特許第6385317号(P6385317)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6385317-眼鏡素材 図000017
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385317
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】眼鏡素材
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20180827BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20180827BHJP
   B29C 39/12 20060101ALI20180827BHJP
   B29C 39/24 20060101ALI20180827BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20180827BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20180827BHJP
   G02C 7/10 20060101ALI20180827BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20180827BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20180827BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20180827BHJP
   B29L 11/00 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   G02C7/02
   B32B27/30 A
   B29C39/12
   B29C39/24
   C08F20/10
   C08F290/06
   G02C7/10
   G02B1/04
   B29K101:10
   B29L9:00
   B29L11:00
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-163047(P2015-163047)
(22)【出願日】2015年8月20日
(65)【公開番号】特開2017-40819(P2017-40819A)
(43)【公開日】2017年2月23日
【審査請求日】2017年5月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】391007507
【氏名又は名称】伊藤光学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100112900
【弁理士】
【氏名又は名称】江間 路子
(74)【代理人】
【識別番号】100136995
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 千織
(74)【代理人】
【識別番号】100163164
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 敏之
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 忠史
(72)【発明者】
【氏名】本多 正和
(72)【発明者】
【氏名】荻野 敬介
(72)【発明者】
【氏名】牧原 照幸
【審査官】 後藤 亮治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−216271(JP,A)
【文献】 特許第4087335(JP,B2)
【文献】 特表2002−539291(JP,A)
【文献】 特開2003−160623(JP,A)
【文献】 特開平05−005011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 − 13/00
B29C 39/00 − 43/58
G02B 1/00 − 3/14
B29L 9/00 − 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体である有機ガラス基材の片面又は両面に、機能性薬剤を含む機能性樹脂層が注型成形により一体化された眼鏡素材において、
前記有機ガラス基材が、チオウレタン系、エピスルフィド系又は(メタ)アクリレート(以下、「(M)Ac」と略す。)系の熱硬化性樹脂原料で成形されるとともに、前記機能性樹脂層が(M)Ac系の熱硬化性樹脂原料(以下「機能性樹脂層原料」という。)で成形され、
該機能性樹脂層原料の重合性成分が、OH基含有アルキル(M)Acと、2官能以上を主体とするその他の(M)Acとからなるものとされて、該OH基含有アルキル(M)Acのアルキルエステル部が−CHCH(OH)CH−を有し、
前記有機ガラス基材と前記機能性樹脂層との間に、接着剤レスで実用密着強度を有する、とを特徴とする眼鏡素材。
【請求項2】
前記OH基含有アルキル(M)Acが、下記構造式(1)で示されるヒドロキシアルキレンジオールジ(M)Acであることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡素材。
【化1】
【請求項3】
前記OH基含有アルキル(M)Acが、下記構造式(2)で示されるアルキレンジオールジグリシジルエーテルアクリレートであることを特徴とする請求項1に記載の眼鏡素材。
【化2】
【請求項4】
前記その他の(M)Acが、下記構造式(3)で示されるポリアルキレングリコールジ(M)Acを主体とするものであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の眼鏡素材。
【化3】
【請求項5】
前記その他の(M)Acとして、さらに下記構造式(4)で示されるアルコキシ化ビスフェノールA(M)Acを含有することを特徴とする請求項4に記載の眼鏡素材。
【化4】
【請求項6】
前記機能性樹脂層原料が、フォトクロミック剤を含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の眼鏡素材。
【請求項7】
前記機能性樹脂層の肉厚が、0.2〜3mmであることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の眼鏡素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形体である有機ガラス基材(基材レンズ)の片面又は両面に機能性樹脂層が注型成形により一体化された眼鏡素材に関する。更に、詳しくは、有機ガラス基材が特定の熱硬化性樹脂原料で成形されるとともに、機能性樹脂層がフォトクロミック剤、さらには特定波長吸収剤(紫外線吸収剤、赤外線吸収剤等)のような高価な薬剤(機能性薬剤)を含む(メタ)アクリレート(以下「(M)Ac」と略すことがある。)系の熱硬化性樹脂原料(機能性樹脂層原料)で成形されている眼鏡素材(眼鏡レンズ)に係る発明である。
【0002】
ここで、眼鏡素材として、フォトクロミックレンズを例に採り説明するが、フォトクロミック剤を含有しないサングラス等にも適用可能である。
【0003】
ここで、(M)Acとは、単官能〜4官能のアクリレート基およびメタクリレート基の一方又は双方を含む熱硬化性のモノマー乃至オリゴマーをいう。
【0004】
本願明細書で、「配合組成」は、特に断らない限り質量単位である。
【背景技術】
【0005】
従来のフォトクロミックレンズに関して、本願出願人と同一出願人に係る特許文献2〔0002〜0008〕を、編集を加えながら、次に引用する。なお、引用中の「特許文献1」は、本願明細書において〔特許文献1〕として記載したものに対応する。
【0006】
「従来、フォトクロミックレンズは、レンズ(半製品)を成形(通常、注型成形)した後、顧客の処方度数に切削・研磨して製品としている。
【0007】
この製法では、切削時に成形レンズの相当部分を廃棄することになり、同時に添加された高価なフォトクロミック剤も廃棄されしまい不経済であった。
【0008】
さらに、フォトクロミックレンズが中程度以上の度付きレンズである場合、内外周の厚みの差から色調に濃淡差が発生してしまい、ファッション性の観点からも問題があった。
【0009】
すなわち、可及的に薄く、厚み差が少なくて色調に濃淡差が発生し難い度付きレンズの製造方法が希求されている。
【0010】
そこで、特許文献1に記載されている下記製造方法を適用することが考えられる(〔0005〕参照)。
【0011】
『少なくとも2種類の樹脂素材を用い屈折率が1.45以上の樹脂レンズを製造する方法であって、少なくとも1種類の樹脂素材を流動性のない成形体となし、該成形体の密着面にキャビティを形成し、該キャビティに前記樹脂素材とは性質の異なる別の素材原料を注入してキャビティ内で重合硬化させることにより、少なくとも2種類の性質の異なる樹脂素材が相互に密着し一体化した樹脂成型物を得て、該樹脂成型物から前記少なくとも2種類の性質の異なる樹脂素材の性質が相互に補完しあうことにより、表面反射特性、物性、染色性および加工性の少なくとも1種が向上したレンズを製造することを特徴とする。』
【0012】
しかし、特許文献1では、同文献の表3「重合性密着テスト」に示される如く、基材レンズ:チオウレタン系樹脂(MR系)(ne=1.60)と機能性樹脂層:(M)Ac系樹脂(PMMA)(ne=1.55)の組み合わせでは、密着性は得難い。」
【0013】
上記のように基材レンズと機能性樹脂層との間に実用密着強度を有しない場合、接着剤層を基材レンズの機能性樹脂層形成面側に介在させることが考えられる。
【0014】
例えば、特許文献2では、接着剤層を備えた樹脂レンズに係る下記構成の製造方法が提案されている。
【0015】
「基材レンズを第一モールドとし、該第一モールドの片面又は両面側に第二モールドを、所定間隙間を有するように、配するとともに、前記第一・第二モールド間の周面隙間をテーピング又はガスケットでシールしてキャビティを構成し、
該キャビティに機能性付与剤を含有させた液状樹脂原料を注入し機能性樹脂層を注型成形して、前記基材レンズと前記機能性樹脂層とを一体化する樹脂レンズの製造方法において、
前記機能性樹脂層の形成側面に熱可塑性エラストマーの接着剤層を形成した基材レンズを前記第一モールドとする、ことを特徴とする。」(特許文献2、請求項1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第4087335号公報
【特許文献2】特開2014−156067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、特許文献2に記載のような、基材レンズ(有機ガラス基材)と機能性樹脂層との間に接着剤層が介在する場合は、有機ガラス基材に接着剤を塗布する必要があり、製造工数が嵩みやすい。
【0018】
更には、接着剤層の形成材料や厚みによっては、屈折異常や色むらが発生するおそれがある。
【0019】
なお、特許文献1には、前述の如く、有機ガラス基材と前記機能性樹脂層が接着剤レスで実用密着強度を備えた一体化が可能とされている眼鏡素材(樹脂レンズ)が記載されているが、機能性樹脂層を(M)Ac樹脂で形成する場合、有機ガラス基材が(M)Ac系樹脂(アクリル樹脂:PMMA)のときを除き、チオウレタン系(ウレタン樹脂:MR6,7,8)又はエピスルフィド系(エポキシ樹脂:HIE)のとき、有機ガラス基材と機能性樹脂層との間に実用密着強度を有しないことが分かる(特許文献1、表3、MMAモノマーの列参照)。
【0020】
さらに、基材レンズおよび機能性樹脂層の双方とも(M)Ac系樹脂の組み合わせであっても、機能性樹脂層原料の重合性成分として、OH基含有アルキル(M)Acを含有しない場合は、レンズ外観に白濁が観察され、更には、密着性評価において有機ガラス基材と機能性樹脂層との間に実用密着強度を得難いことを確認している。
【0021】
すなわち、眼鏡素材(製品レンズ)に係る密着性評価における煮沸試験(沸騰水1h浸漬)および万力試験(破壊するまで力を加える)の双方において、「剥がれ」が発生して、実用密着強度を得難いことを確認している(本願明細書の表2-1,2-2,2-3)。
【0022】
本発明は、上記にかんがみて、有機ガラス基材と機能性樹脂層との間に、接着剤レスで実用密着強度を有する眼鏡素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意開発に努力をする過程で、樹脂成形体である有機ガラス基材(基材レンズ)の片面又は両面に機能性樹脂層が注型成形により一体化された眼鏡素材において、下記構成の如く、特定有機ガラス基材と、特定(M)Ac樹脂組成物の熱硬化物からなる機能性樹脂層との組み合わせとすれば、上記課題を解決できることを知見して、下記構成の眼鏡素材に想到した。
【0024】
樹脂成形体である有機ガラス基材の片面又は両面に、機能性薬剤を含む機能性樹脂層が注型成形により一体化された眼鏡素材において、
前記有機ガラス基材が、チオウレタン系、エピスルフィド系又は(メタ)アクリレート(以下、「(M)Ac」と略す。)系の熱硬化性樹脂原料で成形されるとともに、前記機能性樹脂層が(M)Ac系の熱硬化性樹脂原料(以下「機能性樹脂層原料」という。)で成形され、
該機能性樹脂層原料の重合性成分が、OH基含有アルキル(M)Acと、2官能以上を主体とするその他の(M)Acとからなるものとされて、該OH基含有アルキル(M)Acのアルキルエステル部が−CHCH(OH)CH−を有し、
前記有機ガラス基材と前記機能性樹脂層との間に、接着剤レスで実用密着強度を有する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の眼鏡素材の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の眼鏡素材(眼鏡レンズ)について、その製造方法の説明を伴いながら、説明する。ここでは、基材レンズの片面に機能性樹脂層を一体化する場合を例にとるが、両面に機能性樹脂層を一体化する場合も同様である。
【0027】
(1)基材レンズの成形
基材レンズ11は、チオウレタン系、エピスルフィド系又は(M)Ac系から選択される熱硬化性樹脂材料で成形する。この成形方法は注型成形とする。
【0028】
テーピング方式による成形では重合収縮により基材レンズ11の周面(コバ面)に凹凸が生じる。この周面に凹凸があると、後に実施する機能性樹脂層15をテーピング方式で成形する際、テーピング19によるキャビティ21の封止が十分にできず、機能性樹脂層15の液状樹脂原料がキャビティ21から漏出しボイドが形成されてしまうおそれがある。このため、注型成形後の基材レンズ11に対して必要最小限の周面切削を行う。なお、基材レンズ11の外径は、この後に機能性樹脂層15成形で使用する第二モールド17の外径と同じにする。
【0029】
上記基材レンズを形成する熱硬化性樹脂としては、後述の如く、機能性樹脂層を低屈折率乃至中屈折率(例えば、ne:1.45以上1.55未満)の(M)Acを使用するため、それ以上の屈折率を有すれば、中屈折率(例えば、1.50以上1.60未満)の(M)Acでもよい。基材レンズ薄肉化等の見地から、高屈折率(例えば、ne:1.60以上)の下記チオウレタン系樹脂(a)、エピスルフィド系樹脂(b)等の硫黄含有熱硬化性樹脂を使用することが望ましいが、後述の(c)(M)Ac系樹脂であってもよい。
【0030】
(a)チオウレタン系樹脂とは、ポリウレタン結合(-NHCOO-)の酸素原子の少なくとも1個が硫黄原子に入れ替わった結合(-NHCOS-、-NHCSO-、-NHCSS-)を有するポリマー(樹脂)を意味する。該樹脂原料としては、ポリイソシアナト、ポリイソチオシアナト、ポリイソシアナトチオイソシアナトより選ばれる1種または2種以上とイソシアナト成分と、ポリチオールおよび適宜ポリオールより選ばれる1種または2種以上の公知の活性水素化合物成分とを適宜組み合わせた重合性成分を好適に使用できる(特開平8−208792号公報等参照)。
【0031】
ここでポリイソシアナトとしては、脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・チオカルボニル(チオケトン)誘導体を母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、脂肪族系又は脂環式系のポリイソシアナトが望ましい。
【0032】
また、ポリチオールとしては、同様に脂肪族系、脂環式系、芳香族系及びそれらの誘導体さらにはそれらの炭素鎖の一部に硫黄を導入したスルフィド・ポリスルフィド・ポリチオエーテルを母体化合物とするものを挙げることができる。これらのうちで、耐黄変性の見地から、同様に脂肪族系又は脂環式系のポリオールが望ましい。
【0033】
具体的には、下記構造式(1)で示されるポリチオエーテルを母体化合物とするものからなる又は主体とするものであることが望ましい。
【0034】
【化1】
【0035】
他のポリチオールとしては、分岐炭化水素多価アルコールのω-メルカプト脂肪族カルボン酸の全置換エステルを好適に使用できる。
【0036】
具体的には、トリメチロールプロパントリス(2-メルカプトグリコレート)、ペンタエリトリトールテトラキス(2-メルカプトグリコレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、 ペンタエリトリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)等を挙げることができる。
【0037】
(b)エピスルフィド系樹脂とは、ジチオエポキシ化合物と硬化剤と、さらには、その他の重合性化合物とを反応させて得られるポリマー(樹脂)を意味し、例えば、下記構造式(2)で示される直鎖アルキルスルフィド型ジチオエポキシ化合物を硬化させて得られる公知のものを使用できる(特開平9−110979号、特開平10−114764号公報等)。
【0038】
【化2】
【0039】
上記硬化剤としては、通常のエポキシ樹脂用硬化剤であるアミン類、有機酸類、又は無機酸類を使用できる。
【0040】
(c)(M)Ac系樹脂としては、後述の「(4)機能性樹脂層の注型成形」の項において、機能性樹脂層原料の一方である「2官能以上を主体とするその他の(M)Ac」として例示したもの等を好適に使用できる。
【0041】
これらの基材レンズの熱硬化性樹脂原料には、眼球保護の見地から、汎用の紫外線吸収剤を添加することが望ましい。
【0042】
(2)キャビティの作成:
本実施形態の機能性樹脂層15の成形型のキャビティ21は、基材レンズを第一モールド11とし、該第一モールド11の片面側に略一定の所定隙間が形成されるように第二モールド17を配するとともに、第一・第二モールド11、17の周面隙間をテーピング19でシールして構成する。図例ではテーピング方式であるが、ガスケットシール方式でもよい。
【0043】
また、第二モールド17は、通常、ガラス製とするが、ガラス製に限らず、セラミック製でもよく、更には、成形時耐熱性を有すれば樹脂製であってもよい。
【0044】
また、キャビティ21の隙間(前記所定隙間)は、樹脂原料流動特性や機能性樹脂層15に要求される機能性付与度等により異なる。通常、注型成形性および機能性の観点から、機能性樹脂層15の肉厚が、0.2mm以上、望ましくは0.3mm以上、さらに望ましくは0.5mm以上とし、ファッション性、軽量化の観点から3mm以下、望ましくは1.5mm以下、さらに望ましくは1mm以下となるような隙間とする。
【0045】
(3)機能性樹脂層の注型成形
機能性薬剤が添加された(M)Ac系の熱硬化性樹脂原料(以下「機能性樹脂層原料」)を、上記キャビティ21に注入し、加熱重合や紫外線(光)重合などの手段により硬化させて、機能性樹脂層15を基材レンズ11と一体化させる。
【0046】
ここで、機能性薬剤としては、通常、フォトクロミック剤を使用するが、フォトクロミック剤とともに又はそれを使用せずに、紫外線吸収剤や赤外線吸収剤等の特定波長吸収剤を使用することができる。これらの薬剤は、適宜溶剤に拡散させて、液状樹脂原料に混合する。
【0047】
上記フォトクロミック剤としては、スピロピラン系化合物、スピロオキサジン系化合物、クロメン系化合物およびフルギド系化合物等を好適に使用できる。
【0048】
ここで使用する機能性樹脂層原料の重合性成分を、OH基含有アルキル(M)Acと、2官能以上を主体とするその他の(M)Acとからなるものとする。
【0049】
ここで、OH基含有アルキル(M)Acとしては、単官能のOH基含有アルキル(M)Acであってもよいが、架橋密度確保等の見地から、2官能以上が望ましく、更には、アルキルエステル部が−CH2CH(OH)CH2−を有する、下記構造式(3)で示される、ヒドロキシアルキレンジオールジ(M)Ac、又は下記構造式(4)で示されるアルキレンジオールジグリシジルエーテルアクリレートが望ましい。理由は断定できないが、これらのOH基は、チオール基、エピスルフィド基更には加水分解性アクリレート等との反応性に富むためと推定される。
【0050】
【化3】
【0051】
【化4】
【0052】
より具体的にヒドロキシアルキレンジオールジ(M)Acとしては、2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロプロパン(「701A」)を挙げることができる。また、アルキレンジオールジグリシジルエーテルアクリレートとしては、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルアクリレートを挙げることができる。
【0053】
2官能を主体とするその他の(M)Acとしては、下記のような2官能〜4官能の汎用(M)Acを使用可能である。なお、熱硬化性(所要の架橋密度)を得られる限り、少量の単官能のアルキル(M)Ac(アルキル炭素数:1〜4)も併用可能である。
【0054】
2官能:1,6-ヘキサンジオールジ(M)Ac、1,9-ノナンジオールジ(M)Ac、イソノナンジオールジ(M)Ac、1,10-デカンジオールジ(M)Ac、ネオペンチルグリコールジ(M)Ac、ポリエチレン・プロピレングリコールジジ(M)Ac類(EO数:3〜10、PO数:2〜8)、ジオキサン(M)Ac、ジアルコキシ化ビスフェノールAジ(M)Ac類(アルコキシ化数:2〜18(構造式(6)参照)
【0055】
3官能:トリシクロデカノール(M)Ac、トリメチロールプロパン(M)Ac、グリセリン(M)Ac、トリメチロールプロパン(M)Ac
【0056】
3〜4官能:アルコキシ化ペンタエリスリトール(M)Ac類、(アルコキシ化)ジトリメチロールプロパンアクリレート類、
【0057】
これらの内で、構造式(5)で代表されるポリエチレングリコールジ(M)Ac類(より具体的には、PEG平均分子量:#200〜#600の製品番号で上市されているもの)と、構造式(6)で代表されるジアルコキシ化ビスフェノールAジ(M)Ac類とを併用することが望ましい。
【0058】
【化5】
【0059】
【化6】
【0060】
ポリエチレングリコールジ(M)Ac類とビスフェノールAジ(M)Ac類を併用することにより、機能性樹脂層と基材レンズ間の熱膨張率差の低減及び透明性、更には耐熱性の向上が期待できるためである。
【0061】
上記OH基含有アルキル(M)Acとその他の(M)Acとの比率は、それらの(M)Ac基数及び分子量更には反応基数等により異なるが、通常、前者/後者=2.5/97.5〜70/30、望ましくは前者/後者=10/90〜65/35部の範囲から適宜選択する。OH基含有アルキル(M)Acが過少では有機ガラス基材と機能性樹脂層との間に実用的密着強度を得難い。
【0062】
なお、有機ガラス基材および機能性樹脂層の樹脂原料には、上記以外に、種々の添加剤、例えば、染料、青味付け(ブルーイング)剤、内部離型剤、消臭剤、酸化防止剤、安定剤、重合開始剤、硬化剤等を必要に応じて添加してもよい。なお、樹脂硬化(架橋重合)は、熱硬化重合、紫外線硬化重合等で行う。また、(M)Ac系の機能性樹脂層原料中に、フォトクロミック剤等の機能性薬剤がマスターバッチ的に添加されている場合でも、適宜、フォトクロミズムの要求特性により、フォトクロミック剤をさらに添加する場合がある。
【0063】
(4)樹脂レンズの離型取り出し・後処理:
機能性樹脂層脂原料の架橋(重合)硬化により、機能性樹脂層15と基材レンズ(第一モールド)11とが一体化した成形品(樹脂レンズ)となる。該成形品を第二モールド17から離型することにより樹脂レンズを取り出す。
【0064】
こうして製造した機能性樹脂層15を備えた樹脂レンズの表面を、一般的に行われている強化塗膜(ハードコート)を塗布し、硬度等の改質処理することが望ましい。
【0065】
さらに、防曇処理加工、反射防止加工、撥水処理加工、帯電防止処理加工等の汎用の表面処理を適宜施す。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を、比較例群とともに実施例群に基づいて更に詳細に説明する。
【0067】
(1)基材レンズの成形
下記成形型に下記各種重合性樹脂原料を注入し、下記加熱硬化条件で成形した。なお、加熱硬化温度までは均一に重合させ、硬化後は成形品にクラック(ひび)等が発生しないように、除昇温・降温させたことは勿論である(機能性樹脂層の加熱硬化の場合も同様)。
【0068】
・チオウレタン系、エピスルフィド系:120℃×2h
・(M)Ac系:80℃×1h
【0069】
<成形型>
下記仕様の凸面側モールドおよび凹面側モールドの2枚1組を中心間隔5.0mmとなるように粘着テープでテーピングして、基材レンズ成形用のキャビティを有する成形型を作成した。
【0070】
・凸面側モールド:ガラス製、φ80mm、R=66.16mm、CT=4.0mm
・凹面側モールド:ガラス製、φ80mm、R=66.16mm、CT=4.0mm
【0071】
<基材レンズ材料(重合性樹脂原料)>
基材レンズ材料は、それぞれ下記のようにして調製したものを使用した。
【0072】
1)チオウレタン系樹脂
2,5-ビシクロ[2,2,1]ヘプタンビス(メチルイソシアナト):100部に硬化剤(ジブチルチン系):0.1部、内部離型剤:2部、更に紫外線吸収剤:2.0部を液温15℃窒素ガス雰囲気下で1時間充分に撹拌した。その後、更にペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート):50部と4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール:50部を添加し、更に窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら1時間混合撹拌した。続いて、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで撹拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターでろ過して屈折率(ne)1.60のチオウレタン系の樹脂原料を調製した。
【0073】
2)エピスルフィド系樹脂
ビス(2,3-エピチオプロピル)ジスルフィド:90部、4,7-ビス(メルカプトメチル)-3,6,9-トリチア-1,11-ウンデカンジチオール:10部を窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分混合撹拌し、硬化剤(アミン系):0.3部、香気性付与剤:0.3部、更に紫外線吸収剤:1.5部をそれぞれ添加し、更に窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分混合撹拌した。続いて、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで撹拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターでろ過して屈折率(ne)1.74のエピスルフィド系樹脂の樹脂原料を調製した。
【0074】
3)(M)Ac系樹脂
NK11P(日本清水産業製)(熱硬化性MMA):100部、窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分混合撹拌し、分子量調整剤:4部、硬化剤(有機過酸化物):1.4部、紫外線吸収剤1.0部をそれぞれ添加し、更に窒素ガス雰囲気下で15℃に温度調節しながら30分混合撹拌した。続いて、真空ポンプを用いて液温度15℃、133Paで撹拌しながら1時間脱気後、1μmフィルターでろ過して屈折率(ne)1.56の(M)Ac系の樹脂原料を調製した。
【0075】
(2)機能性樹脂層の注型成形
上記で調製した基材レンズ11を第一モールドとし、下記のように調製した成形型に、表2−1(実施例1群),表2−2(実施例2群)、表2−3(実施例3群)の組み合わせで、表1−1・1−2の機能性樹脂層原料を注入し、加熱硬化条件(90℃×2h)で重合させて、機能性樹脂層を注型成形した。
【0076】
<成形型>
上記基材レンズ用成形型で成形した基材レンズを第一モールド(凹面側)11とし、上記成形型で使用したのと同一仕様第二モールド(凸面側)17を用いて中心間隔が0.6mmとなるように粘着テープでテーピング19してキャビティ21(成形型)を作成した。
【0077】
なお、そのときの各モールドの仕様は、下記の通りである。
・第一モールド11:基材レンズ、φ80mm、R(接着面)=66.16mm、CT=5.0mm
・第二モールド17:ガラス製、φ80mm、R=66.16mm、CT=4.0mm
【0078】
<機能性樹脂層原料>
表1−1及び表1−2に機能性樹脂層原料A-0〜A-14およびB-0〜B−8の各組成を示す。各表における(M)Acは、下記の通りである。
【0079】
なお、各(M)Acの表1−1及び表1−2におけるタイトルは、各(M)Acの市販品名(営業秘密)の全部又は一部を借用したものである。
【0080】
1)OH基含有アルキル(M)Ac
「701A」:2-ヒドロキシ-1,3-ジメタクリロキシプロパン(2官能)(構造式(3)参照)
「EA5520」:1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルアクリレート(2官能)(構造式(4)参照)
【0081】
2)その他の(M)Ac
「FM220M」:ポリエチレングリコール♯200ジメタクリレート(2官能)(構造式(5)参照)
「BPE900」:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(EO数:17)(2官能)(構造式(6)参照)
「BPE500」:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(EO数:10)(2官能)(構造式(6)参照)
「500PRE」:(M)Ac系のフォトクロミック機能レンズ原料(株式会社トクヤマ製品名)(熱硬化性PMMA)
【0082】
【表1-1】
【0083】
【表1-2】
【0084】
(3)評価試験:
上記で調製したフォトクロミックレンズ(眼鏡レンズ;眼鏡素材)について下記試験方法により評価した。
【0085】
<試験方法>
上記で得た各試料について、下記項目の評価試験を行った。
【0086】
・レンズ外観:目視により外観を観察し、綺麗であるものを「良好」、白濁が観察されるものを「白濁」とした。
【0087】
・密着性(煮沸試験):沸騰水中に60分浸漬後、機能性樹脂層と基材との剥れ有無を目視観察した。
【0088】
・密着性(万力試験):試料(中心厚2mm平面レンズ)の両面中央から万力で破壊するまで力を加え、界面における「剥がれ」(部分的な場合を含む。)の有無を観察した。
【0089】
<結果考察>
上記評価試験の結果を表2−1・2−2・2−3に示す。
【0090】
1)レンズ外観
各実施例群のレンズは、いずれにおいても、白濁が観察されず良好であったのに対し、比較例群のレンズは、いずれも白濁が観察された。
【0091】
2)密着性
各実施例群は、機能性樹脂層と基材レンズとの間の密着性において、煮沸試験及び万力試験のいずれにおいても、問題がない(剥がれが発生せず良好)ことが確認できた。
【0092】
これに対して、各比較例群は、機能性樹脂層と基材レンズとの間の密着性において、沸試験及び万力試験のいずれにおいても、問題(剥がれが発生)があった。
【0093】
【表2-1】
【0094】
【表2-2】
【0095】
【表2-3】
【符号の説明】
【0096】
11 基材レンズ(有機ガラス基材)(第一モールド)
15 機能性樹脂層
17 第二モールド
19 テーピング
21 キャビティ
図1