(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記酸化亜鉛系結晶から構成される層の形成に先立ち、前記配向多結晶焼結体上に、酸化亜鉛系材料からなる種結晶層を、前記配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように形成する工程を更に含む、請求項8に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
酸化亜鉛自立基板
本発明の酸化亜鉛基板は自立基板の形態を有しうる。本発明において「自立基板」とは、取り扱う際に自重で変形又は破損せず、固形物として取り扱うことのできる基板を意味する。酸化亜鉛自立基板の厚さは基板に自立性を付与できるかぎり特に限定されないが、20μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは300μm以上である。酸化亜鉛自立基板の厚さに上限は規定されるべきではないが、製造コストの観点では3000μm以下が現実的である。
【0011】
本発明の酸化亜鉛自立基板は、略法線方向に単結晶構造を有する複数の酸化亜鉛系単結晶粒子で構成される板からなる。すなわち、酸化亜鉛自立基板は、水平面方向に二次元的に連結されてなる複数の酸化亜鉛系単結晶粒子で構成されており、それ故、略法線方向には単結晶構造を有することになる。したがって、酸化亜鉛自立基板は、全体としては単結晶ではないものの、局所的なドメイン単位では単結晶構造を有するため、発光素子、受光素子、太陽電池、フォトニック結晶、マイクロ紫外レーザー、圧電体、ガスセンサー等の各種デバイス用基板として用いることができる。そうでありながら、本発明の酸化亜鉛自立基板は単結晶基板ではない。前述のとおり、単結晶基板は一般的に面積が小さく且つ高価なものである。特に、近年、大面積基板を用いたLED製造の低コスト化が求められてきているが、大面積の単結晶基板を量産することは容易なことではなく、その製造コストはさらに高くなる。これに対し、本発明によれば、安価で且つ大面積化にも適した、酸化亜鉛単結晶基板の好ましい代替材料として有用な酸化亜鉛自立基板を提供することができる。
【0012】
好ましくは、自立基板を構成する複数の酸化亜鉛系単結晶粒子は、略法線方向に概ね揃った結晶方位を有する。「略法線方向に概ね揃った結晶方位」とは、必ずしも法線方向に完全に揃った結晶方位とは限らず、自立基板を用いた発光素子等のデバイスが所望のデバイス特性を確保できるかぎり、法線ないしそれに類する方向にある程度揃った結晶方位であってよいことを意味する。製法由来の表現をすれば、酸化亜鉛系単結晶粒子は、酸化亜鉛自立基板の製造の際に下地基材として使用した配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造を有するともいえる。「配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣って成長した構造」とは、配向多結晶焼結体の結晶方位の影響を受けた結晶成長によりもたらされた構造を意味し、必ずしも配向多結晶焼結体の結晶方位に完全に倣って成長した構造であるとは限らず、自立基板を用いた発光素子等のデバイスが所望のデバイス特性を確保できるかぎり、配向多結晶焼結体の結晶方位にある程度倣って成長した構造であってよい。すなわち、この構造は配向多結晶焼結体と異なる結晶方位に成長する構造も含む。その意味で、「結晶方位に概ね倣って成長した構造」との表現は「結晶方位に概ね由来して成長した構造」と言い換えることもでき、この言い換え及び上記意味は本明細書中の同種の表現に同様に当てはまる。したがって、そのような結晶成長はエピタキシャル成長によるものが好ましいが、これに限定されず、それに類する様々な結晶成長の形態であってもよい。いずれにしても、このように成長することで、酸化亜鉛自立基板は略法線方向に関しては結晶方位が概ね揃った構造とすることができる。
【0013】
したがって、酸化亜鉛自立基板は、法線方向に見た場合に単結晶と観察され、水平面方向の切断面で見た場合に粒界が観察される柱状構造の酸化亜鉛系単結晶粒子の集合体であると捉えることも可能である。ここで、「柱状構造」とは、典型的な縦長の柱形状のみを意味するのではなく、横長の形状、台形の形状、及び台形を逆さにしたような形状等、種々の形状を包含する意味として定義される。もっとも、上述のとおり、酸化亜鉛自立基板は法線ないしそれに類する方向にある程度揃った結晶方位を有する構造であればよく、必ずしも厳密な意味で柱状構造である必要はない。柱状構造となる原因は、前述のとおり、酸化亜鉛自立基板の製造に用いられる配向多結晶焼結体の結晶方位の影響を受けて酸化亜鉛単結晶粒子が成長するためと考えられる。このため、柱状構造ともいえる酸化亜鉛単結晶粒子の断面の平均粒径(以下、断面平均径という)は成膜条件だけでなく、配向多結晶焼結体の板面の平均粒径にも依存するものと考えられる。
【0014】
酸化亜鉛自立基板を構成する酸化亜鉛系単結晶粒子の結晶性は高くなる傾向があり、転位等の欠陥の密度を低く抑えることができる。このため、発光デバイス等のある種の用途においては、酸化亜鉛自立基板を市販の酸化亜鉛単結晶基板に比べて好ましく用いることすら可能になるものと考えられる。例えば、エピタキシャル成長により酸化亜鉛自立基板上に機能層を作製する場合、機能層は下地の酸化亜鉛自立基板に概ね倣って成長し、柱状構造の集合体となる。エピタキシャル成長では下地の結晶品質を引き継ぐため、機能層を構成する柱状構造の各ドメイン単位では高い結晶品質を得ることができる。酸化亜鉛自立基板を構成する結晶粒子の欠陥密度が低い理由は定かではないが、酸化亜鉛自立基板の作製初期で生じた格子欠陥のうち水平方向に傾いて進展するものが成長に伴って粒界に吸収されて消滅するためと考えられる。また、各単結晶粒子の水平方向の境界を画定する粒界は水平方向に光が透過した際に散乱ないし反射する効果がある。このため、酸化亜鉛自立基板を法線方向に光を取り出す構造の発光デバイスに適用した場合、粒界からの散乱光により輝度が高まる効果も期待される。
【0015】
もっとも、酸化亜鉛自立基板を構成する柱状構造同士の界面は結晶性が低下するため、粒径が大きく粒界面積が小さいことが必要であり、柱状構造の断面平均径は少なくとも1μmを超える大きさが必要である。また、発光素子等の光デバイス用基板として用いる場合、断面平均径が十分に大きくないと法線方向の可視光透過率が低下するため好ましくない。このため、酸化亜鉛自立基板の単結晶粒子の断面平均径は3μm以上が好ましく、10μm以上が更に好ましい。この断面平均径の上限は特に限定されないが、1000μm以下が現実的である。なお、「断面平均径」の算出方法は下記のとおり行うものとする。まず酸化亜鉛自立基板の断面を研磨し、走査電子顕微鏡を用いて断面の画像を撮影する。視野領域は、厚み方向に線分を引いたときに、(a)線分の中央と、(b)線分の中央から片端部までの間を二等分した位置、(c)線分の中央から上記(b)と反対側の端部までの間を二等分した位置の各位置において、水平方向に直線を引いた場合に10個から30個の単結晶粒子と交わるような直線が引けるような範囲とする。得られた画像において、(a)、(b)及び(c)の各位置で単結晶粒子の柱状組織を横切るように水平な直線を引き、各直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を、酸化亜鉛自立基板を構成する酸化亜鉛系単結晶粒子の断面平均径とする。なお、酸化亜鉛自立基板を構成する柱状組織の界面(粒界)が不明瞭な場合はサーマルエッチング、ケミカルエッチング、プラズマエッチング等の処理を行い、界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。また、上記と同様の評価ができる限り、視野を分割して個別に撮影し、評価してもよい。
【0016】
上述したような断面平均径の単結晶粒子を作製するには、酸化亜鉛自立基板の製造に用いられる配向多結晶焼結体を構成する粒子の板面における焼結粒径を1μm〜1000μmとするのが望ましく、より望ましくは3μm〜1000μm、更に望ましくは10μm〜1000μmである。
【0017】
酸化亜鉛自立基板を構成する酸化亜鉛系単結晶粒子は、ドーパントを含むものであってよいし、ドーパントを含まないものであってもよい。ここで、「ドーパントを含まない」とは何らかの機能ないし特性の付与を意図して添加された元素を含まないことを意味し、不可避不純物の含有が許容されるのはいうまでもない。あるいは、酸化亜鉛自立基板を構成する酸化亜鉛系単結晶粒子は、n型ドーパント又はp型ドーパントでドープされていてもよく、この場合、酸化亜鉛自立基板を、半導体特性を有する機能層として使用することができる。p型ドーパントの好ましい例としては、窒素(N)、リン(P)、砒素(As)、カーボン(C)、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、銀(Ag)及び銅(Cu)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。n型ドーパントの好ましい例としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、硼素(B)、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)及びシリコン(Si)からなる群から選択される1種以上が挙げられる。
【0018】
酸化亜鉛自立基板を構成する酸化亜鉛系単結晶粒子は、バンドギャップの制御のため混晶化されていてもよい。好ましくは、酸化亜鉛単結晶粒子は、MgO、CdO、ZnS、ZnSe及びZnTeからなる群から選択される1種以上の結晶と混晶化されたZnOからなるものであってもよく、p型酸化亜鉛及び/又はn型酸化亜鉛単結晶粒子はこの混晶化された酸化亜鉛にp型ドーパント又はn型ドーパントがドープされていてもよい。例えば、ZnOとMgOの混晶であるZn
xMg
1−xOにNをドーピングすることでp型基板として使用することができる。
【0019】
酸化亜鉛自立基板は直径50.8mm(2インチ)以上の大きさを有するのが好ましく、より好ましくは直径100mm(4インチ)以上であり、さらに好ましくは直径200mm(8インチ)以上である。酸化亜鉛自立基板は大きければ大きいほど作製可能な素子の個数が増えるため、製造コストの観点で好ましい。また、発光素子用基板として用いる場合は素子面積の自由度が増え面発光照明等への用途が広がる点で好ましく、その面積ないし大きさに上限は規定されるべきではない。なお、酸化亜鉛自立基板は上面視で円形状あるいは実質的に円形状であることが好ましいが、これに限定されない。円形状あるいは実質的に円形状ではない場合、面積として、2026mm
2以上であることが好ましく、より好ましくは7850mm
2以上であり、さらに好ましくは31400mm
2以上である。もっとも、大面積を要しない用途については、上記範囲よりも小さい面積、例えば直径50.8mm(2インチ)以下、面積換算で2026mm
2以下としてもよい。
【0020】
製造方法
本発明の酸化亜鉛自立基板は、(1)配向多結晶焼結体を用意し、(2)配向多結晶焼結体上に、厚さ20μm以上の酸化亜鉛系結晶から構成される層を、配向多結晶燒結体の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように形成し、(3)配向多結晶焼結体を除去して、酸化亜鉛自立基板を得ることにより製造することができる。
【0021】
(1)配向多結晶焼結体
酸化亜鉛自立基板を作製するための下地基板として、配向多結晶焼結体を用意する。配向多結晶焼結体の組成は特に限定されないが、配向多結晶焼結体が、酸化亜鉛(ZnO)、アルミナ(Al
2O
3)、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ガリウム(GaN)からなる群より選択される1種を主成分(ないし主相)として含んでなるのが好ましく、更に好ましくはアルミナ又は酸化亜鉛である。配向多結晶焼結体は、不可避不純物、n型若しくはp型ドーパント、及び/又は焼結助剤を含んでいてもよく、異種材料との混晶(例えば配向ZnMgO等)を含んでなるものであってもよい。配向多結晶焼結体は、商業的に入手可能な板状粉末を用いて成形及び焼成を経て効率的に製造できるため、低コストで製造できるだけでなく、成形しやすいが故に大面積化にも適する。そして、本発明者らの知見によれば、配向多結晶焼結体を下地基板として用い、その上に複数の酸化亜鉛系単結晶粒子を成長させることで、各種デバイス用基板として有用な酸化亜鉛自立基板を製造することができる。
【0022】
配向多結晶焼結体は、多数の単結晶粒子を含んで構成される焼結体からなり、多数の単結晶粒子が一定の方向にある程度又は高度に配向したものである。このように配向された多結晶焼結体を用いることで略法線方向に概ね揃った結晶方位を有する酸化亜鉛自立基板を作製可能であり、酸化亜鉛自立基板上に酸化亜鉛や窒化ガリウム等の半導体材料をエピタキシャル成長又はこれに類する結晶成長により形成した場合、略法線方向に結晶方位が概ね揃った状態が実現される。このため、そのような配向性の高い酸化亜鉛自立基板を発光素子等のデバイス用基板として用いれば、機能層を同様に略法線方向に結晶方位が概ね揃った状態で形成することができ、単結晶基板を用いた場合と同等の高いデバイス特性(例えば発光効率)を実現できる。あるいは、この配向性の高い酸化亜鉛自立基板を発光素子等のデバイスの機能層として用いた場合であっても、単結晶基板を用いた場合と同等の高いデバイス特性(例えば発光効率)を実現できる。いずれにしても、このような配向性が高い酸化亜鉛自立基板を作製するには配向多結晶焼結体を下地基板として用いる必要がある。配向多結晶焼結体を得る製法としては、通常の常圧焼結法に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)などの加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法を用いることができる。
【0023】
配向多結晶焼結体は直径50.8mm(2インチ)以上の大きさを有するのが好ましく、より好ましくは直径100mm(4インチ)以上であり、さらに好ましくは直径200mm(8インチ)以上である。配向多結晶焼結体は大きければ大きいほど作製可能な酸化亜鉛自立基板の面積が増え、それにより作製可能な発光素子の個数が増えるため、製造コストの観点で好ましい。また、発光素子用基板として用いる場合は素子面積の自由度が増え面発光照明等への用途が広がる点で好ましく、その面積ないし大きさに上限は規定されるべきではない。なお、酸化亜鉛自立基板は上面視で円形状あるいは実質的に円形状であることが好ましいが、これに限定されない。円形状あるいは実質的に円形状ではない場合、面積として、2026mm
2以上であることが好ましく、より好ましくは7850mm
2以上であり、さらに好ましくは31400mm
2以上である。もっとも、大面積を要しない用途については、上記範囲よりも小さい面積、例えば直径50.8mm(2インチ)以下、面積換算で2026mm
2以下としてもよい。配向多結晶焼結体の厚さは自立する限り特に限定はないが、厚すぎると製造コストの観点では好ましくない。従って、20μm以上が好ましく、より好ましくは100μm以上であり、さらに好ましくは100〜1000μmである。
【0024】
配向多結晶焼結体を構成する粒子の板面における焼結粒径は1μm〜1000μmとするのが好ましく、より好ましくは3μm〜1000μm、さらに好ましくは10μm〜1000μmである。このような範囲内の焼結粒径であると、断面平均径が1μmを超える酸化亜鉛系単結晶粒子を作製しやすくなる。配向多結晶燒結体の焼結粒径は材料間で異なるが、焼成温度等の焼成条件や原料粒径の制御、焼結助剤の添加等により好ましく調整することができる。なお、本発明における焼結体粒子の板面における平均粒径は以下の方法により測定されるものである。すなわち、板状焼結体の板面を研磨し、走査電子顕微鏡にて画像を撮影する。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とする。得られた画像の対角線に2本の直線を引いて、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を板面の平均粒径とする。なお、板面の走査顕微鏡像で明瞭に焼結体粒子の界面を判別できない場合は、サーマルエッチング(例えば1550℃で45分間)やケミカルエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。
【0025】
配向多結晶焼結体の材質や配向面方位は、酸化亜鉛の結晶構造に類似し、酸化亜鉛膜が下地に倣って成長することができれば特に限定されない。例えば、配向酸化亜鉛焼結体を用いた場合は、その配向面方位が(002)面であってもよいし、(100)面であってもよいし、(110)面であってもよいし、(101)面であってもよいし、他の面であってもよい。配向度については、例えば、基板表面における配向度が50%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上である。この配向度はロットゲーリング法を用いて算出することができる。例えば、c面配向酸化亜鉛焼結体を評価する場合にはXRD装置(例えば、株式会社リガク製、製品名「RINT−TTR III」)を用い、板状酸化亜鉛の表面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、以下の式により算出することにより得られるものである。
【数1】
【0026】
また、配向多結晶アルミナ焼結体も好ましい配向多結晶焼結体である。アルミナは酸化アルミニウム(Al
2O
3)であり、典型的には単結晶サファイアと同じコランダム型構造を有するα−アルミナであり、配向多結晶アルミナ焼結体は無数のアルミナ結晶粒子が配向された状態で焼結により互いに結合されてなる固体である。アルミナ結晶粒子はアルミナを含んで構成される粒子であり、他の元素として、ドーパント及び不可避不純物を含んでいてもよいし、アルミナ及び不可避不純物からなるものであってもよい。また、配向多結晶アルミナ焼結体も、アルミナ結晶粒子以外に他の相又は上述したような他の元素を含んでいてもよいが、好ましくはアルミナ結晶粒子及び不可避不純物からなる。また、配向多結晶アルミナ焼結体の配向面は特に限定がなく、c面、a面、r面又はm面などであってもよい。
【0027】
配向多結晶アルミナ焼結体の配向結晶方位は特に限定されるものではなく、c面、a面、r面又はm面などであってもよく、酸化亜鉛自立基板との格子定数マッチングの観点でc面又はa面に配向しているのが好ましい。配向度については、例えば、板面における配向度が50%以上であるのが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上であり、特に好ましくは85%であり、特により好ましくは90%以上であり、最も好ましくは95%以上である。この配向度は、XRD装置(例えば、株式会社リガク製、RINT−TTR III)を用い、板状アルミナの板面に対してX線を照射したときのXRDプロファイルを測定し、以下の式により算出することにより得られるものである。
【数2】
【0028】
配向多結晶アルミナ焼結体は、板状アルミナ粉末を原料として用いて成形及び焼結を行うことにより製造することができる。板状アルミナ粉末は市販されており、商業的に入手可能である。好ましくは、板状アルミナ粉末を、せん断力を用いた手法により配向させ、配向成形体とすることができる。せん断力を用いた手法の好ましい例としては、テープ成形、押出し成形、ドクターブレード法、及びこれらの任意の組合せが挙げられる。せん断力を用いた配向手法は、上記例示したいずれの手法においても、板状アルミナ粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、基板上にシート状に吐出及び成形するのが好ましい。吐出口のスリット幅は10〜400μmとするのが好ましい。なお、分散媒の量はスラリー粘度が5000〜100000cPとなるような量にするのが好ましく、より好ましくは20000〜60000cPである。シート状に成形した配向成形体の厚さは5〜500μmであるのが好ましく、より好ましくは10〜200μmである。このシート状に成形した配向成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さを有する前駆積層体とし、この前駆積層体にプレス成形を施すのが好ましい。このプレス成形は前駆積層体を真空パック等で包装して、50〜95℃の温水中で10〜2000kgf/cm
2の圧力で静水圧プレスにより好ましく行うことができる。また、押出し成形を用いる場合には、金型内の流路の設計により、金型内で細い吐出口を通過した後、シート状の成形体が金型内で一体化され、積層された状態で成形体が排出されるようにしてもよい。得られた成形体には公知の条件に従い脱脂を施すのが好ましい。上記のようにして得られた配向成形体を通常の常圧焼成に加え、熱間等方圧加圧法(HIP)、ホットプレス法(HP)、放電プラズマ焼結(SPS)などの加圧焼結法、及びこれらを組み合わせた方法にて焼成し、アルミナ結晶粒子を配向して含んでなるアルミナ焼結体を形成する。上記焼成での焼成温度や焼成時間は焼成方法によって異なるが、焼成温度は1100〜1900℃、好ましくは1500〜1800℃、焼成時間は1分間〜10時間、好ましくは30分間〜5時間である。ホットプレスにて1500〜1800℃で2〜5時間、面圧100〜200kgf/cm
2の条件で焼成する第一の焼成工程と、得られた焼結体を熱間等方圧加圧法(HIP)にて1500〜1800℃で30分間〜5時間、ガス圧1000〜2000kgf/cm
2の条件で再度焼成する第二の焼成工程を経て行われるのがより好ましい。上記焼成温度での焼成時間は特に限定されないが、好ましくは1〜10時間であり、より好ましくは2〜5時間である。こうして得られたアルミナ焼結体は、前述した原料となる板状アルミナ粉末の種類によりc面等の所望の面に配向した多結晶アルミナ焼結体となる。こうして得られた配向多結晶アルミナ焼結体を砥石で研削して板面を平坦にした後、ダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工により板面を平滑化して配向アルミナ基板とするのが好ましい。
【0029】
(2)酸化亜鉛結晶層の形成
配向多結晶焼結体上に、厚さ20μm以上の酸化亜鉛系結晶から構成される層(以下、酸化亜鉛結晶層という)を、配向多結晶燒結体の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように形成する。酸化亜鉛結晶層の形成方法は、固相エピタキシャル成長法、水溶液析出法、水熱法、スピンコート法、ディッピング法などの液相エピタキシャル法等の方法から選ばれる少なくとも1種以上が好ましく例示される。固相エピタキシャル成長法は、例えば、基板上にエアロゾルデポジション法(AD法)により成膜しておき、被膜加熱により単結晶化することにより好ましく行うことができる。また、液相エピタキシャル成長法は厚い酸化亜鉛結晶層を形成するのに適しており、水溶液析出法、又は水熱法が特に適する。
【0030】
酸化亜鉛結晶層の形成に先立ち、配向多結晶焼結体上に、酸化亜鉛系材料からなる種結晶層を、配向多結晶焼結体の結晶方位に概ね倣った結晶方位を有するように形成してもよい。これは、配向多結晶焼結体として酸化亜鉛と異なる材質を用いる場合に有効な手法である。種結晶の組成や構造に限定はないが、酸化亜鉛と格子定数が近い結晶構造を持つものであればよく、例えば酸化亜鉛、窒化ガリウム、及びそれらを主成分とする混晶などが挙げられる。また、種結晶層の成膜方法には特に限定がないが、MOCVD(有機金属気相成長法)、MBE(分子線エピタキシー法)、スパッタリング法等の気相法としてもよい。
【0031】
(3)配向多結晶焼結体の除去
配向多結晶焼結体を除去して、酸化亜鉛自立基板を得る。配向多結晶焼結体を除去する方法は、特に限定されないが、研削加工、ケミカルエッチング、配向多結晶焼結体側からのレーザー照射による界面加熱(レーザーリフトオフ)、昇温時の熱膨張差を利用した自発剥離等が挙げられる。
【実施例】
【0032】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0033】
例1:配向Al
2O
3焼結体を用いた自立配向ZnO基板の作製
(1)c面配向アルミナ焼結体の作製
原料として、板状アルミナ粉末(キンセイマテック株式会社製、グレード00610)を用意した。板状アルミナ粒子100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)7重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)3.5重量部と、分散剤(レオドールSP−O30、花王株式会社製)2重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)を混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。上記のようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるように、シート状に成形した。得られたテープを口径50.8mm(2インチ)の円形に切断した後150枚積層し、厚さ10mmのAl板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm
2の圧力にて静水圧プレスを行い、円盤状の成形体を得た。
【0034】
得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で10時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を黒鉛製の型を用い、ホットプレスにて窒素中1600℃で4時間、面圧200kgf/cm
2の条件で焼成した。得られた焼結体を熱間当方圧加圧法(HIP)にてアルゴン中1700℃で2時間、ガス圧1500kgf/cm
2の条件で再度焼成した。
【0035】
このようにして得た焼結体をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にし、口径2インチ50.8mm(2インチ)、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。更に砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは約80nmであった。
【0036】
(2)配向アルミナ基板の評価
(配向度の評価)
得られた配向アルミナ基板の配向度を確認するため、XRDにより本実験例における測定対象とする結晶面であるc面の配向度を測定した。XRD装置(株式会社リガク製、RINT−TTR III)を用い、配向アルミナ基板の板面に対してX線を照射したときの2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。c面配向度は、以下の式により算出した。この結果、本実験例におけるc面配向度の値は97%であった。
【数3】
【0037】
(焼結体粒子の粒径評価)
配向アルミナ基板の焼結体粒子について、板面の平均粒径を以下の方法により測定した。得られた配向アルミナ基板の板面を研磨し、1550℃で45分間サーマルエッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。得られた画像の対角線に引いた2本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を板面の平均粒径とした。この結果、板面の平均粒径は100μmであった。
【0038】
(3)ZnO自立基板の作製
(3a)種結晶層の成膜
RS−MBE(ラジカルソース分子線成長)装置にて、金属材料である亜鉛(Zn)をクヌーセンセルで照射し、配向アルミナ基板に供給した。ガス材料である酸素(O)は、RFラジカル発生装置にてそれぞれO
2ガスを原料とし、酸素ラジカルとして供給した。各種原料の純度はZnが7N、O
2が6Nのものを用いた。基板は抵抗加熱ヒーターを用いて700℃に加熱し、ZnとOの原子比が1対1となるように各種ガスソースのフラックスを制御しながら厚さ100nmのZnO層を成膜した。
【0039】
(3b)水溶液析出法によるZnO層の成膜
(3b−1)育成用水溶液の調製
育成用水溶液を作製するため、硝酸亜鉛及びヘキサメチレンテトラアミン(HMT)を純水中にそれぞれ0.1Mとなるように溶解させ、それぞれ溶液A及び溶液Bとした。スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウムを1−ブタノール中に0.1Mとなるように溶解させて溶液Cとした。これらの溶液に純水を加え、容積比で、溶液A:溶液B:溶液C:純水=5:5:2:10となるように混合及び撹拌して、育成用水溶液を得た。
【0040】
(3b−2)ZnO膜の析出
配向アルミナ基板を懸垂させて育成用水溶液中1リットル中に設置した。次に、防水加工を施したセラミックス製ヒーターとマグネチックスターラーを水溶液中に設置し、スターラーにより水溶液を緩やかに撹拌しつつ、ヒーターにより水溶液を加熱した。ヒーター温度で75℃まで昇温させて1時間保持することにより、配向アルミナ基板上にZnO膜を析出させた。育成用水溶液の調整と入れ替えを行った上で、ZnO膜の析出プロセスを50回実施した。その後、ZnO膜が析出した配向アルミナ基板を純水洗浄し、大気中にて60℃で乾燥処理した。こうして表面にZnO膜が形成された試料を得た。
【0041】
(3b−3)ZnO膜の評価結果
得られた試料を観察したところ、厚さ約900μmのZnO膜が析出していることが確認された。また、断面SEM観察を行ったところ、試料中に気孔やクラックは検出されなかった。
【0042】
(4)配向アルミナ基板の除去
試料の配向アルミナ基板部を砥石による研削加工により除去し、平滑化加工を施すことで、厚さ約500μmのZnO自立基板を得た。なお、平滑化加工においては、砥粒のサイズを3μmから0.1μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。
【0043】
(5)断面平均径の評価
ZnO自立基板の柱状組織の断面平均径を以下の方法により測定した。試料断面を研磨後、1250℃で45分間サーマルエッチングを行い、走査電子顕微鏡にて断面の画像を撮影した。視野範囲は、厚み方向に線分を引いたときに、(a)線分の中央と、(b)線分の中央から片端部までの間を二等分した位置と、(c)線分の中央から上記(b)と反対側の端部までの間を二等分した位置の各位置において、柱状組織を横切るように板面と水平に直線を引いた場合に10個から30個の柱状組織と交わるような直線が引けるような範囲とした。なお、低倍撮影では柱状組織の界面が不明瞭なため、適宜分割して撮影した。得られた画像に対し、(a)、(b)及び(c)の各位置で柱状組織を横切るように水平な直線を引き、各直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を、ZnO自立基板を構成するZnO単結晶粒子の断面平均径とした。この結果、断面平均径は約100μmであった。なお、本例ではサーマルエッチングした断面の走査顕微鏡像で明瞭に界面を判別できたが、ケミカルエッチングやプラズマエッチングによって界面を際立たせる処理を施した後に上記の評価を行ってもよい。
【0044】
例2:配向ZnO焼結体を用いた自立配向ZnO基板の作製
(1)c面配向ZnO焼結体の作製
(1a)板状酸化亜鉛粉末の作製
c面配向ZnO粉末を次のようにして作製した。硫酸亜鉛七水和物(高純度化学研究所製)173重量部とグルコン酸ナトリウム(和光純薬工業製)0.45重量部をイオン交換水300重量部に溶解した。こうして得られた溶液をビーカーに入れ、マグネットスターラーで攪拌しながら90℃に加熱して溶解させた。この溶液を90℃に保持し、攪拌しながら25%アンモニウム水49重量部をマイクロチューブポンプで滴下した。滴下終了後、90℃で攪拌しながら4時間保持した後、溶液を多量のイオン交換水に投入し、静置した。容器の底部に堆積した沈殿物をろ過により分離し、更にイオン交換水による洗浄を3回行い、乾燥して白色粉末状の酸化亜鉛前駆物質を得た。得られた酸化亜鉛前駆物質をジルコニア製のセッターに載置し、電気炉にて大気中で仮焼することにより、酸化亜鉛板状多孔質粉末を得た。仮焼時の温度スケジュールは、室温から900℃まで昇温速度100℃/hにて昇温した後、900℃で30分間保持し、自然放冷とした。
【0045】
(1b)成形及び焼成工程
得られた酸化亜鉛板状粒子100重量部に対し、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM−2、積水化学工業株式会社製)15重量部と、可塑剤(DOP:ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、黒金化成株式会社製)10重量部と、分散剤(製品名レオドールSP−O30、花王株式会社製)3重量部と、分散媒(2−エチルヘキサノール)とを混合した。分散媒の量はスラリー粘度が10000cPとなるように調整した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法により、PETフィルムの上に、乾燥後の厚さが20μmとなるようにシート状に成形した。得られたテープを20×20cmのシートに切断し、500枚の切断テープ片を積層し、厚さ10mmのアルミニウム板の上に載置した後、真空パックを行った。この真空パックを85℃の温水中で、100kgf/cm2の圧力にて静水圧プレスを行い、板状の成形体を作製した。得られた成形体を脱脂炉中に配置し、600℃で20時間の条件で脱脂を行った。得られた脱脂体を窒素中、1400℃で5時間の条件で常圧焼成して、板状の配向ZnO焼結体基板を作製した。
【0046】
このようにして得た焼結体から口径50.8mm(2インチ)の円板を切り出した。円板をセラミックスの定盤に固定し、砥石を用いて#2000まで研削して板面を平坦にし、口径2インチ、厚さ1mmの配向アルミナ焼結体を配向アルミナ基板として得た。更に砥粒のサイズを3μmから0.5μmまで段階的に小さくしつつ、平坦性を高めた。加工後の平均粗さRaは約50nmであった。
【0047】
(2)焼結体基板の評価
得られた配向ZnO基板について以下の評価を行った。
【0048】
(配向度の評価)
得られた配向ZnO基板の配向度を確認するため、XRDにより本実験例における測定対象とする結晶面であるc面の配向度を測定した。XRD装置(株式会社リガク製、RINT−TTR III)を用い、配向ZnO基板の板面に対してX線を照射したときの2θ=20〜70°の範囲でXRDプロファイルを測定した。c面配向度は、以下の式により算出した。この結果、本実験例におけるc面配向度の値は80%であった。
【数4】
【0049】
(焼結体粒子の粒径評価)
配向ZnO基板の焼結体粒子について、板面の平均粒径を以下の方法により測定した。得られた配向ZnO基板の板面を研磨し、濃度0.3Mの硝酸にて10秒間エッチングを行った後、走査電子顕微鏡にて画像を撮影した。視野範囲は、得られる画像の対角線に直線を引いた場合に、いずれの直線も10個から30個の粒子と交わるような直線が引けるような視野範囲とした。得られた画像の対角線に引いた2本の直線において、直線が交わる全ての粒子に対し、個々の粒子の内側の線分の長さを平均したものに1.5を乗じた値を板面の平均粒径とした。この結果、板面の平均粒径は38μmであった。
【0050】
(3)ZnO自立基板の作製
配向アルミナ基板の代わりに配向ZnO基板を使用し、種結晶層を成膜しないこと以外は例1と同じ方法で厚さ約900μmのZnO膜を形成した。次に、例1と同様の方法で配向ZnO基板の除去と研削加工と断面平均径の評価を実施し、厚さ500μm、断面平均径約40μmのZnO自立基板を得た。
【0051】
例3:水熱法を用いた自立配向ZnO基板
硝酸亜鉛を純水中に0.1Mとなるように溶解させて溶液Aとした。次に1Mのアンモニア水を準備し、溶液Bとした。これらの溶液を容積比で、溶液A:溶液B=1:1となるように混合及び撹拌して、育成用水溶液を得た。次に、育成用水溶液1リットル中に例2の(1)と同じ方法で作製した配向ZnO基板を懸垂して設置し、オートクレーブに入れて270℃で24時間の水熱処理を行い、配向アルミナ基板上にZnO膜を析出させた。育成用水溶液の調整と入れ替えを行った上で、ZnO膜の析出プロセスを30回実施した後、大気中500℃でアニール処理を行い、厚さ約1000μmのZnO膜を形成した。次に、例1と同様の方法で配向ZnO基板の除去と研削加工、及び断面平均径の評価を実施し、厚さ500μm、断面平均径約40μmのZnO自立基板を得た。