特許第6385199号(P6385199)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385199
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】軽油添加剤
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/19 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   C10L1/19
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-169463(P2014-169463)
(22)【出願日】2014年8月22日
(65)【公開番号】特開2016-44233(P2016-44233A)
(43)【公開日】2016年4月4日
【審査請求日】2017年6月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】根岸 政隆
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 整
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−121088(JP,A)
【文献】 特表平08−505893(JP,A)
【文献】 特開平11−228978(JP,A)
【文献】 特開昭62−070329(JP,A)
【文献】 特開平02−101031(JP,A)
【文献】 特開平09−013052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)次の一般式(1)で表される化合物
【化1】
(式中、X1、X2及びX3は水素原子及び基−COR1から選ばれる1種以上であり、X1、X2及びX3の少なくとも1つは水素原子であり、X1、X2及びX3の少なくとも1つは基−COR1であり、基−COR1は炭素数10以上22以下の脂肪酸残基を示す。)
(B)グリセリンの重合度がグリセリンと炭素数が10以上22以下の脂肪酸とのモノエステルであるグリセリン脂肪酸モノエステル
を含有し、且つ成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.3質量部以上質量部以下である軽油添加剤。
【請求項2】
前記成分(B)グリセリン脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸がトール脂肪酸である請求項記載の軽油添加剤。
【請求項3】
前記一般式(1)中の基−COR1がトール脂肪酸残基である請求項1又は2記載の軽油添加剤。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項記載の軽油添加剤を含有する軽油組成物。
【請求項5】
軽油中の硫黄分が0.01質量%以下である請求項記載の軽油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽油添加剤及びこれを含有する軽油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染の観点から、低硫黄ディーゼル軽油が普及している。しかしながら、軽油中の硫黄分の低下は摩擦係数の増大につながり、エンジンの潤滑性の低下による燃料ポンプ摩耗等のトラブルの原因となる。
【0003】
そこで、低硫黄ディーゼル軽油における潤滑性を向上させるため、油性剤が添加されている。油性剤としては、例えば、炭素原子を2〜50有するカルボン酸と炭素原子を1以上有するアルコールとのエステルを含有するディーゼルエンジン燃料添加剤(特許文献1)、脂肪酸とグリセリンの反応物であるモノグリセライド又はジグリセライドを含有する軽油添加剤(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平8−505893号公報
【特許文献2】特開平9−13052号公報
【特許文献3】特開平9−87641号公報
【特許文献4】特開2008−143939号公報
【特許文献5】国際公開第2010/010952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
低硫黄ディーゼル軽油に添加される油性剤のなかでも、特許文献2に示される所定の脂肪酸を構成脂肪酸とするモノグリセライド及びジグリセライドは優れた潤滑性を示す。しかしながら、軽油添加剤には、実用上、潤滑性のみならず低温耐性が求められる。例えば、低温下での濁りの発生や流動性の低下が生じると、軽油との配合時等における作業性が著しく悪化するばかりか、軽油添加剤に組成分布が生じることで軽油の潤滑性等の性能を安定に保てなくなる懸念が生じる。したがって、軽油添加剤には寒冷地での輸送、貯蔵及び使用等を考慮した条件についても耐性が求められる。
これまでに燃料油の低温下での使用を考慮した技術として、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の低温流動性向上剤とノニオン系界面活性剤を併用する燃料油の低温流動性改良方法(特許文献3)や、軽油代替燃料である脂肪酸アルキルエステルの低温流動性を向上させる、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステルを含有する脂肪酸アルキルエステル組成物(特許文献4)、水酸基価が850mgKOH/g以下であり、かつ、ポリグリセリンの全ての水酸基のうち1級水酸基含有率が50%以上であるポリグリセリンと、脂肪酸とのエステル化物であるポリグリセリン脂肪酸エステルであって、水酸基価が100mgKOH/g以下であるポリグリセリン脂肪酸エステルを含有してなる脂肪酸アルキルエステル用曇り点降下剤(特許文献5)等が報告されているが、低硫黄ディーゼル軽油に潤滑性を付与する油性剤の低温耐性を向上させるものではない。
【0006】
したがって、本発明は、潤滑性に優れ、且つ曇点及び流動点が低く、低温耐性に優れた軽油添加剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、所定のグリセリン脂肪酸エステルを含有する軽油添加剤に、グリセリンの重合度が2以上9以下の所定のポリグリセリン脂肪酸モノエステルを所定量含有させれば、優れた潤滑性を有しつつも、曇点及び流動点が大幅に低下し、低温耐性に優れることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)次の一般式(1)で表される化合物
【0009】
【化1】
【0010】
(式中、X、X及びXは水素原子及び基−CORから選ばれる1種以上であり、X、X及びXの少なくとも1つは水素原子であり、X、X及びXの少なくとも1つは基−CORであり、基−CORは炭素数10以上22以下の脂肪酸残基を示す。)
(B)グリセリンの重合度が2以上9以下のポリグリセリンと炭素数が10以上22以下の脂肪酸とのモノエステルであるポリグリセリン脂肪酸モノエステル
を含有し、且つ成分(A)100質量部に対する成分(B)の含有量が0.05質量部以上9質量部以下である軽油添加剤を提供するものである。
また、本発明は、上記記載の軽油添加剤を含有する軽油組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、曇点及び流動点が低く、低温耐性に優れた軽油添加剤を提供することができる。本発明の軽油添加剤は、潤滑性、すなわち摩擦係数の低減効果にも優れ、低硫黄ディーゼル軽油に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[成分(A)]
本発明に用いられる成分(A)は、次の一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」ともいう)である。
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、X、X及びXは水素原子及び基−CORから選ばれる1種以上であり、X、X及びXの少なくとも1つは水素原子であり、X、X及びXの少なくとも1つは基−CORであり、基−CORは炭素数10以上22以下の脂肪酸残基を示す。)
本発明において、化合物(1)は2種以上を併用しても良い。
【0015】
一般式(1)中、基−CORは、RCOOHで表される脂肪酸由来の残基である。基−COR及び脂肪酸(RCOOH)の炭素数は、潤滑性の観点から10以上であり、好ましくは14以上、より好ましくは16以上であり、軽油との相溶性の観点から22以下であり、好ましくは20以下である。
【0016】
すなわち、基−CORにおけるRは、炭素数9以上21以下の脂肪族炭化水素基を示し、Rの炭素数は、潤滑性の観点から9以上であり、好ましくは13以上、より好ましくは15以上であり、軽油との相溶性の観点から21以下であり、好ましくは19以下である。
で示される脂肪族炭化水素基としては、例えば直鎖炭化水素基、分岐鎖炭化水素基、脂環式炭化水素基が挙げられ、潤滑性の観点から、直鎖又は分岐鎖炭化水素基が好ましく、直鎖炭化水素基がより好ましい。
直鎖炭化水素基としては、ウンデシル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘプタデシル基、ノナデシル基、ヘンイコシル基等のアルキル基;8−ヘプタデセニル基等のアルケニル基;8,11−ヘプタデカジエニル基等のアルカジエニル基;4,8,11−ヘプタデカトリエニル基、5,8,11−ヘプタデカトリエニル基、8,11,14−ヘプタデカトリエニル基等のアルカトリエニル基挙げられる。これらの中でも、潤滑性及び軽油との相溶性の観点から、好ましくは8−ヘプタデセニル基及び8,11−ヘプタデカジエニル基である。
【0017】
化合物(1)において、前記基−CORとしては、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イコサノイル基、ベヘノイル基等の飽和脂肪酸残基;オレオイル基等の一価不飽和脂肪酸残基;リノレイル基、α−リノレノイル基、γ−リノレノイル基、5,9,12−オクタデカトリエノイル基等の二価以上の多価不飽和脂肪酸残基;トール脂肪酸の残基、大豆脂肪酸の残基、パーム脂肪酸の残基、菜種脂肪酸の残基等の天然油脂由来の脂肪酸の残基等が挙げられる。一価不飽和脂肪酸残基及び二価以上の多価不飽和脂肪酸残基の炭素数は、潤滑性及び化合物(1)の製造容易性の観点から、好ましくは18以上であり、同様の観点から、22以下であり、好ましくは20以下であり、更に好ましくは18である。
前記基−CORとしては、潤滑性及び軽油との相溶性の観点から、好ましくはトール脂肪酸の残基、オレオイル基及びリノレイル基である。
【0018】
前記基−CORの由来となる脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸等の一価不飽和脂肪酸;リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、5,9,12−オクタデカトリエン酸等の二価以上の多価不飽和脂肪酸;トール脂肪酸、大豆脂肪酸、パーム脂肪酸、菜種脂肪酸等の天然油脂由来の脂肪酸が挙げられる。一価不飽和脂肪酸及び二価以上の多価不飽和脂肪酸の炭素数は、潤滑性及び化合物(1)の製造容易性の観点から、好ましくは18以上であり、同様の観点から、22以下であり、好ましくは20以下であり、更に好ましくは18である。
前記脂肪酸としては、潤滑性及び軽油との相溶性の観点から、好ましくはオレイン酸、リノール酸及びトール脂肪酸である。
【0019】
化合物(1)における全脂肪酸残基のうち、一価不飽和脂肪酸残基の量は、潤滑性に優れる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、軽油との相溶性及び低温での析出抑制の観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
化合物(1)における全脂肪酸残基のうち、二価以上の多価不飽和脂肪酸残基の量は、潤滑性に優れる観点から、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、軽油との相溶性及び低温での析出抑制の観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
化合物(1)における全脂肪酸残基のうち、飽和脂肪酸残基の量は、軽油との相溶性及び低温での析出抑制の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
化合物(1)における全脂肪酸残基において、飽和脂肪酸残基と不飽和脂肪酸残基の合計に対する不飽和脂肪酸残基の質量比[不飽和脂肪酸残基/(飽和脂肪酸残基+不飽和脂肪酸残基)]は、低温での析出抑制の観点から、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上であり、化合物(1)の製造容易性の観点から、好ましくは0.99以下である。
【0020】
化合物(1)は、市販のものを用いてもよく、従来公知の方法、例えば、グリセリンと脂肪酸とをエステル化する方法により製造してもよい。
化合物(1)は、好ましくは前記脂肪酸とグリセリンとのモノエステル及びジエステルから選ばれる1種以上の化合物である。
【0021】
化合物(1)におけるモノエステルの量は、潤滑性に優れる観点から、好ましくは40質量%以上、より好ましくは43質量%以上、更に好ましくは45質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、低温での析出抑制の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは65質量%以下、更に好ましくは60質量%以下、更に好ましくは55質量%以下である。モノエステルにおける基−CORの位置は、グリセリンの1位、2位又は3位のいずれでもよい。
化合物(1)における、モノエステルとジエステルとの合計に対するモノエステルの質量比[モノエステル/(モノエステル+ジエステル)]は、潤滑性に優れる観点から、好ましくは0.40以上、より好ましくは0.43以上、更に好ましくは0.45以上、更に好ましくは0.50以上であり、低温耐性の観点から、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.70以下、更に好ましくは0.65以下、更に好ましくは0.60以下、更に好ましくは0.55以下である。
【0022】
本発明の軽油添加剤中、化合物(1)の含有量は、潤滑性の観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、更に好ましくは97質量%以上であり、低温耐性の観点から、好ましくは99.95質量%以下、より好ましくは99.6質量%以下、更に好ましくは99.2質量%以下である。
【0023】
化合物(1)において、基−CORは、脂肪酸組成、入手容易性、潤滑性及び軽油との相溶性の観点から、トール脂肪酸に由来する脂肪酸残基であることが更に好ましい。
トール脂肪酸はトール油脂肪酸と称されることもあるが、本明細書ではトール脂肪酸と記載する。トール脂肪酸は、原料の松材等により相違するものの、一般的には、オレイン酸及びリノール酸を主成分とし、好ましくは若干のパルミチン酸、ステアリン酸、リノレン酸、ロジン酸を含む。
【0024】
前記トール脂肪酸の組成に関しては、以下の通りである。
パルミチン酸とステアリン酸との合計量は、入手容易性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上であり、低温での析出抑制の点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。オレイン酸とリノール酸との合計量は、潤滑性の観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上であり、入手容易性の観点から、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
オレイン酸とリノール酸との合計に対するリノール酸の質量比[リノール酸/(オレイン酸+リノール酸)]は、低温での析出抑制の観点から、好ましくは0.45以上、より好ましくは0.50以上、更に好ましくは0.55以上であり、入手容易性の観点から、好ましくは0.70以下、より好ましくは0.65以下、更に好ましくは0.60以下である。
【0025】
[成分(B)]
本発明に用いられる成分(B)ポリグリセリン脂肪酸モノエステルは、ポリグリセリンと脂肪酸とのモノエステルである。ポリグリセリン脂肪酸モノエステルを構成するポリグリセリンにおけるグリセリンの重合度は、2以上であり、潤滑性及び軽油添加剤の低温耐性の観点から、9以下であり、好ましくは5以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下、更に好ましくは2である。ポリグリセリン脂肪酸モノエステルは2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記ポリグリセリンの水酸基価(単位:mgKOH/g)は、潤滑性及び軽油との相溶性の観点から、1,000以上であり、好ましくは1,300以上であり、潤滑性及び軽油添加剤の低温耐性の観点から、好ましくは1,400以下である。ポリグリセリンの水酸基価は、実施例に記載の方法により求めた値をいう。
【0027】
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸の炭素数は、軽油との相溶性の観点から、10以上であり、好ましくは14以上であり、低温での析出抑制の観点から、22以下であり、好ましくは20以下である。
前記脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イコサン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸;オレイン酸等の一価不飽和脂肪酸;リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、5,9,12−オクタデカトリエン酸等の二価以上の多価不飽和脂肪酸;トール脂肪酸、大豆脂肪酸、パーム脂肪酸、菜種脂肪酸等の天然油脂由来の脂肪酸が挙げられる。前記脂肪酸としては、化合物(1)との相溶性及び低温耐性の観点から、好ましくはオレイン酸、リノール酸及びトール脂肪酸である。
【0028】
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸は、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸から選ばれる1種以上であり、不飽和脂肪酸を含有することが好ましい。飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の合計に対する不飽和脂肪酸の質量比[不飽和脂肪酸/(飽和脂肪酸+不飽和脂肪酸)]は、低温での析出抑制の観点から、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上であり、ポリグリセリン脂肪酸モノエステルの製造容易性の観点から、好ましくは0.99以下である。
不飽和脂肪酸の炭素数は、潤滑性及び入手容易性の観点から、好ましくは18以上であり、同様の観点から、22以下であり、好ましくは20以下であり、更に好ましくは18である。飽和脂肪酸の炭素数は、潤滑性及び低温耐性の観点から、10以上であり、好ましくは12以上であり、同様の観点から、好ましくは18以下、より好ましくは16以下、更に好ましくは14以下である。
なかでも、ポリグリセリン脂肪酸モノエステルを構成する脂肪酸は、軽油添加剤の低温耐性、及び潤滑性の観点から、上記のトール脂肪酸であることが好ましい。好ましいトール脂肪酸の組成に関しては、前述の通りである。
【0029】
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルの水酸基価(単位:mgKOH/g)は、潤滑性及び軽油との相溶性の観点から、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは350以上であり、潤滑性及び低温耐性の観点から、好ましくは650以下、より好ましくは550以下、更に好ましくは450以下である。ポリグリセリン脂肪酸モノエステルの水酸基価は、JIS K0070 7.2に記載の方法等、一般的な油脂分析法により測定することができる。
【0030】
本発明の軽油添加剤中、化合物(1)100質量部に対するポリグリセリン脂肪酸モノエステルの含有量は、潤滑性の観点から、0.05質量部以上であり、好ましくは0.4質量部以上、更に好ましくは0.8質量部以上であり、同様の観点から、9質量部以下であり、好ましくは6質量部以下、より好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2.5質量部以下である。
【0031】
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルは、市販のものを用いてもよく、油脂とポリグリセリンとのエステル交換反応、脂肪酸とポリグリセリンとのエステル化反応等により、製造しても良い。
【0032】
[軽油添加剤]
本発明の軽油添加剤は、例えば、成分(A)と、成分(B)と、更に必要に応じてその他の成分とを、適宜加熱し、撹拌混合等することにより得ることができる。 かくして得られる軽油添加剤は、優れた潤滑性を有しつつ、曇点及び流動点が低く、低温耐性に優れる。本発明の軽油添加剤は、前記効果を顕著に発現させる観点から、より好ましくは低硫黄軽油用の軽油添加剤である。
【0033】
本発明の軽油添加剤の曇点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−14℃以下である。前記曇点は、実施例記載の方法により測定することができる。
本発明の軽油添加剤の流動点は、好ましくは−20℃以下、より好ましくは−25℃以下である。前記流動点は、実施例記載の方法により測定することができる。
【0034】
本発明の軽油添加剤は、グリセリンを含有しても良い。軽油添加剤中のグリセリンの含有量は、潤滑性の観点から、好ましくは2.5質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下である。 本発明の軽油添加剤は、脂肪酸とグリセリンとのトリエステルを含有しても良い。軽油添加剤中のトリエステルの含有量は、製造容易性の観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは4質量%以上であり、潤滑性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0035】
本発明の軽油添加剤は、軽油に通常用いられる各種添加剤をさらに含有しても良い。前記添加剤としては、煙防止剤等の燃焼改良剤、抗酸化剤、伝導性改良剤、金属不活性剤、氷結抑制添加剤、セタン改良剤、界面活性剤、分散剤、吸気系統清浄剤、腐食抑制剤、抗乳化剤、トップシリンダー潤滑剤、染料等が挙げられる。
【0036】
[軽油組成物]
本発明の軽油組成物は、軽油及び前記軽油添加剤を含有する。軽油組成物中の軽油添加剤の含有量は、潤滑性の観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上であり、軽油燃料物性の観点から、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下である。
本発明に用いられる軽油は、本発明の効果を発揮させる観点から低硫黄軽油が好ましく、軽油中の硫黄分は、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.005質量%以下である。硫黄分は、JIS K 2541記載の放射線式励起法により測定することができる。低硫黄軽油としては、原油を常圧蒸留して得られる軽油留分を水素化脱硫装置により、例えば、高い反応温度で水素化脱硫する方法、高い水素分圧で水素化脱硫する方法、高活性を有する水素化脱硫触媒を使用する方法等により得られるものが挙げられる。
【0037】
本発明の軽油組成物は、通常用いられる種々の添加剤を含んでも良い。これら添加剤としては、例えば、煙防止剤等の燃焼改良剤、抗酸化剤、伝導性改良剤、金属不活性剤、氷結抑制添加剤、セタン改良剤、界面活性剤、分散剤、吸気系統清浄剤、腐食抑制剤、抗乳化剤、トップシリンダー潤滑剤、染料等が挙げられる。
【実施例】
【0038】
〔測定及び評価方法〕
(1)グリセリンエステル組成の測定
試料0.25gをテトラヒドロフラン(以下「THF」ともいう)100mLに溶解し、測定用試料溶液として用いた。ゲル浸透クロマトグラフィー法(装置:東ソー株式会社製「HLC−8220GPC」、検出器:装置付属のRID、カラム:東ソー株式会社製「G2000HXL+G1000HXL」、カラム温度:40℃、流速:1mL/min、溶媒:THF、試料溶液量:100μL)により、標準物質としてポリスチレンを用いて測定した。モノエステル、ジエステル、トリエステルを示す各ピーク面積の合計に対する、各ピークの面積比を、試料中の質量組成比とした。
【0039】
(2)脂肪酸組成の測定
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られた油脂サンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96記載のGLC法により測定した。
<GLC分析条件>
装置:アジレントテクノロジー社製「アジレント6890シリーズ」
カラム:Varian社製「CP−SIL88(100m×0.25mm×0.2μm)」
キャリアガス:He
流速:1.0mL/min
インジェクター:Split(1:200)、250℃
ディテクター:FID、250℃
オーブン温度:174℃で50分保持後、5℃/分で220℃まで昇温し、25分間保持
【0040】
(3)ポリグリセリンの水酸基価
ポリグリセリン脂肪酸モノエステルを構成するポリグリセリンの水酸基価は、ポリグリセリンのグリセリン重合度(n)を用い、以下の式より算出した。
水酸基価(単位:mgKOH/g)
=56.1×(n+2)/{(92.1−18.0)×n+18.0}×1000
【0041】
(4)曇点及び流動点の測定
自動流動点・曇り点試験機(田中科学機器製作所製「MPC−102L型」)を用いて測定した。曇点は、ASTM D6749に準拠した方法で、計測間隔1℃で測定した。流動点は、ASTM D2500に準拠した方法で、計測間隔1℃で測定を実施した。曇点及び流動点が小さいほど、低温耐性に優れる。
【0042】
(5)摩擦係数の測定
振子型油性摩擦試験機(神鋼造機株式会社製)を用い、初期振幅:0.5Rad、比例定数:3.2、停止振幅:0.1Rad、荷重:300gf(2.9N)、振幅周期:4秒、接触面圧:1087N/mm、サンプル温度:25℃で、測定した。摩擦係数が小さいほど、潤滑性が良好である。
【0043】
製造例1〔グリセリントール脂肪酸エステルの調製〕
担体(Rohm & Haas製「Duolite A−568」)100gと、0.1N NaOH水溶液1000mLとを1時間撹拌混合し、濾過により担体を回収した。担体にイオン交換水1000mLを加え、1時間撹拌し、濾過により担体を回収した。担体に500mMの酢酸緩衝液(pH5)1000mLを加え、1時間撹拌し、濾過により担体を回収した。pH平衡化操作として、担体に50mMの酢酸緩衝液(pH5)1000mLを加え、2時間撹拌し、濾過により担体を回収した。前記pH平衡化操作は、繰り返し合計2回行った。担体にエタノール500mLを加え、30分間撹拌し、濾過により担体を回収した。担体に、大豆脂肪酸100gとエタノール400mLとを加え、30分間撹拌し、濾過により担体を回収した。エタノール除去操作として、担体に50mMの酢酸緩衝液(pH5)500mLを加え、30分間撹拌し、濾過により担体を回収した。前記エタノール除去操作は、繰り返し合計4回行った。担体に、予めリパーゼ(天野エンザイム株式会社製「リパーゼG「アマノ」50」)100gと50mMの酢酸緩衝液(pH5)900mLとを均一に混合して得た酵素液を加え、2時間撹拌し、濾過により担体を回収した。担体に50mMの酢酸緩衝液(pH5)1000mLを加え、30分間撹拌し、濾過により担体を回収した。以上の操作はいずれも20℃で行った。担体に大豆脂肪酸100gを加え、40℃で攪拌しながら、圧力400Paに達するまで減圧して脱水し、濾過により担体を回収した。脂肪酸除去操作として、担体にヘキサン500mLを加え、20℃で30分間攪拌し、濾過により担体を回収した。前記脂肪酸除去操作は、繰り返し合計3回行った。担体を、エバポレーターを用い、40℃、圧力1300Paで1時間脱溶剤し、次いで、40℃、圧力1300Paで15時間乾燥し、固定化酵素を得た。
半月翼(Φ90mm×H25mm)を取り付けた4ツ口フラスコに、トール脂肪酸(アリゾナケミカル社製「SYLFAT 2LT」)388gと、固定化酵素60gとを仕込み、40℃に調整した恒温水槽に浸漬した。400r/minで攪拌しながら、グリセリン212g(トール脂肪酸に対し0.6mol)を仕込み、真空度は400Paに調整し、エステル化反応を10時間行った。得られた反応混合物を取り出し、遠心分離を行って、油層から未溶解のグリセリン及び固定化酵素を沈降させて分離し除去した。その後、ワイプトフィルム蒸発装置(神鋼環境ソルーション製 「2−03型」)を用いて、100℃で脱グリセリンを、160℃で脱酸をそれぞれ行い、グリセリントール脂肪酸エステルを得た。得られたグリセリントール脂肪酸エステルを、「(1)グリセリンエステル組成の測定」記載の方法で測定した結果、モノエステル46質量%、ジエステル42質量%、トリエステル12質量%であった。
また、原料のトール脂肪酸を「(2)脂肪酸組成の測定」に記載の方法で測定した結果、パルミチン酸0.4質量%、ステアリン酸1.2質量%、オレイン酸30.3質量%、リノール酸42.7質量%、その他の鎖状不飽和脂肪酸18.0質量%、ロジン酸1.8質量%、不ケン化物2.0質量%であった。
【0044】
製造例2〔ポリグリセリン脂肪酸モノエステルの調製〕
下記に示す方法により、ポリグリセリン脂肪酸モノエステル(以下、「PGE」とも記載する)1を調製した。ジグリセリンとしては、東京化成工業製「Diglycerol(ジグリセリン純度80%以上)」を蒸留精製して得られた、ガスクロマトグラフィーによるジグリセリン純度99%以上のものを用いた。
半月翼(Φ90mm×H25mm)を取り付けた1L4ツ口フラスコに、前記ジグリセリン250.0gと、トール脂肪酸(アリゾナケミカル社製「SYLFAT 2LT」)433.3gとを仕込んだ。1L4ツ口フラスコ内の気相部を窒素置換し、以降、窒素を液上空間部に20mL/分の流量で流しながら反応を行った。400r/minで撹拌しながら、約30分かけて250℃まで昇温し、250℃で3時間エステル化反応させた。次いで、約20分かけて70℃まで冷却してジグリセリンとトール脂肪酸とのモノエステル(PGE1)を得た。
【0045】
PGE1以外のPGE2〜7は市販のものを用いた。表1に、PGE1、PGE2〜5(阪本薬品工業(株)製)及びPGE6〜7(太陽化学(株)製)における、グリセリンの重合度、構成脂肪酸の種類及びポリグリセリンの水酸基価を示す。
【0046】
〔軽油添加剤の調製〕実施例1〜6及び比較例1〜2
PGE1〜7を、製造例1で得られたグリセリントール脂肪酸エステルにそれぞれ添加し、70℃で30分撹拌混合して、軽油添加剤を調製した。成分(A)100質量部に対するPGE1〜7の含有量は表1に示したとおりである。
【0047】
実施例7〜10
PGE5を、製造例1で得られたグリセリントール脂肪酸エステルにそれぞれ添加した以外は、実施例1と同様にして軽油添加剤を調製した。成分(A)100質量部に対するPGE5の含有量は表2に示したとおりである。
【0048】
〔評価試験〕
実施例及び比較例で調製した軽油添加剤について、曇点、流動点及び摩擦係数を測定した。結果を表1及び表2に示す。なお、表1及び表2中、実施例6及び実施例10は参考例である。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1及び表2より明らかなように、グリセリントール脂肪酸エステルに対して所定のポリグリセリン脂肪酸モノエステルを所定量添加することで、軽油添加剤の曇点が大幅に低下し、流動点も低下した。ジグリセリンとトール脂肪酸とのモノエステル(PGE1)を添加した実施例1は、良好な潤滑性も示した。
これに対し、グリセリンの重合度が10のPGE7は、グリセリントール脂肪酸エステルに溶解せず、均一な軽油添加剤が得られなかった。