特許第6385232号(P6385232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーインスツル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000005
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000006
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000007
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000008
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000009
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000010
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000011
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000012
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000013
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000014
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000015
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000016
  • 特許6385232-リチウム一次電池及びその製造方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385232
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】リチウム一次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/16 20060101AFI20180827BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20180827BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20180827BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20180827BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20180827BHJP
   H01M 2/04 20060101ALI20180827BHJP
   H01M 2/08 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   H01M6/16 C
   H01M4/40
   H01M4/06 X
   H01M4/48
   H01M2/02 J
   H01M2/04 J
   H01M2/08 W
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-205872(P2014-205872)
(22)【出願日】2014年10月6日
(65)【公開番号】特開2015-156361(P2015-156361A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2017年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2014-4512(P2014-4512)
(32)【優先日】2014年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142837
【弁理士】
【氏名又は名称】内野 則彰
(74)【代理人】
【識別番号】100166305
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 徹
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 英晴
(72)【発明者】
【氏名】平松 裕貴
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−133448(JP,A)
【文献】 特開昭63−143744(JP,A)
【文献】 特開2004−079355(JP,A)
【文献】 特開2012−243408(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0120179(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0272504(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 6/00− 6/22
H01M 2/02− 2/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、非水電解質と、を備え、
前記負極は、リチウム(Li)からなるLi層と、Liと珪素(Si)との合金を含むLiSi層の少なくとも2層を有し、前記負極中におけるLi及びSiは、モル比が15≦Li/Si≦100であり、
前記LiSi層が前記正極と前記負極との積層方向に圧縮されていることを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項2】
正極と、負極と、非水電解質と、を備え、
前記負極は、リチウム(Li)からなるLi層と、Liと珪素(Si)との合金を含むLiSi層の少なくとも2層を有し、
前記LiSi層は、炭素及び樹脂の少なくとも一種をさらに含み、前記正極と前記負極との積層方向に圧縮されていることを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項3】
正極と、負極と、非水電解質と、を備え、
前記負極は、リチウム(Li)からなるLi層と、Liと珪素(Si)との合金を含むLiSi層の少なくとも2層を有し、
前記LiSi層は、Liと、粒子径(D50)が2μm以上であるSi粉末とから形成され、前記正極と前記負極との積層方向に圧縮されていることを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項4】
正極と、負極と、非水電解質と、を備え、
前記負極は、リチウム(Li)からなるLi層と、Liと珪素(Si)との合金を含むLiSi層の少なくとも2層を有し、
前記LiSi層は、LiとSiとの合金の粒子径が2μm以上であり、前記正極と前記負極との積層方向に圧縮されていることを特徴とするリチウム一次電池。
【請求項5】
前記LiSi層は、前記Li層に対し50%以上の面積で形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム一次電池。
【請求項6】
前記LiSi層が、前記負極において前記正極との対向面に形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム一次電池。
【請求項7】
前記正極が酸化銅(II)を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム一次電池。
【請求項8】
正極と、負極と、非水電解質を備えたリチウム一次電池の製造方法であって、
前記負極を製造する方法は、
リチウム(Li)からなるLi層を形成する工程と、
前記Li層上に珪素(Si)若しくはSiを含む混合物からなるSi層を形成する工程と、
前記Li層のLiと前記Si層中のSiとを合金化させ、前記Li層とLiSi層とを含む少なくとも2層を形成する合金化工程と、
を備え
前記合金化工程は、前記Li層と前記Si層とを前記正極と前記負極との積層方向に圧縮することを特徴とするリチウム一次電池の製造方法。
【請求項9】
前記負極中におけるLi及びSiは、モル比がLi/Si>4.4であることを特徴とする請求項に記載のリチウム一次電池の製造方法。
【請求項10】
前記正極と、前記負極と、前記非水電解質と、これらを収納する正極缶、負極缶、及びガスケットを備えたリチウム一次電池の製造方法であって、
前記合金化工程は、前記正極缶と前記負極缶とをカシメ封口することにより、前記Li層と前記Si層とを積層方向に圧縮することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載のリチウム一次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム一次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属中で最大のイオン化傾向を持つリチウム(Li)を負極に使ったリチウム一次電池は、正極と負極との間に高い電位差が生じるため高い電池電圧が得られる。そのため、このリチウム一次電池は電子機器のメモリバックアップや、電子鍵などの用途に広く用いられている。
【0003】
また、リチウム一次電池は活物質に貴金属を使用せず、他の一次電池、例えば活物質に貴金属である銀を使用する酸化銀電池等と比べて低コストで作製することができる。そのため、リチウム一次電池は低価格な製品として既存の一次電池の置き換えとしても期待されている。
【0004】
一方、リチウム一次電池は負極にLiを使用し、電解液は非水溶媒を使用する。そのため、イオン伝導度の大きなアルカリ水溶液を用いる酸化銀電池などと比べて内部抵抗が大きい。また、使用するLi箔は表面積が小さいため、さらに内部抵抗が大きくなる。そこで、Liとアルミニウム(Al)等の金属とを合金化させた負極を用いることで、内部抵抗を低くしたリチウム一次電池が従来から用いられてきた(例えば、特許文献1及び特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−144848号公報
【特許文献2】特開昭61−74264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらのリチウム一次電池でも内部抵抗の低減には充分ではない。特に未使用電池を放電させると放電とともに内部抵抗が上昇し、電池を使い終わる頃(以下放電末期という)には内部抵抗が数倍にも大きくなる。このように内部抵抗が大きい電池は、放電電圧が低下するため、電子機器が誤動作してしまう。そのため、Li合金を負極に用いたリチウム一次電池は、内部抵抗の変化の影響を受けにくい、初期の内部抵抗値の小さな電池に適用が限られてきた。
【0007】
この放電による内部抵抗上昇の原因は、放電とともに負極に配置したLiの厚みが徐々に薄くなり、正極−負極間の距離が大きくなるためである。リチウム一次電池は放電によって負極のLiが溶解し正極に移動するため、Li厚の減少は避けられない。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来のLi合金を負極に用いた電池に比べて未使用から放電末期までの内部抵抗上昇を抑制することができ、かつ安価なリチウム一次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行い、放電しても負極の厚みを一定とすることで、電池の内部抵抗上昇が抑えられる知見を得た。
すなわち、本発明に係るリチウム一次電池用負極は、リチウム(Li)からなるLi層と、Liと珪素(Si)との合金を含むLiSi層の少なくとも2層を有することを特徴とする。
本発明によれば、放電によってLiの量が減少しても、LiSi層の膨張によりLi層の体積減少が補われる。このため負極の厚みが一定となり、未使用から放電末期まで正極と負極の間の距離を維持することができる。これにより、放電末期においても電池の内部抵抗の上昇を抑えることができる。
【0010】
本発明に係るリチウム一次電池用負極において、前記負極中のLiとSiのモル比は、Li/Si>4.4であることを特徴とする。
本発明によれば、負極のLiとSiとの合金化後に負極がLiSi層とLi層の2層となる。これにより、内部抵抗上昇を抑制でき、かつ高容量とすることができる。また、負極中のLiとSiとのモル比が15≦Li/Si≦100であれば、内部抵抗が低く、かつ高容量とすることができるため、より好ましい。
【0011】
本発明に係るリチウム一次電池用負極において、前記LiSi層は、炭素及び樹脂の少なくとも一種をさらに含むことを特徴とする。
本発明によれば、微量のSiを用いてLiSi層を形成する場合において、Li層上のSi量を一定にすることができる。これによりLiSi層を容易に形成することができる。
【0012】
本発明に係るリチウム一次電池用負極において、前記正極と対向する面において、前記LiSi層の面積は、前記Li層の面積の50%以上であることを特徴とする。
本発明によれば、スラリーを用いてLiSi層が形成された構成でも、電池の内部抵抗低減効果を有する。これにより、LiSi層の形成をより容易にすることができる。
【0013】
本発明に係るリチウム一次電池用負極において、前記LiSi層は、金属Liと、粒子径(D50)が2μm以上であるSi粉末とから形成されることを特徴とする。
本発明に係るリチウム一次電池用負極において、前記LiSi層は、前記LiとSiとの合金の粒子径は2μm以上であることを特徴とする。
本発明によれば、出発原料である金属Liと、粒子径が2μm以上であるSi粉末が用いられると、LiとSiとの合金化で粒子の割れが多くなる。またこのとき、LiとSiとの合金は割れによっても2μm以上の粒子径となる。このような合金化の際に、LiSi層は粒子の割れにより膨張しようとするが、外装により圧縮されるためLiSi層の粒子同士の接触が多くなる。これにより、電池の内部抵抗を低くすることができる。
【0014】
本発明に係るリチウム一次電池は、本発明に係るリチウム一次電池用負極と、正極と、非水電解質とを備えていることを特徴とする。
本発明によれば、これらの構成を備えたリチウム一次電池とすることにより、未使用から放電末期までの内部抵抗上昇を抑制することができ、かつ安価なリチウム一次電池とすることができる。
【0015】
本発明に係るリチウム一次電池において、前記LiSi層は前記負極の前記正極と対向する面に形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、負極において表面積が大きく、電解液を含みやすいLiSi層が正極と対向している。これにより、電池の内部抵抗を低くすることができる。
【0016】
本発明に係るリチウム一次電池は、前記正極が酸化銅(II)を含むことを特徴とする。
本発明によれば、放電による正極の膨張によって、LiSi層の密度を高めることができる。これにより、電池の内部抵抗をさらに低減することができる。
【0017】
本発明に係るリチウム一次電池は、前記正極と、前記負極と、前期非水電解質と、これらを収納する正極缶、負極缶、及びガスケットとを備え、前記LiSi層がカシメ封口により圧縮されていることを特徴とする。
本発明によれば、LiSi層が電池内でカシメの力により圧縮されることにより膨張が抑制されている。これにより、放電末期においても内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0018】
本発明に係るリチウム一次電池用負極の製造方法は、リチウム(Li)からなるLi層を形成する工程と、前記Li層上に珪素(Si)若しくはSiを含む混合物からなるSi層を形成する工程と、前記Li層のLiと前記Si層中のSiとを合金化させ、前記Li層とLiSi層の少なくとも2層を形成する合金化工程と、を備えたことを特徴とする。
本発明によれば、電池内部でLiとSiとを合金化させることによりLiSi層を形成することができる。これにより、容易にLiSi層を作製することができる。
【0019】
本発明に係るリチウム一次電池の用負極の製造方法において、前記負極中におけるLi及びSiは、モル比がLi/Si>4.4であることを特徴とする。
本発明によれば、負極中のLiとSiとの合金化後に、LiSi層とLi層との2層からなる負極を形成することができる。これにより、電池の内部抵抗上昇を抑制でき、かつ高容量とすることができる。
【0020】
本発明に係るリチウム一次電池用負極の製造方法は、前記合金化工程は、前記Li層と前記Si層とを積層方向に圧縮させ、LiとSiとを合金化させることにより行うことにより行うことを特徴とする。
本発明によれば、Li層とSi層の上下(積層方向)から圧縮することでLiとSiとの反応を容易に進めることができ、高密度なLiSi層を形成できる。また、圧縮によりLiSi層の膨張が抑えられることから、放電が進んでも正極と負極との実質的な距離を保つことができる。これにより、電池の内部抵抗の低減や、放電による内部抵抗の上昇を抑制することができる。
【0021】
本発明に係るリチウム一次電池の製造方法は、前記正極と、前記負極と、前記非水電解質と、これらを収納する正極缶、負極缶、及びガスケットを備えたリチウム一次電池の製造方法であって、前記合金化工程は、前記正極缶と前記負極缶とをカシメ封口することにより、前記Li層と前記Si層とを積層方向に圧縮することを特徴とする。
本発明によれば、電池の正極缶と負極缶とのカシメ封口により、Li層とSi層とを十分に圧縮することができる。これにより、放電末期においても内部抵抗の低いコイン型のリチウム一次電池を容易に作製することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、未使用から放電末期まで内部抵抗の上昇を抑制することができるリチウム一次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態のリチウム一次電池を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態のリチウム一次電池を示す断面図であって、合金化前の状態を示すものである。
図3】本発明の実施形態のリチウム一次電池を示す断面図であって、放電末期の状態を示すものである。
図4】従来のリチウム一次電池を示す断面図である。
図5】従来のリチウム一次電池を示す断面図であって、放電末期の状態を示すものである。
図6】本発明の実施形態のリチウム一次電池の断面図であって、正極の膨張が大きい場合における放電末期の状態を示すものである。
図7】本発明の実施形態のリチウム一次電池を示す断面図である。
図8】本発明の実施形態のリチウム一次電池を示す断面図である。
図9】実施例1及び比較例1〜5に示す負極材料による内部抵抗の違いを示すグラフである。
図10】実施例2における、負極のLiとSiとのモル比を変化させたときの、放電に伴う内部抵抗の変化を示すグラフである。
図11】実施例3における、原料Si粉末の未整粒時及び粉砕後の粒度分布を示すグラフである。
図12】実施例3における、Siの粒子径(D50)を変化させたときの、放電に伴う内部抵抗の変化を示すグラフである。
図13】実施例3における、LiとSi合金化前後におけるSi粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るリチウム一次電池の実施形態として、コイン(ボタン)形のリチウム一次電池の実施形態を挙げ、この各構成について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の構成はコイン(ボタン)形に限られず、アルミラミネート形、角形、円筒形など他の容器の形態においても適用可能である。
【0025】
(リチウム一次電池の概略)
図1に示すコイン形リチウム一次電池は、有底円筒状の本体部である正極缶2と、正極缶2の開口部を塞ぐ有蓋円筒状の蓋部である負極缶1とを備えている。また正極缶2の開口部の内周面に沿ってガスケット3が設けられ、正極缶2の開口部周縁が内側にカシメることにより固定されている。
【0026】
正極缶2及び負極缶1によって形成される電池内部は、正極5と、負極10と、正極5と負極10との間に配置されたセパレータ4と、少なくとも支持塩及び有機溶媒を含む電解液(図示しない)とを備えている。正極5は正極缶2の内面に電気的に接続され、負極10は負極缶1の内面に電気的に接続されている。正極缶2は正極5の集電体として機能し、負極缶1は負極10の集電体として機能している。
【0027】
正極缶2と負極缶1の材質は、オーステナイト系ステンレス、フェライト系ステンレス、オーステナイト・フェライト二相ステンレスなど従来公知のものを用いることができる。
【0028】
(負極)
図1に示すように、本実施形態における負極10は、負極缶1の内面に接続しているLi層11と、Li層11の正極と対向する面に形成されるLiSi層12からなる。Li層11はLiからなり、また、LiSi層12はLiとSiとの合金を含む層である。
【0029】
負極10の材料として用いるSiの理論容量は4198mAh/g(Li4.4Si)で、現在知られている中で最も高容量な負極活物質である。この理論容量はリチウムイオン二次電池の負極で使われている炭素(LiC6 372mAh/g)、リチウム一次電池の負極で使われているアルミニウム(LiAl 993mAh/g)よりも大きい。
【0030】
一方、SiはLiと反応させると、炭素やアルミニウムがLiと反応する場合に比べてより激しく膨張する。本発明において、発明者らは、このようにSiがLiと反応する際に激しく膨張する性質を利用してリチウム一次電池を作製すると、内部抵抗上昇を抑制できることを見出した。これを、以下例を挙げて説明する。
【0031】
本実施形態のリチウム一次電池の合金化前の状態を図2に示す。これはリチウム一次電池が組み立てられた直後の状態である。負極缶1上にはLiからなるLi層11が形成され、このLi層11の上に粉末のSiからなるSi層13が形成されている。また電池内部には電解液が充填されている。
【0032】
その後、負極10においてLiとSiとが徐々に反応し、図1に示すLiSi層12が形成される。この反応により生じるLiSi合金の組成はLixSi(0≦x≦4.4)であり、LiとSiとが最大限反応した場合にLi4.4Siとなる。そのため、LiとSiのモル比がLi/Si>4.4であるとき、負極10では未反応のLiからなるLi層11と反応後の合金からなるLiSi層12の2層が形成される。
【0033】
電池を放電すると、負極10中において、LiSi層12から正極5へLiが放出されると同時に、Li層11からLiSi層12へLiが補われる。このため、LiSi層12の組成は常にLi4.4Siとなる。特に合金化前のLi層11のLi量を、正極容量とSiの不可逆容量の合計を超える容量に相当する量としておけば、放電末期までLi層11からLiSi層12へLiを供給し続けることができる。そのため、LiSi層12の組成は未使用電池から放電末期まで常にLi4.4Siとなる。
【0034】
また、Si層13は反応させるLi量が多いほど合金化による膨張が大きく、合金組成がLi4.4Siで膨張が最大となる。そのため、負極に十分な量のLiが供給されたSi層13は未使用電池から放電末期まで常に最大の膨張が得られることになる。
【0035】
図2に示す合金化前のリチウム一次電池において、Si層13は正極缶2と負極缶1及びガスケット3によるカシメの力で圧縮されている。Si層13はLiと反応するとLiSi合金を形成し膨張しようとするが、カシメの力で圧縮されているため膨張が抑制される。これにより、図1のような高密度なLiSi層12が形成される。
【0036】
この電池を放電したときの断面を図3に示す。放電によりLiが消費されるに従い、Li層11が減少する。その一方、Li層11の減少分だけ、カシメにより圧縮されていたLiSi層12が膨張し密度が低くなる。リチウム一次電池は、LiSi層12の密度が低くなった分だけ若干の内部抵抗上昇があるが、LiSi層12の粒子間に電解液が含まれているため導電性が保たれる。よって、電池の未使用から放電末期までの状態を通して、正極5−負極10間に実質的な隙間が生じず、正極−負極間の距離が保たれるため、電池の内部抵抗上昇を抑制することができる。
【0037】
一方、負極10のLiとSiのモル比を、Li/Si≦4.4とすると、負極10はLiSi層12の1層だけとなり2層とならない。このようにLi量が少ないと、放電の際のLiSi層12の膨張が小さいため、正極5−負極10の隙間をLiSi層12により埋めにくくなり内部抵抗が大きくなる。またLi量が少ないことから、電池容量も小さくなる。
【0038】
このように負極10のLi上にSiを設け、モル比をLi/Si>4.4とすれば、未使用から放電末期までの内部抵抗上昇を抑制することができ、かつ高容量なリチウム一次電池とすることができる。
【0039】
負極10におけるLiとSiのモル比Li/Siは、上記のようにLi/Si>4.4であれば、Li層11とLiSi層12の2層が形成され、本願の効果を奏するものである。特にLiとSiのモル比がLi/Si≧15となる関係であれば、高容量で内部抵抗が小さいリチウム一次電池を作成することができ好ましい。また、Li/Siが大きくなると、LiSi層12の充分な膨張が得られず、内部抵抗が大きくなる。そのため、LiとSiのモル比はLi/Si≦100であることが好ましく、Li/Si≦50であればより好ましい。また、最適なLi/Siの値は負極の厚みに依存する。このため、所定の電池サイズでLi/Si比の最適化をすれば、高容量かつ内部抵抗の低い電池を作成することができる。
【0040】
比較としてLiSi層を形成しない場合の電池の構成を図4及び図5に示す。図4は未使用状態の電池を示す図である。負極10はLi層11のみで構成されている。
図5は放電が進んだ放電末期における電池の状態を示すものである。電池を放電させると、負極10のLiは正極と対向する面から溶け出し正極を還元させる。正極5と負極10(Li層11)との距離は、電池が未使用の場合はセパレータ4の厚みだけである。放電が進むと、放電とともにLiの体積が減少し、正極5と負極10との間に隙間20が生じる。これにより正極5と負極10との距離は徐々に大きくなり、電池の内部抵抗が高くなる。放電末期はLi層11がなくなるため、正極5と負極10との隙間20が最大となり内部抵抗も最大となる。負極10の厚みが大きいほどこの影響が顕著になる。
【0041】
本発明における負極10は、Li層11とLiSi層12の少なくとも2層を有するものである。例えば、Liは酸素、窒素、二酸化炭素、水分など大気中の成分と反応しやすいため、取り扱いなどでLi表面に薄い層ができる場合がある。またLiと電解液成分で反応し、Li層11やLiSi層13の表面に薄い層ができる場合がある。
【0042】
また本実施形態における負極10は、Li層11とLiSi層12の2層の他に、さらに別の層を有していてもよい。例えば、図7に示すように第3層14を設けてもよい。この第3層14は、Li層11と負極缶1を固定するための炭素粒子とバインダーが含有されている接着層や、LiとAl、Pb、Zn、Sn、Bi、In、Ga、Mgなどの合金層とすることができる。
【0043】
本実施形態におけるLiSi層12は、図1に示すように、正極5と対向する面に形成されている。電池の内部抵抗低減のために必要なことは、正極5と負極10の対向面積を大きく、正極5−負極10間の距離を短く、また正極5−負極10間に充分な量の電解液を含ませることである。粉末のLiSi層12を正極5と対向する面に形成することで負極10の表面積を大きくすることができ、また電解液を含みやすいため内部抵抗低減に有利となる。
【0044】
Liと合金化前のSi粒子、及び、合金化後のLixSi粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像を図13に示す。レーザ回折・散乱法で測定した粒度分布における中位径(D50)で表される粒子径が11.6μmである合金化前のSi粒子は、合金化により細かく割れ、合金化前後で大きな変化があった。一方、粒子径が小さい場合(1.6μm及び0.2μm)には、合金化前後の粒子径変化は小さかった。特に粒子径が0.2μmのSi粒子はほとんど変化がなかった。これらのSi粒子を用いた電池の放電時の内部抵抗の変化を図12に示す。Si粒子径が11.6μmを使いLiSi層を形成した電池は内部抵抗が小さかった。これに対し、粒子径が1.6μm及び0.2μmの粉末Siを使った電池の内部抵抗は、11.6μmの場合に比べ大きかった。
【0045】
すなわち、粒子径の大きなSi粒子は、Liとの合金化反応による粒子の割れが多く、膨張が大きいLiSi層が得られる。このため、電池の内部抵抗を低くすることができる。これに対し、小さい粒子になるほど合金化による粒子の割れが少なくなりLiSi層の膨張が小さいため、電池の内部抵抗も高くなってしまう。
【0046】
ここで図13に示すように、Si粒子径が11.6μmの場合には、合金化後のLiSiの粒子径は2μm以上となっている。一方、Si粒子径が1.6μmの場合には、合金化後の粒子径の変化は小さい。このことから、LiSi層12におけるLiSiの粒子径が2μmとなるような粒子径のSiをSi層13に用いることが好ましい。
【0047】
Si層13に用いるSi粉末は、粉砕前のものをそのまま用いる場合には粒子径は数十μm程度となり、ボールミル等により適宜粒子径を調整して用いることができる。粉末状であれば、Si層13の厚みの範囲内でSi粒子径は大きいほど好ましい。
【0048】
本実施形態におけるLiSi層12は、LiSi合金に加えて、炭素や樹脂を含んでもよい。電池のサイズが小さい場合は、LiSi層12の形成に用いるSi量が微量になるため、Li層11の上に加えるSi量をプロセス上一定にすることが難しくなる。また、Siは粉末であることから取り扱いが困難である。そのためSi層13は、Si粉末に炭素粉末や樹脂を加えて量や厚みを増やしたものを使用することにより、大量生産を容易にすることができる。
【0049】
炭素材料としては、電池の電極の導電助剤として用いられるグラファイトや、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを用いることができる。また、樹脂としては、電池の電極のバインダーとして用いられるポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)の他、種々の材料を用いることができる。
【0050】
このような炭素や樹脂を含んだLiSi層12は、Si粉末と炭素や樹脂を含んだSi層13が電池内でLiと反応することにより形成される。例えば、Si粉末と炭素粉末と樹脂とを混合し、圧縮成型により形成したペレットをSi層13とすることができる。このペレットを十分に乾燥させた後Li層11の上に載置し、電池を組み立てることによりLiSi層12とすることができる。
【0051】
また、Si粉末と炭素粉末と樹脂と溶媒を混合したスラリーを作製し、Li層11の上に滴下し乾燥させることにより溶媒を除去しSi層13を形成することもできる。このときの溶媒としては、Liと反応しない非水溶媒を用いる。また、樹脂はこの溶媒に可溶なものが好ましい。例えば、非水溶媒として、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、樹脂にPVDFなどを用いることができる。
【0052】
このようなスラリーを用いるLiSi層12の形成方法では、図8に示すように、LiSi層12がLi層11の全面に広がらないことがある。このような場合であっても、負極10において、LiSi層12の面積がLi層11の面積の50%以上あれば、負極10がLi層11とLiSi層12の2層を含むことによる内部抵抗低減効果が得られる。一方、LiSi層12の面積がLi層11の面積の50%未満の場合、このような内部抵抗低減効果がほとんどなくなる。
【0053】
(正極)
正極5は、リチウム一次電池の材料として用いられる正極活物質を用いることができる。特に、二酸化マンガン、フッ化黒鉛、硫化鉄、酸化銅(II)などを用いることが好ましい。これらの正極活物質は電気伝導性に乏しいため、炭素などの導電助剤とバインダーとが正極5に添加される。これらの正極材料を造粒して顆粒にしたものを圧縮成形しペレットにすることにより、正極5として用いることができる。また、これらの材料を溶媒に分散させスラリーとし、アルミニウム等の金属箔に塗布したものを正極5として用いることができる。
【0054】
導電助剤としては、グラファイトや、アセチレンブラック、ケッチェンブラックなどを用いることができる。また、バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース(CMC)などを用いることができる。
【0055】
また、正極も放電すると膨らむ場合がある。図1に示すリチウム一次電池の構成において、正極活物質に二酸化マンガンを用いた場合と酸化銅(II)を用いた場合とで比較を行った。電池を作製し完全放電した後、透過X線により正極を観察したところ、二酸化マンガンを用いた電池は図3に示すような、ほとんど正極の膨らみがない構造が観察された。これに対し、酸化銅(II)を使った電池では、図6に示すような、正極が激しく膨張する構造が観察された。このように正極が膨張しやすい正極活物質を用いると、放電してもLiSi層12の密度が低くなりにくいため、内部抵抗を低くする効果がある。
【0056】
(セパレータ)
セパレータ4は、大きなイオン透過度を有し、機械的強度を有する絶縁膜を用いることができる。例えば、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチエン、ガラス繊維、セルロース、ポリオレフィンなどがある。
【0057】
(ガスケット)
ガスケット3は、図1に示すように、正極缶2の内周面に沿って円環状に形成され、その環状溝の内部に負極缶1の端部が配置される。ガスケット3の材質としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、液晶ポリマー、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルニトリル樹脂(PEN)、ポリエーテルケトン樹脂(PEK)、ポリアリレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フッ素樹脂等の樹脂を用いることができる。
【0058】
(非水電解質)
非水電解質としては、例えばアセトニトリル、ジエチルエーテル、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボーネート、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、γ−ブチロラクトンなどを1種、または複数混合した非水溶媒に、過塩素酸リチウム(LiClO4)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)、六フッ化砒素リチウム(LiAsF6)、トリフルオロメタスルホン酸リチウム(LiCF3SO3)、ビストリフルオロメチルスルホニルイミドリチウム[LiN(CF3SO22]などの支持塩を溶解した非水電解液を用いることができる。また、液体、ゲル状、イオン液体、固体電解質など、実質的に水を含まず従来から知られているものを非水電解質として用いることができる。
【0059】
(電池の製造)
次に、本実施形態におけるリチウム一次電池の製造方法について示す。図1に示すコイン形リチウム一次電池は、正極缶2上に正極5を形成する工程と、負極缶1上に負極10を形成する工程と、セパレータ4を正極5上に載置し、セパレータ4、正極5、負極10に電解液を注液し含浸させる工程と、正極缶2と負極缶1とをガスケット3を介してカシメ封口により電池を組み立てる工程とにより製造することができる。
【0060】
ここで本実施形態において、負極10を形成する工程は、負極缶1上にLi層11を形成する工程と、Li層11上にSi層13を形成する工程と、電池内部でLiとSiとを合金化させLiSi層12を形成する工程とからなる。このように電池内部でLiとSiとを合金化させることにより、組立直後においてLiSi層12は電池内部で圧縮され膨張が抑制される。また、図3に示すように、放電末期においては、Li層11が減少する分だけLiSi層12が膨張し、正極と負極の間の実質的な隙間が発生しなくなる。これにより、放電末期においても内部抵抗上昇を抑制することができる。
この他に、LiとSiとの合金を予め作製し、これをLi層11の上に載置した後、電池を組み立てることにより、図1に示すLiSi層12を形成することができる。
【0061】
また、本実施形態におけるリチウム一次電池において、正極活物質に酸化銅(II)を用いる場合には、電池作製の際に、正極を還元させることにより所定の公称電圧で使用される。このリチウム一次電池では、組立て後の開路電圧が約3Vあるのに対し、JISC8500に規定されている公称電圧が1.5Vのため、電圧を下げる必要がある。電圧を下げる方法としては例えば、電池組立後に外部回路を通じて予備放電し負極リチウムの一部で正極を還元させる方法や、電池組立の際に、あらかじめ正極にリチウムを接触させ正極の一部を還元させておく方法がある。これらの方法で所定の電圧とすることができる。
【0062】
(電池形状)
本実施形態では、コイン(ボタン)形のリチウム一次電池を例に挙げ説明した。コイン(ボタン)形のリチウム一次電池では、正極缶2と負極缶1とをカシメ封口することにより、LiSi層12の膨張を抑制し高密度なLiSi層を形成することができる。
【0063】
また、本実施形態はLiSi層12に力をかけ膨張を抑制することができれば他の電池形状を用いることができる。電池形状としては例えば、アルミラミネート形、角形、円筒型などが挙げられる。
【0064】
アルミラミネート形は、金属箔に電極材料を塗布したものを正極、負極とし、間にセパレータを挟み積層電極とし、これらをアルミラミネート製の袋にいれ、袋内を減圧することで、正極、負極、セパレータを潰す力を得ることができる。また、角形は積層電極の厚みを外装缶の内径より大きくすることで力を得ることができる。円筒型は金属箔に電極材料を塗布したものを正極、負極とし、間にセパレータを挟んだものを、巻くことで力を得ることができる。このとき電極形状は、電池形状に合わせて、ペレット電極、巻回電極、積層電極など種々の形状のものを用いることができる。
【0065】
このようにどのような形状の電池も、内部抵抗低減のため、正負極電極は外装などの力を利用して正極は負極側へ、負極は正極側へ力をかけることができる。このため、負極のリチウムが放電によって減少しても、LiSi層の密度が低くなるだけで、実質的に正極と負極との隙間が生じず、低い内部抵抗のリチウム一次電池を作製できる。
【0066】
次に、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
実施例1においては、図1に示すようなコイン型リチウム一次電池を作製した。正極は酸化銅(II)とグラファイトとカルボキシメチルセルロースを混合、造粒し顆粒としたものを圧縮成型によりペレット状とし、乾燥した後ステンレス製の正極缶の上に置いた。
【0067】
負極はLi箔を打ち抜きLi層とし、ステンレス製の負極缶の上に貼り付けた。またSiは、純度96%以上のものを用いた。このSiの粒子径をレーザ回折・散乱法で測定したところ、D50=11.6μmであった。Si層は、Si95重量%とカルボキシメチルセルロース5重量%を混合したものを圧縮成型し、厚さ100μmのペレット状のSi層を得、乾燥した後Li層の上に貼り付けた。このとき、負極におけるLiとSiとのモル比はLi/Si=17とした。
【0068】
電解液はエチレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンの混合溶媒にLiPF6を溶解したものを用いた。セパレータはポリオレフィン微多孔膜を用いた。そしてセパレータと正極とSi層に電解液を含浸させ、負極缶の上から力をかけ、ポリプロピレン製のガスケットとステンレス製の正極缶でカシメ封口し、外径6.8mm、厚み2.6mmのコイン型リチウム一次電池を作製した。
【0069】
電池をカシメ封口してから7日経過した後、電池の厚みを測定したところ、2.7mmとなっており、電池封口直後より0.1mm膨らんでいた。これはLiとSiの反応により負極が膨張したことによる。そのため、再度負極缶の上から力をかけ、カシメ封口を行い、電池厚みを2.6mmに戻した。その後、電池を分解しLiSi層の厚みを測定した。電池の内部抵抗の測定は、各放電深度まで放電した後、−10℃中で行った。測定方法はIEC60086−3に規定されている通り、開路電圧と、2kΩの負荷抵抗を7.8mS接続した後の閉路電圧との差から求めた。
【0070】
(比較例1)
比較のために、図4のように負極をLiだけで構成し、その他は実施例1と同様の電池を作製した。
(比較例2)
比較のために、負極をLiの上に厚み100μmのAl箔に変えた他は実施例1と同様の電池を作製した。
(比較例3)
比較のために、負極をLiの上にグラファイト95重量%とカルボキシメチルセルロース5重量%を混合したものを圧縮成型し、厚さ100μmのグラファイト層に変えた他は実施例1と同様の電池を作製した。
(比較例4)
比較のために、負極をLiの上にSiO95重量%とカルボキシメチルセルロース5重量%を混合したものを圧縮成型し、厚さ100μmのSiO層に変えた他は実施例1と同様の電池を作製した。
(比較例5)
比較のために、負極をLiの上にLi4Ti51295重量%とカルボキシメチルセルロース5重量%を混合したものを圧縮成型し、厚さ100μmのLi4Ti512層に変えた他は実施例1と同様の電池を作製した。
【0071】
実施例1と比較例1〜5の測定結果を表1と図9に示す。表1に示すように、これらの中でSiを使った層(実施例1)だけが激しく膨張し、電池膨らみが発生した。また未放電時における内部抵抗は実施例1で最も低くなった。さらに図9に示すように、実施例1は各放電深度で内部抵抗が最も低かった。放電後、実施例1の電池を分解したところ図6に示すように正極が膨張し、Liが減少していた。
【0072】
【表1】
【0073】
(実施例2)
実施例2においては、LiとSiの最適な組成比を調べた。LiとSiの量を表2に示した量とした他は、実施例1と同じ条件で実施例2−1乃至2−7の電池を作製した。また、負極の厚みは全て同じになるように調整した。電池封口後と、封口から7日後の電池厚みを測定し、その差を電池膨らみとした。そして実施例1と同様に、負極缶の上から力をかけ、再度カシメ封口を行い、電池厚みを2.6mmに戻した。
【0074】
これら電池を作製後に分解したところ、実施例2−7(Li/Si=4.4)ではLi層はなくなり、すべてLiSi層となっていた。一方2−1乃至2−6の各実施例(Li/Si>4.4)では、Li層とLiSi層の2層が観察された。電池の膨らみは、Li/Siが小さいほど膨らんでいた。すなわちLiSi層が厚いほど、負極の膨張が大きいことがわかった。
【0075】
作製した電池の内部抵抗は実施例1と同様に−10℃中で測定した。各実施例における放電時における放電容量に対する内部抵抗の変化を図10に示す。実施例2−4(Li/Si=15.0)では、高容量で内部抵抗が低かった。また、よりLi/Siが大きい、すなわちLiSi層が薄い実施例2−1乃至2−3では内部抵抗が大きくなった。これは正極と負極の隙間を埋めるLiSi層の量が不十分であることによる。一方、よりLi/Siが小さい、すなわちLiSi層が厚い実施例2−5及び2−6では、図10に示すように、容量が小さかった。これは正極と負極の隙間を埋めるLiSi層の量は十分であるが、Siの不可逆容量増加、Li量不足のため、容量が低下してしまうことによる。
【0076】
【表2】
【0077】
(実施例3)
実施例3においては、電池の負極に用いるSiの粒子径の大きさを変え、電池の内部抵抗が変化するかどうかを調べた。
原料のSi粉末は、粒度未調整の粉体(実施例3−1)と、この実施例3−1のSi粉末をボールミルで粉砕したものを用いた(実施例3−2及び実施例3−3)。実施例3−1〜3−3のSi粉末の粒径をレーザ回折・散乱法により測定した粒度分布を図11に示す。図11(a)、図11(b)、図11(c)がそれぞれ、実施例3−1、3−2、3−3における粒度分布に相当する。
【0078】
図11(a)、図11(b)、図11(c)において、中位径(D50)はそれぞれ、D50=11.6μm、D50=1.6μm、及び、D50=0.2μmであった。また、2μm以上の粒径の割合はそれぞれ92%、60%、0%であった。
【0079】
このSi粉末に、樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えて混合することによりスラリーを得た。そして、このスラリーを電池の負極のLi層の上に滴下し、乾燥させSi層を作製した。このとき負極のLiとSiのモル比はLi/Si=15とした。他は実施例1と同様に作製することにより、LiとSiとの合金化によりLiSi層が形成された、実施例3−1〜3−3のSi粉末を原料とするコイン型リチウム一次電池を作製した。このリチウム一次電池について、実施例1と同様に電池膨らみと−10℃中での内部抵抗を測定した。結果を表3と図12に示す。
【0080】
【表3】
【0081】
実施例3−1〜3−3について、Siの各粒子径(D50)における封口後の電池膨らみ及び未放電時の内部抵抗を表3に示す。また、放電時における放電容量に対する内部抵抗の変化を図12に示す。これらの表3及び図12から、出発原料であるSiの粒子径が大きいほど電池の内部抵抗が小さく、負極膨張による電池膨らみも大きいことがわかった。特に実施例3−1では、電池の内部抵抗は他の実施例に比べて顕著に小さく、一方で電池膨らみもみられた。
【0082】
ここで、実施例3−1〜3−3の各実施例に用いるスラリーを乾燥したもの(合金化前のSi粒子)と、各実施例の電池を分解して得られた合金化後のLixSi粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)の観察像を図13に示す。この図13では、実施例3−1のSEM観察像を倍率1000倍で観察し、実施例3−2及び3−3のSEM観察像を倍率10000倍で観察した写真を縮小して表示している。以下、SEMの観察像で得られた個々のSi粒子及びLixSi粒子の最大寸法を粒子径と見做し説明する。
【0083】
実施例3−1(SiのD50=11.6μm条件)では、合金化前のSi粒子が観察されている。中には数十μmもの大きいSi粒子も存在している。これは粉砕前のSiであるためである。このSi粒子を合金化させると、2μmを超える程度の大きさのLixSi粒子がほとんどを占めていた。これは、合金化後に粒子が割れたためである。
【0084】
一方、実施例3−2(SiのD50=1.6μm条件)でも、合金化前のSi粒子は合金化後に割れることにより、ほとんどが1μm程度の粒子径のLixSi粒子となり、若干小さくなっていた。しかしながら、実施例3−1よりは変化の程度は小さかった。
さらに、実施例3−3(SiのD50=0.2μm条件)では、合金化前のSi粒子と合金化後のLixSi粒子とで、粒子径の変化が見られなかった。
【0085】
また表3に示すように、実施例3−1(SiのD50=11.6μm条件)の電池は、封口後電池が膨らみ、負極が膨張していた。一方、実施例3−2(SiのD50=1.6μm条件)と実施例3−3(SiのD50=0.2μm条件)の電池では封口後の膨らみがなく負極の膨張も少なかった。
上記の結果から、Si粒子が大きいほど合金化によりSi層の膨張が大きくなり、低い内部抵抗の電池を得ることができる。
【符号の説明】
【0086】
1…負極缶
2…正極缶
3…ガスケット
4…セパレータ
5…正極
10…負極
11…Li層
12…LiSi層
13…Si層
14…第3層
20…隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13