特許第6385293号(P6385293)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385293
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】踏切障害物検知装置
(51)【国際特許分類】
   B61L 29/00 20060101AFI20180827BHJP
【FI】
   B61L29/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-35139(P2015-35139)
(22)【出願日】2015年2月25日
(65)【公開番号】特開2016-155482(P2016-155482A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000121
【氏名又は名称】アイアット国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】遠山 喬
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩由
(72)【発明者】
【氏名】長峯 望
【審査官】 清水 康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−332071(JP,A)
【文献】 特開昭51−012505(JP,A)
【文献】 特開平05−008731(JP,A)
【文献】 特開2010−095193(JP,A)
【文献】 特開2010−085293(JP,A)
【文献】 特開平11−059423(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 29/00 − 29/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知手段と演算処理装置とを有し、
前記検知手段は一定の周期で障害物検知領域に対して検知動作をし、検知信号を出力するものであり、
前記演算処理装置は、
前記検知手段の出力する検知信号から前記障害物検知領域の所定区間のそれぞれ対応する検知レベルに対して下側閾値と上側閾値との二つの閾値を用いて、前記検知手段から1周期ごとに入力される検知信号の検知レベルを検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果を時系列的に記憶する記憶手段と、
現在の周期の前記障害物検知領域の任意の区間の検出結果が上側閾値以上である場合は障害物があると判定し、現在の周期の前記障害物検知領域の任意の区間の検出結果が下側閾値以上かつ上側閾値未満であるとき、その直前の周期の前記障害物検知領域の同一区間の検出結果が上側閾値以上である場合、もしくは、前記障害物検知領域の同一区間の検出結果を時系列で遡及していき、下側閾値未満を経由することなく上側閾値以上に到達可能な場合は、障害物があるとの判定を継続する判定手段と、
を有することを特徴とする踏切障害物検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の踏切障害物検知装置において、
前記判定手段は、現在の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が下側閾値以上かつ上側閾値未満であるとき、前記障害物検知領域の当該区間の近傍の区間の検出結果が、その直前の周期において上側閾値以上であった場合、もしくは、前記障害物検知領域の当該区間と当該区間の近傍の区間の検出結果を時系列で遡及していき、下側閾値未満を経由することなく上側閾値以上に到達可能な場合は、障害物があるとの判定を継続する、
ことを特徴とする踏切障害物検知装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の踏切障害物検知装置において、
前記検知手段は、電気踏切しゃ断機のしゃ断かん上昇のタイミングで検知動作を開始し、一定の周期で検知動作を行い、列車が当該踏切に到来する前に検知動作を停止するものであり、
前記判定手段は、前記検知動作の最後の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が上側閾値以上である場合は障害物があると判定し、前記検知動作の最後の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が下側閾値以上かつ上側閾値未満であるとき、その直前の周期の障害物検知領域の同一区間の検出結果が上側閾値以上である場合、もしくは、前記障害物検知領域の同一区間の検出結果を時系列で遡及していき、下側閾値未満を経由することなく上側閾値以上に到達可能な場合は、障害物があるとの判定を継続する、
ことを特徴とする踏切障害物検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,踏切障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路と道路が同一平面上で交差する踏切道に列車が接近する際は、その踏切道の両端に設置されている電気踏切しゃ断機がしゃ断かんを降下させて踏切道を閉鎖するが、閉鎖された踏切道内に自動車、自転車等の障害物が存在するときは、列車に対して警報と警報信号を発し、列車の信号機や地上の信号機を動作させて、列車を停止させる措置を執るために、踏切道内における障害物の有無を検知する踏切障害物検知装置が用いられている。
【0003】
障害物を検知するために用いられる検知手段には、光センサ(たとえば、特許文献1参照)、超音波センサ(たとえば、特許文献2参照)、レーザレーダセンサ(たとえば、特許文献3参照)、ミリ波レーダセンサ(たとえば、特許文献4参照)、単眼カメラ(たとえば、特許文献5参照)、ステレオカメラ(たとえば、特許文献6参照)などの複数種類の検知手段がある。光センサ等の検知手段を用いて、被検知物の大きさを問わず、その被検知物を検知したときに出力される検知信号に基づいて、障害物ありと判定する踏切障害物検知装置は、危険性の無い物や検知信号のノイズに対しても障害物ありと判定し、列車に対して警報と警報信号を発するなどの誤動作をして、列車運行に支障を与える可能性がある。そこで、より高度な踏切障害物検知装置では、真に危険性のある物を障害物として検知するため、検知手段が出力する検知信号のレベル(検知レベル)が所定の閾値以上である場合に障害物ありと判定し、検知レベルがその閾値未満である場合はその検知信号をノイズとして排除し、障害物なしと判定している。
【0004】
また、特許文献7には、障害物の検知信号の連続性を評価することにより、雨や雪等による検知信号のノイズを排除する踏切障害物検知装置が示されている。特許文献8には、検知信号が時系列的に現れることに加え、障害物までの距離が同一であるという条件を含めて障害物判定を行うことで、ノイズを排除する踏切障害物検知装置が示されている。
【0005】
特許文献9には、検知レベルが所定値に達している領域の割合に応じて障害物検知の閾値を変更することで、天候の影響による誤検知を防止し得る踏切障害物検知装置が示されている。一方、特許文献10には、閾値を変更するのではなく、検知信号に対し自動利得制御を行うことで、誤検知を防止し得る踏切障害物検知装置が示されている。また、特許文献11には、スペクトルサブトラクション法に基づき、検知信号からノイズ成分の除去を行った上で障害物判定を行うことで、誤検知を防止し得る踏切障害物検知装置が示されている。特許文献12には、検知信号を予め設定した基準パタンと比較照合し、最も適合した基準パタンとの比較により障害物判定を行う障害物検知方法が示されている。
【0006】
そして、特許文献13には、物体追跡機能を有する踏切障害物検知装置が示されている。また、特許文献14には、検知領域を複数の領域に分割し、分割領域の1つに物体が滞留したことを検知する手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−8731号公報
【特許文献2】特開2014−12457号公報
【特許文献3】特開2010−42724号公報
【特許文献4】特開2005−121488号公報
【特許文献5】特開平5−54276号公報
【特許文献6】特開2002−145072号公報
【特許文献7】特許第4117581号公報
【特許文献8】特許第5134453号公報
【特許文献9】特開2012−101620号公報
【特許文献10】特許第2802056号公報
【特許文献11】特開2013−1263号公報
【特許文献12】特開2012−101621号公報
【特許文献13】特開2012−101622号公報
【特許文献14】特開2005−214718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
検知レベルに閾値を設定する場合、従来の踏切障害物検知装置では、主として自動車、自転車等の一定の高さ、面積または大きさ等を有する物を列車衝突から保護する観点から障害物検知の閾値が設定されるが、閾値は障害物の状況の変化に関わらず基本的に一つのみ設定されている。ところで、本来、障害物として検知されるべき、すなわち、列車衝突から保護するべき物としては、高さ、面積または大きさ等が終始変化しない物だけでなく、高さ、面積または大きさ等が変化する物もあり得る。たとえば泥酔者、病人等が踏切道に進入した後、転倒したり、屈みこんだり、その逆に、転倒したものが立ち上がって踏切道から道路に移動するなどした際は、高さ、面積または大きさ等が変化する。
【0009】
従来の踏切障害物検知装置では、このような本来、障害物として検知されるべき、高さ、面積または大きさ等の状況が変化した物は障害物として検知されない虞がある。これを防止するために、閾値を低く設定し、高さ、面積または大きさ等がより小さい物に対しても障害物ありと判定するように変更すると、過剰検知となり、誤動作が生じる問題がある。
【0010】
特許文献7〜12に示された、ノイズによる誤検知を抑制する技術は、主として天候等の比較的緩慢または大域的な変化に対応するためのものである。このため、踏切道内での人間の転倒等の比較的急峻かつ局所的な変化には必ずしも有効ではない。
【0011】
また、特許文献13および特許文献14の技術は、検知された物体を追跡するものであり、検知レベルの閾値については言及されていない。したがって、追跡を開始する時点においては、上記の誤検知の問題が存在する。さらに、物体を追跡することが根幹となっているため、センサの能力によっては、被検知物の分離や融合(たとえば、自転車に乗っていた人が自転車を置いていく、離れて歩いていた2人の人が一体となって歩く等)の状況で破綻する可能性がある。
【0012】
本発明は,上記の点に鑑みなされたものであり、本来、障害物として検知されるべき高さ、面積または大きさ等の状況が変化した物も確実に障害物として検知でき、かつ誤動作を抑制できる踏切障害物検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る踏切障害物検知装置は、上記目的を達成するため,検知手段と演算処理装置とを有し、検知手段は一定の周期で障害物検知領域に対して検知動作を行い、検知信号を出力するものであり、演算処理装置は、検知手段の出力する検知信号から障害物検知領域を所定の小区間に分割した検知区間のそれぞれに対応する検知レベルに対して下側閾値と上側閾値との二つの閾値を用いて、検知手段から1周期ごとに入力される検知信号の検知レベルを検出する検出手段と、検出手段の検出結果を時系列的に記憶する記憶手段と、現在の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が上側閾値以上である場合は障害物があると判定し、現在の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が下側閾値以上かつ上側閾値未満であるとき、その直前の周期の障害物検知領域の同一区間の検出結果が上側閾値以上である場合、もしくは、前記障害物検知領域の同一区間の検出結果を時系列で遡及していき、下側閾値未満を経由することなく上側閾値以上に到達可能な場合は、障害物があるとの判定を継続する判定手段とを有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る踏切障害物検知装置の他の側面においては、前記判定手段は、現在の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が下側閾値以上かつ上側閾値未満であるとき、障害物検知領域の当該区間の近傍の区間の検出結果が、その直前の周期において上側閾値以上であった場合、もしくは、前記障害物検知領域の同一区間の検出結果を時系列で遡及していき、下側閾値未満を経由することなく上側閾値以上に到達可能な場合は、障害物があるとの判定を継続する。
【0015】
本発明に係る踏切障害物検知装置のさらに他の側面においては、検知手段は、電気踏切しゃ断機のしゃ断かん上昇のタイミングで検知動作を開始し、一定の周期で検知動作を行い、列車が当該踏切に到来する前に検知動作を停止するものであり、判定手段は、検知動作の最後の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が上側閾値以上である場合は障害物があると判定し、検知動作の最後の周期の障害物検知領域の任意の区間の検出結果が下側閾値以上かつ上側閾値未満であるとき、その直前の周期の障害物検知領域の同一区間の検出結果が上側閾値以上である場合、もしくは、前記障害物検知領域の同一区間の検出結果を時系列で遡及していき、下側閾値未満を経由することなく上側閾値以上に到達可能な場合は、障害物があるとの判定を継続するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一定の高さ、面積または大きさ等を有する障害物はもとより、本来、障害物として検知されるべき高さ、面積または大きさ等が変化した物も確実に障害物として検知することができる。また、障害物とノイズの判別性能が高まるため、ノイズによる誤動作を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る踏切障害物検知装置の構成を示すブロック図。
図2】本発明による障害物の大きさが変化した場合の障害物検知論理を説明する図。
図3A図1の演算処理装置の作用を説明するフローチャート。
図3B図3Aの障害物有無判定の詳細を説明するフローチャート。
図4】踏切道に進入した後,移動・転倒した場合の障害物検知を説明する図。
図5】本発明の他の実施の形態に係る踏切障害物検知装置の構成を示すブロック図。
図6図5の踏切障害物検知装置の検知手段の配置と障害物検知領域を例示する踏切の平面図。
図7図6の第1検知手段がミリ波レーザセンサである場合の具体的構成の一例を示す回路図。
図8図6の第2検知手段が画像センサである場合の構成を示すブロック図。
図9図6の第1検知手段がミリ波レーザセンサで、第2検知手段が画像センサである場合のそれぞれの検知結果と判定部による一次判定と最終判定部による判定結果の関係を示す図。
図10】判定テーブルの一例を示す図。
図11図10の判定テーブルに多段階の閾値を設け、重みづけをした場合の判定テーブルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0019】
<第1の実施の形態>
[構成]
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る踏切障害物検知装置1は、検知手段10と演算処理装置20とを有する。
【0020】
検知手段10は、図2(a)に例示するように、踏切道5の全部または一部を障害物検知領域Aとするセンサであり、被検知物の高さ、面積、大きさ等の違いに応じて異なった検知信号s1を出力するものである。検知信号s1は実数に射影可能であり、射影結果、すなわち検知レベルは、たとえば電圧レベルの形態をとる。
【0021】
そのような検知手段10には、たとえば、レーザレーダセンサ、ミリ波レーダセンサ、あるいは画像センサ等を用いることができる。
【0022】
検知手段10がレーザレーダセンサ、ミリ波レーダセンサ等である場合は、図示されていない送信機を制御し、図示されていない送信アンテナから間欠的に障害物検知領域に向けて送信波を出射し、図示されていない受信アンテナを介して受信機でその反射波を受けた時に、検知手段10は、被検知物の高さ、面積、大きさ等の違いに応じて異なった検知信号s1を出力する。検知信号s1には、送信波と反射波の差から得られる、障害物検知領域内の物体までの距離情報と、反射強度の情報とが含まれる。被検知物の材質や形状にも依存するが、多くの場合、被検知物が大きいほど反射強度が大きくなる傾向がある。
【0023】
検知手段10に適用可能な画像センサは、単眼カメラ、ステレオカメラなどであり、障害物検知領域を連続的または間欠的に撮影して得られる画像データを1フレームごとに形状認識処理やパターンマッチング処理などをして、被検知物の高さ、面積、大きさ等の違いに応じて異なった検知信号s1を出力する。
【0024】
演算処理装置20は、検出手段21、記憶手段22、判定手段23及び出力手段24を有する。検出手段21には、検知手段10が出力する検知信号s1が入力される。そして、検出手段21には、入力される検知信号s1の検知レベルを検出する閾値として、下側閾値Lと上側閾値Hとの2種類の閾値が設定されている。
【0025】
これにより、検知手段10からの検知信号s1が検出手段21に入力されると、その検知信号s1の検知レベルが障害物検知領域Aを所定の小区間に分割して形成される検知区間(詳細は後述される。)ごとに下側閾値Lおよび上側閾値Hと比較され、その検知レベルが下側閾値L未満か、下側閾値L以上かつ上側閾値H未満か、上側閾値H以上かが検出される。そして、その検出結果s2は検出手段21から記憶手段22に与えられて、記憶される。記憶手段22は、少なくとも現在の検知周期の検出結果s2(s2n)と直前の検知周期の検出結果s2(s2b)を記憶する。
【0026】
検知手段10は電気踏切しゃ断機7のしゃ断かん8の上昇タイミング、すなわち、列車が踏切終動点を通過した時点で検知動作を開始し、時系列において次の列車が踏切に到来する時点で検知動作を終了するように制御される。そして、検知手段10からは検知信号s1が所定の時間間隔で時々刻々と検出手段21に入力されるので、記憶手段22には、検出手段21から出力される検出結果s2が時系列的に記憶されるように構成されている。なお、検知手段10が常時検知動作を行うようにし、検出手段21が、列車が踏切終動点を通過した時点から次の列車が踏切に到来する時点までの間のみ検知信号s1の入力を許可し、その他の時間は、検知信号s1を破棄するようにしてもよい。
【0027】
判定手段23は、記憶手段22に記憶された検出結果のうち、現在の検知周期の検出結果s2(s2n)と直前の検知周期の検出結果s2(s2b)とを読み出し、その2つの検出結果s2(s2n,s2b)の時系列変化が既定の条件を満たすか否かで障害物の存否を判定する。すなわち、各検知区間について、現在の検知周期の検出結果s2(s2n)が下側閾値L以上かつ上側閾値H未満であり、かつ直前の検知周期の検出結果s2(s2b)が上側閾値H以上である場合には、当該検知区間の現在の検知周期の検出結果s2(s2n)を上側閾値H以上に更新する。更新の結果、いずれかの検知区間で上側閾値H以上である場合は現在の検知周期には障害物検知領域Aに障害物が存在すると判定する。更新した現在の検知周期の検出結果s2(s2n)は、次の検知周期での判定に用いるため、判定手段23は、更新した現在の検知周期の検出結果s2(s2n)を記憶手段22に出力し、記憶手段22は現在の検知周期の検出結果s2(s2n)を更新の結果で上書きする。これにより、直前の検知周期において障害物検知領域Aに障害物が存在するとの判定を行った場合、障害物を検知した近傍の検知区間で、現在の検知周期の検出結果s2(s2n)が下側閾値L以上かつ上側閾値H未満に変化した際は、当該の下側閾値L以上かつ上側閾値H未満の検出結果は、直前の検知周期において存在すると判定した物体と同一の物体によるものと判断し、障害物が存在するとの判定を現在の検知周期においても継続する。
【0028】
上記のような直前の検知周期の検出結果s2(s2b)と現在の検知周期の検出結果s2(s2n)の時系列変化のチェックおよび障害物の存否の判定は、列車が踏切終動点を通過した時点から開始し、時系列において次の列車が踏切に到来する時点までの間、一定周期で行われる。そして、列車が踏切に接近した時点、すなわち、列車の踏切始動点通過から所定の時間が経過した時点から、列車が踏切に到来する時点まで、判定手段23の判定結果s3を出力手段24に出力する。
【0029】
出力手段24は、その判定結果s3を地上制御装置2に出力する。地上制御装置2は、判定結果s3が障害物ありであったときは、当該踏切に向かって走行する列車に注意を喚起する特殊信号発光機3を駆動させる制御信号s4を送出したり、その列車の車上装置4にブレーキをかけさせるための制御信号s5を送出したりする。地上制御装置2を介さずに、出力手段24からレールを介してまたは無線で直接車上装置4に制御信号s5を送出するようにしてもよい。
【0030】
[作用]
次に、演算処理装置20の作用を、図3A及び図3Bに基づいて説明する。演算処理装置20は、列車が踏切終動点を通過した時点から動作を開始する。検知手段10から検知信号s1が検出手段21に入力されたか否かを常時監視しており(ステップS1)、検知信号s1が入力されると、検出手段21においてその検知信号s1の検知レベルを検知区間ごとに下側閾値Lおよび上側閾値Hと比較する(ステップS2)。すなわち、検知レベルが下側閾値L未満か、下側閾値L以上かつ上側閾値H未満か、上側閾値H以上かを検出する。その検知区間ごとの検出結果s2は記憶手段22に記憶される(ステップS3)。記憶手段22に記憶された検出結果s2は順次読み出されて判定手段23に与えられ、その判定手段23において、障害物有無の判定処理が行われる(ステップS4)。
【0031】
障害物有無の判定処理は、図3Bに詳細が示されているように、まず、現在の検知周期において、後述のステップS42〜ステップS44の処理を行っていない検知区間を1つ選択する(ステップS41)。
【0032】
次に、選択した検知区間について、記憶手段22から読み込まれた現在の検知周期の検出結果s2(s2n)が、下側閾値L以上かつ上側閾値H未満であるか否かを調べる(ステップS42)。下側閾値L以上かつ上側閾値H未満であると判断した場合は、選択した検知区間について、記憶手段22から読み込まれた直前の検知周期の検出結果s2(s2b)が上側閾値H以上であるか否かを調べる(ステップS43)。上側閾値H以上であると判断した場合は、選択した区間の現在の検知周期の検出結果s2(s2n)が上側閾値H以上であると検出結果s2の更新を行う(ステップS44)。更新された検出結果s2はステップS44の段階、または、現在の処理周期が終了するまでに、記憶手段22に出力され、上書きすることにより更新された検出結果s2が記憶される。
【0033】
ステップS42において、下側閾値L未満である、もしくは上側閾値H以上であると判断した場合、または、ステップS43において上側閾値H未満であると判断した場合には、検出結果s2の更新は行わない。
【0034】
全ての検知区間について、ステップS42〜ステップS44の処理が完了するまで、ステップS41に戻る(ステップS45)。
【0035】
全ての検知区間について、ステップS42〜ステップS44の処理が完了した後、現在の検知周期の検出結果s2(s2n)が、いずれかの検知区間において上側閾値H以上であるか否かを調べる(ステップS46)。いずれの検知区間においても上側閾値H未満である場合には、障害物なしと判定する(ステップS47)。いずれかの検知区間において上側閾値H以上である場合には、障害物ありと判定する(ステップS48)。
【0036】
障害物有無の判定処理が終了した後は、図3AのステップS5に移行する。
【0037】
ステップS4における上記の障害物有無の判定処理をした後は、ステップS5において列車が当該踏切に接近したか否かを調べ、接近していない場合は、ステップS1に戻る。接近した後は、判定手段23は、判定結果s3を出力手段24に出力する(ステップS6)。そして、ステップS7において、列車が当該踏切に到達したか否かを調べ、到達した場合は一連の動作を終了する。
【0038】
以上は、簡単のため、遮断機7の一度の下降・上昇動作の間に、1列車しか踏切を通過しない場合の作用について説明した。一般の場合、すなわち、遮断機7の一度の下降・上昇動作の間に複数の列車が通過する前提においては、遮断機7の下降・上昇に関わらず、各列車が踏切を通過し終えた時点から、演算処理装置20は動作を開始(再開)する。ただし、図3AのステップS6において、いずれかの列車が踏切を通過している間は、列車を障害物として検知しないよう、判定結果s3の出力を中断するか、障害物なしと出力する。なお、検知した物体が障害物であるか踏切を通過している列車であるかを区別する手段が別途用意されている場合には、その手段を用いて、検知した物体が障害物である場合にのみ判定結果s3(障害物あり)を出力するようにしてもよい。
【0039】
続いて、踏切道に進入した人が転倒した場合の踏切障害物検知装置1の作用について、図2を基に説明する。図2(a)は、踏切道5の長手方向一端の側方に設置された検知手段10、たとえばミリ波レーダセンサの送信アンテナから送信波を障害物検知領域Aに出射し、その踏切道5に存在する物体6a,6b,6cからの反射波をミリ波レーダセンサの受信アンテナにより受信している状況を模式的に示している。そして、白抜きの大星で表された物体6aは、時刻t1において起立している人であり、黒星で表された物体6bは時刻t2において倒れた人であると仮定する。ここで物体6aと物体6bは同一の人である。また、小さい黒丸で表された物体6cは障害物として検知する必要のない小物体である。なお、図2(a)において、7は電気踏切しゃ断機、8はそのしゃ断かんである。
【0040】
検知手段10は、所定の検知周期t1,t2,t3,・・・,tnで送信波の出射および反射波の受信を行い、各物体6a,6b,6cからの反射波の強さに応じた検知信号s1を出力する。演算処理装置20の検出手段21は、その同じ検知周期t1,t2,t3,・・・,tnで検知信号s1を入力し、図2(b)に示すように、その検知信号s1の検知レベルを障害物検知領域Aの長手方向に等分割された区間(検知区間)a1,a2,a3,・・・,anごとに検出し、その検出された検知レベルを下側閾値Lおよび上側閾値Hと比較する。(b)の上段は検知周期t1における検知手段10の検知信号s1を示し、(b)の下段は検知周期t2における検知手段10の検知信号s2を示す。
【0041】
検知周期t1においては、検知信号s1の検知区間a4に対応する検知レベルは図2(a)の白抜きの大星で表された物体6aに対応するものであり、上側閾値H以上である。この場合は、検出手段21は、検知区間a4の検知レベルを上側閾値H以上と検出するので、図2(c)に示すように、記憶手段22には、検知周期t1の検知区間a4に対応して「H」(上側閾値H以上の意味)が記憶される。また、検知区間an−1に対応する検知レベルは図2(a)の黒丸で表された物体6cに対応するものであり、下側閾値L以上かつ上側閾値H未満である。この場合は、検出手段21は、検知区間an−1の検知レベルを下側閾値L以上かつ上側閾値H未満と検出するので、記憶手段22には、検知周期t1の検知区間an−1に対応して「L」(下側閾値L以上かつ上側閾値H未満の意味)が記憶される。図2(c)のその他の空白部分は、下側閾値未満であることを意味しており、その情報も記憶手段22にて記憶される。もっとも、「H」、「L」および空白以外の状態は取り得ないため、たとえば「H」と「L」の検知区間が記憶されていれば十分である。
【0042】
他方、検知周期t2においては、検知信号s2の検知区間a4における検知レベルは図2(a)の黒星で表された物体6bに対応するものであり、下側閾値L以上かつ上側閾値H未満である。この場合は、検出手段21は、検知区間a4の検知レベルを「L」と検出するので、記憶手段22には、検知周期t2の検知区間a4に対応して「L」が記憶される。検知周期t2における検知区間an−1の検知レベルは図2(a)の黒丸で表された物体6cがそのまま存在していることに対応するものであり、この場合も、検出手段21は、検知区間an−1の検知レベルを「L」と検出するので、記憶手段22には、t2のan−1に対応して「L」が記憶される。
【0043】
したがって、記憶手段22に記憶された、直前の検知周期t1および現在の検知周期t2における各検知区間a1,a2,a3,・・・,anの検知レベルは、図2(c)に示すように、検知区間a4においては「H」から「L」、an−1においては「L」から「L」に時系列で変化する。
【0044】
判定手段23は、現在の検知周期t2における検知区間a4の検知レベルが下側閾値L以上かつ上側閾値H未満であり、直前の検知周期t1の検知区間a4の検知レベルを調べると、上側閾値H以上であるので、現在の検知周期t2の検知区間a4の検知レベルを上側閾値H以上に更新し、直前の検知周期t1の検知区間a4において下した障害物ありとの判定を継続する。現在の検知周期t2における検知区間an−1の検知レベルも下側閾値L以上かつ上側閾値H未満であるので、直前の検知周期t1の検知区間an−1の検知レベルを調べると、下側閾値L以上かつ上側閾値H未満であるので、検知区間an−1単独では障害物なしと判定される。結局、図2(a)に示された物体の存在状況では、踏切障害物検知装置1は、現在の検知周期t2の物体6bが、直前の検知周期t1で障害物と判定した物体6aと同一であると推定され、物体6bも障害物として検知することができる。
【0045】
一方、図2(a)において、物体6cのみが存在したという状況を新たに想定すると、踏切障害物検知装置1は、障害物として検知する必要のない物体6cを、障害物と判定しない。すなわち、誤検知は防止される。
【0046】
ただし、物体6cが定常的に「L」と検出される場合には、an−1に一度「H」と検出される障害物が進入すると、物体6cのみしか存在しない状況であっても、踏切障害物検知装置1は障害物ありと判定してしまう。
【0047】
ところで、図3BのステップS44において、現在の検知周期の検出結果s2(s2n)を上書きする理由は、直前の検知周期の検出結果s2(s2b)だけ参照すれば時系列的なチェックが実現でき、実装時の記憶領域や処理時間を低減できるからである。実装時の記憶領域や処理時間の制約に余裕があるならば、再帰的に過去の検知周期の検出結果s2を参照することによって、検出結果s2を上書きせずに同等の機能が実現できる。すなわち、当該検知区間の検出結果s2が下側閾値L以上かつ上側閾値H未満である限り、1周期前の当該検知区間の検出結果s2を参照し、下側閾値L未満を経由することなく上側閾値H以上に到達可能な場合、当該検知区間に障害物ありと処理すればよい。
【0048】
上記、再帰的に過去の検知周期の検出結果s2を参照する方法であれば、どの検知周期まで遡及可能か制約を設けることが可能である。遡及可能な検知周期に制約を設けることにより、図2(a)において物体6cが定常的に「L」と検出される場合であっても、踏切障害物検知装置1が定常的に、すなわち不必要に障害物ありと判定することを回避することが可能となる。
【0049】
図2(a)の検知手段10による障害物検知領域Aは、踏切道5の面積の半分しかカバーしていない。したがって、残りの半分をカバーするため、図2(a)の踏切道5の右隅に近い位置にもう一つの検知手段が設置される。この検知手段も演算処理装置20に接続される。もう一つの検知手段は、検知手段10との干渉を防ぐため、たとえば検知手段10が送信波を出射していないときに送信波を出射する。または、干渉を防ぐため、検知手段10の送信周波数とずらした送信波を出射することとしてもよい。
【0050】
上記の例では、人が一つの検知区間の中において倒れた場合の障害物検知の方法を説明したが、人が倒れる方向は、検知区間の境界方向に対し垂直または斜め方向になる場合もあり得る。この場合、倒れる前後で人の存在する検知区間が時系列で変化しうる。
【0051】
図4は、検知周期t1においては検知区間a4の検知レベルが上側閾値H以上であったが、検知周期t2においては検知区間a4の検知レベルが下側閾値L未満になり、その代わりに検知区間a5において検知レベルが下側閾値L以上かつ上側閾値H未満として検出された状況の一例を示す。ここで、検知周期t1における検知区間a5の検知レベルは下側閾値L未満である。この事実から、検知周期t1における区間a4の物体が検知周期t2までに検知区間a5に移動して高さ、または大きさが小さくなった、すなわち倒れたと推定することができる。
【0052】
<第2の実施の形態>
本発明の他の実施の形態は、このような場合にも、検知可能にするため、判定手段23に次のような判定アルゴリズムを実行させるようにした。すなわち、直前の検知周期(t1)においてある検知区間(a4)で「H」と検出され、次の検知周期(t2)におけるその検知区間(a4)の近傍の検知区間(a5)で「H」,Lのいずれかが判定されていれば、その判定対象物は直前の検知周期(t1)において検知区間(a4)でHと判定された物が隣接検知区間(a5)に移動したものとみなして、障害物ありと判定するようにしている。
【0053】
第2の実施の形態の障害物有無判定を、図3Bのフローチャートに基づいて述べる。図3Bにおいて、ステップS43を、選択検知区間だけでなく、選択検知区間の近傍の検知区間の直前の検知周期の検出結果s2(s2b)を全て調査し、いずれかが上側閾値H以上であるかを判定するように変更する。これにより、第2の実施の形態が実現され、存在する検知区間と検知レベルが時系列で変化する場合に対応可能となる。
【0054】
近傍の検知区間をどの範囲とするかは、一つの検知区間の距離などにより異なるが、1周期の間に障害物が転倒する際の平均的移動距離を目安として決めることができる。
【0055】
第2の実施の形態は、物体を追跡することに特徴があるが、追跡結果が検知レベルの閾値にフィードバックされる点で特許文献13および特許文献14と本質的に異なる。また、追跡結果は本来検知すべき障害物による信号とノイズを判別することに利用されるため、被検知物の分離・融合等により追跡に失敗したとしても、踏切障害物検知装置としての機能が破綻することはない。
【0056】
<第3の実施の形態>
上記の実施の形態は、検知手段10が出力する検知信号s1の検知レベルの下側閾値Lおよび上側閾値Hとの関係を時系列的にチェックし、その関係が一定の条件を満たす時に障害物があると判定するようにしたものである。上記の踏切障害物検知装置に他の構成を付加することにより、障害物検知性能がさらに向上される踏切障害物検知装置について、図5以下の図面に基づいて説明する。
【0057】
図5に示すように、この踏切障害物検知装置1’は、第1検知手段100と、第2検知手段200と、これら二つの検知手段100,200に電気的に接続された演算処理装置300とを有する。第1検知手段100と第2検知手段200は、互いに異なる検知方式もしくは異なる方向からのセンシングで障害物を検知するものである。たとえば、第1検知手段100は、送信波を障害物検知領域に出射し、障害物からの反射波を受信して障害物を検知するものであり、第2検知手段200は、画像センサである。
【0058】
第1検知手段100には、マイクロ波レーダセンサ、レーザレーダセンサ、ミリ波レーダセンサ、超音波センサのいずれも使用可能であるが、ミリ波レーダセンサは、雨や霧、雪などの天候の影響を受けにくいので、最も好ましい。以下には、第1検知手段100がミリ波レーダセンサである場合について説明する。
【0059】
ミリ波レーダセンサ(100)は、図6に一例を示すように、鉄道線路9と道路5Rが同一平面上で交差する踏切道5Cの長手方向の一端部の側方に設置され、第2検知手段200は、踏切道5Cの長手方向の他端部の第1検知手段100と同じ側の側方に設置されている。なお、図6において、7は電気踏切しゃ断機、8はしゃ断かんである。
【0060】
ミリ波レーダセンサ(100)は、波長が1〜10mm、周波数が30〜300GHzのミリ波を送信アンテナから出射し、その反射波を受信アンテナで受信し、送信波と受信波の差から、踏切道5Cの障害物検知領域内の障害物までの距離と反射強度を測定する機能を有する。
【0061】
ミリ波レーダセンサ(100)の障害物検知領域は、ミリ波の出射角と踏切道5Cの幅との関係で、図6にA1で示すように、ミリ波レーダセンサ(100)のアンテナ部を中心とし、その中心から踏切道5Cの反対側の端部までを半径とする扇形となる。したがって、踏切道5Cの全域を障害物検知領域とするためには、踏切道5Cの対角線のミリ波レーダセンサ(100)と反対側に、A2を障害物検知領域とするもう一つのミリ波レーダセンサ(100’)を設ける必要がある。
【0062】
ミリ波レーダセンサ(100)では、図7に示すように、変調信号発生部101の周波数変調された出力がアンプ102により増幅された後、分配器103に入力され、その分配器103の出力の一部が逓倍器104に入力された後、パワーアンプ105により増幅されて送信アンテナ106から障害物検知領域A1に出射される。障害物検知領域A1に物体が存在する場合は、その物体からの反射波が受信アンテナ107で受信され、その受信信号はアンプ108で増幅された後、分配器103から分配された信号(ローカル信号)とともにミキサー109において重合されて低位の周波数に変換されたビート信号となる。ビート信号は低周波アンプ110で増幅され、処理部111に入力する。
【0063】
このとき、受信波はミリ波レーダセンサ(100)から対象物までの距離Lの往復分(2×L/光速)、送信波に対し時間遅れを持っており、その時間分、周波数が低い(または高い)ことになる。このため、ローカル信号で周波数変換された結果、対象物の距離に応じて周波数が異なっているビート信号が処理部111に入力され、処理部111でFFT(Fast Fourier Transform)処理して対象物までの距離と対象物の大きさ等に応じた反射強度が検出される。処理部111から出力される検知信号s11は、図5の演算処理装置300の第1判定部306に入力される。
【0064】
第2検知手段200は、画像センサであり、図8に示すように、撮像装置201と画像処理装置202とからなっている。画像センサ(200)は、撮像装置201により障害物検知領域を撮像した画像データを画像処理装置202により画像処理して物体を検出し、その物体の大きさに応じた検出信号s12を出力するものである。撮像装置201には、単眼カメラ、ビデオカメラまたはステレオカメラのいずれかを用いることができる。撮像装置201の視野角は、踏切道5Cの全域が撮影対象となるように設定される。しかし、図6に例示するように、ミリ波レーダセンサが2個(100)(100’)設置される場合は、それぞれの障害物検知領域A1,A2が撮影対象となるように画像センサを2個(200)(200’)設置してもよい。画像処理装置202が出力する検出信号s12は、図5の演算処理装置300の第2判定部307に入力される。
【0065】
演算処理装置300は、図5に示すように、制御部301と、検出部302と、記憶部303と、補助判定部304と、出力部305のほか、上記第1判定部306と、上記第2判定部307と、最終判定部308とを有する。
【0066】
検出部302、記憶部303、補助判定部304、出力部305は、図1の検出手段21、記憶手段22、判定手段23および出力手段24と同等物である。そして、第1検知手段100から入力する検知信号s11に対して先の実施の形態について説明したと同様の障害物検知のための作用を行い、判定結果を出力部305に出力する。
【0067】
制御部301は、後述されるように、ミリ波レーダセンサ(100)の送信周期および画像センサ(200)の撮影周期を一致させるための制御信号を与え、また、検出部302ならびに第1判定部306および第2判定部307に、それぞれ下側閾値と上側閾値 (L)(H),(Lt1) (Ht1) ,(Lt2)(Ht2)を設定する。
【0068】
そして、下側閾値と上側閾値 (Lt1)(Ht1)が設定された第1判定部306は、ミリ波レーダセンサ(100)の処理部111から入力した検知信号s11が下側閾値 (Lt1) を超えたときは第1次判定結果s21として低レベル判定信号L1を、また、検知信号s11が上側閾値(Ht1)を超えたときは第1次判定結果s21として高レベル判定信号H1を出力する。同様に、下側閾値と上側閾値 (Lt2)(Ht2)が設定された第2判定部307は、画像センサ(200)の画像処理部202から入力した検知信号s12が下側閾値 (Lt2) を超えたときは第1次判定結果s22として低レベル判定信号L2を、また、検知信号s12が上側閾値(Ht2)を超えたときは第1次判定結果s22として高レベル判定信号H2を出力する。
【0069】
図9(a)は、障害物検知領域A1内に大きさの異なる5種類の物体が存在すると仮定した例を模式的に示す。中白丸はミリ波レーダセンサ(100)にノイズとして検知されるような小物体であり、黒丸は画像センサ(200)にノイズとして検知されるような小物体であり、これらは障害物として検知すべきでない物体である。黒星は障害物として検出対象とされるべき物体、たとえば、倒れている人等であり、白抜きの大星は当然に障害物として検出される物体、たとえば、自動車などである。
【0070】
障害物検知領域A1に図9(a)に示すような物体が存在する場合のミリ波レーダセンサ(100)の検出信号s11は、図9(b)に示すようなものとなる。したがって、第1判定部306は、図9(a)の 障害物検知領域A1に存在する物体については、図9(d)の上段に示すような第1次判定結果s21を最終判定部308に出力する。
【0071】
また、障害物検知領域A1に図9(a)に示すような物体が存在する場合の画像センサ(200)の検出信号s12は、図9(c)に示すようなものとなる。したがって、第2判定部307は、図9(a)の 障害物検知領域A1に存在する物体については、図5(d)の下段に示すような第1次判定結果s22を最終判定部308に出力する。
【0072】
最終判定部308は、第1判定部306からの第1次判定結果s21と第2判定部307からの第1次判定結果s22を障害物検知領域A1のミリ波レーダセンサ(100)と画像センサ(200)に共通する障害物検知区間(a1,a2,a3,・・・an−1,an)ごとに集計する。そして、一つの障害物検知区間に対して共に上側閾値以上のとき(すなわち、H1とH2)、上側閾値以上と下側閾値以上(すなわち、H1とL2)のとき、下側閾値以上と上側閾値以上(すなわち、L1とH2)のとき、または下側閾値以上と下側閾値以上(すなわち、L1とL2)のときは、その1周期において当該検知区間に障害物があると、最終的に判定する。図9(a)の例の場合は、図9(e)に示されているように、障害物検知領域A1の左端から4番目と7番目の区間(a4,a7)に障害物が存在すると判定する。したがって、図9(a)の白抜き大星および黒星が障害物として検知される。
【0073】
最終判定部308は、第1判定部306からの第1次判定結果s21と第2判定部307からの第1次判定結果s22を障害物検知領域A1のミリ波レーダセンサ(100)と画像センサ(200)に共通する障害物検知区間ごとに集計するため、すなわち、第1判定部306からの第1次判定結果s21と第2判定部307からの第1次判定結果s22の最終判定部308への入力タイミングを同期させるため、制御部301は、ミリ波レーダセンサ(100)と画像センサ(200)に、ミリ波出射と撮影を同期させる同期信号を与えている。
【0074】
図10は、最終判定部308が、第1判定部306からの第1次判定結果s21と第2判定部307からの第1次判定結果s22の組み合わせにより障害物の有無を最終的に判定する論理を説明する判定テーブルを示す。その判定テーブルにおいて×は、ノイズ(障害物無し)の判定を示し、一重丸および二重丸は、障害物ありの判定を示す。従来の障害物検知装置においては、1種類の閾値のみを用いているので、図10の判定テーブルのH1の縦列のみ、またはH2の横列のみのいずれか一方においてしか、障害物ありの判定をすることができない。従来の障害物検知装置がミリ波レーダセンサと、画像センサの組み合わせを用いたとしても、図10の判定テーブルのH1の縦列とH2の横列において障害物ありの判定をすることはできても、図10の判定テーブルのL1とL2の条件を満たす障害物、たとえば、上述した倒れた人などを検知することはできない。しかし、本実施の形態においては、図10の判定テーブルのL1とL2の条件を満たす障害物を検知することも可能になる。
【0075】
第1判定部306および第2判定部307の下側閾値と上側閾値(Lt1)(Ht1),(Lt2)(Ht2)は、どの程度の大きさの物体を障害物として対処するかにより設定することができる。また、図10の判定テーブルにおいて、二重丸の障害物は一般的に一重丸の障害物よりも危険性がより高い。
【0076】
したがって、本実施の形態を踏切障害物検知装置に適用する場合は、最終判定部308に最終判定結果が図10の判定テーブルの一重丸および二重丸のいずれに該当するかを表す注意喚起信号(たとえば、普通注意喚起信号と特別注意喚起信号)を出力する機能を付加するとよい。そして、その注意喚起信号を出力部305から図示されていない地上制御装置に伝送する。これにより、地上制御装置は普通注意喚起信号を受信したときは、たとえば、特殊信号発光機を動作させる制御信号を出力し、また、特別注意喚起信号を受信したときは、これを当該踏切に向かって進行する列車に対してブレーキを作用させる制御信号を出力することができる。
【0077】
上には、各センサ(100,200)に対して、閾値を下側閾値と上側閾値の2段に設定した例を説明したが、閾値はたとえば図11に示すように、多段階に設定し、さらに、重み付けなどをすることにより、障害物の種類に応じたより精細な障害物検知と、列車に対するより適切な制御が可能になる。
【0078】
また、上記各種の検知手段の組み合わせ如何により、当該踏切の天候や環境条件に適合する検知能力を有する障害物検知装置の提供が可能である。
【0079】
第3の実施の形態の他の構成では、図5の検出部302、記憶部303、補助判定部304が取り除かれており、引き換えに、同等の時系列処理が第1判定部306および第2判定部307で行われる。第1判定部306および第2判定部307は、障害物ありと判定した場合には、当該検知区間の検知レベルが下側閾値以上かつ上側閾値未満(L1,L2)であっても、上側閾値以上(H1,H2)に書き換えて最終判定部308に出力する。
【0080】
第3の実施の形態のさらに他の構成では、図5の検出部302、記憶部303、補助判定部304が最終判定部の後段に接続されている。この構成では、最終判定結果、すなわち図10の一重丸が下側閾値L以上かつ上側閾値H未満、図10の二重丸が上側閾値H以上相当として、検出部302に入力される。
【0081】
本発明は、天候の変化と比較して急峻かつ局所的変化に対し、誤検知を抑制し、検知能力を向上させるものである。この点で、天候等の比較的緩慢または大域的な変化による誤検知を防止する特許文献7〜12で示された技術とは異なる。一方、本発明の技術は、それら天候等の比較的緩慢な変化による誤検知を防止する技術と背反するものではなく、併用も可能である。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11