特許第6385290号(P6385290)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6385290-水陸両用車 図000002
  • 特許6385290-水陸両用車 図000003
  • 特許6385290-水陸両用車 図000004
  • 特許6385290-水陸両用車 図000005
  • 特許6385290-水陸両用車 図000006
  • 特許6385290-水陸両用車 図000007
  • 特許6385290-水陸両用車 図000008
  • 特許6385290-水陸両用車 図000009
  • 特許6385290-水陸両用車 図000010
  • 特許6385290-水陸両用車 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385290
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】水陸両用車
(51)【国際特許分類】
   B60F 3/00 20060101AFI20180827BHJP
   B63B 1/40 20060101ALI20180827BHJP
   B63B 1/32 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B60F3/00 B
   B63B1/40 Z
   B63B1/32 Z
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-24556(P2015-24556)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-147549(P2016-147549A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 良昌
(72)【発明者】
【氏名】石川 暁
(72)【発明者】
【氏名】松永 高志
【審査官】 畔津 圭介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−154794(JP,A)
【文献】 実公昭49−34315(JP,Y1)
【文献】 特表2014−522778(JP,A)
【文献】 特開2011−251596(JP,A)
【文献】 特開平9−76992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60F 3/00
B63B 1/32
B63B 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上及び陸上を移動可能な車両本体と、
前記車両本体の下端部に後端部が固定された前部板状部材と、
前記車両本体の後部に前端部が固定された後部板状部材と、
前記車両本体の底面における前記車両本体の両側方に設けられた走行装置と、
前記走行装置の内側面を覆うように前記車両本体の下部に設けられた一対の整流部材と、
を具備することを特徴とする、水陸両用車。
【請求項2】
前記整流部材は、前記走行装置の側面を覆うように設けられた、請求項1に記載の水陸両用車。
【請求項3】
前記整流部材は、前記車両本体の前端部から後端部に向けて延在する、請求項1又は請求項2に記載の水陸両用車。
【請求項4】
前記前部板状部材は、後端部に湾曲部を有する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項5】
前記前部板状部材が、前記車両本体の前面の下端部に後端部が固定された下部板状部材と、前記下部板状部材の前端部に前記下部板状部材に対して相対的に回動可能に連結された上部板状部材とを備える、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項6】
前記前部板状部材が、前記車両本体との接続部を回転軸として回動可能に前記車両本体に固定されてなる、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項7】
前記後部板状部材が、前記車両本体との接続部を回転軸として回動可能に前記車両本体に固定されてなる、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項8】
前記前部板状部材が、前記車両本体の前面に対して固定可能である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【請求項9】
前記後部板状部材は、前記車両本体の後面に対して固定可能である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の水陸両用車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水陸両用車に関し、例えば、車両本体に板状部材が設けられた水陸両用車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船体の底面の中心にキールが設けられた水陸両用車用の船体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この水陸両用車用の船体においては、船体の滑走面内の不連続部を覆う滑走板をキールから等距離となるように配置することにより、船体の剛性を向上させて推進性能を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−501164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水陸両用車においては、車両の前後にフラップを設けることによって水上航走時の推進性能を向上させる検討がなされている。しかしながら、車両の前後にフラップを設けても、例えば、車両を水上で高速航走(例えば、14km/h以上)する場合においては、車体に作用する揚力が十分に得られずに、車体に作用する造波抵抗が増大して必ずしも十分な水上航走時の推進性能が得られない場合がある。
【0005】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、水上航走時の造波抵抗を低減でき、車両本体の推進性能を向上できる水陸両用車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の水陸両用車は、水上及び陸上を移動可能な車両本体と、前記車両本体の下端部に後端部が固定された前部板状部材と、前記車両本体の後部に前端部が固定された後部板状部材と、前記車両本体の底面における前記車両本体の両側方に設けられた走行装置と、前記走行装置の内側面を覆うように前記車両本体の下部に設けられた一対の整流部材と、を具備することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、水陸両用車の水上航走時に車両本体の前方側から前部板状部材の下面側を介して車両本体の下面側に流れる水流が、一対の整流部材によって整流されて車両本体の後方側に流れるので、車両本体の底面によって車両本体の両側方に押し出される水流の発生を防ぐことが可能となる。これにより、水陸両用車は、車両本体の下方側で走行装置と接触する水流の発生を防ぐことが可能となるので、水上航走時の造波抵抗を低減でき、車両本体に作用する抵抗を低減して推進性能を向上することが可能となる。
【0008】
本発明の水陸両用車においては、前記整流部材は、前記走行装置の側面を覆うように設けられたことが好ましい。この構成により、整流部材によって車両本体の下方側の水流を十分に整流することが可能となるので、車両本体の下方側における走行装置と水流との接触を防ぐことが可能となり、水上航走時の造波抵抗をより一層低減できる。
【0009】
本発明の水陸両用車においては、前記整流部材は、前記車両本体の前端部から後端部に向けて延在することが好ましい。この構成により、整流部材によって車両本体の下方側の水流を十分に整流することが可能となるので、車両本体の下方側における走行装置と水流との接触を防ぐことが可能となり、水上航走時の造波抵抗をより一層低減できる。
【0010】
本発明の水陸両用車においては、前記前部板状部材は、後端部に湾曲部を有することが好ましい。この構成により、車両本体と前部板状部材との接続部が滑らかな状態となるので、下面側に流れる水流の空気の含有を防ぐことが可能となる。そして、この空気を含有しない水流が一対の整流部材によって更に整流されながら車両本体の後方側の後部板状部材に向かって流れるので、車両本体に対する造波抵抗をより一層低減することが可能となる。
【0011】
本発明の水陸両用車においては、前記前部板状部材が、前記車両本体の前面の下端部に後端部が固定された下部板状部材と、前記下部板状部材の前端部に前記下部板状部材に対して相対的に回動可能に連結された上部板状部材とを備えることが好ましい。この構成により、水陸両用車は、車両本体の前方側に設けられた前部板状部材を折り畳んで収納することが可能となるので、水上から陸地に上陸した際に前部板状部材を車両本体の前面にコンパクトに収容することが可能となる。
【0012】
本発明の水陸両用車においては、前記前部板状部材が、前記車両本体との接続部を回転軸として回動可能に前記車両本体に固定されてなることが好ましい。この構成により、水陸両用車は、前部板状部材を回動させることにより車両本体に作用する揚力を調整することが可能となるので、車両本体に対する波に対して常に最適な車両姿勢をとることが可能となり、最高速度が向上するだけでなく、車両本体の搖動の抑制が可能となり乗り心地を改善できると共に、安全性を向上することが可能となる。
【0013】
本発明の水陸両用車においては、前記後部板状部材が、前記車両本体との接続部を回転軸として回動可能に前記車両本体に固定されてなることが好ましい。この構成により、水陸両用車は、後部板状部材を回動させることにより車両本体に作用する揚力を調整することが可能となるので、車両本体に対する波に対して常に最適な車両姿勢をとることが可能となり、最高速度が向上するだけでなく、車両本体の搖動の抑制が可能となり乗り心地を改善できると共に、安全性を向上することが可能となる。
【0014】
本発明の水陸両用車においては、前記前部板状部材が、前記車両本体の前面に対して固定可能であることが好ましい。この構成により、水陸両用車は、車両本体の前面に前部板状部材を固定することが可能となるので、前部板状部材を車両本体の前面にコンパクトに収容することが可能となる。
【0015】
本発明の水陸両用車においては、前記後部板状部材は、前記車両本体の後面に対して固定可能であることが好ましい。この構成により、水陸両用車は、車両本体の後面に後部板状部材を固定することが可能となるので、後部板状部材を車両本体の後面にコンパクトに収容することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水上航走時の造波抵抗を低減でき、車両本体の推進性能を向上できる水陸両用車を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1の実施の形態に係る水陸両用車の模式的な斜視図である。
図2図2は、第1の実施の形態に係る水陸両用車の側面図である。
図3図3は、第1の実施の形態に係る水陸両用車の側面図である。
図4図4は、第1の実施の形態に係る水陸両用車の模式的な正面図である。
図5図5は、第1の実施の形態に係る水陸両用車の水上航走時の側面図である。
図6A図6Aは、第1の実施の形態に係る水陸両用車に対する水流の説明図である。
図6B図6Bは、第1の実施の形態に係る水陸両用車に対する水流の説明図である。
図7図7は、本発明の第2の実施の形態に係る水陸両用車の側面図である。
図8A図8Aは、第2の実施の形態に係る水陸両用車の水上航走時の水流の説明図である。
図8B図8Bは、第2の実施の形態に係る水陸両用車の水上航走時の水流の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の各実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。また、以下の各実施の形態は適宜組み合わせて実施可能である。また、各実施の形態において共通する構成要素には同一の符号を付し、説明の重複を避ける。
【0019】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る水陸両用車1の模式的な斜視図である。図2及び図3は、本発明の第1の実施の形態に係る水陸両用車1の側面図である。図1図3に示すように、本実施の形態に係る水陸両用車1は、概して直方体形状の車両本体11と、この車両本体11の両側方の下部に設けられた走行装置20とを備える。車両本体11には、水上航走モードで使用するプロペラ又はウォータジェットを備えた推進器(不図示)が設けられている。走行装置20は、エンジンなどの駆動装置(不図示)により回転駆動されるスプロケット21と、このスプロケット21により回転駆動される履帯22とを備える。この水陸両用車1においては、車両本体11の走行方向Frにおける前面11aの上部には車窓13が設けられており、この車窓13から運転者が外部を視認可能になっている。なお、図1においては、履帯22を有する走行装置20によって車両本体11を駆動する例について説明したが、履帯22に代えてタイヤを有する走行装置を用いてもよい。
【0020】
車両本体11の前面11aの下端部には前部フラップ(前部板状部材)14Aの一端部が固定されている。この前部フラップ14Aは、車両本体11の前面11aに対して主面14a(図5参照)が傾斜するように、ヒンジ15Aを介して車両本体11の前面11aの下端部に取り付けられている。前部フラップ14Aは、車両本体11の車幅に対応した幅を有している。前部フラップ14Aは、車両本体11の前面11aの下端部に一端部が固定された下部フラップ(下部板状部材)141Aと、この下部フラップ141Aの他端部にヒンジ17Aを介して一端部が固定された上部フラップ(上部板状部材)142Aとを備える。前部フラップ14Aは、車両本体11の下端部に一端が固定された伸縮可能な支持部材16Aを介して車両本体11の前面11aとの間で主面14aが所定の角度θ1(図5参照)をなすように取り付けられている。
【0021】
下部フラップ141Aは、主面が車両本体11の前面11aに対応した幅を有しており、ヒンジ15A及び支持部材16Aを介して車両本体11の前面11aに対して相対的に回動可能に車両本体11の前面11aの下端部に固定されている。上部フラップ142Aは、主面が車両本体11の斜面11dに対応した幅を有しており、ヒンジ17Aを介して下部フラップ141Aに対して相対的に回動可能に固定されている。下部フラップ141Aは、固定部材(不図示)によって車両本体11の前面11aに固定可能に構成されている。上部フラップ142Aは、固定部材(不図示)によって車両本体11の前面11aの斜面11dに固定可能に構成されている。支持部材16Aは、車両本体11の進行方向における前後方向に伸縮可能に設けられている。
【0022】
なお、下部フラップ141Aは、駆動部(不図示)によってヒンジ15Aを駆動して車両本体11の前面11aに対して主面を回動可能に固定してもよく、また駆動部(不図示)によって支持部材16Aを駆動して車両本体11の前面11aに対して主面を回動可能に固定してもよい。また、上部フラップ142Aは、駆動部(不図示)によってヒンジ17Aを駆動して車両本体11の前面11aに対して主面を回動可能に固定してもよい。
【0023】
また、車両本体11の後面11bの下端部には、後部フラップ(後部板状部材)14Bの一端部が固定されている。この後部フラップ14Bは、車両本体11の後面11bに対して主面14b(図5参照)が傾斜するように、ヒンジ15Bを介して車両本体11の後面11bの下端部に取り付けられている。後部フラップ14Bは、車両本体11の車幅に対応した幅を有している。後部フラップ14Bは、車両本体11の下端部に一端が固定された伸縮可能な支持部材16Bを介して車両本体11の後面11bとの間で主面14bが所定の角度θ2(図5参照)をなすように取り付けられている。
【0024】
また、水陸両用車1は、車両本体11の後面11b側の後部フラップ14Bが、ヒンジ15Bを介して車両本体11の後面11bに対して相対的に回動可能に固定されている。後部フラップ14Bは、固定部材(不図示)によって車両本体11の後面11bに固定可能に構成されている。なお、後部フラップ14Bは、駆動部(不図示)によってヒンジ15Bを駆動して車両本体11の後面11bに対して主面14bを回動可能に固定してもよく、また駆動部(不図示)によって支持部材16Bを駆動して車両本体11の後面11bに対して主面を回動可能に固定してもよい。
【0025】
この水陸両用車1においては、例えば、陸上走行時には、前部フラップ14Aの下部フラップ141Aを車両本体11の前面11aに固定し、斜面11dに上部フラップ142Aを固定することが可能である。また、この水陸両用車1においては、後部フラップ14Bを車両本体11の後面11bに固定することが可能である。支持部材16Aは、車両本体11の前面11aに設けられた収容空間(不図示)に収容可能であり、支持部材16Bは、車両本体11の後面11bに設けられた収容空間(不図示)に収容可能である。このように、この水陸両用車1は、車両本体11の前方側に設けられた前部フラップ14Aを相互に折り畳み可能な下部フラップ141A及び上部フラップ142Aによって折り畳み可能に構成することにより、水上から陸地に上陸した際に前部フラップ14Aを車両本体11の前面11aにコンパクトに固定することが可能となる。そして、車両本体11の後方側に設けられた後部フラップ14Bも同様に車両本体11の後面11bに対してコンパクトに固定することが可能となる。
【0026】
車両本体11の底面11cには、車両本体11の両側方の下部に設けられた走行装置20に沿って一対のキール(整流部材)50が設けられている。このキール50は、概略直方体形状をなしており、車両本体11の前方側から後方側に向けて延在して走行装置20の近傍に設けられている。また、キール50は、走行装置20の下部の側方を覆うように設けられている。このようにキール50を設けることにより、車両本体11の両側方がキール50によって囲われるので、車両本体11に作用する圧力が高まり、水陸両用車1が水上を航走する際に車両本体11の下部を流れる水流が整流されて車両本体11に作用する揚力が向上する。したがって、水陸両用車1の水上航走時に車両本体11の全体に作用する浮力が向上するので、車両本体11の抵抗低減を実現できる。なお、本実施の形態では、キール50が概略直方体形状である例について説明するが、キール50の形状としては、車両本体11の水上航走時に車両本体11の下面側を流れる水流を整流して車両本体11の姿勢を安定できるものであれば特に制限はなく、例えば、三角柱形状などの多角柱形状、円柱形状などの各種形状を用いることが可能である。
【0027】
図4は、本実施の形態に係る水陸両用車1の模式的な正面図である。なお、図4においては、説明の便宜上、前部フラップ14Aを省略して示している。図4に示すように、一対のキール50は、車両本体11の底面11cの両端にそれぞれ設けられている。また、キール50は、車両底面11cから車両本体11の下方側に向けた高さHが、車両本体11の底面11cと走行装置20の履帯22の下面との間の距離L1より僅かに低くなるように車両本体11の下面に取り付けられている。このように一対のキール50を設けることにより、水陸両用車1の陸上走行時に一対のキール50と路面との接触を防ぐことが可能となる。また、一対のキール50によって走行装置20の履帯22の内側面を十分に覆うことが可能となるので、水陸両用車1の水上航走時に一対のキール50による浮力が十分に得られるので、車両本体11に作用する造波抵抗を低減できる。なお、一対のキール50は、必ずしも車両本体11の底面11cの両端に設ける必要はなく、両端部に設けてもよい。また、キール50の高さHは、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更可能である。
【0028】
次に、本実施の形態に係る水陸両用車1の全体動作について説明する。図5は、水陸両用車1の水上航走時の側面図である。図5に示すように、本実施の形態に係る水陸両用車1においては、前部フラップ14Aの主面14aが車両本体11の前面11aに対して鋭角θ1となるように車両本体11の前面11aの下端部に前部フラップ14Aが取り付けられている。これにより、水陸両用車1は、水上航走時には水上の波が前部フラップ14Aの下面から車両本体11の底面11cを介して後方に抜けるので、車両本体11の前面11a側の下方から上方に向けて揚力が作用し、車両本体11の前面11aからの造波抵抗を低減することが可能となる。この結果、水陸両用車1を水上で高速航行(例えば、14km/h以上)させた場合であっても、車両本体11が滑走型となるので、車両本体11の姿勢が安定して車両本体11の前部の水没を防ぐことが可能となる。なお、上述した作用効果を一層向上する観点から、前部フラップ14Aは、車両本体11の前面11aの下端に設けることが好ましい。
【0029】
また、本実施の形態に係る水陸両用車1においては、車両本体11の底面11cに設けた一対のキール50によって、車両本体11の前方側からの水流が整流されながら車両本体11の後方側に流れる。図6A及び図6Bは、水陸両用車1に対する水流の説明図である。図6Aに示すように、一対のキール50を備えた水陸両用車1においては、前部フラップ14Aの下方側から車両本体11の下方側に向けて流れる水流Fが、一対のキール50によって整流されるので、車両本体11の下部に設けられた走行装置20と水流Fの接触による車両本体11に対する造波抵抗の増大を防ぐことが可能となる。これに対して、図6Bに示すように、一対のキール50が設けられていない水陸両用車100においては、前部フラップ14Aの下方側から車両本体11の下方側に向けて流れる水流Fが、車両本体11の下面によって車両本体11の両側方に押し出されて車両本体11の下部に設けられた走行装置20と接触して車両本体11に作用する造波抵抗が増大する。
【0030】
さらに、本実施の形態に係る水陸両用車1においては、後部フラップ14Bの主面14bが車両本体11の後面11bに対して鈍角θ2となるように車両本体11の後面11bの下端部に後部フラップ14Bが取り付けられている。これにより、水陸両用車1は、水上航走時には水上の波が車両本体11の底面11cで一対のキール50によって整流された水流が、後部フラップ14Bの下面を介して車両本体11の後方に抜ける。これにより、後部フラップ14Bの下面側から車両本体11の下方から上方に向けて大きな揚力が作用すると共に、後部フラップ14Bの両側端部における渦などの発生を防ぐことができる。これにより、水陸両用車1を水上で高速航行(例えば、14km/h以上)させた場合であっても、車両本体11が滑走型となるので、車両本体11の前面11a側からの造波抵抗を低減することが可能となると共に、車両本体11の姿勢が安定して車両本体11の後部の水没を防ぐことが可能となる。なお、上述した作用効果を一層向上する観点から、後部フラップ14Bは、車両本体11の後面11bの下端に設けることが好ましい。
【0031】
以上説明したように、上記実施の形態に係る水陸両用車1によれば、水陸両用車1の水上航走時に車両本体11の前方側から前部フラップ14Aの下面側を介して車両本体11の下面側に流れる水流が、一対のキール50によって整流されて車両本体11の後方側に流れるので、車両本体11の底面11cによって車両本体11の両側方に流れる水流の発生を防ぐことが可能となる。これにより、水陸両用車1は、車両本体11の下方側での走行装置20と車両本体11の下方側の水流との接触を防ぐことが可能となるので、水上航走時の造波抵抗を低減でき、車両本体11に作用する抵抗を低減して推進性能を向上することが可能となる。
【0032】
なお、上述した実施の形態では、前部フラップ14A及び後部フラップ14Bとしては、平板状の板状部材を用いる例について説明したが、前部フラップ14A及び後部フラップ14Bの形状としては、本発明の効果を奏する範囲で波板などの平板以外の板状部材に適宜変更可能である。同様に、下部フラップ141A及び上部フラップ142Aは、本発明の効果を奏する範囲で波板などの平板以外の板状部材に適宜変更可能である。また、前部フラップ14A及び後部フラップ14Bの幅は、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更可能である。また、本実施の形態においては、前部フラップ14A及び後部フラップ14Bをヒンジ15A,15Bによって車両本体11に取り付ける例について説明したが、前部フラップ14A及び後部フラップ14Bは、車両本体11の前面11a又は後面11bとの間で主面14a,14bが所定の角度θ1,θ2をなして固定できるものであれば、必ずしもヒンジ15A,15Bを用いて固定する必要はない。さらに、本実施の形態においては、前部フラップ14A及び後部フラップ14Bを支持部材16A,16Bによって車両本体11に固定する例について説明したが、前部フラップ14A及び後部フラップ14Bは、必ずしも支持部材16A,16Bを介して車両本体11に固定する必要はない。さらに、上述した実施の形態においては、前部フラップ14Aを下部フラップ141A及び上部フラップ142Aの2つの板状部材によって構成した例について説明したが、前部フラップ14Aは、1つの板状部材によって構成してもよい。
【0033】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、以下においては、上述した第1の実施の形態との相違点を中心に説明し、説明の重複を避ける。
【0034】
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る水陸両用車2の側面図である。本実施の形態に係る水陸両用車2は、上述した第1の実施の形態に係る水陸両用車1の前部フラップ14Aの下部フラップ141Aに代えて、車両本体11との接続部である後端部が湾曲化した下部フラップ143を備える。この下部フラップ143は、下部フラップ143と上部フラップ142Aとの接続部までの間の距離L2に対して例えば、2/5R〜4/5R程度の曲率半径を有する湾曲部143aを有する。このように湾曲部143aを有する下部フラップ143を用いることにより、下部フラップ143と車両本体11との接続部分を滑らかにすることができる。その他の構成については、第1の実施の形態に係る水陸両用車1と同様のため説明を省略する。
【0035】
図8A及び図8Bは、第2の実施の形態に係る水陸両用車2の水上航走時の水流の説明図である。図8Aに示すように、湾曲部143aが設けられた下部フラップ143を備えた水陸両用車2が水上を航走する場合には、車両本体11の前方側からの水が、下部フラップ143の下面を介して車両本体11の下方側に流れる。ここで、下部フラップ143と車両本体11との接続部分は、湾曲部143aによって滑らかな状態となっているので、下部フラップ143の下側から車両本体11の下面側に流れる水流Fは空気Gを含んだものとはならずに整流されて乱れた流れが生じることはない。そして、この空気Gを含有しない水流Fが一対のキール50によって更に整流されながら車両本体11の後方側の後部フラップ14Bに向かって流れるので、車両本体11に対する造波抵抗をより一層低減することが可能となる。
【0036】
これに対して、図8Bに示すように、下部フラップ141Aに湾曲部143aが設けられていない水陸両用車200が水上を航走する場合には、車両本体11の前方側からの水が、前部フラップ14Aの下面側を介して車両本体11の下方側に流れる。ここで、下部フラップ141Aと車両本体11との接続部分は、各部材が鋭利な状態となっているので、下部フラップ141Aの下側から車両本体11の下面側に流れる水は空気Gを含んだものとなっている。また、車両本体11の下面側を流れる水流Fは、乱れた水流又は剥離した水流となり、後部フラップ14B及び車両本体11に作用する流れにも影響が生じて車両本体11に対する造波抵抗が増大する。
【符号の説明】
【0037】
1,2,100,200 水陸両用車
11 車両本体
11a 前面
11b 後面
11c 底面
11d 斜面
13 車窓
14A 前部フラップ(前部板状部材)
141A,143 下部フラップ(下部板状部材)
142A 上部フラップ(上部板状部材)
143a 湾曲部
14B 後部フラップ(後部板状部材)
15A,15B ヒンジ
16A,16B 支持部材
17A ヒンジ
20 走行装置
21 スプロケット
22 履帯
50 キール(整流部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B