特許第6384986号(P6384986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6384986-防振装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384986
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】防振装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   F16F13/10 J
   F16F13/10 K
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-90687(P2014-90687)
(22)【出願日】2014年4月24日
(65)【公開番号】特開2015-209876(P2015-209876A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年12月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】植木 哲
【審査官】 大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−236143(JP,A)
【文献】 特開昭60−184737(JP,A)
【文献】 特開2005−282823(JP,A)
【文献】 実開昭61−156750(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部のうちの一方に連結される筒状の第1取付け部材、および他方に連結される第2取付け部材と、
これらの両取付け部材を連結する弾性体と、
液体が封入される前記第1取付け部材内の液室を、第1液室および第2液室に仕切る仕切り部材と、を備え、
前記第1液室および前記第2液室のうちの少なくとも1つは、前記弾性体を壁面の一部に有する防振装置であって、
前記仕切り部材には、前記第1液室と前記第2液室とを連通する連通路と、前記連通路内に配置された障壁剛体と、が設けられ、
前記障壁剛体は、前記仕切り部材に対して前記連通路の流路軸方向に固定され、かつ、液体の流れを受けたときに変形しない程度の剛性を具備することを特徴とする防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の防振装置であって、
前記障壁剛体は、前記連通路の流路軸上に配置されていることを特徴とする防振装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の防振装置であって、
前記仕切り部材には、前記連通路から独立して設けられ、前記第1液室と前記第2液室とを連通する制限通路が設けられていることを特徴とする防振装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の防振装置であって、
前記障壁剛体は、前記仕切り部材と一体に形成されていることを特徴とする防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車や産業機械等に適用され、エンジン等の振動発生部の振動を吸収および減衰する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防振装置として、例えば下記特許文献1記載の構成が知られている。この防振装置は、振動発生部および振動受部のうちの一方に連結される筒状の第1取付け部材、および他方に連結される第2取付け部材と、これらの両取付け部材を連結する弾性体と、液体が封入される第1取付け部材内の液室を、第1液室および第2液室に仕切る仕切り部材と、を備えている。この防振装置はさらに、両液室を互いに連通する第1の制限通路および第2の制限通路と、両液室の間に設けられたシリンダ室と、シリンダ室内に、開放位置と閉塞位置との間で移動可能に配設されたプランジャ部材と、を備えている。
この防振装置には、例えばアイドル振動やシェイク振動など、周波数が異なる複数種類の振動が入力される。そこでこの防振装置では、第1の制限通路および第2の制限通路それぞれの共振周波数が、異なる種類の振動それぞれの周波数に設定(チューニング)されている。そして、プランジャ部材が、入力された振動の周波数に応じて開放位置と閉塞位置との間で移動することで、液体が流通する制限通路を、第1の制限通路と第2の制限通路とで切り替えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−120598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の防振装置には、構造の簡素化および製造の容易化について改善の余地がある。
また前記従来の防振装置では、例えば、制限通路の路長や断面積などにより決定される制限通路の共振周波数よりも周波数が高く振幅が極めて小さい微振動など、意図しない振動が入力されたときに、制限通路が目詰まりする等して動ばね定数が上昇し、例えば自動車の乗り心地性など防振装置の製品特性に影響が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、製品特性を確保しつつ構造の簡素化および製造の容易化を図ることができる防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明に係る防振装置は、振動発生部および振動受部のうちの一方に連結される筒状の第1取付け部材、および他方に連結される第2取付け部材と、これらの両取付け部材を連結する弾性体と、液体が封入される前記第1取付け部材内の液室を、第1液室および第2液室に仕切る仕切り部材と、を備え、前記第1液室および前記第2液室のうちの少なくとも1つは、前記弾性体を壁面の一部に有する防振装置であって、前記仕切り部材には、前記第1液室と前記第2液室とを連通する連通路と、前記連通路内に配置された障壁剛体と、が設けられ、前記障壁剛体は、前記仕切り部材に対して前記連通路の流路軸方向に固定され、かつ、液体の流れを受けたときに変形しない程度の剛性を具備することを特徴とする。前記障壁剛体は、前記仕切り部材と一体に形成されていてもよい。
【0007】
この発明では、振動が入力され、液体が第1液室と第2液室との間で連通路を通して流通するときに、この液体が障壁剛体に衝突する。このとき、液体の流速が高められていると、液体の障壁剛体への衝突によるエネルギー損失などを起因として、液体の圧力損失が高められて振動が吸収および減衰される。一方、液体の流速が低いと、前述のような衝突による液体の圧力損失が抑えられ、液体が連通路内を円滑に流通して動ばね定数の上昇が抑えられる。
この防振装置によれば、連通路内を流通する液体の流速に応じて液体の圧力損失を高めることで、振動を吸収および減衰することができる。これにより、例えばアイドル振動やシェイク振動などの通常の振動が入力されたときに、振動の周波数によらず振動を吸収および減衰することができる。したがって、互いに周波数が異なる複数種類の振動を吸収および減衰しつつ異音の発生を抑制し、構造の簡素化および製造の容易化を図ることができる。
また、流速が低く液体の圧力損失が抑制された状態下では、液体が連通路内を円滑に通過して動ばね定数の上昇が抑えられる。したがって、例えば、通常の振動よりも周波数が高く振幅が極めて小さい微振動などの意図しない振動が入力されたとき等、通常の振動が入力されたときよりも液体の流速が低いときには、動ばね定数の上昇を抑えることができる。その結果、この防振装置の製品特性を確保し易くすることができる。
【0008】
前記障壁剛体は、前記連通路の流路軸上に配置されていてもよい。
【0009】
この場合、障壁剛体が、連通路の流路軸上に配置されているので、連通路を流通する液体のうち、連通路内において比較的流速が高められたものを、障壁剛体に衝突させることができる。これにより、液体の圧力損失を大きく確保し易くすることが可能になり、振動を効果的に吸収および減衰させることができる。
【0010】
前記仕切り部材には、前記連通路から独立して設けられ、前記第1液室と前記第2液室とを連通する制限通路が設けられていてもよい。
【0011】
この場合、振動入力時に連通路を流通する液体の流速が高められ、この液体の圧力損失が高められると、連通路を通した液体の流通抵抗が高められる。その結果、液体が、第1液室と第2液室との間で制限通路を通して積極的に流通する。このとき、制限通路内で共振が生じることで、入力された振動が更に吸収および減衰される。
このように、例えば通常の振動が入力されたときに、液体の圧力損失だけでなく、制限通路内での共振によっても振動を吸収および減衰することができる。これにより、振動を効果的に吸収および減衰することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製品特性を確保しつつ構造の簡素化および製造の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る防振装置の縦断面図であって、仕切り部材を側面から示した図である。
図2図1に示す防振装置に備えられた仕切り部材の平面図である。
図3図2に示す仕切り部材の要部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る防振装置の一実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
この防振装置10は、図1に示すように、振動発生部および振動受部のうちのいずれか一方に連結される筒状の第1取付け部材11、および他方に連結される第2取付け部材12と、これらの両取付け部材11、12同士を互いに連結する弾性体13と、液体Lが封入される第1取付け部材11内の液室を、弾性体13を壁面の一部に有する主液室(第1液室)14、および副液室(第2液室)15に仕切る仕切り部材16と、を備えている。
【0015】
図示の例では、第2取付け部材12は柱状に形成されるとともに、弾性体13は筒状に形成され、第1取付け部材11、第2取付け部材12および弾性体13は、共通軸と同軸に配設されている。以下、この共通軸を軸線(第1取付け部材の軸線、仕切り部材の軸線)Oといい、軸線O方向(連通路の流路軸方向、仕切り部材の軸方向)に沿う主液室14側を一方側といい、副液室15側を他方側といい、軸線Oに直交する方向を径方向(第1取付け部材の径方向、仕切り部材の径方向)といい、軸線O回りに周回する方向を周方向(第1取付け部材の周方向、仕切り部材の周方向)という。
【0016】
なお、この防振装置10が例えば自動車に装着される場合には、第2取付け部材12が振動発生部としてのエンジンに連結される一方、第1取付け部材11が図示しないブラケットを介して振動受部としての車体に連結され、エンジンの振動が車体に伝達するのを抑える。この防振装置10は、第1取付け部材11の前記液室に、例えばエチレングリコール、水、シリコーンオイル等の液体Lが封入された液体封入型である。
【0017】
第1取付け部材11は、軸線O方向に沿って、一方側に位置する一方側外筒体21と、他方側に位置する他方側外筒体22と、を備えている。
一方側外筒体21における一方側の端部には、前記弾性体13が液密状態で連結されていて、この弾性体13により一方側外筒体21の一方側の開口部が閉塞されている。一方側外筒体21のうち、他方側の端部21aは、他の部分より大径に形成されている。そして、一方側外筒体21の内部が前記主液室14となっている。主液室14の液圧は、振動の入力時に、弾性体13が変形してこの主液室14の内容積が変化することで変動する。なお一方側外筒体21において、弾性体13が連結された部分に対して他方側から連なる部分には、全周にわたって連続して延びる環状溝21bが形成されている。
【0018】
他方側外筒体22における他方側の端部には、ダイヤフラム17が液密状態で連結されていて、このダイヤフラム17により他方側外筒体22における他方側の開口部が閉塞されている。他方側外筒体22のうち、一方側の端部22aは、他の部分より大径に形成されていて、前記一方側外筒体21における他方側の端部21a内に嵌合されている。また他方側外筒体22内には、仕切り部材16が嵌合されていて、他方側外筒体22の内部のうち、仕切り部材16とダイヤフラム17との間に位置する部分が、前記副液室15となっている。副液室15は、ダイヤフラム17を壁面の一部としており、ダイヤフラム17が変形することにより拡縮する。なお他方側外筒体22は、ダイヤフラム17と一体に形成されたゴム膜によって、ほぼ全域にわたって被覆されている。
【0019】
第2取付け部材12における一方側の端面には、軸線Oと同軸に雌ねじ部12aが形成されている。第2取付け部材12は、第1取付け部材11から一方側に突出している。第2取付け部材12には、径方向の外側に向けて突出し、かつ全周にわたって連続して延びるフランジ部12bが形成されている。フランジ部12bは、第1取付け部材11における一方側の端縁から一方側に離れている。
【0020】
弾性体13は、弾性変形可能な例えばゴム材料等で形成され、一方側から他方側に向かうに従い漸次拡径された筒状に形成されている。弾性体13のうち、一方側の端部が、第2取付け部材12に連結され、他方側の端部が、第1取付け部材11に連結されている。なお、第1取付け部材11の一方側外筒体21の内周面は、弾性体13と一体に形成されたゴム膜により、ほぼ全域にわたって覆われている。
【0021】
仕切り部材16は、軸線Oと同軸に配置された円盤状に形成され、第1取付け部材11内に嵌合されている。仕切り部材16には、径方向の外側に向けて突出するフランジ部16aが設けられている。フランジ部16aは、仕切り部材16における一方側の端部に設けられている。フランジ部16aは、他方側外筒体22の一方側の端部22a内に配置されている。
【0022】
仕切り部材16には、主液室14と副液室15とを連通する連通路30が設けられている。
連通路30は、仕切り部材16に、周方向に複数設けられ、仕切り部材16を軸線O方向に貫通している。連通路30は、仕切り部材16に、周方向の全周にわたって間欠的に複数配置され、これらの複数の連通路30は、軸線Oを中心とする同一円周上に配置されて環状の通路列31を構成している。仕切り部材16上には、通路列31が多重に設けられていて、つまり複数の通路列31が、互いの直径を異ならせて設けられている。
【0023】
図3に示すように、連通路30は、軸線O方向に延び、仕切り部材16における軸線O方向の両端面に各別に開口している。連通路30は、軸線O方向の全長にわたって同径に形成されている。連通路30は、この仕切り部材16の軸線O方向に沿う縦断面視において、軸線O方向に沿って直線状に延び、この仕切り部材16を軸線O方向から見た平面視において、円形状に形成されている。連通路30は、軸線O方向に延びる円柱状に形成されている。
【0024】
ここで連通路30内には、障壁剛体33が設けられている。障壁剛体33は、複数の連通路30内に各別に設けられている。障壁剛体33は、例えば樹脂材料などにより、液体Lの流れ受けたときに変形しない程度の剛性を具備する剛性体として、仕切り部材16と一体に形成されている。
また本実施形態では、障壁剛体33は、主液室14と副液室15との間を、連通路30を通して流通する液体Lの流れを分岐させる。障壁剛体33は、連通路30内を流通する液体Lを、この障壁剛体33の表面に沿って流動させることで、この液体Lの流れを曲げさせる。
【0025】
障壁剛体33は、連通路30の流路軸M上に、連通路30の内周面から離間した状態で配置されている。障壁剛体33は、流路軸Mと同軸に配置された円柱状に形成されている。障壁剛体33は、軸線O方向に対称に形成されている。障壁剛体33の端面34は、軸線O方向の外側に向けて凸となる錘面、図示の例では円錐面とされている。障壁剛体33は、液体Lを、この障壁剛体33の端面34上で、連通路30の径方向である流路径方向の外側に向けて流動させることで、この液体Lの流れを分岐させる。
【0026】
そして本実施形態では、障壁剛体33には、返し部70が設けられている。返し部70は、障壁剛体33により分岐させられた液体Lの流れの少なくとも一部を、連通路30内において、この連通路30の内周面に沿って流通する他の液体Lの流れに合流させる。返し部70は、障壁剛体33上を流路径方向の外側に向かう液体Lの流れの向きを、軸線O方向に反転させて他の液体Lの流れに合流させる。
【0027】
返し部70は、障壁剛体33の端面34における外周縁部に設けられていて、この外周縁部が、流路径方向の内側から外側に向けて漸次、軸線O方向の外側に向けて張り出してなる。返し部70は、この障壁剛体33の軸線O方向および流路径方向に沿う縦断面視において、軸線O方向の内側に向けて凹となる凹曲面状に形成されている。返し部70は、流路軸M回りの全周にわたって設けられている。
【0028】
図2および図3に示すように、障壁剛体33は、ブリッジ部37を介して仕切り部材16に連結されている。ブリッジ部37は、障壁剛体33の外周面における軸線O方向の中央部と、連通路30の内周面における軸線O方向の中央部と、を連結している。ブリッジ部37は、流路径方向に延びる棒状に形成され、流路軸Mを流路径方向に挟んで一対配置されている。連通路30のうち、一対のブリッジ部37により流路軸M回りに挟まれた部分には、軸線O方向の両側に向けて開口し、液体Lが軸線O方向に通過する通過隙間38が設けられている。通過隙間38は、障壁剛体33の外周面と連通路30の内周面との間に、障壁剛体33を間に挟むように一対設けられている。通過隙間38は、前記平面視において障壁剛体33を流路径方向に挟んでいる。
なお図2に示すように、同一の前記通路列31を構成する複数の連通路30において、各連通路30内に配置されたブリッジ部37が、各連通路30を通過する円周に沿って延在している。
【0029】
ここで本実施形態では、仕切り部材16には、制限通路41が更に設けられている。制限通路41は、仕切り部材16に連通路30から独立して設けられている。制限通路41の流路断面積は、この制限通路41の流路軸方向の全長にわたって同等となっている。制限通路41の共振周波数は、この防振装置10に通常、入力される振動の周波数と同等となっていて、制限通路41は、このような通常の振動(第1振動)の入力に対して共振(液柱共振)を生じさせる。通常の振動としては、例えば、シェイク振動(例えば、周波数が14Hz以下、振幅が±0.5mmより大きい)や、シェイク振動よりも周波数が高くかつ振幅が小さいアイドル振動(例えば、周波数が18Hz〜30Hz、振幅が±0.5mm以下)等が挙げられる。
【0030】
制限通路41の共振周波数は、連通路30の共振周波数よりも低くなっている。連通路30の共振周波数は、例えば、前述の通常の振動よりも周波数が高く振幅が極めて小さい微振動などの意図しない振動(第2振動)の周波数と同等となっている。連通路30および制限通路41の各共振周波数は、例えばそれぞれの流路長や流路断面積などに基づいて決定される。
【0031】
なお連通路30は、この防振装置10に通常の振動が入力された直後に、液体Lが制限通路41よりも優先的に流通し易くなっている。このような構成は、例えば、制限通路41および連通路30それぞれの流路長や流路断面積などを調整することで実現することができる。
【0032】
次に、前記防振装置10の作用について説明する。
【0033】
図1に示すような防振装置10に、振動発生部から軸線O方向の振動が入力されると、両取付け部材11、12が弾性体13を弾性変形させながら相対的に変位して主液室14の液圧が変動する。すると液体Lが、連通路30を通して主液室14と副液室15との間を往来しようとする。このとき本実施形態では、液体Lが、制限通路41よりも連通路30を通して優先的に往来しようとする。主液室14内の液体Lが、連通路30を通して副液室15側に向けて流動しようとすると、この液体Lはまず、図3に示すように、連通路30における一方側の端部からこの連通路30内に流入し、障壁剛体33に衝突する。
【0034】
ここでこの防振装置10には通常、例えばアイドル振動やシェイク振動などの振動が入力される。これらの振動のうち、アイドル振動は、比較的振幅が小さいものの周波数が高く、シェイク振動は、周波数が低いものの振幅が大きい。したがって、このような通常の振動が入力されたときには、連通路30内に流入する液体Lの流速が一定以上に高められる。
【0035】
このように液体Lの流速が高められていると、液体Lの障壁剛体33への衝突によるエネルギー損失などを起因として、液体Lの圧力損失が高められ、振動が吸収および減衰される。なお本実施形態では、障壁剛体33が、連通路30の流路軸M上に配置されているので、連通路30を流通する液体Lのうち、連通路30内において流路径方向の内側を流通し比較的流速が高められたものが、障壁剛体33に衝突する。
【0036】
液体Lが障壁剛体33に衝突した後、障壁剛体33は、連通路30内を流通する液体Lの流れを、流路径方向の外側に向けて分岐させる。このとき、連通路30を流通する液体Lのうち、連通路30内において流路径方向の外側を流通するものは、連通路30の内周面に沿って通過隙間38に向けて流動する。したがって、連通路30内において流路径方向の内側を流通するものが、障壁剛体33の端面34上を流路径方向の外側に向けて流動し、この液体Lの流れの向きが、返し部70により、軸線O方向に反転させられると、前述の通過隙間38に向けて流通する他の液体Lの流れに合流させられる。その結果、流れを合流させられる液体L同士が衝突することによるエネルギー損失などを起因として、液体Lの圧力損失がさらに高められる。
【0037】
また副液室15内の液体Lが、連通路30を通して主液室14側に向けて流動しようとすると、この液体Lはまず、連通路30における他方側の端部からこの連通路30内に流入し、障壁剛体33に衝突する。このとき、液体Lの流速が高められていることで、液体Lと障壁剛体33との衝突によるエネルギー損失などを起因として、液体Lの圧力損失が高められ、振動が吸収および減衰される。
液体Lが障壁剛体33に衝突した後、障壁剛体33は、連通路30内を流通する液体Lのうち、連通路30内において流路径方向の内側を流通するもの流れを反転させ、連通路30を流通する液体Lのうち、連通路30内において流路径方向の外側を流通するものに衝突させる。その結果、液体L同士が衝突することによるエネルギー損失などを起因として、液体Lの圧力損失がさらに高められる。
【0038】
ここで、以上のように液体Lの圧力損失が高められると、連通路30を通した液体Lの流通抵抗が高められる。その結果、液体Lが、主液室14と副液室15との間で制限通路41を通して積極的に流通する。このとき、制限通路41内で共振が生じることで、入力された振動が更に吸収および減衰される。
【0039】
ところでこの防振装置10には、例えば想定よりも周波数が高く振幅が極めて小さい微振動などが意図せず入力されることがある。微振動が入力されたときには、連通路30内に流入する液体Lの流速が低いことから、液体Lを障壁剛体33に衝突させたり、液体L同士を衝突させたりしても液体Lの圧力損失が抑えられる。これにより、液体Lが連通路30内を通過して主液室14と副液室15との間を円滑に流通することから、動ばね定数の上昇が抑えられる。
【0040】
以上説明したように、本実施形態に係る防振装置10によれば、連通路30内を流通する液体Lの流速に応じて液体Lの圧力損失を高めることで、振動を吸収および減衰することができる。これにより、例えばアイドル振動やシェイク振動などの通常の振動が入力されたときに、振動の周波数によらず振動を吸収および減衰することができる。したがって、互いに周波数が異なる複数種類の振動を吸収および減衰しつつ異音の発生を抑制し、構造の簡素化および製造の容易化を図ることができる。
しかも、例えば通常の振動が入力されたときに、液体Lの圧力損失だけでなく、制限通路41内での共振によっても振動を吸収および減衰することができる。これにより、振動を効果的に吸収および減衰することができる。
【0041】
また、流速が低く液体Lの圧力損失が抑制された状態下では、液体Lが連通路30内を円滑に通過して動ばね定数の上昇が抑えられる。したがって、例えば、通常の振動よりも周波数が高く振幅が極めて小さい微振動などの意図しない振動が入力されたとき等、通常の振動が入力されたときよりも液体Lの流速が低いときには、動ばね定数の上昇を抑えることができる。その結果、この防振装置10の製品特性を確保し易くすることができる。
【0042】
また障壁剛体33が、連通路30の流路軸M上に配置されているので、連通路30を流通する液体Lのうち、連通路30内において比較的流速が高められたものを、障壁剛体33に衝突させることができる。これにより、液体Lの圧力損失を大きく確保し易くすることが可能になり、振動を効果的に吸収および減衰させることができる。
【0043】
さらに障壁剛体33が、連通路30の流路軸M上に配置されているので、連通路30内を流通する液体Lを、障壁剛体33上で流動させることで、この液体Lの流れを流路径方向の外側に向けて分岐させることが可能になり、液体Lの流れを確実に分岐させることができる。
【0044】
また、返し部70が備えられているので、障壁剛体33により分岐させられた液体Lを互いに衝突させて、この液体Lのうちの多くの部分をエネルギー損失に寄与させることが可能になり、液体Lの圧力損失を効果的に高めることができる。
さらに返し部70が、障壁剛体33に設けられているので、例えばこの防振装置の構造の簡素化を図ること等ができる。
【0045】
また返し部70が、障壁剛体33上を流動する液体Lの流れを、連通路30内を流通する液体Lのうち、連通路30の内周面に沿って通過隙間38に向けて流通する他の液体Lの流れに合流させる。したがって、連通路30内において流路軸Mに沿って流通する流速が比較的高い液体Lを障壁剛体33により分岐させ、連通路30内において連通路30の内周面に沿って流通する流速が比較的低い他の液体Lに衝突させることが可能になり、液体Lの圧力損失を効果的に高めることができる。
【0046】
また連通路30が、仕切り部材16に周方向に複数設けられ、仕切り部材16を軸線O方向に貫通しているので、連通路30の流路面積を確保し易くすることができる。したがって、この防振装置10に振動が入力されて連通路30内の液体Lの流速が高められたときに、連通路30内で多量の液体Lを衝突させて液体Lの圧力損失を大きく高め易くすることが可能になり、振動を効果的に吸収および減衰することができる。
【0047】
さらに、連通路30が複数設けられているので、連通路30が1つのみ設けられている場合に比べて、連通路30を同等の形状に保持しつつ縮小させても、複数の連通路30の断面積の総和を、連通路30が1つのみ設けられている場合における連通路30の断面積と同等に維持することができる。その結果、複数の連通路30の体積の総和を、連通路30が1つのみ設けられている場合における連通路30の体積よりも小さくすることができる。したがって、連通路30が1つのみ設けられている場合に比べて、液体Lの圧力損失を効果的に得るために必要な液体Lの流量を少なくすることができる。なおこの作用効果は、特に連通路30が4つ以上の場合に顕著に奏功される。
【0048】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0049】
本発明では、連通路30は、複数でなく1つでもよい。
さらに前記実施形態では、主液室14と副液室15とが、連通路30に加え、連通路30と異なる制限通路41を通して連通されているが、本発明はこれに限られない。例えば、制限通路がなく、主液室と副液室とが連通路を通してのみ連通されていてもよい。
【0050】
また返し部70はなくてもよい。
【0051】
また前記実施形態において、制限通路41内や連通路30内が、例えば弾性薄膜など、液体Lの液圧により弾性変形させられる膜体により閉塞されていてもよい。この場合であっても、膜体を挟んで両側に位置する液体Lの液圧が膜体を介して伝達されることで、制限通路41内や連通路30内を液体Lが流通する。
【0052】
また前記実施形態では、仕切り部材16が、第1取付け部材11内の液室を、弾性体13を壁面の一部に有する主液室14、および副液室15に仕切るものとしたが、これに限られるものではない。例えば、前記ダイヤフラムを設けるのに代えて、弾性体を軸線方向に一対設けて、副液室を設けるのに代えて、弾性体を壁面の一部に有する受圧液室を設けてもよい。つまり仕切り部材が、液体が封入される第1取付け部材内の液室を、第1液室および第2液室に仕切り、第1液室および第2液室の両液室のうちの少なくとも1つが、弾性体を壁面の一部に有する他の構成に適宜変更してもよい。
【0053】
また前記実施形態では、エンジンを第2取付け部材12に接続し、第1取付け部材11を車体に接続する場合の説明をしたが、逆に接続するように構成してもよい。
【0054】
さらに、本発明に係る防振装置10は、車両のエンジンマウントに限定されるものではなく、エンジンマウント以外に適用することも可能である。例えば、建設機械に搭載された発電機のマウントにも適用することも可能であり、或いは、工場等に設置される機械のマウントにも適用することも可能である。
【0055】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 防振装置
11 第1取付け部材
12 第2取付け部材
13 弾性体
14 主液室(第1液室)
15 副液室(第2液室)
16 仕切り部材
30 連通路
33 障壁剛体
41 制限通路
L 液体
図1
図2
図3