特許第6384992号(P6384992)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6384992ロスバスタチンカルシウムの安定性を向上させた保存方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384992
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ロスバスタチンカルシウムの安定性を向上させた保存方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 239/42 20060101AFI20180827BHJP
   A61K 31/505 20060101ALN20180827BHJP
   A61P 3/06 20060101ALN20180827BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20180827BHJP
   A61K 9/20 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   C07D239/42 Z
   !A61K31/505
   !A61P3/06
   !A61P43/00 111
   !A61K9/20
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-171586(P2014-171586)
(22)【出願日】2014年8月26日
(65)【公開番号】特開2016-44164(P2016-44164A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207252
【氏名又は名称】ダイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083301
【弁理士】
【氏名又は名称】草間 攻
(72)【発明者】
【氏名】小林 康彦
(72)【発明者】
【氏名】棚田 明典
(72)【発明者】
【氏名】瀧本 辰也
(72)【発明者】
【氏名】高田 英一
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/015168(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第103936680(CN,A)
【文献】 特開昭63−248678(JP,A)
【文献】 特開平08−282739(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/107081(WO,A1)
【文献】 Analysis of rosuvastatin stress degradation behavior using liquid chromatography coupled to ultraviolet detection and electrospray ionization mass spectrometry,Analytical Methods,2013年,5(22),6494-6502
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 239/42
A61K 9/20
A61K 31/505
A61P 3/06
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロスバスタチンカルシウムを、ポリエチレン袋に封入し、更にこのポリエチレン袋を別のポリエチレン袋に入れ、脱酸素剤を共存させて封緘し、酸素を排除した条件下に保存することを特徴とする、ロスバスタチンカルシウムからの5−ケト体の生成を抑制する保存方法。
【請求項2】
ロスバスタチンカルシウムを封入したポリエチレン袋を別のポリエチレン袋に入れ、脱酸素剤を共存させて封緘し、更にこの別のポリエチレン袋をアルミ蒸着したポリエチレン袋に入れて封緘し、酸素を排除した条件下に保存することを特徴とする、請求項1に記載のロスバスタチンカルシウムからの5−ケト体の生成を抑制する保存方法。
【請求項3】
保存温度が、5〜40℃であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロスバスタチンカルシウムの安定性を向上させた保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロスバスタチンカルシウムは、KMG−CoA還元酵素阻害剤として、コレステロールの合成を抑制することから、臨床的に高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症治療薬(販売名:クレストール(登録商標)錠)として使用されているスタチン系化合物である。
【0003】
ところで、医薬品の原薬は、製剤化に用いられるまでの間、長期間に亘り安定に品質が維持されることが求められている。しかしながら、ロスバスタチンカルシウムは、通常の保存方法では、長期保存中に不純物が増加することが知られている。
【0004】
例えば、クレストール錠(2.5mg/5mg錠)の医薬品インタビューフォーム(2014年6月(改訂第12版))(非特許文献1)には、有効成分であるロスバスタチンカルシウムの安定性に関する情報が記載されており、その一部を抜粋して示せば、下記表1のとおりである。
【0005】
【表1】
【0006】
すなわち、上記表1より判明するように、ロスバスタチンカルシウムは、5℃ではポリエチレン製袋に充填し、ファイバードラム(注:紙製のドラム缶であり、主に粉体状の化学品や医薬品原体の保存として使用される)内に保存するという通常の医薬品原体の保存包装形態の場合には、18ヵ月の保存で「変化なし」とされているが、25℃以上では、大部分の検体において「有機不純物の増加が認められた」との報告がなされている。
したがって、ポリエチレン製袋に充填/ファイバードラム内保存という通常の医薬品原体の包装形態にあっては、ロスバスタチンカルシウムの不純物の生成を抑制するために、低温での保存が必要といえる。
しかしながら、工業的にロスバスタチンカルシウムを製造し、貯蔵することを想定すると、かかる低温保存を可能とするためには、大型の冷却設備が必要となる。したがって、通常の医薬品原体の保存には、このような冷却設備を要しないため、ロスバスタチンカルシウムについても、通常の温度で保存可能な方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】クレストール錠の医薬品インタビューフォーム(2014年6月(改訂第12版))
【0008】
本発明者らは、ロスバスタチンカルシウムの長期保存によって増加する有機不純物について検討を行い、かかる有機不純物が、次式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
で示されるロスバスタチンカルシウムの酸化によって生じる、次式(II):
【0011】
【化2】
【0012】
で示される5−ケト体であることを確認し、ロスバスタチンカルシウムを、酸素を排除した条件下に保存することで、50℃の保存条件下でも5−ケト体の生成を抑制できること、また、40℃の保存条件下では5−ケト体以外の不純物の生成も抑制され、ロスバスタチンカルシウムが長期に亘り安定であることを確認し、本発明を完成させるに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は、ロスバスタチンカルシウムについて、その酸化物である5−ケト体の生成を抑制し,長期に亘り、その保存安定性を向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するための本発明は、その基本的態様は、ロスバスタチンカルシウムを、酸素を排除した条件下に保存することを特徴とする、ロスバスタチンカルシウムからの5−ケト体の生成を抑制する保存方法である。
【0015】
より具体的には、本発明は酸素を排除した条件が、空気遮断条件下に脱酸素剤を存在させたものであることを特徴とする保存方法であり、また、ロスバスタチンカルシウムからの5−ケト体の生成を5〜40℃で抑制する保存方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明が提供する保存方法は、ロスバスタチンカルシウムの分解物である有機不純物の生成を抑制し、ロスバスタチンカルシウムを常温において長期に亘り安定に保つことができる利点を有しており、その利用性は多大なものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、上記したように、その基本は、ロスバスタチンカルシウムを、酸素を排除した条件下に保存することを特徴とする、ロスバスタチンカルシウムからの5−ケト体の生成を抑制する保存方法であるが、本発明が提供する方法にあっては、ロスバスタチンカルシウムの保存条件としては、医薬品業界で慣用されている、空気を遮断するための密封包装の形態が採用され、その包装内の酸素を排除することで達成することができる。
【0018】
具体的には、製造直後のロスバスタチンカルシウムをポリエチレン袋に入れ、酸素を排除した条件下に結束バンド(インシュロックタイ:登録商標)で封をし、アルミ蒸着したポリエチレン製袋体に入れ、ヒートシーラーで密封するか、若しくはガラス瓶に入れ酸素を排除した条件下で蓋をして保存する包装形態を採用することができる。
なお、より効果的には、ロスバスタチンカルシウムを入れたポリエチレン袋を、更に別のポリエチレン袋に入れ二重とし、各々のポリエチレン袋を結束バンド(インシュロックタイ:登録商標)で封をすることが、工業的な保存方法として好ましい。
【0019】
この包装形態において、酸素を排除した条件下とは、ロスバスタチンカルシウムを封入したポリエチレン袋とアルミ蒸着したポリエチレン製袋体を窒素ガス置換するか、若しくはポリエチレン袋に脱酸素剤を入れ、アルミ蒸着したポリエチレン製袋体をヒートシーラーで密封することであり、このような条件下により、本発明の方法を達成できる。または、ロスバスタチンカルシウムを封入したポリエチレン袋とガラス瓶を窒素置換するか、若しくはポリエチレン袋に脱酸素剤を入れ、ガラス瓶に蓋をすることによっても達成できる。
【0020】
なお、封入の程度としては、酸素が透過しない程度に密封することが好ましく、このような封入方法としては、上記したものに限定されず、酸素非透過性のプラスチックからなる容器を用いることもできる。
【0021】
本発明が提供する保存方法においては、酸素を排除する手段として使用される脱酸素剤としては、医薬品業界で一般に用いられている脱酸素剤や、市販の脱酸素剤を適宜用いることもできる。
このような脱酸素剤としては、自己反応型であても水分依存型であってもよく、鉄粉、亜鉛粉、ハイドロサルファイト等を主剤とする無機系の脱酸素剤、アスコルビン酸系、多価アルコール系、活性炭系等の有機系の脱酸素剤であってもよい。
これらの脱酸素剤の中でも、即効性があるものが好ましい。例えば、ファーマキープ(三菱ガス化学(株)製:登録商標)やエージレス(三菱ガス化学(株)製:登録商標)をそのまま、若しくは梱包したものを用いることができる。
また、用いる脱酸素剤の質量は、袋体や容器等の質量、材質、および容積等に応じて適宜調整することができる。
【0022】
かかる酸素を排除した条件下にロスバスタチンカルシウムを保存する包装形態を採用することで、非特許文献1に記載される5℃の冷却保存の必要はなく、50℃の温度条件下においても、ロスバスタチンカルシウムの酸化生成物である5−ケト体の生成を効率的に抑制することができる。
さらに、40℃の温度条件下においてはロスバスタチンカルシウムの酸化生成物である5−ケト体以外の有機不純物の生成を効果的に抑制できるものであった。
【実施例】
【0023】
以下に、本発明を実施例により、更に詳細に説明していくが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0024】
<ロスバスタチンカルシウムの一般的製造方法>
以下の実施例で使用したロスバスタチンカルシウムは、例えば、特許第2648897号に記載されている実施例にしたがって製造することができる。
【0025】
実施例:
ロスバスタチンカルシウム10gを、ポリエチレン袋に入れ、結束バンド(インシュロックタイ:登録商標)で封をした。更に、このポリエチレン袋を別のポリエチレン袋に入れ、脱酸素剤(ファーマキープ:登録商標)2gを共存させ、結束バンド(インシュロックタイ:登録商標)で封をした。このロスバスタチンカルシウムを封入した二重のポリエチレン袋を、アルミ蒸着したポリエチレン袋体に入れ、ヒートシーラーで密封した。
なお、比較例として、ロスバスタチンカルシウム1gを、脱酸素剤を共存させないで前記と同様に包装した。
【0026】
それぞれの包装体を、40℃/75%RHの条件下、及び50℃/湿度調整なしの条件下で8週間保存した。
保存開始直後、並びに保存開始から4週間後及び8週間後におけるロスバスタチンカルシウムの5−ケト体の生成量、及び類縁物質の生成合計量をHPLCにて測定した。
【0027】
なお、HPLC分析条件は、以下の通りである。
測定波長:紫外吸光光度計(測定波長:242nm)
濃度:本品35mgを水/アセトニトリル混液(3:1)50mLに溶解し、試料溶液とした。
カラム:内径3.0mm、長さ150mmのステンレス管に3μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填した。
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相A:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸(1→100)混液(70:29:1)
移動相B:水/アセトニトリル/トリフルオロ酢酸(1→100)混液(24:75:1)
移動相の送液:移動相A及び移動相Bの混合比を次のように変えて、濃度勾配制御した。
【0028】
【表2】
【0029】
流量:0.75mL/min
注入量:10μL
面積測定範囲:75分間
【0030】
5−ケト体の生成量および類縁物質の生成合計量を測定した結果を、表3に示した。
【0031】
【表3】
*1:RH:相対湿度
【0032】
表3に示した結果からも判明するように、脱酸素剤を共存させることにより、ロスバスタチンカルシウムから、その酸化による5−ケト体の生成が抑制されていることが判明した。
また、50℃/湿度調整なしの条件では、脱酸素剤の共存下においても、その他の類縁物質が増加し、類縁物質合計の増加が認められた。
一方、40℃/75%RHの条件では、ロスバスタチンカルシウムから生じるその他の不純物の増加も抑制されており、脱酸素剤の共存下にあっては、類縁物質の生成合計量の増加は微量に留まった。
【0033】
その点からみれば、本発明が提供するロスバスタチンカルシウムの安定性を向上させた保存方法は、医薬品業界で慣用されている通常の医薬品原体に利用されている、空気を遮断するための密封包装の形態を採用することで、常温下において、ロスバスタチンカルシウムを長期に亘り保存することが可能となり、特別の低温保存を可能とするための大型の冷却設備を必要とするものでないことが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上記載のように、本発明が提供する保存方法は、ロスバスタチンカルシウムを常温において長期に亘り安定に保つことができる利点を有しており、その利用性、及び産業以上の貢献度は多大なものである。