特許第6385164号(P6385164)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385164
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】天然ゴムの素練り方法
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/38 20060101AFI20180827BHJP
   C08C 4/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B29B7/38
   C08C4/00
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-136041(P2014-136041)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-13636(P2016-13636A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(72)【発明者】
【氏名】生長 敦司
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−132433(JP,A)
【文献】 特開昭59−100101(JP,A)
【文献】 特開2005−162810(JP,A)
【文献】 特開平10−286824(JP,A)
【文献】 特開2003−145532(JP,A)
【文献】 特開平07−048405(JP,A)
【文献】 特開昭54−073850(JP,A)
【文献】 特開平08−176350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B7/00−7/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の大きさに切断された天然ゴムを押出機に投入して、前記天然ゴムに対して機械的なせん断力を与えることにより素練りを行う天然ゴムの素練り方法であって、
前記押出機に投入される天然ゴムの大きさが、縦寸法、横寸法および厚み寸法のそれぞれにおいて、15cm以内であり、押出回数が2回以上であり、
前記押出機から吐出される前記天然ゴムの温度が、124℃以上となるように制御することを特徴とする天然ゴムの素練り方法。
【請求項2】
前記押出機が、1.5軸型押出機または2軸型押出機であることを特徴とする請求項1に記載の天然ゴムの素練り方法。
【請求項3】
前記押出機が、コニカル型押出機であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の天然ゴムの素練り方法。
【請求項4】
前記押出機のヘッド部にストレーナー装置を配置して、素練りされた前記天然ゴムに含まれる異物を除去することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の天然ゴムの素練り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴムのムーニー粘度を下げるために行われる天然ゴムの素練り方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの製造に際しては、TSR20などの天然ゴムをゴム成分として各種配合剤と共に混練りされた種々のゴム組成物が使用されている。
【0003】
しかし、天然ゴムは、一般的に、合成ゴムに比べて分子量が大きくムーニー粘度が高いため、そのままでは、各種配合剤を均一に混練りすることが難しい。そこで、混練りに先立って、天然ゴムにせん断力を加えることにより分子量を適切に低下させて、混練りに適したムーニー粘度に調整する素練りが行われている。
【0004】
この素練りは、従来、バンバリーミキサーやニーダー等の密閉式練り装置を用いて行われていた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003―320524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの密閉式練り装置は、元々、ゴムと配合剤などを混練りするために用いられる装置であり、天然ゴムのムーニー粘度を下げる素練りのためだけに用いる装置としては高価過ぎるという問題があった。また、密閉式練り装置を用いた素練りはバッチ処理であるため、連続作業ができず、素練り後のゴムから異物を除去するために使用されるストレーナー装置の段替にも時間が掛かるという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、高価な密閉式練り装置を用いることなく連続的な素練りが可能で、短時間でストレーナー装置の段替を行うことができる天然ゴムの素練り方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、
所定の大きさに切断された天然ゴムを押出機に投入して、前記天然ゴムに対して機械的なせん断力を与えることにより素練りを行う天然ゴムの素練り方法であって、
前記押出機に投入される天然ゴムの大きさが、縦寸法、横寸法および厚み寸法のそれぞれにおいて、15cm以内であり、押出回数が2回以上であり、
前記押出機から吐出される前記天然ゴムの温度が、124℃以上となるように制御することを特徴とする天然ゴムの素練り方法である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、
前記押出機が、1.5軸型押出機または2軸型押出機であることを特徴とする請求項1に記載の天然ゴムの素練り方法である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、
前記押出機が、コニカル型押出機であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の天然ゴムの素練り方法である。
【0013】
請求項に記載の発明は、
前記押出機のヘッド部にストレーナー装置を配置して、素練りされた前記天然ゴムに含まれる異物を除去することを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の天然ゴムの素練り方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高価な密閉式練り装置を用いることなく連続的な素練りが可能で、短時間でストレーナー装置の段替を行うことができる天然ゴムの素練り方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る天然ゴムの素練り方法において使用される押出機を説明する図であり、(a)は全体構成を概念的に示す斜視図、(b)は一部断面図である。
図2】実施例における切断後の天然ゴムのサイズを示す斜視図であり、(a)は10cm立方のTSR20大、(b)は5cm立方のTSR20小を示す。
図3】本発明の実施の形態に係る天然ゴムの素練り方法において押出機に投入された天然ゴムの状態を示す拡大写真であり、(a)は押出機投入直後、(b)は投入20秒経過後の天然ゴムの状態を示している。
図4】本発明の実施の形態に係る天然ゴムの素練り方法において押出機から押出されたシート生地の状態を示す拡大写真であり、(a)は押出回数1回目、(b)は押出回数2回目におけるシート生地の状態を示している。
図5】本発明の実施の形態に係る天然ゴムの素練り方法において、押出機から押出された天然ゴムのムーニー粘度の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、従来、天然ゴムの素練りに用いられることがなかった押出機に、所定の大きさに切断された天然ゴムを投入して、押出機のスクリューの回転により、天然ゴムに対して機械的なせん断力を与えた場合、高価な密閉式練り装置を用いずとも、十分な素練りが可能であることを見出して、本発明を完成するに至った。以下、図面を参照しながら実施の形態に基づき本発明を具体的に説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に係る天然ゴムの素練り方法において使用される押出機を説明する図であり、(a)は全体構成を概念的に示す斜視図、(b)は一部断面図である。
【0018】
本実施の形態において、押出機1は図1(a)に概念的に示すように、シリンダー3、シリンダー3の上部に配設されたホッパー4、およびこれらを支持する架台5から構成されている。なお、6は吐出口である。
【0019】
この内、シリンダー3は、図1(b)に一部断面図として示すように、2本のスクリュー2、2aが回転自在に挿設されて、減速機(図示せず)を介して駆動するモータ(図示せず)により回転するように構成されている。
【0020】
このような押出機を用いて、天然ゴムチップをホッパー4から咬み込ませて吐出口6から送り出すことにより、咬み込まれた天然ゴムチップに適切にせん断力を作用させることができるため、天然ゴムを素練りすることができる。
【0021】
そして、上記した押出機を用いた素練りは、従来の密閉式練り装置を用いた素練りに比べて、以下の点で好ましい。即ち、押出機は密閉式練り装置に比べてサイズがコンパクトであり安価である。そして、押出機を用いた素練りは、バッチ処理で行わざるを得なかった密閉式練り装置を用いた素練りと異なり、連続処理が可能となる。また、素練りに密閉式練り装置を使用する必要がなくなるため、高価な密閉式練り装置を本来の混練り設備として有効活用することができる。
【0022】
なお、本実施の形態において押出機1としては、1.5軸タイプまたは2軸タイプの押出機が好ましく、これらの押出機1を使用することにより、ホッパー4から投入される天然ゴムチップがスムーズに咬み込まれて、ホッパー4にゴム詰まりが発生することを適切に防止することができる。なお、図1には1.5軸タイプの押出機が示されている。
【0023】
そして、スクリュー2、2aとしては、上流部分が大径、下流部分が小径でテーパ状に形成されたスクリュー軸21、21aの外周壁の長手方向に、外径がテーパ状とされたスクリューフライト22、22aが設けられて構成されていると、天然ゴムチップに十分なせん断力を作用させることができ好ましい。
【0024】
また、この2本のスクリュー2、2aが互いに斜交するように配置されて構成されたコニカル型押出機は、天然ゴムチップをホッパー4から咬み込む能力や吐出口6から送り出す能力が高いため、より十分なせん断力を天然ゴムチップに作用させることができる。
【0025】
このようなコニカル型押出機の具体例としては、コニカルフィーダーCF−2Y型(イーエム技研社製)を挙げることができる。
【0026】
次に、具体的な天然ゴムの素練り方法について以下に説明する。
【0027】
最初に、ベール状の天然ゴムをホッパー4へ投入できる所定の大きさの天然ゴムチップに切断して準備する。切断後の天然ゴムチップの大きさとしては、押出機のスクリュー2、2aへの咬み込みを十分に確保する必要があり、押出機の能力に応じて適宜設定されるが、通常は、縦寸法、横寸法および厚み寸法のそれぞれにおいて、15cm以内であることが好ましい。
【0028】
次に、切断された天然ゴムチップをホッパー4から投入して、押出機のスクリュー2、2aへ咬み込ませる。投入された天然ゴムは、ホッパー4からヘッド部の吐出口6まで移動する間に、スクリュー2、2aの回転により機械的なせん断力が与えられて、素練りが行われてムーニー粘度が低下する。
【0029】
その後、素練りが行われた天然ゴムは、吐出口6からシート状に押し出される。押し出された天然ゴムのムーニー粘度が狙い通りに低下していれば素練りを完了するが、十分に低下していなかった場合には、所定の粘度となるまで上記を繰り返す。通常は、押出機を2回程度通すことにより、所定の粘度に達する。
【0030】
なお、吐出口6から押し出された天然ゴムの温度(吐出温度)は、シート生地を確保する観点から110℃以上であることが好ましい。
【0031】
そして、押出機のヘッド部にストレーナー装置を配置して、素練りされた天然ゴムに含まれる異物を除去することが好ましい。ヘッド部へのストレーナー装置の配置は、押出機に吐出口6をセットする際に同時に行うことができるため、バッチ練り毎にストレーナー装置を配置する必要がある従来の密閉式練り装置と異なり、時間を掛けることなくストレーナー装置の段替を行うことができる。
【実施例】
【0032】
1.実施例
最初に、1ベール35kgの天然ゴム(TSR20)を10cm角×10cm厚(図2(a)参照)、および5cm角×5cm厚(図2(b)参照)の大きさに切断して、大小2種類の切断された天然ゴムチップを得た(各5ベール分)。
【0033】
次に、この天然ゴムチップを、以下に示す仕様の押出機(イーエム技研社製、コニカルフィーダーCF−2Y型 1.5軸)のホッパーへ投入して、所定の回転数で回転するスクリューに咬み込ませた。その後、天然ゴムを吐出口まで送り、吐出口より幅100mm、厚み8mmのシート状に押し出した。なお、スクリューおよびシリンダーは90℃とし、ヘッド部はバーナーで90℃まで上昇させた。
【0034】
(押出機の仕様)
モーター :DC−45KW(定格:229A)
ホッパーの開口部の大きさ :400×400mm
スクリュー回転数 :MAX25rpm
スクリュー直径 :(長軸)Φ260mm
スクリュー長/スクリュー径(L/D):4
【0035】
なお、上記においては、天然ゴムの大きさで5cm立方および10cm立方の2水準、押出回数(素練り回数)で1回および2回の2水準、スクリューの回転数(押出回転数)で10rpmおよび25rpmの2水準で行い、表1及び表2に示す合計8(2)種類のシート生地を得た。
【0036】
2.比較例
バンバリーミキサー(神戸製鋼社製、BB270 4WNローター)を用いて、ベール状の天然ゴムTSR20(実施例と同一ロット)を直接投入して、以下の条件での素練りを5ベール分行った後、同様にシート生地を得た。
【0037】
(バンバリーミキサーの運転条件)
ローター回転数 :55rpm
排出温度 :150℃
練り時間 :124s
ラムアップ回数 :1回
【0038】
3.評価
(1)ムーニー粘度
実施例、比較例において、素練り前、および素練り後(実施例においては、押出回数毎)におけるムーニー粘度(130℃)をJIS 6300−1:2013の方法を用いて測定した。
【0039】
(2)シート生地の状態
得られた各シート生地の状態について、以下の通り評価した。即ち、シート生地の状態が表面がスムーズな場合には「良」、シート表面が凸凹の場合には「可」、シートがつながらなくて切れてしまう場合には「不可」と評価した。
【0040】
(3)評価結果
実施例における測定結果および評価結果を表1および表2に示す。なお、表1は10cm立方(TSR20大)の評価結果であり、表2は5cm立方(TSR20小)の評価結果である。そして、各表においては、同時に測定した吐出量(kg/h)、吐出温度(℃)、モーター電流(A)、および押出圧力(Mpa)が併せて記載されている。
【0041】
そして、5cm角の天然ゴムの素練りにおいて、押出機投入直後(a)および投入20秒経過後(b)の状態を図3に拡大写真で示す。同様に、押出回数1回目(a)および2回目(b)におけるシート生地の状態を図4に拡大写真で示す。
【0042】
また、回転数25rpmの場合における、練り前、押出1回目、押出2回目におけるムーニー粘度の変化を図5に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
上記において、素練り前の天然ゴムTSR20のムーニー粘度(@130℃)は80であった。そして、比較例による素練りによりムーニー粘度は65と15ポイント低下した。
【0046】
これに対して、各実施例では、表1、表2および図5に示すように、押出機を用いた場合、1回目の押し出しでは十分にムーニー粘度を低下させることができないものの、2回目の押し出しで比較例と同レベルになっており、押出機を用いることにより、天然ゴムTSR20の大小に関係なく、十分な素練りができることが分かる。
【0047】
また、吐出温度を110℃以上の場合には、天然ゴムTSR20の大小に関係なく、良好なシート生地が形成されることが分かる。
【0048】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 押出機
2、2a スクリュー
3 シリンダー
4 ホッパー
5 架台
6 吐出口
21、21a スクリュー軸
22、22a スクリューフライト
図1
図2
図3
図4
図5