(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ニッケル金属を含む多孔質材料で形成され、燃料ガスが流通するガス流路を有するアノード支持体と、前記アノード支持体の上に形成された、燃料極層、固体酸化物電解質層および空気極層が積層された積層体と、を含む固体酸化物形燃料電池セルの評価方法であって、
前記ガス流路に面する前記アノード支持体の表面近傍の炭素濃度に基づいて、該炭素濃度が所定の基準濃度以上となる、前記アノード支持体の最表面からの深さを取得し、
前記深さを所定の基準深さと比較し、
前記深さが所定の基準深さ以上である場合に、前記固体酸化物形燃料電池セルの性能を回復するための処理が必要と判断することを特徴とする固体酸化物形燃料電池セルの評価方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0021】
図1は、実施の形態に係る燃料電池システムの主要部の概略構造を示す斜視図である。
図2は、実施の形態に係る燃料電池システムの主要部の構造を模式的に示す概略図である。
図1では、モジュールケース2の内部を透視した状態を示している。
図2は模式図であるため、各部の配置や設置数等は必ずしも
図1と一致しない。燃料電池システム100は、ホットモジュール1を備える。ホットモジュール1は、モジュールケース2と、モジュールケース2内に収容される燃料電池スタック10、水気化器50および改質器6を有する。
【0022】
モジュールケース2は、例えば、耐熱性金属で形成された略直方体形状の外枠体と、外枠体の内面に内張りされた断熱材とで構成される。モジュールケース2には、供給管3、供給管4および供給管52が設けられる。供給管3は、ケース外部からケース内に原燃料を供給する管である。供給管4は、ケース外部からケース内にカソード用空気(酸素含有ガス)を供給する管である。供給管52は、ケース外部からケース内に水蒸気改質反応に用いられる改質用水を供給する管である。また、モジュールケース2には、排気口5が設けられる。原燃料としては、都市ガス、LPG、メタノール、ジメチルエーテル(DME)、灯油等が用いられる。なお、燃料の供給管3、水の供給管52および、カソード用空気の供給管4には、燃料、水、および、カソード用空気の各供給量を調整可能なように、各々に対応して図示しない供給量制御手段(ポンプおよび/または制御弁)が設けられ、これらは、燃料電池システム100に備えられた制御部200からの制御信号によって適宜制御される。
【0023】
水気化器50および改質器6は、モジュールケース2内の上部であって、燃料電池スタック10の上方に配置される。水気化器50には供給管52が接続され、改質器6には供給管3が接続される。水気化器50は、供給管52から供給される改質用水を気化させる。気化された改質用水(水蒸気)は、改質器6に供給される。改質器6は、耐熱性金属で形成されたケースと、ケース内に収容され原燃料の改質に用いられる改質触媒とを有する。改質器6は、水気化器50から供給される水蒸気を用いる水蒸気改質反応により、供給管3から供給される原燃料を水素リッチな燃料ガス(改質ガス)に改質する。
【0024】
改質器6の改質ガス出口部6aには、改質ガス供給管7の一端が接続される。改質ガス供給管7の他端は、マニホールド8に接続される。マニホールド8は、後述するアノード触媒層23に供給される燃料の供給路である。マニホールド8は、燃料電池スタック10の下方に配置され、改質器6から供給される改質ガスを、燃料電池スタック10に含まれる複数の燃料電池20に分配する。燃料電池スタック10は、モジュールケース2内の下部であって、改質器6および水気化器50の下方に配置され、マニホールド8上に固定される。
【0025】
マニホールド8は、開口を有する箱状本体と、箱状本体の開口を塞ぐ上蓋とで構成される。上蓋は、たとえば無機ガラス組成物等によって箱状本体に固定される。上蓋は、燃料電池スタック10の保持部材として機能する。上蓋には、各燃料電池20のアノード支持体21を固定するための複数の開孔が設けられており、各開孔に各アノード支持体21の下端部が挿入され、接着剤等の固定材により固定される。固定材として用いられる接着剤としては、シリカ−アルミナ系の無機接着剤が例示される。この場合、各アノード支持体21の下端部が、無機接着剤を介して上蓋の各開孔に保持された状態で、無機接着剤を焼成により固化することで、アノード支持体21を上蓋に固定することができる。また、アノード支持体21と上蓋とを固定する接着剤層がシール材で被覆される。これにより、アノード支持体21と上蓋の接合部がガスタイト(気密)にシールされる。
【0026】
燃料電池スタック10は、複数の燃料電池20(セル)の組立体である。燃料電池20として、たとえば円筒平板型の燃料電池が用いられる場合、複数(
図2では簡略化のため5個を表示)の縦長の燃料電池20が水平方向に一列に配列される。また、隣接する燃料電池20の側面間には、集電部材30が介在する。そして、この一列の燃料電池20が平面上に複数配列されることで、多数の燃料電池20がマトリクス状に配列される(
図3参照)。各列の最外側の集電部材30は、導電部材40に電気的に接続される。
【0027】
燃料電池20はそれぞれの内部に、燃料電池20の下端から上端にかけて延在する複数のガス流路22が設けられる。各ガス流路22は、その下端部がマニホールド8と連通する。ガス流路22の上端部は、改質器6および水気化器50と燃料電池スタック10とで挟まれる空間に開放される。当該空間は、ガス流路22の上端部から放出される燃料ガスの燃焼部を構成する。マニホールド8からガス流路22に流れ込む燃料ガスは、その大部分が燃料電池20に供給される。燃料電池20に供給されない余剰の燃料ガスは、ガス流路22の上端部から燃焼部に供給される。
【0028】
続いて、燃料電池スタック10の構造についてより詳細に説明する。
図3は、燃料電池スタックの構造を模式的に示す水平断面図である。
図3に示すように、本実施の形態では、円筒平板型の燃料電池20を例示する。燃料電池20は、アノード支持型固体酸化物形燃料電池であり、アノード支持体21と、ガス流路22と、アノード触媒層23(燃料極層)と、電解質層24(固体酸化物電解質層)と、カソード触媒層25(空気極層)と、インターコネクタ26とを備える。
【0029】
アノード支持体21は、Ni金属および酸化Niの少なくとも一方を含む多孔質体である。アノード支持体21は、扁平な長円形状の水平断面形状を有するとともに、鉛直方向(縦方向)に延びる(
図2参照)板状片である。アノード支持体21は、マニホールド8側に位置する下面と、改質器6側に位置する上面と、互いに対向する2つの平坦な側面(平坦側面)と、互いに対向する2つの半円筒面形状の側面(2つの平坦側面が並ぶ方向に対して直交する方向に並ぶ2つの湾曲側面)とを有する。
【0030】
アノード支持体21は、その中心部に複数のガス流路22を有する。ガス流路22は、アノード支持体21の長手方向に沿って設けられる。ガス流路22の一端(下端)はアノード支持体21の下面に位置し、ガス流路22の他端(上端)はアノード支持体21の上面に位置する。本実施の形態では、各アノード支持体21に4本のガス流路22が設けられている。アノード支持体21は、マニホールド8に対して固定され、ガス流路22の一端がマニホールド8に連通される。改質器6で生成される改質ガスは、マニホールド8により各燃料電池20のガス流路22に分配され、ガス流路22の一端から他端側へ流れる。
【0031】
インターコネクタ26は、アノード支持体21の一方の平坦側面上(
図3中の第1列の燃料電池スタック10−1において左側の平坦側面上)に設けられる。インターコネクタ26は、各燃料電池20のアノードから集電するための導電部材である。インターコネクタ26は、たとえば導電性セラミックで構成することができる。
【0032】
アノード触媒層23は、アノード支持体21の表面に設けられる。本実施の形態では、アノード触媒層23は、少なくともアノード支持体21の他方の平坦側面上(
図3中の第1列の燃料電池スタック10−1において右側の平坦側面上)に積層される。
【0033】
電解質層24は、アノード触媒層23のアノード支持体21とは反対側の面に設けられる。本実施の形態では、電解質層24は、アノード触媒層23の表面全体を被覆している。カソード触媒層25は、電解質層24のアノード触媒層23とは反対側の面に設けられる。本実施の形態では、カソード触媒層25は、電解質層24の主表面上に積層される。したがって、アノード支持体21を挟んでインターコネクタ26とは反対側に配置される。すなわち、燃料電池20は、ガス流路22を有するアノード支持体21の一方の面に、アノード触媒層23、電解質層24およびカソード触媒層25がこの順に積層され、アノード支持体21の他方の面にインターコネクタ26が形成された構造を有する。アノード支持体21、アノード触媒層23、電解質層24およびカソード触媒層25の構成材料については後に詳細に説明する。
【0034】
複数の燃料電池20は、隣り合う2つの燃料電池20における一方のカソード触媒層25と、他方のインターコネクタ26とが対向するようにして一列に並べられ、集電部材30を介して互いに接合される。すなわち、
図3に示すように、各燃料電池20の左側に位置するインターコネクタ26を、左隣の燃料電池20の右側に位置するカソード触媒層25と、集電部材30を介して接合する。これにより、一列に並ぶ複数の燃料電池20が直列に接続され、燃料電池スタック10が構成される。本実施の形態では、燃料電池スタック10は、第1列の燃料電池スタック10−1と、第2列の燃料電池スタック10−2とを含む。集電部材30は、弾性を有する金属または合金から形成される所定形状の部材や、金属繊維または合金繊維からなるフェルトに所定の表面処理を施した部材から構成することができる。
【0035】
上述した構成を備えるホットモジュール1において、水素製造用の原燃料が供給管3から改質器6に、改質用水が供給管52から水気化器50にそれぞれ供給される。改質器6は、水蒸気改質反応により原燃料を改質して、燃料電池20の発電に用いられる水素リッチな改質ガスを生成する。生成された改質ガスは、改質ガス供給管7を介してマニホールド8に供給される。マニホールド8に供給された改質ガスは、各燃料電池20に分配され、各燃料電池20のガス流路22内を上昇する。この過程で、改質ガス中の水素は、アノード支持体21内を透過してアノード触媒層23に到達する。一方、カソード用空気が供給管4からモジュールケース2内に導入される。モジュールケース2内に導入されたカソード用空気は、各燃料電池20に供給され、カソード空気中の酸素がカソード触媒層25に到達する。
【0036】
そして、各燃料電池20の外周側に位置するカソード触媒層25において、下記式(5)で表される電極反応が生起される。カソード触媒層25で生成されたO
2−は、電解質層24を透過してアノード触媒層23に到達する。また、燃料電池20の中心側に位置するアノード触媒層23において、下記式(6)で表される電極反応が生起される。これにより、燃料電池20において発電が行われる。
1/2O
2+2e
−→O
2− (5)
O
2−+H
2→H
2O+2e
− (6)
【0037】
ガス流路22を流通する改質ガスのうち、電極反応に使用されなかった余剰の改質ガスは、アノード支持体21の上端からモジュールケース2内に放出される。この改質ガスは、改質器6および水気化器50と燃料電池スタック10との間に位置する燃焼部において燃焼される。モジュールケース2内には所定の着火手段(図示せず)が設けられており、改質ガスが燃焼部に放出され始めると着火手段が作動して、改質ガスの燃焼が開始される。また、モジュールケース2内に導入されたカソード用空気のうち、電極反応に使用されなかった余剰の空気が改質ガスの燃焼に利用される。モジュールケース2内は、各燃料電池20の発電により発生する熱、および余剰改質ガスの燃焼により発生する熱により、たとえば600℃〜1000℃程度の高温になる。水気化器50および改質器6は、燃料電池20から発生する熱および改質ガスの燃焼により発生する熱を用いて、改質用水の気化および改質反応を実施する。モジュールケース2内での改質ガスの燃焼によって生成された排気ガスは、排気口5からモジュールケース2外に排出される。
【0038】
続いて、燃料電池20を構成する各部の組成について詳細に説明する。
図4は、アノード支持体の一部を拡大して示す模式図である。アノード支持体21は、燃料をガス流路22からアノード触媒層23まで透過させるためにガス透過性を有することが要求される。また、アノード支持体21は、アノード触媒層23で生成される電子をインターコネクタ26に伝達させるために導電性を有することが要求される。
【0039】
そこで、本実施の形態に係るアノード支持体21は、多孔質である基部210を有する。基部210を多孔質とすることで、ガス流路22からアノード触媒層23へ改質ガスを透過させることができる。また、基部210は、Ni金属および酸化Niの少なくとも一方を含む。基部210に含まれるNiは、アノード支持体21や燃料電池20の製造時には酸化Niの状態を取り、所定の還元工程ののちにはほぼNi金属になる。また、燃料電池システム100の駆動前等は粒子表面の一部が酸化された酸化Ni/Ni金属の混合状態をとり、燃料電池システム100の駆動中、還元性の改質ガスが流通している間は、大部分が還元されて実質的にほぼNi金属の状態をとりうる。
図4では、Ni金属および酸化Niを区別せずに、ニッケル部212として図示している。基部210がニッケル部212を有することで、アノード支持体21に導電性を付与することができる。
【0040】
基部210は、Ni金属および酸化Niの少なくとも一方(すなわちニッケル部212)と、Y
2O
3、ジルコニア系複合酸化物およびセリア系複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1つの酸化物214との複合体であることが好ましい。すなわち、基部210は、Ni金属および/または酸化Niと多孔質の導電性セラミックとで構成されるニッケルサーメットであることが好ましい。ジルコニア系複合酸化物としては、YSZ、ScSZ(Scandia Stabilized Zirconia)等が例示される。セリア系複合酸化物としては、SDC(Samaria-Doped Ceria)、YDC(Yttria-Doped Ceria)、LDC(La
2O
3-doped Ceria)、GDC(Gadolinia-doped Ceria)等が例示される。
【0041】
アノード支持体21は、好ましくは20%以上、より好ましくは25%〜50%の開気孔率を有する。また、アノード支持体21は、好ましくは100S/cm以上、より好ましくは200S/cm以上の導電率を有する。これらの要件を満たすために、アノード支持体21の作製時において、基部210は、アノード支持体21の全質量に対して酸化Ni換算で、好ましくは40質量%以上、より好ましくは40質量%〜80質量%、さらに好ましくは40質量%〜75質量%のNi原子を含有する。基部210におけるNi原子の含有量を、酸化Ni換算で40質量%以上とすることで、アノード支持体21に所望の導電率をより確実に付与することができる。また、基部210におけるNi原子の含有量を、酸化Ni換算で80質量%以下とすることで、アノード支持体21に所望の開気孔率をより確実に付与することができる。アノード支持体21の寸法は、高さ(上端部から下端部までの長さ)がたとえば7cm〜20cmである。
【0042】
基部210の製造方法としては、酸化ニッケルと酸化物214とを含む複合体組成物を押し出し成形等の手段により支持体形状に加工し、適宜焼成処理を施すことで、所定の寸法および気孔率を有するサーメットを形成する方法が、好ましい例として挙げられる。サーメットは、最終的に全てのセル構成層が形成された後に、燃料電池として使用される前に還元処理が施される。この還元処理は通常、水素ガス、あるいは窒素で希釈した水素ガス等の還元ガス気流下で、燃料電池20または燃料電池スタック10を所定温度まで加熱することで実施される。この還元処理により、基部210に含まれる酸化ニッケルのほぼ全てがNi金属に還元される。
【0043】
従来、SOFCの動作温度は700℃以上の高温である場合が多かった。これに対し、近年、電解質材料や空気極材料の改良が進み、600℃程度、あるいはそれを下回る低温で動作可能なSOFCが用いられるようになりつつある。しかしながら、燃料電池20の動作温度が低下すると、燃料電池20の発熱を利用して改質器6での改質反応を行うホットモジュール1では改質器6の温度も低下することになる。この場合、熱平衡によりメタン割合の高い改質ガスが生成されてしまうおそれがある。
【0044】
また、C2以上炭化水素を含む原燃料が用いられる場合、改質器6でC2以上炭化水素がC1化学種に転化されずに燃料電池20に供給されるおそれがある(C2以上炭化水素のスリップ発生)。さらに、燃料電池システム100は、ユーザの指示、省エネルギー効果の向上目的、機器のトラブル等の様々な事由により、停止させられることがある。システムの停止工程、およびその後の再起動工程では、従来の高温で動作するSOFCであっても、改質器6が十分に加温されない場合がある。この場合も、上述したメタン濃度増大や、C2以上炭化水素が混入した改質ガスが燃料電池20に供給される状況が生じうる。
【0045】
とりわけ、システムの停止工程では、燃料電池20の発電を停止させた後、燃料電池20へ改質ガスを供給し続けながら燃料電池20を徐々に冷却することがある。この改質ガスの供給は、アノード支持体21およびアノード触媒層23へ空気が流入し、アノード支持体21が再酸化することを防止する目的で行われる。この場合、燃料電池20の発電の停止後も、数時間にわたって燃料電池20へ改質ガスが供給されることになる。一方、燃料電池20の温度低下に伴って改質器6の温度も低下していく。そのため、改質器6から燃料電池20へ、高濃度のメタンや未改質のC2以上炭化水素化合物が供給されるおそれが高まる。
【0046】
高濃度のメタンや、C2以上炭化水素化合物が燃料電池20へ供給された場合、従来のアノード支持体を有する燃料電池システムでは、様々な形態の炭素析出が各所に生じるおそれがあった。このような炭素析出は、たとえばマニホールド、アノード支持体の燃料ガス流れ方向上流部、アノード支持体の細孔内等、あるいはホットモジュールにおける外部の集電構造等により電位が変化する箇所などに生じやすい。
【0047】
炭素析出は、たとえば、C2以上炭化水素を多く含み、低S/Cの改質ガスが燃料電池に供給される場合、あるいは高濃度のメタンを多く含み、低S/Cの改質ガスが供給される場合などに発生する。そして、アノード支持体21の細孔内やNi粒子上等に炭素が析出した場合、これがアノード支持体の寸法膨張をもたらす。アノード支持体が膨張すると、応力変形やクラックが発生するおそれがあった。また、アノード支持体とマニホールドとの接合部を被覆するシール材に応力変形が生じ、クラックや剥離に至るおそれがあった。特に、原燃料が、炭素数2以上の炭化水素化合物を原燃料の総モル量に対して5モル%以上含有する場合には、上述した炭素析出が生じやすい傾向にある。
【0048】
アノード触媒層23は、Ni金属および酸化Niの少なくとも一方と、ジルコニア系複合酸化物、セリア系複合酸化物およびLSGMからなる群から選択される少なくとも1つの複合酸化物とで構成される複合体であることが好ましい。具体的には、アノード触媒層23は、Ni/YSZ、Ni/ScSZ、Ni/SDC、Ni/YDC、Ni/LDC、Ni/GDC、Ni/LSGM(La−Sr−Ga−Mg複合酸化物)からなる群から選択される少なくとも1つのサーメットであることが好ましい。アノード触媒層23の層厚は、たとえば0.1μm〜50μmである。
【0049】
電解質層24は、電極間の電子伝導やイオン伝導の橋渡しをする電解質として機能するとともに、燃料ガスおよび空気のリークを防止するためのガス遮断層としても機能する。電解質層24は、ジルコニア系複合酸化物、セリア系複合酸化物およびLSGMからなる群から選択される少なくとも1つの複合酸化物を含むことが好ましい。具体的には、電解質層24には、YSZ、ScSZ、SDC、YDC、LDC、GDC、LSGMからなる群から選択される固体電解質が好ましく用いられる。電解質層24の層厚は、たとえば0.2μm〜200μmである。
【0050】
カソード触媒層25は、いわゆるABO
3型のペロブスカイト型酸化物で構成される導電性セラミックを用いて形成することができる。カソード触媒層25は、ガス透過性を有することが求められる。そのため、カソード触媒層25の開気孔率は、好ましくは20%以上であり、より好ましくは30%〜50%である。したがって、カソード触媒層25は、LSM(La Sr Mn)、LSC(La Sr Co)、LSCF(La Sr Co Fe)等の複合酸化物を含むことが好ましい。カソード触媒層25の層厚は、たとえば2μm〜200μmである。ただし、カソード触媒層25が集電部材30への電気的接続機能を有する場合、あるいはカソード触媒層25自体が集電機能を有する場合などは、この限りでない。上述したアノード触媒層23、電解質層24および/またはカソード触媒層25の材料によって、600℃程度あるいはそれを下回る温度での燃料電池20の動作が実現されうる。
【0051】
アノード触媒層23、電解質層24およびカソード触媒層25は、アノード支持体21に対してこの順に積層される。また、インターコネクタ26がアノード支持体21に焼結される。これにより、燃料電池20が形成される。なお、上述したアノード支持体21の形成過程で、アノード支持体21となる複合体組成物の焼成と同時にアノード触媒層23や電解質層24を複合体組成物に焼結させることで、残留応力の少ない状態でアノード支持体21、アノード触媒層23および電解質層24からなる構造体を形成することができる。
【0052】
(固体酸化物形燃料電池セルの評価方法)
本発明者らは、アノード支持体21に用いられるニッケルサーメットに関して、低S/Cの含炭化水素ガスが曝露される条件におけるアノード支持体21上への炭素蓄積挙動、支持体構造変化やそれに伴う支持体自体のマクロ的な寸法膨張挙動を鋭意検討した結果、炭素析出が起きるメカニズム、炭素析出が起きる際のアノード支持体21の状態・物性変化、寸法膨張が生じる臨界条件、およびその回復条件に関して、以下のような知見を得た。
【0053】
(1)低S/C、具体的には熱力学平衡的に水蒸気改質反応が完結せずに炭化水素の炭化分解が生じるS/C<1の炭化水素と水蒸気の混合ガスをニッケルサーメットを含むアノード支持体に高温下で曝露させると、アノード支持体中のニッケル粒子上に炭素が析出する。
【0054】
(2)炭素析出は、アノード支持体の燃料ガスに接する側の表面から逐次進行し、徐々にニッケルサーメットの空孔を通じて内部まで燃料ガスが拡散することにより、炭素析出部位が内部へ徐々に拡大する。
【0055】
(3)炭素析出が進行すると、少なくとも混合ガスに曝露された面においては2次元的に、さらに、アノード支持体の形状によって曝露面が複数ある場合にはアノード支持体全体が3次元的に膨張し、変位計(Dilatometer)により寸法膨張が観測される。このとき、炭素析出部位の厚み(表層からの深さ)が、ある一定値を超えたところから寸法膨張が開始される。
【0056】
以下に知見(2)、(3)に関連する分析結果を記載する。
NiO(住友金属鉱山、NiO−FP)とYSZ(東ソー、TZ8YS)を体積比40:60で湿式混合し、乾燥した後、600℃、1時間焼成した。得られた粉に架橋ポリメタクリル酸メチル(積水化成品工業)を重量比30%で混合し、乾式粉砕後、静水圧プレス100MPaでペレット状試料を成型した。圧粉体ペレットを大気中1300℃、4時間焼成することでNiO/YSZペレットを作成した。このペレットから約2×2×10mmの直方体サンプルを切り出し、水素中で800℃5時間で還元処理することで、炭化水素曝露試験用Ni/YSZ試料を作成した。還元前のNiO/YSZの空孔度は約17%、還元処理後のNi/YSZ試料の空孔度は約35%であった。
【0057】
炭素析出によるNi/YSZ試料の変形を評価するため、Netzsch社製のDilatometer中で炭化水素曝露試験を実施した。ガスは100cc/min速度で供給した。サンプルの形状変化として直方体の長辺の長さ変化を測定した。Ni/YSZ試料を乾燥5%H
2/N
2雰囲気にて5℃/minで昇温し、800℃を保持した。サンプル長さが安定したことを確認した後、1%プロパン/N2ガスの供給を開始し、所定の炭化水素曝露時間(10分、20分、30分、60分、90分、120分)になるようにサンプルを1%プロパン/N2ガスに曝露させた。炭化水素燃料の水蒸気量は、温度制御した水をバブリングすることによって制御した。サンプルの形状変化が大きい場合、変形挙動の終了を待たずに乾燥N
2にて燃料をパージした後、降温してサンプルを取り出した。
【0058】
取り出したサンプルを、Dilatometer設置時に最もガス曝露を受けやすいサンプル表面を含む断面で切断した。得られた切断面に対して、SEM−EDXでNi、Zr、Cそれぞれの元素濃度(カウント数)を表層からの距離ごとに測定し、各元素の強度比と、元のサンプルの元素組成を掛け合わせ、各元素濃度を算出した。
図5は、アノード支持体の表面からの深さ(距離)に対する炭素元素濃度を質量%で示したグラフである。
【0059】
図6は、所定の炭素濃度(この場合1質量%)以上となるアノード支持体の表面からの最深深さ(距離)を「炭素析出厚み」と定義し、曝露時間に対して整理したグラフである。
図6に示すように、炭素析出厚みは、曝露時間が10分まではほぼゼロとなり、その後に増大することが見いだされた。また、サンプル長軸に対する膨張率も、炭素析出厚みに相関して増大する。
図7は、炭素析出厚みに対する膨張率の変化を示すグラフである。
図7に示すように、一定の炭素析出厚み(以下D_allowと表記)以上(この場合、約60μm)で膨張が開始されることが明らかにされた。種々の組成で形成されたアノード支持体についてD_allowを調べた。この結果を表1に示す。
【表1】
【0060】
石英窓付き加熱炉に上述したNi/YSZ試料から切り出したサンプルをセットし、赤外線ランプにて400℃に加熱しながら、ガス雰囲気をN
2から希釈プロパンガス(S/C=0.1)に切替えた。CCDカメラで画像処理による寸法膨張率測定および目視による電解質面でのクラック発生本数計測を実施した。
図8は、サンプルの膨張率と目視されたクラック数との関係を示すグラフである。
図8に示すように、膨張率0.2%まではクラック観測されなかったが、0.2〜0.4%の間で4つのサンプルのいずれにもクラックが発生した。
(4)このような炭化水素曝露による寸法膨張は支持体Niサーメット部位に選択的に起こり、隣接する電解質等の層には生じないため、支持体/電解質で応力(電解質に対して伸張応力)が発生し、この応力がある臨界点を超えると電解質層の破壊(クラック)が発生する。
【0061】
(5)炭素析出が一旦生じた支持体を、熱力学的に水蒸気改質や析出炭素の除去が優勢になるS/C>1のガスに曝露させると、条件によっては析出炭素の一部が除去される。ただし、炭素析出によって支持体の寸法膨張が起きていた場合、寸法に関しては曝露前まで完全には復元しない。
【0062】
上記知見(1)、(2)、(3)からわかったことは、アノード支持体表面から深さ方向の炭素析出状態を何らかの方法で観察すれば、支持体の寸法膨張が未然あるいは微小であってもその度合いを定量化できることである。また上記知見(3)からは「炭素析出しても寸法膨張に至らない許容値D_allow」が存在することになり、寸法変化に至らずとも、炭素析出量に応じた、潜在的破壊リスクを予測することが可能になった。すなわち、炭素析出量のアノード支持体表面からの深さ方向のプロファイルが燃料電池システムにおける、炭素析出による破壊の進行度または炭素析出による破壊に至るまでの潜在的リスクに関する良い評価指標となることを見いだした。
【0063】
上記知見(1)、(4)から、燃料電池の運転条件あるいは運転履歴から、炭素析出がどの程度進行したかを予測することができる。たとえば改質器の温度低下、改質水ポンプの出力低下などから、炭素析出に関する破壊進行あるいは破壊リスクの上昇が生じたかを、前述の評価指標に照らして自己診断することができる。
【0064】
さらに、上記知見(5)からは、炭素析出したもののまだ破壊には至らない領域において、析出炭素を除去し、一旦高まった破壊リスクを下げるための復帰方法が見いだされる。
【0065】
これらの燃料電池セルの評価方法、自己診断方法、復帰方法を合わせることで、燃料電池セルスタックへの炭素析出による破壊リスクを正しく把握し、適宜復帰操作をかけることで破壊を回避、ひいては燃料電池システムの信頼性や長期耐久性を高めることが可能になることが見いだされた。
【0066】
上記知見に基づいて考案された、本実施の形態の固体酸化物形燃料電池セルの評価方法について説明する。当該評価方法では、ガス流路に面するアノード支持体の表面近傍の炭素濃度に基づいて、固体酸化物形燃料電池セルの性能が評価される。
【0067】
図9は、固体酸化物形燃料電池セルの評価方法のある態様を示すフローチャートである。
図9に示すように、まず、ガス流路に面するアノード支持体の表面近傍の炭素濃度に関する情報として、炭素濃度が基準濃度C以上となる、ガス流路に面するアノード支持体の最表面からの深さD(上述した、最深深さまたは炭素析出厚みに該当)を取得する(S10)。なお、「アノード支持体の最表面からの深さ」は、アノード支持体の最表面の法線方向における最表面からの距離で定められる。基準濃度Cは、通常、アノード支持体に対する炭素の重量比で100ppm〜10%の範囲で定められる。
【0068】
アノード支持体の表面近傍の炭素濃度の取得方法としては、二次イオン質量分析(SIMS)、X線光電子分光分析(XPS/ESCA)、オージェ電子分光分析(AES)などの深さ方向分析法や、SEM/EDXによる試料断面の元素分析法などが挙げられる。これらの分析は、通常、アノード支持体から取り出されたサンプル片に対して行われる。
【0069】
取得された深さDと所定の基準深さD
0とを比較することにより、固体酸化物形燃料電池セルが評価される。具体的には、取得された距離Dが基準深さD
0未満の場合には、S20のyesに進み、炭素析出によるセル破壊のおそれがないと判定される(S30)。一方、取得された距離Dが基準深さD
0以上である場合には、S20のnoに進み、炭素析出によるセル破壊のおそれがあると判定される(S40)。なお、基準深さD
0は、通常1〜200μmの範囲で定められ、取得された距離Dが基準深さD
0以上である場合には、セルの性能を回復するための何らかの処理を施す必要があると判断することができる。
【0070】
なお、D
0は前出の炭素析出しても寸法膨張に至らない許容値D_allowに基づいて決定され、D_allowと同一値を用いても良いが、上述のような支持体サンプルに対する物性評価結果と実際の燃料電池システムに対する実証試験結果とを対比させることにより、何らかの安全係数Nをかけて用いても良い。
D
0=D_allow×N
この場合の安全係数Nは通常0.2から5、好ましくは0.5から3の範囲である。Nが上記範囲に該当せず、著しく1から乖離した値となる場合には、支持体物性試験結果が実際の燃料電池システムを反映していないことになり、試験条件の妥当性と言う観点から好ましくない。こうした場合には、実際のシステムに近い炭化水素種、温度やS/C範囲を用いて、再度物性情報を取得し、Nが前記範囲内に収まるようにすることが好ましい。
【0071】
(固体酸化物形燃料電池システムの制御方法)
上述した燃料電池セルの評価方法に関連して実施される固体酸化物形燃料電池システムの制御方法について以下に説明する。
【0072】
制御部200は、アノード支持体の表面の炭素濃度の指標となる、深さDが基準深さD
0以上にならないように、起動条件、発電運転条件、停止条件のうちの少なくとも1つを制御する。起動条件は、燃料電池システムの起動開始後から燃料電池セルの温度が所定温度(たとえば、600℃)になり、発電を開始するまでの起動時に設定される運転条件をいう。発電運転条件とは、上記起動時の経過後、発電を停止するとともに、供給する燃料の量を減少させ始めるまでの発電運転時に設定される運転条件をいう。また、停止条件は、発電停止後、燃料電池システムが完全に停止するまでの停止時に設定される運転条件をいう。
【0073】
(起動条件制御)
起動条件制御では、発電開始までに燃料電池セルへ供給する燃料ガスに含まれる炭化水素の炭素モル数に対する水蒸気モル比率(S/C値)を通常運転時(たとえば、2.2〜2.5)よりも高く設定する。
【0074】
(発電運転条件制御)
発電運転時のいずれかの時点おいて、アノード支持体への炭素蓄積量が基準値より増加したと判断された場合に、炭化水素燃料の炭素モル数に対する水蒸気モル比率(S/C値)を所定時間だけ通常運転時(たとえば、2.2〜2.5)よりも上昇させて蓄積炭素の除去制御を行う。
【0075】
アノード支持体への炭素蓄積量が基準値より増加したと判断される例としては、燃料ガスの改質のための水蒸気供給量の低下、あるいは炭化水素原料供給量の上昇、あるいは水蒸気改質反応器の温度低下の程度が所定の基準値を超えた場合が挙げられる。
【0076】
(停止条件制御)
停止条件制御では、燃料電池セルへの燃料ガスの供給を継続し、かつ、燃料電池セルへ供給する燃料ガスの供給炭化水素燃料の炭素モル数に対する水蒸気モル比率(S/C値)を通常運転時(たとえば、2.2〜2.5)よりも高く設定する。
【0077】
以上説明したように、本実施の形態によれば、固体酸化物形燃料電池用のアノード支持体について、炭素析出機構に基づくセル評価を適切に行うことができる。また、炭素析出機構に関する知見を生かし、原燃料がC2以上炭化水素を5モル%以上含有する場合であっても、炭素析出に起因するアノード支持体の膨張破壊を効果的に抑制することができる。
【0078】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0080】
(参考例1)
50%Ni/YSZで形成されたアノード支持体、Ni/YSZで形成されたアノード触媒層、YSZで形成された電解質層、LSCF(La
0.6Sr
0.4Co
0.2Fe
0.8O
3−δで形成されたカソード触媒層が積層された積層体を有する円筒平板型の燃料電池セルを用いた。燃料ガスとして、70%H
2/20%H
2O/15%CO
2/10%CO/5%CH
4という組成のベースガスを含む水蒸気改質ガスをアノード触媒層に供給し、酸化剤ガスとして空気をカソード触媒層に供給した。通常運転時において、セル温度を670℃とし、燃料ガス利用率を75%、酸化剤ガス利用率を40%とした。停止時において、セル温度が350℃未満になるまで、水蒸気改質ガスを導入した。また、起動時、発電時、停止時ともにS/C比を2.2とした。起動時間3h、通常運転時間8h、停止時間約6h、インターバル約7hを1サイクルとし、200サイクルの耐久試験を実施した。なお、1回目のサイクルの停止後に、セルの一部を抜き出して、炭素析出厚みを測定した。具体的には、円筒平板型セルを高さ方向に対して垂直に切り出し、燃料ガス流路から深さ方向の炭素濃度分布をEDXで測定した。測定された炭素析出厚み(SEM/EDXによる基準濃度1%)は4μmであった。
【0081】
(比較例1)
炭素析出によってアノード支持体がダメージを受けた状態を意図的に作り出すために、停止時において、発電停止とともに強制的に改質水ポンプを停止させた状態で、原料ガスであるプロパン(濃度:1%)のみを30分間にわたり燃料電池セルに供給した。具体的には、原料ガスとしてのプロパンについて、改質器をバイパスした後、改質器出口の下流側で燃料ガス供給ラインに戻すことにより燃料電池セルに直接的に導入した。停止時に、プロパンのみをセルに供給したことを除いて、参考例1と同条件にて、比較例1のセルに対して200サイクルの耐久試験を実施した。1回目のサイクルの停止後に測定された炭素析出厚み(基準濃度1%)は、38μmであった。
【0082】
(実施例1)
比較例1と同様に、停止時にプロパンのみを燃料電池セルに供給して停止した後、2回目の起動時における水蒸気改質工程において30分間にわたり、S/C比を3.5として回復運転を実施した。これ以外の条件を参考例1と同条件として、実施例1のセルに対して200サイクルの耐久試験を実施した。1回目のサイクルの停止後に測定された炭素析出厚み(基準濃度1%)は、36μmであったが、2回目のサイクル停止後の炭素析出厚み(基準濃度1%)は7μmまで減少していた。
【0083】
(実施例2)
比較例1と同様に、停止時にプロパンのみを燃料電池セルに供給した。実施例2では、2回目のサイクル以降の起動時において、30分間にわたり、S/C比を3として回復運転を実施した。これ以外の条件を参考例1と同条件として、実施例1のセルに対して200サイクルの耐久試験を実施した。1回目のサイクルの停止後に測定された炭素析出厚み(基準濃度1%)は、47μmであった。
【0084】
図10は、上記のように耐久試験が実施された参考例1、比較例1、実施例1、2の各燃料電池セルについて、試験開始前の出力電圧を基準として、出力電圧の相対値の変化を示すグラフである。試験開始前の出力電圧からの電圧低下率が10%を超えるまでを寿命と定義した場合、比較例1では、寿命が10サイクル程度であった。比較例1では、炭素析出量が起動停止に伴って蓄積し、応力限界を超えたところで電解質層にクラックが発生し、燃料ガスリークに伴うアノード支持体の再酸化などによって大幅に電圧低下が生じ、やがて発電不能となることが確認された。
【0085】
これに対して、停止時に比較例1に比べてS/C比を大きく設定した実施例1、起動時に比較例1に比べてS/C比を大きく設定した実施例2では、比較例1のような顕著な電圧低下が認められず、停止時にプロパンを供給していない参考例1と同様に、寿命が200サイクルを超えることが確認された。
【0086】
(参考例2)
起動時、発電時、停止時ともにS/C比を2.5としたことを除き、参考例1と同様な条件にて10サイクルの耐久試験を実施した。1回目のサイクルの停止後に測定された炭素析出厚み(基準濃度1%)は、3μmであった。
【0087】
(比較例2)
比較例2では、通常運転時に、プロパン(濃度:1%)のみを30分間にわたり燃料電池セルに供給した。これ以外の条件を参考例2と同条件として、比較例2のセルに対して10サイクルの耐久試験を実施した。1回目のサイクルの停止後に測定された炭素析出厚み(基準濃度1%)は、78μmであった。
【0088】
(実施例3)
比較例2と同様に、通常運転時に、プロパンのみを燃料電池セルに供給した後、30分間にわたり、S/C比を5として回復運転を実施した。これ以外の条件を参考例2と同条件として、実施例1のセルに対して10サイクルの耐久試験を実施した。1回目のサイクルの停止後に測定された炭素析出厚み(基準濃度1%)は、16.5μmであった。
【0089】
図11は、上記のように耐久試験が実施された参考例2、比較例2、実施例3の各燃料電池セルについて、試験開始前の出力電圧を基準として、出力電圧の相対値の変化を示すグラフである。
【0090】
比較例2では、2回目のサイクルにおいて、出力電圧が試験開始前の値から23%程度低下し、寿命が1サイクルであった。これに対して、実施例3では、通常運転時にプロパンのみを供給していない参考例2と同様に、寿命が10サイクル以上になることが確認された。