(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385231
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】塗膜表面への印刷方法
(51)【国際特許分類】
B05D 1/38 20060101AFI20180827BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20180827BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20180827BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20180827BHJP
F16D 65/092 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
B05D1/38
B05D7/24 301A
B05D5/06 101D
B05D1/26 Z
F16D65/092 B
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-205558(P2014-205558)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2016-73912(P2016-73912A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年7月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】山根 武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏規
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智昭
【審査官】
横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−222782(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/147807(WO,A1)
【文献】
特開2004−027035(JP,A)
【文献】
特開2002−274003(JP,A)
【文献】
特表2002−526258(JP,A)
【文献】
米国特許第06599576(US,B1)
【文献】
独国特許出願公開第69909641(DE,A1)
【文献】
特開2001−322133(JP,A)
【文献】
米国特許第05799754(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
F16D 49/00−71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の表面に塗布した粉体の熱硬化性塗料を焼き付けて形成してなる塗膜の表面に、インクジェット式の印刷装置を使用して印刷する印刷方法であって、
インクの一部が前記塗膜に浸透するように、前記粉体の熱硬化性塗料を焼き付けた直後で、かつ塗膜が完全に固化していない加熱状態の塗膜に印刷する印刷方法において、
印刷に用いるインクは有機溶剤を使用したインクであり、
印刷時における前記塗膜の表面温度が100℃〜180℃であることを特徴とする、
塗膜表面への印刷方法。
【請求項2】
被塗装物がディスクブレーキパッドであることを特徴とする、請求項1に記載の塗膜表面への印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の熱硬化性塗料からなる塗膜表面へインクジェット式の印刷装置を用いて印刷する印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のディスクブレーキに使用されるディスクブレーキパッドは、金属製のバックプレートと呼ばれるベース部材の片面に摩擦材を貼り合せた工業製品であり、摩擦材の摩擦面を除く表面全体に粉体の熱硬化性塗料からなる保護用の塗膜を塗布し、その塗膜表面にインクジェット式の印刷装置を用いて各種文字や数字等を印刷している。
ディスクブレーキパッドの製造から印刷までの工程の一例について説明する。
【0003】
<1>混合工程
繊維基材、熱硬化性樹脂等の結合材、潤滑材、研削材等の無機摩擦調整材、有機摩擦調整材等の摩擦材原料を所定量配合した摩擦材原料配合物を混合機に投入して均一に分散するまで攪拌混合し、摩擦材原料混合物を得る。
【0004】
<2>予備成型工程
計量した摩擦材原料混合物を予備成型用型に投入し、プレス装置を用いて加圧して摩擦材予備成型品を得る。
【0005】
<3>バックプレート洗浄・表面処理・接着剤塗布工程
金属製のバックプレートを洗浄し、防錆処理等の表面処理を行い、摩擦材の貼着予定面に接着剤を塗布する。
【0006】
<4>加熱加圧成型工程
予備成型工程で得られた摩擦材予備成型品と、接着剤を塗布したバックプレートとを重ねて熱成型用型に投入し、プレス装置を用いて加熱加圧して摩擦材を成型すると同時に、バックプレートに摩擦材を貼り付ける。
【0007】
<5>熱処理工程
摩擦材の成型品を炉の中で加熱して、摩擦材に結合材として含まれる熱硬化性樹脂の硬化反応を完了させる。
【0008】
<6>研磨工程
砥石を具備する研磨装置を用いて摩擦材の表面を研磨し、摩擦面を形成する。
【0009】
<7>塗装工程
防錆や商品価値の向上を目的とし、摩擦材の摩擦面を除く表面全体に粉体の熱硬化性の塗料を静電塗装し、加熱して塗料を焼き付ける。
【0010】
<8>印刷工程
塗膜の表面に、製造業者の商標、品番、材質名、ロット番号、バーコード等の複数の印字マークを、インクジェット式の印刷装置を用いて印刷する。
【0011】
<9>選択工程
必要に応じて、チャンファーと呼ばれる面取り部を形成するチャンファー加工工程や、スリットを加工するスリット加工工程、バーナーや熱板により摩擦面を焼くスコーチ工程を適宜実施する。
【0012】
このようにして製造したディスクブレーキパッドは、梱包作業性の要請から、各ディスクブレーキパッドのバックプレートの表面に他の摩擦材の摩擦面を接面させて積み重ねた状態で出荷している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−123571号公報
【特許文献2】特開平03−222749号公報
【特許文献3】特開平07−101139号公報
【特許文献4】特開2007−296766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の塗膜表面への印刷技術にはつぎのような問題点を有する。
<1>複数のディスクブレーキパッドを重ねた状態で運搬すると、振動によって、バックプレートの表面に印刷した印字マークが摩擦材の摩擦面に存在する研削材等の硬質の原料に削り取られて識別できなくなるという問題が生じる。
<2>印字マークの摩滅防止を目的として、摩擦材の摩擦面同士を向い合せて梱包すると、梱包作業の効率が極端に低下するといった問題がある。
<3>印字マークの剥落は運搬中に限らず、ブレーキ装置に組み込んで使用する際にも、キャリパやピストン等の周辺部品との摩擦により印字マークが剥落する。さらにブレーキフルードやブレーキ鳴き止め用のグリス等の油脂にインクが侵されることにより印字マークが消滅して識別できなくなるという問題がある。
<4>一方で、塗装工程でディスクブレーキパッドに形成される塗膜自体にも、ブレーキフルードやブレーキ鳴き止め用のグリス等の油脂に侵されないように高い耐油性が要求されており、塗料として、エポキシ系塗料、ポリエステル系塗料、エポキシ-ポリエステル系塗料等の耐油性の高い熱硬化性塗料が使用されている。
しかし、このような耐油性の高い塗膜に対しては、印刷工程で用いられるインクの濡れ性が極めて悪く、塗膜とインクの充分な密着性を得ることができず、印字マークの耐摩擦性と耐油性を低下させる要因となっている。
<5>塗膜表面へのインクの濡れ性を向上させるため、塗膜表面に、コロナ処理、プラズマ処理、またはフレーム処理等の前処理を施す方法も考えられるが、処理装置が煩雑となり、処理工数や製造コストが増加するので好ましくない。
【0015】
また従来の一般的な印字手段をディスクブレーキパッド等の工業製品へ適用する場合にはつぎのような問題点を有する。
<1>特許文献1に開示されたレーザー光を照射して刻印する方法にあっては、塗装を除去して刻印するため、刻印した部位の塗膜が薄くなり、塗膜強度が低下しやすくなる。
<2>特許文献2には、素材に単層又は複層の塗膜層を形成する工程、前記塗膜層が未硬化の状態の上に、インクジェットにより印字マークを形成する工程、必要に応じて加熱、又は活性エネルギー線を用いてインクと塗膜を同時に硬化させる工程を経て印字するインクジェット印字方法が開示されている。
特許文献3には、耐熱性基材表面に、耐熱性塗料を塗布し、未硬化着色塗膜を形成し、次いで該塗膜表面に、溶剤可溶性含金属染料及び溶剤可溶性の耐熱性結合剤を主成分とし、前記塗料より比重及び表面張力が小さく前記塗料とは異色のインクをインクジェット印刷法にて吐出し、マーキング膜を形成し、次いで得られたマーキング膜及び前記塗膜を同時に硬化せしめることを特徴とするマーキング方法が開示されている。
特許文献4には、素材の表面に塗料またはインクにより下地層を形成する下地層形成処理工程と、下地層形成工程で形成された下地層が生乾き状態の時に、その下地層の表面に、インクジェットプリンタにより所定の画像を油性インクによりプリントするプリント処理工程とからなることを特徴とするインクジェット式プリンタによる画像プリント方法が記載されている。
これらの特許文献2〜4に開示された従来の印刷技術は過酷な環境での使用を前提としていないために、ディスクブレーキパッドのように過酷な環境で使用されることが多い工業製品に適用した場合には、印字マークの剥落を防止できるだけの耐久性が得られない。
【0016】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、粉体の熱硬化性塗料からなる塗膜表面に、インクジェット式の印刷装置を用いてインクを印刷する印刷方法において、塗膜表面とインクとの密着性を向上させつ、耐久性の高い印字マークを得ることができる、塗膜表面への印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、ディスクブレーキパッドに粉体の熱硬化性塗料を塗装した後、加熱することにより塗料を焼き付け、塗膜の固化が完了する前に塗膜表面にインクジェットプリンタを用いて印刷することにより耐久性の高い印字マークを得られることを知見した。
【0018】
またこの印刷方法は、ディスクブレーキパッド以外の、粉体の熱硬化性塗料からなる塗膜が形成される工業製品においても好適である。
【0019】
本発明は、粉体の熱硬化性塗料からなる塗膜表面に、インクジェット式の印刷装置を用いてインクを印刷する印刷方法に関し、以下の技術を基礎とするものである。
【0020】
(1)粉体の熱硬化性塗料からなる塗膜表面に、インクジェット式の印刷装置を用いてインクを印刷する印刷方法
であって、前記印刷を、熱硬化性塗料を焼き付けた後、塗膜が完全に固化する前に行い、印刷後に塗膜の固化を完了させる
印刷方法において、印刷に用いるインクは有機溶剤を使用したインクであり、印刷時における前記塗膜の表面温度が100℃〜180℃である印刷方法。
(2)被塗装物がディスクブレーキパッドであることを特徴とする(1
)の印刷方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、粉体の熱硬化性塗料からなる塗膜表面に、インクジェット式の印刷装置を用いてインクを印刷する印刷方法において、塗膜表面とインクとの密着性を向上させて、耐久性の高い印字マークを印刷することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ディスクブレーキパッドの製造から印刷までの作業工程のフロー図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
<1>塗膜表面への印刷方法の概要
本発明は粉体の熱硬化性塗料からなる塗膜表面へ向けて、インクジェット式の印刷装置を用いて各種の印字マークを印刷する印刷方法であり、熱硬化性塗料を焼き付けた後、塗膜が完全に固化する前に印刷を行い、印刷後に塗膜の固化を完了させる印刷方法である。
【0025】
<2>印刷対象
本例ではディスクブレーキパッドを対象に説明するが、印刷対象は粉体塗装を施す製品であればディスクブレーキパッドに限定されず、過酷な環境で使用される各種の工業製品に適用可能である。
【0026】
<3>ディスクブレーキパッドの製造から印刷までの工程
ディスクブレーキパッドの製造から印刷までの作業工程の一例について説明する。
【0027】
<3.1>混合工程
繊維基材、熱硬化性樹脂等の結合材、潤滑材、研削材等の無機摩擦調整材、有機摩擦調整材等の摩擦材原料を所定量配合した摩擦材原料配合物を混合機に投入して均一に分散するまで攪拌混合し、摩擦材原料混合物を得る。
【0028】
<3.2>予備成型工程
計量した摩擦材原料混合物を予備成型用型に投入し、プレス装置を用いて加圧して摩擦材予備成型品を得る。
【0029】
<3.3>バックプレート洗浄・表面処理・接着剤塗布工程
金属製のバックプレートを洗浄し、防錆処理等の表面処理を行い、摩擦材の貼着予定面に接着剤を塗布する。
【0030】
<3.4>加熱加圧成型工程
予備成型工程で得られた摩擦材予備成型品と、接着剤を塗布したバックプレートとを重ねて熱成型用型に投入し、プレス装置を用いて加熱加圧して摩擦材を成型すると同時に、バックプレートに摩擦材を貼り付ける。
【0031】
<3.5>熱処理工程
摩擦材の成型品を炉の中で加熱して、摩擦材に結合材として含まれる熱硬化性樹脂の硬化反応を完了させる。
【0032】
<3.6>研磨工程
砥石を具備する研磨装置を用いて摩擦材の表面を研磨し、摩擦面を形成する。
【0033】
<3.7>塗装工程
防錆や商品価値の向上を目的とし、摩擦材の摩擦面を除く表面全体に粉体の熱硬化性の塗料を静電塗装し、加熱して塗料を焼き付けて塗膜を形成する。
【0034】
<3.7.1>粉体塗装装置
粉体塗装装置としては、コロナ帯電方式、摩擦帯電方式の従来の粉体塗装装置を使用することができる。
【0035】
<3.7.2>粉体の熱硬化性塗料
塗膜に用いる粉体の熱硬化性塗料としては、エポキシ系粉体塗料、ポリエステル系粉体塗料、アクリル系粉体塗料、エポキシ-ポリエステル系粉体塗料から選択される粉体塗料を使用することができる。
【0036】
<3.7.3>塗装の焼き付け
塗装の焼き付けは、熱風対流式、赤外線による輻射式を使用することができ、塗装の焼き付け条件は、塗料の種類にもよるが、通常は180℃〜250℃、4分〜30分の範囲で行う。
【0037】
<3.8>印刷工程
バックプレートの部分に、製造業者の商標、品番、材質名、ロット番号、バーコード等の複数の印字マークを、インクジェット式の印刷装置を用いて印刷する。
本発明では、以下に説明するように塗膜が完全に固化する前に印刷を行うことが肝要である。
【0038】
<3.8.1>インク
印刷に用いるインクは、顔料系、染料系どちらでもよく、メチルエチルケトン、メタノール、アセトン等の有機溶剤を使用した速乾性のインクを使用するのが好ましい。
【0039】
<3.8.2>印刷時における塗膜の表面温度
インクを塗膜に強固に定着させるには、印刷時における塗膜の表面温度が重要である。
印刷時における塗膜の表面温度は工業製品の種別と、塗膜とインキの物性等を考慮して適宜選択する。
すなわち、バックプレートに印刷する場合は、塗装の焼き付け直後において、塗膜表面の温度が60℃以上であり、塗膜が完全に固化していない状態のときにインクジェット式の印刷装置を用いて印刷を行う。
塗膜の表面温度は60℃〜200℃の範囲であり、実用上は100℃〜180℃の範囲であり、120〜160℃が最適な温度である。
塗膜の表面温度が60℃を下回ると、塗膜に対するインキの付着性が著しく低下し、200℃を越えるとインクジェット式の印刷装置のインクジェットヘッド部が熱により変形するといった問題や、インクに含まれる有機溶剤が揮発し、インクジェットヘッド部でインクが詰まるといった問題が生じる。
【0040】
<3.8.3>塗膜が完全に固化していない状態とは
本発明において、塗膜が完全に固化していない状態とは、焼き付けによる塗料の硬化反応がほぼ完了しており、塗膜に金属製の刃物を押し当てたときに、塗膜に刃物の跡がつく程度に粘度を保っている状態を意味する。
【0041】
塗膜が高温で、且つ、粘度を保った状態でインクジェット式の印刷装置を用いて印刷すると、インクが未固化状態の塗膜組織に浸透してインクの定着性(付着性)が格段に高くなる。
これにより、塗膜を冷却して固化した際における塗膜とインク間の機械的強度が増強されて、耐久性の高い印字マークを得ることができる。
【0042】
なお、塗膜が完全に固化した後に、塗膜表面の温度を60℃以上となるように再加熱して印刷した場合では、上記したようなインクの浸透作用が得られないだけでなく、インクと塗膜間における高い付着強度が得られない。
【0043】
<3.9>塗膜の冷却固化
印字マークの印刷を行った後に塗膜を固化する。
塗膜表面を完全に固化させるための冷却方法としては、例えば強制冷却、室温での自然冷却等を適用することができる。
【実施例】
【0044】
自動車用ディスクブレーキパッドのバックプレートに使用される自動車構造用熱間圧延鋼板SAPH440(厚さ6.0mm)を被塗装物として用い、表1の条件にて塗装、塗装の焼き付けを実施し、「123456」の印字マークの印刷を行った。
【0045】
【表1】
【0046】
印字マークの耐久性は耐摩耗性と耐油性を評価した。評価方法および評価基準を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
実施例1〜3については、印字マークの耐摩耗性と耐油性に関し、実用条件に耐え得る評価が得られ、印刷時の塗膜表面温度が140℃の実施例3が最も耐久性に優れていた。
これに対し、印刷時の塗膜表面温度が50℃である比較例1では、印字マークの耐摩耗性に難点があり、また塗膜表面を室温まで冷却して完全に固化させた後、再加熱により塗膜表面温度を140℃にして印刷を行った比較例2においては、耐摩耗性および耐油性において印字マークが剥落して判別不能であった。