特許第6385121号(P6385121)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385121
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】回転マスダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20180827BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20180827BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20180827BHJP
   F16F 7/10 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   F16F15/02 C
   F16F15/023 Z
   E04H9/02 341A
   F16F7/10
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-85705(P2014-85705)
(22)【出願日】2014年4月17日
(65)【公開番号】特開2015-206381(P2015-206381A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年1月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−205433(JP,A)
【文献】 特開2014−052066(JP,A)
【文献】 実開昭53−132595(JP,U)
【文献】 特開平01−295947(JP,A)
【文献】 特開2000−240318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
F16F 7/10
F16F 15/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘性流体が充填されたシリンダを有するダンパー本体と、
前記ダンパー本体に対して進退する可動ロッドと、
前記シリンダ内を一対の圧力室に区画すると共に前記可動ロッドの進退に伴って当該シリンダ内を移動するピストンと、
前記一対の圧力室の間で粘性流体を流動させる複数のバイパス通路と、
少なくとも一つのバイパス通路に設けられて前記粘性流体の流動を回転運動に変換する運動変換機構と、
この運動変換機構によって回転を与えられる付加錘と、を備え、
各バイパス通路が前記シリンダと連通する位置は、前記シリンダ内における前記ピストンの移動方向に沿ってバイパス通路毎に異なり、各バイパス通路は前記シリンダの一対の圧力室に粘性流体を出入りさせる相互に独立した系統を構成し、
前記シリンダ内におけるピストンの移動位置及び/又は移動方向に応じ、各バイパス通路における前記粘性流体の流量を変化させ、前記付加錘の回転量を変化させることで回転慣性質量効果を可変させることを特徴とする回転マスダンパー。
【請求項2】
前記複数のバイパス通路のうちの一つは前記ピストンの移動方向における前記シリンダの両端で当該シリンダに連通し、前記運動変換機構は当該バイパス通路に設けられていることを特徴とする請求項1記載の回転マスダンパー。
【請求項3】
前記ピストンが前記シリンダ内における移動範囲の中央から当該シリンダの端部に向けて進行するにつれ、前記運動変換機構が設けられたバイパス通路を流動する粘性流体の流量が増加することを特徴とする請求項2記載の回転マスダンパー。
【請求項4】
前記複数のバイパス通路のうちの一つは、前記運動変換機構が設けられたバイパス通路よりも前記ピストンの移動範囲の中央寄りで前記シリンダに連通し、その連通位置は前記ピストンの移動範囲の中央から等距離に位置していることを特徴とする請求項3記載の回転マスダンパー。
【請求項5】
前記運動変換機構が設けられたバイパス通路以外のバイパス通路には、前記ピストンの通過に伴って当該バイパス通路を閉塞する弁が設けられていることを特徴とする請求項4記載の回転マスダンパー。
【請求項6】
前記ピストンが前記シリンダ内における移動範囲の中央から当該シリンダの端部に向けて進行する往路行程に比べ、前記シリンダの端部から移動範囲の中央に戻る復路行程の方が、前記運動変換機構が設けられたバイパス通路を流動する粘性流体の流量が増加することを特徴とする請求項2記載の回転マスダンパー。
【請求項7】
一対のバイパス通路が、前記運動変換機構が設けられたバイパス通路とは別に、前記シリンダにおける前記ピストンの移動範囲の中央を挟んで設けられ、
これら一対のバイパス通路のそれぞれには、前記ピストンの復路行程の際に当該バイパス通路を閉塞する逆止弁が設けられていることを特徴とする請求項6記載の回転マスダンパー。
【請求項8】
前記逆止弁が設けられたバイパス通路の流路断面積は、前記運動変換手段が設けられたバイパス通路の流路断面積よりも大きいことを特徴とする請求項7記載の回転マスダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動から建物を保護する免震構造又は制振構造に利用可能な回転マスダンパーに関する。
【背景技術】
【0002】
地震動から建物を保護する構造として、免震構造、制振構造が知られている。
【0003】
前者の免震構造は、建物を地盤から分離して建物振動と地震動との共振を回避するアイソレータと、アイソレータを介して建物に伝達された地震動のエネルギを吸収するダンパーとから構成されている。前記ダンパーはアイソレータで支えられた建物と地盤との間に設けられ、アイソレータを介して建物に伝達された地震動のエネルギを吸収して、建物振動が早期に収束するように働く。
【0004】
後者の制振構造では、建物の架構の内部にダンパーを組み込み、地震動に伴って建物が変形した際に、当該ダンパーが発揮する反力を建物の柱や梁に伝達することで、建物の変形を抑えると共に建物に伝達された地震動のエネルギの吸収を図っている。
【0005】
これら免震構造又は制振構造には、例えば、特許文献1や特許文献2に開示される回転マスダンパーが利用可能である。回転マスダンパーは、建物振動を可動ロッドの軸方向変位として入力すると共に、かかる軸方向変位を付加錘の回転運動に変換し、当該付加錘の回転によって生じた回転慣性を反力として建物に作用させて、建物振動の低減を図っている。
【0006】
前記付加錘を回転させると、当該付加錘のダンパー軸方向の見かけの質量(等価質量)は回転慣性質量効果によって最大で実際の質量(実質量)の数千倍まで増幅されるので、免震構造にこの回転マスダンパーを利用した場合、建物に対してこの等価質量を加えたのと同じ効果が得られ、アイソレータによる建物振動の長周期化に有利である。
【0007】
また、制振構造においては、前記回転マスダンパーを弾性体と直列に接続して建物架構に組み込むことで、建物等の主振動系に対して付加振動系を構成することができる。前記付加錘の質量と前記弾性体のバネ定数を最適化すると、付加振動系の固有振動数が主振動系の固有振動数に対して同調し、それによって主振動系の制振を効率よく行うことができる。また、回転マスダンパーを用いてこのような付加振動系を構成する場合は、建物の各階層間に当該マスダンパーを接続する支持部材を前述の弾性体として利用することができるので、既存建物を改修する際に柱や梁を補強することなく回転マスダンパーを取り付け、大きな制振効果が得られるといった利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−19347
【特許文献2】特開2011−106498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
免震構造、制振構造のいずれにおいても、入力される振動の大きさとの関係で、回転マスダンパーが振動入力に対して発揮する反力、すなわちダンパー性能を任意の大きさに変化させたい場合がある。
【0010】
例えば免震構造では、ダンパー性能を大きく設定した場合に、地盤に対する建物の剛性が高まることから、小さな地震動に対しては前記アイソレータが十分に機能せず、地震動に対する建物の応答加速度を低減させることが不能となってしまう。その反面、小さな地震動に対応してダンパー性能を設定すると、巨大地震の発生時にはアイソレータによる建物の変位が過大となってしまい、建物周囲の被害が懸念される他、建物の振動を早期に収束させることも不能なってしまう。
【0011】
また、制振構造では、建物復元力が大きく発生している状態で、回転マスダンパーが大きな反力を建物に対して及ぼすと、柱や梁に対して大きな軸力や剪断力が作用してしまうことから、建物変位が増加していく過程ではダンパー性能を低減し、その反面、建物変位が振幅中央に向けて減少していく過程ではダンパー性能を高めに設定することが望ましい。
【0012】
すなわち、回転マスダンパーを免震構造や制振構造に組み込み、その性能を最適化するためには、前記可動ロッドのストローク内の複数の領域に区分し、それぞれの領域ごとにダンパー性能に差を設けることが必要であり、また、前記可動ロッドの往復行程においても、発揮されるダンパー性能に差を設けることが必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、入力される振動の大きさの相違や、ストロークの往復行程の相違に応じてダンパー性能を任意に設定することができ、各種の免震構造や制振構造に対して柔軟に適応させることが可能な回転マスダンパーを提供することにある。
【0014】
本発明の回転マスダンパーは、粘性流体が充填されたシリンダを有するダンパー本体と、前記ダンパー本体に対して進退する可動ロッドと、前記シリンダ内を一対の圧力室に区画すると共に前記可動ロッドの進退に伴って当該シリンダ内を移動するピストンと、前記一対の圧力室の間で粘性流体を流動させる複数のバイパス通路と、少なくとも一つのバイパス通路に設けられて前記粘性流体の流動を回転運動に変換する運動変換機構と、この運動変換機構によって回転を与えられる付加錘と、を備えている。また、各バイパス通路が前記シリンダと連通する位置は、前記シリンダ内における前記ピストンの移動方向に沿ってバイパス通路毎に異なり、各バイパス通路は前記シリンダの一対の圧力室に粘性流体を出入りさせる相互に独立した系統を構成し、前記シリンダ内におけるピストンの移動位置及び/又は移動方向に応じ、各バイパス通路における前記粘性流体の流量を変化させ、前記付加錘の回転量を変化させることで回転慣性質量効果を可変させるように構成されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ピストンによって区画された一対の圧力室が複数のバイパス通路で接続されており、前記ピストンが可動ロッドの進退に伴ってシリンダ内を移動すると、これらバイパス通路内を粘性流体が流動することになる。また、少なくとも一つのバイパス通路には付加錘を回転させる動力変換機構が設けられていることから、前記ピストンがシリンダ内を移動すると、前記付加錘が回転慣性質量要素として作用することになる。すなわち、本願発明のダンパーでは、粘性流体の粘性抵抗による反力と付加錘の発揮する回転慣性による反力が可動ロッドの進退に対して作用することになる。
【0016】
そして、複数のバイパス通路は前記シリンダ内におけるピストンの位置に応じて粘性流体の流動が制限されることから、粘性抵抗による反力と回転慣性による反力もピストンの移動位置に応じて変化することになる。すなわち、シリンダに対する各バイパス通路の接続位置と、このバイパス通路の流路断面積を任意に設定することで、ピストンの位置や、ピストンの往路行程と復路行程の違いに応じてこれら二種類の反力の大きさを変化させ、また、その割合を変化させることができ、建物に対して作用する地震動の大きさに応じてダンパーの性能を容易に切り換えることが可能となる。
【0017】
また、本発明のダンパーでは、シリンダ内のピストン位置に応じて複数のバイパス通路における粘性流体の流動を制限し、その結果としてダンパー性能を切り換えているので、かかるダンパー性能を受動的に切り換える構成は簡易なものとなり、ダンパーそのものの小型化や製造コストの低減化も達成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の回転マスダンパーの概要を説明する模式図であり、ピストンが区間A内を移動する状態を示している。
図2】本発明の回転マスダンパーの概要を説明する模式図であり、ピストンが区間B内を移動する状態を示している。
図3】本発明を適用した回転マスダンパーの第一実施形態を示す概略図である。
図4】第一実施形態に係る回転マスダンパーのシステム図である。
図5】第一実施形態に係る回転マスダンパーを適用可能な免震構造の一例を示す概略図である。
図6】本発明を適用した回転マスダンパーの第二実施形態を示す概略図である。
図7】本発明を適用した回転マスダンパーの第三実施形態を示す概略図である。
図8】第三実施形態に係る回転マスダンパーを適用可能な制振構造の一例を示す概略図である。
図9】制振構造建物の荷重変形特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら本発明を適用した回転マスダンパーについて詳細に説明する。
【0020】
図1は本発明の回転マスダンパーの概要を説明する模式図である。
【0021】
本発明の回転マスダンパーは、内部にシリンダ1を有するダンパー本体2と、このダンパー本体2に対して進退する可動ロッド3と、この可動ロッド3の進退に応じて前記シリンダ1内を往復動するピストン4とを有している。この回転マスダンパーを例えば免震構造に適用するのであれば、前記ダンパー本体2及び可動ロッド3は、一方を建物基礎に、他方を建物に固定し、アイソレータの働きによって生じた建物基礎と建物との間の変位を前記可動ロッド3に対して入力する。また、この回転マスダンパーを制振構造に適用するのであれば、ダンパー本体2及び可動ロッド3のそれぞれを建物の別々の部位に固定し、地震動等によって生じるそれら部位間の変位を前記可動ロッド3に対して入力する。
【0022】
尚、前記ダンパー本体2と前記可動ロッド3はクレビスやボールジョイントを介して建物基礎や建物に固定する必要があるが、図1は模式図のためにその点は省略して描いてある。
【0023】
前記ダンパー本体2に内蔵されたシリンダ1は前記ピストン4によって一対の圧力室1a,1bに区画されており、各圧力室1a,1bにはオイル等の粘性流体が充填されている。また、前記ダンパー本体2には複数のバイパス通路5が設けられており、各バイパス通路5は前記ピストン4の移動に伴って前記粘性流体を一方の圧力室1aから他方の圧力室1bに流動させるようになっている。図1に示す回転マスダンパーでは第一のバイパス通路(以下、「第一通路」という)5aと第二のバイパス通路(以下、「第二通路」という)5bの2系統が設けられているが、バイパス通路5の本数はこれに限られるものではない。
【0024】
従って、シリンダ1内のピストン4の移動に伴って粘性流体が一対の圧力室1a,1bの間を移動し、その際に粘性流体の粘性抵抗に基づく反力がピストン4の移動に対して作用する。この点は従来のオイルダンパーと同じである。
【0025】
また、前記ダンパー本体2に設けられた複数のバイパス通路5のうち、少なくともその一つには当該バイパス通路5内の粘性流体の流動に起因して回転運動を発生する運動変換機構6が設けられている。この運動変換機構6としては、例えば歯車モータ、アキシャルピストンモータ等の油圧モータを用いることができる。また、この運動変換機構6の出力軸には慣性質量要素としての付加錘7が取り付けられており、バイパス通路5内での粘性流体の流動に伴って前記運動変換機構6の出力軸が回転すると、前記付加錘7に回転運動が与えられる。
【0026】
地震動によって建物が振動し、その振動変位が前記ダンパー本体2と可動ロッド3に対して入力されると、前記ピストン4は前記シリンダ1内を往復動することになり、それに伴って生じる粘性流体の流動によって、前記付加錘7は回転方向の逆転を繰り返しながら回転運動を行う。すなわち、前記付加錘7には回転角速度の正負が逐次逆転する振動運動が与えられる。
【0027】
一方、各バイパス通路5は前記ピストン4の移動に伴い粘性流体を一方の圧力室1aと他方の圧力室1bとの間で流動させるが、その流動量は前記シリンダ1内における前記ピストン4の位置に応じて制限される。すなわち、各バイパス通路5が前記シリンダ1と連通している位置は、シリンダ1内におけるピストン4の移動方向に沿ってバイパス通路毎に異なっている。例えば図1では、前記第二通路5bはピストン4の移動範囲の最も外側でシリンダ1と通じているが、前記第一通路5aは第二通路5bよりもピストン4の移動範囲の中央寄りでシリンダ1に通じている。また、前記第二通路5bが前記シリンダ1と連通している位置は前記ピストン4の移動範囲の中央から等距離に位置している。
【0028】
図1において前記第一通路5aの両端が前記シリンダ1に接続されている位置の内側を区間A、この区間Aの外側で前記第二通路5bの両端が前記シリンダ1に接続されている位置の内側を区間Bとする。例えば図1に示すように、前記ピストン4が区間A内を紙面左方向へ移動している際は、前記圧力室1a内の粘性流体は第一通路5a及び第二通路5bの双方を通じて他方の圧力室1bへ流動する。一方、前記ピストン4が区間A内を紙面右方向へ移動する場合は、前記圧力室1b内の粘性流体が第一通路5a及び第二通路5bの双方を通じて他方の圧力室1aへ流動する。
【0029】
しかし、図2に示すように、前記ピストン4がそのまま移動を続けて区間Bに進行すると、前記シリンダ1と接続された第一通路5aの両端はいずれもピストン4の位置よりも紙面右方向に存在し、圧力室1bに通じることになるので、ピストン4がそのまま区間B内を移動し続けても、第一通路5a内における粘性流体の流動は制限され、圧力室1a内の粘性流体は第二通路5bのみを通じて圧力室1bに流動する。この点は前記ピストン4が区間B内を区間A方向へ戻る場合も同じであるが、第二通路5b内における粘性流体の流動方向は逆になる。また、前記ピストン4がシリンダ1の両端に設けられた一対の区間Bのいずれに存在する場合も、粘性流体は第二通路5bのみを通じて一対の圧力室1a,1bの間を流動する。
【0030】
従って、ピストン4が区間A内を移動している最中(図1の状態)は、粘性流体が第一通路5a及び第二通路5bの双方を流動し、第一通路5aに設けられた運動変換機構6の働きにより、前記付加錘7が回転することになる。すなわち、ピストン4が区間Aを移動する際は、当該ピストン4の移動に対して粘性流体の流動に伴う粘性抵抗が反力として作用する他、付加錘7の回転に起因して発生する等価質量に見合った大きさの反力が作用する。一方、ピストン4が区間B内を移動している最中(図2に示す状態)は、粘性流体が第二通路5bのみを流動するので、前記運動変換機構6は付加錘7の回転に対してトルクを作用させない。このことから、当該ピストン4の移動に対しては粘性抵抗に基づく反力のみが作用する。
【0031】
このように本発明の回転マスダンパーによれば、シリンダ1に設けられた複数のバイパス通路5では当該シリンダ1内におけるピストン4の位置に応じて粘性流体の流動が選択的に制限されるので、各バイパス通路5とシリンダ1との接続位置や、バイパス通路5の断面積を適宜調整することにより、前記付加錘7が発生する回転慣性質量効果の大きさを前記可動ロッド3に入力される振動の大きさに応じて任意に調整することが可能となる。また、前記バイパス通路5の設け方によって、シリンダ1内におけるピストン4の往路行程と復路行程とで付加錘7の回転量を変化させることもでき、この点においても付加錘7の発揮する回転慣性質量効果の大きさを任意に設定することが可能である。
【0032】
従って、本発明によれば、回転マスダンパーを免震構造や制振構造などの用途に応じて最適にチューニングすることが可能となり、建物等に作用する振動を効果的に低減させることができる。
【0033】
尚、図1は本発明の概念を示すものであり、前述したように、バイパス通路5の本数や各バイパス通路5がシリンダ1と接続される位置は、使用用途に応じて適宜設計変更することができる。また、前記運動変換機構6を設けるバイパス通路5は適宜選択することができ、前記運動変換機構6によって回転が与えられる付加錘7の質量及び回転体の径も適宜設計変更することができる。更に、前記運動変換機構6及び付加錘7を設けるバイパス通路5は1本に限られるものではなく、複数本のバイパス通路5に対して前記運動変換機構6及び付加錘7をそれぞれ設けても良い。この場合、バイパス通路5ごとに前記付加錘7の質量及び回転体の径を異なったものとしても良い。
【0034】
図3は本発明の第一実施形態に係る回転マスダンパーを示す概略図である。
【0035】
この第一実施形態は免震構造に最適化できる回転マスダンパーを提案するものである。この第一実施形態の回転マスダンパーは、粘性流体が充填されたシリンダ10を内蔵するダンパー本体20と、ダンパー本体20に対して進退する可動ロッド30と、前記シリンダ10を一対の圧力室10a,10bに区画すると共に前記可動ロッド30に取り付けられたピストン40と、前記シリンダ10に接続されて一対の圧力室10a,10bの間で粘性流体を流動させるバイパス通路としての第一通路50a及び第二通路50bとを備えている。
【0036】
また、前記第二通路50bには当該通路内での粘性流体の流動に応じて回転運動を生成する運動変換手段としての油圧モータ60が設けられ、かかる油圧モータ60の出力軸には回転慣性質量としての付加錘が取り付けられている。このため、前記第二通路50b内を粘性流体が流動すると、その流動方向に応じた方向へ前記付加錘が回転する。尚、図3では付加錘は描かれておらず、また、前記油圧モータ60としては歯車モータが描かれている。
【0037】
前記ダンパー本体20は長手方向の一端にボールジョイント21を有しており、このボールジョイント21を介して建物または建物基礎等に結合される。また、前記可動ロッド30は前記ダンパー本体20から突出した端部にボールジョイント31を有しており、このボールジョイント31を介して建物等に結合される。
【0038】
前記油圧モータ60が設けられた前記第二通路50bは前記シリンダ10内におけるピストン40の移動範囲の両端において当該シリンダ10と連通している。一方、第一通路50aは、前記第二通路50bよりもピストン40の移動範囲の中央寄りでシリンダ10に連通しており、また、その連通位置はピストン40の移動範囲の中央から等距離に位置している。尚、図3において、前記第一通路50aの両端が前記シリンダ10に接続されている位置の内側を区間X、この区間Xの外側で前記第二通路50bの両端が前記シリンダ10に接続されている位置の内側を区間Y1,Y2とする。
【0039】
一方、前記ピストン40には当該ピストン40で区画された一対の圧力室10a,10bを連通する一対の貫通穴が設けられており、これら貫通穴のそれぞれには互いに逆向きにリリーフ弁41が設けられている。このリリーフ弁41はいずれか一方の圧力室10a又は10bの内圧が設定値以上に高まった場合にのみ開かれる。このため、一方の圧力室の内圧が高まって前記ピストン40を介して可動ロッド30に過大な反力が作用しそうになると、前記リリーフ弁41が開いて当該圧力室の内圧が低下し、可動ロッド30に過大な反力が作用しないようになっている。すなわち、前記貫通穴及びリリーフ弁41は可動ロッド30に作用する軸力を頭打ちにする軸力制限機構として機能している。
【0040】
図4はこの第一実施形態の回転マスダンパーを簡略化して表したシステム図である。前記ピストン40がシリンダ10内を移動すると、前記第一通路50a及び第二通路50bでは粘性流体の流動が生じるので、ダンパー本体20と可動ロッド30との間に入力される変位に対しては常に粘性抵抗が作用することになる。システム図ではこの点をダッシュポッド50として描いてある。また、粘性流体が第二通路50bを流動すると、油圧モータ60が作動して付加錘が回転して回転慣性質量が発生するので、システム図ではダッシュポッド50と並列に前記付加錘を置換した回転慣性質量要素70が描いてある。更に、前記リリーフ弁41が開放されると、可動ロッド30に作用する反力、つまり粘性流体の粘性抵抗による反力と付加錘の発揮する回転慣性による反力との合力が頭打ちになるので、システム図では軸力制限機構71が回転慣性質量要素70及びダッシュポッド50と直列に配置されている。
【0041】
このシステム図から把握されるように、第一実施形態の回転マスダンパーではダンパー本体20に対する可動ロッド30の進退に対して、常に粘性抵抗に基づく反力が作用する他、回転慣性質量要素70の回転による回転慣性の反力が作用することになる。但し、これら反力の大きさはシリンダ10内におけるピストン40の位置に応じて変化する。
【0042】
前記ピストン40が区間X内で紙面左右方向へ移動するときは、前記第一通路50a及び第二通路50bの双方がピストン40を跨ぐようにして当該ピストン40の両側の圧力室10a,10bを繋いでいることから、粘性流体が第一通路50aと第二通路50bとの双方を流動し、第二通路50bにおける粘性流体の流量に応じて前記回転慣性質量要素70が回転する。一方、前記ピストン40が区間Y1を図3の紙面左方向、すなわち区間Xから離れる方向へ移動するときは、第一通路50aはその両端がピストン40の移動方向の後方に位置する圧力室10bのみに通じており、当該第一通路50aでは粘性流体の流動は殆どない。このため、ピストン40が区間Y1を紙面左方向へ移動すると、当該ピストン40の移動方向の前方に位置する圧力室10a内の粘性流体は、第二通路50bのみを通じて圧力室10bに流動することになる。この点はピストン40が区間Y2を紙面右方向へ移動する場合も同じである。但し、その場合は粘性流体が第二通路50bのみを通じて圧力室10bから圧力室10aに流動することになる。すなわち、シリンダ10内におけるピストン40の移動量が同じであっても、ピストン40が区間Y1又は区間Y2を移動する際は、区間Xを移動する場合に比べて、第二通路50bを通過する粘性流体の流量は飛躍的に増大し、それに伴って回転慣性質量要素70の発揮する回転慣性質量効果も飛躍的に増幅される。
【0043】
従って、この第一実施形態の回転マスダンパーでは、シリンダ10内におけるピストン40の移動範囲の中央付近(区間X)では回転慣性質量効果と粘性減衰効果は小さいが、両端付近(区間Y1,Y2)においては、特に回転慣性質量効果が飛躍的に大きくなり、ピストン40の移動範囲の中央付近(区間X)と両端付近(区間Y1,Y2)を比較した場合に、前者に比べて後者の回転慣性質量効果を著しく大きく設定することができる。
【0044】
図5は建物の免震構造の一例を示すものである。この免震構造は、建物基礎Bと建物Sとの間に設けられたピットS1に設置されて当該建物を支えるアイソレータ8と、建物基礎Bから建物Sに伝達された振動エネルギを吸収して当該建物Sの振動を収束させるダンパー9とから構成されている。前記アイソレータ8は建物基礎Bから建物Sを分離して、建物Sの破壊に繋がる可能性の高い短周期の振動が建物基礎Bから当該建物Sに伝達されるのを抑制し、建物Sが長周期で振動することを可能にしている。このアイソレータ8としては、積層ゴムや転がり軸受等が使用可能である。前述の第一実施形態の回転マスダンパーはこの免震構造のダンパー9として最適化することが可能である。
【0045】
建物基礎Bから建物Sに伝達される振動エネルギが小さい中小地震では、前記ダンパー9の性能を過大に設定してしまうと、建物基礎Bに対する建物Sの剛性が高まって前記アイソレータ8が十分に機能を発揮することかできず、当該アイソレータ8によって建物基礎Bと建物Sを分離している免震構造の意義が失われてしまう。一方、大きな振動エネルギを有する巨大地震に対しては、前記ダンパー9の性能が不足すると、アイソレータ8による建物Sの変位が過大となり、建物Sが周囲の構築物と緩衝して被害の発生が懸念される他、建物Sの振動を短時間で収束させることができず、建物Sの内部における人的及び物的被害の発生が懸念される。
【0046】
この免震構造のダンパー9として前記第一実施形態の回転マスダンパーを採用した場合、当該回転マスダンパーはピストン40の移動範囲の中央付近ではダンパー諸元である回転慣性質量効果と粘性減衰効果が小さいので、振幅が小さな中小地震に対してはアイソレータ8を十分に機能させることが可能である。その一方、前記第一実施形態の回転マスダンパーはピストン40の移動範囲の両端付近では、特にダンパー諸元である回転慣性質量効果が大きくなるので、振幅の大きな巨大地震に対しては建物Sの震動に対してダンパー9の反力を十分に作用させることができ、建物基礎Bに対する建物Sの過大な変位を抑えることができる他、地震の終了後にも建物Sに残存する振動エネルギを早期に吸収し、当該建物Sの振動を収束させることができる。
【0047】
また、第一実施形態の回転マスダンパーではピストン40の移動範囲の両端付近において大きな回転慣性質量効果が生じ、回転慣性質量要素70の等価質量が飛躍的に増大することになる。このため、巨大地震の際には著しく増大した回転慣性質量要素70の等価質量が建物Sの質量に加わって、アイソレータ8によって支えられた建物Sの固有周期をその分だけ長周期化することが可能となり、過大な地震動エネルギによる建物Sの被害を軽減することができる。
【0048】
すなわち、この第一実施形態の回転マスダンパーは前記第一通路50a及び油圧モータ60を備えた第二通路50bのシリンダ10に対する配置が免震構造のダンパーに最適である。
【0049】
図6は本発明の回転マスダンパーの第二実施形態を示すものである。
【0050】
この第二実施形態の回転マスダンパーでは、前述の第一実施形態の回転マスダンパーに対して、バイパス通路としての第三通路50cを更に設けたものである。これ以外の点は第一実施形態と変更がないので、図6中に第一実施形態と同一符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0051】
前記第三通路50cは前記第一通路50aよりもピストン40の移動範囲の中央寄りでシリンダ10に接続されている。すなわち、この第二実施形態においては、図6に示すように、前記第一通路によって区画された前記区間Xの内側に、更に前記第三通路50cの両端が前記シリンダ10に接続されている位置で区画された区間Zが設けられることになる。尚、この第二実施形態の回転マスダンパーを簡略化して表したシステム図は前述の第一実施形態のシステム図と同じである。
【0052】
そして、この第二実施形態の回転マスダンパーによれば、前記ピストン40が区間Z内を移動するときは、粘性流体が第一通路50a、第二通路50b、第三通路50cの総てを流動し、第二通路50bにおける粘性流体の流量に応じて前記回転慣性質量要素70が回転する。また、前記ピストン40が区間X内を移動するときは、第三通路50cでは粘性流体の流動が殆どないので、粘性流体は第一通路50aと第二通路50bとの双方のみを流動し、このときの第二通路50bにおける粘性流体の流量に応じて前記回転慣性質量要素70が回転する。更に、前記ピストン40が区間Y内を移動するときは、粘性流体は第二通路50bのみを流動し、前記回転慣性質量要素70の回転に寄与する粘性流体の流量は最大となる。
【0053】
従って、この第二実施形態の回転マスダンパーによれば、ピストン40がその移動範囲の中央に位置する区間Zから移動範囲の両端に位置する区間Yに向けて進行するにつれ、前記第二通路50bを流動する粘性流体の流量が増大し、前記回転慣性質量要素70が発揮する回転慣性質量効果も増大することになる。すなわち、図6示す回転マスダンパーも振幅の小さな振動に対してはダンパー反力(回転慣性質量効果及び粘性減衰効果)を抑制し、振幅の大きな振動に対してはダンパー反力を飛躍的に高めることができ、図5に示した免震構造のダンパー9として最適化することができる。
【0054】
前述の第一実施形態及び第二実施形態の回転マスダンパーにおいては、シリンダ10に対する前記第一通路50a、第三通路50cの各接続口に対して、これら通路50a,50cを閉塞する弁を設けても良い。これら弁は前記ピストン40がシリンダ10の中央位置から端部方向へ最初に通過した際に前記接続口を閉塞し、それ以降はピストン40が再び通過しても閉塞を継続する。このような弁を設ければ、前記可動ロッド30に対して振動が入力され、それに伴って前記ピストン40が区間Xから区間Yに一度でも進入すると、前記第一通路50a及び第三通路50cが塞がったままの状態となる。
【0055】
このため、ピストン40が区間Xと区間Yとの間を繰り返し移動したとしても、第二通路50bに対する粘性流体の流量は変化することがなく、回転慣性質量要素70にはピストン40の移動量に応じた回転が与えられることになる。これにより、ピストン40がシリンダ10の両端に位置する区間Yも含めた範囲で往復動する大地震の際には、付加錘による回転慣性質量要素70の回転は常に最大となり、大きな振動低減効果を発揮することが可能となる。
【0056】
図7は本発明の回転マスダンパーの第三実施形態を示すものである。
この第三実施形態は制振構造に最適化できる回転マスダンパーを提案するものである。この回転マスダンパーは基本的な構成において前述の第一実施形態の回転マスダンパーと同じであり、複数のバイパス通路を有している。但し、シリンダに対する各バイパス通路の接続位置が第一実施形態のものと異なっている。従って、以下ではバイパス通路の構成について説明し、その他の構成については図7中に第一実施形態と同一符号を付して。その詳細な説明は省略する。
【0057】
この第三実施形態において、シリンダには前記バイパス通路としての第一通路51a及び第二通路51bが設けられている。前記第一通路51aは前記シリンダ10内におけるピストン40の移動範囲の両端において当該シリンダ10と接続されている。また、前記第一通路51aには当該通路内での粘性流体の流動に応じて回転運動を生成する運動変換手段としての油圧モータ60が設けられ、かかる油圧モータ60の出力軸には回転慣性質量としての付加錘が取り付けられている。このため、前記第一通路51a内を粘性流体が流動すると、その流動方向に応じた方向へ前記付加錘が回転する。従って、この第三実施形態の第一通路51aは前述の第一実施形態の第二通路50bと同じ構成を有している。尚、図7では付加錘は描かれておらず、また、前記油圧モータ60としては歯車モータが描かれている。
【0058】
一方、前記第二通路51bは前記シリンダ10に対して一対設けられている。それぞれの第二通路51bは前記シリンダ10内におけるピストン40の移動範囲の中央を挟んで、且つ、当該中央を跨ぐことなく設けられており、ピストン40が当該移動範囲の中央に位置している状態では、前記ピストン40によって区画されたいずれか一方の圧力室11a又は11bにのみ通じている。すなわち、ピストン40の移動範囲の中央付近には前記第二通路51bが存在しない領域が設けられている。また、各第二通路51bの内部には逆止弁52が設けられており、粘性流体はこの第二通路51b内を一方向へのみ流動する。よって、この第二通路51bは粘性流体の入口と出口が定まっており、かかる入口は前記ピストン40の移動範囲の端部において当該シリンダ10と接続されている。更に、各第二通路51bにおける粘性流体の流路の断面積は、前記第一通路51aにおける流路の断面積に比べて十分に大きく設定されている。この第三実施形態の回転マスダンパーを簡略化して表したシステム図は前述の第一実施形態のシステム図と同じである。尚、図7において、一対の第二通路51bによって挟まれたシリンダ10の中央領域を区間α、この区間αの外側で各第二通路51bが設けられている領域を区間βとする。
【0059】
前記ピストン40が区間α内で移動するときは、前記第二通路51bは一対の圧力室11a,11bの双方には連通しておらず、前記第一通路51aのみがピストン40を跨ぐようにして当該ピストン40の両側の圧力室11a,11bを繋いでいる。このため、ピストン40が区間αを移動する際は粘性流体が第一通路51aのみを通じて圧力室11aと圧力室11bとの間を流動し、第一通路51aにおける粘性流体の流量に応じて前記回転慣性質量要素70が回転する。
【0060】
一方、前記ピストン40が区間αから区間βに進入すると、前記第二通路51bは前記ピストンによって区画された圧力室11a,11bを繋ぐことになる。第二通路51bにおける粘性流体の入口は前述のように前記シリンダ10の端部に対応して設けられているので、前記ピストン40が区間βをシリンダ10の端部に接近するように進むと、粘性流体は前記第一通路51a及び第二通路51bの双方に流入して、圧力室11aから圧力室11bへ流動することになる。但し、前記第二通路51bの流路の断面積は第一通路51aのそれに比べて十分に大きく設定しているので、粘性流体の流動に対して作用する抵抗は第一通路51aに比べて第二通路51bが小さくなる。このため、ピストン40が区間βをシリンダ10の端部に向けて進行する間は、粘性流体が第一通路51aよりも第二通路51bに流入し易くなり、第一通路51aに流入する粘性流体の流量はピストン40が区間αを進行するときの流量よりも極端に少なくなる。その結果、油圧モータ60の回転が抑えられ、ピストン40が区間βをシリンダ10の端部に向けて進行する間は、回転慣性質量要素70が発揮する回転慣性質量効果も小さくなる。
【0061】
また、ピストン40が区間βをシリンダ10の中央に向けて戻る際には、前記第二通路51bに設けられた逆止弁52の作用によって、粘性流体は第二通路51bを通過して圧力室11bから圧力室11aに流動することができず、第一通路51aのみを通過して圧力室11bから圧力室11aに流動する。このため、ピストン40が区間βをシリンダ10の中央に向けて戻る際には、当該ピストン40が区間αを移動する場合と同量の粘性流体が油圧モータ60を通過して、付加錘が回転することになる。
【0062】
すなわち、この第三実施形態の回転マスダンパーでは、ピストン40が区間βをシリンダ10の端部に向けて往復動する際に、往路行程では付加錘の発揮する回転慣性が抑えられ、復路行程では付加錘が大きな回転慣性を発揮することになり、ピストンの往路行程と復路行程とで回転慣性による回転慣性質量効果を異ならせることが可能となっている。
【0063】
図8は建物の制振構造の一例を示す概略図である。同図は建物の各階層S1,S2に対して制振構造が設けられた場合を示している。各階層S1,S2には建物の荷重を支えるための架構を構成する柱80と梁81が設けられている。例えば階層S1に着目した場合、階上の梁81aからはブレース82が延びており、ブレース82の先端と階下の梁81bとの間にはダンパー90が設けられている。地震動によって建物が水平方向へ左右に揺すられると、建物の層間に変形が生じ、階層S1では階上の梁81aと階下の梁81bとの間に紙面左右方向の変位が生じる。この変位はダンパーに対して入力され、当該ダンパーが変位に対する反力をブレースに及ぼすことにより、建物の振動を早期に収束させることができる。前述の第三実施形態の回転マスダンパーはこの制振構造のダンパー90として最適化することが可能である。
【0064】
図9は制振構造建物を水平方向に繰り返し揺らした場合の、荷重変形特性の一例を示すグラフであり、横軸は建物の水平方向への変位量を、縦軸は建物に生じる復元力を示している。このグラフから把握されるように、建物の復元力は水平方向への変位量が大きくなるほど増加する傾向にあり、最大変位量が与えられた際に最大の復元力が生じている。このため、地震動に伴って建物が水平方向へ振動し、当該建物の変位量が増大している最中(グラフの第1象限と第3象限)は、建物の架構を構成する柱と梁に対して大きな軸力と剪断力が作用していることになる。従って、グラフの第1象限と第3象限の状態において、ダンパー90が大きな反力をブレース82に対して与えると、建物の柱80と梁81に対して一層大きな軸力と剪断力が作用することになり、巨大地震の発生時には建物が損傷してしまうことも考えられる。
【0065】
この制振構造のダンパー90として前記第三実施形態の回転マスダンパーを採用した場合、当該回転マスダンパーはピストン40がシリンダ10の中央位置から両端に向けて進む際には付加錘の発揮する回転慣性を抑え、ピストン40がシリンダ10の両端から中央位置に復帰する際には付加錘に大きな回転慣性を発揮させているので、図9のグラフに重ね合わせると、第1象限と第3象限でダンパー反力(回転慣性質量効果及び粘性減衰効果)が抑制され、第2象限と第4象限で大きなダンパー反力が得られるようになっている。すなわち、この第三実施形態の回転マスダンパーは制振構造のダンパーとして最適であり、巨大地震の発生時に、ダンパー反力によって建物が損傷してしまう可能性を低減しつつ、建物の挙動に応じて大きな振動減衰効果を発揮して、当該建物の振動を効果的に抑制することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…シリンダ、1a,1b…圧力室、2…ダンパー本体、3…可動ロッド、4…ピストン、5…バイパス通路、6…運動変換機構、7…付加錘
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9