特許第6385015号(P6385015)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6385015原子炉級ジルコニウム合金金属組織を伴う動的に付着された組成漸移型Zr−Al−CセラミックまたはTi−Al−Cセラミックまたは非晶質もしくは準非晶質ステンレス鋼
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  • 特許6385015-原子炉級ジルコニウム合金金属組織を伴う動的に付着された組成漸移型Zr−Al−CセラミックまたはTi−Al−Cセラミックまたは非晶質もしくは準非晶質ステンレス鋼 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385015
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】原子炉級ジルコニウム合金金属組織を伴う動的に付着された組成漸移型Zr−Al−CセラミックまたはTi−Al−Cセラミックまたは非晶質もしくは準非晶質ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
   C23C 24/04 20060101AFI20180827BHJP
   G21C 3/06 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C23C24/04
   G21C3/06 G
【請求項の数】19
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-516650(P2016-516650)
(86)(22)【出願日】2014年4月14日
(65)【公表番号】特表2016-540882(P2016-540882A)
(43)【公表日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】US2014033932
(87)【国際公開番号】WO2014193549
(87)【国際公開日】20141204
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】61/827,792
(32)【優先日】2013年5月28日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/205,799
(32)【優先日】2014年3月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】マゾコーリ、ジェイソン、ピー
(72)【発明者】
【氏名】シュウ、ペン
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−500187(JP,A)
【文献】 特開昭62−071801(JP,A)
【文献】 特開昭61−066997(JP,A)
【文献】 特開平02−194183(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/133609(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
C23C 4/00− 6/00
G21C 3/00− 3/64
G21C 21/00−21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム合金被覆管(10)の外面に被膜組成物を堆積させて被膜(20)を形成し、当該被膜を当該外面に少なくとも部分的に付着させる方法であって、
固有の酸化ジルコニウム含有層(12)が外面に少なくとも部分的に形成されているジルコニウム合金被覆管(10)を用意するステップと、
ジルコニウム、酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から成る群より選択された第1の成分と、
ZrAlCセラミック、TiAlCセラミック、TiAlCセラミック、Al、アルミニウム、ケイ化ジルコニウム、非晶質ステンレス合金鋼、準非晶質ステンレス合金鋼、ならびにZrAlCセラミック、TiAlCセラミックおよびTiAlCセラミックの混合物から成る群より選択された第2の成分と
から成る被膜組成物を用意するステップと、
当該被膜組成物を当該被覆管(10)の当該外面堆積(34)させることにより、当該被覆管(10)の当該外面から当該被膜の外部露出面(26)に向かって、当該被膜組成物の総重量に対する当該第1の成分の重量百分率が減少し、当該第2の成分の重量百分率が増加するように、当該第1および第2の成分重量百分率が当該被覆管(10)の当該外面から当該被膜の当該外部露出面(26)に向かって漸移的に変化する(36)被膜を形成するステップと
から成る方法。
【請求項2】
前記被膜組成物を堆積するためのステップ(34)を推進ガスまたはその他の推進剤を用いて行う、請求項1の方法。
【請求項3】
前記推進ガスまたはその他の推進剤が加熱される、請求項2の方法。
【請求項4】
前記被膜組成物を堆積するためのステップ(34)は、前記被膜組成物を少なくとも部分的に前記酸化ジルコニウム含有層(12)に浸透させる、請求項1の方法。
【請求項5】
前記被膜組成物を堆積するためのステップ(34)は前記被膜を形成するための1つ以上の段階を含む、請求項1の方法。
【請求項6】
前記被膜組成物を堆積するためのステップ(34)の第1の段階において、前記被膜組成物の総重量に対して75100重量%の範囲内の前記第1の成分と、25重量%の範囲内の前記第2の成分とから成る第1の層を形成させる、請求項5の方法。
【請求項7】
前記被膜組成物を堆積するためのステップ(34)の最後の段階において、前記被膜組成物の総重量に対して75100重量%の範囲内の前記第2の成分と、25重量%の範囲内の前記第1の成分とから成る前記外部露出面(26)を形成させる、請求項5の方法。
【請求項8】
前記被膜組成物の一部を前記外面に隣接してまたはその近傍に堆積(34)させ、前記酸化ジルコニウム含有層(12)と混合させて一体化層(22)を形成させる、請求項1の方法。
【請求項9】
前記ジルコニウム合金被覆管(10)を加圧水型原子炉および沸騰水型原子炉から成る群より選択した原子炉の中に設置する、請求項1の方法。
【請求項10】
前記被膜(20)の厚さが100マイクロメートルの範囲内である、請求項1の方法。
【請求項11】
前記被膜(20)の厚さが50マイクロメートルの範囲内である、請求項1の方法。
【請求項12】
被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)であって、
被膜が施されていないジルコニウム合金被覆管(10)と
当該被膜なしのジルコニウム合金被覆管(10)の上に存在する酸化ジルコニウム含有層(12)と
当該酸化ジルコニウム含有層(12)がその上に存在する当該被膜なしのジルコニウム合金被覆管(10)に付着された、その厚さ方向に組成が漸移的に変化する(36)被膜(20)と
から成り、
当該被膜(20)は、
ジルコニウム、酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から成る群より選択された第1の成分と
ZrAlCセラミック、TiAlCセラミック、TiAlCセラミック、Al、アルミニウム、ケイ化ジルコニウム、非晶質ステンレス合金鋼、準非晶質ステンレス合金鋼、ならびにZrAlCセラミック、TiAlCセラミックおよびTiAlCセラミックの混合物から成る群より選択された第2の成分と
から成り、
当該被膜(20)はさらにその厚さ方向に関して当該被覆管(10)外面から当該被膜(20)の外部露出面(26)に向かって当該第1の成分の重量百分率が減少し、当該第2の成分の重量百分率が増加するように漸移的に変化する組成を有する
ことを特徴とする、被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)。
【請求項13】
前記被膜(20)が少なくとも部分的に前記酸化ジルコニウム含有層(12)に浸透している、請求項12の被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)
【請求項14】
前記被膜(20)が1つ以上の段階から成る堆積法(34)によって形成されている、請求項12の被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)
【請求項15】
前記被膜組成物を堆積する(34)第1の段階において、前記被膜組成物の総重量に対して75100重量%の範囲内の前記第1の成分と、25重量%の範囲内の前記第2の成分とから成る第1の層が形成される、請求項14の被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)
【請求項16】
前記被膜組成物を堆積する(34)最後の段階において、前記被膜組成物の総重量に対して75100重量%の範囲内の前記第2の成分と、25重量%の範囲内の前記第1の成分とから成る前記外部露出面(26)が形成される、請求項14の被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)
【請求項17】
前記被膜組成物の一部が前記酸化ジルコニウム含有層(12)と混合して一体化層(22)が形成されている、請求項12の被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)
【請求項18】
前記被膜(20)の厚さが100マイクロメートルの範囲内である、請求項12の被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)
【請求項19】
前記被膜(20)の厚さが50マイクロメートルの範囲内である、請求項12の被膜付きジルコニウム合金被覆管(10)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、ここに参照により援用されている2013年5月28日に提出された「原子炉級ジルコニウム合金金属組織を伴う動的に付着された組成漸移型Ti−Al−Cセラミックまたは非晶質もしくは準非晶質ステンレス鋼」と題する米国仮特許出願シリアル番号第61/827,792号に基づく優先権を主張する。
【0002】
本発明は、通常条件または事故条件下の軽水炉環境に晒される原子燃料用ジルコニウム合金被覆管の酸化腐食を軽減するための、当該被覆管向け被膜組成物および被膜方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ジルコニウム合金被覆管が原子炉内の高温・高圧水環境に晒されると、被覆管表面が腐食(酸化)し、最終的には金属が脆化する可能性がある。このような金属の弱体化は、原子燃料炉心の性能、耐用期間および安全裕度に悪影響を与える可能性がある。ジルコニウム合金被覆管表面に酸化防止被膜を施すことにより、理論上、ジルコニウム合金基質を原子炉環境から保護できる。しかし、この解決策には問題がある。例えば、ジルコニウム合金被覆管表面には最上部に固有の微細な酸化層があるので、ジルコニウム合金基質に被膜を強く付着させるのは容易ではない。図1は、先行技術に基づく被膜を有するジルコニウム合金被覆管10を示す。図1に示すように、ジルコニウム合金被覆管10には、基質10が直接酸化されることによる酸化層12、ジルコニウムが空気、水または他の酸化媒体に晒されることによる別の酸化部分14、さらに、この酸化部分14に施された被膜16がある。したがって、ジルコニウム合金被覆管10に被膜16を単に施した場合、4つの明瞭に異なる層が存在する。被膜16は酸化層14の上に単に堆積するだけなので、このプロセスでは、原子炉環境に晒されると往々にして被膜16の剥離や破砕が生じることがある。また、どのような被膜であっても、運転中、熱および放射線による応力の発生が避けられないため、被膜16がジルコニウム合金被覆管10から剥離する可能性がある。
【0004】
被覆管の材料であるジルコニウム合金は、ジルコニウム(Zr)と、最大約2重量%の、ニオブ(Nb)、スズ(Sn)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびそれらの混合物のようなその他の金属とから成る。そのようなジルコニウム合金の被覆管は、例えばBiancheria等、KapilおよびLahodaにより教示されている(それぞれ米国特許第3,427,222号、第5,075,075号および第7,139,360号を参照)。これらの燃料棒/被覆管は、各端部の端部キャップと、内部で積み重ねた状態の原子燃料ペレットを定位置に保つための金属ばね等の保持装置とを備えている。
【0005】
原子燃料被覆管に被膜を施す様々な方法が、当技術分野で公知である。例えば、Knight等、Bryan等、VanSwamおよびLahoda等により教示された方法である(それぞれ米国特許第6,231,969号、第5,171,520号、第6,005,906号および第7,815,964号を参照)。
【0006】
さらにMazzoccoli等は(2012年11月7日提出の米国特許出願シリアル番号第13/670,808号を参照)、Zr−Al−CセラミックまたはTi−Al−Cセラミックまたは鉄系合金またはNanosteel若しくはZr−Al合金向けの高速熱処理法を用いて、ジルコニウム合金被覆管を付着性の酸化防止材で被膜する方法を開示した。この方法には、熱サイクル時に被膜が基材のZr合金との付着を維持できなくなるなどの弱点もある。
【0007】
したがって、当技術分野で、被膜組成物およびそれをジルコニウム合金被覆管上に堆積させることにより、当該被覆管の表面に十分に付着し、原子炉冷却水に晒されることによる表面酸化の軽減または防止に有効な保護被膜を形成する方法の開発が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
一局面において、上述の要求事項および目的は、軽水炉用のジルコニウム合金被覆管の外面に被膜組成物を堆積させて、当該外面に少なくとも部分的に付着する被膜を形成する方法によって実現できる。この方法は、固有の酸化ジルコニウム含有層が外面に少なくとも部分的に形成されているジルコニウム合金被覆管に、組成が漸移的に変化する付着性の被膜を施すことを含む。この組成漸移型被膜の組成物は、第1の成分および第2の成分から成る。当該第1の成分は、ジルコニウム、酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から成る群より選択される。当該第2の成分は、ZrAlCセラミック、TiAlCセラミック、TiAlCセラミック、Al、アルミニウム、ケイ化ジルコニウム、非晶質および準非晶質ステンレス合金鋼、ならびにZrAlCセラミック、TiAlCセラミックおよびTiAlCセラミックの混合物から成る群より選択される。この方法はさらに、当該被覆管の当該外面に当該被膜組成物を動的に堆積させて当該被膜を形成させることを含む。当該被膜は、当該被覆管の当該外面から外部露出面に向かって、当該被膜組成物の総重量に対する当該第1の成分の重量百分率が減少し、当該第2の成分の重量百分率が増加するように、第1及び第2の成分の重量百分率が当該被覆管の当該外面から当該被膜の当該外部露出面に向かって漸移的に変化する組成を有する。
【0009】
前記被膜組成物の動的堆積は、推進剤を加熱する方法を用いて実施することができる。この動的堆積法は、前記被膜組成物を、前記被覆管の前記外面に形成された前記酸化ジルコニウム含有層に少なくとも部分的に浸透させる効果がある。前記被膜は、1つ以上の段階から成る動的堆積法によって付着させることができる。第1の段階には、前記被膜組成物を堆積させることによって、前記被膜組成物の総重量に対して約75〜約100重量%の範囲内の前記第1の成分と、約0〜約25重量%の範囲内の前記第2の成分とから成る第1の層を形成することが含まれる。最後の段階には、前記被膜組成物を堆積させることによって、前記被膜組成物の総重量に対して約75〜約100重量%の範囲内の前記第2の成分と、約0〜約25重量%の範囲内の前記第1の成分とから成る外部露出面を形成することが含まれる。
【0010】
或る特定の実施態様では、前記被覆管の前記外面に隣接してまたはその近傍に動的に堆積させた前記被膜組成物の一部が前記酸化ジルコニウム含有層と混合して一体化した層を形成する。
【0011】
或る特定の実施態様では、前記ジルコニウム合金被覆管を、加圧水型原子炉および沸騰水型原子炉から成る群より選択した軽水炉の中に設置する。
【0012】
別の一局面において、本発明は、軽水炉用のジルコニウム合金被覆管の外面に動的に堆積させることにより、当該外面に少なくとも部分的に付着する被膜を形成させるための被膜組成物を提供する。当該ジルコニウム合金被覆管の外面には、固有の酸化ジルコニウム含有層が少なくとも部分的に形成されている。当該被膜組成物は、第1の成分および第2の成分から成る。当該第1の成分は、ジルコニウム、酸化ジルコニウムおよびそれらの混合物から成る群より選択される。当該第2の成分は、ZrAlCセラミック、TiAlCセラミック、TiAlCセラミック、Al、アルミニウム、ケイ化ジルコニウム、非晶質または準非晶質ステンレス合金鋼、ならびにZrAlCセラミック、TiAlCセラミックおよびTiAlCセラミックの混合物から成る群より選択される。当該被膜組成物によって形成される当該被膜は、当該被覆管の当該外面(当該被膜の基質となる)から外部露出面に向かって、当該被膜組成物の総重量に対する当該第1の成分の重量百分率が減少し、当該第2の成分の重量百分率が増加するように、第1及び第2の成分の重量百分率が当該被覆管の当該外面から当該被膜の当該外部露出面に向かって漸移的に変化する組成を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0014】
図1】先行技術に基づく被膜されたジルコニウム合金基質の断面図である。
【0015】
図2】本発明の或る特定の実施態様に基づく被膜されたジルコニウム合金基質の断面図である。
【0016】
図3】本発明の或る特定の実施態様に基づく、動的堆積法を用いて被膜材を付着させる方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、ジルコニウム化合物と、被覆管表面をバルク酸化から保護する化合物とを含む被膜組成物を提供する。この被膜組成物は、細管などのジルコニウム合金被覆管の外面に堆積させる。この堆積は、動的堆積法(「コールドスプレー」と呼ばれる)など様々な従来の方法を用いて実施できる。ジルコニウム合金被覆管は一般的に、その外面の少なくとも一部に固有の酸化ジルコニウム層が形成されている。被膜組成物を堆積させることによって、ジルコニウム合金被覆管の外面の少なくとも一部に被膜が形成される。
【0018】
ジルコニウム合金被覆管は、加圧水型原子炉(PWR)や沸騰水型原子炉(BWR)などの軽水炉の炉心内に設置される。したがって、この被覆管は高温高圧水の環境に晒される。
【0019】
本発明の被膜組成物は、第1の成分および第2の成分から成る。第1の成分は、ジルコニウム、酸化ジルコニウム、またはそれらの混合物を含む。第2の成分は、ZrAlCセラミック、TiAlCセラミック、TiAlCセラミック、Al、アルミニウム、ケイ化ジルコニウム(ZrSi)、非晶質もしくは準非晶質ステンレス合金鋼、またはZrAlC、TiAlCおよびTiAlCの混合物を含む。
【0020】
ジルコニウム合金被覆管は、その外面の少なくとも一部に固有の酸化ジルコニウム含有層または被膜が形成されているため、被膜組成物は実際にはこの酸化ジルコニウム含有層の上に堆積・付着している。本発明の被膜組成物を堆積させることによって、ジルコニウム合金被覆管の外面から被膜の外部露出面に向かって組成が漸移的に変化する被膜または基質が形成される。この組成漸移型被膜は、炉心を循環する冷却材などのPWRまたはBWR環境条件に晒されたときジルコニウム合金被覆管のバルク酸化を防ぐのに効果的である。この被膜の組成漸移性とは、ジルコニウム合金被覆管表面に隣接するかまたはその近傍の被膜表面から被膜の外部露出面への厚さ方向の位置に応じて、第1および第2の成分の量または重量百分率(被膜組成物の総重量に対する)がそれぞれ増加または減少することである。或る特定の実施態様では、ジルコニウム合金被覆管表面に隣接するかまたはその近傍の被膜表面から被膜の外部露出面への厚さ方向の位置に応じて、第1の成分の量が減少し、第2の成分が増加する。さらに、第1の成分の量の減少が、第2の成分の量の増加に対応することもある。例えば、第1の成分の重量百分率が被覆管表面に隣接するかまたは近傍の被膜表面における約75重量%から外部露出面における約10重量%へ減少すると、それに対応して第2の成分の重量百分率が当該被膜表面における約25重量%から被膜の当該外部露出面における約90重量%へ増加する。或る特定の実施態様では、被膜の外部露出面における第1の成分は約0重量%、第2の成分は約100重量%となるように、第1および第2の成分の重量百分率がそれぞれ減少し増加する。
【0021】
当技術分野で公知の様々な被膜法を用いて、ジルコニウム合金被覆管の外面に被膜組成物を堆積させることにより漸移型被膜を形成することができる。或る特定の実施態様では、一般的にガス流によって粒状物質を基質に差し向ける従来の動的堆積法を用いて被膜組成物を堆積させる。本発明によると、被膜組成物は一般的に、推進ガス流によりジルコニウム合金被覆管に差し向けられる。被膜組成物の第1および第2の成分をそれぞれ個別に推進させても、例えば混合物として一緒に推進させてもよい。被膜組成物は、室温で推進させても、例えば第1および第2の成分の融点以上に予熱して推進させてもよい。特定の理論の制約を受けるものではないが、この動的堆積法は、ジルコニウム合金被覆管表面に形成された固有の酸化ジルコニウム層を少なくとも部分的に崩壊させることができ、その結果、被膜が被覆管表面に(例えば原子同士で)強固に結合されると考えられる。
【0022】
組成漸移型被膜は、複数の段階または単一の段階を経て形成することができる。複数の段階を用いる或る特定の実施態様では、第1の段階において過量の第1の成分が含まれる。すなわち、第1の成分は被膜組成物の総重量に対して約50重量%を超える。別の実施態様では、第1の段階において、第1の成分は被膜組成物の総重量に対して約75重量%以上である。被膜組成物の残りの成分は第2の成分から成る。或る特定の実施態様では、第1の段階において、被膜組成物の総重量に対して約100重量%の第1の成分と、約0重量%の第2の成分が存在する。後続の各段階では、第1の成分の量が減少し、第2の成分の量が増加する。或る特定の実施態様では、後続の各段階における第1の成分の減少量は、第2の成分の増加量に等しい。
【0023】
別の実施態様では単一の段階による方法を用いる。係る実施態様では、被膜組成物における第1および第2の成分の各量(例えば重量百分率)を連続的に変化させることによって組成漸移型被膜を形成する。
【0024】
本発明の動的堆積法は、被膜の基質(例えばジルコニウム合金被覆管)に近ければ近い部分ほど第1の成分(例えばジルコニウムまたは酸化ジルコニウム)が多く、被膜の露出面に近ければ近い部分ほど第2の成分(例えば酸化防止材)が多い、一体化された組成漸移型被膜を形成させる。本発明に基づく或る特定の実施態様では、ジルコニウム合金被覆管の表面付近で第1の成分の方が(例えば第2の成分に比べて)多く、この第1の成分の量は被膜の厚さ方向に向かって漸次減少し、被膜の露出面では第2の成分の方が多い。特定の理論の制約を受けるものではないが、この被膜組成物はジルコニウム合金被覆管と化学成分が似ており、熱膨張および照射スウェリング特性が緩やかに変化するため、運転中、熱応力および放射線による応力が最小になるから、被覆管表面に隣接してまたはその近傍に第1の成分が多く存在する組成漸移型被膜は被覆管表面に組み込み易いと考えられる。
【0025】
本発明の或る特定の実施態様において、本発明の組成漸移型被膜は、被膜組成物の第1の層を動的に堆積させることによって形成するが、当該第1の層は、被膜組成物の総重量に対して約50重量%から約100重量%、約50重量%以上から約100重量%、または約75重量%から約95重量%の第1の成分と、約0重量%から約50重量%、約0重量%から約50重量%以下、または約5%重量から約25重量%の第2の成分とを含む。或る特定の実施態様において、第1の成分はジルコニウム合金である。第1の層の上に、引き続き追加の被膜組成物層を堆積させてもよい。或る特定の実施態様において、追加する各層は、追加する度に第1の成分の量が減少し、第2の成分の量が増加する。その結果、被膜の外部露出面では第2の成分の方が多くなるため、第2の成分による酸化防止特性が保持されるが、基材(例えば下位の層)は第1の成分であるジルコニウムの方が多い。
【0026】
本発明の方法は、一般的に、酸化ジルコニウム層の中に酸化防止材を堆積させることにより、当該酸化防止材が最終的にジルコニウム基質中に浸透して強い付着力を発生し、被膜の外部露出面に堆積した当該酸化防止材が、下位の基質を原子炉環境から保護する緻密な酸化防止面を形成するようにした方法である。
【0027】
図2は、本発明の或る特定の実施態様に係る、ジルコニウム合金基質10の上に堆積した一体的組成漸移型被膜を示す。図2は、ジルコニウム合金を含む被膜20を示す(例えば、ジルコニウム合金基質10の上に第1の成分が付着される)。ジルコニウム合金基質10の上部には酸化層12がある。この酸化層12に隣接して被膜20がある。被膜20の中に一体化層22がある。特定の理論の制約を受けるものではないが、被膜20の一部が酸化層12の一部と一体化して酸化層12に隣接する一体化層22を形成し、この一体化層がジルコニウム合金基質10に浸透すると考えられる。被膜20中のジルコニウム(例えば第1の成分)の濃度は、矢印24で表すようにジルコニウム合金基質10に向かって増加し、ジルコニウム以外の成分(例えば第2の成分)の濃度は、矢印28で表すように外部表面26に向かって増加する。
【0028】
本明細書に記載する数段階から成る動的堆積法を用いると、典型的には、組成漸移型被膜20が堆積して一体化層22が形成される。堆積の各段階を経るごとに、ジルコニウム合金以外の成分(例えば第2の成分)の濃度が増え、ジルコニウム合金(例えば第1の成分)の濃度が減る。或る特定の実施態様では、被膜組成物自体が連続的に変化する単一段階の堆積法を用いてもよく、複数の段階の実施が不要となる。被膜20は様々な厚さにすることが可能であり、或る特定の実施態様では約100マイクロメートル以下、より好ましくは、約5〜約100マイクロメートルまたは約5〜約50マイクロメートルの厚さである。
【0029】
被膜20の基部付近でジルコニウム合金(例えば第1の成分)の濃度が高めであること(例えば第2の成分(ジルコニウム以外)よりも濃度が高いこと)、および一般的にジルコニウム合金の存在自体が、動的堆積法によって導入される熱応力を引き下げ、運転時には、耐腐食性添加物(例えば第2の成分)とジルコニウム合金被覆管との間の熱係数および照射スウェリングの不釣り合いを低減させることになり、その結果、被膜20のジルコニウム合金被覆管10への付着性が高まる。
【0030】
本発明の組成漸移型被膜には、公知の耐腐食性被膜に比べて多くの利点がある。例えば、公知の被膜は酸化層の最上部に付着させる(例えばオーバーレイ)ため、付着性が低く破損しやすい。図2に示すように、本発明の組成漸移型被膜では、酸化防止材が酸化層中に直接入り込み、最終的にジルコニウム合金被覆管に浸透するため強い付着力と、下位の被覆管を原子炉環境から保護する緻密な酸化防止面とが得られる。
【0031】
図3は、本発明の或る特定の実施態様に係る、被膜組成物(例えば第1および第2の成分)を堆積させる方法を示す。ジルコニウム合金の細管30を用意する。動的コールドスプレー工程(KCS)またはサーマルスプレー堆積工程(TSDP)34に被膜組成物32を供給する。KCS/TSDPにより、被膜組成物32を供給するか堆積させることによって、組成漸移型被膜36を形成させる。
【0032】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何らも制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物である。
図1
図2
図3