特許第6384949号(P6384949)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384949
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】車両用運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20180827BHJP
   B60W 30/16 20120101ALI20180827BHJP
   B60W 30/182 20120101ALI20180827BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   G08G1/16 A
   B60W30/16
   B60W30/182
   B60R21/00 991
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-136010(P2014-136010)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-14970(P2016-14970A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】溝口 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小山 哉
(72)【発明者】
【氏名】鷹左右 康
(72)【発明者】
【氏名】松野 浩二
(72)【発明者】
【氏名】江副 志郎
(72)【発明者】
【氏名】堀口 陽宣
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 貴之
【審査官】 鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−248892(JP,A)
【文献】 特開2002−092795(JP,A)
【文献】 特開2003−276538(JP,A)
【文献】 特開2009−035067(JP,A)
【文献】 特表2009−543258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−99/00
B60R 21/00−21/13
B60R 21/34−21/38
B60W 10/00−10/30
B60W 30/00−50/16
B62D 6/00− 6/10
G01C 21/00−21/36
G01C 23/00−25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の周辺環境を認識する周辺環境認識手段と、
前記自車両の運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて先行車を検出すると共に、該先行車と前記自車両との関係から該先行車の追越しが可能か否かを判定する運転支援手段と
を備える車両用運転支援装置において、
前記運転支援手段は、前記先行車が走行している車線に隣接する追越車線へ車線変更する際に前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて検出した前記先行車の認識データから該先行車の実際の前後長を検出した場合、実際の前後長に基づいて該先行車の追越に要する必要追越時間を求め、該必要追越時間と所定の中断判定しきい時間とを比較して、追越制御を中るか否かを判定する
ことを特徴とする車両用運転支援装置。
【請求項2】
前記運転支援手段は、前記追越制御を中断するに際し、前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて前記先行車と前記自車両との位置及び相対車速を求め、該位置及び該相対車速に基づいて、前記自車両が前記先行車の後方に復帰可能か否かを判定する
ことを特徴とする請求項記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
前記運転支援手段は、前記中断判定しきい時間を前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて設定したしきい時間補正ゲインで補正する
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【請求項4】
前記しきい時間補正ゲインは、前記周辺環境毎に設定されている複数の補正ゲインの中から最も低い補正ゲインで設定される
ことを特徴とする請求項記載の車両用運転支援装置。
【請求項5】
前記補正ゲインは、前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて検出した路面状況に応じて設定され、該路面状況が低μ路の場合はドライ路よりも低い補正ゲインが設定されており、又追越車線が対向車線の場合は前記低μ路よりも低い補正ゲインが設定されている
ことを特徴とする請求項記載の車両用運転支援装置。
【請求項6】
前記補正ゲインは、更に前記追越車線の車線幅に基づいて設定され、該車線幅が狭幅の場合は前記追越車線が対向車線の場合と同等の補正ゲインが設定される
ことを特徴とする請求項記載の車両用運転支援装置。
【請求項7】
前記運転支援手段は、前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて前記自車両の走行車線からの車幅方向横位置を検出し、該車幅方向横位置が前記先行車から離間するほど大きな値に設定される自車横位置補正値を求め、該自車横位置補正値で前記中断判定しきい時間を補正する
ことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の車両用運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両の直前を走行する先行車を追い越す追越制御を実行するに際し、この先行車の前後長が長い場合、追越制御を継続するか、中断するかの判定を行う車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自車両を予め設定した車速(セット車速)で定速走行させるクルーズコントロール(ACC:Adaptive Cruise Control)装置が知られている。更に、ミリ波レーダ、赤外線レーザレーダ、ステレオカメラや単眼カメラ等を用いて車両周辺の環境を認識し、認識した環境情報に基づいて自車両の直前を走行する先行車を検出(捕捉)した場合、当該先行車を追従対象として追従走行制御を行う車間距離制御付クルーズコントロール装置も知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2014−46748号公報)には、自動運転時の制御モードとして、先行車が検出された場合に、この先行車を追従する追従モードと、先行車の車速が自車のセット車速よりも遅く、追越しが可能である場合に実行する追越制御モードとを備え、先行車が検出されたときから自動運転が開始されるまでの継続検出時間に基づき、継続時間が所定しきい時間よりも短い場合は、運転者に先行車を追い越す意思があると判断して追越制御モードを実行し、又、継続時間がしきい時間よりも長い場合は、追い越す意思がないと判断して追従モードを実行する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−46748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、追越対象の先行車の前後長(以下「車長」と称する)は車種毎に相違しており、先行車と自車両との相対車速を一定とした場合、追い越しに要する時間は先行車の車長にほぼ比例する。従って、先行車が車長の長い大型車両である場合、追い越しに要する時間が長くなるため、運転者による通常の運転操作では、先行車と自車両との相対車速から追越しが可能か否かを判断し、追越し可能と判断した場合、加速しながら追越車線へ車線変更して先行車を追い抜こうとする。
【0006】
その際、先行車の車長を目視し、車長、及び先行車と自車両との相対車速から追い抜きに要するおおよその時間を目算し、所定時間(例えば、0.5〜1[min])以内に追い抜きが可能と判断した場合は追い抜きを継続し、それ以上の時間が掛かると判断した場合、断念して、先行車の後方へ戻る操作を行う。
【0007】
しかし、上述した文献に開示されている技術では、追越制御モードが実行されると、追越対象の先行車を追い抜くために要する時間とは無関係に追越制御が継続的に実行されてしまうため、例えば先行車が車長の長い車両であり、先行車と自車両との相対車速から先行車を追い抜くために必要とする時間が比較的長く掛かると判断される場合であっても、追越制御が継続されることとなり、運転者に不快感を与えてしまう不都合がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、車長の長い先行車を追い抜く際に、先行車と自車両との関係から追越制御を開始或いは継続するか、又は中断するかを的確に判定し、運転者に与える不快感を軽減させることのできる車両用運転支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、自車両の周辺環境を認識する周辺環境認識手段と、前記自車両の運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて先行車を検出すると共に、該先行車と前記自車両との関係から該先行車の追越しが可能か否かを判定する運転支援手段とを備える車両用運転支援装置において、前記運転支援手段は、前記先行車が走行している車線に隣接する追越車線へ車線変更する際に前記周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて検出した前記先行車の認識データから該先行車の実際の前後長を検出した場合、実際の前後長に基づいて該先行車の追越に要する必要追越時間を求め、該必要追越時間と所定の中断判定しきい時間とを比較して、追越制御を中るか否かを判定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周辺環境認識手段で認識した周辺環境に基づいて検出した先行車の画像から先行車の前後長を求め、この前後長に基づいて先行車の追越に要する必要追越時間を求め、この必要追越時間と所定の中断判定しきい時間とを比較して、追越制御を実行或いは継続させるか、又は中断させるかを判定するようにしたので、先行車の車長が長い場合であっても、先行車と自車両との関係から追越制御を開始或いは継続するか、又は中断するかを的確に判定することができ、無理な追い越しが実行されてしまうことがなくなり、運転者に与える不快感を軽減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】車両用運転支援装置の構成図
図2】(a)は先行車を追い越すべく車線変更を行う前の状態を示す俯瞰図、(b)は追越車線を並走している状態を示す俯瞰図
図3】自動運転制御ルーチンを示すフローチャート
図4】追越制御モードサブルーチンを示すフローチャート
図5】中断判定しきい時間設定ルーチンを示すフローチャート
図6】目標車車間距離テーブルの概念図
図7】車種推定テーブルの概念図
図8】路面及び道路状況に応じて設定される補正ゲインを示す説明図
図9】自車横位置補正値テーブルの概念図
図10】先行車横位置補正値テーブルの概念図
図11】先行車速補正値テーブルの概念図
図12】(a)は実必要追越時間と中断判定しきい時間との関係を示すタイミングチャート、(b)は中断判定フラグの変化を示すタイミングチャート
図13】先行車速と先行車横位置の変化に対する先行車速補正値と先行車横位置補正値との変化を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。図2に示す符号Aは自車両、Bは直前を走行する先行車であり、この先行車Bとして本実施形態では車長の長いトレーラ等の大型牽引車が示されている。
【0013】
自車両Aには、図1に示す車両用運転支援装置1が搭載されている。尚、以下においては、左側通行を前提に説明する。従って、右側通行の場合は、左右が逆の説明となる。
【0014】
この車両用運転支援装置1は、運転支援手段としての運転支援制御ユニット11、エンジン制御ユニット(以下「E/G_ECU」と称する)12、パーワステアリング制御ユニット(以下「PS_ECU」と称する)13、ブレーキ制御ユニット(以下「BK_ECU」と称する)14等の各制御ユニットを備え、この各制御ユニット11〜14が、CAN(Controller Area Network)等の車内通信回線15を通じて接続されている。尚、各ユニット11〜14はCPU、ROM、RAMなどを備えたマイクロコンピュータにより構成されており、ROMにはシステム毎に設定されている動作を実現するための制御プログラムが記憶されている。
【0015】
又、運転支援制御ユニット11の入力側に、画像処理ユニット(IPU)21を介して車載カメラ22が接続されている。この車載カメラ22はメインカメラ22aとサブカメラ22bとを有し、自車両Aのキャビン前部に搭載されて走行方向前方の所定領域Er1(図2(a)参照)を撮影するステレオカメラである。IPU21は両カメラ22a,22bで撮影した走行方向前方の周辺環境画像を所定に画像処理し、運転支援制御ユニット11へ出力する。
【0016】
更に、この運転支援制御ユニット11の入力側に、自動運転スイッチ23、自車両Aの車速(以下、「自車速」と称する)Vaを検出する車速センサ24、前側方レーダ25、後側方レーダ26、自車両Aに作用するヨーレートを検出するヨーレートセンサ27等の各種センサ類が接続され、出力側に報知手段28が接続されている。尚、上述した車載カメラ22、前側方レーダ25、後側方レーダ26が、本発明の周辺環境認識手段を具体的に示したものである。又、上述した車速センサ24、ヨーレートセンサ27が、本発明の運転状態検出手段に対応している。
【0017】
自動運転スイッチ23は、インストルメントパネルやステアリングハンドル等、運転者の操作可能な位置に設けられており、通常運転(スイッチOFF)と自動運転(スイッチON)とを任意に選択すると共に、ACC運転時のセット車速の設定、及び、自動運転時における運転モードを追従制御モードと追越制御モードとの何れかに設定することができる。そして、自動運転における運転モードとして追従制御モードが選択されると、先行車Bの車速(以下「先行車速」と称する)Vbが自車両Aのセット車速以下の場合であっても、自車両Aは先行車Bを追い越すことなく、所定車間距離を維持した状態での追従走行制御が実行される。一方、追越制御モードが選択された場合、先行車速Vbが自車両Aのセット車速よりも所定に遅い場合、自車両Aのセット車速を維持すべく、追越制御モードが実行される。
【0018】
又、前側方レーダ25はミリ波レーダ、マイクロ波レーダ、赤外線レーザレーダ等であり、例えばフロントバンパの左右側部に各々配設された一対のレーダで構成されている。この前側方レーダ25は上述した車載カメラ22からの画像では認識することの困難な左右斜め前方の領域Er2L,Er2R(図2(a)参照)を監視し、検出された物体と自車両Aとの距離を求める。
【0019】
又、後側方レーダ26はミリ波レーダ、マイクロ波レーダ、赤外線レーザレーダ等であり、例えばリヤバンパの左右側部に各々配設された一対のレーダで構成されている。この後側方レーダ26のスキャンする領域は上述した前側方レーダ25よりも比較的広く、自車両Aの後方から左右の、前側方レーダ25では監視することのできない領域Er3L,Er3R(図2(a)参照)を監視し、側方、斜め後方、及び後方で検出された物体と自車両Aとの距離を求める。
【0020】
又、報知手段28は、運転者に自動運転の開始、中断などを点滅表示、文字表示、音声等で報知するもので、表示ランプ、表示器、スピーカ等で構成されている。
【0021】
一方、E/G_ECU12の出力側にスロットルアクチュエータ31が接続されている。このスロットルアクチュエータ31はエンジンのスロットルボディに設けられている電子制御スロットルのスロットル弁を開閉動作させるものであり、E/G_ECU12からの駆動信号によりスロットル弁を開閉動作させて吸入空気流量を調整することで、所望のエンジン出力を発生させる。
【0022】
又、PS_ECU13の出力側に電動パワステモータ32が接続されている。この電動パワステモータ32はステアリング機構にモータの回転力で操舵トルクを付与するものであり、自動運転では、PS_ECU13からの駆動信号により電動パワステモータ32を制御動作させることで、現在の走行車線の走行を維持させる車線維持制御、及び自車両Aを隣の走行車線へ移動させる車線変更制御等が実行される。尚、以下においては、便宜的に、走行車線に隣接する右側車線であって追越しの際に車線変更して走行する車線を追越車線と称し、この追越車線には車線変更が許容されている対向車線を含むものとする。
【0023】
又、BK_ECU14の出力側にブレーキアクチュエータ33が接続されている。このブレーキアクチュエータ33は、各車輪に設けられているブレーキホイールシリンダに対して供給するブレーキ油圧を調整するもので、BK_ECU14からの駆動信号によりブレーキアクチュエータ33が駆動されると、ブレーキホイールシリンダにより各車輪に対してブレーキ力が発生し、強制的に減速される。
【0024】
運転支援制御ユニット11は、IPU33で画像処理された、車載カメラ22で撮影した自車前方の周辺環境画像に基づき、自車両Aの前方を先行車Bが走行しているか否かを調べ、先行車Bを捕捉した場合は先行車Bと自車両Aとの距離(以下、「車車間距離」と称する)L1(図2参照)、及び相対車速ΔVba(ΔVba=Vb−Va)を算出する。そして、自動運転ではこの車車間距離L1と相対車速ΔVbaとに基づき、先行車Bに対して自車両Aを追従させるか、或いは追い越すかを判定する。尚、この相対車速ΔVbaは、自車速Vaを基準として先行車速Vbの変化を検出しているため、相対車速ΔVbaは自車速Vaが先行車速Vbよりも速くなるに従い、負の値に減少される。
【0025】
上述した運転支援制御ユニット11で実行される自動運転制御は、具体的には図3に示す自動運転制御ルーチンに従って処理される。
【0026】
このルーチンは、運転支援制御ユニット11が起動した後、所定演算周期毎に実行され、先ず、ステップS1で自動運転スイッチ23がONされるまで待機する。そして、自動運転スイッチ23がONされると、ステップS2へ進み、車載カメラ22で撮影した画像に基づき、自車両Aの前方を走行する先行車Bが存在するか否かを調べる。尚、自動運転スイッチ23がONされると、インストルメントパネルに自動運転スイッチ23がONされたことを報知する報知手段28の表示灯が点灯されると共に、後述するセット車速が表示される。
【0027】
そして、先行車Bが検出された場合、ステップS3へ進み、又、検出されない場合、すなわち、自車進行路の前方に先行車Bが存在しない場合はステップS10へジャンプする。
【0028】
ステップS3へ進むと、車速センサ24で検出した自車速Vaに基づき目標車車間距離テーブルを参照して、或いは所定演算式から目標車車間距離TL1を設定する。この目標車車間距離TL1は、自車両Aが先行車Bに対して追従走行を行うか、追越しするかを判定する値であり、図6に示すように、目標車車間距離TL1は自車速Vaが高くなるに従い長い距離に設定される。
【0029】
そして、車車間距離L1が目標車車間距離TL1未満の場合(L1<TL1)はステップS5へ進み、車車間距離L1が目標車車間距離TL1以上の場合(L1≧TL1)はステップS10へジャンプする。
【0030】
ステップS5へ進むと、自車速Vaと車載カメラ22で撮影した先行車Bの後面画像に基づき車幅Wbを算出し、ステップS6へ進み、車幅Wbに基づき車種推定テーブルを参照して車種を推定する。図7に示すように、この車種推定テーブルは車幅Wbに対応する車種が記憶されており、本実施形態では、乗用車、トラック、バス等の大型車、トレーラ、連結車、大型貨物トラック等の大型牽引車が、車幅Wbの所定範囲毎に分類されている。この大型牽引車は車長が長いため自車両Aとの相対速度が小さい場合、追い抜きに要する時間が比較的長くなる。
【0031】
次いで、ステップS7へ進み、推定した車種に基づき先行車の車長(フロントバンパの前端からリヤバンパの後端までの長さ)Lbを推定する。これは、車種毎に大まかな車長Lb(例えば、乗用車は5[m]、大型車は12[m]、大型牽引車は20[m]程度)が記憶されている。従って、例えば、車幅Wbから先行車Bが大型牽引車であると推定された場合、当該車に対応する車長Lbが、例えば20[m]に設定される。
【0032】
その後、ステップS8へ進み、自車両Aが先行車Bを追い越すために必要とする追越時間である必要追越時間toを設定する。この必要追越時間toは、先行車Bを追い越すに必要な大まかな時間を求めるもので、
to←(L1+Lb)/(Vlimt−Vb)
から算出する。ここで、Vlimtは制限速度である。
【0033】
そして、ステップS9へ進み、必要追越時間toと中断判定しきい時間Ttoとを比較する。この中断判定しきい時間Ttoは、後述する中断判定しきい時間設定ルーチンで設定される。
【0034】
そして、to>Ttoの場合、追い越し不可と判定してステップS11へ分岐し、追従制御モードを開始してルーチンを抜ける。尚、この追従制御モードは、例えば、本出願人が先に提出した特開2012−206700号公報等に開示されている技術と同様であるため説明を省略する。
【0035】
一方、to≦Ttoの場合、追い越し可能と判定し、ステップS12へ進み、追越制御モードを開始してルーチンを抜ける。この追越制御モードは、後述する追越制御モードサブルーチンに従って処理される。尚、追越制御モードが開始されることは、報知手段28に設けられている表示灯の点灯やスピーカからの音声により運転者に報知される。
【0036】
又、ステップS2、或いはステップS4からステップS10へ進むと、セット車速制御を実行してルーチンを抜ける。このセット車速制御は自車両Aを、運転者が自動運転スイッチ23を操作して設定した車速(但し、上限は制限速度)を目標車速として定速走行させるもので、公知技術であるため説明を省略する。
【0037】
上述したステップS8で実行される追越制御モードは、図4に示す追越制御モードサブルーチンに従って処理される。尚、追越制御モードが実行されると、運転支援制御ユニット11はE/G_ECU12、PS_ECU13に対して、追越車線へ車線変更するための加速指令、及び操舵指令を出力し、自車両Aを加速させながら追越車線へ車線変更させる。
【0038】
その際、ステップS21では、車載カメラ22で撮影した先行車Bの右斜め後ろからの認識データである画像から、先行車Bの実際の車長(実車長)Lbjが認識されたか否かを調べ、認識されるまで待機する。そして、先行車Bの実車長Lbjが認識された場合、ステップS22へ進み、実必要追越時間tojを、
toj←(L1+Lbj)/(Vlimt−Vb)
から算出する。
【0039】
次いで、ステップS23へ進み、実必要追越時間tojと中断判定しきい時間Ttoとを比較する。この中断判定しきい時間Ttoは、後述する図5の中断判定しきい時間設定ルーチンで設定される。
【0040】
そして、toj≦Ttoの場合、追い越し可能と判定し、ステップS24へ進み、又、toj>Ttoの場合、先行車Bの車長Lbが長く、追越が困難と判定し、ステップS27へジャンプする。
【0041】
ステップS24へ進むと、後側方レーダ26からのスキャン結果に基づいて、追越車線後方に後軸車があるか否かを調べ、後続車が検出された場合、ステップS25へ分岐し、後続車が検出されない場合はステップS26へ進む。ステップS25へ分岐すると、後続車との関係から追越制御が可能か否かを調べる。例えば、先行車Bがトレーラ等の大型牽引車であって、実必要追越時間tojが中断判定しきい時間Ttoに近い場合、後続車と自車両Aとの相対車速によっては、自車両Aが先行車Bを追い抜いている間に、後続車が自車両Aに追いついてしまう可能性がある。
【0042】
従って、ステップS25では、後側方レーダ26でのスキャン結果から自車両Aと後続車との相対車速、及び車車間距離を算出し、実必要追越時間tojが経過する前に、自車両Aと先行車との車車間距離が所定に近接するか否かを調べ、近接する場合は、追越制御を中断すべく、ステップS27へジャンプする。一方、自車両Aと先行車との車車間距離が所定に近接する前に、実必要追越時間tojに到達する場合は、追越制御継続可能と判定し、ステップS26へ進む。
【0043】
そして、ステップS24或いはステップS25からステップS26へ進むと追越制御を継続すべく、中断判定フラグFをクリアして(F←0)、ルーチンを抜ける。一方、ステップS23或いはステップS25からステップS27へ進むと、追越制御を中断すべく中断判定フラグFをセットし(F←1)、ステップS28へ進む。
【0044】
ステップS28では、自車両Aを先行車Bの後方へ復帰させるための車線復帰減速制御を実行してルーチンを抜ける。この車線復帰減速制御は、先行車Bと自車両Aとの車車間距離L1に基づいて目標減速度を設定し、自車速Vaを時間微分して算出した減速度が目標減速度に達するように、E/G_ECU12、及びBK_ECU14に制御信号を出力する。
【0045】
上述した中断判定フラグFは、運転支援制御ユニット11にて車線変更前に追越制御モードを継続するか、中断するかを判定する際に読込まれ、F=0の場合は追越制御モードを継続し、F=1の場合は中断する(図12参照)。そして、追越制御モードが中断された場合、運転支援制御ユニット11は、各制御ユニット12,13,14に対して、自車両Aを先行車Bの後方に復帰させる操舵制御を実行させると共に、運転者に対しては、報知手段28に設けられている追越制御中であることを示す表示灯を消灯させると共に、スピーカからの音声により追越制御モードが中断されたことを報知する。
【0046】
上述した図3に示す自動運転制御ルーチンのステップS9、及び図4に示す追越制御モードサブルーチンのステップS23で読込まれる、追越制御を開始、継続、或いは中断するか否かを判定する中断判定しきい時間Ttoは、図5に示す中断判定しきい時間設定ルーチンに従って設定される。
【0047】
このルーチンでは、先ず、ステップS31で、現在、追越制御モードが実行されているか否かを、例えば、前述した図3に示す自動運転制御ルーチンのステップS12で追越制御モードが実行されているか否かで調べる。そして、追越制御モードが実行されている場合は、ステップS32へ進み、追越制御モードが実行されていない場合はルーチンを抜ける。
【0048】
追越制御モードが実行されていると判定してステップS32へ進むと、予め設定されている基本しきい時間TINIを読込む。この基本しきい時間TINIは、運転者が追い越しに要する時間が長いと感じ始める値で、1〜1.5[min]程度であり、予め実験等から求めて設定されている。
【0049】
その後、ステップS33へ進み、車載カメラ22で撮影した画像、及び前側方レーダ25での検出情報に基づいて認識した、自車両Aの進行方向の周辺環境情報を読込む。この周辺環境情報としては、追越車線が対向車線か否か、路面が積雪・凍結しているか否か、雨天か晴天か、追越車線の車線幅は狭いか否か等がある。
【0050】
そして、ステップS34で、この周辺環境情報に基づいて、基本しきい時間TINIを補正するしきい時間補正ゲインGtを設定する。このしきい時間補正ゲインGtは複数候補の補正ゲインGの中から優先順位に従い最も優先度の高いものを選択して設定するものである。
【0051】
図8に、運転支援制御ユニット11が、認識した周辺環境情報に基づいて設定されている補正ゲインGを例示する。同図には、周辺環境情報として、雨雪時補正ゲイン、対向車線時補正ゲイン、大型牽引車且つ車線狭幅時補正ゲインが設定されている。雨雪時の低μ路では、追越のための加速時や操舵制御を含む車両制御性がドライ路に比し難しく、制御に要する時間や危険感が増加する。又、追越車線が対向車線の場合は、追越車線を走行する際の危険度が増加するため、上述した2つの補正ゲインよりも低い値に設定されている。
【0052】
更に、先行車Bが大型牽引車と推定され、しかも、追越車線の車線幅が狭幅の場合、自動運転により先行車Bを追い抜こうとすると、左側を走行する先行車Bに近接した状態で、しばらく並走することになり、運転者に不安感を抱かせてしまうため、対向車線の場合と同等の低い値に設定されている。尚、車線幅が狭幅か否かは予め設定されている狭幅判定しきい値と比較して判定する。
【0053】
そして、何れかの補正ゲインGが検出された場合、当該補正ゲインGをしきい時間補正ゲインGtとして設定する(Gt←G)。又、補正ゲインGが検出されなかった場合、しきい時間補正ゲインGtを100[%]に設定する(Gt←1)。更に、複数の補正ゲインGが検出された場合は、最も低い補正ゲインGをしきい時間補正ゲインGtとして設定する。すなわち、各補正ゲインGには、低い方から順に優先順位が設定されている。
【0054】
その後、ステップS35へ進むと、自車両Aの車幅方向横位置(以下、「自車横位置」と称する)L3に基づいて自車横位置補正値Kaを設定し、又、先行車Bの車幅方向横位置(以下、「先行車横位置」と称する)L4に基づいて先行車横位置補正値Kbを設定する。図2に示すように、自車横位置L3、及び先行車横位置L4は、走行車線の車線幅(走行車線幅)L5の中央を基準として、車載カメラ22で撮影した画像等に基づいて設定される。
【0055】
図9に自車横位置補正値テーブルの特性を示す。同図に示すように、自車横位置補正値Kaは、走行車線から区分線(走行車線と追越車線との間の白線)を横切るまでは一定値(1.0)に設定され、追越車線では自車横位置L3にほぼ比例して増加される。すなわち、自車両Aが区分線を横切り、追越車線に移動した後、車線維持制御へ移行するまでの過渡状態において、先行車Bは走行車線を常に定位置で走行していることはなく、追越車線側に近づく場合も考えられる。
【0056】
この自車横位置補正値Kaは、先行車B、特に車幅の広い大型牽引車が走行車線の右寄りに移動することにより、風圧等の外乱の影響が受け易くなり、運転者に与える不快感が増大することを考慮して設定されたものである。すなわち、自車横位置補正値Kaを、自車両Aが追越車線の左寄りを走行するよりも右寄りを走行した方が高い値に設定されるため、後述する中断判定しきい時間Ttoは自車両Aが追越車線の右寄りを走行した方が高い値に設定される。その結果、自車両Aは先行車Bに近づく追越車線の左寄りを走行するよりも、先行車Bから離間する右寄りを走行した方が、相対車速ΔVbaが0に近づいても追越制御が中断され難くなる。これにより、運転者の意思に沿った自動制御を実現化することができる。
【0057】
又、図10に先行車横位置補正値テーブルの特性を示す。同図に示すように、先行車横位置補正値Kbは先行車横位置L4とほぼ負の比例関係にあり、走行車線の中央を1.0とし、そこから左側へ移行するに従い先行車横位置補正値Kbは増加し、右側へ移行するに従い減少する。すなわち、先行車横位置L4が車線中央(L5/2)から左側の場合、自車両Aが車線変更前では、追越車線への車線変更が比較的容易となり、又、追越車線では自車両Aに対して先行車Bが離間しているため運転者に与える不快感が軽減されるので、先行車横位置補正値Kbは高い値に設定される。
【0058】
一方、先行車横位置L4が車線中央から右側に寄ってきた場合は、先行車Bが車線変更する可能性が高いため、先行車横位置補正値Kbを低い値に設定する。又、自車両Aが追越車線を走行している状態では、先行車Bが近接(右寄りに移動)することで運転者に不快感を与えることになるため、この場合も、先行車横位置補正値Kbは低い値に設定され(図13参照)。尚、この各横位置補正値Ka,Kbは、図9図10に示す特性に対応する演算式から求めるようにしても良い。
【0059】
その後、ステップS36へ進み、先行車速Vbに基づき先行車速補正値Kvbを設定する。図11に先行車速補正テーブルの特性を示す。同図に示すように、先行車速補正値Kvbは、その上限が1.0であり、先行車Bの車長Lbが認識される前までは、先行車速Vbとほぼ負の比例関係にある。そして、先行車速Vbが高くなるに従い低い値に設定され、先行車Bの車長Lbが認識された後は、先行車速Vbに関係なくほほ一定値に設定される。
【0060】
先行車Bが大型牽引車等のような車長Lbの長い車両の場合、先行車速Vbが遅いと自車速Vaとの相対車速ΔVbaが負の値に大きく減少されるため、各必要追越時間to,tojは相対的に短縮される。従って、先行車速補正値Kvbで中断判定しきい時間Ttoを補正することで、先行車速Vbが遅い場合に比し、速い場合は中断判定しきい時間Ttoが下げられるため(図12参照)、無理な追越が制限され、運転者に安心感を与えることができる。一方、先行車Bの車長Lbが認識された後は、この車長Lbと先行車速Vb及び制限速度Vlimtとの関係から実必要追越時間tojが求められため、先行車速補正値Kvbで中断判定しきい時間Ttoを増減させる必要は無い(図13参照)。
【0061】
その後、ステップS37へ進み、基本しきい時間TINIを各横位置補正値Ka,Kb,Kvbで補正し、その値にしきい時間補正ゲインGtを乗算して、中断判定しきい時間Ttoを算出し(Tto←Gt・(TINI・Ka・Kb・Kvb))、ルーチンを抜ける。
【0062】
この中断判定しきい時間Ttoは、前述した図3に示す自動運転制御ルーチンのステップS9、及び図4に示す追越制御モードサブルーチンのステップS23で読込まれる。この中断判定しきい時間Ttoは自車両A及び先行車Bの走行状況に応じて適正に設定されているため、追越対象である先行車Bがトレーラ等の大型牽引車であっても、追越制御モードを継続するか中断するかを的確に判定することができる。その結果、運転者に与える不快感を軽減させることができ、高い信頼を得ることができる。
【0063】
このように、本実施形態では、追越制御モードを開始直後は、先行車Bの車幅Wbに基づいておおよその車長Lbを推定し、この車長Lbに基づいて必要追越時間toを設定し、この必要追越時間toと中断判定しきい時間Ttoとを比較し、必要追越時間toが中断判定しきい時間Ttoを越えている場合は、追従制御モードを中断させるようにしたので、先行車Bの実際の車長Lbが検出されるまで追越制御を一律に実行する場合に比し、安定した走行制御を実行させることができる。その結果、運転者に安心感を与えることができる。
【0064】
一方、追越制御を実行した後、先行車Bの実車長Lbjが検出された場合は、この実車長Lbjに基づいて実必要追越時間tojを設定するようにしたので、先行車Bの追越に要する時間をより正確に求めることができ、追越制御を継続するか中断するかをより的確に判定することができる。その結果、運転者に与える不快感を軽減させることができる。
【0065】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば、上述した追越制御の際に設定される中断判定フラグFの値は、運転者が行う手動操作による運転において適用することができる。すなわち、手動によるステアリング操作によって先行車Bを追い越すべく追越操作を開始後、先行車Bの車長Lbが長いことを検出した場合、運転支援装置は中断判定フラグの値を参照して、追越を継続するか中断するかのアドバイスを運転者に与えるようにすることができる。
【符号の説明】
【0066】
1…車両用運転支援装置、
11…運転支援制御ユニット、
22…車載カメラ、
23…自動運転スイッチ、
24…車速センサ、
25…前側方レーダ、
26…後側方レーダ、
28…報知手段、
A…自車両、
B…先行車、
F…中断判定フラグ、
G…補正ゲイン、
Gt…しきい時間補正ゲイン、
Ka…自車横位置補正値、
Kb…先行車横位置補正値、
Kvb…先行車速補正値、
L1…車車間距離、
L3…自車横位置、
L4…先行車横位置、
Lb…車長、
Lbj…実車長、
TINI…基本しきい時間、
TL1…目標車車間距離、
to…必要追越時間、
toj…実必要追越時間、
Tto…中断判定しきい時間、
Va…自車速、
Vb…先行車速、
Vlimt…制限速度、
Wb…(先行車の)車幅
図1
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