特許第6385104号(P6385104)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385104
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】回転伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20180827BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   F16D41/08 Z
   F16D27/112 Z
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-71784(P2014-71784)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-194192(P2015-194192A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100084858
【弁理士】
【氏名又は名称】東尾 正博
(74)【代理人】
【識別番号】100112575
【弁理士】
【氏名又は名称】田川 孝由
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】笹沼 恭兵
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎太朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光司
【審査官】 尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−020387(JP,A)
【文献】 特開2009−293759(JP,A)
【文献】 特開2005−140294(JP,A)
【文献】 実開昭51−056496(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/08
F16D 27/112
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪(1)と、
前記外輪(1)の内側に配置され、前記外輪(1)に対して相対回転可能に支持された内輪(2)と、
前記外輪(1)の内周と前記内輪(2)の外周との間に周方向に対向するように組み込まれた一対の係合子(3a,3b)と、
前記一対の係合子(3a,3b)を前記外輪(1)と前記内輪(2)の間に係合させる係合位置と、前記係合子(3a,3b)の係合を解除させる係合解除位置との間で相対回転可能に支持された第1の分割保持器(4A)および第2の分割保持器(4B)と、
前記第1の分割保持器(4A)と第2の分割保持器(4B)を軸方向に相対移動させる軸方向移動装置(30)と、
前記第1の分割保持器(4A)と第2の分割保持器(4B)が軸方向に相対移動したときにその軸方向の相対移動を前記第1の分割保持器(4A)と前記第2の分割保持器(4B)の相対回転に変換する運動変換機構(31)とを有する回転伝達装置において、
前記第1の分割保持器(4A)は、周方向に間隔をおいて配置された複数の柱部(15a)と、これらの柱部(15a)の端部同士を連結する環状の内側連結環(16a)とを有し、
前記第2の分割保持器(4B)は、周方向に間隔をおいて配置された複数の柱部(15b)と、これらの柱部(15b)の端部同士を連結する環状の外側連結環(16b)とを有し、
前記運動変換機構(31)が、
前記第1の分割保持器(4A)と前記第2の分割保持器(4B)の間で径方向に対向するように両分割保持器(4A,4B)にそれぞれ設けられた径方向の対向面(43A,43B)と、
前記第1の分割保持器(4A)の前記第2の分割保持器(4B)に対する前記対向面(43A)に、軸方向に対して周方向に傾斜して延びるように形成された第1のらせん溝(44A)と、
前記第2の分割保持器(4B)の前記第1の分割保持器(4A)に対する前記対向面(43B)に、前記第1のらせん溝(44A)と同じ方向に延びるように形成された第2のらせん溝(44B)と、
前記第1のらせん溝(44A)と前記第2のらせん溝(44B)の間に組み込まれたボール(45)とからなり、
前記第1のらせん溝(44A)が、前記第1の分割保持器(4A)の前記柱部(15a)に配置され、
前記第2のらせん溝(44B)が、前記第2の分割保持器(4B)の前記外側連結環(16b)に配置されている、
ことを特徴とする回転伝達装置。
【請求項2】
前記第1のらせん溝(44A)は、周方向に間隔をおいて3箇所以上設けられ、
前記第2のらせん溝(44B)は、それぞれの前記第1のらせん溝(44A)と径方向に対向する位置に周方向に間隔をおいて3箇所以上設けられ、
前記ボール(45)は、それぞれの前記第1のらせん溝(44A)と第2のらせん溝(44B)の間に組み込まれている請求項1に記載の回転伝達装置。
【請求項3】
前記軸方向移動装置(30)は、
前記第1の分割保持器(4A)と前記第2の分割保持器(4B)のうちの一方と軸方向に一体に移動するように連結されたアーマチュア(32)と、
前記アーマチュア(32)と軸方向に対向して配置されたロータ(33)と、
通電によりアーマチュア(32)をロータ(33)に吸着させる電磁石(34)とからなる請求項1または2に記載の回転伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転の伝達と遮断の切り換えに用いられる回転伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸から出力軸に回転が伝達する状態と、その回転の伝達を遮断する状態とを切り換えるために用いられる回転伝達装置として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1に記載の回転伝達装置は、外輪と、外輪の内側に配置された内輪と、外輪の内周の円筒面と内輪の外周のカム面との間に周方向に対向するように組み込まれた一対のローラと、その一対のローラの間隔を広げる方向に各ローラを押圧する弾性部材と、前記一対のローラを保持するローラ保持器とを有する。
【0004】
ローラ保持器は、相対回転可能に支持された第1の分割保持器と第2の分割保持器からなる。この第1の分割保持器と第2の分割保持器は、その相対回転に応じて前記一対のローラの間隔が変化するように前記一対のローラを個別に支持しており、前記一対のローラの間隔を広げることにより外輪の内周の円筒面と内輪の外周のカム面との間に各ローラを係合させる係合位置と、前記一対のローラの間隔を狭めることにより外輪の内周の円筒面と内輪の外周のカム面との間への各ローラの係合を解除させる係合解除位置との間で相対回転可能となっている。
【0005】
また、この回転伝達装置は、第1の分割保持器と第2の分割保持器のうちの一方を軸方向に移動させる電磁石と、第1の分割保持器と第2の分割保持器が軸方向に相対移動したときに、その軸方向の相対移動を第1の分割保持器と第2の分割保持器の相対回転に変換するボールカム機構とを有する。
【0006】
ボールカム機構は、第1の分割保持器と第2の分割保持器の間で軸方向に対向するように両分割保持器にそれぞれ設けられた軸方向の対向面と、第1の分割保持器の第2の分割保持器に対する軸方向の対向面に周方向に延びるように形成された第1の傾斜溝と、第2の分割保持器の第1の分割保持器に対する軸方向の対向面に周方向に延びるように形成された第2の傾斜溝と、第1の傾斜溝と第2の傾斜溝の間に組み込まれたボールとからなる。第1の傾斜溝は、その溝深さが周方向に向かって徐々に深くなるように傾斜した溝底をもつように形成され、第2の傾斜溝は、その溝深さが周方向の反対方向に向かって徐々に深くなるように傾斜した溝底をもつように形成されている。
【0007】
そして、電磁石の通電により、第1の分割保持器と第2の分割保持器が軸方向に相対移動すると、第1の傾斜溝と第2の傾斜溝の間のボールが傾斜溝の溝底の深くなる方向に転がることで、第1の分割保持器と第2の分割保持器とが相対回転し、第1の分割保持器と第2の分割保持器とが係合位置から係合解除位置に移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−9721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述の回転伝達装置は、ボールカム機構からボールが脱落するおそれを完全に無くすのが難しい。すなわち、上述の回転伝達装置は、第1の分割保持器と第2の分割保持器の軸方向の相対移動を相対回転に変換する機構として、第1の分割保持器と第2の分割保持器の軸方向の対向面間にボールを組み込んだボールカム機構を採用している。ここで、第1の分割保持器と第2の分割保持器は、軸方向に相対移動可能に支持されているため、万一、何らかの原因で第1の分割保持器と第2の分割保持器とが相対回転を伴わずに軸方向に相対移動したときに、第1の分割保持器と第2の分割保持器の間からボールが脱落するおそれがあった。万一ボールが脱落すると、外輪と内輪の間での回転の伝達と遮断を切り換える動作ができなくなってしまう。
【0010】
この発明が解決しようとする課題は、外輪と内輪の間での回転の伝達と遮断を切り換える動作の信頼性に優れた回転伝達装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、この発明においては、以下の構成を回転伝達装置に採用した。
外輪と、
前記外輪の内側に配置され、前記外輪に対して相対回転可能に支持された内輪と、
前記外輪の内周と前記内輪の外周との間に周方向に対向するように組み込まれた一対の係合子と、
前記一対の係合子を前記外輪と前記内輪の間に係合させる係合位置と、前記係合子の係合を解除させる係合解除位置との間で相対回転可能に支持された第1の分割保持器および第2の分割保持器と、
前記第1の分割保持器と第2の分割保持器を軸方向に相対移動させる軸方向移動装置と、
前記第1の分割保持器と第2の分割保持器が軸方向に相対移動したときにその軸方向の相対移動を前記第1の分割保持器と前記第2の分割保持器の相対回転に変換する運動変換機構とを有する回転伝達装置において、
前記運動変換機構が、
前記第1の分割保持器と前記第2の分割保持器の間で径方向に対向するように両分割保持器にそれぞれ設けられた径方向の対向面と、
前記第1の分割保持器の前記第2の分割保持器に対する前記対向面に、軸方向に対して周方向に傾斜して延びるように形成された第1のらせん溝と、
前記第2の分割保持器の前記第1の分割保持器に対する前記対向面に、前記第1のらせん溝と同じ方向に延びるように形成された第2のらせん溝と、
前記第1のらせん溝と前記第2のらせん溝の間に組み込まれたボールとからなることを特徴とする回転伝達装置。
【0012】
このようにすると、第1の分割保持器と第2の分割保持器の軸方向の相対移動を相対回転に変換する機構として、第1の分割保持器と第2の分割保持器の軸方向の対向面間の傾斜溝にボールを組み込んだ機構ではなく、径方向の対向面間のらせん溝にボールを組み込んだ機構を採用しているので、第1の分割保持器と第2の分割保持器が軸方向の一方向に相対移動するときだけでなく、軸方向の他方向に相対移動したときにも、らせん溝によるボールの案内作用によって、第1の分割保持器と第2の分割保持器とが相対回転する。そのため、第1の分割保持器と第2の分割保持器とが相対回転を伴わずに軸方向に相対移動するおそれがなく、ボールが脱落するおそれもない。したがって、外輪と内輪の間での回転の伝達と遮断を切り換える動作の信頼性が高い。
【0013】
この回転伝達装置は、次の構成を加えると好ましい。
前記第1のらせん溝は、周方向に間隔をおいて3箇所以上設けられ、
前記第2のらせん溝は、それぞれの前記第1のらせん溝と径方向に対向する位置に周方向に間隔をおいて3箇所以上設けられ、
前記ボールは、それぞれの前記第1のらせん溝と第2のらせん溝の間に組み込まれている。
【0014】
このようにすると、周方向に間隔をおいて位置する3箇所以上のらせん溝とボールによって、第1の分割保持器と第2の分割保持器の軸方向の相対移動を相対回転に変換するので、第1の分割保持器と第2の分割保持器が相対移動するときの両分割保持器の姿勢が安定し、両分割保持器の相対移動の動作も円滑となる。
【0015】
前記軸方向移動装置としては、例えば、次の構成のものを採用することができる。
前記第1の分割保持器と前記第2の分割保持器のうちの一方と軸方向に一体に移動するように連結されたアーマチュアと、前記アーマチュアと軸方向に対向して配置されたロータと、通電によりアーマチュアをロータに吸着させる電磁石とからなる軸方向移動装置。
【発明の効果】
【0016】
この発明の回転伝達装置は、第1の分割保持器と第2の分割保持器の軸方向の相対移動を相対回転に変換する機構として、両分割保持器の径方向の対向面間のらせん溝にボールを組み込んだ機構を採用しているので、第1の分割保持器と第2の分割保持器が軸方向の一方向に相対移動するときだけでなく、軸方向の他方向に相対移動したときにも、らせん溝によるボールの案内作用によって、第1の分割保持器と第2の分割保持器とが相対回転する。そのため、第1の分割保持器と第2の分割保持器とが相対回転を伴わずに軸方向に相対移動するおそれがなく、ボールが脱落するおそれもない。したがって、外輪と内輪の間での回転の伝達と遮断を切り換える動作の信頼性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施形態にかかる回転伝達装置を示す断面図
図2図1のII−II線に沿った断面図
図3図2の弾性部材を間にして周方向に対向する一対のローラの近傍を拡大して示す断面図
図4図1のIV−IV線に沿った断面図
図5図4のV−V線に沿った断面図
図6図1のVI−VI線に沿った断面図
図7図6に示す運動変換機構の近傍の拡大断面図
図8図1に示す運動変換機構の近傍の拡大断面図
図9】(a)は図8に示す運動変換機構を軸方向に見た展開図、(b)は図8に示す運動変換機構を外径側から見た展開図
図10図8に示す第2の分割保持器が内輪から遠ざかる方向の軸方向に移動したときの運動変換機構の近傍の拡大断面図
図11】(a)は図10に示す運動変換機構を軸方向に見た展開図、(b)は図10に示す運動変換機構を外径側から見た展開図
図12図1に示す第1の分割保持器と第2の分割保持器の分解斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、この発明の実施形態にかかる回転伝達装置を示す。この回転伝達装置は、外輪1と、外輪1の内側に配置された内輪2と、外輪1の内周と内輪2の外周との間に組み込まれた複数のローラ3a,3bと、これらのローラ3a,3bを保持するローラ保持器4とを有する。内輪2には入力軸5が接続され、外輪1には出力軸6が接続されている。入力軸5と出力軸6は同軸上に配置されている。
【0019】
入力軸5と内輪2は、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。入力軸5と内輪2は、別部材として形成し、その両者をセレーション嵌合等で接続してもよい。
【0020】
出力軸6と外輪1も、両者が一体に回転するように継ぎ目のない一体の部材として形成されている。出力軸6と外輪1は、別部材として形成し、その両者をセレーション嵌合等で接続してもよい。外輪1と内輪2の間には、内輪2を外輪1に対して相対回転可能に支持する転がり軸受9が組み込まれている。回転伝達装置の構成部材を収容する筒状のハウジング10の出力軸6側の端部には、出力軸6を回転可能に支持する転がり軸受11が組み込まれている。
【0021】
図2図3に示すように、内輪2の外周には、周方向に等間隔に複数のカム面12が設けられている。カム面12は、前方カム面12aと、前方カム面12aに対して内輪2の正転方向後方に配置された後方カム面12bとからなる。外輪1の内周には、カム面12と半径方向に対向する円筒面13が設けられている。
【0022】
カム面12と円筒面13の間には、弾性部材14を間に挟んで周方向に対向する一対のローラ3a,3bが組み込まれている。この一対のローラ3a,3bのうち正転方向の前側のローラ3aは前方カム面12aと円筒面13の間に組み込まれ、正転方向の後側のローラ3bは後方カム面12bと円筒面13の間に組み込まれている。この一対のローラ3a,3bの間には、一対のローラ3a,3bの間隔を広げる方向に各ローラ3a,3bを押圧する弾性部材14が組み込まれている。
【0023】
前方カム面12aは、円筒面13との間の径方向の距離が、ローラ3aの位置から正転方向前方に向かって次第に小さくなるように形成されている。後方カム面12bは、円筒面13との間の径方向の距離が、ローラ3bの位置から正転方向後方に向かって次第に小さくなるように形成されている。図では、前方カム面12aと後方カム面12bを、相反する方向に傾斜した別々の平面となるように形成しているが、前方カム面12aと後方カム面12bは、単一平面の正転方向の前側部分が前方カム面12a、後側部分が後方カム面12bとなるように、同一平面上に形成することも可能である。また、前方カム面12aと後方カム面12bは、曲面とすることも可能であるが、図のように平面とすると加工コストを低減することができる。
【0024】
図1図3に示すように、ローラ保持器4は、弾性部材14を間にして周方向に対向する一対のローラ3a,3bのうち一方のローラ3aを支持する第1の分割保持器4Aと、他方のローラ3bを支持する第2の分割保持器4Bとからなる。第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bは相対回転可能に支持されており、その相対回転に応じて一対のローラ3a,3bの間隔が変化するように一対のローラ3a,3bを個別に支持している。
【0025】
第1の分割保持器4Aは、周方向に間隔をおいて配置された複数の柱部15aと、これらの柱部15aの端部同士を連結する環状の内側連結環16aを有する。同様に、第2の分割保持器4Bも、周方向に間隔をおいて配置された複数の柱部15bと、これらの柱部15bの端部同士を連結する環状の外側連結環16bとを有する。内側連結環16aは柱部15aに対して径方向内側に配置され、外側連結環16bは柱部15bに対して径方向外側に配置されている。
【0026】
第1の分割保持器4Aの柱部15aと第2の分割保持器4Bの柱部15bは、弾性部材14を間にして周方向に対向する一対のローラ3a,3bを周方向の両側から挟み込むように、外輪1の内周と内輪2の外周の間に挿入されている。
【0027】
図1に示すように、第2の分割保持器4Bの柱部15bの径方向内側には、リング状のフランジ17が固定して設けられている。フランジ17は柱部15bと一体に形成してもよく、柱部15bとは別体のフランジ17を柱部15bの内径側に挿入して固定してもよい(図12参照)。フランジ17は、フランジ17が内側連結環16aよりも内輪2に近い側となる向きで、内側連結環16aと軸方向に対向して配置されている。
【0028】
第1の分割保持器4Aの内側連結環16aの内周と、第2の分割保持器4Bのフランジ17の内周は、入力軸5の外周に設けられた円筒面18でそれぞれ回転可能に支持されている。これにより、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bは、一対のローラ3a,3bの間隔を広げることにより円筒面13とカム面12との間に各ローラ3a,3bを係合させる係合位置と、一対のローラ3a,3bの間隔を狭めることにより円筒面13とカム面12との間への各ローラ3a,3bの係合を解除させる係合解除位置との間で相対回転可能となっている。第1の分割保持器4Aの内側連結環16aは、スラスト軸受19を介して、入力軸5の外周に設けられた環状突起20で軸方向に支持され、これにより軸方向の移動が規制されている。環状突起20は、図では、入力軸5の外周に軸方向に非可動に取り付けられた環状体である。
【0029】
図4に示すように、内輪2の側面には、サイドプレート21が固定されている。サイドプレート21は、一対のローラ3a,3bを間に挟んで周方向に対向する両柱部15a,15bの間に位置するストッパ片22を有する。このストッパ片22は、両柱部15a,15bが一対のローラ3a,3bの間隔を狭める方向に移動したときに、ストッパ片22の両側の縁が各柱部15a,15bを受け止める。これにより、一対のローラ3a,3bの間にある弾性部材14が過度に圧縮して破損するのを防止するとともに、一対のローラ3a,3bの間隔が狭まったときの内輪2に対する各ローラ3a,3bの位置を一定させることが可能となっている。
【0030】
図5に示すように、サイドプレート21は、弾性部材14を保持するばね保持片23を有する。ばね保持片23は、外輪1の内周と内輪2の外周の間を軸方向に延びるようにストッパ片22と一体に形成されている。ばね保持片23は、内輪2の外周の前方カム面12aと後方カム面12bとの間に形成されたばね支持面24(図2参照)に対して半径方向に対向するように配置されている。ばね保持片23のばね支持面24に対する対向面には、弾性部材14を収容する凹部25が形成されている。弾性部材14はコイルばねである。このばね保持片23は、弾性部材14の移動を凹部25で規制することにより、弾性部材14が外輪1の内周と内輪2の外周との間から軸方向に脱落するのを防止している。
【0031】
図1に示すように、回転伝達装置は、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bを軸方向に相対移動させる軸方向移動装置30と、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bが軸方向に相対移動したときにその軸方向の相対移動を第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bの相対回転に変換する運動変換機構31とを有する。軸方向移動装置30は、第2の分割保持器4Bに連結されたアーマチュア32と、アーマチュア32と軸方向に対向して配置されたロータ33と、通電によりアーマチュア32をロータ33に吸着させる電磁石34とからなる。
【0032】
アーマチュア32は、環状の円盤部35と、円盤部35の外周から軸方向に延びるように一体に形成された円筒部36とを有する。アーマチュア32の円筒部36は、第2の分割保持器4Bの外側連結環16bの外周に締め代をもって嵌合しており、この嵌合によってアーマチュア32は、第2の分割保持器4Bと軸方向に一体に移動するように第2の分割保持器4Bに連結されている。また、アーマチュア32は、入力軸5の外周に設けられた円筒面37で回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されている。ここで、アーマチュア32は、軸方向に離れた2箇所(すなわちアーマチュア32の内周と、第2の分割保持器4Bの内周)において軸方向に移動可能に支持することにより、アーマチュア32の姿勢が軸直角方向に対して傾くのが防止されている。
【0033】
ロータ33は、アーマチュア32と電磁石34の間に配置されている。また、ロータ33は、締め代をもって入力軸5の外周に嵌合することにより、軸方向と周方向のいずれにも相対移動しないように入力軸5の外周で支持されている。ロータ33およびアーマチュア32は強磁性を有する金属で形成されている。
【0034】
電磁石34は、ソレノイドコイル39と、ソレノイドコイル39が巻回されたフィールドコア40とを有する。フィールドコア40は、ハウジング10の入力軸5側の端部に挿入されて、止め輪41で抜け止めされている。フィールドコア40には、入力軸5を回転可能に支持する転がり軸受42が取り付けられている。この電磁石34は、ソレノイドコイル39に通電することにより、フィールドコア40とロータ33とアーマチュア32を通る磁路を形成し、アーマチュア32をロータ33に吸着させる。
【0035】
図6図9に示すように、運動変換機構31は、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bの間で径方向に対向するように両分割保持器4A,4Bにそれぞれ設けられた径方向の対向面43A,43Bと、第1の分割保持器4Aの第2の分割保持器4Bに対する対向面43Aに形成された第1のらせん溝44Aと、第2の分割保持器4Bの第1の分割保持器4Aに対する対向面43Bに形成された第2のらせん溝44Bと、第1のらせん溝44Aと第2のらせん溝44Bの間に組み込まれたボール45とからなる。
【0036】
第1のらせん溝44Aは、軸方向に対して周方向に傾斜して延びている。第1のらせん溝44Aの周方向に対する傾斜角(すなわちリード角)は、例えば、15°〜25°程度に設定することができる。第2のらせん溝44Bは、第1のらせん溝44Aと同じ方向(すなわち第1のらせん溝44Aと平行な方向)に延び、第1のらせん溝44Aと同じリード角をもつように形成されている。
【0037】
第1のらせん溝44Aおよび第2のらせん溝44Bは、第1のらせん溝44Aと第2のらせん溝44Bの間をボール45が円滑に転がることができるように断面円弧状に形成されている。また、第1のらせん溝44Aは、その溝深さが溝の長手方向(らせんの方向)に沿って一定となるように形成されている。第2のらせん溝44Bも、その溝深さが溝の長手方向に沿って一定となるように形成されている。ボール45は、第1のらせん溝44Aの内面と第2のらせん溝44Bの内面との間に挟まれるように配置されている。
【0038】
図9(a)(b)に示すように、第1のらせん溝44Aは、第1のらせん溝44Aの両端からボール45が転がり出ないように長手方向の両端が閉じた形状となっている。また、第2のらせん溝44Bは一端が閉じ、他端が開放した形状となっている。
【0039】
図6に示すように、第1のらせん溝44Aは、周方向に間隔をおいて3箇所以上(この実施形態では3箇所)設けられている。また、第2のらせん溝44Bは、それぞれの第1のらせん溝44Aと径方向に対向する位置に周方向に間隔をおいて3箇所以上(この実施形態では3箇所)設けられている。ここで、第1のらせん溝44Aと第2のらせん溝44Bは、いずれも、軸直角方向の断面において、周方向に等間隔となるように配置されている。
【0040】
この運動変換機構31は、図8および図9(a)(b)に示す第2の分割保持器4Bが、内輪2から遠ざかる方向の軸方向に移動したとき、図10および図11(a)(b)に示すように、第1のらせん溝44Aと第2のらせん溝44Bの間を転がるボール45の案内作用により、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bとをらせん溝44A,44Bの延びる方向に相対移動させる。その結果、一対のローラ3a,3bを間に挟む柱部15a,15bの間隔が狭まる方向に第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bとが相対回転する。また、この運動変換機構31は、図10および図11(a)(b)に示す第2の分割保持器4Bが、内輪2に近づく方向の軸方向に移動したとき、図8および図9(a)(b)に示すように、第1のらせん溝44Aと第2のらせん溝44Bの間を転がるボール45の案内作用により、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bとをらせん溝44A,44Bの延びる方向に相対移動させる。その結果、一対のローラ3a,3bを間に挟む柱部15a,15bの間隔が広がる方向に第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bとが相対回転する。
【0041】
アーマチュア32は、弾性部材14の力によって、ロータ33から離れる方向に付勢されている。すなわち、図2に示す弾性部材14が一対のローラ3a,3bの間隔を広げる方向に各ローラ3a,3bを押圧する力が、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bに伝達する。そして、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bが受ける周方向の力は、図6および図7に示す運動変換機構31によって、ロータ33から遠ざかる方向の軸方向の力に変換されて第2の分割保持器4Bに伝達する。ここで、図1に示すように、アーマチュア32は、第2の分割保持器4Bに固定されているので、結局、アーマチュア32は、弾性部材14から運動変換機構31を介して伝達する力によって、ロータ33から離れる方向に付勢された状態となっている。
【0042】
この回転伝達装置の動作例を説明する。
【0043】
図1に示すように、電磁石34への通電を停止しているとき、この回転伝達装置は、外輪1と内輪2の間で回転が伝達する係合状態となる。すなわち、電磁石34への通電を停止しているとき、アーマチュア32は、弾性部材14の力によってロータ33から離反した状態となっている。また、このとき、一対のローラ3a,3bの間隔が広がる方向に各ローラ3a,3bを押圧する弾性部材14の力によって、正転方向の前側のローラ3aは、外輪1の内周の円筒面13と内輪2の外周の前方カム面12aとの間に係合し、かつ、正転方向の後側のローラ3bは、外輪1の内周の円筒面13と内輪2の外周の後方カム面12bとの間に係合した状態となっている。この状態で、内輪2が正転方向に回転すると、その回転は、正転方向の後側のローラ3bを介して内輪2から外輪1に伝達する。また、内輪2が逆転方向に回転すると、その回転は、正転方向の前側のローラ3aを介して内輪2から外輪1に伝達する。
【0044】
一方、電磁石34に通電しているとき、この回転伝達装置は、外輪1と内輪2の間での回転伝達が遮断される係合解除状態(空転状態)となる。すなわち、電磁石34に通電すると、アーマチュア32はロータ33に吸着され、このアーマチュア32の動作に連動して、第2の分割保持器4Bが第1の分割保持器4Aに対して内輪2から遠ざかる方向に軸方向に移動する。このとき、運動変換機構31のボール45が第1のらせん溝44Aと第2のらせん溝44Bの間を転がり、そのボール45の案内作用により、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bとが相対回転する。そして、この第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bの相対回転により、第1の分割保持器4Aの柱部15aと第2の分割保持器4Bの柱部15bとが、一対のローラ3a,3bの間隔が狭まる方向に各ローラ3a,3bを押圧し、その結果、外輪1の内周の円筒面13と内輪2の外周の前方カム面12aとの間への正転方向の前側のローラ3aの係合が解除されるとともに、外輪1の内周の円筒面13と内輪2の外周の後方カム面12bとの間への正転方向の後側のローラ3bの係合も解除された状態となる。この状態で、内輪2に回転が入力されても、その回転は内輪2から外輪1に伝達せず、内輪2は空転する。
【0045】
この回転伝達装置は、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bの軸方向の相対移動を相対回転に変換する機構として、2つの分割保持器の軸方向の対向面間にボールを組み込んだ機構(例えば、特開2014−9721号公報に開示された機構)ではなく、径方向の対向面43A,43B間のらせん溝44A,44Bにボール45を組み込んだ機構を採用しているので、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bが軸方向の一方向に相対移動するときだけでなく、軸方向の他方向に相対移動したときにも、らせん溝44A,44Bによるボール45の案内作用によって、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bとが相対回転する。そのため、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bとが相対回転を伴わずに軸方向に相対移動するおそれがなく、ボール45が脱落するおそれもない。したがって、外輪1と内輪2の間での回転の伝達と遮断を切り換える動作の信頼性が高い。
【0046】
また、この回転伝達装置は、3箇所以上のらせん溝44A,44Bとボール45によって、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bの軸方向の相対移動を相対回転に変換するので、第1の分割保持器4Aと第2の分割保持器4Bが相対移動するときの両分割保持器4A,4Bの姿勢が安定し、両分割保持器4A,4Bの相対移動の動作が円滑である。
【0047】
上記実施形態では、外輪1の内周に円筒面13を設け、内輪2の外周にカム面12を設けているが、外輪1の内周にカム面12(前方カム面12aと後方カム面12b)を設け、内輪2の外周に円筒面13を設け、外輪1の内周のカム面12と内輪2の外周の円筒面13の間に一対のローラ3a,3bを組み込むようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、外輪1の内周と内輪2の外周の間に組み込む係合子としてローラ3a,3bを採用しているが、ローラ以外の係合子を採用することも可能である。例えば、外輪1の内周に形成した円筒面と内輪2の外周に形成した円筒面の間に、起立状態では外輪1の内周と内輪2の外周との間に係合し、倒伏状態では係合が解除されるように、姿勢に応じて高さ寸法が変化する形状を持つ複数のスプラグ(図示せず)を組み込むことができる。
【0049】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 外輪
2 内輪
3a,3b ローラ
4A 第1の分割保持器
4B 第2の分割保持器
30 軸方向移動装置
31 運動変換機構
32 アーマチュア
33 ロータ
34 電磁石
43A,43B 対向面
44A 第1のらせん溝
44B 第2のらせん溝
45 ボール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12