(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記二度締め判別手段は、前記一方向伝達機構の動作を検出すると、未だ締付が完了していない締結部材を締め付けたと判別し、前記一方向伝達機構の動作が検出されないと、既に締付が完了している締結部材を再度締め付けた二度締めと判別することを特徴とする請求項1に記載の締付工具。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のように、二度締め防止のためには、トルクレンチ等の締付工具と、パソコン等とを有線又は無線により通信し、パソコン等によりボルト等の締結部材の位置を管理しなければならない。
【0006】
このため、トルクレンチ等の締付工具のみで二度締めか否かを判断できれば、パソコン等との通信による管理が不要となる。
【0007】
本発明の目的は、このような課題を解決するために、締付工具が独自に二度締めか否かの判断ができる締付工具を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を実現する締付工具の第1の構成は、締付トルクが一方向伝達機構を介して締結部材に伝達される締付トルク伝達手段と、締付トルク値を計測する締付トルク計測手段と、締付トルクが設定トルク値に達すると作動するトルクリミッターと、前記トルクリミッターの作動を検出する締付完了検知手段と、前記締付トルク計測手段の計測トルク値と前記締付完了検知手段の締付完了検知信号を二度締め判別情報とし、締付開始から前記締付完了検知信号を取得する間に、前記一方向伝達機構の動作の有無により、二度締めの有無を判別する二度締め判別手段と、を有する。
【0009】
本発明の目的を実現する締付工具の第2の構成は、締付トルクを締結部材に伝達する締付トルク伝達手段と、締付トルク値を計測する締付トルク計測手段と、締付トルクが設定トルク値に達すると作動するトルクリミッターと、前記トルクリミッターの作動を検出する締付完了検知手段と、締結部材の回転角度を検出する回転角度検出手段と、前記締付トルク計測手段の計測トルク値と前記締付完了検知手段の締付完了検知信号と、前記回転角度検出手段の検出回転角度を二度締め判別情報とし、締付開始から前記締付完了検知信号を取得する間において、計測トルク値に対する締付部材の回転角度の比を表す比角度に基づいて、二度締めの有無を判別する二度締め判別手段と、を有する。
【0010】
本発明の目的を実現する第3の構成は、上記した第1の構成において、前記二度締め判別手段は、前記一方向伝達機構の動作を検出すると、未だ締付が完了していない締結部材を締め付けたと判別し、前記一方向伝達機構の動作が検出されないと、既に締付が完了している締結部材を再度締め付けた二度締めと判別することを特徴とする。
【0011】
本発明の目的を実現する第4の構成は、上記第3の構成において、前記二度締め判別手段は、前記一方向伝達機構の動作として、前記計測トルク値の急激低下と急激上昇するトルク波形とすることを特徴とする。
【0012】
本発明の目的を実現する第5の構成は、上記第2の構成において、前記二度締め判別手段は、前記比角度が予め設定した閾値角度以下であれば未だ締付が完了していない締結部材を締め付けたと判別し、前記閾値角度を超えていると既に締付が完了している締結部材を再度締め付けた二度締めと判別することを特徴とする。
【0013】
本発明の目的を実現する第6の構成は、上記したいずれかの構成において、前記締付工具は、トルクレンチまたはトルクドライバーであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1、3、4、6に係る発明によれば、ラチェット動作等の一方向伝達機構のとる伝達解除動作の有無を利用して、二度締めか否かをトルクレンチ等の締付工具自体で判別できる。
【0015】
請求項2、5、6に係る発明によれば、ボルト等の締結部材のねじ締め回転角度と計測トルク値に基づいて、二度締めか否かをトルクレンチ等の締付工具自体で判別できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明による締結工具をトルクレンチに適用した概略図、
図2は
図1のトルクレンチの電子回路のブロック、
図3は第1モードのトルク値と時間との関係を示す波形図、
図4は第2モードのトルク値と回転角度との関係を示す波形図である。
【0019】
図1において、トルクレンチ1は、筒状のハンドル部2と、締付トルクをボルト等の締結部材6に伝達する締付トルク伝達手段であるヘッド部3と、ハンドル部
2内に設けられたトルクリミッター4と、ヘッド部3の角軸32に装着され、ボルト等の締結部材6に嵌合されるソケット5と、ヘッド部3に貼り付けられる締付力検出センサーとしてのストレインゲージ7と、データ送信機能を有するデータ取得部8とを有する。角軸32はヘッド部3に対してラチェット等の一方向回転機構を介して連結される。
【0020】
ヘッド部3は、ヘッド本体部31から後方に延びる扁平状のロッド部33がハンドル部2内に挿入され、支軸21を介して回転可能にハンドル部2に取り付けられる。
【0021】
トルクリミッター4はトグル機構を構成し、バネシート41と、トルク値設定バネ42と、軸方向移動不能で軸周りに回転可能なネジ軸で構成された調整ネジ軸43と、調整ネジ軸43に螺合するナット部材44と、ロッド部33の後端部とバネシート41の先端部との間に不図示の連結ピンを介して連結された板状のトグル45とを有する。バネシート41とナット部材44との間にトルク値設定バネ42が配置される。トグル45は、トルクリミッターの非動作状態において、ハンドル部2の長手方向に沿った軸線に対し傾斜している。
【0022】
ソケット5に締結部材6を嵌合した状態で、ハンドル部2を握って所定方向に力を加えて回すと、締結部材6が締め付けられ、設定トルク値に達すると、トグル45が前記軸線に対して平行方向に傾動し、バネシート41がトルク値設定バネ42のバネ力に抗して後方に移動する。その結果、ハンドル部2からヘッド部3への締付力の伝達が断たれる。その際、ハンドル部2が支軸21を支点としてヘッド部3に対し
て回転する。ヘッド部3のロッド部33には、トグル作動検出ピン(不図示)が取り付けられ、ハンドル部2に形成した開口部(不図示)を貫通する。前記トグル
作動検出ピンの貫通端部は、後述する回路基板81に取り付けた締付完了検知スイッチ(不図示)を動作させる。
【0023】
すなわち、トルクリミッター4が動作すると、締結完了検知スイッチは、トグル作動検出ピンに向けて移動し、ONする。トルクリミッター4の作動によりハンドル部2に加える力を弱めると、トルクリミッター4は元の状態に戻り、締結完了検知スイッチはONからOFFとなる。
【0024】
一方、締結部材6の締付けが開始されると、ストレインゲージ7の検出信号がデータ取得部8に出力される。
【0025】
データ取得部8は、外装ケース83内に配置された回路基板81、電源電池(不図示)により構成される。外装ケース83には、トルク値などをデジタル表示する表示部84や操作キー(不図示)等が配置される。
【0026】
本実施形態において、回路基板81には、通信部86、角速度センサー87、プロセッサー80等を設ける。
図2に示すように、プロセッサー80には、ストレインゲージ7の検出信号よりトルク値を取得するトルク値変換部801と、角速度センサー87の検出信号より回転角度を取得す
る角度変換部802と、二度締め
判別部803を有する。角速度センサー87は、ハンドル部2の回転を検出する。
【0027】
図2はトルクレンチ1の電子回路のブロック図を示す。
【0028】
図2において、プロセッサー80、ROM90、RAM91、表示部84、通信部86、
角速度センサー87、ストレインゲージ7はバス92を介して接続される。
【0029】
プロセッサー80は、メモリ部として、二度締め
判別プログラム(
図3および
図4に示す)を格納するROM90と、プロセッサー80に一時的な作業領域を提供するRAM91とを有する。
【0030】
本実施形態において、
図3に示すように、トルク値変換部801で変換して得られたトルク値は
通信部86と二度締め
判別部803に出力される。二度締め
判別部803は、取得したトルク値の波形に基づいて、締結部材が既に締付完了しているか否かの二度締め
判別を行う(第1モード)。また、
図4に示すように、二度締め
判別部803は、取得したトルク値の波形と、さらに角度変換部802で変換された角度情報に基づいて締結部材が既に締付完了しているか否かの二度締め
判別を行う(第2モード)。
【0031】
本実施形態において、第1モードと第2モードは、操作者が表示部84を見て選択することができる。なお、第1モードのみ、又は第2モードのみを設けた構成としても良い。
【0032】
次に、
図3に示す第1モードを説明する。
【0033】
一般に、ボルト等の締結部材を例えばエンジン部品のシリンダーブロックである被締結部材に締め付ける場合、ある程度の締結力までボルトを締付(この締付を仮締めと称す)、仮締め後、トルクレンチによる締結部材の締付が行われる(この締付を本締めと称す)。そして、本締めにおいて、締付トルク
値が設定トルク値に達する
までには、ラチェ
ット動作を複数回繰り返すことが一般に行われる。
【0034】
図3は、縦軸にトルク値、横軸を時間とし、閾値(ピークホールドトルク)を超えたトルク
値を取得する。
【0035】
図3において、破線で示すトルク波形Aは、本実施形態のトルクレンチ1により、既に設定トルク値での締付が完了しているボルト等の締結部材を締め付けた場合を示す。実線で示すトルク波形B1、B2、B3は仮締めの終了している締結部材に対し、本実施形態のトルクレンチにより本締めを行った状態を示す。
【0036】
トルク波形Aは、トルクレンチ1による締付の開始後、直ぐに設定トルク値まで到達し、締結完了検知スイッチがONする。すなわち、仮締めされた締結部材を本締めする場合には、少なくとも1回のラチェット動作を要するが、本締めされた締結部材を二度締めすると、ラチェット動作がなく、設定トルク値に達し、締結完了検知スイッチがONとなる。
【0037】
したがって、二度締め
判別部803は、締付開始から締結完了検知スイッチがONとなる
までの間に、ラチェット動作を検出しない場合には、二度締めであると
判別し、表示部84に警告表示を行う。また、ブザー音等により警告する。
【0038】
一方、仮締めされた締結部材を本締めする場合、先ずトルク波形B1による締付が行われる。トルクレンチ1を一定の回転範囲内で回転しても、締付トルク値は小さいので、一旦ハンドル部2を逆方向に回転させるラチェット動作を行う。このラチェット動作の際には、ヘッド部3のロッド部33には、力が加わらない。このため、ロッド部33に貼り付けたストレインゲージ7からは信号が出力されず、トルク値は0となる。
【0039】
次いで、ハンドル部2を締付方向に回転させると、トルク波形B2が得られる。トルク波形B2は、トルク波形B1よりもトルク値が大きくなるが、未だ設定トルク値に達しない。そこで、一旦前述したラチェ
ット動作を行い、再びハンドル部2を締付方向に回転させる。トルク波形B3に示すように、この3回目の締付により本締めが終了する。トルク波形B3において、トルク値のピークにおいて、締結完了検知スイッチがONとなる。
【0040】
二度締め
判別部803は、締付開始から締結完了検知スイッチがONとなる
までの間に、ラチェット動作を検出したので、二度締めではないと
判別し、表示部84に締結完了の表示を行う。
【0041】
したがって、本実施形態によれば、トルクレンチ1自身で二度締めであるか否かの
判別が行える。
【0042】
続いて、
図4に示す第2モードを説明する。
【0043】
図4において、破線で示すトルク波形Cは、本実施形態のトルクレンチ1により、既に設定トルク値での締付が完了している本締め完了のボルト等の締結部材を締め付けた場合を示す。二点鎖線で示すトルク波形D1、D2,D3、実線で示すトルク波形Eは仮締めの終了している締結部材に対し、本実施形態のトルクレンチ
1により本締めを行った状態を示す。
【0044】
本締め完了の締結部材を本実施形態のトルクレンチ1により締め付ける場合、波形Cに示すように、ハンドル部2は殆ど回転しないがトルク値は急激に上昇する。この場合、ねじ締結トルク値(T)に対するボルト等の締結部材の締結時のねじ回転角度(θ)の比を表す
比角度はΔθ1となる。そして、設定トルク値に達すると、締結完了検知スイッチがONとなる。
【0045】
一方、二点鎖線で示すトルク波形D1、D2,D3は、2回のラチェット動作を行った場合を示す。トルク波形D1、D2、D3は、ねじ締結トルク値(T)に対するボルト等の締結部材の締結時のねじ回転角度(θ)の比を表す比角度はΔθ2(Δθ1>Δθ2)となる。仮に、ラチェット動作を行うことなく設定トルク値までトルクレンチ1を回転した場合のトルク波形Eのねじ締結トルク値(T)に対するボルト等の締結部材の締結時のねじ回転角度(θ)の比を表す比角度もΔθ2である。
【0046】
なお、ボルトが回転を開始する0度に対応するピークホールドトルクはトルクレンチの型式(サイズ)でそれぞれ決定される。また、角度閾値はジョイント係数に応じて設定変更される。ジョイント係数は、ねじの締付固さを表し、Δθに反比例する。ジョイント係数が大きいと、ねじの締付固さが固く、小さいと軟らかい。したがって、締結部材の種類等に応じてジョイント係数をROM90に格納し、ピークホールドトルクの変更を行う。
【0047】
すなわち、二度締め
判別部803は、ハンドル部2の回転角度とトルク値より
比角度Δθ1を求めると、締結完了検知スイッチのONを検知しても二度締めと
判別し、表示部84に二度締めの表示を行う。また、ブザー等で二度締めの警告を行う。
【0048】
一方、二度締め
判別部803は、ハンドル部2の回転角度とトルク値より
比角度Δθ2を求めると、本締めを行ったと
判別し、締結完了検知スイッチのONを検知すると、表示部84に締結完了の表示を行う。ここで、二度締めか否かを判別するための閾値となる
比角度Δθ3は、予めROM90に格納される。
【0049】
したがって、演算して求めた比角度Δθnが閾値となる
比角度Δθ3以下であれば仮締めされた締結部材を本締めしたと判別し、角度閾値
の比角度Δθ3を超える場合には二度締めと判別する。
【0050】
上記した各実施形態において、トルクレンチ1がボルト等の締結部材を締め付ける際に、二度締めであるか否かをトルクレンチ自体で判別できる。このため、従来のようにパソコン等の管理装置との通信による二度締めの判別が不要となり、簡単に二度締めの判別が行える。
【0051】
第1モードでの二度締め判別では、ラチェット動作の有無を利用することで、簡単に二度締め判別が可能となる。
【0052】
第2モードでの二度締め判別では、ラチェット動作がなくても、ねじ締結トルク値(T)に対するボルト等の締結部材の締結時のねじ回転角度(θ)の比を表す比角度Δθ(T/θ)により、二度締めであるか否かを判別できる。
【0053】
上記した各実施形態において、トルク表示やトルクデータの管理が不要の場合、トルク波形の計測に高精度のストレインゲージは不要である。このため、トルク負荷時の曲げ応力が検出でき、トルク上昇が判別できるセンサーであれば良い。
【0054】
また、締付工具は、トルクレンチやトルクドライバーのように手力により締め付ける構成だけでなく、自動駆動式の構成であっても良い。
【0055】
上記した実施形態において、第2モードは、比角度Δθを角度閾値と比較して、二度締めであるか否かを
判別しているが、これに限定されることはない。例えば、
図5に示すように、単純に、角度計測を開始してから、トルクレンチのトルクリミッターが作動する(締結完了検知スイッチがON)までの計測角度が閾値角度を超
えれば初回の締付と
判別し、前記閾値角度未満であれば二度締めを検出したと
判別することも可能である。この場合、トルクリミッターが作動する(締結完了検知スイッチがON)計測角度が35度の場合が初回締めつけ、計測角度が2.5度の場合が二度締めである。したがって、閾値角度を適宜に設定することで、計測角度に基づいて二度締めか否かを
判別することができる。