(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発信部と受信部とを用いた2探触子で、一端部が埋設されている長尺状の金属部材における腐食部を評価するために、前記金属部材のうち他端部側の埋設されていない表面に配置した発信部から超音波を発信し、埋設際において周囲から拘束を受けて応力が他の部位より集中している応力集中部を通過させた後、前記腐食部で反射した前記超音波を、前記金属部材のうち他端部側の埋設されていない表面に配置した受信部で受信し、受信した受信波の波形図を、所定のエコー表示部で、時間軸と受信波の強度を示す強度軸とに基づいて表示する腐食部評価方法であって、
前記発信部及び前記受信部のうち少なくともいずれか一方と前記腐食部との離間距離を変化させながら、時間経過に伴う前記受信波の波形図の変化を前記エコー表示部で動的に表示するものであり、
前記発信部及び前記受信部のうち少なくともいずれか一方と前記腐食部との離間距離を変化させながら、前記受信波の波形図において、前記腐食部で反射した超音波の波形部分のみを前記時間軸に沿って移動させると共に、
前記受信部が受信したノイズ波形部分の強度のみを、前記強度軸に沿って所定の周期で強度が増減する態様の変化をさせて該変化態様を表示させることで、前記腐食部で反射した超音波の波形部分と、前記ノイズ波形部分とを分離し、
前記エコー表示部にあっては、前記時間軸を横軸とし、前記強度軸を縦軸とし、
前記超音波が、1MHz以下の縦波表面波であり、
前記波形図は、前記受信波の整流されていない、正波部分及び負波部分を共に有する交流波の波形図である
ことを特徴とする腐食部評価方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表示部に表示された受信波の波形図には、ノイズが含まれており、ノイズを除去する手法が確立していないためノイズを含む状態で波形図を評価しているのが現状である。このため、評価精度を高めるには限界が生じており、かかる問題を解決することのできる手法が提案されることが望まれている。例えば、特許文献1,2にも、かかる課題の対処法は開示されていない。
【0005】
そこで本発明は、表示部で表示された受信波の波形図において、腐食部で反射した波形部分のみを特定し、それを評価することができる腐食部評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、発信部と受信部とを用いた2探触子で、一端部が埋設されている長尺状の金属部材における腐食部を評価するために、前記金属部材のうち他端部側の埋設されていない表面に配置した発信部から超音波を発信し、埋設際において周囲から拘束を受けて応力が他の部位より集中している応力集中部を通過させた後、前記腐食部で反射した前記超音波を、前記金属部材のうち他端部側の埋設されていない表面に配置した受信部で受信し、受信した受信波の波形図を、所定のエコー表示部で、時間軸と受信波の強度を示す強度軸とに基づいて表示する腐食部評価方法であって、前記発信部及び前記受信部のうち少なくともいずれか一方と前記腐食部との離間距離を変化させながら、時間経過に伴う前記受信波の波形図の変化を前記エコー表示部で動的に表示するものであり、前記発信部及び前記受信部のうち少なくともいずれか一方と前記腐食部との離間距離を変化させながら、前記受信波の波形図において、前記腐食部で反射した超音波の波形部分のみを前記時間軸に沿って移動させると共に、前記受信部が受信したノイズ波形部分の強度のみを、前記強度軸に沿って所定の周期で増減する態様で変化をさせて該変化態様を表示させることで、前記腐食部で反射した超音波の波形部分と、前記ノイズ波形部分とを分離し、前記エコー表示部にあっては、前記時間軸を横軸とし、前記強度軸を縦軸とし、前記超音波が、1MHz以下の縦波表面波であり、前記波形図は、前記受信波の整流されていない、正波部分及び負波部分を共に有する交流波の波形図であることを特徴とする腐食部評価方法である。
【0007】
このように、前記腐食部で反射した超音波の波形部分のみが前記時間軸に沿って移動すると共に、ノイズ波形部分の強度のみが前記強度軸に沿って増減するように変化することで、評価対象の波形部分とノイズ部分とを共に含む波形図から、腐食部で反射した超音波の波形部分のみを分離し、そしてその波形部分について詳細に評価することが可能となる。また、受信波の波形図を例えばXY座標で表示して波形図を観察することが可能である。また、前記超音波が、1MHz以下の縦波表面波であるため、拘束により生ずるノイズを低減することが可能となる。さらに、前記波形図は、前記受信波の整流されていない、正波部分及び負波部分を共に有する交流波の波形図であるため、受信波の変化態様を確認しやすい利点がある。
【0008】
また、前記金属部材は、一端部である下端部が地中に埋設された柱であることが望ましい。
【0009】
ここで、一般的に柱は揺れ等によって繰り返し所定方向へ応力が付与されるため、特に地際で前記応力集中部が発生しやすい。このため、上記手法による測定が特に有用となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の腐食部評価方法は、受信波のノイズ部分と腐食部を反射した超音波の波形部分とを分離して判別することができるため、精度の高い腐食部の評価が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の腐食部評価方法を、信号柱、標識柱、又は照明柱等のような下端部が埋設された長尺で柱状の金属管(金属部材)60に適用した場合を例にして、添付図面に従って説明する。なお、以下の説明において、便宜上、前後左右及び上下方向を規定して説明する場合があるが、このことは、本発明が下記説明に記載された方向にのみ限定されて使用されることを示すものではない。
【0013】
前記金属管60に含まれる腐食部5を検知するために使用される評価装置1は、
図1に示すように、1MHz以下の縦波表面波(超音波)を発信する発信部2と、該超音波を受信するセンサーとしての受信部3と、受信した受信波の波形図を表示する
図2に示すエコー表示部41を具備する波形表示装置4とを備えている。
【0014】
また、
図2に示すように、前記エコー表示部41では、X軸(横軸)を時間軸とし、Y軸(縦軸)を受信波の強度を示す強度軸として、前記受信波の波形図が二次元表示される。なお、前記エコー表示部41では、受信した波形図を動画として表示することが可能であり、時間経過に伴う波形の変化を動的に把握することが可能となっている。
【0015】
次に、金属管60に含まれる腐食部5の検知手順について説明する。
まず、金属管60における、埋設されていない表面の所要部位に発信部2を配置すると共に受信部3を配置する。そして、発信部2から縦波表面波を発信して受信部3で受信波を受信し、反射波を用いて埋設されている箇所の腐食部5の位置を特定する。このとき受信された受信波の波形図は、エコー表示部41で確認することができる(
図2(a)参照)。
【0016】
ここで、受信部3を金属管60の表面上で動かして腐食部5と受信部3との離間距離を変更すると、受信波の波形図において
図2(b),(c)に示すように、腐食部5で反射した超音波の波形部分AのみがX軸に沿って左右方向に移動する。具体的には、受信部3を腐食部5に近づけると、
図2(b)に示すように、波形部分Aは左方向に移動する。一方、受信部3を腐食部5から遠ざけると、
図2(c)に示すように、波形部分Aは右方向に移動する。
【0017】
また、受信部3を金属管60の表面上で動かして腐食部5と受信部3との離間距離を変更すると、受信波に含まれるノイズ波形部分Bの強度のみがY軸に沿って上下方向に変化する。具体的には、受信部3を腐食部5に近づけたり遠ざけたりすると、
図2(b),(c)に示すように、波形部分Bの強度が所定の周期で増減する。
【0018】
このように、腐食部5で反射した超音波の波形部分AのみがX軸に沿って移動することで、腐食部5で反射した縦波表面波の波形部分Aと、ノイズ波形部分Bとを分離し、そして波形部分Aについて定量的に評価することが可能となる。
【0019】
また、同様に、受信部3が受信した受信波のノイズ波形部分Bの強度のみがY軸に沿って変化することで、腐食部5で反射した縦波表面波の波形部分Aと、ノイズ波形部分Bとを分離し、そして波形部分Aについて定量的に評価することが可能となる。
【0020】
なお、エコー表示部41は、必ずしも動画表示機能を有している必要はなく、時間経過に伴う受信波の波形図の変化態様が所定の時間間隔をおいて動的に把握できる機能を有していればよい。一方、本発明は、静止画による波形図によって受信波を評価する手法とは相違する。
【0021】
また、受信部3に代えて、発信部2の位置を変化させて腐食部5との離間距離を変更するようにしてもよい。また、発信部2及び受信部3の両方の位置を変化させて前記離間距離を変更するようにしてもよい。
【0022】
なお、縦波を使用した理由は、以下の通りである。波長が長くなるため、第一に拘束ノイズの出方が少ない。第二に音速が最も早いため、反射等によるモード変換があり横波に変わったとしても最も早い反射波を見れば特定が可能となる。第三にエコー高さの変化が少なく安定している。例えば、センサーを測定面に押さえるときの押さえ方にばらつきが生じても、これに関わらずエコー高さの変化が少ない利点がある。したがって、センサーを移動させてもエコー高さが安定する。具体的には、一般的に高さの誤差が±2dB(約1.3〜0.8倍)となり、センサーを移動させながらエコーを観察できる。
【0023】
また、上記送信周波数(1MHz)の範囲とした利点として、第一にノイズの低減ができる、第二に反射指向性の低減により受信波の反射範囲が拡張して受信可能な範囲が広がるという点が挙げられる。
【0024】
また、上記のようにいわゆる2探触子を使用した利点として、第一に送信パルスの影響がない、第二に最もエコーが良く帰ってくる位置は送信位置とは限らず、前記の様に方向性不明である場合にも対応でき、多方向からの探傷が可能となる点が挙げられる。
【0025】
また、上記実施例は、測定支柱透過パルスをエコー高さの基準としている。この利点としては、第一に表面状態の影響を受けない、第二に同一地点の為、温度変化の影響を受けない、第三に曲面の影響を受けないという点が挙げられる。また、上記構成は、感度調整として最も適している。
【0026】
また、上記構成は超音波のエコー高さが評価対象となるが、高さはあくまでも比であり、所定のエコー高さ(基準)に対して「高い」又は「低い」の評価を行うのが望ましい。一般的には、いわゆる底面エコー、あるいは基準傷(標準試験片)等が基準となりうるが、本実施例では、底面エコーは出現しない場合が多く、基準傷では表面状態、温度、又は曲率の影響が大きすぎて感度補正が非常に難しくなるおそれがある。そこで、透過波を採用することにより、個別に測定をすれば基準傷の場合の不利な点を問題解決することができる。なお、腐食部5の表面は一般に凸凹があり、複数の反射波で表わされる為、エコー高さのみでなく面積を考慮して評価することもできる。
【0027】
再度、本発明の有用性について詳述する。
通常、受信波のうちいわゆる腐食エコーはエコー高さが低くなりやすく、これに対してノイズエコーは高くなりやすい。このため、表示部において腐食エコーはノイズエコーに埋没して判別しにくい状態となりがちとなる。(例えば、実用新案登録第3198840号公報の
図5)。
【0028】
ここで、一般的に腐食エコーが小さくなるのは、腐食部の形状は一定でないためであり、超音波の進行方向に対して反射角度が様々となることが原因となる。例えば超音波が乱反射等してエコーが消失することもある。したがって、受信部で受信できる反射波の強度は必然的に小さくなり、このため腐食エコーの強度は小さくなって特定しにくくなる。
【0029】
一方、一般的にノイズエコーは、下端部が埋設された柱を測定対象としている場合に特にエコー高さが高く表出する。この理由は、次の通りである。
図3に示すように、柱である金属部材には拘束部分(例えばコンクリート床等)があるところ、当該拘束部分においては、金属部材が固められた状態で柱の揺れ等により繰り返し所定方向へ応力が付与されている。このため、かかる金属材料部分が他の部位と比較して変状して結晶粒が粗大化していると考えられる。そうすると、地上部に装着した発信部から発信した超音波は、埋設部分の腐食部に到達する前に地際あたりの当該拘束部分である「応力集中部」に到達することになる。このため、それぞれの部位の距離を考慮すれば、
図4に示すように、腐食部よりも距離が近い「応力集中部」における多数の結晶粒(白丸で図示)に先に当たってしまい、腐食エコーよりもはっきりと大きなエコーが早いタイミングからノイズとして表出してしまう(超音波が当たった結晶粒は黒丸で図示)。このような原理で、腐食エコーはノイズエコー群のなかに埋没しがちとなる。
【0030】
このように、判別しにくい波形図が表示されることを解決するために、従来は、ノイズエコーのエコー高さをできるだけ小さく表出させること、あるいは腐食エコーのエコー高さをできるだけ大きく表出させることに注力し、種々の手法が試みられてきている。例えば、送信周波数あるいは受信周波数を変化させて腐食エコーのエコー高さのみが大きくなる範囲を見出そうとする手法もよく試みられている。また、腐食エコーにおけるエコー高さを漏れなく把握して解析すべく、受信波を全波形で表示する手法も非常に良く行われている。このように受信波を全波形に整流すると、受信波の正負のピークを漏れなく横並びに整列させて一見して目視することが可能となる。
【0031】
しかし、上記手法は、ノイズエコーも全波形となり、かつノイズは上述のように大きく表出しがちであるため、依然として複雑な波形図が表出することとなってエコーの分析には熟練を要してしまう。
【0032】
そこで本発明は、上述した従来の問題点を解決するものであり、ノイズ波形部分の最大強度よりも、腐食部で反射した超音波の波形部分における最大強度が小さい受信波の波形図が表示されるような状況下で有用性が発揮される。
【0033】
その上で、本発明は、
図5に示すように、前記発信部及び前記受信部のうち少なくともいずれか一方と前記腐食部との離間距離を変化させると、センサーが動く過程で、超音波と「応力集中部」における結晶粒との当接位置が刻々と変化する。例えば
図5において、初期位置では3箇所で当接した状態のエコーが検出されるが(黒丸が3個)、センサーの位置を初期位置から前進させると、超音波と結晶粒との相対位置が変化して、今度は超音波と結晶粒とが2箇所で当接した状態のエコーが検出される(黒丸が2個)。そうすると、
図6に示すように、一定の周期で、発信された超音波と結晶粒とが当接した箇所におけるノイズエコーが検出された後、すぐその位置が変わってノイズエコーは突如消失する。そしてすぐにまた、別の結晶粒に当接したところでノイズエコーが突如出現する。
【0034】
さらに、継続してセンサーが移動すると、繰り返し当該超音波と結晶粒とが同じ態様で当接していくことになり、結局、上記のような繰り返しの当接機会が周期的に発生することとなる。
【0035】
このようなノイズエコーの変化態様(消失→出現→消失→出現)は、動的な表示のなかで観察すると、あたかもノイズエコーの強度がゼロ(X軸)を中心に周期的に増減するように見えることになる。そして、この「ノイズ波形部分の強度のみを、前記強度軸に沿って所定の周期で強度が増減する態様の変化をさせて該変化態様を表示させる」点が、本発明における構成要件の一部となる。
【0036】
さらに、本発明は、いわゆるRF波形で観察することを特徴としており、ノイズエコーが、消失→出現→消失→出現と変化する態様が、ゼロ(X軸)を中心にノイズエコーの上端及び下端が上下するように観察される。もし、仮に全波形でノイズエコーと腐食エコーとを表示すると、
図7に示すように、正波部分と負波部分とが並んだ幅広でいわば「半」高さの一つの「山」状の波形として観察することになるため、上記のような「消失」過程が見えづらくなくなり、ノイズエコーの強度の周期的な増減変化を観察するには不向きとなる。
【0037】
また、本発明は、あえて1MHz以下の低周波を選択することに意義がある。これまでに述べたように、本発明は、ノイズエコーの強度の周期的な増減を表示することを重要な特徴のひとつとしているところ、上記のような範囲の低周波を採用することにより、単位時間当たりの波数が減っていわゆるうねりの幅が拡大することとなり、超音波と結晶粒との当接箇所数が可及的に減ぜられることとなる。そうすると、波形図において、ノイズエコーが横軸(時間軸)方向に間隔をおいて点在するような態様で表示されることとなり、RF波形で表示されるノイズエコーの変化態様がより一層観察しやすくなる。一方、仮に高周波を採用すると、逆に超音波と結晶粒との当接機会が多くなり、表示されるノイズエコーが密集して複雑化する問題が生じる。
【0038】
また、2探触子での手法を採用しているため、送信パルスが長くなってしまうことが抑制されて、ノイズの低減化が図れる。
発信部2を金属管60の表面上で動かして腐食部5と発信部2との離間距離を変更すると、腐食部5で反射した超音波の波形部分AのみがX軸に沿って左右方向に移動すると共に、受信波に含まれるノイズ波形部分Bの強度のみがY軸に沿って上下方向に変化するため、腐食部5で反射した縦波表面波の波形部分Aと、ノイズ波形部分Bとを分離して、波形部分Aについて詳細に評価することが可能となる。