【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するために成された本発明に係る分光特性測定装置は、
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
b) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
c) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
d) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、直線上に等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
e) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部と、
f) 前記被測定物の測定領域と前記分割光学系の間に配置された、該分割光学系と共通の共役面を有するとともに、該共役面に前記測定点からの測定光を結像する共役面結像光学系と、
g) 前記共役面に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と
を備え、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(1)および式(2)
W=(p×2)/(m+1) ・・・ (1)
D=(p×2)/ m ・・・ (2)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする。
【0022】
また、本発明に係る分光特性測定装置は、
a) 被測定物の測定領域内に位置する複数の測定点からそれぞれ発せられた測定光を第1の像面上に収束させる共役面結像光学系と、
b) 前記第1の像面上に配置された、周期的に並ぶ透光部と遮光部とを有する振幅型回折格子と、
c) 前記振幅型回折格子の透光部を通過した前記測定光を第1の測定光及び第2の測定光に分割する分割光学系と、
d) 前記第1の測定光及び前記第2の測定光の間に連続的な光路長差分布を付与する光路長差付与手段と、
e) 連続的な光路長差分布が付与された前記第1の測定光及び前記第2の測定光を結像面上で干渉させて干渉光を形成する結像光学系と、
f) 前記結像面に配置された前記干渉光の光強度を検出する検出部であって、等間隔で配置された複数の画素を有する干渉光検出部と、
g) 前記干渉光検出部で検出された前記干渉光の光強度に基づき、前記被測定物の測定点のインターフェログラムを求め、このインターフェログラムをフーリエ変換することによりスペクトルを取得する処理部とを備え、
前記干渉光検出部の複数の画素の間隔をp、光学倍率をm、前記振幅型回折格子の透光部の幅をW、隣り合う2つの透光部の中心間距離をDとすると、WおよびDが以下の式(1)および式(2)
W=(p×2)/(m+1) ・・・ (1)
D=(p×2)/ m ・・・ (2)
によりそれぞれ定義されることを特徴とする。
【0023】
例えば、可視光領域のレーザ光源と、該可視光の波長(5×10
-7m)の数倍程度の細長い1本のスリットと、スクリーンを並べて配置し、レーザ光源からの単色光をスリットに通過させると、スリットの幅よりもわずかに広い幅の縞模様の光(干渉縞)がスクリーン上に現れる。これは、単色光がスリットを通過する際に生じる回折により、一部の単色光と残りの単色光が干渉して強め合ったり弱めあったりするからである。
図5(a)はスクリーン上に現れる干渉縞の強度分布とスリットの関係を示す図である。このとき、干渉縞の明るい部分(明点)と暗い部分(暗点)になる回折角θとスリットの幅w、光の波長λとの関係は次の式で表される。
明点の条件:w・sinθ=0,(N+1/2)λ
暗点の条件:w・sinθ=N・λ (Nは自然数)
例えば
図5(b)に示すように、w・sinθ1=λを満たす角度θ1は、光路長差が1波長となる回折角となる。
【0024】
一方、本発明においては、分割光学系と共通の共役面を有するとともに、該共役面に前記測定点からの測定光を結像する共役面結像光学系を設け、前記共役面に振幅型回折格子を配置した。振幅型回折格子とは、周期的に配列された複数の透光部と遮光部を有する光学部品である。透光部は光が通過するものであれば良く、基本的には開口部である。従って、以下では、透光部を開口部として説明する。
共役面に振幅型回折格子を配置したことにより、結像面には振幅型回折格子の開口部を通過した光の像(開口像)が形成される。
図6は、第1測定光と第2測定光の間の位相差が0(rad.)及びπ(rad.)のときの結像面における開口像の強度分布、及び振幅型回折格子の開口と画素の配置を示す図である。開口像の中心から第1暗輪帯までの強度分布が3個の画素で検出されるように該画素を配置すると、第1測定光と第2測定光の間の位相差の変化に伴う強度変化を各画素により検出することができる。ただし、位相差がπのときの第1暗輪帯の輝度値は位相差が0のときの中心部の輝度値よりも低いため、この配置では、位相差の変化に伴う輝度値の変化が中心画素に比べて残り2個の各画素では小さくなる。
【0025】
図7は、結像面に形成される2個の隣接する開口像の第1暗輪帯が重複するように振幅型回折格子の開口部の間隔を設定したときの2個の開口像の強度分布、及びこの強度分布を5個の画素で検出する場合の振幅型回折格子と画素の配置を示しており、
図8はそのときの3個の画素から得られるインターフェログラムを示している。この構成では、中心に位置する画素に両方の開口像の第1暗輪帯がオーバーラップするため、この中心画素の検出値は2個の開口像の第1暗輪帯の強度の和となる。従って、第1暗輪帯が明るく変化したとき(位相差がπのとき)の当該画素の検出輝度値は、その両側の画素が検出するエアリーディスクの輝度値と同等になる。また、
図8に示すように、画素列ごとに位相がπずれたインターフェログラムが得られる。
【0026】
このとき、振幅型回折格子の開口幅をWとすると、結像面上に形成される開口像の幅は2Wになる。これは、開口像の第一暗点を生じる方向θが、sinθ=λ/Wにより求まるからである。すなわち、
図9および
図10に示すように、結像光学系の理論空間解像度dはd=λ/N.A.により決定されるが、一つの開口部から生じる回折光は第一暗点までに多くの光量が存在することから、N.A.≒sinθに相当するとみなすことができる。これを実効的なN.A.と呼ぶことにする。この場合、理論空間解像度d=λ/N.A.≒λ/sinθ=Wとなる。つまり、開口幅Wから生じる回折光によるエアリーディスクの直径は、開口幅Wに等しいとみなすことができる。ところで、コンボリューションの考えに基づけば、物体面上で開口幅Wは、結像面上では開口幅W×光学倍率m+理論空間解像度dとなる。前述のように、理論空間解像度d=開口幅Wであることから、開口像の幅は、開口幅W×(光学倍率m+1)により求めることができる。つまり、光学倍率が1のときの開口像の幅は2Wとなる。
【0027】
なお、無限遠補正光学系の場合、前記レンズのN.A.は対物レンズと結像レンズの2つについて考えなくてはならない。理論空間解像度はどちらか小さい方のN.A.によって決定されることから、前記レンズのN.A.は、対物レンズと結像レンズの2つのN.A.のうち、小さい方の値を用いる。
【0028】
この開口像の幅が隣り合う2画素の間隔(画素ピッチ)になるように、開口幅W、光学倍率mを設定する。例えば、画素ピッチpが30μm、光学倍率mが1倍の場合は、30μm×2=W×(1+1)となり、開口幅Wは画素ピッチ30μmと等しくすれば良い。また、開口部の中心間距離も結像面上では2画素のピッチになることから、開口部の中心間距離=画素ピッチ×2/光学倍率により算出することができる。従って、画素ピッチpが30μmの場合は、開口部の中心間距離= 30μm×2/1=60μmと算出することができる。また、開口部と開口部の間の遮光部の幅は30μmとなる。つまり、画素ピッチが30μmである干渉光検出部を用いる場合には、振幅型回折格子の開口幅Wを30μm、開口部の中心間距離Dを60μmに設定すれば良い。
【0029】
ただし、以上の説明は物理的なレンズN.A.よりも実効的なN.A.の方が小さい場合に当てはまるが、中赤外光のように波長λが長く、実効的なN.A.がレンズN.Aよりも大きい場合には当てはまらない。これについて、
図11を参照して説明する。
【0030】
ここでは、測定波長帯域8μm〜14μmのマイクロボロメーター(画素ピッチ:23.5μm)を干渉光検出部とした場合を例に挙げて説明する。
測定波長帯域の中では最長波長の回折光の第一暗点を生じる方向θが最も大きくなるため、この場合は、波長14μmの光の回折光の実効的なN.A.がレンズのN.A.内に収まらなくてはならない。しかし、例えば、光学倍率1倍、画素ピッチ23.5μmの場合、開口幅Wは23.5μm(D=23.5×2/(1+1)=23.5μm)になる。この開口幅の最長波長の実効的なN.A.を方向θを用いて表すと、
N.A. = n・sinθ (nは屈折率)
となり、大気の屈折率は1、sinθ=14/23.5≒0.60であるため、0.60以上のN.A.を有するレンズを用いれば良いが、場合によっては0.30程度のN.A.のレンズを用いなければならないことがある。
【0031】
逆に、実効的な開口数N.A.を0.60の半分の0.30にするためには、開口幅Wを23.5μmの2倍の47μmにすれば良いが、この場合、結像面上での開口像の幅が、47μm×2=94μmとなってしまい、画素ピッチ23.5μmの4倍(つまり4画素の幅)になってしまう。この場合、例えば、1つの開口像を今までの3画素ではなく、5画素で分割して検出しなくてはならない。しかし、中心画素と位相がπずれた両端の2画素に比べて、さらに最外周に有る2つの画素(図中灰色で示す)は結像強度が極めて弱くなる。そこで、隣接する開口像とのオーバーラップを、今までの1画素ではなく、更に多い2画素に増やすようなレイアウトが必要となる。このようなレイアウトにより、実質、中心画素と両端2画素により結像強度変化を取得することが可能になる。
【0032】
つまり、本発明においては、前記分割光学系を構成する対物レンズの開口数N.A.が実効的な開口数N.A.よりも小さいとき、前記振幅型回折格子の開口部の幅W、該開口部の中心間距離Dは、以下の式(3)および式(4)
W=(p×4)/(m+1) ・・・ (3)
D=(p×3)/ m ・・・ (4)
により規定される値にそれぞれ設定すれば良い。
【0033】
例えば、光学倍率1倍、画素ピッチ23.5μmの場合は、以下のようになる。
開口幅=23.5×4/(1+1)=47μm
開口部中心間距離=23.5×3/1=70.5μm
この開口パターンを持つ振幅型回折格子では、遮光部の幅は23.5μmということになる。