(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385226
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維および芳香族ポリアミド繊維撚りコード、ならびに繊維強化ゴム複合材料
(51)【国際特許分類】
D06M 15/41 20060101AFI20180827BHJP
D06M 13/11 20060101ALI20180827BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20180827BHJP
D02G 3/44 20060101ALI20180827BHJP
C08J 5/06 20060101ALI20180827BHJP
D06M 101/36 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
D06M15/41
D06M13/11
D06M15/693
D02G3/44
C08J5/06CEQ
D06M101:36
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-196894(P2014-196894)
(22)【出願日】2014年9月26日
(65)【公開番号】特開2016-69737(P2016-69737A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】安井 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】藤松 智博
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正道
【審査官】
小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−025978(JP,A)
【文献】
特公昭46−023143(JP,B1)
【文献】
特開2012−207326(JP,A)
【文献】
特開2004−143625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
C08J 5/06
D02G 3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に無撚りのゴム補強用芳香族ポリアミド繊維であって、
あらかじめ接着剤としてエポキシ基含有化合物を繊維骨格内に浸透させ、かつ水分率が25質量%未満に乾燥された履歴を持たないポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体に、当該繊維複合体の水分率を25〜70質量%に保持した状態で、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む処理剤を付与して得られたことを特徴とするゴム補強用芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体が、原糸を100〜150℃で乾燥することにより調整された水分率が25〜100質量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、前記繊維の水分率を0質量%に換算したときの繊維質量に対して、エポキシ基含有化合物を0.1〜10.0質量%含浸させた繊維複合体であることを特徴とする、請求項1に記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
請求項1または2に記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維を加撚りしたことを特徴とする芳香族ポリアミド繊維撚りコード。
【請求項4】
請求項1または2に記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維または請求項3に記載の芳香族ポリアミド繊維撚りコードが補強材として用いられていることを特徴とする繊維強化ゴム複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム資材に用いられる芳香族ポリアミド繊維およびそれを加撚した撚りコードならびに繊維強化ゴム複合材料に係るものである。本発明により得られる芳香族ポリアミド繊維は、ゴム資材の補強材料として、タイヤ、ベルト、ホース、その他の広範囲の分野に利用される。
【背景技術】
【0002】
ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと記す)繊維は、紡糸時にポリマー溶解の溶媒として濃硫酸を用い液晶状態とした後、口金によるせん断を与えて結晶化度の高い糸に形成される。溶媒である濃硫酸は、紡糸直後に水洗およびアルカリにより中和処理され、200℃以上で乾燥・熱処理された後、フィラメントとして巻き取られて製造されることが知られている(特許文献1)。
【0003】
PPTA繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性、非導電性、錆びないなどの高い機能性と、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持った合成繊維である。これらの特長から、自動車や自動二輪および自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤ等の補強材料として用いられている。これらの利用分野において、PPTA繊維を補強用繊維としてゴムと接着させる場合は、通常、PPTA繊維にエポキシ化合物等で処理を行った後に、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(以下、RFLと記す)処理を行うという方法がとられている(特許文献2、特許文献3等)。
【0004】
ただし、これらの方法を用いてもRFLの繊維への浸透性が不十分で、ゴムとの接着性が改善されないといった問題があり、PPTA繊維を紡糸する際にエポキシ化合物を付与する方法(特許文献4)や、エポキシ化合物を付与したPPTA繊維に、さらにエポキシ化合物等で処理を行った後に、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス処理を行う方法(特許文献5)が知られている。しかしながら、これらの方法を用いても撚糸コードの内部までRFL処理剤が均等に浸透せず、本質改善には至っていない。
【0005】
一方、RFL処理剤の繊維への浸透性、特にベルトに組み込んだ際のほつれにくさ(耐ほつれ性)を改善するため、無撚りのマルチフィラメントにRFL処理を行った後に、前記マルチフィラメントを加撚りするコードの製造方法が広く知られている。(特許文献6、特許文献7)。しかしながら、この方法はRFL処理が均一になされていないと撚りムラの原因となり、均一な品質の撚りコードの製造が困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,767,756号明細書
【特許文献2】特開平3−273032号公報
【特許文献3】特開平5−025290号公報
【特許文献4】特開昭59−094640号公報
【特許文献5】特表2005−517097号公報
【特許文献6】特開2010−001570号公報
【特許文献7】特開2010−095814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を解消し、RFL処理剤の種類によらず、かつ前記処理剤が均一に付着した安定した品質のゴム補強用繊維撚りコードを製造するために有用な、ゴム補強用芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を進めた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
(1)実質的に無撚りのゴム補強用芳香族ポリアミド繊維であって、あらかじめ
エポキシ基含有化合物を繊維骨格内に浸透させ、かつ水分率が25質量%未満に乾燥された履歴を持たない
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体に、
当該繊維複合体の水分率を25〜70質量%に保持した状態で、レゾルシン・ホルマリン・ゴムラテックス(RFL)を含む処理剤を付与し
て得られたことを特徴とするゴム補強用芳香族ポリアミド繊維。
【0010】
(2)
ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維複合体が、原糸を100〜150℃で乾燥することにより調整された水分率が25〜100質量%のポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維骨格内に、前記繊維の水分率を0質量%に換算したときの繊維質量に対して、
エポキシ基含有化合物を0.1〜10.0質量%含浸させ
た繊維複合体であることを特徴とする、請求項1に記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維。
【0012】
(
3)上記(1)
または(2)に記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維を加撚り
したことを特徴とする芳香族ポリアミド繊維撚りコード。
【0013】
(
4)上記(1)
または(2)に記載のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維または上記(
3)に記載の芳香族ポリアミド繊維撚りコードが補強材として用いられていることを特徴とする繊維強化ゴム複合材料。
【発明の効果】
【0014】
本発明により得られる芳香族ポリアミド繊維は、RFLを含む処理剤を均一に付着させるための特殊な工程を設けなくても、かつ、該処理剤の種類に限定されることもなく、該処理剤が均一に繊維束に付着しているので、安定した品質のゴム補強用繊維撚りコードを製造することができる。製造された繊維撚りコードは、ゴムとの接着性や耐ほつれ性に優れると共に、ゴムの補強材として、タイヤ、ベルト、ホース、その他の広範囲の分野に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
芳香族ポリアミド繊維と
しては、パラ系芳香族ポリアミド繊維、メタ系芳香族ポリアミド繊維、あるいはそれぞれの共重合体からなる繊維等がある。
【0016】
芳香族環としては、例えば1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、4,4’−ビフェニレン基、1,5−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、2,5−ピリジレン基等を挙げることができるが、好ましくは1,4−フェニレン基である。芳香族環は、例えばハロゲン基(例えば塩素、臭素、フッ素)、低級アルキル基(メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基)、低級アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基)、シアノ基、アセチル基、ニトロ基などを置換基として含んでいてもよい。
【0017】
具体例としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド、ポリパラアミノベンツアミド、ポリ−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド/ポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタルアミド等からなる繊維が挙げられる
が、本発明
における芳香族ポリアミド繊維はポリパラフェニレンテレフタルアミ
ドである。
【0018】
本発明において、接着剤を繊維骨格内に浸透させるための最良の形態は、芳香族ポリアミド繊維を製造する工程において、紡糸溶液を口金から吐出して、紡糸浴中で凝固させ、水洗中和処理を経た後、この原糸を100〜150℃で乾燥することにより調整された水分率が25〜100質量%の状態の芳香族ポリアミド繊維に、接着剤を含浸・浸透させることである。より好ましくは、水分率が35〜70質量%の状態で接着剤を含浸・浸透させるのがよい。接着剤を含浸・浸透させる際の水分量が少なすぎると、接着剤を均一に繊維骨格内に含浸・浸透させることが困難になる。逆に水分量が多すぎると、接着剤を含浸・浸透させた後、巻き取り工程までに、ガイド等に接触した際に接着剤が水分と一緒に脱落してしまう可能性があり、好ましくない。そして水分量を保ったまま、巻き取り工程でボビンに巻き取り、本発明で用いる芳香族ポリアミド繊維複合体を得る。接着剤が含浸された芳香族ポリアミド繊維複合体は、RFLを含む処理剤を付与するまで、未加熱状態で水分率が25〜70質量%に保持することで、RFLを含む処理剤を均一に付着させることができる。
【0019】
接着剤は、芳香族ポリアミド繊維の水分率を0%に換算した繊維質量に対して、0.1〜10.0質量%、好ましくは0.2〜2.0質量%含浸・浸透させるのがよい。また、接着剤をより均一に含浸・浸透させるため、水や溶剤などで希釈して付与することが好ましい。より好ましくは、芳香族ポリアミド繊維に一般的に用いられる油剤とともに付与するのがよい。具体的な油剤として、例えば、炭素数18以下の低分子量脂肪酸エステル、ポリエーテル、鉱物油などが挙げられる。
【0020】
本発明で
は、接着剤とし
て、エポキシ基含有化合物が
用いられる。特に硬化性エポキシ化合物が好ましい。使用するエポキシ化合物は、グリセロール、ソルビトール、ポリグリセロールなどの多価アルコールのグリシジルエーテルから選ばれる1種以上または、2種以上の混合物であることが好ましい。例えば、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。またこれらのエポキシ化合物を硬化させるため、公知の硬化剤とともに用いても差し支えない。
【0021】
接着剤を芳香族ポリアミド繊維に付与する方法は、特に限定されず、従来公知の任意の方法が採用されてよく、例えば、浸漬給油法、スプレー給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等の方法で芳香族ポリアミド繊維に付与される。
【0022】
本発明においては、RFLを含む処理剤による浸漬処理を施す前に、芳香族ポリアミド繊維複合体の水分率が25〜70質量%に保たれており、かつ水分率が25質量%未満に乾燥された履歴を持たないでいることが肝要である。好ましくは水分率が25〜50質量%、さらに好ましくは30〜40質量%の状態であることがよい。水分率が25質量%未満の場合には、芳香族ポリアミド繊維複合体の表面にRFLを含む処理剤がうまくなじまず、RFLを含む処理剤を均一に塗布することが困難になる。逆に水分率が70質量%を超える場合には、乾燥、熱処理の負荷が増すばかりでなく、RFLを含む処理剤を含浸させた後、乾燥、熱処理の工程の前のガイドなどに接触する際に、水分と一緒にRFLが脱落してしまう可能性があり、好ましくない。
【0023】
接着剤を含浸させた後、芳香族ポリアミド繊維骨格内に接着剤をより浸透させるため、RFLを含む処理剤を付与するまでの間に、芳香族ポリアミド繊維複合体を室温雰囲気下に保管して、エージング処理を行ってもよい。ただし、エージング処理を行う際、芳香族ポリアミド繊維複合体の表面上の水分が蒸発して水分率が25質量%未満にならないよう、処置を施す必要がある。エージング処理を行うことによって、接着剤の浸透不良や接着剤の劣化が生じるのを防止できる。
【0024】
芳香族ポリアミド繊維複合体の水分率を低下させない方法としては特に限定されるものではないが、例えば、巻き上げられた芳香族ポリアミド繊維複合体をポリエチレンフィルムなどの個装袋にて包装する、調湿された低温倉庫に保管する、霧状のミストを噴霧するなどの方法が挙げられる。これらの方法のうち、少なくとも一つの方法あるいは複数の方法を用いても差し支えない。
【0025】
水分率が25〜70質量%に保たれた芳香族ポリアミド繊維複合体に、RFLを含む処理剤による浸漬処理を施す方法は特に限定されるものではなく、公知の方法であってよい。例えば、RFLを含む処理剤を分散させた水浴に前記芳香族ポリアミド繊維複合体を含浸させ、芳香族ポリアミド繊維複合体から過剰な処理剤を除去した後、必要に応じて、乾燥または熱処理する方法などが挙げられる。例えば、ゴムラテックス100質量部に対してレゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物を2〜20質量部含有させた混合物を、通常固形分濃度で5〜25質量%程度含有するRFLを含む処理剤に、芳香族ポリアミド繊維複合体を浸漬するなどして芳香族ポリアミド繊維にRFLを含む処理剤を付着させた後、100〜260℃程度の温度範囲で、数分間程度熱処理する方法などが挙げられる。この方法でRFL処理された芳香族ポリアミド繊維の水分率は通常5%以下となる。
【0026】
芳香族ポリアミド繊維に付着させるRFL処理剤の量は特に限定されず、適宜調整すればよいが、RFLを含む処理剤の固形分に換算して、芳香族ポリアミド繊維の質量(絶乾換算)の1〜20質量%の範囲が好ましく、より好ましくは4〜15質量%が良い。RFL処理剤付着量が1質量%未満の場合は、繊維コードの接着強度や耐ほつれ性が不十分となることがあり、一方20質量%を超える場合は。RFL処理剤の付着によって繊維コード表面に形成する被膜が厚くなり、耐疲労性が低下する傾向がある。
【0027】
ゴムラテックスとしては、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス、スチレン−ブタジエン系ゴムラテックス、アクリロニトリル−ブタジエン系ゴムラテックス、クロロプレン系ゴムラテックス、クロロスルホン化ポリエチレンゴムラテックス、アクリレート系ゴムラテックスおよび天然ゴムラテックスなどが挙げられる。レゾルシン−ホルムアルデヒド初期縮合物としては、レゾルシン−ホルムアルデヒドを酸触媒またはアルカリ触媒下で縮合させて得られたノボラック型縮合物などが挙げられる。処理剤には、ブロックドポリイソシアネート化合物、エチレンイミン化合物、ポリイソシアネートとエチレンイミンとの反応物などから選ばれた1種以上の化合物が混合されていてもよい。
【0028】
また、本発明で使用する芳香族ポリアミド繊維複合体は、RFL処理前には実質的に無撚であることが必要である。実質的に無撚とは、例えば解撚を行った繊維のように若干の撚りを含むものも許容することを意味し、場合によっては3回/10cm以下が好ましく、出来れば1回/10cm以下の撚りであることが好ましい。撚りが実質的に無撚りであるために、RFL処理剤が芳香族ポリアミド繊維を構成するフィラメントの1本1本に均一付着することができる。なお、実質的に無撚には、有撚であっても無撚と同じ程度に充分付着することができるものは含まれる。
【0029】
また、本発明にて用いられる芳香族ポリアミド繊維複合体としては、フィラメントが集合して束状の糸条になっているものであり、束を構成するフィラメント数としては100〜50,000フィラメントであることが好ましい。フィラメント数が少なすぎる場合には1フィラメントにかかる力が集中し、RFLを含む処理剤による浸漬処理を施す際に断糸してしまい好ましくない。逆にフィラメント数が多すぎる場合には、フィラメント束が重なりあい、RFLを含む処理剤が十分に浸透しなくなるため好ましくない。フィラメント束を構成する1本の単糸繊度は特に限定されないが、好ましくは0.5〜10dtex、特に好ましくは1〜5dtexの範囲であればよい。
【0030】
本発明の芳香族ポリアミド繊維撚りコードは、このようなRFL処理を行った芳香族ポリアミド繊維をさらに加撚処理して得られる。加撚の方法および具体的な撚りの形状、撚り数などは特に限定されず、得られた芳香族ポリアミド繊維コードが埋め込まれるマトリクスゴムの種類や大きさなどに応じて適宜設定すればよい。例えば、コードの製造に一般的に用いられる加撚装置を用いて、1本または数本のフィラメント束を束ね、撚りを加えて繊維コードとする、もしくはこれを下撚りコードとして、さらに2本以上束ね、撚りを加えて繊維コードとすればよい。
【0031】
本発明のゴム補強用芳香族ポリアミド繊維および芳香族ポリアミド繊維コードは、RFLを含む処理剤が繊維内部に浸透し、ゴムとの接着性や耐ほつれ性に優れると共に、例えば、タイヤコード、動力伝達ベルト、搬送用ベルト、およびゴムホースの心線補強コードに適用した場合にすぐれた性能を発揮する。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例および比較例を用いて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではない。実施例中の各測定値は次の方法にしたがった。
【0033】
(1)水分率
試料約5gの質量を測定し、300℃×20分の熱処理を行い、25℃65%RHで5分間放置した後、再度質量を測定する。ここで使う水分率は、[乾燥前質量−乾燥後質量]/[乾燥後質量]で得られるドライベース水分率である。
【0034】
(2)接着強力(T−引抜力)
JIS L 1017の接着力−A法に準じて下記条件で処理コ−ドを未加硫ゴムに埋め込み、加圧下で150℃、30分プレス加硫を行ない、放冷後、コードをゴムブロックから30cm/minの速度で引き抜き、その引き抜き荷重をN/cmで表示した。接着評価におけるゴムコンパウンドとしては、天然ゴムを主成分とするカーカス配合の未加硫ゴムを使用した。
【0035】
(3)RFL処理液の付着性
ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックスを水で希釈したRFL処理液を用い、RFL処理後の芳香族ポリアミド繊維の表面を目視で観察し、以下の3段階で評価した。
○:繊維表面にRFLの付着斑が観察されない
△:繊維表面の一部にRFLの付着斑が観察される
×:繊維表面にRFLの付着斑が観察される
【0036】
(4)加撚り時のガイドの堆積
RFL処理後の撚糸工程において、糸道ガイドへの糸カス堆積状況を目視で観察し、以下のように2段階で評価した。
○:工程中のガイドへの糸カス堆積なし
×:工程中のガイドへの糸カス堆積あり
【0037】
(実施例1)
公知の方法で得られたポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを1,000個有する口金からせん断速度30,000sec
−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液で、10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、脱水処理をして、110℃で低温乾燥を行い、水分率を45質量%に調整した。
【0038】
このPPTA繊維に、接着剤としてソルビトールポリグリシジルエーテルを50質量%含有する油剤(ジイソステアリルアジペート/ジオレイルアジペート/硬化ヒマシ油エチレンオキサイド/鉱物油の混合物)を、水分率0質量%換算としたときの繊維に1.0質量%含浸させた後、巻き取り工程でボビンに巻き取った。
【0039】
このPPTA繊維複合体を実質的に無撚りの状態で、ビニルピリジン−スチレン−ブタジエン共重合体ゴムラテックス(RFL)を含む処理剤を含浸させた後、250℃で2分間、乾燥、熱処理を行った。得られたPPTA繊維について、ゴムとの接着性を評価した。なお、処理剤を含浸させる直前のPPTA繊維複合体の水分率は39質量%であった。
【0040】
上記で得られたPPTA繊維の表面のRFL付着斑の有無、撚糸工程での糸道ガイドへの糸カス堆積状況を目視で観察し、評価を行った。
【0041】
(実施例2)
接着剤を含浸させるときのPPTA繊維の水分率を35質量%になるように調整した以外は、実施例1と同じ方法でPPTA繊維複合体を製造した。その後、実施例1と同じ手順でRFLを含む処理剤を付与し、得られたPPTA繊維について、実施例1と同様の評価を行った。なお、処理剤を含浸させる直前のPPTA繊維複合体の水分率は26質量%であった。
【0042】
(比較例1)
接着剤を含浸させるときのPPTA繊維の水分率を25質量%になるように調整した以外は、実施例1と同じ方法でPPTA繊維複合体を製造した。その後、実施例1と同じ手順でRFLを含む処理剤を付与し、得られたPPTA繊維について、実施例1と同様の評価を行った。なお、処理剤を含浸させる直前のPPTA繊維複合体の水分率は20質量%であった。
【0043】
(比較例2)
実施例2と同じ方法で製造した水分率35質量%のPPTA繊維複合体を、60℃のオーブンで24時間乾燥処理を行った後、実施例1と同じ手順でRFLを含む処理剤を付与し、得られたPPTA繊維について、実施例1と同様の評価を行った。なお、処理剤を含浸させる直前のPPTA繊維複合体の水分率は5質量%であった。
【0044】
(比較例3)
実施例1と同様の方法で紡糸、中和処理を行った後、脱水処理をして180℃で乾燥し製造した水分率11質量%のPPTA繊維に、ソルビトールポリグリシジルエーテルを50質量%含有する油剤を塗布した。その後、実施例1と同じ手順でRFLを含む処理剤を付与し、得られたPPTA繊維について、実施例1と同様の評価を行った。なお、処理剤を含浸させる直前のPPTA繊維複合体の水分率は2質量%であった。
【0045】
【表1】
【0046】
表1の結果から、本実施例で得られた芳香族ポリアミド繊維は、ゴムとの接着強力が高く、RFLを含む処理剤の浸透性に優れていることが判る。また、RFLを含む処理剤の付着性やガイドへの糸カス堆積状況が良好であることから、接着剤やRFLを含む処理剤が芳香族ポリアミド繊維に均一に付着していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の芳香族ポリアミド繊維は、ゴム補強用撚りコードの製造に有用である。