(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記磁石部材は、(ii-a)前記両端部の一方において、前記第1方向と反対の第2方向の成分と前記中央部に向かう第3方向の成分を含む配向にて着磁され、(ii-b)前記両端部の他方において、前記第2方向の成分と、前記中央部に向かう第4方向の成分を含む配向にて着磁されることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石電動機。
前記磁石部材は、前記両端部それぞれにおいて、前記第1方向と垂直であって互いに反対方向の成分のみを含む配向にて着磁されることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石電動機。
前記コアは、周方向に離間して設けられた複数の溝を備え、前記複数の磁石部材はそれぞれ、対応する溝に嵌め込まれることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の永久磁石電動機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来においては、永久磁石となる個々の磁石部材は、その全体にわたり実質的に同一方向の磁界を発生させるように着磁されていた(特許文献2、3)。従来の着磁態様は、着磁を簡易に行うという観点からは有利であった。しかしながら、本発明者らが検討したところ、従来の着磁態様は、電動機の出力特性の改善に欠かせない表面磁束密度の増大の観点からは、かならずしも最適なものとはいえないことを認識するに至った。
【0006】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、永久磁石電動機の磁石部材の表面磁束密度の増大にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、回転子を備える永久磁石電動機に関する。回転子は、環状のコアと、コアの周方向に並べて配置される複数の磁石部材と、を備える。磁石部材は、(i)その中央部においてコアの側面と略垂直な第1方向の配向にて着磁され、(ii)その両端部において、第1方向を含まない配向にて着磁される。
【0008】
本発明の別の態様も、回転子を備える永久磁石電動機に関する。回転子は、環状のコアと、コアの周方向に並べて配置される複数の磁石部材と、を備える。磁石部材は、(i)その中央部においてコアの側面と略垂直な第1方向を含む配向にて着磁され、(ii-a)その第1端部において、第1方向と反対の第2方向と、中央部に向かう第3方向との間の配向にて着磁され、(ii-b)その第2端部において、第2方向と、中央部に向かう第4方向との間の配向にて着磁される。
【0009】
これら態様によると、磁石部材全体を実質的に同一方向に着磁させた場合と比べて、両端部の表面磁束密度の低下と引き替えに、中央部における表面磁束密度を高めることができる。本発明者らが検討したところ、中央部分の磁界の方が、両端部の磁界よりも電動機のトルクあるいは効率への寄与が大きい。したがってこの永久磁石電動機によれば、電動機の効率を高め、および/または、トルクを高めることができる。あるいは、同じ効率/トルクを得るために必要な磁石部材の体積を低減できるため、電動機の小型化、低コスト化を実現できる。
【0010】
本発明の別の態様は、永久磁石電動機の回転子の環状のコアの側面に取り付けられる磁石部材の着磁方法に関する。着磁方法は、磁石部材の中央部を、磁石部材が取り付けられるコアの側面と略垂直な第1方向の配向にて着磁するステップと、磁石部材の第1端部を、第1方向と反対の第2方向から、中央部に向かう第3方向の間の配向にて着磁するステップと、磁石部材の第2端部を、第2方向から、中央部に向かう第4方向の間の配向にて着磁するステップと、を備える。
【0011】
この態様によると、電動機の効率を高め、および/または、トルクを高めることができる。あるいは、同じ効率/トルクを得るために必要な磁石部材の体積を低減できるため、電動機の小型化、低コスト化を実現できる。なお、中央部、第1端部、第2端部を着磁するステップは個別に実行されてもよいし、一部あるいは全部が同時に実行されてもよい。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のある態様によれば、永久磁石電動機の磁石部材の表面磁束密度を増大させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
図1は、実施の形態に係る永久磁石電動機100の構成を示す断面図である。永久磁石電動機100は、固定子(ステータ)10と、回転子(ロータ)20と、を備える。本実施の形態では、16ポール18スロットの電動機について説明する。
【0017】
固定子10は、ステータヨーク(以下、単にヨークともいう)12、複数のティース14および複数のモータコイル18を備える。18スロットの電動機は、18個のティース14を備える。ヨーク12の内側には、ヨーク12の外周から中心に向かう方向に突起する複数のティース14が設けられる。モータコイル18は、ティース14ごとに設けられ、対応するティース14に集中的に巻装される。ヨーク12およびティース14は、固定子10の内部に発生する回転磁界の磁路を構成し、例えば、鉄を含む材料が用いられる。
【0018】
図2(a)、(b)は、回転子20の斜視図である。コア22には、回転軸28が取り付けられる。回転子20は、環状のコア22および複数の磁石部材50を備える。コア22は、円筒もしくは円柱形状を有する。磁石部材50は、外部磁場を印加して着磁することで永久磁石となる部材であり、断面形状が略台形もしくは矩形の柱形状を有する。複数の磁石部材50は、コア22の外周(外側面)24に沿って周方向に並べて配置される。具体的には外周面24には、複数の磁石挿入部26が形成される。磁石挿入部26は、磁石部材50の位置および形状に対応して形成された溝であり、磁石部材50は磁石挿入部26にはめ込まれた態様にてコア22に対して固定される。後述のように磁石部材50の着磁は、磁石部材50を磁石挿入部26に挿入する前に行ってもよいし(前着磁)、磁石挿入部26に挿入した状態で行ってもよい(後着磁)。
【0019】
永久磁石電動機100は、モータコイル18に電流を流すことにより回転磁界を発生させ、複数の磁石部材50が取り付けられる回転子20を回転させる。
【0020】
以上が永久磁石電動機100の全体構成である。続いて、磁石部材50について説明する。
図3(a)、(b)および
図4(a)〜(c)は、磁石部材50の着磁方向および発生磁界を模式的に示す図である。ここではN極の永久磁石を例示するが、S極については磁石部材50、中央部52、第1端部54を、N極とは反対に着磁すればよいことが理解される。
【0021】
はじめに、
図3(a)、(b)を参照して、従来の磁石部材の着磁方向を示す。
図3(a)、(b)の磁石部材50は、磁石部材50の幅方向(図中、X軸方向)全体にわたり、回転子20のコア22の外周面24と垂直方向(第1方向、図中Y軸方向)の磁界を発生させる配向にて着磁されている。具体的には
図3(a)では、中央部52、第1端部54、第2端部56すべてにおいて、配向方向(X,Y)=(0,1)となっている。
図3(b)では、中央部52において、配向方向(X,Y)=(0,1)となっており、第1端部54の配向方向(X,Y)=(1,1)、第2端部56の配向方向(X,Y)=(−1,1)となっている。
【0022】
続いて
図4(a)〜(c)を参照して、実施の形態に係る磁石部材50の着磁について説明する。
図4(a)〜(c)の磁石部材50は、中央部52において、コア22の外周と垂直な第1方向(Y軸正方向)の配向で着磁される点で
図3(a)、(b)と共通する。一方、
図4(a)〜(c)の磁石部材50は、その両端部54、56において、第1方向(Y軸正方向)に磁界を発生させないように、言い換えれば、両端部54、56の内部の磁界がY軸正方向の成分を含まないように着磁されている。配向方向のY成分に関してY≦0が成り立っている。
【0023】
具体的には
図4(a)では、中央部52において、配向方向(X,Y)=(0,1)となっており、第1端部54において、配向方向(X,Y)=(1,0)となっており、第2端部56において、配向方向(X,Y)=(−1,0)となっている。
図4(c)では、配向方向(X,Y)=(0,1)となっており、第1端部54および第2端部56において、配向方向(X,Y)=(0,−1)となっている。
図4(b)は、
図4(a)と
図4(c)の中間的な配向であり、第1端部54において、配向方向(X,Y)=(1,−1)、第2端部56において、配向方向(X,Y)=(−1,−1)となっている。
図4(a)〜(c)いずれの場合も、磁石部材50は幅方向について対称に着磁することが望ましい。
【0024】
なお、
図4(a)〜(c)において、中央部52、第1端部54、第2端部56は物理的に分離されているわけではなく、単一の磁石部材50の着磁の配向が異なる部位を、仮想的、便宜的に区別して称呼していることに留意されたい。さらに言えば、後述の着磁技術によって実際に着磁される磁石部材50においては、中央部52、第1端部54、第2端部56において、着磁の配向は連続的に変化することに留意されたい。この場合、中央部52と第1端部54の境界、中央部52と第2端部56の境界では、中間的な配向方向を有する。
【0025】
図5は、
図3(a)、(b)および
図4(a)、(c)に示す磁石部材50が発生するY方向の表面磁束密度Byの計算結果を示す図である。表面磁束密度Byは、外周面24から1mm離れた箇所の磁束とした。磁石部材50の幅方向の長さは25mm、厚みを10mmとしている。また第1端部54、中央部52、第2端部56それぞれの幅を、5mm、15mm、5mmとして計算を行った。
図5の(i)〜(iv)はそれぞれ、
図3(a)、
図3(b)、
図4(a)、
図4(c)の磁石部材50が発生する磁束密度である。
【0026】
図5の(iii)および(iv)の磁束密度は、中央領域ΔX(X=8〜17mm)において、
図5の(i)および(ii)の磁束密度よりも大きくなっている。つまり、
図5の(iii)および(iv)それぞれに対応する
図4(a)、(c)の配向にて磁石部材50を着磁することにより、
図3(a)、(b)の配向よりも中央領域の磁束密度を高めることが可能となる。
図5には図示しないが、
図4(b)の配向にて磁石部材50を着磁した場合、
図5の(iii)と(iv)の間の特性を有することとなり、この場合も、
図3(a)、(b)の配向よりも中央領域の磁束密度を高めることが可能となる。
【0027】
中央部52の磁界の方向を第1方向D1、それと反対方向を第2方向D2、第1方向D1と垂直であり第1端部54から中央部52に向かう向きを第3方向D3、第1方向D1と垂直であり第2端部56から中央部52に向かう向きを第4方向D4と定義する。このとき磁石部材50は、(ii-a)その第1端部54において、第2方向D2と第3方向D3との間の磁界を発生させるように着磁され、(ii-b)その第2端部56において、第2方向D2と第4方向D4との間の磁界を発生させるように着磁されていると把握することができる。
図6は、中央部52、第1端部54、第2端部56それぞれにおける配向方向の範囲を示す図である。
【0028】
図5では、中央部分ΔX(9mm)は、磁石部材50の幅(25mm)の36%に相当する。高い表面磁束密度が要求される中央部分ΔXの最適値は、ポール数、スロット数、ティースの形状などにも依存する。中央部52、第1端部54、第2端部56それぞれの配向は、中央部分ΔXにおいて高い表面磁束密度が得られるように定められている。
【0029】
以上が永久磁石電動機100の構成である。
続いてその利点を説明する。本発明者らが検討したところ、中央部分ΔXの磁界の方が、それ以外の部分の磁界よりも電動機のトルクあるいは効率への寄与が大きいことを認識するに至った。
【0030】
この知見にもとづけば、中央領域の磁束密度が大きければ、その両端付近の磁束密度が小さく、あるいは向きが反対であったとしても、磁石部材50全体、ひいては永久磁石電動機100全体として把握したときには高性能でありえる。すなわち、実施の形態に係る磁石部材50を有する永久磁石電動機100によれば、電動機の効率を高め、および/または、トルクを高めることができる。あるいは、同じ効率/トルクを得るために必要な磁石部材50の体積を低減できるため、電動機の小型化、低コスト化を実現できる。
【0031】
つまり実施の形態に係る永久磁石電動機100によれば、従来のように、磁石部材50全体を同一方向に着磁することに注力するのではなく、磁石部材50の両端部54、56の磁界の向きを、中央部52のそれとは積極的に異ならしめることにより、永久磁石電動機100の性能を高めることができる。
【0032】
続いて、磁石部材50の着磁方法および永久磁石電動機100の製造方法について説明する。
【0033】
はじめに、磁石部材50を回転子20に取り付ける前に磁石部材50を着磁する前着磁について説明する。
図7(a)、(b)は、磁石部材50を前着磁する着磁装置200を示す図である。着磁装置200は、ヨーク202および着磁コイル204を備える。ヨーク202の断面形状は、磁石部材50の着磁の配向方向に応じて設計される。ヨーク202は、少なくともひとつのティース206を有し、各ティース206には、着磁コイル204が巻装される。着磁コイル204に電流を流すことにより生ずる磁界により、磁石部材50が着磁される。
【0034】
たとえば
図7(a)のヨーク202を用いた場合、
図4(a)の配向方向にて磁石部材50を着磁することが可能であり、
図7(b)のヨーク202を用いた場合、
図4(c)の配向方向にて磁石部材50を着磁することができる。着磁された磁石部材50を、
図2に示すようにコア22の磁石挿入部26に挿入することで、回転子20が形成される。
【0035】
ヨーク202の断面形状は
図7(a)、(b)のそれらには限定されず、磁石部材50の断面形状ならびに、目標とする着磁状態に応じて設計すればよい。
【0036】
続いて磁石部材50を回転子20に取り付けた状態で磁石部材50を着磁する後着磁について説明する。
【0037】
図8(a)、(b)は、磁石部材50を後着磁する着磁装置300を示す図である。
図8(a)の着磁装置300aは、
図1の固定子10である。
この着磁装置300aを用いる場合、はじめにコア22に着磁前の磁石部材50を取り付けて回転子20が形成される。続いて、回転子20を固定子10の内側に挿入する。この状態で、回転子20と固定子10の相対的な位置を変化させながら、少なくともひとつのモータコイル18に所定量の電流を流す。この状態で固定子10が発生する磁界により、磁石部材50の中央部52、第1端部54、第2端部56を着磁する。
【0038】
着磁装置300aによる着磁に際しては、すべての磁石部材50を同時に着磁することは困難であるから、1個〜3個程度の磁石部材50が着磁対象として選択される。そして、すべてのスロットではなく、着磁対象の磁石部材50の近傍のスロットのモータコイル18に電流を供給することにより、着磁対象の磁石部材50を着磁していく。現在の着磁対象の磁石部材50の着磁が完了すると、次の着磁対象が選択され、これを最後まで繰り返す。
【0039】
図8(b)の着磁装置300bは、
図1の固定子10とは別に設計された着磁専用ヨーク302を備える。着磁専用ヨーク302のスロット数(ティース306の個数)およびティース306の形状は、固定子10のスロット数およびティース14の形状とは無関係であり、所望の着磁態様に応じて任意に定めることができる。
【0040】
この着磁装置300bを用いる場合、はじめにコア22に着磁前の磁石部材50を取り付けて回転子20が形成される。続いて、回転子20を、着磁装置300bの内側に挿入する。この状態で、回転子20と着磁装置300bの相対的な位置を変化させながら、少なくともひとつの着磁コイル304に所定量の電流を流す。この状態で着磁装置300bが発生する磁界により、磁石部材50の中央部52、第1端部54、第2端部56を着磁する。着磁装置300bによる着磁方法は、基本的には着磁装置300aを用いた場合と同様である。
【0041】
上述のように着磁装置300bでは、固定子10とは別に、磁石部材50の目標となる配向態様に応じて、着磁専用ヨーク302を設計することができるため、着磁に要する時間を短縮できる。
【0042】
以上、磁石部材50の着磁装置および着磁方法について説明した。永久磁石電動機100の製造に関して、着磁処理以外については、一般的な永久磁石電動機100の製造方法と同様でよいため説明を省略する。
【0043】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。これらの実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0044】
(変形例1)
実施の形態では16ポール18スロットの永久磁石電動機100について説明したが、本発明において、ポール数およびスロット数は限定されない。
【0045】
(変形例2)
上述の実施形態では、磁石部材50を回転子20の外周面24に沿って取り付ける表面磁石型(SPM:Surface Permanent Magnet)モータの場合を例示したが、磁石部材50を回転子20の内側に埋め込む埋込磁石型(IPM:Interior Permanent Magnet)モータに対して上述した技術を適用してもよい。
【0046】
(変形例3)
なお、実施の形態に係る永久磁石電動機100の用途は特に限定されるものではないが、たとえば射出成形機などに好適に使用することができる。