(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた核酸の増幅法の確立は、核酸を用いる生化学分野での革新的な技術をもたらし、特に生体試料中の核酸の有無を検出するときに高感度で有用な技術を提供している。また、核酸をより効率よく増幅するための技術( NASBA、LAMP 等) の開発に伴い、核酸の増幅法は、研究、診断、治療薬の開発等のツールとして、多様な用途において更なる有用性が見出されている。
【0003】
核酸の抽出方法は、その後の核酸増幅反応の検出感度や測定結果に影響を及ぼすため、遺伝子を対象とした研究・検査を精確に行うためには、血液などの生体試料等から核酸を簡易にかつ高効率に抽出することが必要不可欠である。それゆえ、核酸の抽出方法は遺伝子検査において重要な工程になっている。
【0004】
一般的に、核酸は血液等の中に遊離して存在しておらず、例えば、生体試料の場合は、標的とする核酸が細胞内に存在し細胞膜や細胞壁で覆われているため、核酸を覆う細胞膜等を溶解して核酸を遊離させた後、遊離した核酸を抽出し、核酸増幅反応に適した試料に調製する必要がある。
【0005】
核酸を含む生体試料から核酸を抽出する方法として、これまで多くの技術が開発されている。代表的な方法としては、フェノール、クロロホルム等の有機溶媒によりタンパク質等の夾雑物を変性させて沈殿させた後、水相中の核酸を回収する有機抽出法、いわゆるプロテアーゼK/フェノール法(非特許文献1、特許文献1)、核酸を含む溶液に沈殿剤(エタノール、イソプロパノール等)または共沈剤(高分子多糖類)を加え、沈殿となった核酸を遠心分離によって回収する沈殿法(非特許文献2)等が知られている。その他、簡易的な方法としては、試料をイオン交換水で希釈した後に凍結融解を繰り返し、アルカリ溶液を添加後、油液分離、加熱処理等を行うアルカリ溶解法、細胞または組織を不活性化するだけの方法等(煮沸法)が知られている。
【0006】
有機抽出法は、フェノール等の毒性の強い有機溶媒を使用するため、試薬の取り扱いに注意が必要である。また、遠心分離後すみやかに液層を分取する必要があり、その手順は、特にサンプル数が多い場合煩雑となる等の問題があった。
【0007】
そのため、有毒なフェノール等の有機化合物を使用せず、核酸に親和性の高い共沈剤を使用することで、核酸の抽出効率を向上させる方法として、沈殿法が提案されている。沈殿法としてはキャリアーとして高分子多糖類(例えば、デキストランまたはグリコーゲンなど) 等の共沈剤を加えて沈殿を行う方法(特許文献2)、陽イオン界面活性剤を用いて核酸を有機相(アルコール等)に溶解し、無機塩溶液を加えて沈殿させる方法(特許文献3)、2価以上の遷移金属イオンを接触させることにより、試料中の夾雑物を沈殿させ、上清に残る核酸を回収する方法(特許文献4、5)等が提案されている。
【0008】
また近年、核酸をより簡易に回収するための方法として、特に遠心分離機等の特殊な装置を必要とせずに、しかも簡単な工程により、安全にかつ高精度の核酸を迅速に回収する方法が提案されている(特許文献6)。
【0009】
以上のように、核酸を含む試料の種類あるいは抽出された核酸の使用目的により、様々な核酸抽出法が提案されているが、いずれの場合においても、沈殿、分離、洗浄、精製等の煩雑な操作を組み合わせて行う必要があるが、簡易的と言われるアルカリ溶解法や煮沸法でも凍結、煮沸等の温度制御が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、核酸を抽出することが簡易であったとしても、核酸増幅反応に供する試料中に細胞から核酸と共に溶出された脂質等の夾雑物質が、核酸の増幅反応を部分的又は完全に阻害するため、再現性のない結果となり、標的核酸の有無を正確に評価できない問題が生じるため、夾雑物質を除去するためには更に、沈殿、分離、洗浄、精製等の操作が必要となる。
【0013】
特に、生体試料中に含まれる核酸の量が微量である場合は、標的核酸の沈殿は微量であるため、夾雑物質を除去する操作が多いとその回収率が大きく低下する。また、目視による沈殿の確認は困難であり、誤って上清とともに捨ててしまうおそれがある。
【0014】
核酸の抽出効率を高めるためには、アルコール沈殿させる時間や遠心分離する時間を長くする必要があるが、前記方法ではこれらの核酸は不溶化されているため、核酸増幅反応への試料として使用するためには再可溶化しなければならず、操作効率の面で問題がある。
【0015】
また、従来キャリアーとして使用されているグリコーゲン等では、血清や血液のような生体試料である場合、前記物質に包含されるアミラーゼ等の酵素により分解される結果、核酸抽出効率が低下するため、核酸増幅反応を阻害する要因になりかねない。
【0016】
そこで、生体試料等に含有される核酸を煩雑な操作を必要とすることなく、核酸増幅反応を阻害する物質を除去し、かつ、生体試料に含まれる核酸が微量であっても安定して抽出することができ、そのまま核酸増幅反応へ使用することができる試料の調製方法を提供することが課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、操作が容易で工程が少なく短時間に実施可能であり、試料に含有される核酸量が微量の場合であっても核酸を抽出することができ、核酸増幅効率が安定である核酸試料を調製する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)生体試料等に含有する核酸の増幅反応に使用する核酸試料の調製方法であって、(a)前記生体試料に核酸抽出試薬を加える工程、(b)中和処理を行う工程、(c)遠心分離により上清を得る工程、において、(a)および/又は(b)工程にタンパク質を添加することを特徴とする、(a)から(c)工程を備える、調製方法。
(2)前記工程に、熱処理を行う工程を含む、(1)記載の調製方法。
(3)前記タンパク質が、セリシンである(1)又は(2)に記載の調製方法。
(4)前記核酸抽出試薬が、金属イオンを含む、(1)から(3)のいずれか1項に記載の調製方法。
(5)前記セリシンが、核酸増幅反応液中0.09%以下の濃度である(2)から(4)のいずれか1項に記載の調製方法。
(6)金属イオンが、鉄イオン又はアルミニウムイオンである(4)又は(5)に記載の調製方法。
(7)前記生体試料が、全血、喀痰、唾液、口腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、尿、便、血清、血漿である、(1)から(6)のいずれか1項に記載の調製方法。
(8)前記生体試料等に含有する核酸の増幅反応に使用する核酸抽出キットであって、核酸抽出試薬、熱処理試薬および中和試薬のいずれかにタンパク質を含有することを特徴とする抽出キット。
(9)タンパク質が、セリシンである、(8)記載の抽出キット。
(10)核酸増幅反応液中のセリシンの濃度が、0.09%以下である(9)記載の抽出キット。
(11)前記核酸抽出試薬又は熱処理試薬に、金属イオンを含む(8)から(10)のいずれか1項に記載の抽出キット。
(12)金属イオンが、鉄イオン又はアルミニウムイオンである、(11)記載の抽出キット。
(13)前記生体試料が、全血、喀痰、唾液、口腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、尿、便、血清、血漿である、(8)から(12)のいずれか1項に記載の抽出キット。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、上記方法によれば、生体試料等に含有される核酸増幅反応を阻害する夾雑物質を金属イオンと共沈させることで除去することができる。また、試料中に含有される阻害物質量が少なく、かつ、核酸の濃度も低い場合においては、キャリアーとしてセリシンを添加することで、該核酸を再現性よく検出できる核酸増幅反応のための核酸試料を調製することができる。生体試料が全血、喀痰、唾液、口腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、尿、便、血清、血漿であっても、安定した核酸の増幅を行うことができる核酸試料を調製することができる。
【0020】
従来用いられているキャリアーでは標的の核酸が金属イオンと共に共沈する問題があるが、セリシンを添加することで該核酸が共沈することを妨げ、また、セリシンはある一定濃度においては、核酸増幅反応を阻害せず、生体試料中に含有する成分により分解されないため、核酸抽出効率が低下することはない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0023】
本発明は、生体試料等に含まれる核酸の増幅反応に使用する核酸試料の調製方法であって、生体試料等に核酸抽出試薬を加えて、加熱処理によって核酸を抽出する工程と、核酸抽出液を中和する工程及び、遠心分離により目的とする核酸試料を分離する工程を備え、前記工程のうち、抽出工程および/又は中和工程にキャリアータンパク質を添加することを特徴とする方法である。
【0024】
本発明に用いられるキャリアーとして使用するタンパク質としては、セリシンを選択することができる。セリシンの濃度は、核酸増幅反応液中で、0.36%以下が好ましく、より好ましくは、0.09%以下である。セリシンの濃度が0.36%以上であると、増幅効率は低下する。
【0025】
本発明の核酸抽出工程において、生体試料等に金属イオンを含む核酸抽出試薬を加えて核酸を抽出することが好ましく、金属イオンとしては、鉄イオン又はアルミニウムイオンより選択される1種の化合物であることが好ましい。
【0026】
鉄イオンとしては、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第一鉄、硝酸第二鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄等の無機鉄塩から選ばれる少なくとも1種を成分とする水溶液として使用することが好ましい。
【0027】
鉄イオンの濃度は、核酸増幅反応液中で、0.1〜1.0mmol/Lが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5mmol/Lの範囲である。鉄イオンの濃度が0.1mmol/Lより低い、又は1.0mmol/Lより高いと核酸増幅反応の速度が減少する。
【0028】
アルミニウムイオンとしては、硫酸アルミニウム水溶液であることが好ましい。
【0029】
アルミニウムイオンの濃度は、核酸増幅反応液中で、0.1〜1.0mmol/Lが好ましく、より好ましくは0.45mmol/Lである。アルミニウムイオンの濃度が1.0mmol/Lより高いと核酸増幅反応の速度が減少する。
【0030】
本発明に用いられる生体試料は、全血、喀痰、唾液、口腔拭い液、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、尿、便、血清、血漿等を挙げることができるが、これらに特に限定されない。
【0031】
本発明で用いる核酸増幅法としては、LAMP法、PCR法、SDA法、NASBA法等を挙げることができるが、これらの方法に何ら限定されるものではない。
【0032】
以下にLAMP法について説明する。LAMP法は、標的遺伝子の6つの領域に対して4種類のプライマー(2種類のインナープライマーと、2種類のアウタープライマー)を設定し、鎖置換型のDNA合成酵素による反応を利用して一定温度で遺伝子を増幅させることを特徴とした方法である。
【0033】
LAMP法を原理とした試薬キットには、例えば、マイコプラズマ検出試薬キット、レジオネラ検出試薬キットまたは百日咳菌検出試薬キットが市販されており、目的とする菌の検出に合わせたキットを使用することができる。なお、これらのキットは栄研化学株式会社から販売されている。
【0034】
本発明における実施形態の一例を示す。先ず、1.5mLチューブに一定量の水酸化ナトリウム水溶液、一定量の鉄イオンを含む水溶液を予め混和しておく。次いで、一定量の喀痰検体、もしくは咽頭拭い液を採取したスワブを生理食塩水に懸濁後その一定量を先のチューブに添加した後、よく混合する。その後、95℃で一定時間加熱処理を行い、冷却後、セリシンを含む一定量の緩衝液を添加する。さらに遠心処理を施し、得られた上清の一部を試料として採取する。このような処理により、生体試料中の僅かな核酸をも効果的に抽出することができ、その結果、遺伝子増幅反応に適した核酸試料を調製する方法を提供することが可能となる。
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
セリシンが核酸抽出に与える効果(1)
【0037】
(1)核酸の抽出
1.口腔内上皮細胞を300μLの生理食塩水に懸濁した溶液を45μL分取し、核酸増幅反応液中に13ゲノム相当となる様に調製したマイコプラズマ菌液5μLを混合し、擬似生体試料を調製した。
2.また、300μLの生理食塩水を45μL分取し、核酸増幅反応液中に13ゲノム相当となる様に調製したマイコプラズマ菌液5μLを混合し、生理食塩水試料を調製した。
3.1.5mL PCRチューブ(以下「PCRチューブ」と略す)に水酸化ナトリウム水溶液および硫酸第二鉄溶液を加えて、総量40μLになるように混和した。
4.次いで、前記擬似生体試料、あるいは生理食塩水試料を添加し、ボルテックスにて十分混和し、スピンダウンをした。ヒートブロックにて95℃で5分間加熱処理した後、氷上冷却し、スピンダウンをした。
5.スピンダウンをした後に、生理食塩水試料については5%のセリシン(TOYOBO社製)水溶液を1μL又は0.9μgのssDNA(ニッポンジーン社製)を添加した系と、セリシン又はssDNAを添加する替わりに生理食塩水を1μL添加した系を用意した。
6.次いで、Tris塩酸緩衝液(pH8.0)を添加して中和した後、ボルテックスした。
7.その後に、遠心機プチまるはちModel2816型(WAKEN社製)を用いて、25℃、2,000rpm、30秒の条件で遠心処理を行い、得られた上清を加熱処理試料とした。
8.別に、加熱処理を行わずに、同様の操作を行って得られた試料を非加熱処理試料とした。
9.上記、セリシン又はssDNAを添加する処理を行わないで核酸抽出を行った生理食塩水試料を対照1とした。
【0038】
(2)核酸増幅反応
試料5μLを、Loopamp(登録商標)マイコプラズマP検出試薬キット( 栄研化学株式会社製 )から調製したLAMP反応試薬20μL( リアクションミックスMycP.と鎖置換型DNA酵素を混合した溶液 )に添加し、リアルタイム濁度測定計LA−320C( テラメックス社製 )を用い、波長650nmおける濁度(吸光度)変化を指標として、65℃、1時間LAMP反応を行った。
【0039】
LAMP反応液(LoopampマイコプラズマP検出試薬キット( 栄研化学株式会社製 )) の基本組成
リアクションミックスMycP(RM MycP.) 20.0μL
鎖置換型DNA合成酵素(Bst Pol) 1.0μL
【0040】
プライマー
マイコプラズマP検出試薬キット
FIP:CACTCACGGGGGTCACATACGGCCCGATTAATGGCTTGTT (配列番号1)
BIP:GAAGTGCAAACGACTTACCCGGCATTAATTAAGGAGGCAATTTTGGC (配列番号2)
F3 :GGCCTTGGTGGAAAACAC(配列番号3)
B3 :AACTGTTGAGTGGGCTGG(配列番号4)
FLP:GCAAAGGTGTCGAGCAGG(配列番号5)
BLP:GTCCGACCAAAAGGCCAC(配列番号6)
【0041】
(3)結果
図1は、セリシンの有無が核酸抽出に与える効果について試験した結果である。縦軸は、LAMP反応液の濁度(turbidity)が0.1に到達するまでの時間(分)(Tt値)を示し、横軸は、対照1、セリシンを添加して核酸の抽出を行った試料(セリシン)およびssDNAを添加して核酸の抽出を行った試料(ssDNA)を示している。
【0042】
セリシン又はssDNAを添加しないで核酸を抽出した対照1と、セリシンを添加し核酸を抽出した試料(セリシン)との比較例において、セリシンの場合のTt値が、24.3から28.3分の間に確認できたが、対照1のTt値は28.1から39.1分の間もしくは、未検出であった。
【0043】
一方、ssDNAを添加し核酸の抽出をした試料の(ssDNA)場合におけるTt値は、27.3から43分の間もしくは、未検出であった。
【0044】
セリシンは、対照1に比べ、安定した核酸増幅反応を示しているため、核酸量の少ない試料から核酸を抽出する方法として有用であることを示唆している。また、DNAキャリアー剤として汎用されているssDNAを添加し核酸抽出した場合と比べ、セリシンのTt値の時間が早く、かつ、ばらつきが少ないため、セリシンを添加して核酸を抽出することで、核酸増幅反応に適した核酸試料を調製する方法であることが認められた。
【0045】
また、加熱処理(図中、○)を行った場合のセリシンのTt値は、25.3から28.3分の間、ssDNAの場合は、27.3から43.0分の間に観察された。セリシンを添加せずに核酸の抽出を行った対照1のTt値は、30.5から39.1分の間であった。対照1と比べ、セリシンを添加した場合、Tt値は最大12.0分早かった。
【0046】
一方、非加熱処理(図中、△)におけるTt値は、セリシンのTt値は、24.3から27.8分の間、ssDNAの場合は、25.4から36.7分の間に観察されたのに対し、対照1においては、未検出もしくは32.4分であった。対照1と比べ、セリシンを添加した場合、最大24.3分早く核酸増幅反応が認められた。
【0047】
以上の結果より、加熱処理および非加熱処理のいずれの場合においても、セリシンを添加して核酸抽出した試料において安定した核酸増幅反応が得られ、又、ssDNAよりもセリシンのTt値の方が安定しているため、セリシンを核酸抽出工程に添加することにより、前記反応に適した試料を調製する方法であることが認められた。
【実施例2】
【0048】
セリシンが核酸抽出に与える効果(2)
【0049】
(1)核酸の抽出
キャリアータンパク質としてはセリシンを用い、水酸化ナトリウム水溶液(以下、1液とする)、硫酸第二鉄溶液(以下、2液とする)又はTris塩酸緩衝溶液(pH8.0)(以下、3液とする)のいずれか一つに5%セリシン水溶液1μLを混和した前記水溶液を使用し、実施例1.(1)1〜4、7〜8と同様に行った。セリシンを含まない各溶液で処理した生理食塩水試料を対照2とした。
【0050】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0051】
(3)結果
図2は、1液、2液又は3液を添加して核酸抽出し、その核酸試料を用いて核酸増幅反応を行った結果である。横軸は、対照2および1液、2液又は3液を示している。1液、2液又は3液を用いて核酸の抽出を行った場合、Tt値は、24.7〜32.7分であった。一方、対照2のTt値は、29.8〜45.2分であった。
【0052】
このことより、対照2と比べ、セリシンを添加して核酸抽出を行った方が、より核酸増幅反応に適した核酸試料の調製方法であることが示唆された。更に、セリシンは、溶液中に存在する他の物質の影響を受けることなく、安定したTt値が得られているので、セリシンを添加した核酸抽出試薬が有用であることを示唆している。
【実施例3】
【0053】
全血検体からの核酸抽出において、セリシンが核酸抽出に与える効果
【0054】
(1)核酸の抽出
1.約80μLのヒト全血試料(ヒト全血検体1〜5)を300μLの生理食塩水に懸濁した溶液を45μL分取し、核酸増幅反応液中に13ゲノム相当となる様に調製したマイコプラズマ菌液5μLを混合し、擬似生体試料を調製した。
2.PCRチューブに水酸化ナトリウム水溶液および硫酸第二鉄溶液を加えて、総量40μLになるように混和した。
3.次いで、前記擬似生体試料をボルテックスにて十分混和し、スピンダウンをした。ヒートブロックにて95℃で5分間加熱処理した後、氷上冷却し、スピンダウンをした。
4.スピンダウンをした後に、5%のセリシン(TOYOBO社製)水溶液1μLを添加した。
5.次いで、Tris塩酸緩衝液(pH8.0)を添加して中和した後、ボルテックスした。
6.その後に、遠心機プチまるはちModel2816型(WAKEN社製)を用いて、25℃、2,000rpm、30秒の条件で遠心処理を行い、得られた上清を加熱処理試料とした。
7.上記、セリシンを添加する替わりに生理食塩水を1μL添加した系を対照3とした。
【0055】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0056】
(3)結果
図3はヒト全血検体からセリシンを添加して核酸抽出し、その核酸試料を用いて核酸増幅反応を行った結果である。横軸は、ヒト全血検体1から5を示している。
【0057】
その結果、ヒト全血検体間の影響を受けることなく核酸抽出を行うことができ、核酸増幅反応が認められTt値は23.8〜28.2分であった。このことより、ヒト全血からでも核酸を抽出することができ、又、セリシンを添加した工程を経ることで、安定した核酸増幅反応に適した核酸試料を調製し得ることが認められた。
【実施例4】
【0058】
喀痰検体からの核酸抽出において、セリシンが核酸増幅反応に与える効果
【0059】
(1)核酸の抽出
試料として喀痰検体1〜5を用いた以外は、実施例3(1)1〜6と同様にして実験を行った。
【0060】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0061】
(3)結果
図4は、喀痰検体からセリシンを添加して核酸抽出し、その核酸試料を用いて核酸増幅反応を行った結果である。横軸は、喀痰検体1から5を示している。
【0062】
その結果、喀痰検体間の影響を受けることなく核酸増幅反応が認められTt値は26.0〜43.5分であった。このことより、喀痰からでも核酸を抽出することができ、又、セリシンを添加した工程を経ることで、安定した核酸増幅反応に適した核酸試料を調製し得ることが認められた。
【実施例5】
【0063】
尿検体からの核酸抽出において、セリシンが核酸増幅反応に与える効果
【0064】
(1)核酸の抽出
試料として尿検体1〜5を用いた以外は、実施例3(1)1〜6と同様にして実験を行った。
【0065】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0066】
(3)結果
図5は、尿検体からセリシンを添加して核酸抽出し、その核酸試料を用いて核酸増幅反応を行った結果である。横軸は、尿検体1から5を示している。
【0067】
その結果、尿検体間の影響を受けることなく核酸増幅反応が認められTt値は30.5〜33.6分であった。このことより、尿からでも核酸を抽出することができ、又、セリシンを添加した工程を経ることで、安定した核酸増幅反応に適した核酸試料を調製し得ることが認められた。
【実施例6】
【0068】
便検体からの核酸抽出において、セリシンが核酸増幅反応に与える効果
【0069】
(1)核酸の抽出
試料として便検体1〜3を用い、便検体を10%懸濁液とした以外は、実施例3(1)1〜6と同様にして実験を行った。
【0070】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0071】
(3)結果
図6は、便検体からセリシンを添加して核酸抽出し、その核酸試料を用いて核酸増幅反応を行った結果である。横軸は、便検体1から3を示している。
【0072】
その結果、便検体間の影響を受けることなく核酸増幅反応が認められTt値は27.0〜45.0分であった。このことより、便からでも核酸を抽出することができ、又、セリシンを添加した工程を経ることで、安定した核酸増幅反応に適した核酸試料を調製し得ることが認められた。
【実施例7】
【0073】
血清検体からの核酸抽出において、セリシンが核酸増幅反応に与える効果
【0074】
(1)核酸の抽出
試料として血清検体1〜3を用いた以外は、実施例3(1)1〜6と同様にして実験を行った。
【0075】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0076】
(3)結果
図7は、血清検体からセリシンを添加して核酸抽出し、その核酸試料を用いて核酸増幅反応を行った結果である。横軸は、血清検体1から3を示している。
【0077】
その結果、血清検体間の影響を受けることなく核酸増幅反応が認められTt値は24.8〜38.9分であった。このことより、血清からでも核酸を抽出することができ、又、セリシンを添加した工程を経ることで、安定した核酸増幅反応に適した核酸試料を調製し得ることが認められた。
【実施例8】
【0078】
血漿検体からの核酸抽出において、セリシンが核酸増幅反応に与える効果
【0079】
(1)核酸の抽出
試料として血漿検体1〜3を用いた以外は、実施例3(1)1〜6と同様にして実験を行った。
【0080】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0081】
(3)結果
図8は、血漿検体からセリシンを添加して核酸抽出し、その核酸試料を用いて核酸増幅反応を行った結果である。横軸は、血清検体1から3を示している。
【0082】
その結果、血漿検体間の影響を受けることなく核酸増幅反応が認められTt値は31.7〜35.1分であった。このことより、血漿からでも核酸を抽出することができ、又、セリシンを添加した工程を経ることで、安定した核酸増幅反応に適した核酸試料を調製し得ることが認められた。
【実施例9】
【0083】
セリシンの濃度が核酸抽出に与える効果
【0084】
(1)核酸の抽出
セリシンの核酸反応液中の濃度が2段階希釈系列(0.0000036%〜0.36%)になるように調製したセリシン水溶液を用いた以外は、実施例1(1)2〜5と同様にして実験を行った。セリシンの替わりに、生理食塩水を1μL添加し、前記処理を行って得られた試料を対照3とした。
【0085】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0086】
(3)結果
図9は、セリシンの濃度が核酸抽出に与える効果について試験した結果である。横軸は、対照3および、セリシンの濃度(0.0000036%〜0.36%)を示している。
【0087】
核酸増幅反応中のセリシン濃度が
0.0000036%〜0.36%となるようにセリシンを添加し核酸抽出を行った場合、Tt値は25.3から55.7分であったが、対照3では未検出であった。以上の結果より、0.0000036%〜0.36%のセリシンの添加は、核酸の抽出効率を向上させ、核酸増幅反応に適した試料を調製する方法であることが認められた。
【実施例10】
【0088】
硫酸アルミニウムの核酸抽出に与える効果
【0089】
(1)核酸の抽出
硫酸第二鉄溶液の替わりに硫酸アルミニウム水溶液を用いた以外、実施例1(1)2〜5、7〜8と同様にして実験を行った。硫酸アルミニウムを含まない各溶液を処理したものを対照4とした。
【0090】
(2)核酸増幅反応
実施例1.(2)と同様に行った。
【0091】
(3)結果
図10は、硫酸アルミニウムの核酸抽出に与える効果について試験した結果である。横軸は、対照4および、硫酸第二鉄水溶液又は硫酸アルミニウム水溶液を添加し核酸抽出した系を示す。
【0092】
その結果、核酸抽出試薬に含む金属イオンとして鉄イオンの替わりにアルミニウムイオンを用いた場合でも、核酸増幅反応に適した核酸試料の調製が可能であることが認められた。
【実施例11】
【0093】
セリシンを添加した核酸抽出試料がPCR法による核酸増幅反応に与える影響
【0094】
(1)核酸の抽出
キャリアータンパク質としてセリシンを用いた以外は、実施例1.(1)1〜5と同様にして実験を行った。セリシンを添加する替わりに、生理食塩水を1μL添加し、上記処理によって得られた生理食塩水試料を対照5とした。
【0095】
(2)核酸増幅反応
試料5μLを以下のPCR反応液20μL を加え、以下の条件により核酸を増幅した。
【0096】
PCR反応液の基本組成:
2×PreMix(タカラバイオ社) 12.5μL
10mM F 2.25μL
10mM R 2.25μL
10mM プローブ 0.63μL
ROX dye 2 0.50μL
DW 1.9μL
【0097】
リアルタイムPCR測定装置: Mx3005P( アジレントテクノロジー社製)
【0098】
プライマー配列:
F GTAATACTTTAGAGGCGAACG (配列番号7)
R TACTTCTCAGCATAGCTACAC (配列番号8)
【0099】
プローブ配列:
FAM-CGCGATACCAACTAGCTGATATGGCGCAATCGCG-BHQ1 (配列番号9)
【0100】
PCR条件:
95 ℃ 、30sec− 50℃、30sec− 75℃、30sec を45サイクル行った。
【0101】
(3)結果
図11は、リアルタイムPCR法による結果を示すグラフである。縦軸はサイクル数(Ct値)を示している。
【0102】
セリシンを添加していない対照5においては、増幅サイクルが認められなかった。一方、核酸増幅反応中の濃度が0.009%もしくは0.09%になるように、セリシンを添加し核酸抽出を行った場合には、平均増幅サイクル数はそれぞれ、22および56サイクルであった。以上より、セリシンを添加して核酸抽出を行うことで、リアルタイムPCR法にも適した核酸試料の調製が可能であることが確認された。