(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記他方の分割ケースが、前記ばね部材に対して軸方向に前記軸受箱の内部側に配置され、前記支持軸部及び前記ねじ部の螺合解除が、前記他方の分割ケース側からのみ実施可能になっている請求項2に記載の軸受予圧機構。
【背景技術】
【0002】
従来、円すいころ軸受やアンギュラ玉軸受といった転がり軸受においては、予圧によってスミアリングを防止することが行われている。例えば、鉄鋼用圧延機ロールのスラスト荷重を受ける複列円すいころ軸受は、軸受箱内に設置され、シールにより、異物噛み込みを起因とする突発的な損傷を防ぐと共に、適正な予圧により、転動体の滑りを抑えてスミアリングを防止した状態で使用される。
【0003】
一般的な軸受予圧機構は、軸受箱本体に軌道輪を嵌合し、軸受箱本体に蓋を締結する際、蓋が軌道輪を軸方向に押すことにより、軸方向の予圧を付与するようになっている。この軸受予圧機構は、蓋の締め込み量の調整が難しく、過大予圧又は予圧抜けを発生させる不安がある。
【0004】
そこで、蓋の締め込み量の調整を不要にして適切な予圧を容易に実現可能とするため、ばね部材を軌道輪と間座又は軸受箱との間に挿入し、この間で圧縮されたばね部材が予圧力(すなわち予圧に必要な軸方向の力)を発生する軸受予圧機構が提案されている(特許文献1)。
【0005】
特許文献1は、ばね部材を差し込む穴が形成された間座を開示している。ばね部材を穴に留める抜け止め手段は具備しておらず、間座と軌道輪又は軸受箱とが軸方向に突き合わされることによって、ばね部材が、間座と軌道輪又は軸受箱内に挟まれ、適正な予圧力を付与可能な所定の圧縮状態となる。この間座を用いた軸受予圧機構は、ばね部材を穴の内面で所定の姿勢に維持すると共に汚染から防護することが可能である。
【0006】
また、特許文献1は、ばね部材と、この弾性反発力を受けるピストンとを差し込む穴が形成され、穴内周に形成された溝に止め輪を嵌め込み可能な軌道輪も開示している。ピストンを軸受箱又は間座に軸方向に突き当てることにより、ばね部材が所定の圧縮状態になる。この軌道輪を用いた軸受予圧機構は、止め輪によってばね部材等を抜け止め可能なため、軸受箱内に設置する際にばね部材等の脱落が起こらず、取扱い性に優れる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の軌道輪を用いた軸受予圧機構は、穴内周の輪溝から止め輪を外そうとすると、ばね部材の弾性反発で止め輪やピストン等が飛び出すものであり、ばね部材の交換が考慮されているものでない。このため、使用中に機能劣化したばね部材の交換や洗浄が困難で、機能劣化したばね部材が使用され続けて適正予圧が得られなくなる恐れがある。
【0009】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、軸受箱内に設置する際の取扱い性及びばね部材の交換作業性を両立させた軸受予圧機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、この発明は、軸受箱内に設置され、ばね部材が予圧力を発生する軸受予圧機構において、前記ばね部材を軸方向に圧縮可能な状態で挟む第1の分割ケース及び第2の分割ケースと、前記第1の分割ケース及び前記第2の分割ケースのうち、少なくとも片方の分割ケースに対して軸方向にスライド自在な貫通状態に通され、当該両分割ケース間に亘る支持軸部と、前記支持軸部と螺合され、前記両分割ケースの分離を軸方向に制限するねじ部と、を備える構成を採用したものである。
上記構成によれば、第1の分割ケースと第2の分割ケースによって、ばね部材を圧縮可能な状態に挟み、支持軸部とねじ部とを螺合し、ばね部材の挟持を保てるように両分割ケースを繋ぎ、ユニットに組み立てることができる。ユニットの状態の軸受予圧機構を軸受箱内に設置する際、ばね部材の脱落が発生せず、取扱い性に優れる。
また、ユニットの状態の軸受予圧機構は、少なくとも片方の分割ケースに対して支持軸部が軸方向にスライド自在に貫通しているものなので、両分割ケース間の間隔を狭めた状態に設置することにより、ばね部材を軸方向に圧縮し、適切な予圧力を発生させることも可能である。
また、機能劣化したばね部材を交換するときは、ばね部材が圧縮前の状態まで弾性回復した状態で前述の螺合を解除するねじ回し作業を行って両分割ケースを分離することができ、ばね部材の交換作業性にも優れる。
【0011】
例えば、好ましい態様として、前記支持軸部又は前記ねじ部が、前記両分割ケースのうちの一方の分割ケースに一体に設けられており、前記一体の対象と反対の前記ねじ部又は前記支持軸部が、前記一方の分割ケースと反対の他方の分割ケースに軸方向に係止可能に設けられていることが挙げられる。
このようにすると、一方の分割ケースと一体の支持軸部又はねじ部と、他方の分割ケースに軸方向に係止可能なねじ部又は支持軸部との螺合により、両分割ケースの分離を制限することができる。支持軸部又はねじ部の一方が分割ケースと一体なので、軸受予圧機構の部品数を抑え、ユニット化作業の手間を減らすことができる。
【0012】
より好ましくは、前記他方の分割ケースが、前記一方の分割ケースに対して軸方向に前記軸受箱の内部側に配置され、前記支持軸部及び前記ねじ部の螺合解除が、前記他方の分割ケース側からのみ実施可能になっているとよい。
前述のように、一方の分割ケースと支持軸部又はねじ部が一体の場合、他方の分割ケース側からのみ螺合解除可能な支持軸部及びねじ部を採用することが可能である。さらに、一方の分割ケースに対して軸受箱の内部側に配置される他方の分割ケースを採用すると、軸受箱内に設置したまま他方の分割ケース側からねじ回し作業を行えない。このため、ユニットの状態で軸受箱から取り出してからの螺合解除を作業者に強制し、機能劣化したばね部材の脱落を防止することができる。
【0013】
また、好ましい態様として、前記ばね部材がコイルばねからなり、前記支持軸部が前記ばね部材の内側に通されていることが挙げられる。
このようにすると、ばね部材と支持軸部の配置空間が共通化されるので、省スペース化が可能となる。
【0014】
また、好ましい態様として、前記第1の分割ケース又は前記第2の分割ケースに設けられ、シールに嵌合するシール取付け部をさらに備えることが挙げられる。
このようにすると、分割ケースを利用してシールを取り付けることができ、シール機能を要求される使用環境に対応することが可能となる。
【0015】
前記シールとしてオイルシールを採用することが好ましい。接触式シールであるオイルシールは、非接触式であるラビリンスシールよりも優れた密封性を得ることができ、鉄鋼用圧延機ロールの軸支持用途のような過酷な環境に好適なものとなる。ここで、オイルシールのリップが回転側の相手部材に滑り接触する際の接線力は、シール取付け部を有する分割ケースを回転させる原因になり得る。当該分割ケースと静止部材との接続によって当該分割ケースの回転を制限しておけば、支持軸部の損傷を防止することができる。
【0016】
例えば、前記シール取付け部を有する分割ケースに打ち込まれるノックピンをさらに備え、前記シールがオイルシールからなり、前記ノックピンが、前記軸受箱内で静止する他部材に周方向に係止可能になっていることが挙げられる。
このようにすると、分割ケースに打ち込まれたノックピン及び他部材間の係止によって、オイルシールからの接線力による当該分割ケースの回転を制限することができる。
【0017】
他例として、前記シール取付け部を有する分割ケースに一体に設けられ、軸方向に突き出た突起部をさらに備え、前記シールがオイルシールからなり、前記突起部が、前記軸受箱内で静止する他部材に周方向に係止可能になっていることが挙げられる。
このようにすると、ノックピンを使用せずとも、分割ケースに設けられた突起部及び他部材間の係止によって、オイルシールからの接線力による当該分割ケースの回転を制限することができる。
【0018】
さらに他例として、前記シールがオイルシールからなり、前記支持軸部が、前記軸受箱内で静止する他部材に周方向に係止可能になっていることが挙げられる。
このようにすると、ノックピンを使用せずとも、支持軸部及び他部材間の係止によって、オイルシールからの接線力による当該分割ケースの回転を制限することができる。
【0019】
2個の単列軌道輪及び1個の複列軌道輪を有する転がり軸受と、前記単列軌道輪に予圧力を付与する本発明に係る軸受予圧機構とを備える軸支持装置とすることにより、転がり軸受に適切な予圧力を付与することができる。
【発明の効果】
【0020】
上述のように、この発明に係る軸受予圧機構は、上記構成の採用により、ばね部材を両分割ケースによって挟みユニットの状態で軸受箱内に設置可能であり、そのユニットの支持軸部及びねじ部間の螺合を解除するねじ回し作業で当該両分割ケースを分離可能な状態にするため、軸受箱内に設置する際の取扱い性及びばね部材の交換作業性を両立させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の第1実施形態に係る軸支持装置を添付図面の
図1、
図2に基づいて説明する。
図1に示す第1実施形態は、転がり軸受1と、一対の軸受予圧機構2とを備え、軸受箱3内に設置されている。第1実施形態は、軸4をラジアル方向及びスラスト方向に支持し、主にスラスト荷重受け用のものを例示している。以下、転がり軸受1の軸受中心軸に沿った方向のことを単に「軸方向」といい、その中心軸に直角な方向のことを単に「径方向」といい、その中心軸周りの円周方向のことを単に「周方向」という。
【0023】
転がり軸受1は、2個の単列軌道輪5,5と、1個の複列軌道輪6と、2列の転動体7,7とを有する複列転がり軸受になっている。単列軌道輪5は、単列の軌道面を有する環状体になっている。複列軌道輪6は、複列の軌道面を有する環状体になっている。
【0024】
軸受箱3は、転がり軸受1及び一対の軸受予圧機構2を内包するハウジング8と、ハウジング8に着脱可能な蓋9と、蓋9及びハウジング8の締結に用いる雄ねじ部品10とを有する。ハウジング8は、転がり軸受1及び全ての軸受予圧機構2,2を径方向に保持する。ハウジング8に蓋9を締結すると、軸受箱3は、転がり軸受1及び一対の軸受予圧機構を軸方向に保持する状態になる。
【0025】
軸4は、主にスラスト荷重を転がり軸受1に負荷する回転軸になっている。このような軸4として、鉄鋼用圧延機ロールの回転軸が挙げられる。
【0026】
単列軌道輪5は、内周に軌道面を有する外輪になっている。単列軌道輪5は、ハウジング8の内周に嵌合されている。単列軌道輪5は、転がり軸受1の運転中、実質的な軸方向変位、径方向変位及び周方向の回転を生じない。複列軌道輪6は、外周に2個の軌道面を有する内輪になっている。複列軌道輪6は、軸4の外周に嵌合されている。複列軌道輪6は、軸4と一体に回転する。転動体7は、単列軌道輪5と複列軌道輪6間に介在する円すいころになっている。
【0027】
軸受予圧機構2は、単列軌道輪5に予圧力を付与するユニットになっている。転がり軸受1に対して図中左側に配置された軸受予圧機構2は、軸方向に予圧力を発生し、その予圧力を図中左側の単列軌道輪5に図中左側から右側に向かって付与する。同じく図中右側に配置された軸受予圧機構2は、予圧力を図中右側の単列軌道輪5に図中右側から左側に向かって軸方向に付与する。なお、軸受箱内に設置する軸受予圧機構の数は、2個に限定されるものでなく、1個でもよいし、任意の複数個にしてもよい。
【0028】
軸受予圧機構2は、軸方向に分かれた第1の分割ケース11及び第2の分割ケース12を備える。第1の分割ケース11は、一体に設けられた環状体になっている。第2の分割ケース12は、第1の分割ケース11に軸方向に突き合せ可能な環状体になっている。第1の分割ケース11及び第2の分割ケース12は、ハウジング8の内周に嵌合されている。第1の分割ケース11と、軸受箱3の内面とが軸方向に突き当てられている。第2の分割ケース12と、単列軌道輪5の側面とが軸方向に突き当てられている。なお、これら分割ケース11,12が転がり軸受1や軸受箱3の内面と直接に突き当てられている必要性はない。軸受予圧機構2が発生する予圧力を転がり軸受1に伝達する経路を構築可能な限り、分割ケース11,12と、単列軌道輪5,軸受箱3との間に間座のような剛性体を介在させることも可能である。
【0029】
第1の分割ケース11は、第2の分割ケース12に軸方向に対向する穴部13を有する。穴部13には、ばね部材14が軸方向から差し込まれる。穴部13は、差し込まれたばね部材14を軸方向に向けた状態に保持する。
【0030】
ばね部材14は、コイルばねからなる。圧縮荷重を受けない状態(自然長)のばね部材14は、穴部13から第2の分割ケース12側へ軸方向に突出する長さに設定されている。
【0031】
第2の分割ケース12は、第1の分割ケース11の穴部13に差し込まれたばね部材14を軸方向に受ける。両分割ケース11,12は、自然長のばね部材14を軸方向に挟むとき、軸方向に離れている。両分割ケース11,12は、互いの対向面で軸方向に突き合うまで、穴部13に差し込まれたばね部材14を圧縮することができる。なお、ばね部材14が穴部13から突出する必要性はなく、穴部13に完全に収まる自然長に設定し、第2の分割ケースに穴部13へ入り込むばね圧縮用の凸部を設けることも可能である。また、穴部13は、第2の分割ケース側に設けることも可能である。
【0032】
軸受予圧機構2は、両分割ケース11,12を繋ぐ接続手段を備える。この接続手段は、第1の分割ケース11に一体に設けられたねじ部15と、第2の分割ケース12に対して軸方向にスライド自在な貫通状態に通され、両分割ケース11,12間に亘る支持軸部16とを有する。
【0033】
支持軸部16は、軸方向に第2の分割ケース12を貫いた貫通口部17に通され、ねじ部15と螺合される雄ねじ部品になっている。ねじ部15は、第2の分割ケース12側からのみ支持軸部16を螺合可能な雌ねじ部になっている。
【0034】
貫通口部17の内周は、ねじ部15と同心の段付き穴状に形成されている。貫通口部17の内径は、転がり軸受1側で大径、第1の分割ケース11側で小径になっている。支持軸部16には、ねじ径よりも大径な係止部分18が設けられている。係止部分18は、貫通口部17の段付け面19に軸方向に係止可能なボルト頭の端面として、支持軸部16に一体に設けられている。
【0035】
支持軸部16は、第2の分割ケース12から第1の分割ケース11の方に向かって貫通口部17に差し込まれてから、ねじ部15にねじ込まれる。支持軸部16は、ねじ部15と螺合された状態で第1の分割ケース11を突き抜けず、第1の分割ケース11側から支持軸部16にトルクを付与可能な部位をもたない。支持軸部16は、係止部分18と一体のボルト頭にねじ回し具を接続し得る第2の分割ケース12側からのみ、ねじ部15に対する螺合や螺合解除をするためのねじ回し作業を実施可能である。なお、貫通口部17と支持軸部16との間のねじ径方向の隙間が狭く設定して省スペース化を図るため、ねじ回し作業は、ヘキサゴンレンチで行うようになっている。
【0036】
図2に示すように、支持軸部16と螺合されたねじ部15は、第1の分割ケース11に支持軸部16を固定する。このため、ねじ部15は、軸方向一方側(図中右側)に離れる両分割ケース11,12の分離を制限することができる。同時に、ねじ部15と螺合された支持軸部16に一体の係止部分18は、第2の分割ケース12の段付け面19に係止可能になっている。このため、支持軸部16に設けられた係止部分18は、ねじ部15と反対の軸方向他方側(図中左側)に離れる両分割ケース11,12の分離を制限することができる。このように、接続手段は、ばね部材14の挟持を保つように両分割ケース11,12の分離を制限し、かつ支持軸部16に対する第2の分割ケース12の軸方向変位を前述の制限範囲内で許した状態に両分割ケース11,12を繋ぐ。これにより、両分割ケース11,12及びばね部材14がユニットに組み立てられた軸受予圧機構2となる。なお、支持軸部16は、係止部分18とねじ部15との間に円筒部を有し、その円筒部と貫通口部17との滑り接触により、ユニットの状態のときに第2の分割ケース12を軸方向に案内する。
【0037】
そのユニットの状態では、係止部分18が第2の分割ケース12の段付け面19に係止するとき、両分割ケース11,12に挟持されたばね部材14が自然長になる。このような係止位置の設定は、ユニットの状態でばね部材14の完全な弾性回復を許すためである。ばね部材14が圧縮された状態で係止部分18の係止が発生する設定を採用することも可能だが、支持軸部16とねじ部15の螺合や螺合解除作業の際、第1の分割ケース11や第2の分割ケース12が、ばね部材14の弾性反発によって跳ね飛ばされる恐れがない点で、自然長での係止発生が好ましい。
【0038】
ねじ部、支持軸部の数、形状、周方向配置等は、前述のように両分割ケースを繋げる限り、適宜に設定すればよい。例えば、ねじ部及び支持軸部は、周方向等配に複数設けられる。また、係止部分をナットで構成し、支持軸部と螺合することによって支持軸部に設けることも可能である。また、ねじ部をナットで構成し、第1の分割ケースをもスライド自在に貫通する支持軸部の突出部分に螺合することも可能である。また、第1の分割ケース又は第2の分割ケースに支持軸部を一体に設け、ねじ部を支持軸部の雄ねじ又は雌ねじに螺合可能なナット又はボルトにすることも可能である。
【0039】
第2の分割ケース12は、シール20に嵌合するシール取付け部21を有する。シール取付け部21は、シール20を径方向に支持する。
【0040】
シール20は、オイルシールからなる。オイルシールは、変形可能な部分と、通常、それに接続する金属性の保持部とをもち、リップ先端によって与えられる半径方向の内向き又は外向きの締付け力に基づいて、流体又はグリースの漏れを防止するものである。
【0041】
シール20は、シール取付け部21に対して周方向に回転しないように取り付けられる。このため、シール20のリップが複列軌道輪6に滑り接触する際の接線力は、シール取付け部21から分割ケース12に作用する。
【0042】
なお、シール取付け部は、第1の分割ケースに設けることも可能である。例えば、両分割ケースのうち、リップの接触先と距離的に近い方の分割ケースに設けるとよい。
【0043】
軸受予圧機構2は、軸受箱3内で静止する他部材と、シール取付け部21を有する第2の分割ケース12とを接続し、当該他部材によって前述の接線力を受ける回り止め手段を備える。
【0044】
この回り止め手段は、第2の分割ケース12と、単列軌道輪5との間に亘って軸方向に連通するピン穴部22と、ピン穴部22に周方向に係止するノックピン23とを有する。ノックピン23は、ピン穴部22の第2の分割ケース12側の部分に打ち込まれるテーパーピンになっている。打ち込まれたノックピン23は、第2の分割ケース12から軸方向に突出しており、前述のユニットをハウジング8に嵌合する設置作業の際、第2の分割ケース12が単列軌道輪5に軸方向に突き当てられることに伴い、ピン穴部22の単列軌道輪5側の部分に挿入される。挿入されたノックピン23は、単列軌道輪5に周方向に係止することができる。ここで、単列軌道輪5は、軸受箱3に対して実質的な軸方向変位、径方向変位及び周方向の回転を生じないものなので、前述の他部材に相当するものである。
【0045】
前述のシール20からの接線力が第2の分割ケース12に伝わると、ノックピン23が単列軌道輪5(他部材)に対して周方向に速やかに係止する。これにより、単列軌道輪5が、前述の接線力を速やかに受けるため、第2の分割ケース12が前述の接線力によって回転することは実質的に生じない(あってもノックピン23とピン穴部22の嵌め合い隙間程度)。すなわち、シール20の接線力によって支持軸部16が両分割ケース11、12間で周方向へ捻られることは、実質的に発生せず、支持軸部16の損傷に至らない。
【0046】
なお、ピン穴部、ノックピンの数、形状、周方向配置等は、前述のようにシール取付け部を有する分割ケースの回り止めによって支持軸部に対する接線力の負荷を防止可能な限り、適宜に設定すればよい。例えば、ノックピン、ピン穴部は、周方向等配に複数設けられる。また、ノックピンは、単列軌道輪に打ち込むことも可能である。また、軸受箱の蓋は、ハウジングへの締め付けによって軸受箱内で静止する部材となるので、他部材として利用することが可能である。例えば、シール取付け部を第1の分割ケースに設ける場合、蓋にノックピンを係止すればよい。
【0047】
シール取付け部21を有する第2の分割ケース12と、ハウジング8の内周との間には、異物や液体の通過を防止するためのOリング24が設けられている。
【0048】
第1実施形態は、上述のようなものであり、第1の分割ケース11と第2の分割ケース12によって、ばね部材14を圧縮可能な状態に挟み、支持軸部16とねじ部15とを螺合し、ばね部材14の挟持を保てるように両分割ケース11,12を繋ぎ、軸受予圧機構2をユニットに組み立てることができる。このため、ユニット状態で軸受予圧機構2を
図2に示すように軸受箱3のハウジング8内へ設置することが可能であり、この際、ばね部材14の脱落が発生しない。したがって、第1実施形態は、軸受予圧機構2を軸受箱3内に設置する際の取扱い性に優れる。
【0049】
さらに、
図1に示すように軸受箱3の蓋9がハウジング8に締め付けられることにより、図中右側の第1の分割ケース11は、蓋9によって
図2の状態から
図1の状態まで軸方向に軸受箱3の内部側へ押し込まれる。その結果、軸受箱3は、図中左側の軸受予圧機構2の第1の分割ケース11とハウジング8の肩との間、同側の軸受予圧機構2の第2の分割ケース12と図中左側の単列軌道輪5との間、図中右側の軸受予圧機構2の第1の分割ケース11と軸受箱3の蓋9との間、同側の軸受予圧機構2の第2の分割ケース13と図中右側の単列軌道輪5との間の各間において軸方向に接触を強制した状態に保持する。
【0050】
ここで、蓋9に押し込まれる第1の分割ケース11は、ねじ部15で固定された支持軸部16と共に、軸方向に軸受箱3の内部側へ変位する。蓋9の軸方向押し込みが進み、やがて単列軌道輪5が軸方向変位を生じなくなると、その単列軌道輪5に突き当る第2の分割ケース12も、軸方向に軸受箱3の内部側へ変位することができなくなる。さらに蓋9の軸方向押し込みが進むと、蓋9に押し込まれる第1の分割ケース11は、第2の分割ケース12(片方の分割ケース)に対して軸方向にスライド自在に貫通している支持軸部16と一体に、
図2の位置から第2の分割ケース12の方へ接近する。この接近に伴い、両分割ケース11,12に挟まれているばね部材14は、
図2の状態から軸方向に圧縮される。最終的に、
図1に示すように両分割ケース11,12が軸方向に突き合わされ、ばね部材14が軸方向に所定に圧縮された状態になってから、蓋9の締め付けが終わる。このように、第1実施形態は、両分割ケース11,12間の間隔を狭めてばね部材14を軸方向に圧縮し、適切な予圧力を発生させて第2の分割ケース12から単列軌道輪5に付与することができる。
【0051】
さらに、機能劣化したばね部材14を交換するとき、蓋9をハウジング8から取り外すと、ばね部材14が
図2の状態まで弾性回復するが、支持軸部16の係止部分18及び第2の分割ケース12間の係止、並びに支持軸部16及びねじ部15の螺合により、軸受予圧機構2はユニットの状態に保たれる。このため、軸受予圧機構2は、ユニット状態のままハウジング8から取り出すことができる。ハウジング8から取り出した後、全ての支持軸部16とねじ部15との螺合を解除するねじ回し作業を行えば、両分割ケース11,12が分離可能な状態になり、ばね部材14を穴部13に抜き差しすることができる。このため、第1実施形態は、ばね部材14の交換作業性にも優れる。
【0052】
また、第1実施形態は、第1の分割ケース11(一方の分割ケース)と一体のねじ部15と、第2の分割ケース12(他方の分割ケース)の段付け面19に係止可能な支持軸部16との螺合により、両分割ケース11,12の分離を制限することができるので、ねじ部をナットで構成した場合に比して、軸受予圧機構2の部品数を抑え、ユニット化作業の手間を減らすことができる。なお、支持軸部を第1の分割ケース又は第2の分割ケースに一体に設けた場合や、ねじ部を第2の分割ケースに一体に設けた場合にも同様の効果を得ることは可能である。
【0053】
また、第1実施形態は、支持軸部16のボルト頭に係止部分18を一体に設けているので、係止部分をナットで構成した場合に比して、軸受予圧機構2の部品数を抑え、ユニット化作業の手間を減らすことができる。
【0054】
また、第1実施形態は、第1の分割ケース11(一方の分割ケース)に一体に設けられたねじ部15のねじ切り方向性、ねじ部15と螺合される支持軸部16に対する第1の分割ケース11側からのねじ回し具の接続不可能性により、第2の分割ケース12(他方の分割ケース)側からのみ支持軸部16及びねじ部15の螺合解除を行うことができる。その第2の分割ケース12(他方の分割ケース)がばね部材14に対して軸方向に軸受箱3の内部側に配置されるので、軸受箱3内に設置したまま第2の分割ケース12(他方の分割ケース)側からねじ回し作業を行えない。このため、第1実施形態は、軸受予圧機構2をユニットの状態で軸受箱3から取り出してからの螺合解除を作業者に強制し、機能劣化したばね部材14の脱落を防止することができる。
【0055】
なお、ねじ部を第2の分割ケースに一体に設け、貫通口部を第1の分割ケースに設けることも可能だが、この場合、蓋を取り外すと、ハウジングに両分割ケースが嵌合されたまま螺合解除のねじ回し作業を実施することが可能となる。そうすると、第1の分割ケースだけをハウジングから取り出してばね部材を交換することも可能となる。第1の分割ケースの単独取り出しの場合、ばね部材の挟持が無くなるから、ばね部材が単に差し込まれているに過ぎない穴部から容易に脱落し得る。一方、第1実施形態は、軸受予圧機構2をユニットのままハウジング8から取り出す他なく、軸受予圧機構2の設置時だけでなく、取り出し時にもばね部材14の脱落を確実に防止可能な点で優れる。
【0056】
また、第1実施形態は、シール20に嵌合するシール取付け部21を第2の分割ケース12に設けているので、分割ケース12を利用してシール20を取り付けることができ、シール機能を要求される使用環境に対応することができる。特に、第1実施形態は、シール20としてオイルシールを採用しているので、ラビリンスシールを採用した場合よりも過酷な環境に好適である。
【0057】
また、第1実施形態は、シール取付け部21を有する第2の分割ケース12に打ち込まれ、両分割ケース11,12に対して静止する単列軌道輪5(他部材)に周方向に係止可能なノックピン23を備えるので、ノックピン23及び単列軌道輪5(他部材)間の係止によって、シール20からの接線力による第2の分割ケース12の回転を制限し、支持軸部16の損傷を防止することができる。
【0058】
第2実施形態を
図3に基づいて説明する。なお、以下では、第1実施形態との相違点を述べるに留める。第2実施形態は、第2の分割ケース30を軸方向に貫通するピン穴部31と、ノックピン32とピン穴部31の内周との間に介在するOリング33とを有する。Oリング33は、ピン穴部31からの異物や液体の通過を防止する。
【0059】
第3実施形態を
図4に基づいて説明する。第4実施形態の第2の分割ケース40は、貫通口部41よりも軸方向に長くハウジング8に嵌合する外径延長部42を有する。ばね部材43は、貫通口部41にも差し込まれている。第1の分割ケース44は、穴部45に差し込まれたばね部材43の内側に位置するところを貫くように設けられたねじ部46を有する。ばね部材43のコイル巻き径は、第1実施形態よりも拡大されている。支持軸部47は、ばね部材43の内側に通され、ねじ部46と螺合されている。貫通口部41の段付け面48と軸方向に対向する箇所には、単列軌道輪49の幅を規定する端面50から軸方向に凹んだ受け部51が設けられている。支持軸部47は、受け部51に軸方向に挿入される係止部分52を有し、第1実施形態のノックピンに代替する部位となっている。外径延長部42は、単列軌道輪49の外周に嵌合されており、第2の分割ケース40及び単列軌道輪49間の偏心を防止する。この偏心防止は、受け部51及び支持軸部47間の負荷を避けるためのものである。
【0060】
第3実施形態は、ばね部材43の内側(すなわち、コイル内径内の空間)に通されている支持軸部47を備えるので、ばね部材43と支持軸部47の配置空間を共通化し、これら配置の省スペース化を図ることができる。
【0061】
また、第3実施形態は、単列軌道輪49の受け部51(他部材)に周方向に係止可能な支持軸部47を備えるので、ノックピンを使用せずとも、支持軸部47及び単列軌道輪49の受け部51(他部材)間の係止によって第2の分割ケース40の回転を制限し、部品数を第1実施形態よりも減らすことができる。
【0062】
第4実施形態を
図5、
図6に基づいて説明する。第4実施形態の第2の分割ケース60は、単列軌道輪61の幅を規定する端面62に軸方向に突き合わされた接続面63と、接続面63から単列軌道輪61側へ軸方向に突き出た突起部64とを有する。単列軌道輪61には、単列軌道輪61の幅を規定する端面62から軸方向に凹んだ受け部65が設けられている。突起部64は、受け部65に軸方向に挿入され、第1実施形態のノックピンに代替する部位となっている。
【0063】
第4実施形態は、第2の分割ケース60に一体に設けられ、単列軌道輪61の受け部65(他部材)に周方向に係止可能な突起部64を備えるので、ノックピンを使用せずとも、第2の分割ケース60の突起部64及び単列軌道輪61の受け部65(他部材)間の係止によって、第2の分割ケース60の回転を制限し、部品数を第1実施形態よりも減らすことができる。
この発明の技術的範囲は、上述の各実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載に基づく技術的思想の範囲内での全ての変更を含むものである。