特許第6384954号(P6384954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6384954ソイルセメントの圧縮強度推定方法およびソイルセメント保管器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384954
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ソイルセメントの圧縮強度推定方法およびソイルセメント保管器
(51)【国際特許分類】
   E02D 33/00 20060101AFI20180827BHJP
   E02D 5/50 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   E02D33/00
   E02D5/50
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-207497(P2014-207497)
(22)【出願日】2014年10月8日
(65)【公開番号】特開2016-75114(P2016-75114A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅人
(72)【発明者】
【氏名】武藤 優
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−111879(JP,A)
【文献】 特開2011−220092(JP,A)
【文献】 特開2012−127057(JP,A)
【文献】 特開平07−248327(JP,A)
【文献】 特開2011−117231(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/088172(WO,A1)
【文献】 特開2010−256191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/00
E02D 29/045−37/00
E02D 5/22−5/80
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭の埋め込み工法において根固め部を構成するソイルセメントの圧縮強度推定方法であって、
前記根固め部から未固化状態のソイルセメントを採取し、
採取したソイルセメントを保温し、
保温した状態のソイルセメントの硬化に伴う温度変化を測定し、
この温度変化を測定したソイルセメントの最高温度を用い、ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式に基づいて、前記根固め部のソイルセメントのセメント水比を算出し、
この算出したセメント水比を用い、ソイルセメントのセメント水比とソイルセメントの圧縮強度との相関関係を示す関係式に基づいて、前記根固め部の固化状態のソイルセメントの圧縮強度を算出する
ことを特徴とするソイルセメントの圧縮強度推定方法。
【請求項2】
ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式は、
異なるセメント水比の未固化のソイルセメントまたはセメントペーストをそれぞれ保温し、
各セメント水比のソイルセメントまたはセメントペーストの硬化の際の最高温度を測定し、
各セメント水比と測定したそれぞれの最高温度とから導出する
ことを特徴とする請求項1記載のソイルセメントの圧縮強度推定方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のソイルセメントの圧縮強度推定方法に用いるソイルセメント保管器であって、
杭を設置した際に採取した根固め部のソイルセメントを収容可能な容器体と、
この容器体内のソイルセメントを保温する保温手段と、
保温された状態で硬化するソイルセメントの温度変化を測定する温度測定手段とを具備する
ことを特徴とするソイルセメント保管器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既製杭の埋込み工法において、杭を設置する際に杭の下端の根固め部に施工されるソイルセメントの圧縮強度推定方法およびソイルセメント保管器に関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭の埋込み工法では、杭孔の下端に根固め液であるセメントミルクを注入し、杭の下端の位置する原位置土と根固め液とを置換または混合撹拌することにより、根固め部が形成される。
【0003】
ここで、根固め部は、原位置土とセメントミルクとの混練物であるため、注入したセメントミルクの強度試験だけでは、根固め部の強度確認方法としての信頼性に欠ける。
【0004】
そこで、従来は、根固め部までボーリングして硬化した根固め部のコアを採取して、この採取したコアの材齢4週間の圧縮試験を行うことにより、根固め部の強度が確認されていた。
【0005】
また、この種の強度を確認する方法としては、杭を施工する際に杭孔の底部から原位置土と根固め液の混練物であるソイルセメントを採取し、この採取物から供試体を作成して圧縮強度を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
さらに、ソイルセメントの比重を測定し、ソイルセメントの比重と、注入したセメントミルクの比重とを比較して、強度判定する方法も知られている。
【0007】
また、施工現場の土質別にソイルセメントの比重と圧縮強度との対応表を作成し、採取したソイルセメントの比重と対応表とを比較して強度判定する方法も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
さらに、注入されるセメントミルクの比重や温度を測定し、原位置土(泥水)としての掘削残余物の比重や温度を測定し、採取したソイルセメントとしてのセメントミルク類混合物の比重や温度を測定し、これらの測定結果に基づいてセメントミルク置換率を推定し、このセメントミルク置換率と、予め用意したセメントミルク置換率と圧縮強度との対応データとを比較して圧縮強度を確認する方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0009】
また、コンクリートやモルタルの圧縮強度は、そのコンクリートやモルタルにおける水に対するセメントの比率であるセメント水比に基づいて精度良く推定できる。すなわち、セメント水比(c/w)=セメントの質量(c)/水の質量(w)の式で示すように、セメント水比が大きくセメントの割合が多いほどコンクリートの圧縮強度は大きくなる。そして、未固化のコンクリートやモルタルのセメント水比を推定する方法としては、洗い試験による方法、比重計を用いる方法、および、酸の溶解熱による方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−102817号公報
【特許文献2】特開2013−122166号公報
【特許文献3】特開2012−127057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述の特許文献1のように、ソイルセメントの供試体を作製する方法では、結果を得るまでに4週間の時間を要するため、試験結果を杭の施工に反映することは現実的に困難である。
【0012】
上述のソイルセメントの比重と注入するセメントミルクの比重とを比較する方法では、実際の根固め部には原位置土や地下水の混入があるため、根固め部の強度確認方法として精度が低く、実用的ではない。
【0013】
上述の特許文献2のように、予め作成したソイルセメントの比重と圧縮強度との対応表に基づいて強度を判定する方法では、土質別に対応表を用意する必要があるだけでなく、実際の根固め部には原位置土や地下水の混入があるため、比重のみによる強度の推定では、根固め部の強度確認方法として精度が低く、実用的ではない。
【0014】
上述の特許文献3のように、セメントミルク、原位置土およびソイルセメントの比重や温度を測定して、セメントミルク置換率を推定する方法では、原位置土の比重が異なる場合は適応できない問題がある。
【0015】
なお、本来、水、セメントおよび原位置土の混合物であるソイルセメントの圧縮強度を推定するには、ソイルセメントの水量およびセメント量を把握する必要があり、比重から圧縮強度を推定することは困難で精度が低く、実用的ではない。
【0016】
上述の洗い試験によりセメント水比を推定する方法は、JIS A 1112に定められているが、試験が煩雑で時間を要する上に、粘土分とセメント分とを分離することは非常に困難であり、実用的ではない。
【0017】
上述の比重計を用いてセメント水比を推定する方法は、モルタルに水を加えて希釈し、骨材を沈殿させた液体の比重を測定してセメント量を推定するとともに、モルタルを加熱して絶乾にして水量を測定して、セメント水比を算出するものであるが、原位置土に粘土分を多く含まれている場合には適応できない問題がある。
【0018】
上述の酸の溶解熱によりセメント水比を推定する方法は、短時間で比較的に精度良くセメント水比を推定できる。しかしながら、原理的に、高炉セメントや石灰石が含まれている場合には適用できず、また、劇薬である塩酸を使用するため安全面を確保する必要があるため、施工現場で行うには不向きである。
【0019】
そこで、原位置土の比重に関わらず精度が良好で、比較的に短時間で簡単にソイルセメントの圧縮強度を推定できる実用的な推定方法が求められていた。
【0020】
本発明はこのような点に鑑みなされたもので、比較的に短時間で簡単に実施でき精度が良好なソイルセメントの圧縮強度推定方法、および、このソイルセメントの圧縮強度推定方法に用いるソイルセメント保管器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
請求項1に記載されたソイルセメントの圧縮強度推定方法は、杭の埋め込み工法において根固め部を構成するソイルセメントの圧縮強度推定方法であって、前記根固め部から未固化状態のソイルセメントを採取し、採取したソイルセメントを保温し、保温した状態のソイルセメントの硬化に伴う温度変化を測定し、この温度変化を測定したソイルセメントの最高温度を用い、ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式に基づいて、前記根固め部のソイルセメントのセメント水比を算出し、この算出したセメント水比を用い、ソイルセメントのセメント水比とソイルセメントの圧縮強度との相関関係を示す関係式に基づいて、前記根固め部の固化状態のソイルセメントの圧縮強度を算出するものである。
【0022】
請求項2に記載されたソイルセメントの圧縮強度推定方法は、請求項1記載のソイルセメントの圧縮強度推定方法において、ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式は、異なるセメント水比の未固化のソイルセメントまたはセメントペーストをそれぞれ保温し、各セメント水比のソイルセメントまたはセメントペーストの硬化の際の最高温度を測定し、各セメント水比と測定したそれぞれの最高温度とから導出するものである。
【0023】
請求項3に記載されたソイルセメント保管器は、請求項1または2記載のソイルセメントの圧縮強度推定方法に用いるソイルセメント保管器であって、杭を設置した際に採取した根固め部のソイルセメントを収容可能な容器体と、この容器体内のソイルセメントを保温する保温手段と、保温された状態で硬化するソイルセメントの温度変化を測定する温度測定手段とを具備するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ソイルセメントが硬化する際の発熱特性に基づいてセメント水比を推定し、このセメント水比に基づいて固化状態のソイルセメントの圧縮強度を推定するため、比較的に短時間で簡単に実施でき、精度が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施の形態に係るソイルセメント保管器の構成を示す断面図である。
図2】セメント水比毎のソイルセメントの温度変化を示すグラフである。
図3】硬化の際の最高温度とセメント水比との関係を示すグラフである。
図4】セメント水比と圧縮強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施の形態の構成について詳細に説明する。
【0027】
既製コンクリート杭等の杭の埋め込み工法では、まず、筒状の杭の中空部にオーガースクリューを挿入し、このオーガースクリューにより地盤を掘削し杭を設置するための杭孔を形成しながら杭を沈降させる。なお、杭孔に杭を設置する際には、予めオーガースクリューで地盤を掘削して杭孔を形成した後、この杭孔に杭を挿入して設置する方法でもよい。
【0028】
このように杭孔内に杭が配置された状態にて、杭の中空部から杭孔および杭の下端である先端へ根固め液としてのセメントミルクを注入する。
【0029】
また、杭孔内における杭の下端が位置する原位置土とセメントミルクとを撹拌混合し、原位置土とセメントミルクとの混練物であるソイルセメントを硬化させて根固め部を形成する。なお、予め地盤を掘削して杭孔を形成する場合は、杭孔の先端へ根固め液を注入してから、この杭孔に杭を挿入する。
【0030】
そして、上記杭の埋め込み工法では、根固め部の支持力を確保し杭の支持力不足という施工不良を防止するために、根固め部を構成するソイルセメントの圧縮強度を確認する。
【0031】
ソイルセメントの圧縮強度を確認する際には、セメントミルクの注入後に、杭の中空部を利用して根固め部から未固化状態のソイルセメントを採取し、この採取したソイルセメントを一定の温度に保温する。
【0032】
ここで、ソイルセメントは、原位置土と根固め液との混練物であるため、セメントと水とが反応して硬化する際に水和反応による発熱を伴う。
【0033】
そして、ソイルセメントまたはセメントペーストにおけるセメントの質量と水の質量との比率であるセメント水比(c/w)を変えて各ソイルセメントまたはセメントペーストの硬化の際の温度変化を測定したところ、硬化の際の発熱に基づく温度特性は、セメント水比に応じて差異が生じることが分かった。すなわち、セメント水比の違いにより水和反応による発熱の程度が変化し、硬化の際の最高温度に違いが生じる。
【0034】
また、温度特性の異なるソイルセメントを一定条件で養生し硬化後に圧縮強度を測定したところ、硬化の際の最高温度と、硬化後のソイルセメントの圧縮強度とに相関関係があることが分かった。
【0035】
したがって、これらの各測定結果に基づいて、ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式、および、ソイルセメントのセメント水比とソイルセメントの硬化後の圧縮強度との相関関係を示す関係式を導出できる。
【0036】
そこで、杭の施工時に採取し一定の温度に保温した状態でのソイルセメントの硬化の際の温度変化を測定する。
【0037】
また、この温度変化を測定したソイルセメントの最高温度を利用して、ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式に基づいて、ソイルセメントのセメント水比を算出する。
【0038】
さらに、この算出したセメント水比を用い、ソイルセメントのセメント水比とソイルセメントの硬化後の圧縮強度との相関関係を示す関係式に基づいて、固化状態のソイルセメントの圧縮強度を算出して、ソイルセメントの圧縮強度を推定する。
【0039】
なお、実際の杭の施工において根固め部が形成されるのは、地下数m〜数十mであり、このような場所の温度は地域によって異なるものの、季節に関わらずほとんど一定で、例えば、北海道では約10℃で、東京や大阪等の大都市圏では約17℃で、九州南部では約20℃である。
【0040】
すなわち、実際の根固め部は地中で保温された状態であり、採取したソイルセメントの硬化の際の温度変化を測定する際には、できるだけ地中の温度条件に近づけるため、採取した未固化のソイルセメントを保温しながら温度変化を測定することが重要である。なお、上述のように実際の根固め部は雰囲気温度がほとんど一定であるため、採取したソイルセメントは保温した状態で所定の雰囲気温度で保管しながら、温度変化を測定することが好ましい。
【0041】
そこで、採取したソイルセメントの温度変化を測定する際には、図1に示すソイルセメント保管器1にてソイルセメントを収容して保温することが好ましい。
【0042】
ソイルセメント保管器1は、杭を設置した際に採取した根固め部のソイルセメントを収容可能な容器体としての型枠2と、この型枠2内のソイルセメントを一定の温度に保温する保温手段としての断熱材3と、保温された状態で硬化するソイルセメントの温度変化を測定する温度測定手段4とを備えている。
【0043】
型枠2は、軸方向の一方側が開口した有底筒状であり、例えばブリキ製の使い捨てのコンクリート供試体成形型枠(商品名:ソノモールド、サミットモールドおよびプラモールド等)を用いるのが便利である。
【0044】
断熱材3は、ソイルセメントを収容した状態の型枠2の周囲を隙間なく覆う。そして、型枠2の周囲が断熱材3で覆われることにより、型枠2内のソイルセメントが一定の温度に保温される。
【0045】
このようにソイルセメントを収容し周囲に断熱材3にて覆われた型枠2は、プラスチック製の外側容器5に収容される。
【0046】
外側容器5は、軸方向の一方側が開口した有底筒状の容器本体6と、この容器本体6の開口を閉塞可能な蓋体7とを有している。
【0047】
また、外側容器5の開口側に位置する断熱材3および蓋体7には、貫通孔8が設けられている。
【0048】
温度測定手段4は、ソイルセメントの温度を測定するための温度センサー9を有している。この温度センサー9は、貫通孔8に挿入可能であり、貫通孔8に挿入された状態で型枠2内のソイルセメントの温度を測定可能である。
【0049】
また、温度センサー9には、測定した温度を記録するためのデータロガー10が接続されており、温度センサー9にてソイルセメントの温度を測定しながら、データロガー10にて測定温度が記録される。なお、温度測定手段4は、温度センサー9にて測定した温度を読み取れればよいため、データロガー10が設けられていない構成でもよい。
【0050】
次に、上記一実施の形態の作用および効果を説明する。
【0051】
上記ソイルセメントの圧縮強度推定方法によれば、ソイルセメントが硬化する際の水和熱に着目して、ソイルセメントが硬化する際の発熱特性に基づいてセメント水比を推定し、このセメント水比に基づいて固化状態のソイルセメントの圧縮強度を推定するため、原位置土の比重に関わらずソイルセメントの硬化後の圧縮強度を推定できる。また、硬化に伴う温度変化から最高温度を把握できればよいため、例えば約1日あれば硬化の際の最高温度を測定でき、結果を得るまでに比較的に時間を要さない。さらに、杭孔を掘削した際に発生する掘削土の排出方法と同様に、未固化状態のソイルセメントを採取できるため、特別な機材等が不要で容易にソイルセメントを採取できるとともに、後の工程は地上で実施できる。したがって、ソイルセメントの圧縮強度の推定を、比較的に短時間で簡単に実施でき、その精度が良好である。
【0052】
ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式は、異なるセメント水比のソイルセメントまたはセメントペーストを、それぞれ保温した状態で硬化の際の最高温度を測定することにより、各セメント水比と測定したそれぞれの最高温度とから導出するため、杭の施工に際して予め容易に導出できる。
【0053】
また、ソイルセメントの硬化の際の最高温度とソイルセメントのセメント水比との相関関係を示す関係式は、実際に施工する場所の雰囲気温度に対応させて得ることができるため、推定の精度を向上できる。
【0054】
ここで、圧縮強度を推定する際には、実際に施工する場所の温度条件に対応させることが重要であるため、上記ソイルセメント保管器1を用いることにより、保温しながら温度変化を測定でき、推定の精度を向上できる。
【0055】
また、ソイルセメント保管器1は、簡易な構成で運搬性および取扱い性が良好であるため、施工現場で使用し易い。そのため、上記ソイルセメントの圧縮強度推定方法を容易に実施できる。
【0056】
さらに、ソイルセメントの保管器1は、例えば室内等の雰囲気温度を管理しやすい環境で使用することにより、ソイルセメント保管器1を所定の雰囲気温度で保管できるため、推定の精度をより向上できる。
【0057】
なお、上述のセメントと水との水和反応による発熱現象は、これまで、マス(大断面)コンクリートおよび高強度の高セメント水比コンクリートにおける温度ひび割れの発生を防止するために利用されることがあった。
【0058】
しかしながら、杭の施工に使用される原位置土とセメントミルクとの混練物であるソイルセメントや根固め液であるセメントミルクは、温度ひび割れを懸念する必要がない低セメント水比であるため、従来の杭の施工では、上述のように水和反応による発熱現象に着目されることはなく、硬化の際に温度変化が測定されることはなかった。
【実施例】
【0059】
以下、実施例について説明する。
【0060】
まず、セメント水比の違いによる温度特性を確認した。
【0061】
セメント水比の異なるセメントミルク、および、セメントミルク泥水置換率の異なるソイルセメントを用意して供試材とした。
【0062】
なお、各供試材のセメント水比(c/w)は、それぞれ1.67、1.25、1.00および0.83とした。
【0063】
各供試材をそれぞれソイルセメント保管器に収容し保温した状態で保管した。また、このように保温しながら保管した状態にて、供試材の硬化の際の温度変化を測定した。
【0064】
ソイルセメント保管器では、温度センサーが設置された使い捨て型枠(寸法:直径15cm、高さ30cm、商品面:ソノモールド)に供試材が収容される。
【0065】
また、供試材が収容された状態の使い捨て型枠の周囲を隙間なく覆うように、断熱材が設けられる。
【0066】
さらに、断熱材が巻きつけられた状態の使い捨て型枠が、プラスチック製の外側容器(寸法:直径20cm、高さ40cm)に収容される。
【0067】
そして、使い捨て型枠に設置された温度センサーにて、使い捨て型枠内の供試材の硬化の際の温度が測定され、この測定温度がデータロガーにて記録される。
【0068】
各供試材のセメント水比と温度変化との関係を図2に示す。
【0069】
図2に示すように、各供試材の硬化の際の温度は、ソイルセメント保管器での保管開始後、24時間以内に最高温度に達した。すなわち、実際に杭を施工する際には、セメントミルクを注入し、原位置土とセメントミルクとを撹拌混合した後、約24時間で最高温度を把握でき、この最高温度に基づいて圧縮強度を算出できる。
【0070】
なお、供試材の最高温度は、セメント水比が大きいほど高かった。
【0071】
次に、セメント水比と硬化の際の最高温度との関係を確認した。
【0072】
異なるセメント水比のソイルセメントおよびセメントミルクを用意して供試材とし、これらの各供試材を一定条件(雰囲気温度10℃または20℃)で養生しながら、各供試材の硬化の際の温度変化における最高温度を測定した。
【0073】
これら雰囲気温度10℃で保管した場合、および、雰囲気温度20℃で保管した場合の
セメント水比と硬化の際の最高温度との関係を図3に示す。
【0074】
図3に示すように、雰囲気温度10℃で保管した場合、および、雰囲気温度20℃で保管した場合のいずれも、セメント水比と供試材の硬化の際の最高温度とに相関関係が成立していた。
【0075】
また、この結果から、雰囲気温度10℃で保管した場合には、硬化の際の最高温度とセメント水比との相関関係を示す関係式(1)は、最高温度をXとし、セメント水比をYとすると、Y=0.020X+0.23で示される。
【0076】
また、雰囲気温度20℃で保管した場合には、セメント水比と硬化の際の最高温度との相関関係を示す関係式(2)は、最高温度をXとし、セメント水比をYとすると、Y=0.018X+0.13で示される。
【0077】
さらに、各セメント水比の供試材の材齢28日の圧縮強度を測定した。各供試材の実際のセメント水比と圧縮強度との関係を図4に示す。なお、実際のセメント水比の水の質量は、セメントミルクに含まれる水の質量と、原位置土の含水量と、掘削水量との和である。
【0078】
図4に示すように、供試材のセメント水比と材齢28日の供試材の圧縮強度とには、相関関係が成立していた。
【0079】
また、この結果から、セメント水比と圧縮強度との相関関係を示す関係式(3)は、セメント水比をXとし、材例28日の圧縮強度をYとすると、Y=31.30X−18.35で示される。
【0080】
なお、例えば実際に施工現場で圧縮強度の推定をする場合には、採取したソイルセメントを保温し、保温した状態のソイルセメントの硬化に伴う温度変化を測定する。
【0081】
そして、保温した状態のソイルセメントを保管している雰囲気温度が10℃の場合には、測定した温度変化のうちの最高温度を式(1)に代入してセメント水比を算出し、保温した状態のソイルセメントを保管している雰囲気温度が20℃の場合には、測定した温度変化のうちの最高温度を式(2)に代入してセメント水比を算出する。
【0082】
このように算出したセメント水比を式(3)に代入して、圧縮強度を算出することにより、根固め部のソイルセメントの圧縮強度を推定できる。
【0083】
なお、保管している雰囲気温度が上記実施例と異なる場合は、その雰囲気温度におけるソイルセメントのセメント水比と最高温度との相関関係を示す関係式を求めて適用する。また、雰囲気温度が10℃以上20℃以下の場合は、式(1)と式(2)とを補間して、セメント水比を求めてもよい。
【符号の説明】
【0084】
1 ソイルセメント保管器
2 容器体としての型枠
3 保温手段としての断熱材
4 温度測定手段
図1
図2
図3
図4