特許第6385136号(P6385136)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385136
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】呼吸装置の伝声器
(51)【国際特許分類】
   A62B 18/08 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   A62B18/08 A
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-107392(P2014-107392)
(22)【出願日】2014年5月23日
(65)【公開番号】特開2015-221170(P2015-221170A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000145507
【氏名又は名称】株式会社重松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095245
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】花岡 悠紀
(72)【発明者】
【氏名】小野 研一
(72)【発明者】
【氏名】井出 弘之
【審査官】 小笠原 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−153145(JP,U)
【文献】 特開2002−219185(JP,A)
【文献】 特開2009−136521(JP,A)
【文献】 特開2000−189529(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 18/00−18/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔面の一部又は全部を覆う面体を有する呼吸装置の面体に取り付けられる伝声器であって、張力を印加されずに無負荷時に平板状態を維持できる膜成形体から成る振動体を備え、振動体は、外周縁部を除く中央部に同心円状の多数の環状の波形凹凸が形成された円形の膜成形体であることを特徴とする伝声器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸装置の伝声器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
顔面の一部又は全部を覆う面体を有する、防塵マスク、電動ファン付き呼吸用保護具、防毒マスク、送気マスク、自給式呼吸器等の呼吸装置の面体に取り付けられる伝声器は、従来、特許文献1に記載されているように、緊張した状態で周辺部が前後一対のフレームに挟まれて固定された膜体から成る振動体、すなわち張力を印加された状態で無負荷時に平板状態を維持できる膜体から成る振動体を備えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−189529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の伝声器には、特許文献1に記載されているように、膜体の周縁部を間に挟んだ前後一対のフレーム部材をかしめて膜体をフレームに固定すると共に膜体に張力を印加する際に膜体に皺が入りやすいという問題があった。
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、顔面の一部又は全部を覆う面体を有する呼吸装置の面体に取り付けられる伝声器であって、フレームに固定する際に皺が発生しない振動体を備える伝声器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明においては、顔面の一部又は全部を覆う面体を有する呼吸装置の面体に取り付けられる伝声器であって、張力を印加されずに無負荷時に平板状態を維持できる膜成形体から成る振動体を備え、振動体は、外周縁部を除く中央部に同心円状の多数の環状の波形凹凸が形成された円形の膜成形体であることを特徴とする伝声器を提供する。
【0006】
膜体に所定の成形を施して、張力を印加されずに無負荷時に平板状態を維持できる膜成形体とすることができる。本発明に係る伝声器が備える振動体を形成する膜成形体は、張力を印加されずに無負荷時に平板状態を維持できるので、すなわち、張力を印加されなくても無負荷時に弛まないので、呼吸装置使用者の声を外部に伝達できる。また、膜形成体をフレームに固定する際に膜成形体に張力を印加する必要がないので、膜形成体をフレームに固定する際に膜成形体に皺は発生しない。
外周縁部を除く中央部に同心円状の多数の環状の波形凹凸が形成された円形の膜成形体は、適度の剛性を有し、無負荷時に張力を印加されずに平板状態を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施例に係る伝声器を備える呼吸装置であって、電動ファンと呼吸モニター装置と呼吸モニター装置の検知信号に基づいて電動ファンの作動を制御する制御装置とを備える呼吸装置の構成図である。(a)は側断面図であり、(b)は正面図である。
図2】伝声器と呼吸モニター装置と制御装置とが一体に組付けられたユニットの分解斜視図である。
図3図1の呼吸装置が備える制御装置のブロック図である。
図4】伝声器の振動体の変形例の斜視図である。
図5】伝声器の振動体の変形例の斜視図である。
図6】伝声器の振動体の変形例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施例に係る伝声器を備える呼吸装置であって、電動ファンと呼吸モニター装置と呼吸モニター装置の検知信号に基づいて電動ファンの作動を制御する制御装置とを備える呼吸装置を説明する。
図1に示すように、呼吸装置Aは、使用者の顔面の鼻部と口部とを覆う半面型の椀状の面体1と、面体1に取り付けられた、リード弁形式の吸気弁2と排気弁3と、吸気流に関して吸気弁2の上流側に配設され吸気弁2を介して面体1内に外気を供給する電動ファン4と、吸気流に関して電動ファン4の上流側に配設され電動ファン4に吸引される外気を濾過するフィルター5と、伝声器6とを備えている。
図1、2に示すように、伝声器6は、小径部6aと中径部6aと大径部6aとを有し小径部6aが面体1に形成された開口に面体内側から嵌合する筒体6aと、小径部6aの面体外側へ突出した端部に面体外側から螺合し、筒体小径部6aと筒体中径部6aとの間の環状段部6bと協働して前記開口周囲の面体1を挟持することにより筒体6aを面体1に固定する碗状のカバー6cと、筒体中径部6aと筒体大径部6aとの間の環状段部6dに面体内側から外周縁部が当接する円形の振動体6eと、筒体大径部6aにスナップ嵌めで内嵌合し、環状段部6dと協働して振動体6eの外周縁部を挟持することにより振動体6eを筒体6aに固定する円環状の枠体6fと、環状段部6dと枠体6fとによる振動体6e外周縁部の挟持部をシールするOリング6gとを有している。カバー6cには複数の開口6cが形成されており、枠体6fは、円環の中央部を通って円環上の正対する2点を連結する腕部6fを有している。
図1、2に示すように、振動体6eは、環状段部6dと枠体6fとに挟持される外周縁部を除く中央部に同心円状の多数の環状の波形凹凸6eが形成された膜成形体である。振動体6eは、膜体に所定の成形を施すことにより製造されている。振動体6eは適度の剛性を有しており、張力を印加されずに無負荷時に平板状態を維持することができる。振動体6eは、環状段部6dと枠体6fとにより外周縁部を単に挟持されることによって、張力を印加されることなく、筒体6aに固定されている。
吸気弁2、電動ファン4、フィルター5、伝声器6は、面体1の正面に取り付けられ、排気弁3は面体1の側面に取り付けられている。
【0009】
図1、2に示すように、呼吸装置Aは呼吸モニター装置7を備えている。呼吸モニター装置7は、伝声器6が備える振動体6eの中心部に取り付けられた磁石7aと、伝声器6の腕部6fの長手方向中央部に取り付けられ、所定隙間を隔てて磁石7aに対峙するホール素子7bとを有している。
呼吸装置Aは制御装置8を備えている。図3に示すように、制御装置8はマイコン8aと、マイコン駆動電力の電圧安定化用の電源IC8bと、ホール素子7bの検知信号を増幅するアンプ8cと、増幅された検知信号から高周波成分を除去するローパスフィルター8dと、警報用の一対のLED8e、8fとを備えている。ホール素子7bはアンプ8cとローパスフィルター8dとを介してマイコン8aに接続されている。電動ファン4はマイコン8aに接続されている。マイコン8aは電源IC8cを介してバッテリー収納部9に収納されたバッテリー10に接続されている。
制御装置8はホール素子7bと同一基板11上に組み込まれて、伝声器6の腕部6fに取り付けられている。
図1、2に示すように、伝声器6と呼吸モニター装置7と制御装置8とは一体に組み付けられてユニット化されており、前記ユニットが面体1に形成された開口に着脱可能に取り付けられている。
【0010】
呼吸装置Aの作動を説明する。
呼吸装置Aの不使用時には、面体1の内圧(ゲージ圧)は零であり、振動体6eに印加される内外圧はバランスしており、振動体6eは無負荷状態にある。以下の説明において面体1の内圧は全てゲージ圧である。この時、振動体6eは平板状に延在する初期状態に在り磁石7aとホール素子7bとの間の距離は初期値となっており、ホール素子7bが検知する磁石7aの磁束密度も初期値となっている。
面体1の内圧が正圧であれば、振動体6eは面体1の外側へ膨出変形し、面体1の内圧が負圧であれば、振動体6eは面体1の内側へ収縮変形する。
【0011】
呼吸装置Aを使用する際には、バッテリー10をバッテリー収納部9に収納し、制御装置8を作動させる。使用者の顔面の鼻と口とを含む一部を覆うように面体1を使用者の頭部に装着する。面体1の環状縁部が顔面に密着して、前記環状縁部と顔面との当接部からの面体1内への外気の侵入を阻止する。
使用者の排吸気に応じて、面体1の内圧が増減し、振動体6eに印加される内外圧に差圧が生じ、振動体6eが初期状態から変形し、磁石7aとホール素子7bとの間の距離が初期値から変化する。当該変化に伴う磁束密度の初期値からの変化をホール素子7bが検知し、アンプ8cとローパスフィルター8dとを介して検知信号を制御装置8のマイコン8aへ送信する。マイコン8aは、ホール素子7bからアンプ8cとローパスフィルター8dとを介して受信した磁束密度の初期値からの変化量が所定値を超えると呼吸装置Aが使用者の頭部に装着されたと認識し、電動ファン4を始動させる。
マイコン8aは、アンプ8cとローパスフィルター8dとを介して受信したホール素子7bの検知信号に基づいて、面体1の内圧が正圧になるように、ひいては振動体6eが初期状態よりも面体1の外側へ変形するように、電動ファン4の回転数を制御する。
【0012】
排気時には面体1の内圧が高くなり、振動体6eの面体1外側への変形量が増加し、磁石7aとホール素子7bとの距離が増加し、ホール素子7bが検知する磁石7aの磁束密度が減少する。前記距離の初期値からの増加量が所定値を超え、ホール素子7bが検知する磁石7aの磁束密度の初期値からの減少量が所定値を超えると、マイコン8aは呼吸状態が排気状態に在ると認識し、電動ファン4の回転数を減少させ或いは電動ファン4を停止させる。この結果、消費電力が節約されてバッテリー10の消耗が抑制されると共にフィルター5の目詰まりが抑制される。排気時には吸気弁2が閉じ、排気弁3が開く。排気は排気弁3を通って面体1から外部環境へ排出される。
【0013】
吸気時には面体1の内圧が低くなり、振動体6eの面体1外側への変形量が減少し、磁石7aとホール素子7bとの距離が減少し、ホール素子7bが検知する磁石7aの磁束密度が増加する。前記距離の初期値からの増加量が所定値以下となり、ホール素子7bが検知する磁石7aの磁束密度の初期値からの減少量が所定値以下になると、マイコン8aは呼吸状態が吸気状態に在ると認識し、電動ファン4の回転数を増加させる。吸気時には吸気弁2が開き、排気弁3が閉じる。外気がフィルター5を通過して塵埃が除去され、次いで電動ファン4に吸引され、吸気弁2を通って面体1内へ流入する。電動ファン4の回転数が増加することにより、面体1内への空気流入量が増加し、面体1の内圧が正圧に保たれるので、呼吸装置使用者は楽に呼吸することができる。
【0014】
塵埃の蓄積によりフィルター5の通気抵抗が経時的に増加する。この結果、電動ファン4を作動させていても、吸気時の面体1の内圧は経時的に低下する。遂には吸気時の面体1の内圧が負圧になり、磁石7aとホール素子7bとの間の距離が初期値よりも小さくなり、ホール素子7bが検知する磁石7aの磁束密度が初期値よりも増加する。ホール素子7cが検知する磁石7bの磁束密度が初期値よりも増加すると、マイコン8aは目詰まりによりフィルター5の耐用期間が経過したことを認識し、LED8e、8fを作動させて警報光を発生させ、呼吸装置Aの使用者にフィルター5の取り替えを催告する。フィルター5を取り替えることにより、面体1の内圧を正圧に保つ制御が再び可能になり、呼吸装置Aの機能は回復する。
【0015】
呼吸装置Aの使用者が声を出すと、伝声器6の振動体6eが振動し、呼吸装置使用者の声を外部環境に放射させる。伝声器6の振動体6eが呼吸装置使用者の声に共鳴すると、呼吸装置使用者の呼吸による振幅を超える振幅で伝声器6の振動体6eが高周波振動する可能性がある。この場合、伝声器振動体6eの高周波振動をホール素子7bが検知し、ホール素子7bの検知信号に基づいて電動ファン4の回転数の増減或いはON/OFFが短周期で繰り返されて、バッテリー10が短時間で消耗し、電動ファンモータのブラシが消耗し、制御装置8に組み込まれた電子部品が劣化することになる。ローパスフィルター8dを介してホール素子7bの検知信号をマイコン8aに入力することにより、ホール素子7bの検知信号から呼吸装置使用者の声と伝声器6の振動体6eとの共鳴に由来する高周波成分を除去し、呼吸装置使用者の呼吸に由来する低周波成分のみをマイコン8aに入力することができ、前記高周波成分に起因するバッテリー10の消耗と、電動ファンモータのブラシの消耗と、制御装置8に組み込まれた電子部品の劣化とを防止することができる。
【0016】
呼吸装置Aが使用者の頭部から取り外されると、振動体6eに印加される内外圧がバランスし、振動体6eは無負荷の初期状態に復帰し、磁石7aとホール素子7bとの間の距離は初期値に復帰し、ホール素子7bが検知する磁石7aの磁束密度は初期値に復帰する。マイコン8aは、ホール素子7bから受信した磁束密度が初期値に復帰した状態が所定時間継続すると、呼吸装置Aが使用者の頭部から取り外されたと認識し、電動ファン4を停止させる。
【0017】
呼吸装置Aにおいては、伝声器6の振動体6eを呼吸モニター装置7の構成要素として利用している。
呼吸装置Aが備える伝声器6においては、環状段部6dと枠体6fとに挟持される外周縁部を除く中央部に同心円状の多数の環状の波形凹凸6eが形成された膜成形体から成る振動体6eは適度の剛性を有しており、張力を印加されずに無負荷時に平板状態を維持することができるので、すなわち、張力を印加されなくても無負荷時に弛まないので、呼吸装置使用者の声を外部に伝達できる。また、振動体6eの外周縁部を環状段部6dと枠体6fとが挟持して振動体6eを筒体6aに固定する際に振動体6e張力を印加する必要がないので、振動体6eを筒体6aに固定する際に振動体6eに皺は発生しない。
膜成形体から成る振動体6e自体の構造は単純な平膜から成る振動体に比べて複雑であるが、振動体6eに張力を印加する構成を伝声器に設ける必要がないので伝声器全体としては、従来の単純な平膜から成る振動体を有する伝声器に比べて構造が簡素化する。
【0018】
中央部に同心円状の多数の環状の波形凹凸6eを形成するのに代えて、中央部に同心円状の多数の環状凸部(反対面側から見ると環状凹部)を形成し、或いは図4に示すように中央部に同心円状の多数の不連続環状凸部(反対面側から見ると不連続環状凹部)6eを形成し、或いは図5、6に示すように中央部に放射状凹部(反対面側から見ると放射状凸部)6e、6eを形成して、振動体6eの剛性を適度に高め、無負荷時に振動体6eが張力を印加されずに平板状態を維持できるようにしても良い。
面体1は、使用者の顔面全体を覆う全面型の面体でも良い。
伝声器6が取り付けられる呼吸装置Aは、呼吸モニター装置7や制御装置8を備えた電動ファン付きの呼吸装置に限定されない。呼吸モニター装置7や制御装置8を備えない電動ファン付きの呼吸装置、取替え式防塵マスク、防毒マスク、送気マスク、自給式呼吸器でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、顔面の一部又は全部を覆う面体を有する、取替え式防塵マスク、電動ファン付き呼吸用保護具、防毒マスク、送気マスク、自給式呼吸器等の呼吸装置の面体に取り付けられる伝声器に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0020】
A 呼吸装置
1 面体
2 吸気弁
3 排気弁
4 電動ファン
5 フィルター
6 伝声器
6e 振動体
6e環状の波形凹凸
6e不連続環状凸部
6e、6e放射状凹部
7 呼吸モニター装置
7a 磁石、反射体
7b ホール素子、光センサー
8 制御装置
8c アンプ
8d ローパスフィルター
図1
図2
図3
図4
図5
図6