(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、窒化ガリウムなどの13族元素窒化物を用いて、青色LEDや白色LED、青紫色半導体レーザなどの半導体デバイスを作製し、その半導体デバイスを各種電子機器へ応用することが活発に研究されている。
【0003】
白色LEDの用途拡大に伴い、LEDチップにはより一層の高性能化が求められている。高性能化とは、高効率化、高輝度化である。
【0004】
現時点で一般的に用いられている、サファイア上基板上にMOCVD法でGaN薄膜(発光部)を形成する構造では、発光部の転位密度が1×10
9〜1×10
10/cm
2と非常に大きいため、転位部分でキャリアの非発光再結合が発生し、発光効率の向上が困難であった。
【0005】
MOCVD法やHVPE法などの気相法において、発光部の転位密度を減らす試みがなされている。たとえば、特許文献1では、種結晶上にSiO
2のマスクを形成し、種結晶上に気相法によってGaN結晶を成長させることにより、種結晶から伝播する転位を遮断あるいは屈曲させることによるGaN薄膜の低転位化を行っている。
【0006】
金属ガリウムを窒素と直接反応させて窒化ガリウム結晶を成長させる場合、1500℃、1GPaといった、高温高圧条件が必要になる。一方、フラックス法は、液相法の一つであり、窒化ガリウムの場合、フラックスとして金属ナトリウムを用いることで窒化ガリウムの結晶成長に必要な温度を800℃程度、圧力を数MPaに緩和することができる。具体的には、金属ナトリウムと金属ガリウムとの混合融液中に窒素ガスが溶解し、窒化ガリウムが過飽和状態になって結晶として成長する。こうした液相法では、気相法に比べて転位が発生しにくいため、転位密度の低い高品質な窒化ガリウムを得ることができる。
【0007】
Naフラックス法では、種結晶と成長部の界面近傍で、自発的に転位が減少することが知られている。非特許文献1には、Naフラックス法による転位低減メカニズムが解説されている。これによると、フラックス法成長初期の過飽和度が小さい時期には、GaN結晶の(10-11)面が表面に現れ、プロセスが進行して過飽和度が大きくなってくると、次第に(0001)面が発達するようになる。これに伴い、種結晶から伝播する転位は、当初はc軸方向に伸びるが、次第に傾いてきて、やがて傾斜後の転位が複数重合し、転位束を形成する。(10-11)面が形成されるのは界面から数ミクロン、(0001)面が発達するのは界面から数十ミクロンの厚さである。
【0008】
特許文献2では、フラックス法に用いる種結晶の表面を意図的に凸凹にすることにより、種結晶から伝播する転位の一部を屈曲させて凸凹構造の内側に閉じ込め、転位密度の低いGaN結晶を成長させることを狙っている。
【0009】
特許文献3では、フラックス法による結晶成長初期に、窒素が未飽和の状態で意図的に保持し、種結晶の表面をメルトバックすることで、結晶性が低く転位の多い種結晶表層を除去し、転位密度の低いGaN結晶の実現を目指している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1記載の構造では、種基板表面に微細なSiO
2マスクを設ける必要があり、製造プロセスが複雑になる。また、SiO
2マスク上での結晶のラテラルオーバーグロースを利用するものであるので、育成した結晶層表面における転位密度を低くするためには、結晶層を厚くすることが必要である。例えば、結晶層表面における転位密度を10
6/cm
2台に低減させるには、GaN結晶層の厚さは200μm程度必要である。
【0013】
非特許文献1では、気相法に比べると早い段階で転位密度を低減できるが、しかし結晶層表面において十分に転位を低減させるには、数十ミクロンの厚さが必要であった。したがって、たとえばフラックス法によって育成した結晶層の厚さが50μm以下の領域では、転位密度が十分に低減していない。このため、得られた結晶層を薄く研磨加工すると、結晶層の研磨面に貫通転位が多数現れるので、貫通転位を通じて電流リークを起こしやすくなる。
【0014】
特許文献2の構造でも、同様に、結晶層の厚さを大きくしないと、結晶層表面における転位密度を低減することが難しい。例えば、特許文献3の実施例によると、10
6/cm
2の転位密度を結晶層表面で実現するためには、GaN結晶層の厚さを数百μmとする必要があった。
【0015】
特許文献3では、結晶成長工程中にメルトバックできるため、プロセスそれ自体は平易であるが、高温高圧のNaフラックス中でのメルトバック量の制御が難しく、実用性が乏しい。
【0016】
本発明の課題は、13族元素窒化物からなる種結晶上に成長した13族元素窒化物からなる結晶層であって、結晶層の厚さを薄くでき、かつ結晶層の表面における転位密度を低減できるような構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、13族元素窒化物からなる種結晶上に成長した、13族元素窒化物からなる結晶層であって、
前記結晶層が、種結晶と13族元素窒化物結晶層との
平滑な界面に沿った界面層と、この界面層上に設けられた成長層とを有しており、
前記界面層が、13族元素窒化物結晶層の表面へと向かって延びる初期転位と、この初期転位から屈曲して初期転位に対して交差する方向に延びる傾斜転位とを有しており、
前記初期転位の99%が終端した境界を前記界面層と前記成長層との境界としたとき、前記界面層の厚さが15μm以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、13族元素窒化物からなる種結晶、およびこの種結晶上に設けられた前記請求項1〜5のいずれか一つの請求項に記載の13族元素窒化物結晶層を有することを特徴とする、複合基板に係るものである。
【0019】
また、本発明は、前記13族元素窒化物結晶層、および前記結晶層の表面上に形成された13族元素窒化物からなる機能層を備えていることを特徴とする、機能素子に係るものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明者は、従来技術の項目で述べた様々な13族元素窒化物結晶層の微構造を、TEMや蛍光顕微鏡などを用いて詳細に検討し、結晶層が薄い段階で転位を低減し、あるいは消滅させ得るような微構造を研究してきた。
【0021】
例えば特許文献1に記載されたような気相法では、転位は界面から結晶層の表面へと向かってほぼ真っ直ぐに多数延びる。このため、ラテラルオーバーグロースを利用して転位を低減するには、かなりの厚さが必要である。また、転位が横方向に延びる場合も、横方向に向かって延びる転位同士が会合して再度縦方向に延びる転位束を形成し、転位束が結晶層の表面に現れやすい。
【0022】
また、上述したようなフラックス法による転位低減メカニズムについて、
図4の参考図を参照しつつ述べる。
【0023】
図4に示すように、種結晶1の表面1a上に13族元素窒化物結晶層10を育成する。ここで、結晶成長の初期には、例えばGaN結晶の(10-11)面が表面に現れる。これに伴い、初期転位13aが界面Iに対して略垂直に延びる。次いで、プロセスが進行して融液の過飽和度が大きくなってくると、次第に(0001)面が発達するようになる。これに伴い、種結晶1から伝播する転位は、当初はc軸方向に伸びるが、次第に13bから13cのように初期転位13aに対して傾斜してくる。そして、傾斜後の転位13cが複数重合し、例えば領域Dにおいて、界面Iに対して略垂直に延びる転位束15を形成する。(10-11)面が形成されるのは界面Iから数ミクロンの厚さであり、(0001)面が発達するのは界面Iから数十ミクロンの厚さである。更に結晶成長を続けると、複数の転位束15が領域Eで重合し、新しい転位束16を形成する。
【0024】
この結果、結晶層10を厚くしても、その表面10aに現れる転位束はなかなか減らない。また、表面10aで転位束が少なくなるまで成長を続けた場合にも、結晶層を研磨加工して薄くすると、多くの転位が研磨面に現れてくるので、薄くかつ表面転位密度の低い結晶層を得ることができない。
【0025】
本発明者は、以上の知見に立ち、結晶成長開始時の条件を精密に制御することによって、結晶の成長モードを制御し、界面のごく近傍で転位を水平方向に屈曲させることを試みた。この点について、
図3の模式図を参照しつつ述べる。
【0026】
すなわち、本発明者は、種結晶1の表面1aから結晶層2を成長させる際に、成長初期において、(10-11)面での成長をなるべく抑え、まずは縦方向への成長を促してm面を発達させ、次いで早期に成長モードを切り替えることにより、横方向に成長させることに成功した。
【0027】
これによって、成長初期の界面層2bにおいては、縦方向に延びる短い初期転位3aを生成させ、この初期転位3aを早期に屈曲させ、初期転位3aに対して傾斜する傾斜転位3cおよび3bが生成することがわかった。しかも、この際、界面Iに対して略平行に伸びる転位3bが、他の転位と重合する前に終端し、終端転位を形成することが判明した。
【0028】
この結果、界面層2b上には、界面層2bよりも転位密度の低い成長層2cが生成する。この際、界面層2bの厚さtが小さいうちに3c、3bのように転位の屈曲が始まる。しかも、傾斜転位3bは途中で終端し、他の傾斜転位と会合しにくく、転位束を形成しにくいので、結晶層2の全体厚さが小さくとも結晶層2の表面2aに貫通転位が現れにくく、表面における転位密度を小さくすることができる。すなわち、非特許文献1に記載されているように数十μmの厚さを必要としない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明を更に説明する。
好適な実施形態においては、
図1(a)に示すように、窒化ガリウムからなる種結晶1の表面1aに13族元素窒化物結晶層2を形成する。次いで、好ましくは、結晶層2の表面2aを研磨加工することで、
図1(b)に示すように結晶層3を薄くし、複合基板4を得る。3aは研磨後の表面である。
【0031】
こうして得られた複合基板4の表面3aに機能層5を気相法で形成し、機能素子15を得る(
図1(c))。ただし、5a、5b、5c、5d、5eは、表面3a上に成長した用途に応じて設計されるエピタキシャル層である。
【0032】
なお、機能層5を形成する前に13族元素窒化物結晶層2の表面2aを研磨することは必須ではなく、成長面をそのまま利用することもできる。また、
図1(b)の複合基板4を作製した後に種結晶1を研削加工等によって除去し、その後に結晶層3の表面に機能層5を形成することができる。
【0033】
(種結晶)
本発明では、種結晶は、13族元素窒化物結晶層を育成可能な限り、特に限定されない。ここでいう13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。この13族元素窒化物は、特に好ましくは、GaN、AlN、GaAlNである。
【0034】
種結晶は、それ自体で自立基板(支持基板)を形成していてよく、あるいは別の支持基板上に形成された種結晶膜であってよい。この種結晶膜は、一層であってよく、あるいは支持基板側にバッファ層を含んでいて良い。
【0035】
種結晶膜の形成方法は気相成長法が好ましいが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法を例示できる。有機金属化学気相成長法が特に好ましい。また、成長温度は、950〜1200℃が好ましい。
【0036】
支持基板上に種結晶膜を形成する場合には、支持基板を構成する単結晶の材質は限定されないが、サファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、GaN自立基板、シリコン単結晶、SiC単結晶、MgO単結晶、スピネル(MgAl
2O
4)、LiAlO
2、LiGaO
2、LaAlO
3,LaGaO
3,NdGaO
3等のペロブスカイト型複合酸化物、SCAM(ScAlMgO
4)を例示できる。また組成式〔A
1−y(Sr
1−xBa
x)
y〕〔(Al
1−zGa
z)
1−u・D
u〕O
3(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3〜0.98;x=0〜1;z=0〜1;u=0.15〜0.49;x+z=0.1〜2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。
【0037】
13族元素窒化物結晶層の育成方向は、ウルツ鉱構造のc面の法線方向であってよく、またa 面、m面それぞれの法線方向であってもよい。
【0038】
種結晶の表面における転位密度は、種結晶上に設ける13族元素窒化物結晶層の転位密度を低減するという観点から、低いことが望ましい。この観点からは、種結晶の転位密度は、7×10
8/cm
2以下が好ましく、5×10
8/cm
2以下が更に好ましい。また、種結晶の転位密度は品質の点からは低いほど良いので、下限は特にないが、一般的には、5×10
7/cm
2以上であることが多い。
【0039】
(13族元素窒化物結晶層)
窒化ガリウム結晶層の製法は特に限定されないが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法などの気相法、フラックス法などの液相法を例示できる。
【0040】
この結晶層を構成する13族元素窒化物において、13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。この13族元素窒化物は、特に好ましくは、GaN、AlN、GaAlNである。また、添加剤としては、炭素や、低融点金属(錫、ビスマス、銀、金)、高融点金属(鉄、マンガン、チタン、クロムなどの遷移金属)が挙げられる。低融点金属は、ナトリウムの酸化防止を目的として添加する場合があり、高融点金属は、坩堝を入れる容器や育成炉のヒーターなどから混入する場合がある。
【0041】
例えば
図3の模式図に示すように、本発明の13族元素窒化物結晶層2は、種結晶と13族元素窒化物結晶層との界面に沿った界面層2bと、この界面層上に設けられた成長層2cとを有する。
【0042】
ここで、界面層2bは、前記界面Iに沿って延びるものである。この界面層2bと接する種結晶1には、いわゆる下地層やバッファ層も含んでいてよい。
【0043】
界面層2bは、界面Iから延びる初期転位およびこれに連続する傾斜転位を包含する層である。本発明の観点からは、界面層2bの厚さtは15μm以下とするが、5μm以下が更に好ましい。また、界面層2bの厚さtは1μm以上であることが好ましい。界面層2b内部で、初期転位から連続する転位のほとんどが終端し転位密度が低減する。
【0044】
本発明においては、初期転位の99%が終端した境界を、界面層と成長層との境界とする。このため、種結晶と界面層との境界から成長層に向かって100本の初期転位を追跡し、そのうち99本が終端した場所を確認し、界面層と成長層との境界とする。そして、種結晶と界面層との境界から、界面層と成長層との境界までの間隔を、界面層の厚さと定義する。
【0045】
また、本発明の観点からは、結晶層2、3の厚さTは、20μm以下が好ましく、15μm以下が更に好ましい。また、結晶層の厚さtは5μm以上であることが好ましい。
【0046】
界面層上の成長層2cは、界面層2bに存在する初期転位から連続する転位のほとんどが終端し、転位密度が低くなっている層である。具体的には、後述するTEM写真を撮像した後に、5μm×5μmの視野において、転位密度が5×10
5cm
−2以下であることが好ましい。
【0047】
本発明においては、界面層が、前記13族元素窒化物の表面へと向かって延びる初期転位と、この初期転位から屈曲して初期転位に対して交差する方向に延びる傾斜転位とを有している。
【0048】
初期転位に対する傾斜転位の傾斜角度は、TEM写真において、30〜90°であり、好ましくは60〜90°である。
【0049】
特に好適な実施形態においては、傾斜転位が界面Iと略平行に延びる。これによって傾斜転位が末端で終端し易くなり、結晶層の表面まで延びにくくなる。
【0050】
特に好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶層をフラックス法によって育成する。この際、フラックスの種類は、13族元素窒化物を生成可能である限り、特に限定されない。好適な実施形態においては、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくとも一方を含むフラックスを使用し、ナトリウム金属を含むフラックスが特に好ましい。
【0051】
フラックスには、13族元素の原料物質を混合し、使用する。この原料物質としては、単体金属、合金、化合物を適用できるが、13族元素の単体金属が取扱いの上からも好適である。
【0052】
透過型電子顕微鏡(TEM)による転位の測定方法は以下のようにする。
TEM観察用の薄片作製には、エッチングレートの異なる異相界面に対し正確に薄片化を行うためにFIB(Focused Ion Beam)法を用いた。
具体的には(1)樹脂埋め、(2)切り出し、(3)機械研磨、(4)FIB加工の順で断面TEM観察用試料を作製した。
(1)
エポキシ系樹脂を使用して試料を補強した。
(2)
マイクロカッターにより2.5×1.5×2mmの大きさに切り出した。
(3)
コンポジット定盤(スラリー:3μm)、セラミック定盤(スラリー:1.5μm)により機械研磨を行い、FIB加工面を鏡面仕上げした。その後、手研磨で試料の厚みが約60〜70μmまで薄片化し、その試料片をTEM観察用Cu単孔メッシュに貼り付けた。
(4)
イオンビーム加工時でのチャージングを抑えるためにFIB装置に移す前にまずカーボンコーティングを行った。その後、薄片試料作製箇所をイオンビーム加工によるダメージから保護するためにFIB装置内でPt蒸着を行った。そしてその箇所を中心に厚さ約200nm以下まで薄膜化した。
透過型電子顕微鏡(JEM-2010) を用いて、加速電圧200kVで観察を行った。電子線入射方向は[11-20]GaNとした。明視野像と暗視視野像(g=-1100、g=000-2)により、転位の状況を観察した。
【0053】
(13族元素窒化物結晶層の育成の制御例)
本発明の13族元素窒化物結晶層を育成するための好適な制御方法を例示する。
【0054】
好ましくは、初期段階では、縦方向の成長を促進する際に、なるべく低い過飽和度とし、かつ融液の対流を抑制することによって、できるだけ濃度勾配のみを駆動力として結晶成長させる。
【0055】
具体的には、初期段階では、以下の方法で育成することが好ましい。
(1A) ルツボ内の融液の平均育成温度を高めにすることで過飽和度を大きくして核6の形成を抑制する(
図2)。
(2A) ルツボの上部をルツボの底部よりも高温に保持することによって、ルツボ内での融液の対流を抑制する。
(3A)融液の攪拌はしないようにするか、あるいは攪拌速度を小さくする。
(4A) 窒素含有ガスの分圧を低くする。
【0056】
これによって、初期段階では、核6の形成が抑制され、核6から上方へと向かって結晶成長する(矢印C)。この際、初期転位3aも上方へと向かって成長し、かつ刃状転位となる。
【0057】
好適な実施形態においては、初期段階の条件を停止した後、育成条件を変更することによって、結晶成長速度を上げる(後期段階)。この結果、結晶成長7は横方向への成長が主となり(矢印A、B)、転位も3b、3cのように傾斜転位が主となる。また、傾斜転位3b、3cにおいてはらせん転位が主となり、らせん転位あるいは混合転位に変化する。
【0058】
この段階では、好ましくは以下のようにする。
(1B) ルツボ内の融液の平均育成温度を低めにすることで過飽和度を小さくする。
(2B) ルツボの上部をルツボの底部よりも低温に保持するか、あるいは上部と下部とを同じ温度にすることによって、ルツボ内での融液の自然対流を促進する。
(3B)融液の攪拌を行い、攪拌速度を大きくしたり、攪拌方向を定期的に反転させる。
(4B) 窒素含有ガスの分圧を高くする。
【0059】
例えば、以下のような条件を適用可能である。
(初期段階)
(1A) ルツボ内の融液の平均育成温度を860〜870℃とする。
(2A) ルツボの上部の温度を,ルツボの底部の温度よりも10〜30℃高く保持する。
(3A) 融液の攪拌はしないようにするか、あるいは攪拌速度を6rpm以下とする。また、攪拌方向を1方向とする。
(4A) 窒素含有ガスの分圧を3.0〜3.5MPaとする。
【0060】
(第二段階)
(1B) ルツボ内の融液の平均育成温度を840〜860℃とする。また、初期段階との平均育成温度の差を10〜20℃とする。
(2B) ルツボの底部の温度を,ルツボの上の温度よりも、0〜20℃高く保持する。
(3B) 融液の攪拌をし、攪拌方向を定期的に変更する。更に、回転方向を変えるときに、ルツボの回転を停止させることが好ましい。この場合には、回転停止時間は100秒〜6000秒が好ましく、600秒〜3600秒が更に好ましい。また、回転停止時間の前後における回転時間は10秒〜600秒が好ましく、回転速度は10〜30rpmが好ましい。
(4B) 窒素含有ガスの分圧を4〜4.5MPaとする。また、初期段階における窒素含有ガスの分圧よりも0.5〜1MPa高くする。
【0061】
フラックス法では、窒素原子を含む気体を含む雰囲気下で単結晶を育成する。このガスは窒素ガスが好ましいが、アンモニアでもよい。
雰囲気中の窒素原子を含む気体以外のガスは限定されないが、不活性ガスが好ましく、アルゴン、ヘリウム、ネオンが特に好ましい。
【0062】
育成の初期段階では、前記した(1A)〜(4A)の条件下で、1時間以上保持することが好ましく、2時間以上保持することが更に好ましい。また、初期段階での保持時間は5時間以下が好ましい。
【0063】
融液における13族元素窒化物/フラックス(例えばナトリウム)の比率(mol比率)は、本発明の観点からは、高くすることが好ましく、15mol%以上が好ましく、25mol%以上が更に好ましい。ただし、この割合が大きくなり過ぎると結晶品質が落ちる傾向があるので、40mol%以下が好ましい。
【0064】
(結晶層の加工および形態)
好適な実施形態においては、13族元素窒化物結晶層が円板状であるが、角板などの他の形態でも良い。また、好適な実施形態においては、結晶層の寸法が、直径φ25mm以上である。これによって、機能素子の量産に適した、取り扱い易い結晶層を提供できる。
【0065】
13族元素窒化物結晶層の表面を研削、研磨加工する場合について述べる。
研削(グライディング)とは、砥粒をボンドで固定した固定砥粒を高速回転させながら対象物に接触させて、対象物の面を削り取ることをいう。かかる研削によって、粗い面が形成される。窒化ガリウム基板の底面を研削する場合、硬度の高いSiC、Al
2O
3、ダイヤモンドおよびCBN(キュービックボロンナイトライド、以下同じ)などで形成され、粒径が10μm以上100μm以下程度の砥粒を含む固定砥粒が好ましく用いられる。
【0066】
また、研磨(ラッピング)とは、遊離砥粒(固定されていない砥粒をいう、以下同じ)を介して定盤と対象物とを互いに回転させながら接触させて、または固定砥粒と対象物とを互いに回転させながら接触させて、対象物の面を磨くことをいう。かかる研磨によって、研削の場合よりも面粗さが小さい面であって微研磨(ポリシング)の場合より粗い面が形成される。硬度の高いSiC、Al
2O
3、ダイヤモンドおよびCBNなどで形成され、粒径が0.5μm以上15μm以下程度の砥粒が好ましく用いられる。
【0067】
微研磨(ポリシング)とは、遊離砥粒を介して研磨パッドと対象物とを互いに回転させながら接触させて、または固定砥粒と対象物とを互いに回転させながら接触させて、対象物の面を微細に磨いて平滑化することをいう。かかる微研磨によって、研磨の場合よりも面粗さが小さい結晶成長面が形成される。
【0068】
(機能層および機能素子)
前述した機能層は、単一層であってよく、複数層であってよい。また、機能としては、高輝度・高演色性の白色LEDや高速高密度光メモリ用青紫レーザディスク、ハイブリッド自動車用のインバータ用のパワーデバイスなどに用いることができる。
【0069】
13族元素窒化物結晶層上に気相法、好ましくは有機金属気相成長(MOCVD)法により半導体発光ダイオード(LED)を作製すると、LED内部の転位密度が前記結晶層と同等となる。
【0070】
機能層の成膜温度は、成膜速度の観点から、950℃以上が好ましく、1000℃以上が更に好ましい。また、欠陥を抑制するという観点からは、機能層の成膜温度は、1200℃以下が好ましく、1150℃以下が更に好ましい。
【0071】
機能層の材質は、13族元素窒化物が好ましい。13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。
【0072】
発光素子構造は、例えば、n型半導体層、このn型半導体層上に設けられた発光領域およびこの発光領域上に設けられたp型半導体層を備えている。
図1(c)の発光素子15では、複合基板4上に、n型コンタクト層5a、n型クラッド層5b、活性層5c、p型クラッド層5d、p型コンタクト層5eが形成されており、発光素子構造5を構成する。
【0073】
また、前記発光構造には、更に、図示しないn型半導体層用の電極、p型半導体層用の電極、導電性接着層、バッファ層、導電性支持体などを設けることができる。
【0074】
本発光構造では、半導体層から注入される正孔と電子の再結合によって発光領域で光が発生すると、その光をp型半導体層上の透光性電極又は13族元素窒化物単結晶膜側から取り出す。なお、透光性電極とは、p型半導体層のほぼ全面に形成された金属薄膜又は透明導電膜からなる光透過性の電極のことである。
【0075】
n型半導体層、p型半導体層を構成する半導体の材質は、III −V 族系化合物半導体からなり、以下を例示できる。
Al
yIn
xGa
1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1)
n型導電性を付与するためのドープ材としては、珪素、ゲルマニウム、酸素を例示できる。また、p型導電性を付与するためのドープ材としては、マグネシウム、亜鉛を例示できる。
【0076】
発光構造を構成する各半導体層の成長方法は、種々の気相成長方法を挙げることができる。例えば、有機金属化合物気相成長法(MOCVD(MOVPE)法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライト気相成長法(HVPE法)等を用いることができる。その中でもMOCVD法によると、各半導体層の結晶性や平坦度の良好なものを得ることができる。MOCVD法では、GaソースとしてTMG(トリメチルガリウム)、TEG(トリエチルガリウム)などのアルキル金属化合物が多く使用され、窒素源としては、アンモニア、ヒドラジンなどのガスが使用される。
【0077】
発光領域は、量子井戸活性層を含む。量子井戸活性層の材料は、n型半導体層およびp型半導体層の材料よりもバンドギャップが小さくなるように設計される。量子井戸活性層は単一量子井戸(SQW)構造であっても多重量子井戸(MQW)構造であってもよい。量子井戸活性層の材質は以下を例示できる。
【0078】
量子井戸活性層の好適例として、AlxGa1-xN/AlyGa1-yN系量子井戸活性層(x=0.15、y=0.20)であって、膜厚がそれぞれ3nm/8nmであるものを3〜10周期形成させたMQW構造が挙げられる。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
(種結晶基板の作製)
MOCVD法を用いて、直径2インチ、厚さ500μmのc面サファイア基板の上に、530℃にて、低温GaNバッファ層を40nm堆積させた。次いで、1050℃にて、厚さ3μmのGaNからなる種結晶膜を堆積させた。TEM観察による欠陥密度は、1×10
9/cm
2であった。有機溶剤、超純水でそれぞれ10分間超音波洗浄した後に乾燥させて、これを種結晶基板とした。
【0080】
(液相法GaN結晶成長)
不活性ガスを充填したグローブボックス中で、金属Gaと金属Naをモル比20:80で秤量し、種結晶基板とともに、アルミナ製のルツボの底に配置した。ルツボをステンレス製の保持容器に収納し、この保持容器を、予め真空ベークしてある耐圧容器内に備えられた回転台の上に設置した後、耐圧容器に蓋をして密閉した。次いで、耐圧容器内を真空ポンプにて0.1Pa以下まで真空引きした。
【0081】
続いて、耐圧容器内部に設置したヒーターを発熱させることで、ルツボ内の原料を融解させ、Ga−Na混合融液を生じさせた。融液表面近傍が870℃、坩堝底部が850℃になるように加熱しながら、3.5MPaになるまで窒素ガスボンベから窒素ガスを導入して結晶成長を開始した(初期段階)。
【0082】
5時間後に、坩堝底部温度を850℃に維持したまま、融液表面近傍温度を850℃に変化させ、圧力を4.0MPaに変化させると同時に、回転台の連続的な反転による撹拌を開始して、結晶成長モードを変化させた。回転条件は、中心軸周りに20rpmの速度で一定周期の時計回りと反時計回りで回転させた。加速時間=12秒、保持時間=600秒、減速時間=12秒、停止時間=0.5秒とした(後期段階)。この状態で20時間保持した後、室温まで自然冷却し、成長した窒化ガリウム結晶板を回収した。
【0083】
得られた窒化ガリウム結晶板の表面を研磨加工し、カソードルミネッセンス法により転位密度を評価したところ、2×10
5/cm
2であった。次いで断面を研磨加工し、TEM観察を行ったところ、
図3、
図5に示すような微構造が観察された。
【0084】
また、断面の蛍光顕微鏡観察により結晶成長履歴を調べたところ、柱状に成長した結晶が途中で成長モードが変化し、平滑に成長している様子が観察された(
図6参照)。ただし、蛍光顕微鏡像は、以下のようにして得た。
装置: オリンパス製 BX61等
測定条件: 励起フィルター BP340-390nm
吸収フィルター BA420IF
ダイクロイックミラー DM410
観察視野: 対物レンズ5倍および20倍
ソフト: 市販の画像取り込みソフト(Adobe Photoshop、ImageJ等)
【0085】
また、界面層の厚さは5μmであった。成長層における転位密度は5×10
5/cm
2であった。
【0086】
得られた基板上に、青色LED構造を成膜し、その発光特性を測定した。1mm角のLEDチップの発光強度の面内分布は、均一性が高く、外周部と中央で違いはみられなかった。また、350mAでの電流駆動時の発光特性における光出力が200mW以上のチップの割合は75%と高かった。
【0087】
(実施例2)
実施例1と同様にしてGaN結晶を育成した。ただし、実施例1において、以下の点を変更した。
【0088】
初期段階で10時間保持した後、後期段階の結晶成長を行った。即ち、融液表面近傍が870℃、坩堝底部が850℃になるように加熱しながら、3.5MPaになるまで窒素ガスボンベから窒素ガスを導入して結晶成長を開始した(初期段階)。10時間後に、坩堝底部温度を850℃に維持したまま、融液表面近傍温度を850℃に変化させ、圧力を4.0MPaに変化させると同時に、回転台の連続的な反転による撹拌を開始して、結晶成長モードを変化させた(後期段階)。
【0089】
この結果、
図3、
図5に示すような微構造が観測された。界面層の厚さは15μmであった。また、成長層における転位密度は1×10
5/cm
2であった。
【0090】
得られた基板上に、青色LED構造を成膜し、その発光特性を測定した。1mm角のLEDチップの発光強度の面内分布は、均一性が高く、外周部と中央で違いはみられなかった。また、350mAでの電流駆動時の発光特性における光出力が200mW以上のチップの割合は80%と高かった。
【0091】
(比較例1)
実施例1において、結晶成長初期に前述の「初期段階」の育成を行わず、全体にわたって「後期段階」の製造条件で結晶育成を行った。これ以外は実施例1と同様に実験を行った。
【0092】
回収した窒化ガリウム結晶板の表面を研磨加工し、カソードルミネッセンス法により転位密度を評価したところ、2×10
7/cm
2であった。次いで、結晶断面を研磨加工し、TEM観察を行った。この結果、界面Iから転位が斜め方向に向かって伸び、成長に伴って重合し、転位束を形成していた。
【0093】
この基板上に、青色LED構造を成膜し、その発光特性を測定した。1mm角のLEDチップの発光強度の面内分布は、均一性が低くく、発光強度が低い領域がまばらに観察された。また、350mAでの電流駆動時の発光特性における光出力が200mW以上のチップの割合は50%と実施例に比べて有意に低かった。光出力が低いチップのリーク電流特性を調べたところ、低電圧の領域からリーク電流が発生していることが確認され、光出力が低い原因がリーク電流にあることがわかった。
また、本比較例について、初期転位の99%が終端したときの厚さは60μmであった。