(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン周りの回転軸には、当該回転軸の端部からの油漏れや、逆に外部からの埃の浸入等を防止するためにオイルシールが組み込まれる。
かかるオイルシールには高い耐熱性、耐油性が求められることから、その形成材料としては主にフッ素ゴムが用いられる。
またオイルシールには、近年の省エネルギー化、長寿命化の要求に対応するため摺動トルクの大幅な低減が求められるようにもなってきている。
【0003】
そこでオイルシールの、回転軸と摺動するシールリップの摺動面を低摩擦性でかつ耐摩耗性に優れた被膜によって被覆することが検討されている。
特許文献1には、半導体デバイスなどの製造装置用の封止材(Oリング)をフッ素ゴムで形成し、その表面をシリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、またはポリイミド系樹脂からなり,
フッ素樹脂粉末を分散させた被膜によって被覆することが記載されている。
【0004】
上記の被膜は、固体潤滑剤として機能するフッ素樹脂粉末を含むため低摩擦性で、しかも耐摩耗性にも優れている。そこで、かかる被膜をオイルシール等の摺動部材の被覆に適用することが考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(オイルシール)
図1は、本発明の摺動部材の、実施の形態の一例としてのオイルシールの断面図である。
図1を参照して、この例のオイルシール1は、他部材としての回転軸2と、当該回転軸2を取り囲む環状の環体である金属環3との間を封止するためのものであって、前記金属環3の径方向の内端部4に固着され全体がフッ素ゴムによって一体に形成された基体5と、当該基体5の、回転軸2の外周面6に対する摺動面としてのテーパー面7、8を被覆する被膜9とを備えている。
【0015】
また金属環3は、その径方向の外端部10に固着されフッ素ゴムによって一体に形成された嵌合部11が、当該金属環3を取り囲むハウジング12との間で圧縮変形された状態で、上記ハウジング12に内嵌されて固定されている。
基体5は、金属環3の径方向の内端部4に固着される環状の固定部13と、当該固定部13の内周から径方向の内方へ延設されて回転軸2の外周面6に接触する環状のシールリップ14とを備えている。
【0016】
このうち固定部13は円板状に形成され、その外周から径方向の内方へ向けて金属環3の径方向の内端部4を受容する環状の凹溝15を有している。
上記凹溝15の回転軸2の軸方向の幅は、金属環3の厚みと略一致するかわずかに小さく設定されている。また凹溝15の底の外周の外径は、金属環3の径方向の内端部4の内径と略一致するか僅かに小さく設定されている。そしてこれらの設定により固定部13は、金属環3に内嵌して固定される。
【0017】
シールリップ14は、固定部13の内周から径方向の内方でかつ図において右方向へ延設された主リップ部16と、固定部13の内周から径方向の内方でかつ図において左方向へ延設された、略板状の断面形状を有する副リップ部17とを備えている。
このうち主リップ部16の先端側の内周には、当該主リップ部16の固定部13側から先端部へ向けて内径が徐々に小さくなるテーパー面7と、逆に主リップ部16の先端部から固定部13側へ向けて内径が徐々に小さくなるテーパー面18とが設けられて、両テーパー面7、18の稜線部により回転軸2の外周面6に接触するリップ19が構成されている。
【0018】
また主リップ部16のリップ19の背面(径方向の外面)側には、その全周に亘って環状の凹溝20が設けられているとともに、当該凹溝20に主リップ部16の径方向の外方への変形を規制するガータースプリング21が嵌め合わされている。
さらに副リップ部17の内周は、当該副リップ部17の固定部13側から先端部へ向けて内径が徐々に小さくなるテーパー面8とされている。
【0019】
先に説明したように、上記各部のうち主リップ部16のテーパー面7と副リップ部17のテーパー面8は、回転軸2の外周面6に対する摺動面として機能し、本発明では被膜9によって被覆されている。
被膜9は、
硬化後の当該被膜9に対して5体積%以上、15体積%以下の充てん率でフッ素樹脂粉末22が分散されたエポキシ樹脂を含み、引っかき硬度がF〜2Hとされている。
【0020】
かかる被膜9は、硬化後のひっかき硬度が上記の範囲となるよう未硬化のエポキシ樹脂にフッ素樹脂粉末22を分散した液状の塗材を、例えばスプレー法等によって上記両テーパー面7、8に塗布したのち、エポキシ樹脂を硬化反応させて形成される。
また基体5を作製する際には、当該基体5を、リップ19が全周に亘って薄いフッ素ゴムの膜で繋がれた形状に成形後、当該膜をカット(リップカット)してリップ19を形成するのが一般的であるが、被膜9は、かかるリップカット前のテーパー面7に塗材を塗布して形成するのが好ましい。
【0021】
逆にリップカット後に被膜9を形成すると、カット部の不規則な凹凸に基づいてリップ19付近の被膜9に厚みのムラを生じてシール性能が低下するおそれがある。これに対し、リップカット前の平滑な面に厚みの均一な被膜9を形成したのちリップカットするようにすると、カット部の近傍まで厚みの均一な被膜9を形成してシール性能の低下を防止できる。
【0022】
エポキシ樹脂を硬化反応させるためには、例えば被膜9を加熱すればよい。加熱の温度は100℃以上であるのが好ましく、230℃以下であるのが好ましい。
加熱の温度が上記範囲未満では、エポキシ樹脂を十分に硬化できないおそれがあり、範囲を超える場合には下地としてのフッ素ゴムからなる基体5の特性に影響を生じるおそれがある。
【0023】
(エポキシ樹脂)
被膜9を形成するエポキシ樹脂としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、脂肪族もしくは芳香族アミンとエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、脂肪族もしくは芳香族カルボン酸とエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂、複素環エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂、エポキシ変性樹脂、ブロム化エポキシ樹脂等の1種または2種以上が挙げられる。
【0024】
特に液状の塗材を形成する観点から液状のエポキシ樹脂を使用するのが好ましい。ただし固形のエポキシ樹脂を使用する場合でも反応性希釈剤や溶剤を配合して液状の塗材を調製することはできる。
(硬化剤)
エポキシ樹脂を硬化させるための硬化剤としては、例えば脂肪族アミン、脂環族アミン、環状アミン、芳香族アミン、ポリアミノアミド、エポキシ化合物付加ポリアミド、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、および第三アミン化合物等のアミン系硬化剤や、イミダゾール化合物、イソシアネート化合物等の公知の、エポキシ樹脂を硬化させることができる硬化剤の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
エポキシ樹脂が硬化された後の被膜9の引っかき硬度がF〜2Hの範囲に限定されるのは、以下の理由による。
すなわち引っかき硬度がF未満である軟らかい被膜9は回転軸2に対する低摩擦性が十分でないため、フッ素樹脂粉末が分散しているにも拘らず、オイルシール1の、回転軸2との摺動トルクを低減する効果が得られない。
【0026】
またかかる軟らかい被膜9は、フッ素樹脂粉末が分散しているにも拘らず耐摩耗性が不十分で比較的短期間で摩耗してしまい、シール性能が低下したり摺動トルクが増大したりしやすい。
一方、引っかき硬度が2Hを超える硬い被膜9は柔軟性が不十分で、フッ素ゴムの変形等に十分に追従できないため回転軸2と摺動させた際に短期間で割れたりはく離したりしやすい。またシール性能も低下する。
【0027】
これに対し、エポキシ樹脂が硬化された後の被膜9の引っかき硬度を上記の範囲とすることにより、被膜9に良好な低摩擦性を付与して、フッ素樹脂粉末を分散させていることと相まって、回転軸2に対するオイルシール1の摺動トルクを低減する効果を向上できる。また当該被膜9の柔軟性を向上してフッ素ゴムの変形等に十分に追従させることができ、回転軸2と摺動させた際に短期間で割れたりはく離したりするのを防止できるとともに、良好なシール性能をも維持できる。
【0028】
エポキシ樹脂が硬化された後の被膜9の引っかき硬度を上記の範囲に調整するには、エポキシ樹脂の種類やグレード、2種以上のエポキシ樹脂を併用する場合はその配合割合、硬化剤の種類やグレード、あるいはエポキシ樹脂に対する硬化剤の配合割合、複数の硬化剤の配合割合等を適宜変更すればよい。
ちなみにエポキシ樹脂に代えて、例えばフェノール樹脂、シリコーン樹脂等の他の樹脂を使用して被膜を形成しても、本発明と同じ効果を奏することはできない。
【0029】
例えばフェノール樹脂の場合は、硬化後の被膜の引っかき硬度がF〜2Hの範囲であっても、エポキシ樹脂からなる被膜9に比べて被膜の柔軟性が大幅に低下する。またフェノール樹脂は、フッ素ゴムに対してエポキシ樹脂と同等の良好な接着性を有していない。
一方、シリコーン樹脂でも硬化後の被膜の引っかき硬度をF〜2Hにすることはできる。しかしシリコーン樹脂は、やはりフッ素ゴムに対してエポキシ樹脂と同等の良好な接着性を有していない。
【0030】
そのため、このいずれの樹脂からなる被膜も、基体を形成するフッ素ゴムの変形等に十分に追従できず、回転軸等と摺動させた際に短期間で割れたりはく離したりしやすい。また回転軸等に対して良好に密着できないため十分なシール性能が得られない。
(フッ素樹脂粉末)
被膜9に分散させるフッ素樹脂粉末としては、固体潤滑剤として機能しうる種々のフッ素樹脂粉末がいずれも使用可能である。
【0031】
かかるフッ素樹脂粉末としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素系樹脂からなる粉末の1種または2種以上が挙げられ、中でも特にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましい。
【0032】
フッ素系樹脂粉末の平均粒径は0.1μm以上、中でも1μm以上、特に3μm以上であるのが好ましく、10μm以下、特に5μm以下であるのが好ましい。
平均粒径が上記の範囲未満ではその充てん率にもよるが、フッ素系樹脂粉末を分散させることによる、被膜9の耐摩耗性を向上する効果が不十分になり、比較的短期間で当該被膜9が摩耗して摺動トルクが増大したり、シール性能が低下したりするおそれがある。
【0033】
また平均粒径が上記の範囲を超える場合には被膜9の表面の平滑性が低下するため、シール性能が低下するおそれがある。また大粒径のフッ素樹脂粉末は、摩擦によって被膜9から脱落しやすく、脱落するとそこから被膜9が割れたりはく離したりしやすいため、比較的短期間で摺動トルクが増大したり、シール性能が低下したりするおそれもある。
これに対し、フッ素樹脂粉末の平均粒径を上記の範囲とすることで、摺動部材としてのオイルシール1の、回転軸等との摺動トルクをより一層大幅に低減するとともに、シール性能の低下や摺動トルクの増大をより一層長期間に亘って防止することが可能となる。
【0034】
(充てん率)
フッ素樹脂粉末の充てん率は
、前述したように硬化後の被膜9に対して5体積%以上、15体積%以下である
必要がある。
フッ素樹脂粉末の充てん率が硬化後の被膜9に対して5体積%未満である場合には、フッ素樹脂粉末を分散させることによる当該被膜9の低摩擦性や耐摩耗性を向上する効果が不十分になり、被膜9が比較的短期間で摩耗してシール性能が低下したり摺動トルクが増大したりするおそれがある。また初期の摺動トルクが上昇するおそれもある。
【0035】
一方、フッ素樹脂粉末の充てん率が硬化後の被膜9に対して15体積%を超える場合には被膜9の表面の平滑性が低下して当該被膜9自体による低摩擦化の効果が低下するため、却って摺動トルクを低減する効果が十分に得られないおそれがある。また表面の平滑性が低下して良好なシール性能が得らないおそれもある。さらに、相対的に被膜9を形成するエポキシ樹脂の割合が少なくなるため当該被膜9の強度が低下して、かかる被膜9が比較的短時間で割れたりはく離したりしてシール性能が低下したり摺動トルクが増大したりするおそれもある。
【0036】
これに対しフッ素樹脂粉末の充てん率を硬化後の被膜9に対して5体積%以上、15体積%以下とすることにより、摺動部材としてのオイルシール1の、回転軸等との摺動トルクをより一層大幅に低減するとともに、シール性能の低下や摺動トルクの増大をより一層長期間に亘って防止することが可能となる。
なお、シール性能をより一層向上することを考慮すると、フッ素樹脂粉末の充てん率は、上記の範囲でも硬化後の被膜9に対して10体積%以下であるのが好ましい。
【0037】
(フッ素ゴム)
基体5を形成するフッ素ゴムとしては、架橋可能な種々のフッ素ゴムがいずれも使用可能である。
かかるフッ素ゴムとしては、これに限定されないが例えば第1群としてゴムの主鎖を構成するためのテトラフルオロエチレン(TFE)、フッ化ビニリデン(VDF)およびエチレン(E)からなる群より選ばれた少なくとも1種と、第2群として上記主鎖に架橋点を導入するためのヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFVE、具体例としてはパーフルオロメチルビニルエーテルなど)およびプロピレン(P)からなる群より選ばれた少なくとも1種とを共重合させた2元ないしは3元共重合体〔ただし、ともにフッ素を含有しないエチレン(E)とプロピレン(P)の2元共重合体は除く〕が挙げられる。
【0038】
より詳しくは、例えばVDFとHFPとの2元共重合体、TFEとPFVEとの2元共重合体、TFEとPとの2元共重合体、VDFとTFEとHFPとの3元共重合体、VDFとTFEとPFVEとの3元共重合体、VDFとTFEとPとの3元共重合体、EとTFEとPFVEとの3元共重合体等の1種または2種以上が挙げられる。また上記各成分とその他の含フッ素モノマーとの2元ないしは多元共重合体や、これら共重合体の2種以上の混合物等もフッ素ゴムとして使用可能である。
【0039】
なお2元あるいは3元共重合体は、上に例示の第1群および第2群のモノマーを実際に共重合させて形成してもよいし、あらかじめ形成した主鎖に、後処理によって側鎖などを導入して実質的に2元あるいは3元共重合体に相当する構造を形成してもよい。
(添加剤)
フッ素ゴムには、当該フッ素ゴムを架橋させるための架橋剤や、補強するための補強剤、あるいは軟化剤、可塑剤、粘着付与剤等の加工助剤などの各種添加剤を、必要に応じて適宜の割合で配合してもよい。
【0040】
なお本発明の摺動部材は、以上で説明したオイルシールには限定されず、フッ素ゴムからなり、他部材との摺動面を有する基体を備えた種々の摺動部材に、本発明の構成を適用することができる。
【実施例】
【0041】
(検証1、柔軟性)
被膜のもとになる塗材として、硬化後の引っかき硬度がF、2H、または4Hとなるエポキシ樹脂系の塗材、2Hとなるフェノール樹脂系の塗材、および7Hとなるシリコーン樹脂系の塗材を用意した。いずれの塗材も、平均粒径1μmのフッ素樹脂粉末を、充てん率が硬化後の被膜に対して10体積%となるように配合した。
【0042】
それぞれの塗材を、フッ素ゴム製のシート(基体)の表面にスプレー法によって塗布したのち、180℃に加熱して硬化反応させてサンプルを作製し、かかるサンプルを、被膜を外にしてマンドレル径が90mmから5mmずつ小さくなるマンドレルに順次巻き付けた際に、被膜に割れが生じたマンドレル径を記録した。割れが生じたマンドレル径が小さい被膜ほど、柔軟性に優れていると評価できる。
【0043】
結果を
図2に示す。
図2より、樹脂成分がシリコーン樹脂である場合は、硬化後の被膜の引っかき硬度がF〜2Hの範囲に入る柔軟な被膜を形成できず、マンドレル径80mmで被膜が割れることが判った。また、樹脂成分がフェノール樹脂である場合は、硬化後の被膜の引っかき硬度がF〜2Hの範囲に入る2Hの被膜を形成できるものの、当該被膜の柔軟性やフッ素ゴムに対する接着性が不十分で、マンドレル径55mmで被膜が割れることが判った。
【0044】
これに対し樹脂成分がエポキシ樹脂である被膜は柔軟性やフッ素ゴムに対する接着性に優れ、シリコーン樹脂やフェノール樹脂からなる被膜より割れにくくできること、かかる効果を向上するためには、硬化後の被膜の引っかき硬度を2H以下にする必要があることが判った。
(検証2、シール性能)
被膜のもとになる塗材として、硬化後の被膜の引っかき硬度がFとなるエポキシ樹脂系の塗材、および2Hとなるフェノール樹脂系の塗材を用意した。いずれの塗材も、平均粒径3〜5μmのフッ素樹脂粉末を、充てん率が硬化後の被膜に対して10体積%となるように配合した。
【0045】
それぞれの塗材を実機のオイルシールのリップ部にコーティングしてリップカット後、軸偏心量:0.1mm、組付け偏心量:0.1mmの条件でエアリーク試験機のシャフトにシール内径をはめ込み、片側(オイルシールの油側)に10kPaの圧をかけて、時間経過に伴う圧の変化を測定した。
結果を
図3に示す。
【0046】
図3より、樹脂成分がフェノール樹脂である被膜は、硬化後の引っかき硬度が2Hであるにも拘らずシール性能が不十分であり、リークにより、短時間で圧が低下することが判った。
これに対し樹脂成分がエポキシ樹脂であり、硬化後の引っかき硬度がFである被膜はシール性能に優れ、リークを生じず、圧が低下しないことが判った。
【0047】
(検証3、摺動トルク)
被膜のもとになる塗材として、硬化後の引っかき硬度が2B、B、F、2H、4H、および5Hとなるエポキシ樹脂系の塗材を用意した。いずれの塗材も、平均粒径3〜5μmのフッ素樹脂粉末を、充てん率が硬化後の被膜に対して10体積%となるように配合した。
【0048】
それぞれの塗材を実機のオイルシールのリップ部にコーティングしてリップカット後、シールトルク試験機のシャフトにシール内径をはめ込み、80℃に温度調整したエンジンオイル浴中で2000min
−1の回転速度で30分間、シールを回転させた際の摺動トルク(安定値)を測定した。
結果を
図4に示す。なお
図4は、被膜を形成しない未処理のオイルシールについて測定した結果を100とした時の比で表している。
【0049】
図4より、エポキシ樹脂を硬化後の被膜の引っかき硬度がF以上である時、当該被膜は摺動トルクの低減効果に優れた被膜であることが判った。
(検証4、フッ素樹脂粉末の充てん率)
被膜のもとになる塗材として、硬化後の被膜の引っかき硬度がFとなるエポキシ樹脂系の塗材であって、平均粒径1μmのフッ素樹脂粉末の充てん率が硬化後の被膜に対して5体積%、10体積%、および15体積%であるものを用意した。
【0050】
それぞれの塗材を実機のオイルシールのリップ部にコーティングしてリップカット後、シールトルク試験機のシャフトにシール内径をはめ込み、80℃に温度調整したエンジンオイル浴中で2000min
−1の回転速度で30分間、シールを回転させた際の摺動トルク(安定値)を測定した。
結果を
図5に示す。なお
図5は、被膜を形成しない未処理のオイルシールについて測定した結果を100とした時の比で表している。
【0051】
図5より、フッ素樹脂粉末の充てん率は硬化後の被膜に対して5体積%以上、15体積%以下である
必要があり、特に摺動トルクの低減を考慮すると硬化後の被膜に対して10体積%以下であるのが好ましいことが判った。