【文献】
浸透固化処理工法技術マニュアル(2010年版),日本,一般財団法人 沿岸技術研究センター,2010年 6月,p.23-p.28
【文献】
矢島寿一,外2名,細粒分を含む砂質土の液状化特性と液状化強度評価に関する一考察,土木学会論文集,日本,社団法人 土木学会,1999年 6月,No.624,p.113-p.122,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscej1984/1999/624/1999_624_113/_pdf
【文献】
大島貴充,外4名,溶液型薬液改良砂の液状化抵抗および繰返しせん断後の変形特性の評価,土木学会論文集C,日本,社団法人 土木学会,2008年10月,Vol.64 No.4,p.732-p.745,URL,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejc/64/4/64_4_732/_pdf
【文献】
山田岳峰,地盤改良−液状化対策としての固化系地盤改良工法−,土と基礎,日本,社団法人 地盤工学会,2003年 2月 1日,Vol.51 No.2,p.27-p.29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既設構造物の地震時の安定を図るための耐震設計では、既設構造物直下地盤の液状化対策として、溶液型の薬液注入工法が用いられることが多い。薬液注入による地盤改良では、薬液の注入範囲と液状化防止に必要な目標改良強度を決める必要があるが、目標改良強度は、想定する地震動の大きさに依存するため、地震動の大きさに比例して大きくなる傾向にある(後述の
図4参照)。東日本大震災以降、耐震強化を目的とした重要施設の場合、レベル2クラスの地震動に対しても液状化しないことを求められるケースが増えている。そのため、想定する地震動に対応して、目標改良強度も大きくなっている。従来の方法によると、目標改良強度が大きくなると、使用する薬液のシリカ濃度が濃くなり、薬液のコストが著しく上昇するほか、薬液の粘性の増加に起因して地盤への浸透性が低下し、浸透注入ができなくなるという課題があった。
【0005】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、大地震時における地盤の液状化による被害を最小限に抑えるために、薬液のシリカ濃度の増加を抑制しつつ浸透注入を可能にし、あわせてコストの上昇を抑制する、薬液注入による地盤改良方法および地盤改良最適化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明者等は、薬液注入による改良地盤について調査・検討を繰り返し、次のような知見を得て、かかる知見に基づいて本発明に至ったものである。
すなわち、薬液注入による改良地盤では、地震時において、地盤剛性がなくなり、構造物の変形が大きくなる原因は、改良地盤内で発生した過剰間隙水圧比の大小によること、および、この地震の際に発生する過剰間隙水圧比は改良地盤の固結強度と関係することが判明した。大地震時には改良地盤の固結強度が小さい場合、改良地盤でも過剰間隙水圧比が、ある値である限界過剰間隙水圧比以上になった後、地盤剛性が0になり、液体状になるのに対し、改良地盤の固結強度が大きいと、過剰間隙水圧比は常に限界過剰間隙水圧比以下であり、地盤剛性も残る。換言すると、改良地盤の固結強度を大きくして、最大過剰間隙水圧比を限界過剰間隙水圧比以下に抑えることができれば、改良地盤の完全液状化を防ぎ、地盤剛性も0にならず、液体状にならない。この限界過剰間隙水圧比は、95%であり、また、この液状化する・しないの固結強度のしきい値は、100kN/m
2を超える一定値であり、110kN/m
2が望ましい。かかる固結強度以上では地震時に改良地盤が完全液状化することはなく、それ以下では完全液状化するおそれがある。
【0007】
すなわち、上記目的を達成するための薬液注入による地盤改良方法は、改良対象地盤を薬液注入により改良した場合の目標とする固結強
度には一定の上限値が存在し、
前記目標とする固結強度を、100kN/m2を超え前記上限値以下の一定値に設定し、前記設定された固結強度となるようにした薬液を前記改良対象地盤に注入することを特徴とする。
【0008】
この薬液注入による地盤改良方法によれば、改良対象地盤
を薬液注入により改良した場合の目標とする固結強度を十分に大きく設定して過剰間隙水圧比を限界過剰間隙水圧比以下に抑えることができれば、
改良地盤の完全液状化を防ぐことができる。これにより、大地震時における地盤の液状化による被害を最小限に抑えることができる。また、目標とする固結強度には一定の上限値が存在するので、設定される固結強度は過度に大きくならずに済み、このため、必要となる薬液コストを抑えることができ、コストが少なくて済む。
【0009】
また、前記注入される薬液の濃度を調整することで、設定した固結強度を得ることができる。
【0010】
また、前記目標とする固結強度は、改良対象地盤から得られた試料について行った試験結果に基づいて設定されることが好ましい。
【0011】
上記目的を達成するための薬液注入による地盤改良最適化方法は、改良対象地盤を薬液注入により改良した場合の目標とする固結強
度には一定の上限値が存在
し、前記目標とする固結強度を、100kN/m2を超え前記上限値以下の一定値に設定することを特徴とする。
【0012】
この薬液注入による地盤改良最適化方法によれば、改良対象地盤
を薬液注入により改良した場合の目標とする固結強度を十分に大きく設定して過剰間隙水圧比を限界過剰間隙水圧比以下に抑えることができれば、
改良地盤の完全液状化を防ぐことができる。これにより、大地震時における地盤の液状化による被害を最小限に抑えることができる。また、目標とする固結強度には一定の上限値が存在するので、設定される固結強度は過度に大きくならずに済み、このため、必要となる薬液コストを抑えることができ、コストが少なくて済む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薬液注入による地盤改良方法および地盤改良最適化方法によれば、大地震時における地盤の液状化による被害を最小限に抑えることができるとともに、薬液のシリカ濃度の増加を抑制しつつ浸透注入を可能にし、あわせてコストの上昇を抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態による地盤改良方法を適用する際の耐震設計を説明するためのフローチャートである。
【
図2】本実施形態による地盤改良方法における耐震設計に適用される繰り返しせん断応力比RL20,5%と一軸圧縮強度quとの関係を示すグラフである。
【
図3】現地砂を使用した配合試験によって得た薬液のシリカ濃度と薬液注入による改良地盤の目標一軸圧縮強度quとの関係を示すグラフである。
【
図4】従来の設計法に適用される繰り返しせん断応力比RL20,5%と目標一軸圧縮強度quとの関係を示すグラフである(非特許文献1、25頁参照)
【
図5】未改良砂についての繰り返し載荷試験における時間と、応力比(a)、過剰間隙水圧比(b)、軸歪み(c)との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】改良砂についての繰り返し載荷試験における時間と、応力比(a)、過剰間隙水圧比(b)、軸歪み(c)との関係の一例を示すグラフである。
【
図7】本実験例で用いた砂Aの粒径加積曲線を示すグラフである。
【
図8】本実験例で用いた砂Bの粒径加積曲線を示すグラフである。
【
図9】本実験例のケース14における中空ねじり試験結果の歪みγの経時変化(a)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴(b)、繰り返し載荷時のせん断剛性Gの時刻歴(c)を示すグラフである。
【
図10】本実験例のケース14における繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパスを示すグラフである。
【
図11】本実験例のケース2における中空ねじり試験結果の歪みγの経時変化(a)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴(b)、繰り返し載荷時のせん断剛性Gの時刻歴(c)を示すグラフである。
【
図12】本実験例のケース2における繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパスを示すグラフである。
【
図13】本実験例のケース9における中空ねじり試験結果のせん断応力τの経時変化(a)、歪みγの経時変化(b)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴(c)、繰り返し載荷時の歪みγとせん断応力τとの履歴曲線(d)、繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパス(e)を示すグラフである。
【
図14】本実験例のケース7における中空ねじり試験結果のせん断応力τの経時変化(a)、歪みγの経時変化(b)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴(c)、繰り返し載荷時の歪みγとせん断応力τとの履歴曲線(d)、繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパス(e)を示すグラフである。
【
図15】本実験例の試験結果から得られた、最大過剰間隙水圧比ru(Max)と一軸圧縮強度(固結強度)quとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態による地盤改良方法を適用する際の耐震設計を説明するためのフローチャートである。
図2は本実施形態による地盤改良方法における耐震設計に適用される繰り返しせん断応力比RL20,5%と一軸圧縮強度quとの関係を示すグラフである。
【0016】
まず、
図1,
図2を参照して本実施形態による地盤改良方法を適用する際の耐震設計について説明する。
【0017】
まず、施工位置の想定される地震動を設定し(S01)、この地震動を用いて動的解析を実施し(S02)、この動的解析結果から最大せん断応力比Lmaxを決定する(S03)。次に、液状化安全率FL=Rck/Lmax=1となる液状化強度比Rckを設定する(S04)。
【0018】
次に、Rck=Lmax、および、RL20,5%=Rck/Cw(Cwは補正係数で、通常はCw≒1)から繰り返しせん断応力比RL20,5%を求め、
図2の繰り返しせん断応力比RL20,5%と一軸圧縮強度quとの関係から、この繰り返しせん断応力比RL20,5%と対応する一軸圧縮強度quを求め、これにより設計基準強度quckを設定する(S05)。
【0019】
図3は、現地砂を使用した配合試験によって得た薬液のシリカ濃度と薬液注入による改良地盤の目標一軸圧縮強度quとの関係を示すグラフである。
図4は従来の設計法に適用される繰り返しせん断応力比RL20,5%と目標一軸圧縮強度quとの関係を示すグラフである(非特許文献1、25頁参照)。
図3によれば、シリカ濃度が増すと、その薬液注入により改良された地盤の一軸圧縮強度が大きくなることがわかる。本実施形態の
図1の解析から、地盤内に発生するせん断応力比RL20,5%がたとえば、0.8であるとすると、
図2から必要とされる現地目標改良強度は、110kPaである。
図3からこの一軸圧縮強度を得るために必要な薬液のシリカ濃度は6重量%である。一方、従来では、
図4から必要な現地目標改良強度は、130kPaであり、そのために必要な薬液のシリカ濃度は
図3から8重量%である。なお、室内配合強度は、現地目標改良強度に安全率2を乗じて定めるため、220kpaとなり、
図3から薬液のシリカ濃度は6重量%である。従来の場合も同様で、室内配合強度は260kpaとなり、
図3から薬液のシリカ濃度は8重量%である。
【0020】
上述のように、本実施形態によれば、地盤の液状化防止のために地盤に注入する薬液のシリカ濃度を8重量%から6重量%に低下させることができる。したがって、2重量%分のシリカが不要となり、その分薬液のコスト低減を達成することができる。また、薬液のシリカ濃度が2重量%薄くなるので、薬液の粘性が低下し、このため、薬液を地盤に浸透注入するときの浸透性がよくなり、薬液注入による地盤改良の品質向上に寄与することができる。
【0021】
従来の薬液注入による改良地盤の耐震設計において、目標の一軸圧縮強度(固結強度)quは、地震時の土中最大せん断強度から、
図4のグラフを用いて設定される。
図4のRL、quは、原位置採取試料の一軸圧縮強度quと繰り返し三軸試験のRLとから得た値である。
図4のラインよりも上側が液状化しない領域、下側が液状化する領域である。
図4における液状化の定義は、両振幅歪みが5%を超えた状態である時としている。たとえば、空港施設の場合、レベル1地震で液状化せず、さらに大きいレベル2地震でも液状化せず、有害な変形をしないように
図4から目標の改良強度を決める。このため、空港施設の耐震設計をする場合、地震時の改良地盤の中のせん断応力比RL20,5%がたとえば、0.8であると、レベル2地震でも液状化しないように
図4から必要な現地改良強度は130kPaとなる。これに対し、本実施形態によれば、
図2から必要な現地改良強度は110kPaであるので、従来よりも低い固結強度でよく、合理的な耐震設計が可能となる。
【0022】
本実施形態では、
図1の耐震設計を行う際に、
図2のような繰り返しせん断応力比RL20,5%と一軸圧縮強度quとの関係を採用したが、
図2の特徴は、従来の
図4と比べると明らかであるが、改良地盤に必要とされる目標の固結強度(一軸圧縮強度)には上限の一定値が存在することである。すなわち、地震の規模が大きくなって繰り返しせん断応力比RL20,5%が大きくなった場合でも、目標とする固結強度は上限の一定値でよい。かかる固結強度の上限の一定値について説明する。
【0023】
ここで、地盤における液状化現象の定義について
図5、
図6を参照して説明する。
図5は、未改良砂についての繰り返し載荷試験における時間と、応力比(a)、過剰間隙水圧比(b)、軸歪み(c)との関係の一例を示すグラフである。
図6は、改良砂についての繰り返し載荷試験における時間と、応力比(a)、過剰間隙水圧比(b)、軸歪み(c)との関係の一例を示すグラフである。
【0024】
繰り返し三軸試験における液状化現象の定義として、地盤工学会の土質試験法では以下のように記載されている(地盤工学会「地盤材料試験の方法と解説」745頁)。
・載荷後の過剰間隙水圧比が95%以上 または
・載荷後の両振幅歪み(D.A.)が1,5,10%の時
上記2項目の内、D.A 5%以上を用いる場合に、液状化と判定する場合が多い。
【0025】
通常の砂では、
図5(a)に示すように、繰り返し荷重を載荷すると、
図5(b)の過剰間隙水圧が徐々に上昇し、時点aで過剰間隙水圧比が70%を超えると、急激に
図5(c)の軸歪みが時点cで大きくなり、両振幅歪みで5%を超えて、液状化する。すなわち、過剰間隙水圧比が95%以上になることと両振幅歪みが5%をこえることがほぼ同時に生じる。
これは、過剰間隙水圧の上昇→有効応力がほぼ0になる→変位量が大きくなる→軸歪みが両振幅で5%を超える、という現象が関連して起きるからである。
【0026】
薬液注入による改良砂に
図6(a)の例のように繰り返し載荷をすると、過剰間隙水圧比が95%を超えた時点b(
図6(b))と軸歪みが両振幅5%を超えた時点(
図6(c))との間に時間差があり、ほぼ同時とはいえない。このように
図5のような未改良砂では、過剰間隙水圧比の上昇と液状化発生による軸歪みの急激な上昇との間には関係があるが、
図6のような薬液による改良砂の場合、軸歪みの増加と過剰間隙水圧比の上昇との間に明確な関連性はない。地震によって過剰間隙水圧の上昇により、有効応力がほぼ0になったとしても、砂粒子間に均一にゼリー状の薬液が充填されているため、変位量が急激に大きくなることはなく、
図6(c)のように徐々に進行する。これは薬液による改良土特有の性質である。
【0027】
[実験例]
大地震をうけた薬液による改良地盤の挙動を調べるため、複数種類の砂を用いて薬液注入による試料を作製し、大地震時を模擬した繰り返し三軸試験と中空ねじり試験を実施した。実験のケースを表1に示す。表1に各ケースのシリカ濃度(重量%)、繰り返しせん断応力比(CSR)、固結強度qu(kPa)を示す。固結強度quは、繰り返し三軸試験やねじり試験の供試体を作製する時に、同時に一軸圧縮試験用の試料を作製し、7日養生後に一軸圧縮試験を行い、測定した。また、載荷応力の大きさに関しては、通常の地震時の繰り返しせん断応力比(CSR)は0.3〜0.5程度であるが、本実験では、巨大地震を想定し、CSRに0.3〜1.0を使用している。
【0029】
なお、本実験例では、薬液としてエコシリカ(登録商標)を用い、主な成分は、水ガラス、コロイダルシリカ、硫酸、クエン酸、水等である。また、ケース10〜12では、砂Aを用いて繰り返し3軸試験を行い、これら以外のケースでは、砂Bを用いて中空ねじり試験を行った。砂A,Bの基本データを表2に示し、砂Aの粒径加積曲線を
図7に、砂Bの粒径加積曲線を
図8に示す。
【0031】
実験の結果、液体状になったケースと、液体状にならなかったケースとにわかれた。完全液状化してない例として、ケース14(シリカ濃度:8重量%、CSR:1.0)について、中空ねじり試験結果の歪みγの経時変化を
図9(a)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴を
図9(b)に、繰り返し載荷時のせん断剛性Gの時刻歴を
図9(c)にそれぞれ示す。また、繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパスを
図10に示す。
図9(a)から載荷を始めて数波で両振幅歪みγは5%を超えているが、
図9(b)から時間2000秒経過後にも過剰間隙水圧比ruは60%程度であり、液状化ライン(95%)に達していない。また、
図9(c)からせん断剛性Gは、載荷の繰り返しにより徐々に小さくなるが、繰り返し載荷200回を超えても0にはならない。このケースでは、過剰間隙水圧比が95%に達しないため、せん断剛性は残り、この改良土は液体状になっていない。また、ケース14では過剰間隙水圧比が95%に達していないが、
図10から、有効平均応力p’は最終的に0とならず、このため完全に液状化していないことがわかる。
【0032】
一方、液状化した例として、ケース2(シリカ濃度:4重量%、CSR:0.4)について、中空ねじり試験結果の歪みγの経時変化を
図11(a)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴を
図11(b)、繰り返し載荷時のせん断剛性Gの時刻歴を
図11(c)にそれぞれ示す。本ケースの一軸圧縮強度は、22.4kPaであり、しきい値の110kPaより小さいケースである。また、繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパスを
図12に示す。
図11(a)から3波程度で両振幅の歪みγは5%を超え、一般的な砂の定義では液状化状態にある。しかしながら、
図11(c)のせん断剛性Gを見ると、3波目では、剛性は20kN/m
2以上の剛性が残っており、液体状ではないことが分かる。反対に
図11(b)より、過剰間隙水圧比は20波目に95%を超え、完全液状化状態になっている。このとき、
図11(c)のせん断剛性Gを見ると、20波付近でほぼ0となり、液体状になっている。このように薬液注入による固結土では、水圧比が95%を超えた時点で液体状になる、すなわち、液状化状態になっていることが分かる。また、せん断剛性Gが0になる時点は、過剰間隙水圧比が95%を超えた時点で発生しており、軸歪み量と無関係であることから、軸歪みに代表される改良土の変形の大小は、改良土の液状化の発生時期と関係ないこともわかる。
【0033】
また、液状化していないケース9(シリカ濃度:6重量%、CSR:0.6)について、中空ねじり試験結果のせん断応力τの経時変化を
図13(a)、歪みγの経時変化を
図13(b)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴を
図13(c)、繰り返し載荷時の歪みγとせん断応力τとの履歴曲線を
図13(d)、繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパスを
図13(e)に示す。
図13(a)(b)から両振幅歪みγは載荷開始時から1%〜−2%の範囲内であり、
図13(c)から時間1200秒経過後にも過剰間隙水圧比ruは85%程度であり、液状化ライン(95%)に達していない。また、
図13(d)(e)から、有効平均応力p’は最終的に0とならず、このため完全に液状化していないことがわかる。
【0034】
また、ケース7(シリカ濃度:6重量%、CSR:0.7)について、中空ねじり試験結果のせん断応力τの経時変化を
図14(a)、歪みγの経時変化を
図14(b)、過剰間隙水圧比ruの時刻歴を
図14(c)、繰り返し載荷時の歪みγとせん断応力τとの履歴曲線を
図14(d)、繰り返し載荷時の有効平均応力とせん断応力とのストレスパスを
図14(e)に示す。本ケースの一軸圧縮強度は、85.3kPaとしきい値を少し下回った強度である。
図14(c)の過剰間隙水圧比ruの経時変化を見ると、約40波目で過剰間隙水圧比ruは95%近くまで上昇するも、95%に達してはいない。ただし、ストレスパスを見ると、ケース9の
図13(e)が実験の最終段階(図の左端)でも有効応力0から離れているのに対し、本ケースの
図14(e)では、実験の最終段階で、有効応力はほぼ0近くまで下がっており、完全液状化までは至っていないものの、軟化が進みあと一歩で完全液状化の状態であることが分かる。
【0035】
薬液注入により改良された地盤のせん断強度は、薬液注入により付加された固結強度(粘着力成分)と改良前から有する地盤のせん断強度(摩擦力成分)の和として表される(後述の(式1)参照)。このような改良地盤が地震により繰返しせん断作用を受けると、二つの顕著な影響が現れる。すなわち、固結強度に及ぼす繰返しの影響と砂粒子骨格の負のダイレタンシーの影響である。前者は地震動の繰り返し作用により固結強度の低下をもたらし、同時に剛性の低下を引き起こす。後者は過剰間隙水圧の上昇を引き起こすが、過剰間隙水圧が地盤の有効拘束圧に等しくなると完全液状化である。これらの二つの影響要因には相互に密接な関連があり、固結強度が小さい場合には、繰返し作用の影響により固結強度や剛性が低下するとともに、負のダイレタンシーにより過剰間隙水圧が発生し液状化に到る。一方、固結強度が十分に大きいと、繰返しによる影響(強度・剛性の低下)も負のダイレタンシーの影響(過剰間隙水圧の発生)も小さくなり液状化は発生しない。従来の溶液型薬液注入工法では、過剰間隙水圧の発生量を考慮することなく、想定地震動に対して液状化発生の有無をひずみ量から判定し、得られた必要固結強度を指標として薬液の濃度を決定している。詳細な実験研究によると、想定地震動に対して改良地盤の固結強度が小さい場合、改良地盤でも過剰間隙水圧比がある値(ここでは、限界過剰間隙水圧比、と呼ぶ)以上になった後、地盤の剛性が0になり、液体状になる(液状化する)のに対し、改良地盤の固結強度が相対的に大きいと、過剰間隙水圧比は常に限界過剰間隙水圧比以下であり、地盤の剛性も残存することが明らかになった。換言すると、改良地盤の固結強度を大きくして、過剰間隙水圧比を限界過剰間隙水圧比以下に抑えることができれば、地盤の強度のみならず剛性も0にはならず、改良地盤が液体状になる完全液状化を防ぐことができる。そこで、限界過剰間隙水圧比をもたらす固結強度(ここでは、目標とする固結強度、と呼ぶ)を知ることができれば、従来に比較してより合理的な目標とする固結強度を決めることが可能となる。これまでの溶液型薬液注入の実験データの分析から、上記の限界過剰間隙水圧比は95%であることが判明し、また、液状化する・しないのしきい値を表す目標とする固結強度は、100kN/m
2と一定値であることが分かった。固結強度がこの目標とする固結強度を超える場合には、限界過剰間隙水圧比は95%以下となり改良地盤の完全液状化の発生を防ぐことができる。
【0036】
改良地盤のせん断強度τ
f:
τ
f=c´+(σ´−u)tanφ´=c´+σ´(1−u/σ´)tanφ´ (式1)
ここに、
c
´:固化強度(粘着力成分)
φ
´ :せん断抵抗角(摩擦力成分)
σ
´ :有効拘束圧
u :過剰間隙水圧
1)
固化強度c´が十分大きいとき
繰り返し作用の影響 c
´の低下小、c
´≠0
負のダイレタンシーの影響 uの上昇小、u≠σ
´
よって、(式1)より
改良地盤のせん断強度 τ
f≠0 → 液状化の発生 無
剛性≠0
2)
固化強度c´が小さいとき
繰り返し作用の影響 c
´の低下大、c
´=0
負のダイレタンシーの影響 uの上昇大、u=σ
´
よって、(式1)より
改良地盤のせん断強度 τ
f=0 → 液状化の発生 有
剛性=0
3)
固化強度c´が上記1)と2)の中間のとき
繰り返し作用の影響 c
´の低下中、c
´→c
´c
負のダイレタンシーの影響 uの上昇中、u→u
c<σ
´
よって、(式1)より
改良地盤のせん断強度
τ
f=c´
c+(σ´−u
c)tanφ´≠0 → 液状化の発生 無
剛性≠0
ここに、
c´
c :目標とする固結強度
u
c :限界過剰間隙水圧
【0037】
以上のように、薬液による改良土が液体状になるのは、過剰間隙水圧比が限界過剰間隙水圧比以上に上昇して、せん断剛性が失われ、有効応力がほぼ0になった状態であること、及び、その限界過剰間隙水圧比が95%であることが判明した。このため、本明細書では、歪み量の大小に関係なく、95%以上の過剰間隙水圧比が発生し、有効応力とせん断剛性が0になった状態を薬液による改良土に関する完全液状化状態と定義している。
【0038】
表1の実験例のすべてのケースの試験結果に関して、最大過剰間隙水圧比ru(Max)と一軸圧縮強度(固結強度)quとの関係を
図15に示す。
図15から、固結強度が大きくなるにしたがって、載荷時の過剰間隙水圧比の最大値ru(Max)は低下する傾向にあり、固結強度が110kN/m
2よりも大きければ、限界過剰間隙水圧比(95%)より小さくなることがわかる。表1の実験結果から、限界過剰間隙水圧比(95%)を超えると、有効応力が0になり、完全液状化が生じる。換言すると、最大過剰間隙水圧比が限界過剰間隙水圧比以下になるように固結強度を十分に大きくすれば、完全液状化を防ぎ、有効応力が0にならず、液体状にならない。この十分大きな固結強度として、
図15から100kN/m
2を超えればよいが、安全性を考慮し、110kN/m
2と設定することが好ましい。すなわち、繰り返しせん断応力比RL20,5%と固結強度quとの関係において、
図2のように、改良地盤に必要とされる目標の固結強度には上限の一定値が存在するといえる。
【0039】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。本実施形態の薬液による地盤改良工法を実施する際には、たとえば、非特許文献1の各記載を参照することで当業者において実施可能である。
【0040】
また、本実施形態による地盤改良工法に用いることのできる薬液は、本実験例で用いた薬液に限定されるものではなく、各種の恒久薬液を使用可能であることはもちろんである。