【実施例】
【0056】
以下に、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0057】
[実施例1 Sp−Kt−EGFP、Kt−Sp−EGFP及びKt−EGFPの翻訳効率の測定]
古細菌のリボソーム蛋白質であるL7Ae蛋白質が結合するRNAモチーフであるkink−turnRNAモチーフを5’UTRに設け、EGFPの遺伝子をコードする三種のmRNAを設計した。kink−turnRNAモチーフを、以下、本明細書において、Ktモチーフと指称する。
図2に設計の概要を示す。
図2(A)は、mRNAの5’UTRにおいて、5’末端から、Cap構造、スペーサー、Ktを配置した構造であり、Sp−Kt−EGFPと指称する。
図2(B)は、mRNAの5’UTRにおいて、5’末端から、Cap構造、Ktモチーフ、スペーサーを配置した構造であり、Kt−Sp−EGFPと指称する。また、図示はしていないが、5’UTRにスペーサーを設けずに、Cap構造、Ktを配置した構造のmRNAも設計した。これを、Kt−EGFPと指称する。Sp−Kt−EGFP、Kt−Sp−EGFP及びKt−EGFPの5’UTRの詳細な配列は、下記の表5に示す。下記(1)に記載の方法にしたがって、これらのmRNAを発現するプラスミドを作製した。
【0058】
次に、下記(2)に従って、トリガー蛋白質としてL7Aeを発現するプラスミドを作製し、下記(3)〜(5)に従って、それぞれのmRNAを発現するプラスミドを細胞にトランスフェクションし、その翻訳効率を測定した。その結果、Sp−Kt−EGFP、Kt−EGFPでは発現が抑制されたのに対し、Kt−Sp−EGFPではそのような効果はみられなかった。この結果から、5‘末端とKtの間にスペーサーがあることでL7Aeによる翻訳抑制効果が、0.019から0.23と減少することが分かった。
【0059】
[実施例2 5’末端からのKtモチーフの位置を変えたmRNAの調製]
次に、5’末端から18塩基、51塩基、67塩基、94塩基、120塩基、145塩基、及び320塩基目に、Ktモチーフの5’末端の塩基が位置するようにスペーサーを設けたmRNAを設計した。Ktモチーフの数は一つとした。それぞれのmRNAにおける5’UTRの塩基配列は、下記表5の18nt−Kt、51nt−Kt、67nt−Kt、94nt−Kt、120nt−Kt、145nt−Kt、320nt−Ktに示す。これらのmRNAを発現するプラスミドを作製し、その翻訳効率を調べた。
図3にmRNAの設計の概要を示す。その結果、Ktに特異的に結合するトリガー蛋白質であるL7Ae蛋白質の存在下において、翻訳効率は、スペーサーの塩基数が多いほど、すなわちKtの5’末端からの距離が長いほど高い結果となった。逆に言えば、Ktモチーフが5’末端の近傍に位置するほど、翻訳の抑制が強くなることがわかった。Ktモチーフの5’末端からの距離に対する、翻訳効率を示すグラフを
図4に示す。
【0060】
対照として、下記表5の各mRNAの5’UTRの塩基配列において、下線部のG、Aを、それぞれCに置換したmRNAを作製し、18nt−dKt、51nt−dKt、67nt−dKt、94nt−dKt、120nt−dKt、145nt−dKt、320nt−dKt、とした。下線部のG、Aを、それぞれCに置換すると、L7Ae蛋白質が結合しなくなることが知られている。なお、dKtは、Ktモチーフを不活性化した構造体である。これらについても、L7Ae蛋白質の存在下において、同様の方法で翻訳効率を調べた。結果は、翻訳効率を示すグラフを同様に
図4に示した。Ktモチーフを構成する塩基のうちの2つを、Cに置換したdKtモチーフを挿入したmRNAでは、dKtモチーフの5’末端からの距離によらず、翻訳の抑制は生じなかった。
【0061】
【表5-1】
【表5-2】
表中、開始コドンはボールド体で表示した。Ktモチーフの両端にあたる、BglII部位及びBamHI部位は、イタリック体で表示した。下線は、Ktモチーフを不活性化してdKtモチーフとする際にCに置換された塩基である。
【0062】
これらの結果により、本発明における目的蛋白質の翻訳制御には、目的蛋白質をコードするmRNAとトリガー蛋白質であるL7Aeとの結合が必須であり、オープンリーディングフレームとmRNAの5’末端の距離、すなわちスペーサーが必須の要素ではないことが示された。そして、L7Aeの発現量(存在量)が一定であっても、翻訳効率は、スペーサーの長さにほぼ比例して増加することがわかった。すなわち、mRNAの5’末端とRNAモチーフ(Ktモチーフ)の距離により、目的蛋白質の翻訳を定量的に調整することができることがわかった。
【0063】
[実施例3 二次元的アプローチ]
実施例1、2の結果において、KtモチーフとL7Aeによる翻訳の抑制は、約2%〜約20%の間であることがわかった。KtモチーフがmRNAの5’末端から164塩基より離れた場合はそれ以上の抑制は見られず、約20%の翻訳効率となる。本実施例においては、翻訳調整が可能な範囲を広げるために、Ktモチーフに換えて、K−loop RNAモチーフを導入したmRNAを用いることとした。K−loop RNAモチーフの構造を、
図5(A)に示す。また、以下、本明細書において、K−loop RNAモチーフを、Klモチーフと指称する。Klモチーフは、Ktモチーフと比較して、L7Aeへの結合力が500倍程度弱いことがわかっている。そのため、Klモチーフを設けたmRNAのL7Ae存在下における翻訳の抑制は、KlモチーフをKtモチーフに換えた以外は同条件のmRNAのL7Ae存在下における翻訳の抑制より、弱いものとなる。
【0064】
本発明者らは、Klモチーフを設けた複数種類のmRNAを調製した。
図6に概要を示す。具体的には、Klモチーフの数を1つとしたmRNA(
図6(A))、Klモチーフの数を2つとしたmRNA(
図6(B))、さらにKlモチーフの数を3、4としたmRNA(
図6(C))を調製した。さらに、これらのmRNAにおいて、もっとも5’末端に近いKlモチーフの5’末端からの距離を、18塩基、67塩基、120塩基、164塩基とし、開始コドン、オープンリーディングフレーム及び3’UTRの構造は同一とした16種類のmRNAを調製した。詳細を下記の表6に示す。複数のKlモチーフを含む場合、隣り合うKlモチーフ間の距離は、6塩基とした。
【0065】
【表6-1】
【表6-2】
表中、開始コドンはボールド体で表示し、下線は、Klモチーフを示す。
【0066】
これらの16種類のmRNAについて、実施例1、2と同様の方法で翻訳効率を測定した。結果を
図7及び
図8に示す。
図7及び
図8のグラフに示されるように、Klモチーフの数が多いほど、また、KlモチーフがmRNAの5’末端の近くに存在するほど、EGFPの翻訳効率が抑制されていることがわかる。すなわち、導入されるKlモチーフの数、及びKlモチーフ挿入位置の二つのパラメータを用いることにより、翻訳効率をかなり精密に調整できることがわかった。
図8においては、比較のために、Klに変えて、一つのKtモチーフを同様にして導入したmRNAの翻訳効率についてもグラフに示す。Klモチーフを導入した16種類のmRNAにおいて、目的蛋白質の翻訳調整が可能な範囲は、約3%〜約75%の範囲であった。
【0067】
さらに、Klモチーフを改変したKink loop 2モチーフを同様に導入したmRNAを設計し、プラスミドを構築した。以下、本明細書において、Kink loop 2モチーフを、Kl2モチーフと指称する。Kl2モチーフの構造を
図5(B)に示す。この実験では、二種のmRNAを設計した。いっぽうは、Kl2モチーフを1つ、mRNAの5’末端から32塩基目に導入した。もういっぽうは、Kl2モチーフを2つ、5’末端に近いKlモチーフの5’末端からの距離が、5’末端から32塩基目となるように設計した。詳細を下記表7に示す。オープンリーディングフレームは、ECFP遺伝子をコードするものとした。そして、それぞれについて、ベクターを作製し、L7AeもしくはMS2CPの存在する細胞にトランスフェクトし、フローサイトメトリー測定により翻訳効率を測定した。3回の実験の結果、Kl2モチーフを1つ導入したmRNAの平均翻訳効率は、0.84であり、Kl2モチーフを2つ導入したmRNAの平均翻訳効率は、0.093であった。
【0068】
【表7】
表中、開始コドンはボールド体で表示し、下線は、Kl2モチーフを示す。
【0069】
レポーター遺伝子の発現が転写後に調節されたものであるかを確認するために、細胞内で一時的に発現した、設計したmRNAの量を、リアルタイム定量PCRで調べた。この実験では、Klモチーフの数が1もしくは4であり、もっとも5’末端に近いKlモチーフの5’末端からの距離が、18塩基もしくは164塩基の場合の4種類のmRNAについて測定した。結果を
図10に示す。
図10のグラフから、相対的なmRNAの転写レベルは、5’UTRの構造やトリガー蛋白質の結合に影響を受けないことが確認された。
【0070】
[実施例4 一つの細胞における、二つの異なるmRNAの同時コントロール]
次に、エフェクター分子である単一のトリガー蛋白質が、同時にかつ独立して、異なるように調節されたシス調節因子を有する複数の遺伝子の発現を調節することができるのかを調べた。
図9にこの実験の概念図を示す。同一のトリガー蛋白質に特異的に結合するRNAモチーフを有し、かつ5’UTR調節構造部の構造が異なるmRNAをコードする第1のレポータープラスミドと第2のレポータープラスミドを含むプラスミドのセットを設計した。そして、これらのプラスミドを、当該RNAモチーフに特異的に結合するトリガー蛋白質が存在する細胞及び存在しない細胞にトランスフェクトした。第1のレポータープラスミドは、5’位置にひとつのKtモチーフもしくはdKtモチーフを有するEGFPをコードするmRNAであった(
図2(A)の構造を参照)。第2のレポータープラスミドは、ECFP(enhanced cyan fluorescent protein)をコードするmRNAであって、その5’UTRに、実施例3で用いたような二次元的にアレンジされたKlモチーフを有するものであった。第1のレポータープラスミド及び第2のレポータープラスミドの各セットは、三段階に調節された発現効率を有するmRNAを発現するように構成されていた。低い発現効率の構築物は、Kt−EGFP、18nt−3xKl−ECFPであり、高い発現効率の構築物は、dKt−EGFP、120nt−1xKl−ECFPであり、中間程度の発現効率の構築物は、Sp−Kt−EGFP、67nt−3xKl−ECFPであった。これらを以下の表8に示す。9種類のセットをそれぞれ、表8に示す番号により指称する
【0071】
【表8】
【0072】
Ktモチーフ及びKlモチーフの両方に対してトリガー蛋白質として機能するL7Ae蛋白質の非存在下では、9種のセットをトランスフェクトしたすべての細胞において、EGFP及びECFPは一様に発現し、異なる5’UTR構造には関係なかった。いっぽう、L7Ae蛋白質の存在下では、EGFP及びECFPの発現効率は、各mRNAの5’UTRの構造によって異なり、9種類の異なる蛍光プロファイルが得られた。結果を
図11に示す。
図11中の番号は、上記表8中のセットに対応する。各mRNAのアウトプット、すなわち各mRNAが翻訳されて生じる蛋白質の量が、他のmRNAのアウトプットと異なることは、L7Ae蛋白質が、5’UTR調整構造部及び目的蛋白質遺伝子が異なる二種類のmRNAの翻訳を、同時に、かつ独立して調整することができることを示している。
【0073】
[実施例5 ほかのRNPモチーフを用いたアプローチ]
次に、このような翻訳抑制が、ほかのRNPモチーフを5’UTR調整構造部に設けたmRNAの場合も同様にみられるかどうかについて実験した。本実施例においては、MS2コート蛋白質とこれに特異的に結合するRNAモチーフとの組み合わせ、及び、バチルスのリボソーム蛋白質S15とこれに特異的に結合するRNAモチーフとの組み合わせ、においても、同様の結果を得ることができることを示す。
【0074】
(a)MS2コート蛋白質
図12(A)に、MS2コート蛋白質が特異的に結合するRNAモチーフであるMS2ステムループモチーフの二次構造を示す。以下、本明細書において、MS2ステムループモチーフを、MS2SLモチーフと指称する。MS2SLモチーフを導入した5’UTRを設けた4種のmRNAを調製した。MS2SLモチーフの数は、1個、及び2個の間で変化させ、最も5’末端に近いMS2SLモチーフの、5’末端からの距離は、18塩基、67塩基で変化させた。オープンリーディングフレーム及び3’UTRの構造は4種のmRNAに共通の構造とした。詳細を下記の表9に示す。
【0075】
【表9】
表中、開始コドンはボールド体で表示し、下線は、MS2SLモチーフを示す。
【0076】
Hela細胞にこれら4種のmRNAを導入してその翻訳効率を調べた。MS2SLモチーフを設けたmRNAをMS2コート蛋白質の存在下で発現させた場合の結果を
図13に示す。ここでも、L7Ae及びKtモチーフもしくはKlモチーフの組み合わせを用いた場合と同様に、モチーフの数が多いほど、またモチーフの導入位置がmRNAの5’末端に近いほど、翻訳効率が抑制されることがわかった。
【0077】
(b)バチルスのリボソーム蛋白質S15
図12(B)に、バチルスのリボソーム蛋白質S15が結合するRNAモチーフであるFr15モチーフの二次構造を示す。Fr15モチーフを導入した5’UTRを設けた4種のmRNAを調製した。Fr15モチーフの数は、1個、及び2個の間で変化させ、最も5’末端に近いモチーフの、5’末端からの距離は、18塩基、67塩基で変化させた。オープンリーディングフレーム及び3’UTRの構造は4種のmRNAに共通の構造とした。詳細を下記の表10に示す。
【0078】
【表10】
表中、開始コドンはボールド体で表示し、下線は、Fr15モチーフを示す。
【0079】
上記(a)と同様にして、Hela細胞にこれら4種のmRNAを導入してその翻訳効率を調べた。Fr15モチーフを含むmRNAをバチルスのリボソーム蛋白質S15の存在下で発現させた場合の結果を
図14に示す。上記(a)と同様に、Fr15モチーフの数が多いほど、またFr15モチーフの導入位置がmRNAの5’末端に近いほど、翻訳効率が抑制されることがわかった。
【0080】
実施例5の結果からは、L7Ae蛋白質に結合するRNAモチーフであるKtモチーフやその変異体であるKlモチーフ、Kl2モチーフのみならず、他のRNA−蛋白質複合体モチーフ由来のRNAモチーフとそれに特異的に結合する蛋白質との組み合わせを用いた場合でも、翻訳効率を定量的に調整することができることがわかった。
【0081】
[実施例6 インバーターONスイッチカセットを所有するmRNAの調製]
図17に示す通り、Kt−EGFP(32nt−Kt)のRNAモチーフと翻訳する遺伝子の開始コドンとの間に、下記(1)に示した方法でベイトORF(ここではhRluc遺伝子)、βグロビンのイントロンおよびIRESを結合したカセットを挿入した(OFFスイッチ)。ここで、ベイトORFの開始コドンから457番目及び466番目 (タンデムPTC)に終止コドン(未成熟終止コドン(PTC))を挿入したカセットも作製した(ONスイッチカセット:配列番号55)。ONスイッチカセットをmRNAへ挿入した場合、トリガー蛋白質の働きによりベイトORFが翻訳されず、IRES配列以下の遺伝子が翻訳される。従って、トリガー蛋白質(インプット)の存在下で所望の蛋白質(アウトプット)を翻訳させることができると考えられる。一方、トリガー蛋白質(インプット)の非存在下ではベイトORFの翻訳が進むが、イントロンの500bp以上、上流に終止コドンがあることからナンセンス変異依存mRNA分解機構(NMD)によりRNA崩壊が起こり、当該mRNAが分解され所望の蛋白質(アウトプット)の翻訳が起きないと考えられる。そこで、ONスイッチとKtモチーフまたはdKtモチーフを有するmRNAを発現するプラスミドとL7AeまたはMS2をコードするmRNAを発現するプラスミドをそれぞれ1:0.2の比率で同時に細胞に導入した。すると、KtモチーフとL7Aeを同時に発現させた場合にのみEGFPの発現が見られた(
図18(A))。PCR法でプラスミド導入して24時間後のmRNAの量を測定したところ、この結果に比例してKtモチーフとL7Aeを同時に発現させた場合にそのmRNA量が多かった(
図18(B))。フローサイトメトリー分析により、プラスミドのコグネートペア(L7Ae / ON-Kt)によりトランスフェクトされた細胞は、ノンコグネートペアによりトランスフェクトされた細胞と比較して、平均して、5倍から7倍のEGFP蛍光を示すことがわかった(
図18(E))。これらの結果は、ONスイッチカセット(cis-acting module)のmRNAへの挿入が、OFFスイッチを、ONスイッチへと、効果的に反転させたことを示す。
【0082】
トランスフェクション後24時間存在するスイッチmRNAの量を、定量的RT−PCR分析により決定した(
図18(F))。予想通り、コグネートペア(L7Ae/ON-Kt)によりトランスフェクトされた細胞におけるONスイッチmRNAの量は、ノンコグネートペアによりトランスフェクトされた細胞におけるONスイッチmRNAよりも1.7倍も多かった。このことは、挿入されたモジュールが、細胞内におけるスイッチmRNAの定常状態レベルを増加させることを示している。
【0083】
設計したモジュールの分子メカニズムをさらに調べるために、タンデムPTCを除去した欠損モジュールを構築した。その結果、ベイトORFの終止コドンとイントロンのスプライシング部位との距離は、43ヌクレオチド(nt)であった。
図20(A)のONnを参照。ONnは、親OFFスイッチに挿入され、PTCを除去することで、L7Aeの不在下であってもEGFP産生を増加すること、それゆえ、インバーターモジュールの能力が破壊されることがわかった(
図20(A))。このことは、ONスイッチカセットの定常的な抑制が、PTC依存性であることを示す。
次に、NMD調整蛋白質因子(SMG1、UPF1、UPF2)を、短干渉RNA(siRNA)を用いてノックダウンした(
図20(B))。siRNAのトランスフェクションの2日後、同じプラスミドのセットがトランスフェクトされ、インバータースイッチの挙動を評価した。これらの因子のノックダウンはEGFP発現を増加させ、それぞれ、L7Aeの非存在下及び存在下でのEGFP発現のアップレギュレーションをさらに減少させた(
図20(C))。このことは、スイッチの反転が、これらの因子に依存的であることを示す。
【0084】
さらに、PTCsとモジュールのスプライス位置の距離を短くした、いくつかのONスイッチカセット構築物を作製した(
図20(C))。この距離を320ntまで短くしても、モジュールに対して、スイッチを反転するのには十分であった。しかし、これよりも距離を短くすると、例えば、160ntにまで短くすると、短い距離がNMDをトリガーするのに効率的ではないという以前の証拠と調和しなかった。これらの結果をまとめると、このインバーターモジュールの機能は、NMDのメカニズムに依存することが示される。
【0085】
続いて、他のトリガー蛋白質でも同様の結果が得られるかどうかを確認するため、KtもしくはFr15モチーフとOFFスイッチ、またはKtもしくはFr15モチーフとONスイッチの組み合わせに対して、ONスイッチまたはOFFスイッチ(アウトプットプラスミド)に対して、L7AeまたはS15(インプットプラスミド)を複数の割合で用いてEGFPの発現を確認した(
図19(A))。親OFFスイッチと、反転されたONスイッチにおいて、観察されたS15システム挙動の関連性は、L7Aeシステムにおける挙動と類似していた(
図19(A);ON−Fr15及びOFF−Fr15)。さらに、ウェスタンブロット分析を行い、実験条件下におけるインプットタンパク質レベルを決定した(
図19(C)及び
図19(D))。L7AeまたはS15の発現レベルは、インプットプラスミドの量に応じて増加し(アウトプットプラスミドの0.2〜5倍)、実験条件下では飽和することはなかった。
【0086】
さらに、Ktモチーフ、すなわちL7Ae(Kd値(解離定数)は1.6 nM)の2種類の変異体である、K37A変異体(L7K:Kd値は15 nM)及びK78A二重変異体(L7KK: Kd値は680 nM)を用いて、同様の実験を行った。その結果、解離定数が大きいほど、ONスイッチを用いた場合にEGFPの発現は減少し、OFFスイッチを用いた場合にEGFPの発現は増加した(
図19(B)及び
図22)。これらのデータから、スイッチインバーターモジュールは、一般に、親OFFスイッチからONスイッチを得ることができることがわかった。このようなONスイッチ及びOFFスイッチは、インプット分子の量及び、インプットとセンサリーRNAモチーフとの相互作用の親和性に関連して、同一のインプットに応答して、同様の効率を示す。
【0087】
理想的には、インバータースイッチのインプットシグナルに対する反応は、親スイッチの反応に対して、正確に逆であるべきである。反転されたON-Fr15スイッチの定常状態(抑制状態)と完全な解放状態との間のダイナミックレンジは、親OFF-Fr15スイッチの定常状態(解放状態)と完全な抑制状態との間のダイナミックレンジと類似していた(
図19(A))。これに対し、2つのスイッチの抑制状態及び解放状態に対応するアウトプットの絶対値は、同一の条件下で異なっていた。変換後の絶対値がいくつかの応用において調整される必要があれば、細胞内のmRNAレベルを、プロモーター強度やプラスミド取込み効率を変えることによって最適化することができる。このやり方で、
図19(A)に示したカーブの垂直方向へのシフトの影響を補うことが期待できる。実際に、アウトプットプラスミドを希釈することで、EGFP発現の絶対値が変化したが、反転の前後における同様のダイナミックレンジは維持された。このことは、NMD要素が、実験条件下で飽和しないことを示している。(
図23(A))。さらに、このモジュールが、CMVプロモーターに加え、RSVプロモーターやEF1αプロモーターなどの他のプロモーターによる制御下でも有効であることがわかった(
図23(B))。これらのプロモーターは、EGFP発現レベルを変化させたが、プラスミドの希釈の場合と同様に、反転の前後で、類似の倍率変化(fold change)を維持した。このことは、インバータースイッチからのアウトプット蛋白質のレベルを、異なるプロモーターを用いて、及び/または異なるプラスミド濃度を用いて、調整可能であることを示す。
【0088】
アウトプット発現の最低限度及び最高限度は、インバータースイッチの使用可能なレンジを決定する。上記のL7Ae応答性スイッチの場合は、対応する使用可能なレンジは、OFF-KtからON-Ktへの変換により狭くなった(
図19(A)。ON-Ktの応答は、OFF-Ktのみを抑制したインプット蛋白質レベルにおけるその最大限度レベルから、その最大レベルの半分であり、これは、10倍より大きい相違に該当する。IRESによって駆動されるアウトプット蛋白質の合成は、IRESがNMDの結果として崩壊した後にブロックされる。ゆえに、NMDがIRES不活性化に非常に効率的に結合した場合に、このシステムにおける最低限のアウトプットレベルを低減させることができる。IRES活性の促進は、アウトプットレベルを増加することによりモジュールの性能をも高めることができる。これは、IRESに駆動される蛋白質合成が、一般的にCap依存性の翻訳よりも効率が低いためである。
【0089】
我々のシステムが、細胞の表現型を、アポトーシス経路を通じて調節することができるかについて調べた(
図24(A))。OFFスイッチが、抗アポトーシス性Bcl-xLの翻訳を抑制して、アポトーシスを誘導することは、既に示されている(Saito, H., et al. Nat Commun 2, 160 (2011))。同様にして、アウトプットEGFP蛋白質をプロアポトーシス性Bim-ELに代えて、インプット蛋白質L7Ae依存的にBim-ELを発現させる、アポトーシスを調節可能なスイッチを設計した(
図24(A))。対応するプラスミドによるトランスフェクションの後、Annexin V陽性のアポトーシス細胞の数を、フローサイトメーターを使って評価した。予測通り、Annexin V陽性細胞は、プラスミドのコグネートペア(L7Ae及びON-Kt-B)を注入した場合特異的に増加した(
図24(B))。
【0090】
2つ独立したmRNAを、OFFスイッチ及びONスイッチにより、同時に調節した(
図25(A))。インバータースイッチ(ON-KtまたはON-dKt)の挙動、及びそれらの改変した親スイッチ(OFF-KtまたはOFF-dKt)を同時に分析した(
図25(A))。予測通り、Ktを含有するONスイッチと、OFFスイッチの両者とも、L7Aeの存在下で、アウトプットとしてのEGFP及びECFPをそれぞれ、特異的にアップレギュレートし、あるいはダウンレギュレートした。特には、同一の細胞に取り込まれたOFFスイッチとONスイッチが、ぞれぞれの機能に影響を与えることはなかった。さらに、ほかのインプット蛋白質であるS15を利用した別のONスイッチを用い、OFFスイッチ(OFF-KtまたはOFF-dKt)とONスイッチ(ON-Fr15または ON-dFr15)が、それぞれ対応するインプットであるL7Ae及び S15に特異的に応答することを確認した(
図25(B))。
【0091】
[ディスカッション]
シグナルの反転は回路において、最も基礎的なプロセスの一つである。電気工学と同様に、複雑な生物学的回路も、たくさんのシグナル反転を利用している (Stapleton, J.A. et al. ACS Synth. Biol. 1, 83-88 (2011), Xie, Z., Wroblewska, L., Prochazka, L., Weiss, R. & Benenson, Y. Science 333, 1307-1311 (2011), and Wang, B., Kitney, R.I., Joly, N. & Buck, M. Nat Commun 2, 508 (2011))。多くの場合、合成生物学者は、トランス作用性因子とセンサーとの組み合わせをインバーターモジュールとして用いてきた。このアプローチは、各反転につき、少なくとも一つの固有の調節性の組み合わせを必要とし、一つの細胞中で反転を生じさせるには、シグナル回路間でのクロストークを避けるために高度な独立性の組み合わせを必要とすることが、主要な問題であった。この潜在的な落とし穴を避けるために、近年は、多数の直交する制御性の組み合わせ(orthogonal regulatory pairs)を生成することが行われてきた(Mutalik, V.K., Qi, L., Guimaraes, J.C., Lucks, J.B. & Arkin, A.P. Nat. Chem. Biol. 8, 447-454 (2012))。多数の直交する組み合わせが開発され、新たなトランス作用性因子とセンサーの組み合わせが作られる可能性があるが、そのような組み合わせの数は有限である。これに対して、シス作用性モジュールにより製造されたONスイッチにより、さらなる因子がなくても、インプット分子が、アウトプット蛋白質のレベルを直接的に決定することが可能となる。さらに、このシス作用性モジュールは、トランス作用性モジュールと比較して、同様の効率で複数のシグナルの反転を可能にすることができるため、有利である。トランス作用性モジュールの場合は、各インバータースイッチのダイナミックレンジは異なっているであろうし、対応するモジュールの特質によって決定されるであろう。
【0092】
本発明は、インバーターモジュール(
図21(B))の性能を損なうことなく、オリジナルのβ-globin intron (476 nt)を、より短いキメライントロン(133 nt)に置換することに成功した。さらに、PTCとイントロンのスプライス部位との距離を短縮した(320nt)モジュールも、性能を保持していた(
図21(A))。この結果から、これらの要素を用いて、より小型のモジュールを設計することが可能であることが示唆される。さらに、他のベイトORF (EGFP遺伝子の部分)を含有するモジュールは、インバーターとして機能した(
図25(A)及び25(B))。ゆえに、ベイトORFは、所望の蛋白質コード配列と置換することができる可能性が高い。
【0093】
このモジュールは、mRNAの5’−UTRが、低分子、RNA,蛋白質を含む種々のインプット分子と真核細胞内で反応する、入手可能な翻訳OFFスイッチから新たなONスイッチを開発するために用いることができる(Saito, H. et al. Nat. Chem. Biol.6, 71-78 (2010), Saito, H., Fujita, Y., Kashida, S., Hayashi, K. & Inoue, T. Nat Commun 2, 160 (2011), Werstuck, G. & Green, M.R. Science282, 296-298 (1998), Hanson, S., Berthelot, K., Fink, B., McCarthy, J.E. & Suess, B. Mol. Microbiol. 49, 1627-1637 (2003), and Paraskeva, E., Atzberger, A. & Hentze, M.W. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 95, 951-956 (1998))。さらに、このモジュールは、ONスイッチ(Schlatter, S. & Fussenegger, M. Biotechnol. Bioeng. 81, 1-12 (2003))をOFFスイッチに反転させることも可能である。これは、インバータースイッチからの、IRESによって駆動されるアウトプット蛋白質の製造は、親スイッチのアウトプットに対応するベイトORFのcap依存性翻訳活性に反比例するためである。
【0094】
最後に、本研究において我々が実証した方法は、細胞質における蛋白質の検出を可能にするが、代替的なスプライシングを用いることにより、遺伝子回路を調節する核蛋白質の発現を検出しうる他の合成RNAデバイスも報告されている(Culler, S.J., Hoff, K.G. & Smolke, C.D. Science 330, 1251-1255 (2010))。したがって、現在、核または細胞質において働く上記2種類のスイッチが利用可能である。
【0095】
以下に、上記実施例1〜6において用いたmRNA及びトリガー蛋白質を発現するプラスミドベクターの具体的な作製方法、細胞への導入方法、及び各種の測定方法などの共通の手順について説明する。
【0096】
(1)レポータープラスミドの構築
本実施例において、EGFPを発現するレポータープラスミドであるpKt−EGFP、及びpdKt−EGFPは、Gossen M, Bujard H (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89:5547-5551.に記載のpl boxC/D−EGFP、pl boxC/D mutEGFPにそれぞれ対応するように作製した。EGFPのコード領域をECFPに置換することによって、同様にしてpKt−ECFP、及びpdKt−ECFPを作製した。尚、pKt−EGFP及びpKt−ECFPの5’UTRの配列は、上記表5の、32nt−Ktと一致する。
【0097】
スペーサー配列は、LacZから、PCRにより増幅した。このとき、プライマーセットとしては、(5’-CCCGGGATCCGATCCCGTCGTTTTACAAC-3’(配列番号56) / 5’-AGATCTACCGGTCAGGCTGCGCAAC-3’ (配列番号57)及び 5’-GGATCCGCTAGCGATACACCGCATC-3’ (配列番号58) / 5’-ACTAGTAGATCTCAATGGCAGATCCCAG-3’ (配列番号59)の組み合わせを用いた。なお、本明細書において、プライマーセットは、フォワードプライマー、リバースプライマーの順に記載」した。スペーサー配列を、pKt−EGFPのBamHI−AgeI部位、及びNheI−BglII部位の間で消化し、ライゲートして、プラスミドpKt−Sp−EGFP及びpSp−Kt−EGFPを、それぞれ作製した。同様にして、pdKt−EGFPから、pdKt−Sp−EGFP及びpSp−dKt−EGFPを作製した。
【0098】
pKt−ECFP及びpdKt−ECFPは、NheI及びBamHIで消化し、Klenow fragment(Takara Bio社製)で平滑化し、セルフライゲーションさせて、最も短い5’UTRのスペーサー(18nt)を作製した。もっとも長いスペーサー配列(320nt)は、上述のpKt−ECFP及びpdKt−ECFPのNheI-BglIIサイトの間に挿入された二つのスペーサーフラグメントを連結することにより得た。そのほかのスペーサーは、同様にして、レポータープラスミドの5’UTRに挿入された適切なプライマーのセットを増幅させることにより得られた。用いたすべての5’UTRの配列を、上記表5に示す。
【0099】
オリゴヌクレオチドKlのペアは、5’-CATGGGATCCGGGTGTGAACGGTGATCACCCGA-3’(配列番号60) / 5’-GATCTCGGGTGATCACCGTTCACACCCGGATCC-3’ (配列番号61)であった。オリゴヌクレオチドKl2のペアは、5’-CATGGGATCCGGACGTACGTGTGAACGGTGATCACGTACGCCGA-3’(配列番号62) / 5’-GATCTCGGCGTACGTGATCACCGTTCACACGTACGTCCGGATCC-3’( 配列番号63)であった。オリゴヌクレオチドMS2SLのペアは、5’-CATGGGATCCGGTGAGGATCACCCATCGA-3’(配列番号64) / 5’-GATCTCGTTGGGTGTTCCTCTCCGGATCC-3’( 配列番号65)であった。これらをアニーリングし、クローニングベクターにクローン化した。Fr15は、DNA templates (5’-GGGATGTCAGGTGCAGGCCAGACCGAAGTCCTCTCCTGCCCTCAAGTCTTTCGACCATCCCTATAGTGAGTCGTATTAGC-3’(配列番号66))から、プライマーセット(5’-GCTAATCCATGGGATCCTCGGTCGAAAGACTTGAGGGC-3’( 配列番号67) / 5’-CCCAGATCTCGTCAGGTGCAGGCCAGAC-3’(配列番号68))を用いてPCRにより増幅した。そして、NcoI及びBglIIにより消化し、同様にしてクローニングベクターにクローン化した。それぞれのRNAモチーフは、5’末端をBamHIを用いて、3’末端をBglIIを用いて、クローニングベクターに連結した。そして、単一のまたは複数のRNAモチーフを、BamHI及びBglIIを用いた消化によりクローニングベクターから抽出し、Ktモチーフを5’末端から67番目、120番目、164番目のヌクレオチドにおいて含む各ベクターのBglII-BamHI部位の間に挿入した。RNAモチーフの同じフラグメントを、pKt−ECFPのBamHI部位に挿入し、平滑化及びセルフライゲーションにより、5’末端から18番目のヌクレオチドに位置するようにした。
【0100】
ONスイッチカセットは、ナンセンス変異を有するRenilla luciferase(hRluc)、βグロビンイントロンおよびIRES2により構成した。簡潔には、次の方法で作製した。pLP1(インビトロジェン)をBamH1およびBglIIで消化し、βグロビンイントロンを抽出し、pIRES2-EGFP(クロンテック)のBamH1サイトに挿入した。得られたプラスミドをBamH1で消化し、Klenow fragmentで平滑化後、セルフライゲーションさせて、BamH1サイトを除去した(psBIntIRES2-EGFP)。pGL4.73のNheI-NcoIサイトへpl boxC/D−EGFPから消化した5‘UTRを挿入し、さらに、プライマーセット(5’- GTGACCTGACATCGAGGAGGATA -3’( 配列番号69) / 5’- TCGTCTCAGGACTCGATCACGTCC -3’( 配列番号70))を用いてRenilla luciferaseのW153およびW156をPCRによりストップコドンへ変換した。続いて、NheI-SmaIサイトで消化してpsBIntIRES2-EGFPへ5‘UTRおよび変異Renilla luciferaseを挿入しONスイッチカセットを有するプラスミドを作製した。OFFスイッチカセットを有するプラスミドは同様に、ストップコドンへ変換していないRenilla luciferaseを用いて作製した。
【0101】
(2)トリガープラスミドの作製
次に、Ktに特異的に結合する蛋白質を発現するトリガープラスミドを作製した。Ktに特異的に結合する蛋白質は、そのN末端でOne−STrEP−tag(IBA)に融合されており、C末端でmycタグ、及びHisタグに結合され、CMVプロモーターの制御下で、IRES駆動DSRedExpressを有するものであった。
【0102】
pIRES2−DsRed-Expressは、BamHI及びNotIで消化し、IRES2−driven DsRed-Express発現カセットを含むフラグメントを、pcDNA5/FRT/TO(Invitrogen社製)のBamHI-NotI部位にクローニングした。p4LambdaN22−3mEGFP−M9由来のHindIIIで消化したフラグメントは、得られた発現ベクターに挿入した。4回繰り返されたLambda N22 peptideは、PCRで増幅されペプチドタグに融合されたRNA結合蛋白質により置換された。Archaeoglobus fulgidus L7Aeのオープンリーディングフレームは、以下のプライマーセットを使用して増幅した(5’-GAATCCATGGGATCCATGTACGTGAGATTTGAGGTTC-3’( 配列番号71) / 5’-CACCAGATCTCTTCTGAAGGCCTTTAATCTTCTC-3’( 配列番号72))。次に、bacteriophage MS2 coat proteinのオープンリーディングフレームは以下のプライマーセットを使用して増幅した(5’-CACCATGGGATCCGCTTCTAACTTTACTCAGTTCGTTCTC-3’ ( 配列番号73) / 5’-TATGAGATCTGTAGATGCCGGAGTTGGC-3’ ( 配列番号74))。さらに、Bacillus stearothermophilus S15のオープンリーディングフレームは、以下のプライマーセットを使用して増幅した(5’-GACACCATGGGATCCGCATTGACGCAAGAGCG-3’ ( 配列番号75) / 5’-TATGAGATCTTCGACGTAATCCAAGTTTCTCAAC-3’ ( 配列番号76))。これのプライマーは、それぞれ、プラスミドpL7Ae、プラスミドMS2−EGFP、及び、25: Scott LG, Williamson JR (2001) Interaction of the Bacillus stearothermophilus ribosomal protein S15 with its 5’-translational operator mRNA. J Mol Biol 314:413-422に基づいて新たに合成されたプラスミド由来であった。
【0103】
RSVプロモーター及びEF1αプロモーターは、それぞれ、pLP2 (Invitrogen) 及び KW239_p5E-hEF1α(Dr. K. Woltjenよりご提供いただいた)由来のプライマーセット5’-GAGGGGGATTAATGTAGTCTTATGCAATACTCTTGTAGTCTTGC-3’ / 5’-GTTGTTGC TAGCTCGAGCTTGGAGGTGC-3’、及び5’-GAGGGGGATTAATGTAGTCTTATGCAATACTCTTGTAGTCTTGC-3’ / 5’-GTTGTTGC TAGCTCGAGCTTGGAGGTGC-3’を用いて、PCRにより増幅した。これらを、AseI及びNheIにより消化し、pON-Kt/dKtのAseI-NheIサイトに挿入して、それぞれ、pR-ON-Kt/dKt 及び pE-ON-Kt/dKtを得た。
【0104】
より短いモジュール(ON32、ON16、ON8)は、リバースプライマー(5’-TGATCAGGGCGATATCCTCCTCG-3’)と特殊なフォワードプライマー(それぞれ、5’-GTCCAGATTGTCCGCAACTACAACG-3’, 5’-GCCAGGAGGACGCTCCAG-3’, 5’-TAGAGTCGGGGCGGCCGGGATC-3’)を用いて、PCR-based deletion methodにより作製した。生じたプラスミドのAgeI-Bsp1407Iフラグメントは、pON-Kt/dKtに戻した。イントロンを置換するために、キメライントロン及びPTCを含むhRluc遺伝子を、それぞれ、pRL-TK (Promega) 及びpON-Ktからのプライマーセット5’-CGCAAATGGGCGGTAGGCGTG-3’ / 5’-CATGGTTGTGGCCATATTATCATCG-3’, 及び5’-CGATGATAATATGGCCACAACCATGGCAAAGCAACCTTCTGATG-3’ / 5’-GCCCCGC AGAAGGTCTAGAATCAATGCATTCTCCACACCAG-3、を用い、PCRにて増幅した。PCR産物は、IRESのPCR産物とPCRにより連結し、EcoRV及びHindIIIで消化して、pON-Kt/dKtのEcoRV-HindIIIサイトに挿入した。pON2-Kt及びpON2-dKt構築物は、pON-Kt及びpON-dKtと類似しているが、PTCを生成するのに用いたプライマーセットが5’-CCCACCCTCGTGACCAC-3’ / 5’-TCAGGGCACGGGC AG-3’である点で異なっていた。
【0105】
IRES及びBim-ELは、pIRES2-EGFP 及び pBim (Saito, H., Fujita, Y., Kashida, S., Hayashi, K. & Inoue, T. Nat Commun 2, 160 (2011).)から、それぞれ、プライマーセット5’-CGCAAATGGGCGGTAGGCGTG-3’ / 5’-CATGGTTGTGGCCATATTATCATCG-3’. 及び5’-CGATGATAATATGGCCACAACCATGGCAAAGCAACCTTCTGATG-3’ / 5’-GCCCCGCAGAAGGTCTAGAATCAATGCATTCTCCACACCAG-3’を用いて、PCRにより増幅した。これらのフラグメントは、プライマーセット5’-CGCAAATGGGCGGTAGGCGTG-3’ / 5’-AAGCTTGCGGCCGCCCCGCAGAAGGTCTAGA-3’を用いて再びPCRで連結し、HindIII 及びNotIで消化して、pON-Kt/dKtのHindIII-NotIサイトに挿入し、それぞれ、pON-Kt/dKt-Bを得た。
【0106】
(3)細胞培養及びトランスフェクション
HeLa細胞は、10% のウシ胎児血清(Nichirei Biosciences, Tokyo, Japan) 及び 1% antibiotic-antimycotic solution (Sigma-Aldrich, St Louis, MO)を含むダルベッコ改変イーグル培地(GIBCO, Carlsbad, CA)中で、37°C、5% CO
2で培養した。5 × 10
4 cellsを24ウェルプレートに播種し、24時間後、70〜90%のコンフルエントに達した細胞を、1μlの リポフェクタミン 2000 (Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて、製造者の指示に従い、プラスミドで一過性にトランスフェクトした。二つのプラスミドをトランスフェクションした実験(実施例1〜3、5)においては、0.1 μgのリポータープラスミド及び0.5 μgのトリガー蛋白質プラスミドを細胞にトランスフェクトした。三つのプラスミドをトランスフェクションした実験(実施例4)においては、それぞれのリポータープラスミド0.1 μg、及びトリガー蛋白質プラスミド0.3 μgを用いた。培地は、トランスフェクションの4時間後に交換した。
【0107】
(4)フローサイトメトリー測定
トランスフェクションの24時間後に、細胞をPBSで洗浄し、100 μl の 0.25% Trypsin-EDTA (GIBCO)中で、37°Cにおいて2分間インキュベートした。100 μlの培地を添加したのち、細胞を35 μm のストレイナー (BD Biosciences, San Jose, CA)を通過させ、FACS Aria (BD Biosciences)で分析した。ECFPの蛍光を測定するために、励起には408nmの半導体レーザーを用い、450/40nmのフィルターを用いた。EGFP及びDsRed-Expressの蛍光を測定するために、励起には488nmの半導体レーザーを用い、それぞれ、530/30nm及び695/40nmのフィルターを用いた。
【0108】
(5)フローサイトメトリー分析
死細胞は、FSC(前方散乱光)およびSCC(側方散乱光)を用いて除外した。この実験において、翻訳効率は、DsRedの蛍光強度が1000±100の範囲にある細胞に対して、RNAモチーフに結合しない陰性対照であるRNA結合蛋白質(例えば、MC2CP)の存在下におけるEGFPまたはECFP蛍光強度の平均値に対する対応するRNA結合蛋白質(例えば、L7Ae)の存在下におけるEGFPまたはECFP蛍光強度の平均値の比として算出した。3種同時のトランスフェクションにおいては、蛍光レベルは、EGFP、ECFPまたはDsRed-Expressのそれぞれのみを発現する細胞に基づいて補正された。トランスフェクトされていない細胞は、DsRed-Expressの蛍光レベル(<100)に基づいて除外した。すべての実験は3回繰り返し、平均値及び標準偏差値を示した。
【0109】
(6)totalRNAの単離及びcDNA合成
トランスフェクションの24時間後に冷却したPBSで細胞を洗浄し、製造者の指示にしたがって、RNAqueous-4PCR キット(Ambion社製)を用いて、totalRNAを単離した。350 μlの細胞懸濁液/結合溶液を用い、RNAは50μl のMilli-Qウォーターで2回溶出させた。混入したDNAは、製造者の指示にしたがって、TURBO DNA-freeキット(Ambion社製)を用いて除去した。200 ngの抽出されたtotalRNAから、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kits (Applied Biosystems社製)を用いてcDNAを合成した。得られたcDNA溶液は10倍に希釈し、5 μlのアリコートを定量的PCR分析に用いた。
【0110】
(7)定量的PCR分析
定量的PCR分析は、Light Cycler 480 SYBR Green I Master 及びLight Cycler 480 instruments (Roche, Basel, Switzerland)を用いて実施した。反応溶液は、レポーターECFP、またはネオマイシン耐性遺伝子のRNAレベルを測定するために、それぞれ、プライマーセット(5’-GAAGCGCGATCACATGGT-3’( 配列番号77) / 5’-CCATGCCGAGAGTGATCC-3’ (配列番号78))または (5’-GGCTACCCGTGATATTGCTG-3’ ( 配列番号79) / 5’-GCGATACCGTAAAGCACGA-3’ (配列番号80))を、最終濃度で500nMとなるように含んだ。一連のレポータープラスミドの10倍希釈溶液(50fg〜5ng)は、標準として用いた。レポーターECFPmRNAの相対量は、同一のプラスミドからレポーターとして発現されるネオマイシン耐性遺伝子量に対する割合として決定した。すべての実験は3回繰り返し、平均値及び標準偏差値を示した。
【0111】
(8)RNAi ノックダウン
合計で2.5 × 10
4の細胞を、24ウェルプレートに播種し、24時間後に、1 μl のStem Fect RNA transfection kit (Stemgent, Cambridge, MA)を製造者の指示に従って用い、細胞を20 pmol のsiRNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後に培地を交換した。48時間後、プラスミドのセットを、上記のようにトランスフェクトした。24時間後、BD Accuriを用いて細胞をフローサイトメトリー分析した。以前の報告28にしたがって、今回の実験では、siRNAの配列は、以下の通りとした。5’-GUGUAUGUGCGCCAAAGUATT-3’ / 5’-UACUUUGGCGCACAUACACTT-3’ (SMG1), 5’-GAUGCAGUUCCGCUCCAUUTT-3’ / 5’-AAUGGAGCGGAACUGCAUCTT-3’ (UPF1), 5’-CAACAGCCCUUCCAGAAUCTT-3’ / 5’-GAUUCUGGAAGGGCUGUUGTT-3’ (UPF2), 及び5’-UUCUCCGAACGUGUCACGUTT-3’ / 5’-ACGUGACACGUUCGGAGAATT-3’ (n.c., ノンサイレンシング陰性対照)。
【0112】
(9) ウェスタンブロット分析
トランスフェクション実験は、24ウェルプレートと比較して、4倍大きいスケールの6ウェルプレートで行った。24時間後(プラスミドトランスフェクション)、または48時間後(RNAiノックダウン)に、トランスフェクトされた細胞を2mLのPBSで2回洗浄し、0.3mLのRIPAバッファー中に抽出した。合計の蛋白質濃度は、BCA Protein assay (Thermo, Rockford, IL)により測定した。10μgのサンプルは、SDS-PAGEに展開し、製造者の指示に従って iBlot (Invitrogen)を用い、PVDF膜に転写した。さらに、標識抗体、次いで、HRP標識二次抗体でプローブした。SMG1 抗体及びRENT1抗体は、Bethyl laboratories (Montgomery, TX)から入手し、 UPF2 rabbit monoclonal antibody (D3B10) は、 Cell Signaling laboratory (Danvers, MA) から入手した。ブロットは、Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate (Millipore, Billerica, MA)及びImageQuant LAS 4000 (GE Healthcare, Piscataway, NJ)により検出した。
【0113】
(10) アポトーシス分析
この実験では、DsRed-Expressに代えてEGFPを発現する代替的なインプットプラスミドを用いた。プラスミドによるトランスフェクションの24時間後に、細胞と培地を回収し、製造者の指示に従って、Annexin V, Pacific Blue conjugates (Invitrogen)により染色し、FACS Aria cell sorterを用いて分析した。トランスフェクションされなかった細胞は、EGFP蛍光に基づき、ゲートアウトした。2回の実験の平均及び標準偏差を示す。