジメチルシリル−N−トリメチルシリルアリルアミン、N−t−ブチルジメチルシリル−N−トリメチルシリルメタリルアミン、N−t−ブチルジメチルシリル−N−トリメチルシリルブテニルアミン、N−t−ブチルジメチルシリル−N−トリメチルシリルヘキセニルアミン、N−t−ブチルジメチルシリル−N−トリメチルシリルデセニルアミン、N−t−ブチルジメチルシリル−N−トリメチルシリルビニルアニリン、N−トリイソプロピルシリル−N−トリメチルシリルアリルアミン、N−トリイソプロピルシリル−N−トリメチルシリルメタリルアミン、N−トリイソプロピルシリル−N−トリメチルシリルブテニルアミン、N−トリイソプロピルシリル−N−トリメチルシリルヘキセニルアミン、N−トリイソプロピルシリル−N−トリメチルシリルデセニルアミン、N−トリイソプロピルシリル−N−トリメチルシリルビニルアニリン等が挙げられる。
【0026】
このようなビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物は、本願の背景技術に記載のとおり、公知の方法で合成することができる。
【0027】
一方、上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物は、水分に接触することで容易に加水分解し、その原料である対応するアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と対応するシラノール化合物に分解する。
【0028】
また、本願の背景技術に記載のとおり、上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物は、対応するアミノ基含有不飽和炭化水素化合物をクロロシランやシラザンなどの有機ケイ素化合物を用いてシリル化したり、一旦モノ(シリル)アミノ基含有不飽和炭化水素化合物を製造し、不均化することにより製造することができるが、得られたビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物には原料として使用したアミノ基含有不飽和炭化水素化合物、一般式(6)で示される有機ケイ素化合物、反応促進剤として使用されたアミン化合物等を含有する。
【0029】
ここで、上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、下記一般式(4):
【化22】
で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応させて、下記一般式(5):
【化23】
で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する際に、上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物の製造ロットによって上記一般式(5)で示されるビス(シリル)アミノ基含有有機ケイ素化合物への転換率が大幅低下したり反応が暴走したりする場合がある。
【0030】
当該転換率の低下に伴う反応効率の問題や、反応の暴走による反応コントロール性の問題は、上記のとおり、上記一般式(1)に示される化合物中の特定の不純物、すなわち、上記一般式(6)で示される有機ケイ素化合物と上記一般式(7)で示されるアミン化合物の合計量が強く関与しているため、これらの成分を一定水準以下まで除去することで、解決可能である。
【0031】
一般式(6)で表される有機ケイ素化合物は、上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物の製造原料の一部であり、R
11〜R
16は当該ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と同様に、同一でも異なっていてもよい炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、上記のR
2〜R
7で例示した官能基と同様な炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基が例示され、かつ、その分子構造において特に制限されず、直鎖状、分岐鎖状または環状の一価炭化水素基であってよい。また、R
11〜R
16は、上記各炭化水素基の水素原子の一部または全部はその他の置換基で置換されていてもよく、特にハロゲン原子により置換されていてもよい。好適には、R
11〜R
16は、上記のR
2〜R
7と同様に、炭素数1〜8、炭素数1〜6の1価飽和炭化水素であってよい。また、工業生産上の見地から、R
11〜R
16はメチル、エチル、イソプロピル、sec−ブチル、tert−ブチル基であってよい。
【0032】
一般式(6)で表される有機ケイ素化合物は、上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物のビスシリルアミノ基部分の構造に対応した官能基および構造を有する。たとえば、官能基A中のR
2〜R
7が全てメチル基の場合、ヘキサメチルジシラザンを主たる成分とする。その他、一般式(6)で表される有機ケイ素化合物は、先に例示したビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物のビスシリルアミノ基部分の構造に対応した化合物が挙げられる。
【0033】
上記一般式(7)で示される有機アミン化合物は、上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物の製造原料の一部、または上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を保存/製造中に水分と反応して生成する成分に由来する。
【0034】
一般式(7)において、R
17〜R
19は互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、上記のR
2〜R
7で例示した官能基と同様なアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基が例示され、かつ、その分子構造において特に制限されず、直鎖状、分岐鎖状または環状の一価炭化水素基であってよい。また、R
17〜R
19は、上記各炭化水素基の水素原子の一部または全部はその他の置換基で置換されていてもよく、特にハロゲン原子により置換されていてもよい。好適には、R
17〜R
19は、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基であってよい。工業生産上の見地から、R
17〜R
19は、メチル、エチル、ビニル、プロピル、イソプロピル、アリル、sec−ブチル、tert−ブチル基であってよい。
【0035】
一般式(7)において、m、x、y、zはm+x+y+zの合計が3であり、かつ0〜3の範囲の同一又は異なる整数である。
【0036】
一般式(7)で表される有機アミン化合物は、アリルアミン、1−プロピルアミン、トリエチルアミン、ジエチルメチルアミン、エチルジメチルアミン、トリメチルアミン、アリルメチルアミン、アリルジメチルアミン等が例示される。なお、一般式(7)で表される有機アミン化合物は、一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物の製造原料またはその加水分解物に由来するので、先に例示したビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物の原料および加水分解物に対応した化合物であってよい。
【0037】
これらの不純物を除去する手段は特に限定されるものではないが、精留による分離、カラムクロマトグラフィー、活性炭等の吸着剤による分離等の公知の精製法によって低減することができ、その低減の程度は、反応原料であるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物についてガスクロマトグラフィー(GC)およびガスクロマトグラフィー質量分析(GC―MS)を行うことで特定可能である。
【0038】
本発明において、一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物から一般式(6)で示される有機ケイ素化合物および上記一般式(7)で示されるアミン化合物を低減する手段として、多段数(理論段数)の蒸留塔を有する蒸留装置を用いて精留した後に、水洗または吸着剤により処理する工程を用いることにより、これらの成分の合計含有量が0.2質量%以下となるように低減されていることが好ましい。なお、当該精留に用いる蒸留塔の理論段数、水洗または吸着剤による処理の回数等は、合成したビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物(粗原料)中の不純物の含有量に応じて適宜設定してよい。また、必要に応じて、複数回の精留、水洗、および吸着剤による処理を行ってもよい。
【0039】
本発明の製造方法において、上記の方法により、上記一般式(6)で示される有機ケイ素化合物および上記一般式(7)で示されるアミン化合物を十分に低減したビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を反応原料として用いることで、安全かつ高効率に目的物である一般式(5)で示されるビス(シリル)アミノ基含有有機ケイ素化合物を製造することができる。
【0040】
一般式(4)で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物は、ハイドロジェンシラン化合物であり、一般式(1)に示される化合物の末端にある炭素−炭素二重結合と、ケイ素原子結合水素原子間で、ヒドロシリル化反応触媒の存在下、ヒドロシリル化反応が進行することで、一般式(5)で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物が形成される。
【0041】
一般式(4)におけるR
9およびR
10は、互いに独立に、炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、上記のR
2〜R
7で例示した官能基と同様なアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基が例示されかつ、その分子構造において特に制限されず、直鎖状、分岐鎖状または環状の一価炭化水素基であってよい。また、R
9およびR
10は、上記各炭化水素基の水素原子の一部または全部はその他の置換基で置換されていてもよく、特にハロゲン原子により置換されていてもよい。好適には、工業生産上の見地から、R
9およびR
10は、メチルまたはエチル基が好ましい。また、一般式(4)におけるnは0〜2の範囲の整数である。
【0042】
好適には、一般式(4)で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物として、トリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
【0043】
上記一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、上記一般式(4)で示されるハイドロジェンシラン化合物との反応比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、一般式(1)で示される化合物1molに対し、一般式(4)で示される化合物0.5〜3.0molの範囲が好ましく、0.8〜1.5molの範囲がより好ましい。本発明にかかる製造方法おいては、ヒドロシリル化反応が促進され、かつ、反応のコントロールが容易であるので、一般式(1)で示される化合物1molに対し、一般式(4)で示される化合物が0.9〜1.1mol、あるいはほぼ1molとなる化学的に等モル量の反応であっても、反応が停止することなく、高い反応効率で進行できる利点がある。
【0044】
ヒドロシリル化反応触媒は特に制限されるものではないが、反応効率の見地から、白金系金属を含むヒドロシリル化反応触媒であり、具体的には、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、塩化白金酸とケトン類との錯体、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯体、四塩化白金、白金微粉末、アルミナまたはシリカの担体に固体状白金を担持させたもの、白金黒、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体、白金のカルボニル錯体、これらの白金系触媒を含むメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シリコーン樹脂等の熱可塑性有機樹脂粉末の白金系触媒が例示される。特に、塩化白金酸と1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサンとの錯体、塩化白金酸とテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンとの錯体、白金1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体、及び白金テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン錯体等の白金アルケニルシロキサン錯体が好ましく使用できる。なお、ヒドロシリル化反応を促進する触媒としては、鉄、ルテニウム、鉄/コバルトなどの非白金系金属触媒を用いてもよい。
【0045】
ヒドロシリル化反応触媒の使用量は、白金系金属量が1〜1,000ppmの範囲となる量が好ましく、5〜500ppmの範囲となる量がさらに好ましい。本発明にかかる製造方法おいては、ヒドロシリル化反応が促進され、かつ、反応のコントロールが容易であるので、ヒドロシリル化反応触媒が比較的少量、たとえば、白金系金属量が5〜100ppmとなる範囲で十分な反応が進行し、かつ、反応を進行させるためにヒドロシリル化反応触媒を多段階で添加したり、100ppmを超える量で添加したりしなくても、目的とするビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を短い製造時間、高い反応効率、および高い収率で得ることができる。
【0046】
上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。使用可能な溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0047】
本発明の製造方法において、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物および上記の一般式(4)で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物のヒドロシリル化反応の反応温度は、80℃以上190℃以下の温度範囲において実施することが好ましい。上記の不純物を低減した一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物を原料に用いる場合であっても、反応温度が80℃を下回ると、ヒドロシリル化反応触媒の量によって、ヒドロシリル化反応が途中で停止して反応効率(転換率)が低下したり、当該反応が途中で暴走して、急激に発熱したりして安全な製造が困難となる場合がある。一方、反応温度が190℃を超えると、反応途中で原料が揮発する場合があり、反応効率(転換率)が低下して特に工業的スケールでの効率的な製造が困難である。ヒドロシリル化反応触媒量が少量であっても反応のコントロール性と安全性に優れ、高い反応効率を維持する見地から、本発明における製造方法は、ヒドロシリル化反応を80℃以上190℃以下の温度範囲において実施することが好ましく、80℃から160℃の温度範囲での実施がより好ましく、80℃から120℃の温度範囲で実施することが特に好ましい。
【0048】
さらに、本発明の製造方法において、特に、ヒドロシリル化反応が途中で停止することを予防する見地から、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、下記一般式(8):
【化24】
(式中、R
1、R
2、R
6、R
7は上記同様の官能基である)
で示される化合物の含有量が10質量%以下のものを用いてもよい。当該化合物は、ビスシリルアミノ基を有する不飽和結合含有化合物として、上記ヒドロシリル化反応の反応阻害物質となりうるので、精留による分離、カラムクロマトグラフィー、活性炭等の吸着剤による分離等の公知の精製法によって低減することが好ましい。ただし、当該化合物の存在は、上記一般式(6)で示される有機ケイ素化合物および上記一般式(7)で示されるアミン化合物に比べて、ヒドロシリル化反応の進行および反応のコントロール性に与える影響は軽微であり、仮に当該成分を一定量低減しても、一般式(6)で示される有機ケイ素化合物および上記一般式(7)で示されるアミン化合物が系中に大量に残存していると、本発明の技術的効果は十分に達成されない。
【0049】
本発明の製造方法において、好適な形態は、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、さらに、上記の一般式(8)で示される化合物の含有量が1質量%以下のものを用いてもよく、0.5質量%以下のものを用いてもよく、0.25質量%以下〜検出限界以下まで低減したものを用いることが特に好ましい。
【0050】
本発明の製造方法により、下記一般式(5):
【化25】
(式中A,R
1、R
9、R
10は上記同様の官能基であり、nは上記と同じ意味である)
で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物が、高い反応効率かつ、反応のコントロール性に優れた安全な製造工程で生産可能である。本発明の製造方法は、これらの利点を有するので、特に、目的とする化合物の反応効率に優れるため製造時間(サイクルタイム)を短縮でき、工業的生産スケールに適合し、かつ、原料の比率を1:1に近い比率で選択し、反応に必要なヒドロシリル化反応触媒量が比較的少なくても十分な反応性を有するので、廃棄物の発生量が少なく、白金等の重金属を含むヒドロシリル化反応触媒の使用量を低減できる点においても優位性を有する。
【0051】
本発明は、同時に、ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物に関するヒドロシリル化反応の促進方法の側面を有し、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、上記の一般式(4)で示されるケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させて、
上記の一般式(5)で示されるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する際のヒドロシリル化反応の促進方法において、当該ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、上記の一般式(6)で示される有機ケイ素化合物、および上記の一般式(7)で示されるアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下であるものを用いることを特徴とする、ヒドロシリル化反応の促進方法でもある。
【0052】
本発明に係るヒドロシリル化反応の促進方法は、上記の一般式(1)で示されるビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として、上記の一般式(8)で示される化合物の含有量が10質量%以下のものを用いることを更なる特徴とするものであってもよい。
【0053】
なお、これらのヒドロシリル化反応の促進方法における実施上の好適な形態は、先に製造方法において記載した条件と同様である。
【0054】
本発明の製造方法により得られたビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤、表面処理剤、樹脂添加剤、塗料添加剤、接着剤等として有用であるが、特に、低燃費性が求められる自動車用途タイヤゴム等に用いる合成ゴム、たとえば、変性共役ジエン系ゴム、共役ジオレフィン共重合ゴム等の製造において、変性剤として用いることが好ましい。本発明の製造方法は、簡便かつ安全な工程で実施できるため、工業的生産過程において、シリカの表面処理や合成ゴムの変性剤として大量に使用する場合に、その供給性に優れるという利点を有する。
【0055】
すなわち、本発明により、上記のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法により得られたビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を用いることを特徴とする、合成ゴム材料の製造方法が提供される。
【0056】
同様に、本発明により、上記のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法をその製造工程に含むことを特徴とする、合成ゴム材料の製造方法が提供される。なお、合成ゴムの製造方法において、上記のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造工程と合成ゴムの変性剤として使用する製造工程とは同一の場所で実施手もよく、各々の工程を別の場所で実施してもよい。すなわち、ある場所で上記のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造工程を実施して変性剤を製造した後、当該変性剤を合成ゴムの製造工程に移送して実施してもよい。
【0057】
また、本発明は、上記のビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法により得られたビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を用いることを特徴とする、自動車用途タイヤゴムの製造方法を提供することができ、燃費に優れたタイヤゴム材料を安価かつ大量に供給できる利点がある。
【実施例】
【0058】
以下、合成例、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0059】
[合成例1]ビス(トリメチルシリル)アリルアミンの合成
攪拌機、温度計、還流管、滴下漏斗を備えたフラスコに、アリルアミン 57.1g(1.0モル)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(東レ・ダウコーニング社製SZ-6079 SILANE)80.6g(0.5モル)、塩化アンモニウム 5gを投入し、80℃で6時間攪拌した。室温に冷却後下相を分離し、上相にナトリウムエトキシド(約28%エタノール溶液)250gを加え75℃で2時間攪拌した。反応混合物を蒸留し、沸点113−115℃の成分を主留分として採取した。この主留分にトリメチルクロロシラン108.6g (1.0モル)とトリエチルアミン202.4g(2.0モル)を加え、80℃で10時間攪拌した。副生したトリエチルアミン塩酸塩をろ別し、理論段数30段の蒸留塔を備えたバッチ式蒸留装置を用いて反応混合物を蒸留し、123gの留分を得た(沸点83.5−84.0℃/5kPa)。この留分に活性炭10gを加え、室温で10時間攪拌した。活性炭をろ別し、109gのN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを得た。ガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー質量分析により、このN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンの純度は99.99%であり、表1の“合成例1”に示す不純物をそれぞれ含有していることを確認した。
【0060】
[合成例2]
攪拌機、温度計、還流管、滴下漏斗を備えたフラスコに、アリルアミン 57.1g(1.0モル)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(東レ・ダウコーニング社製SZ-6079 SILANE)80.6g(0.5モル)、塩化アンモニウム 5gを投入し、80℃で6時間攪拌した。室温に冷却後下相を分離し、上相にナトリウムエトキシド(約28%エタノール溶液)250gを加え75℃で2時間攪拌した。反応混合物を蒸留し、沸点113−115℃の成分を主留分として採取した。この主留分にトリメチルクロロシラン108.6g (1.0モル)とトリエチルアミン202.4g(2.0モル)を加え、80℃で10時間攪拌した。副生したトリエチルアミン塩酸塩をろ別し、理論段数30段の蒸留塔を備えたバッチ式蒸留装置を用いて反応混合物を蒸留し、123gの留分を得た(沸点83.5−84.0℃/5kPa)。ガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー質量分析により、この留分はN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを99.87%含有しており、さらには表1の“合成例2”に示す不純物をそれぞれ含有していることを確認した。
【0061】
[合成例3]
攪拌機、温度計、還流管、滴下漏斗を備えたフラスコに、アリルアミン 57.1g(1.0モル)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(東レ・ダウコーニング社製SZ-6079 SILANE)80.6g(0.5モル)、塩化アンモニウム 5gを投入し、80℃で6時間攪拌した。室温に冷却後下相を分離し、上相にナトリウムエトキシド(約28%エタノール溶液)250gを加え75℃で2時間攪拌した。反応混合物を蒸留し、沸点113−115℃の成分を主留分として採取した。この主留分にトリメチルクロロシラン108.6g (1.0モル)とトリエチルアミン202.4g(2.0モル)を加え、80℃で10時間攪拌した。副生したトリエチルアミン塩酸塩をろ別し、理論段数30段の蒸留塔を備えたバッチ式蒸留装置を用いて反応混合物を蒸留し、146gのN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを得た(沸点81−84℃/5kPa)。ガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー質量分析により、このN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンの純度は98.95%であり、表1の“合成例3”に示す不純物をそれぞれ含有していることを確認した。
【0062】
[合成例4]
攪拌機、温度計、還流管、滴下漏斗を備えたフラスコに、アリルアミン 57.1g(1.0モル)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(東レ・ダウコーニング社製SZ-6079 SILANE)80.6g(0.5モル)、塩化アンモニウム 5gを投入し、80℃で6時間攪拌した。室温に冷却後下相を分離し、上相にナトリウムエトキシド(約28%エタノール溶液)250gを加え75℃で2時間攪拌した。反応混合物を蒸留し、沸点113−115℃の成分を主留分として採取した。この主留分にトリメチルクロロシラン108.6g (1.0モル)とトリエチルアミン202.4g(2.0モル)を加え、80℃で10時間攪拌した。副生したトリエチルアミン塩酸塩をろ別し、理論段数30段の蒸留塔を備えたバッチ式蒸留装置を用いて反応混合物を蒸留し、150gの留分を得た(沸点79−84.0℃/5kPa)。この留分に活性炭10gを加え、室温で10時間攪拌した。活性炭をろ別し、141gのN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを得た。ガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー質量分析により、このN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンの純度は94.67%であり、表1の“合成例4”に示す不純物をそれぞれ含有していることを確認した。
【0063】
[合成例5]
攪拌機、温度計、還流管、滴下漏斗を備えたフラスコに、アリルアミン 57.1g(1.0モル)、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン(東レ・ダウコーニング社製SZ-6079 SILANE)80.6g(0.5モル)、塩化アンモニウム 5gを投入し、80℃で6時間攪拌した。室温に冷却後下相を分離し、上相にナトリウムエトキシド(約28%エタノール溶液)250gを加え75℃で2時間攪拌した。反応混合物を蒸留し、沸点113−115℃の成分を主留分として採取した。この主留分にトリメチルクロロシラン108.6g (1.0モル)とトリエチルアミン202.4g(2.0モル)を加え、80℃で10時間攪拌した。副生したトリエチルアミン塩酸塩をろ別し、理論段数30段の蒸留塔を備えたバッチ式蒸留装置を用いて反応混合物を蒸留し、112gのN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを得た(沸点77−84℃/5kPa)。ガスクロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィー質量分析により、このN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンの純度は94.2%であり、表1の“合成例5”に示す不純物をそれぞれ含有していることを確認した。
【0064】
[合成例6]
合成例1で合成したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンにアリルアミン、1−プロパンアミン、トリエチルアミンおよびヘキサメチルジシラザンを表1に示す濃度になるように加え、サンプル溶液を調製した。
【0065】
[実施例1〜5、比較例1〜3]
以下の実施例1〜5、比較例1〜3において、使用したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミン原料の合成例No.、ヒドロシリル化反応に用いる触媒中の白金金属量(濃度ppm)、転換率およびメチルジエトキシシランの滴下終了後、転換率が99%に到達するまでに要した時間を反応時間(単位:時間)として表2に示した。一方、比較例において当該反応が停止した場合は「停止」、急激な発熱反応に至った場合は「暴走」と表2中の反応時間の欄に記載し、最終的にこれらの不具合で実験を中止せざるをえない場合は「中止」と表2中の反応時間の欄に併記した。
【0066】
[実施例1]
攪拌機、温度計、滴下漏斗、還流管を備えたフラスコに、合成例1で得られたN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミン90.68g(0.45モル)、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.5g(白金原子のN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンに対する濃度は25ppm)を加え、90℃に加熱した。温度が安定した後、メチルジエトキシシラン63.4g(0.47モル)を3時間かけて滴下した。メチルジエトキシシランは、反応温度を90℃―110℃で調整しながら滴下した。その後、反応混合物を110℃で攪拌した。3時間後にサンプルを取り出しガスクロマトグラフィーを測定した結果、N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率は99.1%であった。
【0067】
[実施例2]
合成例2で合成したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを用いる以外は実施例1と同様にして実験をおこなった。N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率が99.0%となるまでの攪拌時間(メチルジエトキシシラン滴下終了後、110℃で反応継続させた時間)は3時間であった。
【0068】
[実施例3]
合成例3で合成したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを用いる以外は実施例1と同様にして実験をおこなった。N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率が99.0%となるまでの攪拌時間(メチルジエトキシシラン滴下終了後、110℃で反応継続させた時間)は3時間であった。
【0069】
[実施例4]
合成例4で合成したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを用いる以外は実施例1と同様にして実験をおこなった。N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率が99.0%となるまでの攪拌時間(メチルジエトキシシラン滴下終了後、110℃で反応継続させた時間)は7.5時間であった。
【0070】
[実施例5]
合成例4で合成したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンと、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液1.0g(白金原子のN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンに対する濃度は50ppm)を用いる以外は実施例1と同様にして実験をおこなった。N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率が99.0%となるまでの攪拌時間(メチルジエトキシシラン滴下終了後、110℃で反応継続させた時間)は3時間であった。
【0071】
[比較例1]
合成例5で合成したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを用いる以外は実施例1と同様にして実験をおこなったところ、メチルジエトキシシランを20gを滴下した段階で反応が停止していることを確認したので、実験を中止した。この時点のガスクロマトグラフィーにより、N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率は2.0%であった。
【0072】
[比較例2]
比較例1で反応が停止した反応混合物を90℃に加熱し、反応が再開するまで白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体を加えた。反応が再開するまでに要した白金触媒はN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンに対して1300ppmであった。反応混合物をそのまま攪拌し、反応容器内に残存するメチルジエトキシシランがすべて反応に消費されたことをガスクロマトグラフィーで確認した後メチルジエトキシシランの再滴下を開始したが、合計滴下量が34gに達した段階で反応温度が92℃から151度まで急上昇する反応(=暴走反応)が観察されたので、安全のため実験を中止した。この時点でのN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率は39.4%であり、ガスクロマトグラフィーにより反応混合物中に未反応のメチルジエトキシシランが残存していることを確認した。なお、この時点の反応混合物を110℃に再加熱しても反応は進まなかった。
【0073】
[比較例3]
合成例6で調製したN,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンを用いる以外は実施例1と同様にして実験をおこなったところ、メチルジエトキシシラン20gを滴下した段階で反応が停止していることを確認したので、さらに白金触媒を追加した。白金触媒を合計950ppmまで追加すると再び穏やかに反応が進行し始めたので、残存するメチルジエトキシシランが完全に消費されるまで攪拌した。その後、メチルジエトキシシランの滴下を再開したが、合計滴下が35gとなった時点で反応温度が94度から133度まで急上昇する反応(=暴走反応)が観察されたので安全のため実験を中止した。この時点のガスクロマトグラフィーにより、N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率は51.1%であった。
【0074】
[実施例及び比較例の総括]
実施例1、2、3で示したとおり、N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンに含まれるアリルアミン、1−プロパンアミン、トリエチルアミン、およびヘキサメチルジシラザンからなる成分の合計が0.2重量%以下の場合において、白金触媒存在下にメチルジエトキシシランとのヒドロシリル化反応が急激な温度上昇を伴う暴走反応を起こすことなく、制御可能な状態で安全に進行した。いずれの場合においても、メチルジエトキシシランの滴下終了後に110℃で3時間反応させることで、N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンのN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピル(メチル)ジエトキシシランへの転換率は99.0%以上に到達した。さらに、実施例4に示したとおり、N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンに含まれるN-トリメチルシリルアミンの含有量が5.3重量%である場合、白金触媒量を25ppmとすると反応完結までに7.5時間を要したが、実施例5に示したとおり、白金触媒量を50ppmとすると3時間で反応が終了した。一方、N,N-ビス(トリメチルシリル)アリルアミンに含まれるアリルアミン、1−プロパンアミン、トリエチルアミン、およびヘキサメチルジシラザンの合計が0.2重量%以上である比較例1、2、3のいずれの場合においても、メチルトリエトキシシランの滴下途中に反応が停止した。白金触媒を多量に追加投入すると一旦は反応が再開したが、反応温度の急上昇を伴う暴走反応が確認され、安全な実験操作が困難な状況となった。以上のことから、一般式(5)で示される目的化合物を安全に、高効率かつ高収率で製造するためには一般式(1)に示される化合物中に含まれる一般式(6)および一般式(7)で示される化合物の合計含有量を0.2重量%以下とすることが必要不可欠であることがわかる。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明にかかるビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物の製造方法は、反応のコントロールがしやすいため、安全かつ生産効率および収率に優れるので、工業的生産スケールでビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を大規模かつ安全に生産するための方法として特に有用であり、本製造方法により、当該有機ケイ素化合物を用いるシランカップリング剤、表面処理剤、樹脂変性剤、接着付与剤、低燃費タイヤ用途等に使用される合成ゴム用の変性剤等を安定的かつ大量に供給することが可能になることが期待される。
【要約】
【課題】ビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を反応のコントロールがしやすい簡便かつ安全な製造工程で生産することができ、かつ、生産性および収率に優れた製造方法を提供する。
【解決手段】ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物と、ケイ素原子結合水素原子含有有機ケイ素化合物をヒドロシリル化反応触媒の存在下でヒドロシリル化反応させてビスシリルアミノ基含有有機ケイ素化合物を製造する方法において、ビスシリルアミノ基含有不飽和炭化水素化合物として特定の有機ケイ素化合物および特定のアミン化合物の合計含有量が0.2質量%以下であるものを用いることを特徴とする、製造方法。
【選択図】なし