(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385345
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20180827BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20180827BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20180827BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20180827BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20180827BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20180827BHJP
A61P 5/50 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K9/08
A61K47/68
A61K47/60
A61K47/12
A61K47/26
A61K47/02
A61K47/20
A61K47/10
A61K47/18
A61P3/10
A61P5/50
【請求項の数】21
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-524183(P2015-524183)
(86)(22)【出願日】2013年7月25日
(65)【公表番号】特表2015-522654(P2015-522654A)
(43)【公表日】2015年8月6日
(86)【国際出願番号】KR2013006670
(87)【国際公開番号】WO2014017845
(87)【国際公開日】20140130
【審査請求日】2016年7月22日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0081476
(32)【優先日】2012年7月25日
(33)【優先権主張国】KR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515022445
【氏名又は名称】ハンミ ファーマシューティカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100154988
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 真知
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒュン ウク
(72)【発明者】
【氏名】リム ヒュン キュ
(72)【発明者】
【氏名】ホン スン ヒ
(72)【発明者】
【氏名】キム デ ジン
(72)【発明者】
【氏名】ペ スン ミン
(72)【発明者】
【氏名】クォン セ チャン
【審査官】
春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−503000(JP,A)
【文献】
特表2011−505355(JP,A)
【文献】
特表2010−533197(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/057525(WO,A1)
【文献】
国際公開第2011/090306(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00−38/58
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性ペプチドであるインスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域がポリエチレングリコールを用いて結合した薬理学的有効量の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体及びアルブミン-非含有の安定化剤を含み、前記安定化剤は、クエン酸緩衝溶液、マンニトール、及びポリソルベート20を含有し、
前記インスリン分泌性ペプチドが、エキセンジン-3、エキセンジン-4、又はイミダゾ-アセチルエキセンジン-4であり、
前記マンニトールの濃度が、全体溶液に対して3%(w/v)〜15%(w/v)であり、
前記緩衝溶液のpHの範囲が、5〜7であり、
ポリソルベート20が、0.001%(w/v)〜0.05%(w/v)の濃度である、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【請求項2】
前記安定化剤が、更に等張化剤を含有する、請求項1に記載の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【請求項3】
前記免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE又はIgMから由来するFc領域である請求項1に記載の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【請求項4】
前記免疫グロブリンFc領域が、IgG、IgA、IgD、IgE及びIgMからなる群より選択される免疫グロブリンから由来する異なる起源のドメインのハイブリットである請求項3に記載の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【請求項5】
前記免疫グロブリンFc領域が、同様の起源のドメインから構成される単鎖免疫グロブリンからなる2量体又は多量体である請求項3に記載の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【請求項6】
前記免疫グロブリンFc領域が、IgG4 Fc領域である請求項3に記載の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【請求項7】
前記免疫グロブリンFc領域が、ヒト非糖鎖化IgG4 Fc領域である請求項6に記載の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【請求項8】
前記薬理学的有効量の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体が、0.5〜150mg/mlの濃度である請求項1に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項9】
前記マンニトールの濃度が、全体溶液に対して5%(w/v)〜10%(w/v)である請求項1に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項10】
前記緩衝溶液のpHの範囲が、5〜6である請求項1に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項11】
前記等張化剤が、0mM〜200mMの濃度を持つ塩化ナトリウムである請求項2に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項12】
前記安定化剤が、メチオニンをさらに含む請求項1に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項13】
前記メチオニンの濃度が、全体溶液に対して0.005%(w/v)〜0.1%(w/v)である請求項12に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項14】
前記安定化剤が、糖類、多価アルコール及びアミノ酸からなる群より選択される1つ以上の成分をさらに含む請求項1に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項15】
m−クレゾール、フェノール及びベンジルアルコールからなる群より選択される1つ以上の保存剤をさらに含む請求項1に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項16】
前記保存剤の濃度が、全体溶液に対して0.001%〜1%(w/v)である請求項15に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項17】
前記保存剤が、m-クレゾールである請求項15に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項18】
複数回投与のための請求項15に記載の持続型インスリン結合体の液状製剤。
【請求項19】
インスリン分泌性ペプチドが免疫グロブリンFc領域とポリエチレングリコールを用いて結合した、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体と、クエン酸緩衝溶液、マンニトール、ポリソルベート20、及びメチオニンを含む安定化剤を混合する段階を含み、
前記インスリン分泌性ペプチドが、エキセンジン-3、エキセンジン-4、又はイミダゾ-アセチルエキセンジン-4であり、
前記マンニトールの濃度が、全体溶液に対して3%(w/v)〜15%(w/v)であり、
前記緩衝溶液のpHの範囲が、5〜7であり、
ポリソルベート20が、0.001%(w/v)〜0.05%(w/v)の濃度である、請求項1〜14のいずれかに記載の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤の製造方法。
【請求項20】
安定化剤が、更に保存剤、等張化剤としての塩化ナトリウム、又はこれら双方を含む請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
生理活性ペプチドであるインスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域がポリエチレングリコールを用いて結合した薬理学的有効量の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体及びアルブミン-非含有の安定化剤からなり、前記安定化剤は、クエン酸緩衝溶液、マンニトール、及びポリソルベート20を含有し、
前記インスリン分泌性ペプチドが、エキセンジン-3、エキセンジン-4、又はイミダゾ-アセチルエキセンジン-4であり
前記マンニトールの濃度が、全体溶液に対して3%(w/v)〜15%(w/v)であり、
前記緩衝溶液のpHの範囲が、5〜7であり、
ポリソルベート20が、0.001%(w/v)〜0.05%(w/v)の濃度である、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インスリン分泌性ペプチドである生理活性ペプチドが、免疫グロブリンFc領域と結合した薬理学的有効量の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体及びアルブミン-非含有の安定化剤を含み、前記安定化剤は、緩衝溶液、糖アルコール、非イオン性界面活性剤及び等張化剤を含有する持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤及び製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、多数の病原性因子から由来する疾患であり、一般的に2つのタイプの糖尿病がある。1型糖尿病又はインスリン依存性糖尿病(IDDM)の患者では、糖の利用を調節するホルモンであるインスリンを殆ど生産できなかったり、又は全く生産できない。2型糖尿病又は非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)の患者では、非糖尿病の患者に比べ、同様又は向上した血漿インスリン濃度を示す。しかし、前記2型糖尿病の患者は、主なインスリン-感受性を持つ組織、つまり、筋肉、肝臓及び脂肪組織で糖及び脂質代謝に対するインスリン効果の耐性を発達させる。血漿のインスリン濃度は、増加され得るが、顕著なインスリン耐性を克服するには不十分であるため、高血糖症を引き起こす。持続的又は調節されない高血糖症は、増加した初期罹患率及び死亡率と関連する。時々糖濃度の異常な増加は、脂質、リポタンパク質及びアポリポタンパク質の代謝及びその他に関わる代謝的及び血力学的な変化と直接的及び間接的に関連する。例えば、2型インスリン依存性糖尿病の患者は、特に、冠状動脈性心疾患、脳卒中、末梢血管疾患、高血圧、腎障害及び神経障害を始め、巨大血管及び微小血管の合併症のリスクが高い。
【0003】
2型糖尿病を治療するために現在用いられている治療は、外来のインスリン投与、薬物の経口投与、食餌療法及び運動療法を含む。2005年、エクセナチド(エキセンジン-4:バイエッタ)は、メトホルミン及び/又はスルホニル尿素を摂取しても適切に血糖調節ができない2型糖尿病の患者に対する補助療法としてFDAに承認された。
【0004】
エクセナチド(エキセンジン-4)は、強力なGLP-1受容体のアゴニストであり、アメリカドクトカゲ(Glia monster)の唾腺で生成される。エキセンジン-4は、インスリンに対して親和性を示し、食物摂取及び胃内容排出を抑制し、齧歯類でβ細胞に対する親和性を示す(非特許文献1、2、3)。さらに、グリシンがエキセンジン-4のN-末端の2番位置に存在するため、GLP-1とは違って、DPPIVに対する基質ではない。エクセナチドの使用における短点は、半減期がわずか2〜4時間だけだということから、毎日2回ずつ注射しなければならないということである(非特許文献4、5)。
【0005】
前述したエクセナチドのようなペプチドは、一般的に安定性が低いため、体内で変性しやすく、又は体内にタンパク質分解酵素によって分解されてその活性を失う。また、エクセナチドの大きさは、相対的に小さいため、腎臓を通じて容易に除去される。従って、薬理学的な活性成分としてのペプチドを含む薬物は、目的の血中濃度及び力価を維持するために、患者に頻繁に投与しなければならない。大部分のペプチド薬物は、注射剤の形態で患者に投与し、生理活性ペプチドの血中濃度を維持するために頻繁に投与するが、これは、患者に多くの苦痛を与える。
【0006】
このような問題点を解決するために、多くの試みがなされてきた。その中の1つとして、ペプチド薬物の生体膜透過度を増加させることで、口腔又は鼻腔の吸入を通じてペプチド薬物を体内に輸送することである。しかし、このような方法は、注射剤に比べて、ペプチドを体内に輸送する効率が著しく低いため、ペプチド薬物の体内活性を要求される条件で維持するには、依然として多くの制限がある。
【0007】
一方で、ペプチド薬物の血中安定性を高め、血中の薬物濃度を長期間高く維持させることで、治療効果を最大化しようとする努力がなされてきた。このようなペプチド薬物の持続型製剤は、ペプチド薬物の安定性を高めると同時に、患者に免疫反応を誘発させることなく、薬物自体の力価を十分に高く維持しなければならない。
【0008】
ペプチドを安定化させ、また、タンパク質分解酵素によるペプチドの分解を防ぐための方法として、タンパク質分解酵素に対して敏感な特定のアミノ酸配列を変更しようとする試みがなされてきた。例えば、血糖値を下げることで、2型糖尿病の治療に効果的なGLP-1(7〜37又は7〜37アミド)は、半減期が、4分以下で(非特許文献6)非常に短い。短い半減期は、ジペプチジルペプチダーゼ(DPP IV)によってGLP-1のアミノ酸の8番位置(Ala)と9番位置(Asp)の間が切断されることによるGLP-1の力価喪失のためである。従って、DPP IVに対して抵抗性を持つGLP-1誘導体の開発における様々な研究がなされてきたが、Ala
8をGlyに置換したり(非特許文献7)、又はLeu、D-Alaに置換(非特許文献8)してDPP IVに対する抵抗性を増加させながら、活性を維持しようとする試みがなされてきた。また、GLP-1のN末端のアミノ酸His
7は、GLP-1の活性に非常に重要なアミノ酸であると同時に、DPP IVの標的であるため、特許文献1では、N末端をアルキル又はアシル基に置換した。Gallwitzらは、His
7をN-メチル化又はα-メチル化、又はHis全体をイミダゾールに置換してDPP IVに対する抵抗性を増加させて生理活性を維持させた(非特許文献9)。
【0009】
このような変異体以外に、アメリカドクトカゲ(gila monster)の唾腺から精製されたGLP-1類似体であるエクセナチド(エキセンジン-4、特許文献2)は、DPP IVに対する抵抗性を持ち、GLP-1より高い生理活性を持つため、GLP-1に比べ、2〜4時間の長い体内半減期を持つ。しかし、DPP IVの抵抗性を増加させる方法だけでは、十分な生理活性の持続期間を期待できず、例えば、現在利用可能なエキセンジン-4(エクセナチド)は、患者に1日2回の注射を通じて投与しなければならないため、依然として患者に大きな負担になっている。
【0010】
このようなインスリン分泌性ペプチドの制限は、ペプチドの大きさが小さくて腎臓に回収できないため、体外に喪失されやすい。従って、腎臓における喪失を防ぐために、ポリエチレングリコール(PEG)などの溶解度が高い高分子物質をペプチド表面に取り付けてきた。
【0011】
PEGは、標的ペプチドの特定部位又は様々な部位に非特異的に結合してペプチドの分子量を増加させ、腎臓におけるペプチドの喪失を抑制し、ペプチドの加水分解を防ぎ、副作用も起こさない。例えば、特許文献3では、NPR−Aに結合してcGMPの生産を活性化して動脈内の血圧を下げ、また、うっ血性心不全(congestive heart failure)の治療剤として効果的なB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)にPEGを取り付けることで、BNPの生理活性が維持できることについて記述している。さらに、特許文献4では、エキセンジン-4のリジン残基にPEGを取り付けることによって、エキセンジン-4の生体内の持続期間を増加させる方法を記述している。しかし、このような方法は、PEGの分子量を増加させ、ペプチド薬物の生体内の持続性を延長させることはできるが、PEGの分子量が増加するほど、ペプチド薬物の力価は著しく低下し、また、ペプチドとPEGとの反応性が低下するため、収率が減少する。
【0012】
生理活性ペプチドの生体内の安定性を高める他の方法として、遺伝子組み換えによってペプチド遺伝子と生理活性タンパク質の遺伝子を連結し、前記組み換え遺伝子に形質転換された細胞などを培養して融合タンパク質を生産する方法である。例えば、ポリペプチドリンカーを通じてトランスフェリン(Tf)に融合されたエキセンジン-4を生産する融合タンパク質が報告されている(特許文献5)。また、免疫グロブリンを用いる方法として、GLP-1誘導体にIgG4 Fcを融合させたGLP-1類似体の融合タンパク質もまた報告されている(特許文献6)。
【0013】
近年、活性減少の最小化と安定性の向上を促進させる持続型タンパク質及びペプチド薬物の製剤として、免疫グロブリンFc領域、非ペプチド性重合体及び生理活性ポリペプチドを結合させて製造した結合体が、特許文献7(生体内の持続性が向上された生理活性ポリペプチド結合体)及び特許文献8(免疫グロブリン断片を用いたタンパク質結合体及びその製造方法)に開示されている。
【0014】
前記特許方法によって、生理活性ペプチドとしてインスリン分泌性ペプチドを適用させることで持続型インスリン分泌性ペプチド結合体が製造され得る(特許文献9)。持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を含む薬物を生産するために、貯蔵及び運送の過程で、光、熱又は添加剤内の不純物による熱誘導性変性、凝集、吸着又は加水分解などの物理化学的な変化を防ぎながら、生体内の効力を維持させることが必須である。特に、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、インスリン分泌性ペプチド自体に比べ、体積及び分子量がより増加したため、安定化させるのが難しい。
【0015】
一般的に、タンパク質及びペプチドは、半減期が短く、不適な温度、水-空気の境界面、高圧、物理的又は機械的なストレス、有機溶媒、微生物による汚染などに露出される場合、単量体の凝集、凝集による沈殿及び容器の表面への吸着などの変性を起こし得る。変性したタンパク質及びペプチドは、本来の物理化学的な性質及び生理活性を喪失する。多くの場合、タンパク質の変性は、非可逆的であるため、変性したタンパク質及びペプチドは、元の特性を回復することができない。また、前記タンパク質は、不安定で、温度、湿度、酸素及び紫外線などの外部要素に影響されやすいため、凝集、重合又は酸化を含む物理的又は化学的な変化を経て、活性を失うことになる。
【0016】
また、吸着したタンパク質及びペプチドは、変性過程で凝集しやすく、凝集したタンパク質及びペプチドが、体内に導入される場合、抗体形成を起こし得る。従って、十分に安定的なタンパク質及びペプチドを投与しなければならない。このような点から、溶液中のタンパク質及びペプチドの変性を防ぐための様々な方法が開発されてきた(非特許文献10、11、12、13、14)。
【0017】
一部のタンパク質及びペプチド薬物の生産において、凍結乾燥工程が安定性の問題を解決するために用いられた。しかし、これらの工程は、凍結乾燥の製品を使用する前に再び注射用の溶液に溶かさなければならないなどの不便があり、凍結乾燥工程が生産工程に含まれているため、大容量の凍結乾燥機の使用などの大規模の投資が必要である。代替的に、噴霧乾燥機を用いて粉末にする方法が用いられてきた。しかし、この方法は、低い生産収率のため、経済的な価値が低く、タンパク質が高温に晒されるため、製品の安定性に悪影響を与え得る。
【0018】
このような限界を解決する代替的なアプローチとして、溶液状態にタンパク質及びペプチドに安定化剤を添加してタンパク質薬物の物理化学的な変化を防ぎながら、長期間の貯蔵でそれらの生体内効力を維持させる研究が行われてきた。タンパク質の一種であるヒト血清アルブミンは、様々なタンパク質薬物の安定化剤として広く用いられ、それらの効能が認証された(非特許文献15)
【0019】
ヒト血清アルブミンの精製は、マイコプラズマ、プリオン、バクテリア及びウィルスなどの生物学的な汚染物に対する不活性化又は1つ以上の生物学的汚染物又は病原体に対するスクリーニング又は検査を含むが、これらの工程で、これらの汚染物が、完全に除去又は不活性化されることではない。従って、ヒト血清アルブミンを投与する場合、患者はこれらの生物学的汚染又は病原菌に露出され得る。例えば、スクーリングの工程で、ドナーの血液サンプル中の特定ウィルスの検査を含むが、前記検査工程が、常に信頼できるものではなく、少ない数で存在する特定ウィルスを検出することはできない。
【0020】
これらの化学的な違いによって、異なるタンパク質は、貯蔵の間、異なる条件下で異なる比率で段階的に不活性化され得る。つまり、安定化剤による貯蔵期間の延長は、異なるタンパク質で同じではない。これらの理由から、タンパク質の貯蔵安定性を向上させるために用いる安定化剤の適切な比率、濃度及び種類は、目的タンパク質の物理化学的な特性によって多様である。従って、異なる安定化剤を一緒に用いる場合、競争的な相互作用及び副作用によって、それらの目的とは違う逆効果を誘発し得る。また、貯蔵の間、貯蔵したタンパク質の特性又はそれらの濃度が変化するため、異なる効果を起こし得る。
【0021】
従って、溶液中のタンパク質を安定化させるためには、多くの努力と注意が必要である。特に、生体内の持続性及び安定性を高めた持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、インスリン分泌性ペプチドが免疫グロブリンFc領域と結合した形態であるため、普通のインスリン分泌性ペプチドに比べ、分子量と体積が著しく異なっている。従って、タンパク質を安定化させるために特別な組成が必要である。また、インスリン分泌性ペプチド及び免疫グロブリンFc領域は、物理化学的に異なるペプチド又はタンパク質であるため、これらを同時に安定化しなければならない。しかし、前述のように、異なるペプチド又はタンパク質は、それらの物理化学的な違いによって、貯蔵の間、異なる条件下で異なる比率で段階的に不活性化され得る。また、それぞれのペプチド又はタンパク質に適した安定化剤を一緒に用いる場合、競争的な相互作用及び副作用によって、目的した効果とは異なる逆効果を誘発し得る。従って、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の場合、インスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域を同時に安定化できる安定化剤の組成を探すのが非常に難しい。
【0022】
近年、患者の便宜のために、繰り返し使用可能なタンパク質及びペプチド製剤が開発された。しかし、この複数回使用の製剤は、繰り返し投与後、捨てる前まで微生物による汚染を防ぐために保存剤を含まなければならない。保存剤を含む複数回使用の製剤は、単回使用の製剤に比べ、いくつか長点がある。例えば、単回使用の製剤では、投与量の違いによって多量の薬物が無駄になるが、複数回使用の製剤では、無駄になる製品の量を減らすことができる。さらに、一定期間微生物の成長に対する心配なく、複数回使用が可能であり、1つの容器で使用することができるため、包装を最小化でき、よって、経済的に利益になる。
【0023】
しかし、保存剤の使用は、タンパク質の安定性に影響を与えることがある。保存剤の使用において、最もよく知られている問題は、沈澱の形成である。タンパク質の沈澱は、薬物の治療効果を下げ、また、体内に投与される場合、予期せぬ免疫反応を誘発し得る。従って、タンパク質の安定性に影響を及ぼすことなく、微生物による汚染を防ぐ能力を維持する適切な濃度及び種類の保存剤を選択することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第5545618号明細書
【特許文献2】米国特許第5424686号明細書
【特許文献3】国際公開第WO2006/076471号明細書
【特許文献4】米国特許第6924264号明細書
【特許文献5】韓国特許公告第10-2009-7003679号明細書
【特許文献6】韓国特許公告第10-2007-7014068号明細書
【特許文献7】韓国特許公告第10-0567902号明細書
【特許文献8】韓国特許公告第10-0725315号明細書
【特許文献9】韓国特許公告第10-2008-0001479号明細書
【特許文献10】韓国特許公告第10-0725315号明細書
【特許文献11】韓国特許公告第10-2009-0008151号明細書
【特許文献12】韓国特許公告第10-1058290号明細書
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Parks et al., Metabolism. 50: 583-589, 2001
【非特許文献2】Aziz and Anderson, J. Nutr. 132: 990-995, 2002
【非特許文献3】Egan et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 87: 1282-1290, 2002
【非特許文献4】Kolterman et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 88: 3082-3089, 2003
【非特許文献5】Fineman et al.,Diabetes Care. 26: 2370-2377, 2003
【非特許文献6】Kreymann et al., 1987
【非特許文献7】Deacon et al., 1998; Burcelin et al., 1999
【非特許文献8】Xiao et al., 2001
【非特許文献9】Baptist Gallwitz, et al., Regulatory Peptides 86, 103-111, 2000
【非特許文献10】John Geigert, J. Parenteral Sci. Tech., 43, No5, 220-224, 1989
【非特許文献11】David Wong, Pharm. Tech. October, 34-48, 1997
【非特許文献12】Wei Wang., Int. J. Pharm., 185, 129-188, 1999
【非特許文献13】Willem Norde, Adv. Colloid Interface Sci., 25, 267-340, 1986
【非特許文献14】Michelle et al., Int. J. Pharm. 120, 179-188, 1995
【非特許文献15】Edward Tarelli et al., Biologicals (1998) 26, 331-346
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
微生物による汚染なしに、長期間持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を貯蔵できる持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定的な液状製剤を提供するための努力において、本発明者は、緩衝溶液、糖アルコール、非イオン性界面活性剤及び等張化剤又は追加的にメチオニンを含む安定化剤を用いることで、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性を向上させる製剤、また、前記製剤がさらに保存剤を含む場合、複数回使用が可能な製剤を提供することができることを確認し、経済的かつ安定的な液状製剤を完成した。
【0027】
本発明の1つの目的は、生理活性ペプチドであるインスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域が結合した薬理学的有効量の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体及びアルブミン-非含有の安定化剤を含み、前記安定化剤は、緩衝溶液、糖アルコール、非イオン性界面活性剤及び等張化剤を含有する、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤を提供することである。
【0028】
本発明の他の目的は、前記インスリン分泌性ペプチド結合体及びアルブミン-非含有の安定化剤に加えて、保存剤をさらに含む、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の複数回投与のための液状製剤を提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、前記持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤を製造する方法を提供することである。
【発明の効果】
【0030】
本発明の持続型インスリン結合体の液状製剤は、緩衝溶液、等張化剤、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤又は追加的にメチオニンを含み、ヒト血清アルブミン及び体内に潜在的な他の危険要素は含まないため、ウィルスによる汚染のリスクがない。また、インスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域を含むため、天然型タンパク質に比べ、分子量がより大きく、体内の生理活性の持続期間が増加したインスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域を含む持続型インスリン分泌性ペプチド結合体に優れた貯蔵安定性を提供することができる。本発明のこのような液状製剤は、簡単な製剤で優れた貯蔵安定性を提供でき、また、他の安定化剤及び凍結乾燥剤に比べ、さらに経済的なペプチド薬物を提供する。前記製剤に保存剤を添加する場合、前記製剤は、複数回使用が可能である。また、本製剤は、通常のインスリン分泌性ペプチド製剤に比べ、体内でタンパク質活性を長期間維持できるため、効率的な薬物製剤として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】最終的に選択したpH5.2の液状製剤(液状製剤1番)、商業的に利用可能なインスリン分泌性ペプチド薬物であるエクセナチド、エキセンジン-4(Byetta)の液状製剤の安定化剤の組成に持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を適用した液状製剤(液状製剤2番)、免疫グロブリン融合タンパク質薬物であるエタネルセプト(TNFR−Fc融合タンパク質、ENBREL)液状製剤の安定化剤の組成に持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を適用した液状製剤(液状製剤3番)及び対照群(液状製剤の番号4)を25±2℃で8週間貯蔵しそのペプチドの安定性をRP-HPLCにより分析したグラフである。
【
図2】メチオニンを含まないpH5.2の最終的に選択した液状製剤(液状製剤の番号1)とメチオニンを含むpH5.2の液状製剤(液状製剤の番号2)の酸化された持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を25±2℃及び40±2℃で4週間貯蔵した後、RP-HPLCにより分析したグラフである。
【
図3】表18の組成による持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の40℃で48時間の間、沈澱発生の結果を肉眼で確認した図である。沈澱阻害の持続期間は、貯蔵後、タンパク質の沈澱が発生しない期間を意味する。
【
図4】表19の組成による持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の40℃で7日間、沈澱発生の結果を肉眼で確認した図である。沈澱阻害の持続期間は、貯蔵後、タンパク質の沈澱が発生しない期間を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
一態様として、本発明は、生理活性ペプチドであるインスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域が結合した薬理学的有効量の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体及びアルブミン-非含有の安定化剤を含み、前記安定化剤は、緩衝溶液、糖アルコール、非イオン性界面活性剤及び等張化剤を含有する持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤を提供する。
【0033】
さらに、本発明は、前記インスリン分泌性ペプチド結合体及びアルブミン-非含有の安定化剤に加えて保存剤をさらに含む、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の複数回投与用のための液状製剤を提供する。
【0034】
本発明における「持続型インスリン分泌性ペプチド結合体」とは、誘導体、変異体、前駆体及び断片を含む生理活性インスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域が結合した形態の結合体として、天然型インスリン分泌性ペプチドに比べ、生理活性の持続期間が増加した結合体をさらに意味する。
【0035】
本発明における「持続型」とは、生理活性の持続期間が天然型に比べ、増加したことを意味し、「結合体」とは、インスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域が結合した形態を意味する。
【0036】
本発明で使用されるインスリン分泌性ペプチドは、インスリン分泌機能を持ち、膵臓のβ細胞のインスリンの合成及び発現を刺激する。このようなインスリン分泌性ペプチドは、前駆体、アゴニスト、誘導体、断片及び変異体などを含む。好ましくは、前記インスリン分泌性ペプチドは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)、グルカゴン様ペプチド-2(GLP-2)、エキセンジン-3、エキセンジン-4及びイミダゾ-アセチル(CA)エキセンジン-4であり、より好ましくは、イミダゾ-アセチルエキセンジン-4である。天然又は組み換え体のどんなインスリン分泌性ペプチドも使用され得るが、好ましくは、宿主細胞として大腸菌を用いて製造された組み換えインスリン分泌性ペプチドである。生物学的活性が大きく影響をされない限り、アミノ酸の置換、除去又は挿入により製造されるそれらの任意の誘導体も本研究で使用され得る。
【0037】
前記インスリン分泌性ペプチドの配列は、NCBIのGenBankなどの公知のデータベースから得ることができ、インスリン分泌性ペプチドの活性を示す限り、天然型タンパク質の配列の相同性が、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上である。
【0038】
さらに、本発明で有用な免疫グロブリンFcは、ヒト免疫グロブリンFc又はその密接に関連した類似体又は牛、羊、豚、マウス、ラビット、ハムスター、ラット及びモルモットなどの動物から由来する免疫グロブリンFcであり得る。さらに、免疫グロブリンFc領域は、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM又は組み合わせ又はそれらのハイブリットから由来するものであり得る。好ましくは、ヒト血液に最も豊富なIgG又はIgM由来であり、最も好ましくは、リガンド結合タンパク質の半減期を向上させることで公知のIgG由来である。また、免疫グロブリンFc領域は、同様の起源のドメインを持つ単鎖免疫グロブリンの2量体又は多量体であり得る。免疫グロブリンFcは、天然型IgGを特定のタンパク質分解酵素で処理することで、又は遺伝子組み換え技術を用いて形質転換された細胞によって製造され得る。好ましくは、E.coliから製造された組み換えヒト免疫グロブリンFcである。
【0039】
一方、IgGは、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4のサブクラスに分けることができ、本発明では、これらの組み合わせ又はハイブリットも利用され得る。好ましくは、IgG2及びIgG4サブクラスであり、最も好ましくは、補体依存性細胞傷害(CDC)などのエフェクター機能をほとんど持たないIgG4のFc領域である。つまり、本発明の薬物担体としての最も好ましい免疫グロブリンFc領域は、ヒトIgG4由来の非糖鎖化されたFc領域である。ヒト由来のFc領域は、ヒトの生体で抗原として作用して新しい抗体を生成するなど、好ましくない免疫反応を起こし得る非ヒト由来のFc領域よりも好ましい。
【0040】
本発明で使用される持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、合成したインスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域を結合させて製造する。前記2つを結合させる方法は、インスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域を非ペプチド性重合体を用いて交さ結合させたり、遺伝子組み換えによってインスリン分泌性ペプチドと免疫グロブリンFc領域が結合した融合タンパク質への製造であり得る。
【0041】
交さ結合で使用される非ペプチド性重合体は、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール及びプロピレングリコールの共重合体、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、ポリサッカライド、デキストラン、ポリビニルエチルエーテル、ポリ乳酸(PLA)及び乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)などの生分解性高分子;脂質重合体、キチン類、ヒアルロン酸及びそれらの組み合わせからなる群より選択され得る。好ましくは、ポリエチレングリコールが使用され得るが、それらに制限されるものではない。これらの誘導体は、当分野に公知であり、当分野で知られる方法を用いて容易に製造され得る誘導体は本発明の範囲内に含まれる。
【0042】
本発明で使用される持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の製造のために、特許文献10、11、12で説明している。当業者は、これらの文献による説明で本発明の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を製造できるであろう。
【0043】
本発明の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤は、治療学的有効量の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を含む。一般的に、インスリン分泌性ペプチド、特に、エキセンジン-4(Byetta)の治療学的有効量は、ペンインジェクター内に、250mcgを意味する。本発明で使用される持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の濃度は、0.1mg/ml〜200mg/mlの範囲であり、好ましくは、0.5〜150mg/mlである。前記インスリン分泌性ペプチドは、好ましくは、持続型CA エキセンジン-4結合体であり得る。本発明の前記持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤は、インスリン分泌性ペプチドが低濃度で存在する場合だけでなく、高濃度で存在する場合でも沈殿させることなく、結合体を安定的に貯蔵することができる。従って、本製剤は、安定的に体内に高濃度のインスリン分泌性ペプチドを提供することができる。
【0044】
本発明における「安定化剤」とは、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を安定的に貯蔵できるようにする物質を意味する。前記用語「安定化」とは、一定時間、特定の貯蔵条件下で活性成分の損失が特定量未満、一般的に10%未満であることを意味する。普通、5±3℃で2年、25±2℃で6ヶ月又は40±2℃で1〜2週間貯蔵した後、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率が90%以上で、より好ましくは92〜95%である場合に安定的な製剤として見なされる。持続型インスリン分泌性ペプチド結合体のようなタンパク質において、それらの貯蔵安定性は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体に対する抗原性物質の潜在的な形成を抑制するためだけでなく、正確な投与量を提供するために重要である。貯蔵の間、組成物内の凝集体又は断片を形成して抗原性化合物の形成を生成しない限り、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の10%の損失は、実際の投与時に許容される。
【0045】
本発明の前記安定化剤は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を安定化させるために、緩衝溶液、糖アルコール、等張化剤として塩化ナトリウム及び非イオン性界面活性剤を含むのが好ましく、さらにメチオニンを含むのがより好ましい。
【0046】
緩衝溶液は、急激なpH変化を防ぐために溶液のpHを維持して持続型インスリン結合体を安定化させる働きをする。緩衝溶液は、アルカリ塩(ナトリウム又は リン酸カリウム又はこれらの水素又は二水素塩)、クエン酸ナトリウム/クエン酸、酢酸ナトリウム/酢酸、ヒスチジン/塩酸ヒスチジンを及び当業者に公知の任意の他の薬学的に許容可能なpH緩衝溶液、及びそれらの組み合わせを含んでもよい。このような緩衝溶液の好ましい例としては、クエン酸緩衝溶液、酢酸緩衝溶液及びヒスチジン緩衝溶液を含む。前記緩衝溶液の濃度は、好ましくは5mM〜100mMであり、より好ましくは10mM〜50mMである。前記緩衝溶液のpHは、好ましくは4.0〜7.0であり、より好ましくは5.0〜7.0であり、さらに好ましくは5.2〜7.0であり、最も好ましくは5.2〜6.0である。
【0047】
糖アルコールは、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性を向上させる役割をする。本発明に使用される糖アルコールの濃度は、好ましくは製剤の全体量に対して1〜20%(w/v)、より好ましくは全体量に対して3〜10%(w/v)である。糖アルコールは、マンニトール、ソルビトール及びスクロースからなる群より選択される1つ以上であり得るが、これらに制限されるものではない。
【0048】
等張化剤は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の溶液を体内に投与する場合、適切な浸透圧を維持させる役割をし、また、溶液内の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を安定化させる役割をする。製剤の浸透圧は、血液と等張になるように調節する。このような等張性液状製剤は、一般的に約300mOsm/kgの浸透圧を持つ。等張化剤の代表的な例としては、糖アルコール、水溶性無機塩及びアミノ酸を含み、好ましい例としては、水溶性無機塩である塩化ナトリウムである。等張化剤としての塩化ナトリウムの濃度は、好ましくは、0〜150mMであり、製剤に含まれる成分の種類及び量によって、全ての混合物を含む液状製剤が等張になるように適切に調節され得る。
【0049】
非イオン性界面活性剤は、タンパク質溶液の表面張力を下げることで疎水性表面上のタンパク質の吸収又は凝集を防止する。本発明で使用される非イオン性界面活性剤の有用な例としては、ポリソルベート系、ポロキサマー系及びそれらの組み合わせを含むが、ポリソルベート系が好ましい。ポリソルベート系の非イオン性界面活性剤の中には、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60及びポリソルベート80があり、最も好ましい非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20である。
【0050】
非イオン性界面活性剤を液状製剤の中で高濃度で使用することは、不適切であり、それは、高濃度の非イオン性界面活性剤が、UV-分光法又は等電焦点法などの分析法でタンパク質の濃度を測定及びタンパク質の安定性を評価するとき、干渉効果を誘導するためであり、従って、正確にタンパク質の安定性を評価する上で困難が生じる。従って、本発明の液状製剤は、好ましくは0.2%(w/v)以下の低濃度で前記非イオン性界面活性剤を含むが、より好ましくは0.001%〜0.05%(w/v)である。
【0051】
本発明の一実施例によると、緩衝溶液、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤の存在下で、等張化剤として塩化ナトリウムを添加する場合、低濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の貯蔵安定性が著しく向上することが示された。これは、等張化剤として塩化ナトリウムを、緩衝溶液、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤と同時に用いるとシナジー効果を誘導することを示すことから、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、高い安定性を許容する。しかし、高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体において、塩化ナトリウムを排除する場合、沈殿発生が予防され、タンパク質の溶解度が改善される。これらの結果は、塩化ナトリウムが等張化剤として用いられる場合、それらの含量は持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の濃度によって調節され得ることを示す。
【0052】
さらに、低濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、緩衝溶液内で5.2のpHが最も安定的である一方、高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、緩衝溶液内で5.4又は5.6のpHが最も安定的であることが確認された。従って、緩衝溶液のpHは、結合体の濃度によって適切に調節され得ることが確認された。
【0053】
本発明の安定化剤に含まれるメチオニンは、溶液内のタンパク質の酸化によって起こり得る不純物の生成を抑制することで、標的タンパク質をさらに安定化させる。メチオニンの濃度は、全体量に対して0.005〜0.1%(w/v)であり、好ましくは、0.01〜0.1%(w/v)であり得る。
【0054】
本発明の前記安定化剤は、アルブミンを含まないのが好ましい。タンパク質の安定化剤として利用可能なヒト血清アルブミンは、人体の血清から製造されるため、ヒト由来の病原性ウィルスに汚染される可能性が常に存在する。ゼラチン又はウシ血清アルブミンは、疾患を起こし得たり、又は一部の患者では、ヒト又は動物由来の血清アルブミン又は精製されたゼラチンなどの異種のタンパク質を含まないため、ウィルスによる汚染の可能性がない。
【0055】
さらに、本発明の前記安定化剤は、糖類、多価アルコール又はアミノ酸をさらに含んでもよい。持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の貯蔵安定性を向上させるためにさらに添加され得る糖類の例としては、マンノース、グルコース、フコース及びキシロースなどの単糖類と、ラクトース、マルトース、スクロース、ラフィノース及びデキストランなどの多糖類を含む。多価アルコールの好ましい例としては、プロピレングリコール、低分子量のポリエチレングリコール、グリセロール、低分子量のポリプロピレングリコール及びそれらの組み合わせを含む。
【0056】
本発明の液状製剤は、上述した結合体、緩衝溶液、等張化剤、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤又は追加的にメチオニン以外に、複数回使用の製剤内の微生物による汚染を防止する目的で保存剤をさらに含んでもよい。
【0057】
本発明における「保存剤」とは、抗菌剤として作用するために薬学的製剤に添加される化合物を意味する。保存剤の例としては、ベンゼトニウム、クロルヘキシジン フェノール、m−クレゾール、ベンジルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロロブタノール、o−クレゾール、p−クレゾール、クロロクレゾール、 塩化ベンザルコニウム、硝酸フェニール水銀、チメロサール及び 安息香酸を含むが、それらに制限されるものではない。保存剤は、1種類を単独で使用したり、又は 2種類以上の種類の保存剤を任意に組み合わせて使用してもよい。好ましくは、本発明の液状製剤は、保存剤として、m−クレゾール、フェノール及びベンジルアルコール中1つ以上を含んでもよい。
【0058】
本発明の液状製剤は、0.001〜1%(w/v)の保存剤、好ましくは0.001%〜0.5%(w/v)の保存剤及び最も好ましくは0.001%〜0.25%(w/v)の保存剤を含んでもよい。
【0059】
本発明の一実施例としては、本発明の液状製剤に保存剤として0.22%(w/v)のm−クレゾールを含み、インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性におけるクレゾールの効果が評価された。その結果、結合体は、保存剤を添加した製剤の中で沈殿を起こすことなく、安定性を維持することが確認された。従って、前記安定化剤に加えて、保存剤を含む本発明のインスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤は、複数回投与のために使用され得る。
【0060】
本発明の液状製剤は、前述した緩衝溶液、等張化剤、糖アルコール及び非イオン性界面活性剤又は追加的にメチオニン及び保存剤の他に、本発明の効果が影響されない限り、当分野に公知のその他の成分又は物質を選択的にさらに含んでもよい。
【0061】
持続型インスリン分泌性ペプチド結合体に安定性を提供する本発明による持続型インスリン分泌性ペプチド結合体のアルブミン-非含有の液状製剤は、ウィルスによる汚染のリスクがないだけでなく、簡単な製剤で、優れた貯蔵安定性を提供することから、本製剤は、他の安定化剤又は凍結乾燥製剤に比べ、より経済的に提供され得る。
【0062】
また、本発明の液状製剤は、天然型に比べ、生理活性の持続期間が増大した持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を含み、通常のインスリン分泌性ペプチド製剤に比べ、体内でタンパク質活性を長期間維持させることによって、効率的な薬物製剤として利用され得る。また、本液状製剤は、高濃度だけでなく、低濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体に対しても優れた貯蔵安定性を提供する。
【0063】
他の態様として、本発明は、本発明の液状製剤を製造する方法を提供する。
【0064】
持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定的な液状製剤は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の製造及び前記製造された持続型インスリン分泌性ペプチド結合体と、緩衝溶液、糖アルコール、非イオン性界面活性剤及び等張化剤を含む安定化剤との混合を通じて製造することができる。また、複数回使用のために、前記安定化剤を加えて保存剤をさらに混合することによって、安定的な持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤を製造することができる。
【0065】
(発明を実施するための形態)
以下、本発明は、実施例を参考してより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、単に例示するためのものであり、本発明は、これらの実施例によって制限されることを意図しない。
【0066】
実施例1:塩などの等張化剤の有無による持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
本発明で安定化剤として緩衝溶液、糖アルコール、非イオン性界面活性剤を含む製剤;及び安定化剤として緩衝溶液、糖アルコール、非イオン性界面活性剤、メチオニンを含む製剤に等張化剤として塩化ナトリウムの有無における持続型インスリン分泌性ペプチド結合体(15.41μg/ml CA エキセンジン-4、Nominal Conc.)の安定性を評価した。この目的のために表1のような組成で、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を25℃及び40℃で0〜4週間貯蔵した後、結合体の安定性を逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)及びサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)により分析した。緩衝溶液はクエン酸緩衝溶液を用い、糖アルコールはマンニトールを用い、及び非イオン性界面活性剤としてポリソルベート20を用いた。表2及び表3のRP-HPLC(%)及びSE-HPLC(%)は、「Area%/Start Area%」の値で表し、初期結果と比べた持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を示す。表2は、25℃で貯蔵した後、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を示し、表3は、40℃で貯蔵した後、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を示す。
【0070】
表2及び表3において、番号1と番号2及び番号3と番号4間の比較に基づいて、等張化剤として塩化ナトリウム、特に、150mMのNaClの存在下で、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤を25℃及び40℃で、特に、40℃で4週間貯蔵した場合、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性が著しく高く維持された。
【0071】
実施例2:緩衝液のpHによる持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
液状タンパク質薬物の一般的なpHの範囲は、約5〜7である一方、インスリン分泌性ペプチド薬物であるエキセンジン-4(Byetta)の液状製剤のpHは、一般的なpHの範囲より低い4.5である。従って、この実施例は、ペプチドと免疫グロブリンFcタンパク質を含む持続型インスリン分泌性ペプチド結合体、より好ましくは、持続型イミダゾ-アセチル(CA)エキセンジン-4結合体が、緩衝溶液のpHが安定性に及ぼす影響を分析した。
【0072】
緩衝溶液としてクエン酸緩衝溶液を用い、糖アルコールとしてマンニトールを用い、等張化剤として塩化ナトリウム及び非イオン性界面活性剤としてポリソルベート80を用いた。表4で表す下記の組成を持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定化剤として用いた。その後、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を、25±2℃で4週間貯蔵し、それらの安定性をサイズ排除高速液体クロマトグラフィー(SE-HPLC)及び逆相高速液体クロマトグラフィー (RP-HPLC)により分析した。表5のRP-HPLC(%)及びSE-HPLC(%)は、(Area%/Start Area%)を表し、初期結果と比べた持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を示す。
【0075】
前記に示すように、前記液状製剤においてpHが5.2の場合、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体が最も安定的であった(表5)。
【0076】
実施例3:非イオン性界面活性剤の種類及び濃度による持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
本発明の安定化剤として非イオン性界面活性剤であるポリソルベートの異なる種類及び濃度を用いて、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性を分析した。
【0077】
非イオン性界面活性剤であるポリソルベート80とポリソルベート20をそれぞれ0.005%及び0.01%の濃度で比較した。安定化剤の組成は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体に安定性を提供するために、前記実施例で用いられた界面活性剤だけでなく、緩衝溶液、糖アルコール及び等張化剤を含む。緩衝溶液として実施例2で高い安定性を示すpH5.2のクエン酸緩衝溶液を用い、糖アルコールとしてマンニトールを用い、及び等張化剤として塩化ナトリウムを用いた。
【0078】
表6で表す組成で、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体、好ましくは、持続型CAエキセンジン-4結合体の安定化剤として用いた。その後、25±2℃で8週間貯蔵し、RP-HPLC及びSE-HPLCにより分析した。表7のRP-HPLC(%)及びSE-HPLCは、初期結果と比べた持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を示す。
【0081】
前記に示すように、SE-HPLCの分析結果に基づいて、ポリソルベートの異なる種類及び濃度を使用しても持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性はほとんど同じであった。しかし、RP-HPLCの分析結果に基づいて、ポリソルベート20が用いられる場合、ペプチド結合体の安定性は、ポリソルベート80で同じ濃度が用いられる場合に比べ、同様であるか又はより高かった。また、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性は、0.01%のポリソルベート20を含むものに比べ、0.005%のポリソルベート20を含む液状製剤でより高かった(表7)。
【0082】
実施例4:最終的に選択した持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤と商業的に利用可能なペプチド又は同様のものを含むタンパク質薬物の液状製剤との安定性の比較
本実施例において、実施例1〜3の安定性実験を通じて選択された製剤の安定性を評価した。最終的に選択された持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の製剤は、pH5.2のクエン酸緩衝溶液、塩化ナトリウム、マンニトール及びポリソルベート20からなる。この目的のために、薬物製剤の安定性は、商業的に利用可能なインスリン分泌性ペプチド薬物であるエキセンジン-4(Byetta);及び免疫グロブリン融合タンパク質薬物であるエタネルセプトを、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体に適用して製造した液状製剤間で比較した(TNFR−Fc融合タンパク質、ENBREL)。
【0083】
表8で表す下記組成を用いて下記の製剤が製造された:持続型インスリン分泌性ペプチド結合体、より好ましくは、持続型CAエキセンジン-4結合体の液状製剤(液状製剤の番号1);インスリン分泌性ペプチド薬物であるエキセンジン-4(Byetta)の液状製剤の安定化剤の組成に持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を適用して製造した液状製剤(液状製剤の番号2);及び免疫グロブリン融合タンパク質薬物であるエタネルセプト(TNFR−Fc融合タンパク質、ENBREL)の液状製剤の安定化剤組成に持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を適用して製造した液状製剤(液状製剤の番号3)。対照群としてPBSだけを含む安定化剤組成に持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を適用して液状製剤(液状製剤の番号4)を製造した。その後、25±2℃で8週間貯蔵後、それらの安定性をRP-HPLC及びSE-HPLCにより分析した。表9のRP-HPLC(%)及びSE-HPLC(%)は、初期結果と比較した持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を示す。
【0086】
安定性試験の結果、
図1及び表9に示すように、商業的に利用可能なインスリン分泌性ペプチド薬物であるエキセンジン-4(Byetta)及び免疫グロブリン融合タンパク質薬物であるエタネルセプト(TNFR−Fc融合タンパク質、ENBREL)の液状製剤に持続性インスリン分泌性ペプチド結合体を適用して製造した液状製剤より、本発明の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤がより高い安定性を示すことを確認することができた。
【0087】
実施例5:メチオニン添加による持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
結合体の安定性におけるメチオニンの効果を確認するために、前記実施例で選択したpH5.2のクエン酸緩衝溶液、塩化ナトリウム、マンニトール及びポリソルベート20を含む組成物に酸化反応を防ぐためにメチオニンを添加して液状製剤を製造した。この製剤は、25±2℃で4週間及び40±2℃で4週間貯蔵した後、それらの安定性を分析した。
【0088】
表10で表す下記組成で持続型インスリン分泌性ペプチド結合体、より好ましくは、持続型CAエキセンジン-4結合体の液状製剤を製造し、それらの安定性を分析した。表11〜14のRP-HPLC(%)及びSE-HPLC(%)は、各時点の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体及び不純物の含量を示す。表11は、RP-HPLC(25±2℃)による加速安定性試験の結果を示し、表12は、SE-HPLC(25±2℃)による加速安定性試験の結果を示す。表13は、RP-HPLC(40±2℃)による過酷不安定性試験の結果を示し、表14は、SE-HPLC(40±2℃)による過酷不安定性試験の結果を示す。不純物の番号3は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の酸化された形態である。しかし、SE-HPLCは、サンプルを分子量で分離するもので、酸化された形態と酸化されてない形態の分子量の違いが非常に小さいため、SE-HPLCを通じて持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の酸化された形態を分離するのは難しい。
【0094】
加速安定性試験及び過酷不安定性試験の結果として、
図2で表すように、メチオニンを含まない液状製剤で、酸化された持続型インスリン分泌性ペプチド結合体(RP-HPLCでの不純物の番号3)の含量が増加することが確認されたが、0.01%のメチオニンを含む液状製剤では増加しなかった(
図2)。従って、メチオニンを含む液状製剤が持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性をより効果的に提供するものと確認された。
【0095】
実施例6:最終的に選択した持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤の長期貯蔵の安定性評価
本実施例において、上記をサンプルで最終的に選択した液状製剤の長期貯蔵安定性及び加速安定性を評価した。最終的に選択した液状製剤は、pH5.2のクエン酸緩衝溶液、塩化ナトリウム、マンニトール、ポリソルベート20及びメチオニンを含む。この目的のために、前記製剤を5±3℃で6ヶ月及び25±2℃で6ヶ月間貯蔵し、それらの安定性を分析した。その結果を表15及び表16に示し、RP-HPLC(%)、SE-HPLC(%)、タンパク質の含量(%)及び特異的活性試験(%)は、初期結果と比較した結合体の残存率を示す。表15は、5±3℃で同じものを貯蔵した後、製剤の長期貯蔵安定性を試験した結果を示し、表16は、25±2℃で同じものを貯蔵した後、加速安定性を試験した結果を示す。
【0098】
長期貯蔵安定性試験の結果として、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、本発明の液状製剤で6ヶ月以上安定的であった。また、加速条件で6ヶ月間貯蔵する場合、RP-HPLCの分析結果は、製剤内にペプチド結合体の95.4%以上が残存することから、本液状製剤は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体に優れた定性性を提供するものであると確認することができた。
【0099】
実施例7:タンパク質濃度による持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
pH5.2のクエン酸緩衝溶液、塩化ナトリウム、マンニトール、ポリソルベート20及び酸化反応を防ぐためにメチオニンを含む最終的に選択した液状製剤の高濃度結合体の効果を評価した。この目的のために、表17で表す様々な結合体の濃度を40℃で製剤内の沈殿を肉眼で観察した。72時間の観察後、本製剤の高濃度(4mg/ml以上)で全て沈殿が発生した。また、濃度が高いほど沈殿の発生量も多かった。
【0101】
実施例8:塩及び糖アルコールの濃度、メチオニンの有無による高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
沈殿抑制における塩化ナトリウム及び糖アルコールとしてのマンニトールの濃度の効果を、最終的に選択された高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の液状製剤で評価した。液状製剤は、表18で表す下記組成で製造し、40℃で48時間肉眼により沈殿の発生を観察した。
図3で表す沈殿阻害の持続期間は、貯蔵後タンパク質の沈殿が発生しない期間を表す。
【0103】
上記結果で表すように、肉眼による観察に基づいて、塩化ナトリウムの濃度は、高濃度インスリン分泌性ペプチド結合体の沈殿抑制及び安定性に大きな影響を与えないことが確認された。しかし、糖アルコールとしてマンニトールの濃度が5%〜10%増加する場合、沈殿が著しく抑制された(
図3)。また、製剤にメチオニン添加しない場合も同様に沈殿が抑制された。
【0104】
実施例9:塩の有無及びpHによる高濃度持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
実施例8により選択された10%マンニトールに基づいて、沈殿の抑制及び高濃度の持続型インスリン分泌性結合体の安定性の促進におけるpHの効果を評価した。緩衝溶液としてクエン酸緩衝溶液及び非イオン性界面活性剤としてポリソルベート20を用いた。実施例8によると、沈殿は、製剤からメチオニンを排除することによって抑制された。しかし、メチオニンは、依然としてタンパク質の酸化反応を抑制する目的で製剤に添加する。さらに、塩化ナトリウム及びpHのシナジー効果を確認するために、150mMの塩化ナトリウムを製剤に添加又は排除した。表19で表す下記組成で高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を製造し、40℃で7日間沈殿の発生を観察した。貯蔵の7日後、前記サンプルをRP-HPLC及びSE-HPLCにより分析した。
【0105】
図4で表す沈殿阻害の持続期間は、貯蔵後タンパク質の沈殿が発生しない期間を示す。表20のRP-HPLC(%)及び表21のSE-HPLC(%)は、初期結果と比較した持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を示す。
【0109】
前記に示すように、沈殿は、pH5.2より、pH5.4及び5.6の高い緩衝溶液で抑制された。貯蔵の7日後、全ての製剤で沈殿が観察された。しかし、pH5.6で10%のマンニトール及び150mMの塩化ナトリウムを含む組成(組成6番)で、不純物の量の発生が最も少なかった。pH5.4及び5.6の塩化ナトリウムの存在では、高濃度の持続型インスリンペプチド性結合体の安定性において大きな効果はなかった(表20及び
図4)。
【0110】
実施例10:糖アルコールの濃度及び多様なpHによる高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
前記試験例に基づいて、高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性における糖アルコール及びpHの濃度の効果を評価した。緩衝溶液としてクエン酸緩衝溶液を用い及び非イオン性界面活性剤としてポリソルベート20を用いた。酸化反応を防ぐ目的でメチオニンを製剤に添加した。さらに、実施例9の観察結果に基づいて、塩化ナトリウムを、高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の製剤から排除した。表22で表す下記組成で高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体を製剤化し、40℃で5日間貯蔵した後、25℃の温度に移し、さらに4週間貯蔵した。毎週、タンパク質の安定性をSE-HPLC、IE−HPLC及びRP-HPLCにより分析した。表23のSE-HPLC(%)、表24のIE−HPLC(%)及び表25のRP-HPLC(%)は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を表す。
【0115】
前記に示すように、pHが低い場合、pHが高い場合に比べ、安定性も低下した。結合体の安定性は、10%のマンニトールで最も高かったが、一方で、2%及び5%のマンニトールでは、高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性に影響を及ぼさなかった。
【0116】
実施例11:糖アルコールの種類と濃度による高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
等張性液状製剤の開発のために、前記実施例の条件下で、製剤の浸透圧に最も著しく影響を与える糖アルコールの種類と濃度の効果を評価した。糖アルコールの種類はスクロースに変更された。実施例10の製剤1番に基づいて、10%のマンニトールを、5%及び7%のスクロースに変更した(表26)。製剤は、25℃で4週間貯蔵し、それらの安定性をSE-HPLC、IE−HPLC及びRP-HPLCにより毎週分析した。表27のSE-HPLC(%)、表28のIE−HPLC(%)及び表29のRP-HPLCは、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を表す。
【0121】
前記に示すように、スクロースをマンニトールの代わりに用いる場合、結合体の安定性は維持され、結合体の安定性が5%のスクロースより7%のスクロースで多少増加したが、大きな差ではなかった。
【0122】
実施例12:緩衝溶液の種類、浸透圧の調節及び保存剤の添加による高濃度の持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の安定性の評価
等張性液状製剤の開発のために、前記実施例の条件下で、浸透圧に最も影響を与える糖アルコールの濃度を調節し、緩衝溶液の異なる種類による結合体の安定性を評価した。また、同様の条件下で、0.22%のm−クレゾールを保存剤として添加し、結合体の安定化におけるそれらの効果も同様に評価した。前記持続型インスリン分泌性ペプチド結合体は、表30で表す下記組成で製剤化し、25℃で2週間貯蔵した後、毎週前記サンプルの安定性をSE-HPLC、IE−HPLC及びRP-HPLCにより分析した。表31のSE-HPLC(%)、表32のIE−HPLC(%)及び表33のRP-HPLC(%)は、持続型インスリン分泌性ペプチド結合体の残存率を表す。
【0127】
前記に示すように、異なる種類の緩衝溶液を用いる場合、各製剤のペプチド結合体は安定的であった。また、m−クレゾールの添加でペプチドの安定性に影響はなかった。
【0128】
これらの結果は、本発明の液状製剤の組成が、高濃度のインスリン分泌性ペプチド結合体の高い安定性を維持させることを支持する。
【0129】
前記の説明に基づいて、当分野の当業者は、本発明の範囲と思想から逸脱することなく、様々な修正及び変更が可能であろう。従って、前記具体例は、制限的ではないが、全ての態様において例示的なものであると理解されるべきである。本発明の範囲は、それらに先行している説明より、添付した特許請求の範囲によって定義される。従って、請求範囲の意味と範囲又はそのような意味と範囲の等価概念を含む全ての変更と修正は、本発明の範囲に含まれることを意図している。