(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
室内空間を構成する複数の壁面又は天井面の少なくとも1つの面に、合成樹脂で構成されたバインダーと、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末と、水とを含有する導電性の水性塗料組成物を塗布する工程と、
前記水性塗料組成物が塗布された塗膜面を負電圧に帯電させる工程とを備える
空気浄化方法。
室内空間を構成する複数の壁面又は天井面の少なくとも1つの面に絶縁層を設ける共に、合成樹脂で構成されたバインダーと、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末と、水とを含有する導電性の水性塗料組成物を、前記絶縁層の上に塗布する工程と、
前記水性塗料組成物が塗布された塗膜面を負電圧に帯電させる工程とを備える
空気浄化方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に開示された水性塗料組成物をはじめ、従前の建築内装用塗膜を得るための塗料においては、塗膜の均一性(塗膜の膜厚の均一性)、貯蔵安定性(顔料の1種である無機顔料等の沈殿の発生)、有害物質の吸着性、下地材への付着強度、難燃性等、各種の塗膜性能において改良の余地があると考えられる。
【0011】
特に、塗料中に含まれる鉱物や貝殻、木炭、活性炭等の粉末で構成された無機顔料(骨材)の粒径によって、塗膜の品質や性能に影響が及んでいる。例えば、無機顔料として、木炭粉末を使用した際に、木炭粉末の粒径が大きければ、塗膜にムラが生じ、平滑性が損なわれ、木炭粉末の脱落や、塗料中での木炭粉末の沈殿が発生する。
【0012】
また、木炭粉末の粒径が小さければ、塗膜を形成するための合成樹脂の量が増え、塗料中の有機分が増加して燃えやすくなり、難燃性が不充分となる。更に、粒径を小さくするための製造コストが高くなる問題もあった。
【0013】
また、上述した導電性を付与した塗料については、水性又はアルコール性の溶剤を含む塗料(水性塗料組成物又はアルコール性塗料組成物)が主に利用されるが、それぞれの溶剤に起因する欠点があった。
【0014】
まず、前提として、導電性を付与した塗料では、塗料中における木炭粉末の粒子同士が接触して、この粒子を介して塗料の導電性が確保される。
【0015】
ここで、水性塗料組成物は、アルコール性塗料組成物に比べて、木炭粉末を含有させた塗膜を形成するにあたって必要な合成樹脂の配合量が多く、樹脂層が厚くなる。合成樹脂の配合量が多いことで、木炭粉末の粒子同士の接触が妨げられやすくなり、塗料の導電性が低くなってしまう。この結果、塗料の塗膜面において、空気中の正に帯電した粒子を捕捉する為の良好な帯電状態が得られにくくなっている。
【0016】
一方、アルコール性塗料組成物は、水性塗料組成物よりも、木炭粉末を含有させた塗膜を形成するにあたって必要な合成樹脂の配合量が少なく、樹脂層が薄くなるため、導電性に優れている。しかしながら、アルコール性塗料組成物では、合成樹脂の配合量が少ないことから、塗膜の耐屈曲性が低く、素地の変形等に応じて塗膜にひび割れが生じやすい。
【0017】
塗膜上のひび割れが発生した部分は電気的に不連続な領域となり、やはり塗料の導電性が低くなってしまう問題があった。また、主なアルコール性の溶媒、例えば、エタノール、メタノール、1-プロパノール等は揮発性有機化合物(VOC)であり、人体への健康被害を及ぼす為、安全性の観点から、水性塗料組成物へと代替したいという要求が存在する。このように、従前の導電性を付与した塗料では、導電性と塗膜性能、安全性において不充分なものとなっている。
【0018】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、品質に優れた塗膜を形成可能であり、室内空間に対して、充分な空気浄化機能を発揮することが可能な水性塗料組成物、空気浄化機構及び空気浄化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の目的を達成するために、本発明の水性塗料組成物は、合成樹脂で構成されたバインダーと、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末と、水とを含有するものとなっている。
【0020】
ここで、バインダーが合成樹脂で構成されたことによって、合成樹脂が塗膜の主な構成成分となる。即ち、合成樹脂が木炭粉末の粒子同士を繋ぎ、塗膜を形成する。
【0021】
また、木炭粉末は、樹脂に厚みや強度を持たせる骨材として機能すると共に、水性塗料組成物に導電性を付与する。更に、木炭粉末は、臭い・化学物質・湿気等を吸着する。
【0022】
また、木炭粉末が、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成されたことによって、塗料が下地材に塗布された際に、粒径の大きな木炭粉末同士の間に、粒径の小さな木炭粉末が入り込むものとなり、木炭粒子の充填状態の均一性を高め、単位面積当たりの木炭粉末の充填率を向上させることができる。なお、ここでいう下地材とは、塗料が塗布される対象となる領域、又は、絶縁層等の中間部材を介して塗料の塗膜面が設けられる領域を意味するものである。更に言えば、下地材とは、壁面を構成する枠状の下地構造体に取り付けられる板状体である。
【0023】
また、木炭粒子の充填状態の均一性が高まることから、塗料の塗膜面が均一(膜厚が均一)になり、成膜性、屈曲性、表面汚染性、表面傷付着性を良好なものとすることができる。また、塗膜の見栄えを良くすることができる。
【0024】
また、木炭粒子同士の接触面積が増大することで、塗料の導電性が向上する。また、塗膜強度を高めることができる。
【0025】
更に、木炭粒子の充填状態の均一性が高まることから、塗膜面全体を負電圧に帯電させる電極面と見た場合、塗膜面上の電気抵抗値のムラが少なくなり、空気中の正に帯電した粒子の捕集効率を高めることができる。
【0026】
また、塗料の塗膜面が均一になるため、単一の粒径(平均粒径)の木炭粉末を塗料に配合したものと比べて、塗布後に木炭粒子の脱落が生じにくくなる。
【0027】
また、塗料の塗膜面が平滑化するため、塗膜面を指で触れた際の白化が抑止される。また、塗膜面に対してクロスを貼り付けた際の接着強度が向上する。
【0028】
更には、単一の粒径の木炭粉末を塗料に配合したものと比べて、粒径の異なる木炭粉末が塗料中に分散されたことで、塗料の粘度が高まり、塗料を保存や載置した際に、粒径の大きな木炭粉末の沈殿が生じにくくなる。即ち、貯蔵安定性が良好となる。
【0029】
また、粒径の小さな木炭粉末を用いることによって、木炭粉末の表面積が大きくなるため、臭い・化学物質・湿気等の吸着効率が向上する。
【0030】
また、水を含有することによって、合成樹脂や木炭粉末を分散させることができる。
【0031】
また、木炭粉末は、第1の木炭粉末と、第1の木炭粉末の粒径の1〜2倍の粒径を有する第2の木炭粉末とを含んで構成された場合には、上述したような塗膜面の均一性、成膜性、屈曲性、表面汚染性、表面傷付着性、塗料の導電性及び塗膜強度の向上、塗膜面上の電気抵抗値のムラの低減、木炭粒子の脱落の抑止、白化の抑止、クロスの接着強度の向上、木炭粉末の沈殿の抑止といった塗膜の性能を、より一層高めることができる。
【0032】
一方、木炭粉末が、第1の木炭粉末の粒径の1倍未満の粒径を有する第2の木炭粉末を含んで構成された場合には、粒径の大きな木炭粉末同士の間に、粒径の小さな木炭粉末が入り込みにくくなり、木炭粉末の充填状態の均一化が難しくなる。これに伴い、塗膜の性能の改善が不充分となる。また、第2の木炭粉末の粒径が、第1の木炭粉末の粒径に近くなり、この結果、混在状態の密度が下がり、塗膜強度の向上が不充分となる。
【0033】
また、木炭粉末が、第1の木炭粉末の粒径の2倍を超える粒径を有する第2の木炭粉末を含んで構成された場合には、第2の木炭粉末の粉末粒子間の隙間が生じやすくなり、混在状態の密度が下がり、塗膜強度の向上が不充分となる。また、第2の木炭粉末の粉末粒子間の表面の凹凸が生じやすくなり、木炭粉末の充填状態を均一化が難しくなる。これに伴い、塗膜の性能の改善が不充分となる。
【0034】
また、第1の木炭粉末が3000メッシュ以下の中心粒径5μmの粉体であり、第2の木炭粉末が1500メッシュ以下の中心粒径10μmの粉体である場合には、上述したような塗膜面の均一性、成膜性、屈曲性、表面汚染性、表面傷付着性、塗料の導電性及び塗膜強度の向上、塗膜面上の電気抵抗値のムラの低減、木炭粒子の脱落の抑止、白化の抑止、クロスの接着強度の向上、木炭粉末の沈殿の抑止といった塗膜の性能を、更に一層充分に高めることができる。なお、ここでいう中心粒径とは、既知の粒子径計測器による測定や、JIS8815に規定されたふるい分け試験法によって定められた中心粒径を採用することができる。
【0035】
また、第2の木炭粒子の100重量部に対し、第1の木炭粒子が30〜100重量部の範囲内で配合された場合には、塗膜面の均一性、成膜性、屈曲性、表面汚染性、表面傷付着性、塗料の導電性、塗膜強度、貯蔵安定性及び下地材との接着強度の向上といった塗膜の性能を、より一層高めることができる。
【0036】
一方、第2の木炭粒子の100重量部に対し、第1の木炭粒子が30重量部未満で配合された場合には、塗膜面の均一性、成膜性、屈曲性、表面汚染性、表面傷付着性、塗料の導電性、塗膜強度、貯蔵安定性及び下地材との接着強度の向上が不充分となる。また、第2の木炭粒子の100重量部に対し、第1の木炭粒子が100重量部を超えて配合された場合には、屈曲性が低下し、表面汚染性が改善されず、下地材との接着強度が低下する。
【0037】
また、木炭粉末の配合割合は、全量基準の100重量部に対して、30重量部である場合には、樹脂に対する厚みや強度の付与や、塗料への導電性の付与が、より一層充分となる。
【0038】
また、バインダーがカチオン性のアクリル樹脂で構成された場合には、粒子の表面が負に帯電しやすい木炭粉末と、カチオン性のアクリル樹脂と間で電気的な接続力が働き、バインダーと木炭粉末が接着しやすくなり、塗膜強度を向上させることができる。また、塗料を塗布する下地材が、例えば、コンクリートや石こうボードのような表面が負に帯電しやすいものである際に、塗料と下地材との間に電気的な接続力が働き、塗料の付着強度を向上させることができる。
【0039】
また、水酸化アルミニウムから構成された難燃剤を含有する場合には、塗料の難燃性を向上させることができる。
【0040】
また、水酸化アルミニウムが全量基準で重量比率が0.1〜10%の範囲内である場合には、塗料の難燃性をより一層充分なものにできる。
【0041】
一方、水酸化アルミニウムが全量基準で重量比率が0.1%未満である場合には、難燃性の機能が不充分となる。また、水酸化アルミニウムが全量基準で重量比率が10%を超える場合には、塗料の難燃性が向上するが、必要以上の配合量となり、製造コストの向上や、その他成分の配合に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0042】
また、上記の目的を達成するために、本発明の空気浄化機構は、導電性の水性塗料組成物を塗布した塗膜面を負電圧発生手段により負電圧に帯電させる空気浄化機構であって、前記水性塗料組成物は、合成樹脂で構成されたバインダーと、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末と、水とを含有するものとなっている。
【0043】
ここで、少なくとも2つの粒径の異なる木炭粉末を含有することによって、塗料が下地材に塗布された際に、粒径の大きな木炭粉末同士の間に、粒径の小さな木炭粉末が入り込むものとなり、木炭粒子の充填状態の均一性を高め、単位面積当たりの木炭粉末の充填率を向上させることができる。
【0044】
また、導電性の水性塗料組成物を塗布した塗膜面を負電圧発生手段により負電圧に帯電させることによって、塗膜面表面に電気的な引力が生じ、塗膜面の周囲の空気中に存在する正に帯電した粒子を捕集することができる。
【0045】
また、水性塗料組成物の塗膜面への塗布量が150〜300g/m
2・wetの範囲内である場合には、塗布量が大量にならず、例えば、ロール等の部材を用いて手作業で下地材に塗布を行う際に、1〜2回で塗料を塗布することができる。
【0046】
また、負電圧発生手段により負電圧に帯電させた塗膜面における発生電圧が−100〜−150Vの範囲内である場合には、塗膜面表面の電気的引力が充分なものとなり、塗膜面の周囲の空気中に存在する正に帯電した粒子を捕集する効率を高めることができる。例えば、4つの壁面と天井面に囲まれた室内空間において、複数の面に塗料を塗布せず、1つの壁面又は天井面のいずれか1つに塗布して負電圧に帯電させることで、室内空間の空気を充分に浄化可能となる。
【0047】
一方、負電圧発生手段により負電圧に帯電させた塗膜面における発生電圧が−100V未満である場合には、塗膜面の周囲の空気中に存在する正に帯電した粒子を捕集効率が不充分となるおそれがある。また、負電圧発生手段により負電圧に帯電させた塗膜面における発生電圧が−150Vを超える場合には、必要となる負電圧発生手段の発生電圧が大きくなり、負電圧発生手段の大型化や、負電圧の供給に必要な電力コストの高騰に繋がってしまう。
【0048】
また、上記の目的を達成するために、本発明の空気浄化方法は、室内空間を構成する複数の壁面又は天井面の少なくとも1つの面に、合成樹脂で構成されたバインダーと、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末と、水とを含有する導電性の水性塗料組成物を塗布する工程と、前記水性塗料組成物が塗布された塗膜面を負電圧に帯電させる工程とを備える。
【0049】
ここで、水性塗料組成物が木炭粉末を含有することによって、樹脂に厚みや強度を持たせることができる。また、水性塗料組成物に導電性を付与することができる。更に、木炭粉末によって、臭い・化学物質・湿気等を吸着可能となる。
【0050】
また、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末によって、塗料が下地材に塗布された際に、粒径の大きな木炭粉末同士の間に、粒径の小さな木炭粉末が入り込むものとなり、木炭粒子の充填状態の均一性を高め、単位面積当たりの木炭粉末の充填率を向上させることができる。また、水性塗料組成物の導電性を向上させることができる。
【0051】
また、室内空間を構成する複数の壁面又は天井面の少なくとも1つの面に水性塗料組成物を塗布することによって、壁面又は天井面に塗膜を形成可能となる。また、この塗膜により、壁面又は天井面が保護されるだけでなく、導電性を付与することができる。
【0052】
また、水性塗料組成物が塗布された塗膜面を負電圧に帯電させる工程によって、塗膜面を負に帯電した電極面とすることができる。この結果、塗膜面表面に電気的な引力が生じ、塗膜面の周囲の空気中に存在する正に帯電した粒子を捕集することができる。
【0053】
また、上記の目的を達成するために、本発明の空気浄化方法は、室内空間を構成する複数の壁面又は天井面の少なくとも1つの面に絶縁層を設ける共に、合成樹脂で構成されたバインダーと、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末と、水とを含有する導電性の水性塗料組成物を、前記絶縁層の上に塗布する工程と、前記水性塗料組成物が塗布された塗膜面を負電圧に帯電させる工程とを備える
【0054】
ここで、少なくとも2つの粒径の異なる粉末で構成された木炭粉末によって、塗料が下地材に塗布された際に、粒径の大きな木炭粉末同士の間に、粒径の小さな木炭粉末が入り込むものとなり、木炭粒子の充填状態の均一性を高め、単位面積当たりの木炭粉末の充填率を向上させることができる。また、水性塗料組成物の導電性を向上させることができる。
【0055】
また、室内空間を構成する複数の壁面又は天井面の少なくとも1つの面に絶縁層を設ける共に、導電性の水性塗料組成物を、絶縁層の上に塗布することによって、壁面又は天井面が導電性を有する素材で形成された際にも、塗膜面を負に帯電させた状態を維持しやすくなる。即ち、壁面又は天井面を介して土壌面側に電流が流れ、塗膜面に生じた電位差が消失することを抑止可能となる。
【0056】
また、水性塗料組成物が塗布された塗膜面を負電圧に帯電させる工程によって、塗膜面を負に帯電した電極面とすることができる。この結果、塗膜面表面に電気的な引力が生じ、塗膜面の周囲の空気中に存在する正に帯電した粒子を捕集することができる。
【0057】
また、複数の壁面又は天井面のいずれか1つの面のみに水性塗料組成物の塗膜面を設ける場合には、塗料の使用量を低減しつつ、塗膜面の周囲の空気中に存在する正に帯電した粒子を捕集することができる。
【発明の効果】
【0058】
本発明に係る水性塗料組成物は、品質に優れた塗膜を形成可能であり、室内空間に対して、充分な空気浄化機能を発揮することが可能なものとなっている。
また、本発明に係る空気浄化機構は、品質に優れた塗膜を形成可能であり、室内空間に対して、充分な空気浄化機能を発揮することが可能なものとなっている。
更に、本発明に係る空気浄化方法は、品質に優れた塗膜を形成可能であり、室内空間に対して、充分な空気浄化機能を発揮することが可能なものとなっている。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
なお、本実施の形態においては、
図1を基準に、天井面2に対する床面の位置を「下」又は「下方」として、床面に対する天井面2の位置を「上」又は「上方」とする。また、
図2を基準に、仕上げ材7から見て下地材11aの方向を「下地材側」とし、下地材11aから見て仕上げ材7の方向を「室内側」と称するものとする。
【0061】
(空気浄化機構A)
本発明を適用した空気浄化機構の一例である空気浄化機構Aでは、
図1に示すように、複数の壁面1及び天井面2に囲まれた室内空間3における空気の浄化を行うものである。空気浄化機構Aでは、壁面11に後述する塗料4の塗膜面41が形成され、塗膜面41を負に帯電させる負電圧発生装置5を有している。即ち、空気浄化機構Aは、塗料4と負電圧発生装置5を組み合わせて、室内空間3における空気の浄化を行う。なお、塗料4は、本発明を適用した水性塗料組成物の一例であり、その詳細な組成は後述する。
【0062】
(負電圧発生装置5)
負電圧発生装置5は、正極51及び負極52を有し(
図1及び
図2参照)、所定の電源54(
図2参照)に接続され、負極52と配線接触した壁面11の塗膜面41に電圧を印化して、塗膜面41を負に帯電させる装置である。
【0063】
負極52の先端は塗膜面41と直接接触して、取付部材等(図示せず)を介して接触した状態が固定されている。また、正極51は地中のアース53に接続されている。塗膜面41は、地中のアース53に対して1MΩ以上の絶縁抵抗値を有するように塗布されており、塗膜面41が負に帯電した状態を維持可能、即ち、塗膜面41が電気的に独立した状態が維持可能に構成されている。なお、絶縁抵抗値とは、塗膜面41と地中のアース53との間の抵抗値であって、この値が大きい程、塗膜面41が電気的に独立した状態になりやすいものとなる。また、絶縁抵抗値は、塗膜面41と壁面11との間に塗布される絶縁塗料の有無や、塗膜面41と壁面11との間に設けられる絶縁シートの有無、壁面11を構成する下地構造体(壁面の骨格となる枠構造)の素材における絶縁性の有無や、下地構造体に取り付けられる板状の下地材の素材における絶縁性の有無によって変化する。
【0064】
また、負電圧発生装置5は、デバイス発生電圧0〜300Vの装置であり、塗膜面41に対し、−100〜−150Vの基準発生電圧を印化することが可能である。なお、表1に負電圧発生装置5の出力電圧特性(1MΩ、−100V設定時)を示す。また、ここでいう基準発生電圧が、本願請求項の「発生電圧」に相当する。
【0066】
ここで、必ずしも、塗料4の塗膜面41が形成される面が、壁面11に限定される必要はなく、例えば、壁面11以外の壁面1や天井面2に更に塗料4が塗布される態様であってもよい。また、その他の壁面1のみや、天井面2のみに塗料4が塗布される態様でもよい。例えば、室内空間3の大きさに応じて、充分な空気の浄化を行う観点から、複数の壁面1と天井面2の全面に塗料4を塗布することも可能である。
【0067】
また、塗料4は、1つの目安であるが、室内の天井面2のみに塗布する前提であれば、室内空間3の空気体積1m
3に対して、必要最低限の塗布面積は0.4m
2程度となる。例えば、18帖(帖=m
2×0.3025×2)以下の一般的な室内空間であれば、その天井面の一面に塗料4を塗布することで、室内空間3の全体の空気中の正に帯電した粒子を効率良く捕集することができる。なお、壁面のみに塗料4を塗布する場合で、室内の広さが広くなる場合には、空間体積が大きくなり、壁面一面では必要最低限の塗布面積を確保できなくなるおそれがあるため、その際には、室内空間の広さに応じて、複数の壁面への塗布により、室内空間3の空気を充分に浄化することが可能となる。
【0068】
また、必ずしも、塗料4が壁面面11の全面に塗布される必要はなく負電圧発生装置5によって塗料4を塗布した面が負に帯電するように構成されていれば充分である。そのため、例えば、壁面11の一部(例えば、壁面11の中の一定の面積範囲)や複数箇所(塗布箇所の間に空間を有するように)に塗料4を塗布する態様も有り得る。但し、室内空間3の空気に対して、一定の面積の塗膜面で作用して、空気中の正に帯電した粒子を捕集する効率を高める観点から、塗料4が壁面面11の全面に塗布されることが好ましい。
【0069】
また、空気浄化機構Aを適用する室内空間3の広さは特に限定されるものでなく、塗料4が塗布可能な壁面や天井面等の領域を有していれば、広さに関係なく、空気浄化機構Aを利用することができる。
【0070】
また、負電圧発生装置5は、必ずしも、負極52を塗膜面41に直接接触させて、塗膜面41を負に帯電させる構成必要はない。例えば、塗膜面41に対して負電荷を非接触で照射可能な、イオン発生器等の負電荷発生装置を利用して、塗膜面41を負に帯電させる構成も採用しうる。
【0071】
また、負電圧発生装置5のデバイス発生電圧が0〜300Vの範囲に限定される必要はない。但し、室内空間3の空気中の正に帯電した粒子を充分の捕集する観点から、塗膜面41に−100〜−150Vの基準発生電圧を印化することが可能な態様とすることが好ましく、そのためには、負電圧発生装置5のデバイス発生電圧が0〜300Vの範囲の装置を採用することが好ましい。また、上述した表1の出力電圧特性は、負電圧発生装置5が備える特性の一例に過ぎない。
【0072】
(塗膜面41)
図2を用いて、壁面11に設けた塗膜面41とその周辺構造を説明する。
壁面11を構成する下地材11aは、塗膜面41を形成する基礎体(板状体)であり、石こうボードやコンクリート等の導電性を有する素材で形成されている。下地材11aの下部には、壁面11の骨格を構成する枠状の下地構造体が形成されている。また、下地材11aと塗膜面41の間に、塗膜面41から下地材11a側への漏電を防止する絶縁層6が設けられている。また、塗膜面41より室内側には、意匠性を高めるための仕上げ材7が設けられている。
【0073】
塗膜面41は、後述する組成を有する塗料4が、下地材11aの室内側に設けられた絶縁層6の上に塗布されて形成されている。塗料4の塗布量は、150〜300g/m
2・wetとなっている。
【0074】
上述したように、負電圧発生装置5から塗膜面41に電圧が印化されて、塗膜面41が負に帯電される。即ち、塗膜面41の導電性を介して、塗膜面全体が負に帯電した電極面となる。ここで、絶縁層6は、塗膜面41が地中のアース53に対して電気的に独立した状態を維持するために、塗膜面41と下地材11aの間を絶縁する。
【0075】
絶縁層6は、室内側の和紙層、ポリエチレンテレフタレートで形成された中間層及び下地材側の和紙層の3層構造を有している。構成する材料はいずれも絶縁性を有している。絶縁層6はクロス(壁紙)貼付け用のりを用いて下地材11aに貼り付けられている。
【0076】
絶縁層6における3層構造では、下地材側の和紙層によって、絶縁シート層と下地材11aとのクロス貼付け用のりを使用した接着が可能となる。また、室内側の和紙層に対して、塗料4との接着性が高められている。和紙層のように紙素材を用いることで、ビニール等の樹脂製の素材を用いた場合よりも、クロス貼付け用のりや、塗料4の接着性を向上させることができる。
【0077】
ここで、必ずしも、絶縁層6が3層構造とされる必要はなく、塗膜面41と下地材11aとの間の絶縁性を担保できるものであれば充分である。但し、絶縁層6の表面及び裏面に和紙層を設けることで、上述したように塗料4やクロス貼付け用のりの接着性を向上させることができる点から、和紙層を含む3層構造が採用されることが好ましい。
【0078】
また、必ずしも、絶縁層6の中間層がポリエチレンテレフタレートで形成される必要はなく、電気的な絶縁性を有する素材となっていれば充分である。例えば、絶縁性を有するエポキシ系の防錆、防水塗料塗布した中間層を用いることもできる。
【0079】
仕上げ材7は、通気性を有するクロス、又は、通気性を有するカラー塗料等であり、塗膜面41の上に貼り付け、又は、塗布されて、木炭粉末に由来する黒色を有する塗膜面41を目隠しする材となる。また、仕上げ材7を構成する通気性を有するクロスやカラー塗料等は絶縁性を有するが、下地材11a上の塗膜面41が負電圧に帯電した場合、仕上げ材7が分極を起こし、仕上げ材7の表面が負に帯電するため、室内空間3における空気中の正に帯電した粒子を吸引することが可能となる。
【0080】
室内空間3の空気中の正に帯電した粒子は、非常に小さな粒子であるため(粒子半径が約10
-7cmから10
-8cm程度の大きさの粒子)、仕上げ材7の通気孔を通過して、下地材11a上の負に帯電した塗膜面41に引き付けられるものとなる。
【0081】
なお、上記では、下地材11a(又は下地構造材)が、鉄骨やコンクリート造の非木造の導電性を有する素材である場合について説明したが、下地材及び下地構造材が、木造等の絶縁性の素材である場合には、上述した絶縁層6を除いた構造を採用することができる。即ち、下地材11aの壁面に直接、塗料4を塗布して塗膜面41を形成し、その上に仕上げ材7を設けた構造となる。下地材及び下地構造材が木造等の絶縁性の素材である場合には、下地材及び下地構造材の絶縁作用により、塗膜面41を地中のアース53に対して電気的に独立した状態を維持可能となる。
【0082】
更に、下地材が木造であっても、下地構造体に導電性を有する素材が採用されたり、下地材を下地構造体に取り付けに金属製のビス等が用いられたりした場合には、上述したような絶縁層6を設けることが好ましい。
【0083】
上述した空気浄化機構Aでは、負電圧発生装置5の電源を入れ、塗膜面41に電圧を印化することで、塗膜面41が地中のアース53に対して電気的に独立した状態となっていれば、塗膜面41が負に帯電した状態となる。負電圧発生装置5の電源を入れたままにすると、塗膜面41が負に帯電した電極面として、室内空間3の空気中の正に帯電した有害物質や不快物質の粒子を引き寄せ、これらの粒子を捕集する。この結果、室内空間3の空気を浄化することができる。
【0084】
以下、本発明を適用した水性塗料組成物の一例の組成について説明する。上述した塗料4の組成の一例である。
【0085】
ここで示す塗料(塗料4)は、塗料組成物における全量基準の重量比率が、カチオン系のアクリル酸エステル共重合体水性エマルジョン(モビニール7820(日本合成化学工業(株)社製)):29.07%、水:29.07%、1500メッシュの木炭粉末(中心粒径10μm):19.38%、3000メッシュの木炭粉末(中心粒径5μm):9.69%、水酸化アルミニウム:4.84%、アクリル系重合物(シックナー615(三洋化成工業(株)社製):2.91%、防腐剤(アモルデンFS-14D(大和化学工業(株)社製):2.91%、ウレタン変性ポリエーテル(シックナー660T(三洋化成工業(株)社製):1.94%、防カビ剤(PBM-DS((株)エム・アイ・シー社製):0.10%、シリコーン系消泡剤(アクアレンHS-01(共栄社化学(株)社製):0.01%を含む組成を有している。また、本組成の塗料は、粘度が0.83Pa・s、密度が1.623g/cm
3である。
【0086】
カチオン系のアクリル酸エステル共重合体水性エマルジョン(モビニール7820(日本合成化学工業(株)社製))は、バインダーであり、塗膜の主な構成成分として、木炭粉末の粒子同士を繋ぎ、塗膜を形成する。また、このアクリル酸エステル共重合体水性エマルジョンは、アクリル酸エステル共重合体を約45%を含み、残りが水で構成された水性エマルジョンであり、ガラス転移温度(Tg)が4℃である
【0087】
水は、各成分を混合及び分散させる溶剤である。また、水は塗料の基剤でもある。
【0088】
1500メッシュの木炭粉末(中心粒径10μm)及び3000メッシュの木炭粉末(中心粒径5μm)は、樹脂(塗膜)に厚みや強度を持たせる骨材(無機顔料)であり、かつ、塗料に導電性を付与する。更に、木炭粉末は、臭い・化学物質・湿気等を吸着する機能を塗料に付与する。
【0089】
本塗料では、粒径が異なる2種類の木炭粉末を配合しており、中心粒径の値の比が、粒子径大:粒子径小=2:1の関係となっている。また、2種類の木炭粉末の配合比は、粒子径大の木炭粉末100重量部に対して、粒子径小の木炭粉末50重量部となっている。更に、本塗料では、塗料の全量基準に対する2種類の木炭粉末の合計の配合比が、塗料の全量の100重量部に対して、2種類の木炭粉末が30重量部となっている。
【0090】
また、1500メッシュ及び3000メッシュの木炭粉末は、オトギリソウ科オハグロノキ属(マイテュー、和名なし)の樹木を原料に、1000℃前後で焼かれた白炭である。木炭粉末は、例えば、ウバメガシを900〜1400℃、好ましくは1000〜1200℃の高温で焼いた後に、適量の灰と土をかけて急冷することにより製造される白炭である。白炭には、代表的なものとして備長炭がある。
【0091】
水酸化アルミニウムは、塗料に難燃性を向上させる為の難燃剤である。水酸化アルミニウムは、200℃以上の温度で結晶水の乖離反応が起こり、乖離反応時に吸熱効果を生じる剤である。
【0092】
アクリル系重合物(シックナー615(三洋化成工業(株)社製)及びウレタン変性ポリエーテル(シックナー660T(三洋化成工業(株)社製)は、塗料の粘度を調整するための増粘剤である。なお、各増粘剤は、アクリル系重合物又はウレタン変性ポリエーテルを主成分としている。
【0093】
防腐剤(アモルデンFS-14D(大和化学工業(株)社製)は、細菌、カビに対する防腐性を付与するエマルジョン、水性塗料等用の防腐剤である。防カビ剤(PBM-DS(株)エム・アイ・シー社製)は、カビに対する防腐性を付与する防カビ剤である。シリコーン系消泡剤(アクアレンHS-01(共栄社化学(株)社製)は、塗料中の発泡を抑える水系塗料用消泡剤である。
【0094】
ここで、本塗料では、各配合原料や配合割合が上述したものに限定されるものではなく、本発明に求められる機能を逸脱しない範囲で、各成分や配合量を適宜変更することができる。以下にその一例を詳述する。
【0095】
本塗料では、バインダーとして、カチオン系のアクリル酸エステル共重合体水性エマルジョン(モビニール7820(日本合成化学工業(株)社製))以外にも塗膜形成能を有する合成樹脂であれば、採用することができる。例えば、合成樹脂の種類として、アクリル樹脂以外に、アクリルシリコン・変性シリコン樹脂、アミノアルキド樹脂、エポキシ樹脂、塩化ゴム系樹脂、ケイ素樹脂、ビニル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、フタル酸樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂等が採用しうる。
【0096】
また、アクリル樹脂塗料としては、例えば、エマルジョン形アクリル樹脂、アクリルラッカー、焼付けアクリル、水溶性アクリル、アクリル化アルキド等の種類が採用しうる。特に、エマルジョン形アクリル樹脂は建築内装材に多用される、アクリル酸エステル等のモノマーを水中で乳化重合させたエマルションポリマーである。
【0097】
ここで、必ずしも、本塗料のバインダーがカチオン系のアクリル酸エステル共重合体水性エマルジョンである必要はない。但し、バインダーがカチオン系であることにより、塗料中では、粒子の表面が負に帯電した木炭粉末とバインダーとの接着力が向上し、塗膜強度を向上させることができる。また、塗料の塗布対象となる下地材がコンクリートや石こうボードのような表面が負に帯電しやすいものである際に、塗料と下地材との間に電気的な接続力が働き、塗料の付着強度を向上し、強固な塗膜を形成することができる。このような電気的特性に基づく利点があるため、バインダーとして、カチオン系のアクリル樹脂が採用されることが好ましい。
【0098】
また、必ずしも、本塗料のバインダーが、ガラス転移温度(Tg)が4℃のものである必要はない。但し、ガラス転移温度の低いバインダーを用いることで、塗料を塗布する環境温度をバインダーのガラス転移温度が下回る状態となりやすく、塗膜と下地材との間の収縮応力の発生を抑えて、塗膜の下地材への付着性が低下しにくくなる。そのため、バインダーのガラス転移温度は、例えば10℃以下程度の低い値であることが好ましい。また、室内環境であれば、室内の最低気温は、通常、低くても5℃程度となる為、バインダーのガラス転移温度が4℃であれば、充分に塗膜の付着力を担保することができる。
【0099】
また、必ずしも、本塗料の木炭粉末が白炭に限定される必要はなく、白炭と黒炭を混合して用いることもできる。但し、黒炭は、低温で焼かれた炭であるため導電性が低く、その粉末を塗料に配合すると、塗膜自体の導電性が低下するため、導電性を向上させる観点からは、木炭粉末は白炭で構成されることが好ましい。また、塗膜の物性、屈曲性、充填率を改善する観点から、白炭と黒炭の混合物を用いることも考えられる。その際には、黒炭の粉末と共に、より粒子径の小さい白炭の粉末を配合することが、導電性を向上させる観点から好ましい。
【0100】
また、必ずしも、木炭粉末の原料がオトギリソウ科オハグロノキ属(マイテュー、和名なし)の樹木に限定される必要はない。例えば、白炭となる既知の原料であるウバメガシ・アラカシ・ナラ・ホオ等を採用することもできる。また、黒炭であれば、ナラ・クヌギ・コナラ・ミズナラ・マツ等を原料とすることができる。
【0101】
また、必ずしも、本塗料の骨材(無機顔料)が木炭粉末に限定される必要はなく、樹脂中で、充分な充填率と均一性を担保できる原料であれば骨材として採用しうる。例えば、岩石や粘土等の鉱物の粉末や、貝殻を粉砕した粉末、活性炭の粉末等が採用しうる。但し、塗料に厚みや強度を付与するだけでなく、吸着物質として有害物質や不快物質の吸着性を有する点や、原料の入手が容易な点、粒径の異なる粉末の塗料中の均一性を高めやすい点から、骨材として木炭粉末が採用されることが好ましい。
【0102】
また、必ずしも、本塗料の木炭粉末が、粒径が異なる2種類に限定される必要はなく、例えば、粒径(中心粒径)が異なる木炭粉末を3種類以上配合する態様であってもよい。但し、配合量の調整等による塗膜の均一化の制御が複雑化する点や、製造コストが高くなる点から、木炭粉末は、粒径が異なる2種類を採用することが好ましい。
【0103】
また、必ずしも、本塗料の木炭粉末が、粒径が異なる2種類を配合し、その中心粒径の値の比が、粒子径大:粒子径小=2:1に限定される必要はない。但し、塗膜の均一性を向上させる観点から、2種類の木炭粉末における中心粒径の値の比が、粒子径大:粒子径小=1〜2:1となることが好ましく、更に好ましくは、粒子径大:粒子径小=1.5〜2:1であり、塗膜の均一性をより一層向上させる点からは、粒子径大:粒子径小=2:1となることがより一層好ましい。
【0104】
また、必ずしも、本塗料の粒径の異なる2種類の木炭粉末が、1500メッシュの木炭粉末(中心粒径10μm)と、3000メッシュの木炭粉末(中心粒径5μm)である必要なない。例えば、粒子径大の木炭粉末を3000メッシュ、粒子径小の木炭粉末を6000メッシュとする態様も考えられる。但し、塗料中の木炭粉末の充填状態を均一化しやすくなる点、単位面積当たりの木炭粉末の充填率を向上させやすい点、及び塗膜の形成に必要なバインダー(樹脂)の量が、塗料の難燃性を確保しうる配合量になる点から、粒径の異なる2種類の木炭粉末が、1500メッシュの木炭粉末(中心粒径10μm)と、3000メッシュの木炭粉末(中心粒径5μm)となることが好ましい。
【0105】
また、必ずしも、本塗料の粒径の異なる2種類の木炭粉末の配合比が、粒子径大の木炭粉末100重量部に対して、粒子径小の木炭粉末50重量部に限定される必要はない。但し、塗膜の単位面積当たりの木炭粉末の充填率を高める点から、粒子径大の木炭粉末100重量部に対して、粒子径小の木炭粉末が30〜100重量部の範囲で配合されることが好ましく、木炭粉末の充填率をより一層高める点からは、粒子径大の木炭粉末100重量部に対して、粒子径小の木炭粉末が50重量部配合されることが更に好ましい。
【0106】
また、必ずしも、本塗料において、塗料の全量基準に対する2種類の木炭粉末の合計の配合比が、塗料の全量の100重量部に対して、2種類の木炭粉末が30重量部に限定されるものではない。塗膜が形成可能であり、電圧を印化した塗膜面が負に帯電した状態を維持可能な導電性を有するものとなっていれば充分である。但し、塗膜の均一性と良好な導電性を確保する点から、塗料の全量基準に対する2種類の木炭粉末の合計の配合比が、塗料の全量の100重量部に対して、2種類の木炭粉末が30重量部となることが好ましい。
【0107】
また、必ずしも、本塗料に水酸化アルミニウムが配合される必要はない。但し、塗料の塗膜面の難燃性を向上させることが可能な点から、本塗料に水酸化アルミニウムが配合されることが好ましい。
【0108】
また、必ずしも、本塗料の水酸化アルミニウムの配合量が、塗料の全量基準で重量比率が4.84%に限定される必要はない。但し、塗料の塗膜面の難燃性を向上させる点から、水酸化アルミニウムの配合量が、塗料の全量基準で重量比率が0.5〜10%の範囲内であることが好ましく、充分な難燃性を付与する点から、水酸化アルミニウムの配合量が、塗料の全量基準で重量比率が4.0〜6.0%の範囲内であることが更に好ましい。
【0109】
また、本発明を適用した水性塗料組成物では、必要に応じて、上記に記載した組成以外に、適宜、本発明の効果を逸脱しない範囲で、その他の成分を配合することが可能である。例えば、増粘剤、防腐剤、防カビ剤、消泡剤、難燃剤等の塗料の機能性を向上させる添加成分を別途配合することも可能である。
【0110】
上記で説明した本発明を適用した水性塗料組成物の一例である塗料4は、塗膜面の均一性、成膜性、屈曲性、表面汚染性、表面傷付着性、塗料の導電性、塗膜強度、貯蔵安定性及び下地材との接着強度の向上といった塗膜の性能に優れたものとなっている。
【0111】
また、塗料4に、負電圧発生装置5を介して電圧を印化することで、塗膜面が負に帯電して、塗膜面の周囲の空気中の正に帯電した粒子を捕集して、室内空間の空気を浄化することができる。
【0112】
以上のとおり、本発明を適用した水性塗料組成物、空気浄化機構及び空気浄化方法は、品質に優れた塗膜を形成可能であり、室内空間に対して、充分な空気浄化機能を発揮することが可能なものとなっている。
【実施例】
【0113】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0114】
本発明を適用した塗料の実施例及び比較例の試料を作製し、以下の評価を行った。
(1)試料の原料成分
まず、表2乃至表6に示す組成となるように原料成分を添加して、実施例1〜6及び比較例1〜5の各試料を作製した。なお、以下、表2乃至表6に示す数値は、原料の重量(kg)及び原料の全量を基準にした重量比率(%)を示したものである。また、実施例1〜3及び比較例1〜3は、下地材にロール等を用いて手作業で塗布する際の塗料を想定した組成であり、バインダーとなるアクリル系樹脂に含まれる水分以外に、別途、水を添加して粘度を調整した組成である。また、実施例4〜6及び比較例4、5はロールコーター等の塗布用の機械で塗布する際の塗料を想定した組成であり、バインダーとなるアクリル系樹脂に含まれる水分以外に水を添加せずに粘度を調整した組成である。
実施例1〜3及び比較例1〜3に対して、以下に記載する試験番号1〜12の各種試験を行った結果を表7に示す。また、実施例4〜6及び比較例4、5に対して、以下に記載する試験番号1〜11の各種試験を行った結果を表8に示す。
【0115】
【表2】
【0116】
【表3】
【0117】
【表4】
【0118】
【表5】
【0119】
【表6】
【0120】
【表7】
【0121】
【表8】
【0122】
(2)粘度(試験番号1)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、TVC-5型粘度計(東機産業(株)社製)を用いて、粘度(Pa・s)を測定した。測定は、25℃±2の温度条件下で1つの試料につき3回測定を行い、3回測定の平均値を測定結果とした。また、測定結果について、手作業による塗装用(ロール塗装用)の塗料については、適正な粘度範囲を0.5~5.0Pa・sに設定し、機械塗装用の塗料については、適正な粘度範囲を10~100Pa・sに設定して、試料を評価するものとした。
【0123】
実施例1〜3はいずれも、粘度が0.8~2.4Pa・sの範囲内の値となり、手作業による塗装用の塗料における適正な粘度の数値範囲の値であった。また、実施例4〜6は、いずれも、粘度が31~82Pa・sの範囲内の値となり、機械塗装用の塗料における適正な粘度の数値範囲であった。
【0124】
(3)密度(木炭固形充填率)(試験番号2)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、単位体積当たりの重量を測定して密度(g/cm
3)を確認した。容器寸法100mm×100mm×100mmのアクリル容器に試料を入れ、表面をスクレーパーで掬い取ってから重量を測定し、マスの体積で密度を算出した。測定は、25℃±2の温度条件下で1つの試料につき3回測定を行い、3回測定の平均値を測定結果とした。また、測定結果について、密度1.5g/cm
3以上の値となるものを木炭固形充填率が良好な塗料として評価するものとした。
【0125】
実施例1〜6はいずれも、密度の値が1.5g/cm
3以上であり、良好な木炭固形充填率を有していた。
【0126】
(4)貯蔵安定性(試験番号3)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、試料を撹拌した後容器を静止させ、所要時間経過後における容器底への木炭粉末の沈殿の有無を確認した。プラスチック製のへら(幅2cm、厚み2mm)を使用し、容器の底の木炭の沈殿の有無を調べた。評価は、25℃±2の温度条件下で行った。また、静止後1時間後、24時間後及び72時間後の試料を確認した。試験結果は、沈殿なし(表7及び表8では○で記載)、容器底部に木炭粉末の沈殿は見られないが、粘度の上昇が確認できる(表7及び表8では△で記載)、及び、容器底に木炭粉末の分離した沈殿が見られる(表7及び表8では×で記載)の3段階で評価した。
【0127】
実施例1〜6はいずれも、すべての時間において木炭粉末の沈殿が確認されなかった。
【0128】
(5)成膜性(分散度)(試験番号4)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料における塗料中の木炭粉末の分散度(μm)を測定して、成膜性の評価とした。分散度の測定は、JIS K 5600-2-5の方法に準拠して行った。分散度の測定に100μmの粒度ゲージを使用した。測定は、25℃±2の温度条件下で1つの試料につき3回測定を行い、3回測定の平均値を測定結果とした。また、測定結果について、測定値の平均値が50μm以下のものを、木炭粉末の分散度が良好、即ち、成膜性が良好な塗料と評価するものとした。
【0129】
実施例1〜5はいずれも、測定結果が50μm以下であった。
【0130】
(6)耐屈曲性(試験番号5)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料を基材に塗布して乾燥後に負荷をかけて亀裂の発生の有無を確認して耐屈曲性(塗膜強度)の評価とした。帯状の基材(幅5cm、長さ20cm、ポリプロピレン製)に、3パターンの規定量(150g/m
3、300g/m
3及び450g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥後、基材の中心にφ5mmの支柱を置き、2秒かけて180℃基材を折り曲げる。折り曲げ後、基材の中心部における亀裂の発生の有無を確認した。試験結果は、亀裂なし(表7及び表8では○で記載)、及び、亀裂有り(表7及び表8では×で記載)で評価した。
【0131】
実施例1、2、4、及び5では、3パターンの規定量のいずれにおいても、亀裂の発生が見られなかった。実施例3は、2パターンの規定量(150g/m
3、300g/m
3)において亀裂の発生が見られなかった。実施例6は、150g/m
3の塗布量において亀裂の発生が見られなかった。
【0132】
(7)導電性(試験番号6)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料を基材に塗布して乾燥後に、デジタルマルチメーター(三和電気計器(株)社製、RD700)を用いて塗膜抵抗値(kΩ)を測定して、導電性の評価とした。基材(100mm×100mm、ポリプロピレン製)に、8パターンの規定量(100g/m
3、150g/m
3、200g/m
3、250g/m
3、300g/m
3、350g/m
3、400g/m
3及び450g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥後、基材の表面の抵抗値を測定した。測定は、25℃±2の温度条件下で1つの試料につき5回測定を行い、5回測定の平均値を測定結果とした。また、測定結果について、測定値の平均値が3kΩ以下のものを、適切な導電性を有する塗料(塗布量)と評価した。なお、塗膜抵抗値とは、塗膜面における電気の流れやすさの指標となる数値であり、この値が小さい程、塗膜面の導電性に優れたものとなる。
【0133】
実施例1、2及び4では、300g/m
3〜450g/m
3の塗布量の範囲で測定値の平均値が3kΩ以下となった。また、実施例3及び5では、350g/m
3〜450g/m
3の塗布量の範囲で測定値の平均値が3kΩ以下となった。
【0134】
(8)吸着性(試験番号7)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料を基材に塗布して乾燥後に、試験容器内で吸着対象ガス(アンモニア、ホルムアルデヒド、トルエン)と10分間接触させ、対象ガスに対する初期吸着性(%)を測定して、吸着性を評価した。基材(100mm×100mm、ポリプロピレン製)に、規定量(300g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥したものを試験片とした。また、4Lのガラス製容器に吸着対象ガスを充満させ、試験片を容器内にいれ、10分経過後の容器中のガス濃度を測定した。ガス濃度の測定は、(株)ガステック社製のガス検知器及びガス検知管を用いて測定した。吸着性は、容器内に試験片を入れる前後の低減率(%)で表すものとした。測定は、25℃±2の温度条件下で1つの試料につき3回測定を行い、3回測定の平均値を測定結果とした。また、測定結果について、測定値の平均値(低減率)において、アンモニア及びホルムアルデヒドは80%以上のもの、また、トルエンは40%以上のものを、対象吸着ガスに対する初期吸着性が良好な塗料であると評価した。
【0135】
実施例1〜6はいずれも、すべての対象ガスに対して良好な吸着性を示した。
【0136】
(9)水分吸放出量(試験番号8)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料を基材に塗布して乾燥後に、乾燥環境又は湿潤環境下で24時間保持して、保持前後の基材重量の変化量から水分吸放出量を評価した。基材(100mm×100mm、ポリプロピレン製)に、規定量(300g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥したものを試験片とした。また、乾燥環境(室温25℃、湿度50%)又は湿潤環境(室温25℃、湿度90%)の各環境下で試験片を24時間保持した。試験片は、保持前と保持後に重量(g)を測定した。保持前後の試験片の重量変化を算出して、乾燥環境下で保持させた試験片の重量変化の値を水分放出量(g/m
2)とした。また、保持前後の試験片の重量変化を算出して、湿潤環境下で保持させた試験片の重量変化の値を水分吸収量(g/m
2)とした。また、水分放出及び水分吸収の測定結果について重量変化の値が15g/m
2以上のものを水分吸放出量(調湿性)が良好な塗料であると評価した。
【0137】
実施例1〜6はいずれも、水分放出量及び水分吸収量が15g/m
2以上となり、良好な水分吸放出量を有していた。
【0138】
(10)付着強度(試験番号9)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料を基材に塗布して乾燥後に、又は、乾燥後更に湿潤環境下で24時間保持して、引っ張り試験を行い、塗膜の付着強度を評価した。塗膜の付着強度が高ければ、塗料の下地材との密着性及び下地材への追従性が良好なものと言える。基材(100mm×100mm、石こうボード)に、規定量(300g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥させ、乾燥後の試料を「乾燥時(試験片)」とし、7日間乾燥後に更に湿潤環境(室温25℃、湿度90%)の各環境下で24時間保持させたものを「高湿環境時(試験片)」とした。各試験片に対して、試験片に接着剤となるエポキシ樹脂を介して金属アタッチメントを接着させ、建研式接着力試験機(LPT-400、オックスジャッキ(株)社製)を用いて、金属アタッチメントの引っ張り試験を行い、塗膜の破断が生じた際、又は、試験片が破損した際の荷重(kg/cm
2)を測定した。測定は、25℃±2の温度条件下で行った。また、測定結果について、測定値が15kg/cm
2以上のものを、下地材への付着強度(下地密着性、下地追従性)が良好な塗料であると評価した。
【0139】
実施例1は乾燥時及び高湿環境時の両方において15kg/cm
2以上の付着強度を示した。また、実施例2〜6は、乾燥時に15kg/cm
2以上の付着強度(下地密着性、下地追従性)を示した。
【0140】
(11)表面汚染性(試験番号10)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料を基材に塗布して乾燥後に、又は、乾燥後更に湿潤環境下で24時間保持して、生地汚染試験を行い、表面汚染性を評価した。基材(200mm×200mm、石こうボード)に、規定量(300g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥させ、乾燥後の試料を「乾燥時(試験片)」とし、7日間乾燥後に更に湿潤環境(室温25℃、湿度90%)の各環境下で24時間保持させたものを「高湿環境時(試験片)」とした。各試験片に対して、試験片表面に白色の生地を置いて、その上に100gの重りを載せ、生地を引っ張って、生地の汚れ具合の有無を確認した。試験結果は、汚れなし(表7及び表8では○で記載)、及び、汚れ有り(表7及び表8では×で記載)で評価した。
【0141】
実施例1、2、4及び5は乾燥時及び高湿環境時の両方において、生地に汚れの付着が確認されなかった。また、実施例3及び6は、乾燥時に生地に汚れの付着が確認されなかった。
【0142】
(12)表面傷付着性(試験番号11)
実施例1〜6及び比較例1〜5について、各試料を基材に塗布して乾燥後に生地による塗膜への傷付着試験を行い、表面傷付着性を評価した。基材(200mm×200mm、石こうボード)に、規定量(300g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥させ、乾燥後の試料を試験片とした。各試験片に対して、試験片表面に白色の生地を置いて、その上に100gの重りを載せ、生地を引っ張って、生地と塗膜面との摩擦の発生により、塗膜表面に対する傷の発生の有無を確認した。試験結果は、傷付着なし(表7及び表8では○で記載)、及び、傷付着有り(表7及び表8では×で記載)で評価した。
【0143】
実施例1〜6はいずれも傷の付着が確認されなかった。
【0144】
(13)難燃性(試験番号12)
実施例1〜3及び比較例1〜3について、各試料を基材に塗布して乾燥後に燃焼性試験を行い、難燃性を評価した。基材(15cm×30cm、石こうボード)に、規定量(300g/m
3)の各試料を塗布して、7日間乾燥させ、乾燥後の試料を試験片とした。各試験片に対して、試験片から20cm離れた位置にバーナーを設置して、バーナーに火を添加して2分後に火を止め、試験片の塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生を確認した。試験結果は、塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生なし(表7及び表8では○で記載)、及び、塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生有り(表7及び表8では×で記載)で評価した。
【0145】
実施例1〜3はいずれも塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生が確認されなかった。
【0146】
(12)水酸化アルミニウムの配合量による難燃性の評価
上述した実施例2の組成をベースに、水酸化アルミニウムの配合量を異ならせた(0%、0.5%、1%、2.5%、5%、7.5%、10%、12.5%、)塗料を調製して、実施例7〜14とした。この実施例に対して、上述した難燃性(試験番号12)と同様の試験であり、バーナーに火を添加した後、30秒後、1分後及び2分後の各試験片の塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生を確認した。試験結果は、塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生なし(表9では○で記載)、塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生がわずかに確認されたもの(表9では△で記載)、及び、塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生有り(表9では×で記載)で評価した。結果は以下の表9に示す。
【0147】
【表9】
【0148】
実施例11〜14はいずれも2分後においても、塗膜表面における損傷の発生や、煙・ガスの発生が確認されなかった。
【解決手段】水性塗料組成物は、塗料組成物における全量基準の重量比率が、カチオン系のアクリル酸エステル共重合体水性エマルジョン:29.07%、水:29.07%、1500メッシュの木炭粉末(中心粒径10μm):19.38%、3000メッシュの木炭粉末(中心粒径5μm):9.69%、水酸化アルミニウム:4.84%、アクリル系重合物:2.91%、防腐剤:2.91%、ウレタン変性ポリエーテル:1.94%、防カビ剤:0.10%、シリコーン系消泡剤:0.01%を含む組成を有している。