【文献】
Journal of Biological Chemistry, 2010, Vol.285, No.25, pp.19637-19646
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1のCH3ドメインのLys360及びLys409は、それぞれグルタミン酸(E)及びトリプトファン(W)に置換され、第2のCH3ドメインのGln347、Asp399及びPhe405は、それぞれアルギニン(R)、バリン(V)及びスレオニン(T)に置換されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗体CH3ドメインの異種二量体。
第1のCH3ドメインのGln347、Lys360及びLys409は、それぞれグルタミン酸(E)、グルタミン酸(E)及びトリプトファン(W)に置換され、第2のCH3ドメインのGln347、Asp399及びPhe405は、それぞれアルギニン(R)、バリン(V)及びスレオニン(T)に置換されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗体CH3ドメインの異種二量体。
第1のCH3ドメインのTyr349及びLys409は、それぞれセリン(S)及びトリプトファン(W)に置換され、第2のCH3ドメインのGlu357、Asp399及びPhe405は、それぞれトリプトファン(W)、バリン(V)及びスレオニン(T)に置換されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗体CH3ドメインの異種二量体。
第1のCH3ドメインのTyr349及びSer354のうちの少なくとも1つは、システイン(C)に置換されている、又は、第2のCH3ドメインのTyr349及びSer354のうちの少なくとも1つは、システイン(C)に置換されていることを特徴とする、請求項1に記載の抗体CH3ドメインの異種二量体。
【背景技術】
【0004】
19世紀末、非−致死量のジフテリアと破傷風の投与された実験動物の血清を他の動物に投与することにより、ジフテリアと破傷風から保護されることができるという事実が発見されて以来、血清治療、すなわち抗体治療の概念が徐々に臨床に活用され始めた。しかし、初期の抗体治療は、高純度の抗体と血液由来の感染媒体の汚染などの問題点により、実用性が極めて制限された。これらの伝統的な抗体治療の問題点は、1975年に開発されたハイブリドーマの融合技術(hybridoma fusion technique)により、野生型の齧歯類起源のモノクローナル抗体を、比較的低価格で大量生産できるようになって、新たな転換点を迎えることになったが、人体投与時にマウス起源のモノクローナル抗体が引き起こす短い半減期、抗−マウス抗体に対する免疫応答、効果の低下、致命的なアレルギー反応など、多くの欠点と副作用のため臨床での使用が制限された。
【0005】
1980年代、バイオ革命の出発点となった遺伝子組換え技術の登場で、遺伝子操作によりマウスモノクローナル抗体をヒト化させるヒト化抗体(humanized antibody)の作製を可能にしており、患者への投与時に発生した様々な免疫的副作用を最小化して、臨床において治療用抗体が積極的に活用できる礎となった。一方、1990年半ばからファージディスプレイ(phage display)技術や遺伝子移植マウスを使用して、完全なヒトモノクローナル抗体を作ることができる基礎技術が開発されており、現在、国内外の多くの製薬会社が死活をかけて抗体を用いた新薬の開発に莫大な研究と投資を行っている。現在、約26個の抗体新薬が米国食品医薬品安全庁の許可を受けて、世界的に市販されており、300以上の治療用抗体が臨床試験段階にあり、製薬業界での抗体の重要性をよく証明している。一方、最近になって標的選択性を持つ抗体と標的特異性のない化学療法治療剤を併用投与することにより、副作用を抑制し、治療効果が改善される前臨床および臨床試験の結果が導き出されており、抗ガン治療における抗体の有用性はさらに拡大される見込みである。
【0006】
一方、現在の抗体新薬は、ガン、自己免疫疾患などを主なターゲットとして開発された、特に固形腫瘍(solid tumor)の場合IgGあるいは純粋な抗体の形態の抗体新薬が満足のいく治療効果を見せず、抗体産生のコスト高の問題などが抗体新薬開発の障害となっており、既存の抗体よりも生物学的効能が改善された組換えタンパク質の形態の新しい抗体新薬開発の試みが着実に進められてきた。そのうちの一つが、特に抗ガン治療に活用しようと、1980年代半ばから研究が始まっている、1つの抗体が少なくとも2つ以上の標的分子と結合することができる二重特異性抗体と言える。
【0007】
自然界に存在する抗体(Immunoglobulin G(IgG)、IgM、IgD、IgE、IgA)は、同じアミノ酸配列を持つ2つの重鎖と同じ配列を持つ2つの軽鎖の組み合わせ(assembly)された形で存在する。このとき、2つの同じ重鎖間における同種二量体(homodimer)は抗体の不変領域(Fc、crystallizable fragment)の最後のドメイン(すなわちIgGの場合CH3ドメイン、IgMの場合CH4ドメイン、IgDの場合CH3ドメイン、IgEの場合CH2およびCH4ドメイン、IgAの場合CH3ドメイン)との間の相互作用を介して形成が誘導され、続いてヒンジ(hinge)領域間のジスルフィド結合(disulfide bond)が誘導され、強固な重鎖間の同種二量体が形成される。具体的には、ヒトIgG1における重鎖と軽鎖の組み合わせは、重鎖のヒンジ領域の5番目のCysとkappa軽鎖の107番目のCysとの間のジスルフィド結合によって誘導される。
【0008】
したがって、自然に存在するモノクローナル抗体(monoclonal antibody、mAb)は、1種の抗原に対して二価(bivalent)の形で結合する特性を示す。一方、二重特異性抗体(bispecific antibody)は、単一の分子の形の抗体で2種の抗原を同時に(simultaneously)または択一的に(alternatively)結合することができる抗体を意味する。これらの二重特異性抗体は、2つ以上の抗原と結合することができる二重または多重特異的抗体のような、操作されたタンパク質として当業界に公知されており、細胞融合、化学的接合、組換えDNA技術を用いて作製することができる。
【0009】
従来の二重特異性抗体は、目的とする特異性を有するマウスモノクローナル抗体を発現する2つの異なるハイブリドーマ(hybridoma)細胞株の体細胞融合を利用したクワッドローマ(quadroma)技術を使用して作製されたが(Milstein and Cuello 1983)、この場合、クワッドローマ細胞株内にて、それぞれ異なる2つの軽鎖が無操作に対を組んで、最大10種類程の様々な抗体が作製され、この抗体の混合物からたった一つの所望の二重特異性抗体を分離精製することは非常に難しいという短所があった。したがって、正しくない対を形成した副産物および減少された生産収率によって、目的とする二重抗体のみを得るためには、複雑な精製過程が要求された(Morrison 2007)。
【0010】
これらの問題を解決するための一つの方法として、軽鎖と重鎖の抗原結合部位断片を、様々な鎖で連結して、単一構造体(single constructs)で発現する形態の二重特異性抗体が開発され、これらの形態には、単鎖ダイアボディ(single chain diabodies)、タンデム(tandem)一本鎖抗体断片(scFv)などの形態が含まれる(Holliger and Hudson2005)。また、抗体の重鎖または軽鎖のN−末端またはC−末端に追加の抗原結合抗体断片を融合したIgと類似した形態の二重特異性抗体もまた作製された(非特許文献1)。
【0011】
しかし、これらの抗体断片の組み合わせに基づく二重特異性抗体は、低安定性に起因する発現量の減少、抗体凝集(aggregation)の形成およびこれにより増加された免疫原性の問題が存在している(Chan and Carter2010)。また、抗体断片の組み合わせのみ基づく二重特異性抗体は、抗体の重鎖不変部位(Fc)が持っていない、Fcと関連して増加される安定性、増加された大きさとFc受容体(neonatal Fc receptor、FcRn)との結合による血清内半減期の増加(long serum half−life)、精製過程での結合部位保存(protein A and protein G)の利点、抗体依存性細胞の細胞毒性(antibody−dependent cellular cytotoxicity)、補体依存性細胞の細胞毒性(complement−dependent cellular cytotoxicity)が不在する問題点がある(Chan and Carter2010)。
【0012】
したがって、理想的には、自然発生的抗体(IgG、IgM、IgA、IgD、IgE)と構造が非常に類似して、配列において最少の偏差を有する二重特異性抗体の開発が求められている。
【0013】
この問題を解決するために、ノブ・イントゥ・ホール(knob−into−hole)技術を用いた二重特異性抗体の開発が試めされたが、この技術は、遺伝子操作を介してそれぞれ異なる2つIg重鎖のCH3ドメインに突然変異を誘導して、一つのIg重鎖のCH3ドメインには、hole構造を、別のIg重鎖のCH3ドメインには、knob構造を作成し、2つのIg重鎖が異種二量体(heterodimer)を形成するように誘導するものである(特許文献1、特許文献2)。このとき、ヒトIg重鎖CH3ドメインとの間の同種二量体形成に寄与する疎水性コアに含まれるアミノ酸残基は、Leu351、Thr366、Leu368、Tyr407であり、上記抗体鎖のアミノ酸数字は、EUナンバリングによるものである(非特許文献2)。ノブ・イントゥ・ホール(knob−into−hole)技術は、CH3ドメインの相互作用部位の疎水性コアに位置している残基につき、片方の重鎖CH3ドメインには、側鎖の大きさが大きい疎水性アミノ酸残基を、側鎖が小さい疎水性アミノ酸に置換してhole構造にし(Thr366Ser、Leu368Ala、Tyr407Val)、他方の重鎖CH3ドメインには、側鎖の大きさが小さい疎水性アミノ酸残基を、側鎖が大きい疎水性アミノ酸に置換してknob構造を作り(Thr366Trp)、2つの突然変異の対、すなわちCH3A(Thr366Ser、Leu368Ala、Tyr407Val)とCH3B(Thr366Trp)が導入された重鎖不変部位の突然変異対を共発現したとき、同種二量体重鎖不変部位よりは異種二量体重鎖不変部位の形成が好まれることを報告した(非特許文献3)。しかし、このようなノブ・イントゥ・ホール技術は、異種二量体重鎖不変部位(heterodimer heterodimeric Fc)の形成収率が約80%程度と報告されており、(非特許文献3)、これに上記の異種二量体の安定化を誘導するためにファージディスプレイとジスルフィド架橋を導入し、相互作用をさらに増加させた実例がある(非特許文献4)、(特許文献3)。
【0014】
異種二量体重鎖不変部位(heterodimer heterodimeric Fc)の形成を増進した他の方法としては、CH3ドメイン間の相互作用面に存在する電荷を帯びるアミノ酸に突然変異を誘導して、一方の不変領域のCH3ドメインはすべて正電荷を有する側鎖アミノ酸に、他方の不変領域のCH3ドメインはすべて負電荷を有する側鎖アミノ酸に突然変異を誘導して、静電反発力によって同種二量体形成は阻害され、静電引力により異種二量体の形成を増進させた例がある(非特許文献5、特許文献4)。つまり、片方のCH3ドメインはLys392Asp、Lys409Aspを、他のCH3ドメインにはGlu356Lys、Asp399Lysを置換して、異種二量体の形成を誘導した。上記CH3ドメイン突然変異体の異種二量体の重鎖不変部位(heterodimeric Fc)の形成収率は約90%程度である。
【0015】
異種二量体重鎖不変部位(heterodimer heterodimeric Fc)の形成を増進した他の方法として、CH3の相互作用の疎水性コア(hydrophobic core)部分を構成する部分に疎水性アミノ酸側鎖間同士の大きさの違いによって、相互補完的な突然変異を誘導して、異種二量体の形成を増進した例がある(非特許文献6、特許文献5)。具体的に、一方のCH3ドメインにはSer364His、Phe495Alaを、他方のCH3ドメインにはTyr349Thr、Thr394Pheを誘導して、異種二量体の形成を誘導した。上記CH3ドメイン突然変異体の異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)の形成収率は、約80%〜90%程度である。
【0016】
しかし、上記開発されたCH3ドメイン変異体の対を含む異種二量体の重鎖不変部位の熱力学的安定性(thermodynamic stability)と発現収率(expression yield)は、野生型抗体と比較して低い結果を示している。
【0017】
したがって、できるだけ高い異種二量体の形成収率を示しながら、野生型と比較して熱力学的安定性と発現収率が近似するか、向上された異種二量体の重鎖不変部位の開発に対する必要性が台頭しているが、未だこれを満たせるような報告はなされていないのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上記のように抗体の異種二量体の重鎖不変部位の形成収率を90%以上と、安定的に増進させる技術を開発するために案出されたものであり、異種二量体の重鎖不変部位の形成収率を増進するために、CH3ドメインに突然変異が誘導された、CH3異種二量体及びその作製方法を提供することをその目的とする。
【0021】
また、本発明の他の目的は、前記CH3異種二量体を含む異種二量体の重鎖不変部位対と、二重特異性抗体と、融合タンパク質とを提供することである。
【0022】
また、本発明のまた他の目的は、前記CH3異種二量体を含む、元野生型抗体の発現、生産収率(production yield)および熱力学的安定性(thermodynamic stability)と類似するか、改善された特徴を示す二重特異性抗体または抗体不変部位の融合タンパク質を提供することである。
【0023】
さらに、本発明のまた他の目的は、前記CH3異種二量体を含む、元の野生型抗体が持つ重鎖不変部位(Fc)固有の機能、すなわち、FcRn(neonatal Fc receptor)、FcRs(Fc gamma receptors)との結合能が維持され、血清内の長い半減期(long serum half−life)を持つようになり効果機能(effector function)を維持しながら、精製過程での結合部位(protein Aとprotein G)が保存される、抗体または抗体不変部位の融合タンパク質を提供することである。
【0024】
さらに、本発明のまた他の目的は、CH3異種二量体を含む、2種の異なる抗原を同時に標的にすることができる二重特異性抗体または抗体不変部位の融合タンパク質を提供することである。
【0025】
さらに、本発明のまた他の目的は、異種二量体の重鎖不変部位の形成に望ましいCH3ドメイン変異体(heterodimeric CH3)対および異種二量体の重鎖不変部位(heterodimeric Fc)対((hinge−CH2−CH3A)(Hinge−CH2−Ch3B))のタンパク質を作製する方法を提供することである。
【0026】
しかし、本発明が解決しようとする技術的課題は、以上で述べた課題に制限されず、言及されていない別の課題は以下の記載から当業者に明確に理解されることである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、下記の(a)結合を含む、抗体CH3ドメインの異種二量体を提供する。
【0028】
(a)CH3ドメインのうち、位置Tyr349、Asp356、Glu357、Ser364、Lys370、Lys392、Asp399、Phe405およびLys409からなる第1群の位置において、
i)前記第1群のCH3ドメインの位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、アラニン(A)、スレオニン(T)、セリン(S)、バリン(V)、メチオニン(M)、およびグリシン(G)からなる群より選択されるアミノ酸と、
ii)前記第1群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)からなる群より選択されるアミノ酸との間の結合(ただし、上記の位置は、EU indexによる)。
【0029】
本発明の一実施例において、前記抗体CH3ドメインの異種二量体は、下記の(b)結合をさらに含むことを特徴とする。
【0030】
(b)CH3ドメインのうち、位置Gln347、Tyr349、Thr350、Ser354、Lys360、Ser364、Asn390、Thr394、Pro395、Val397およびSer400からなる第2群の位置において、
i)前記第2群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、リシン(K)、またはアルギニン(R)と、
ii)前記第2群のCH3ドメイン位置のうち1種以上の選択された位置で置換された、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)との間の結合(ただし、上記の位置は、EU indexによる)。
【0031】
本発明の一実施例において、第1群の位置は、Tyr349、Glu357、Asp399、Phe405およびLys409からなる群より選択されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0032】
本発明の他の実施例において、一方のCH3ドメインのLys409はトリプトファン(W)に置換され、
他方のCH3ドメインのAsp399は、バリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されていることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0033】
本発明のまた他の実施例において、一方のCH3ドメインのTyr349はセリン(S)に置換され、
他方のCH3ドメインのGlu357はトリプトファン(W)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0034】
本発明の別の実施例において、第2群の位置は、Gln347またはLys360であることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0035】
本発明の別の実施例において、一方のCH3ドメインのLys360はグルタミン酸(E)に置換され、他方のCH3ドメインのGln347はアルギニン(R)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0036】
本発明の別の実施例において、一方のCH3ドメインのGln347はグルタミン酸(E)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0037】
本発明の別の実施例において、一方のCH3ドメインのLys360はグルタミン酸(E)に、Lys409はトリプトファン(W)に置換され、他方のCH3ドメインのGln347はアルギニン(R)に、Asp399はバリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0038】
本発明の別の実施例で、一方のCH3ドメインのGln347はグルタミン酸(E)に、Lys360はグルタミン酸(E)に、Lys409はトリプトファン(W)に置換され、他方のCH3ドメインのGln347はアルギニン(R)に、Asp399はバリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されたことを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0039】
本発明の別の実施例で、一方のCH3ドメインのTyr349はセリン(S)に、Lys409はトリプトファン(W)に置換され、他方のCH3ドメインのGlu357はトリプトファン(W)に、Asp399はバリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されたことを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体を特徴とする。
【0040】
本発明の別の実施例において、上記抗体CH3ドメインの異種二量体は、下記の(c)結合をさらに含むことを特徴とする。
【0041】
(c)CH3ドメインのうち、位置Tyr349およびSer354からなる第3群の位置において、
i)前記第3群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、システイン(C)と、
ii)前記第3群のCH3ドメイン位置のうち1種以上の選択された位置で置換されたシステイン(C)との結合(ただし、上記の位置は、EU indexによる)。
【発明の効果】
【0042】
本発明に係る抗体の重鎖不変部位のCH3ドメイン異種二量体は、従来の方法とは異なる方法で突然変異を誘導して、同種二量体の形成を最小限に抑えて、異種二量体の形成収率を90%〜95%以上の高収率で作製することができ、前記CH3ドメイン異種二量体を用いて作製された異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)対タンパク質は、動物細胞で発現生産時、元の野生型抗体の発現、生産収率および熱力学的安定性が近似するか、改善された特性を持つようになる。
【0043】
また、本発明に係る抗体の重鎖不変部位(heterodimeric Fc)のCH3ドメイン異種二量体を用いて作製された異種二量体重鎖不変部位対のタンパク質は、元の野生型抗体が有する重鎖不変部位(Fc)固有の機能、すなわち、FcRn(neonatal Fc receptor)、FcRs(Fc gamma receptors)との結合性が維持されて、血清中の長い半減期(long serum half−life)を持つようになり、精製過程における結合部位(protein Aとprotein G)が保存されるという利点がある外、抗体依存性細胞毒性(antibody−dependent cellular cytotoxicity)および補体依存性細胞毒性(complement−dependent cellular cytotoxicity)を維持することができる。
【0044】
また、本発明に係る抗体の重鎖不変部位(heterodimeric Fc)のCH3ドメイン異種二量体を用いて作製された異種二量体重鎖不変部位対タンパク質は、CH3ドメイン変異体のそれぞれを別々に発現して再合成することなく、一細胞において同時に発現して、高効率で異種二量体不変部位(heterodimeric Fc)を90%〜95%程度以上の高収率で生産することができる。
【0045】
さらに、本発明により作製される異種二量体不変部位(heterodimeric Fc)対タンパク質のN−末端またはC−末端に、抗原特異性の異なる2種の一本鎖抗体断片scFvが融合したscFv−Fc型、2種のscFabが融合されたscIgG(scFab−Fc)の形態、抗原結合Fvをなす重鎖可変部位(VH)および軽鎖可変部位(VL)対の2種を異種二量体重鎖不変部位対のN−末端、C−末端にそれぞれ融合された(Fv)2−Fc形態の二重特異性抗体を高効率および高収率で作製することができる。または、CH3ドメイン変異体対を含む二つの重鎖不変部位(Fc)からなる典型的なIgGの重鎖C−末端に可変単一抗原結合ドメイン(VH、VL)をそれぞれ融合した二重特異性可変部位融合モノクローナル抗体mAb−Fv形態の二重特異性抗体を高効率および高収率で作製することができる。または、CH3ドメイン変異体対を含む2つの重鎖不変部位(Fc)のN−末端またはC−末端に、単一抗原に結合する重鎖可変部位(VH)および軽鎖可変部位(VL)を融合して、単一抗原に一価(monovalent)で結合することができるFv−Fc形態の一価抗原結合抗体を高効率および高収率で作製することができる。または、特定のタンパク質と結合することができる細胞膜受容体の細胞外ドメイン、ペプチド、単一ドメイン抗体、リガンド、毒素などを融合して、1種または2種のタンパク質を特異的に認知することができる抗体不変部位融合タンパク質(Protein−Fc)などを高効率および高収率で作製することができる。
【0046】
また、本発明に係る2種の抗原を同時に標的とすることができる二重特異性抗体または抗体不変部位融合タンパク質(Protein−Fc)は、発症機序が一つのタンパク質によって誘導されるものではなく、いくつかのタンパク質が、重複、迂回、段階的に作用して発生する腫瘍または免疫疾患に関連する2種の抗原を同時に標的とすることができるので、1種の標的タンパク質のみをターゲットにするモノクローナル抗体よりも改善した治療効果を高めることができる。
【0047】
その上、本発明により作製される単一抗原に結合する重鎖可変部位(VH)および軽鎖可変部位(VL)を融合して、単一抗原に一価(monovalent)で結合することができる抗体(Fv−Fc)は、二価結合抗体(bivalent binding mAb)としてターゲットにすることより、一価結合抗体(monovalent binding mAb)としてターゲットにするとき、より効果的にターゲット抗原を標的とすることができ、ターゲット抗原関連疾患の治療に高い効果が期待できる。
【0048】
さらに、本発明により作製される特定のタンパク質と結合することができる細胞膜受容体の細胞外ドメイン、ペプチド、単一ドメイン抗体、リガンド、毒素などを融合して1種または2種のタンパク質を特異的に認知することができる抗体不変部位融合タンパク質(Protein−Fc)は、既存の同種二量体重鎖不変部位(homodimeric Fc)を利用して標的にすることができるターゲットタンパク質を効果的に標的とすることができるので、ターゲットタンパク質関連疾患の治療に高い効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、一つの抗原に特異的である、自然なIgG1抗体の構造を図式化したものである。野生型のIgG1抗体は、同じアミノ酸配列を持つ2つの重鎖と同じ配列を持つ2つの軽鎖の組合(assembly)形態である。2つの重鎖が二量体を達成するにはCH3ドメイン間の相互作用により二量体形成が誘導され、続いてヒンジ領域間のジスルフィド結合が誘導され、強固な鎖間の同種二量体が形成される。重鎖と軽鎖の組み合わせは、重鎖ヒンジ領域の5番目のCysとkappa軽鎖の場合、107番目のCys間のジスルフィド結合によって誘導される。
【
図2】
図2は、野生型のIgG1抗体において、CH3ドメイン間の相互作用面を図式化して示したものである。相互作用面の内部には、疎水性結合に関与する残基と静電的相互作用を持つ残基が存在するが、これらの残基はCH3ドメインの二量体形成に寄与する。また、相互作用面には位置するが、隣接する残基との相互作用することなく二量体形成に寄与しないか、または比較的弱い非共有結合で相互作用に関与する残基も存在する。
【
図3】
図3は、ヒトIgG1抗体の重鎖構造のCH3ドメイン間の相互作用の面において、突然変異を与えたアミノ酸の側鎖間の相互作用を示したものである。既知のヒト抗体のFc断片構造(PDBコード:1FC1(Deisenhofer1981)、1L6X(Idusogie、Presta et al.2000)、3AVE(Matsumiya、Yamaguchi et al.,2007)をもとにCH3ドメイン間の相互作用面を分析し、CH3ドメイン間の相互作用面で突然変異を与えたアミノ酸の側鎖間の相互作用を、3AVE構造を基準にして示した。
図3(A)は、野生型ヒトIgG1抗体のCH3ドメインにおいて、CH3AドメインではLys360、Lys409アミノ酸の側鎖を示し、CH3BドメインではGln347、Asp399、Phe405アミノ酸の側鎖を示したものである。従来、一方のCH3ドメインのK360アミノ酸は、他方のCH3ドメインのGln347アミノ酸と隣接しているが、CH3ドメインが二量体を形成させるために寄与する相互作用は存在しない。また、一方のCH3ドメインのLys409と他方のCH3ドメインのAsp399は静電引力によりCH3ドメイン二量体を形成するために大きく寄与をしているアミノ酸残基である。
図3(B)は、CH3ドメイン突然変異体のCH3ドメインの構造をモデリングにより予測して示したものである。一方のCH3ドメインにおいてLys360Glu、Lys409Trp突然変異が導入され、他方のCH3ドメインにおいてGln347Arg、Asp399Val、Phe405Thr突然変異が導入された。したがって、既存のLys360とGln347はLys360GluとGln347Argに置換されることにより、たがいに相互作用がなかった残基の間で選択的な静電的結合が生成された。このような突然変異戦略は、CH3ドメインの異種二量体を選択的に形成するために寄与することができる。また、Lys409Trpと他方CH3ドメインのAsp399Val、Phe405Thr突然変異が導入され、既存の静電結合の代わりに相互補完的な疎水性結合を誘導した。これは、CH3A:CH3A、CH3B:CH3Bのような同種二量体の形成は阻害し、CH3A:CH3Bの異種二量体の形成を誘導する突然変異戦略である。
【
図4】
図4は、突然変異戦略のうち、CH3AドメインのLys409、CH3BドメインのAsp399、Phe405残基間の相互作用について示している。野生型CH3ドメインの相互作用面において、一方のドメインのLys409は他方のドメインのAsp399残基と静電結合することで、ドメイン間の二量体形成に寄与しており、したがって、一方のCH3ドメインにLys409Trpと、他方のCH3ドメインのAsp399Val、Phe405Thr突然変異とを導入して、既存の静電結合の代わりに相互補完的な疎水性結合を異種二量体の間にのみ誘導することができる突然変異を誘導した。これは、CH3A:CH3A、CH3B:CH3Bのような同種二量体形成は阻害し、CH3A:CH3Bの異種二量体の形成を誘導する突然変異戦略である。
【
図5】
図5は、突然変異戦略のうち、CH3AドメインのLys360GluとCH3BドメインのGln347Arg突然変異との相互作用について示したものである。突然変異残基は、野生型では隣接しているが、従来CH3ドメインが二量体を形成するために寄与する相互作用は存在しない。ここで、長距離静電的結合を異種二量体の間にのみ誘導することができる突然変異であるLys360GluとGln347Arg突然変異を誘導した。これは、CH3A:CH3A、CH3B:CH3Bのような同種二量体形成は阻害し、CH3A:CH3Bの異種二量体の形成を誘導する突然変異戦略である。
【
図6】
図6は、突然変異戦略のうち、CH3AドメインのGln347E突然変異と、CH3BドメインのLys360残基との間の相互作用について示したものである。これらの残基は、CH3ドメインの相互作用面において、
図5に示すLys360Glu−Gln347Arg相互作用部位と対称の部位に位置する。上記のLys360Glu−Gln347Arg相互作用部位と同様に、CH3AドメインのGln347とCH3BドメインのLys360残基とは、野生型では隣接しているが、従来CH3ドメインが二量体を形成するのに寄与する相互作用は存在しない。ここでGln347Glu突然変異を導入し、他方のCH3ドメインに存在するLys360残基と選択的な静電結合を誘導した。これはCH3A:CH3A、CH3B:CH3Bのような同種二量体形成は阻害し、CH3A:CH3Bの異種二量体の形成を誘導する突然変異戦略である。
【
図7】
図7は、突然変異戦略のうち、CH3AドメインのGlu357と、CH3BドメインのTyr349、Lys370残基との間の相互作用について示している。野生型CH3ドメインの相互作用面において、一方のドメインのGlu357は他方のドメインのLys370残基と静電結合することで、ドメイン間の二量体形成に寄与しており、他方のドメインのTyr349残基とも隣接している。したがって、一方のCH3ドメインに、Glu357Trpと、他方のCH3ドメインのTyr349Ser突然変異とを導入して、既存のGlu357とLys370との静電結合の代わりに、相互補完的な疎水性結合を異種二量体の間にのみ誘導することができる突然変異を誘導した。これは、CH3A:CH3A、CH3B:CH3Bのような同種二量体形成は阻害し、CH3A:CH3Bの異種二量体の形成を誘導する突然変異戦略である。
【
図8】
図8は、本発明に係る突然変異が導入されたCH3ドメイン変異体対(CH3AとCH3B)が、CH3A:CH3AまたはCH3B:CH3Bの相互作用による重鎖不変部位同種二量体の生成は排除され、CH3A:CH3Bの相互作用による異種二量体重鎖不変部位の形成を誘導することを図式化して示すものである。
【
図9】
図9は、本発明に係る異種二量体形成CH3突然変異体対(CH3A:CH3B)を、抗体重鎖不変部位hinge−CH2ドメインのC−末端に連結して生成される異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)を用いて作製することができる二重特異性抗体およびFc−融合タンパク質を図式化したものである。異種二量体重鎖不変部位に、抗原結合特異性が異なる2種の一本鎖抗体断片(scFv)を各アミノ末端(N−末端)に融合した二重特異性の一本鎖抗体免疫グロブリン断片(scFv−Fc)、抗原結合特異性の異なる2種の単鎖抗原結合断片(Fab)を各アミノ末端(N−末端)に融合した二重特異性の単鎖免疫グロブリン(single chain immunoglobulin、scFab−Fc)、互いに異なる抗原を認知する抗体から由来の重鎖および軽鎖の可変単一抗原結合ドメイン(VH、VL)の2種をそれぞれ重鎖不変部位N−末端、C−末端に対として融合した二重特異性の可変部位融合免疫グロブリン(Fv)2−Fc、典型的なIgGの重鎖C−末端に可変単一抗原結合ドメイン(VH、VL)をそれぞれ融合した二重特異性の可変部位融合モノクローナル抗体mAb−Fv、1種の抗原を認知する抗体に由来した重鎖および軽鎖の可変単一抗原結合ドメイン(VH、VL)を重鎖不変部位N−末端に融合した一価抗原結合の可変部位融合免疫グロブリン(Fv−Fc)、およびリガンドを特異的に認知する細胞膜タンパク質外部ドメイン(extracellular domain)、ペプチド、1種の抗原を認知する単一ドメイン抗体(single domain antibody)、単一ドメイン抗体(single domain antibody)、ペプチド、リガンドタンパク質、毒素タンパク質などの2種をそれぞれ重鎖不変部位N−末端に融合した抗体不変部位融合タンパク質(Protein−Fc)を作製することができる。
【
図10】
図10は、ヒト抗体のIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、およびマウス抗体のIgG1、IgG2A、IgG2B、IgG3のCH3ドメインの配列を比較したものである。濃く強調したGln347、Lys360、Asp399、Phe405、Lys409残基らが、突然変異が導入された残基である。突然変異が導入された残基は、ヒト抗体およびマウス抗体IgGのサブタイプ(subtype)に関係なく、ほぼ類似した残基として保存されていることが確認できる。したがって、本発明において異種二量体CH3突然変異対の形成のために誘導される突然変異は、ヒト抗体IgG1に限定されないことが分かる。
【
図11】
図11は、本発明において、発現精製を行った異種二量体重鎖不変部位において、その形成収率を比較した5つのCH3突然変異対を図式化したものである。
【
図12a】
図12aは、本発明において、発現精製を行った異種二量体重鎖不変部位で、その形成収率を比較した5つのCH3突然変異対のE−R突然変異体対を示すものである。
【
図12b】
図12bは、本発明において、発現精製を行った異種二量体重鎖不変部位で、その形成収率を比較した5つのCH3突然変異対のW−VT突然変異対を示すものである。
【
図12d】
図12dは、本発明において、発現精製を行った異種二量体重鎖不変部位で、その形成収率を比較した5つのCH3突然変異対のEW−RVT突然変異対を示すものである。
【
図12e】
図12eは、本発明で実装して、発現精製を行った異種二量体重鎖不変部位で、その形成収率を比較した5つのCH3突然変異対のEEW−RVT突然変異対を示すものである。
【
図12f】
図12fは、本発明で実装して、発現精製を行った異種二量体重鎖不変部位で、その形成収率を比較した5つのCH3突然変異体対のSW−WVT突然変異対を示すものである。
【
図13】
図13は、作製されたCH3突然変異対によって抗体重鎖不変部位の異種二量体の形成収率を評価するために構築された、一本鎖抗体断片(scFv)が融合されたscFv−Fcを動物細胞の発現ベクターであるpcDNA3.1ベクターにクローニングするために構築した図式図及びベクターマップ(map)である。
【
図14】
図14は、作製されたCH3突然変異対によって抗体重鎖不変部位の異種二量体の形成収率を評価するために構築された単独Fc(dummy Fc)を動物細胞の発現ベクターであるpcDNA3.1ベクターにクローニングするために構築した図式図及びベクターマップ(map)である。
【
図15】
図15は、
図13及び
図14で構築されたscFv−Fcおよび単独Fc動物細胞発現ベクターを動物細胞においてコトランスフェクション(cotransfection)して発現すると、同種二量体と異種二量体が互いに異なるサイズの抗体として発現されるので、大きさおよび組み合わせ形態の分析によりCH3突然変異体対による異種二量体の生成収率の評価ができることを説明した図である。
【
図16】
図16は、
図13及び
図14で製作したCH3突然変異対を、
図15に記載の異種二量体の形成能の評価のために、動物細胞発現ベクターに導入した後、HEK293F細胞に共形質転換により一時的に発現および精製した後、異種二量体抗体の形成能を評価するために、非還元性条件のSDS−PAGE上で大きさおよび組み合わせ形態を分析した結果である。この時、陰性対照群として野生型CH3が使用された抗体を、陽性対照群としてノブ・イントゥ・ホール二重特異性抗体を用いており、分析に使用されたタンパク質の量は、それぞれ10μgである。
【
図17】
図17は、
図13及び
図14で作製したCH3突然変異対をHEK293F細胞に共形質転換により一時的に発現した後、精製された異種二量体抗体を、ヒトFc部分を特異的に認知する抗体を用いて、ウェスタンブロット(western blot)により大きさおよび組み合わせ形態を分析した結果である。この時、陰性対照群として野生型CH3が用いられた抗体を用い、陽性対照群としてノブ・イントゥ・ホール二重特異性抗体を用いて、非還元条件下において行った結果であり、分析に用いたタンパク質の量は0.1μgである。
【
図18】
図18は、
図13及び
図14で製作したCH3突然変異対をHEK293F細胞に共形質転換により一時的に発現した後、精製された異種二量体抗体を、ヒトFc部分を特異的に認知する抗体を用いて、ウェスタンブロットにより大きさ及び組み合わせ形態を分析した結果である。この時、陰性対照群として野生型CH3が用いられた抗体を用い、陽性対照群としてノブ・イントゥ・ホール二重特異性抗体を用いて、還元条件において行った結果であり、分析に用いたタンパク質の量は0.1μgである。
【
図19】
図19は、
図13及び
図14で製作したCH3突然変異対を、
図15に記載の異種二量体の形成能の評価のために、動物細胞発現ベクターに導入した後、HEK293F細胞に共形質転換により一時的に発現および精製した後、異種二量体抗体の形成能を評価するために、非還元性条件のSDS−PAGE上で大きさおよび組み合わせ形態を分析した結果である。この時、陰性対照群として野生型CH3が使用された抗体を、陽性対照群としてノブ・イントゥ・ホール二重特異性抗体を用いており、分析に使用されたタンパク質の量は、それぞれ10μgである。
【
図20】
図20は、突然変異体のCH3ドメインが導入されたFc二量体タンパク質の二次構造が、野生型の形態と同様に保存されているかどうかを確認するために、野生型と突然変異体EW−RVT、陽性対照群ノブ・イントゥ・ホールFc二量体を
図13で構築された形で発現した後、円二色性(Circular dichroism)を測定した結果である。その結果、CH3突然変異体に導入されたFc二量体は、野生型のFc二量体と同じ円二色性を有することにより、タンパク質の二次構造が変形することなくそのまま維持されることを確認した。
【
図21】
図21は、突然変異体のCH3ドメインが導入されたFc二重体FcRnに対する結合能が保存されているかどうかを確認するために突然変異体EW−RVTを
図14に記載の異種二量体の形態で発現した後、SPR(Surface plasmon resonance)を行った結果である。突然変異CH3ドメインを含む抗体は、野生型CH3ドメインを含む抗体と同様、FcRnに対する結合能をそのまま保持していることを確認した。この時、陽性対照群として、ヒト抗体IgG1を含む抗体であるRemicade(Infliximab、Janssen Biotech)を用いた。
【
図22】
図22の(A)は、本発明で製作したCH3突然変異対がscFv−Fcの形で導入された二重特異性抗体を図式化した図である。標的抗原DR4に特異的に結合するヒト化hAY4a scFv抗体と(Lee、 Park et al., 2010)、標的抗原DR5に特異的に結合するヒトHW1 scFv抗体(Park、 Lee et al., 2007)の親和性の向上したAU5H scFv抗体を、CH3ドメイン変異体が使用されたFcのN−末端に融合して、scFv−Fc形態のDR4×DR5二重特異性抗体を構築した。
図22の(B)は、二重特異性scFv−Fc抗体を発現するベクターをHEK293F細胞に共形質転換して、一時的に導入して発現、精製したものを非還元性条件のSDS−PAGEで分析した結果である。構築したCH3ドメイン突然変異体対EW−RVTを重鎖に導入し、陽性対照群としてノブ・イントゥ・ホール二重特異性抗体を利用して構築した。
図22の(C)は、発現精製された二重特異性scFv−Fc抗体の自然(native)状態での大きさを確認するために、サイズ排除クロマトグラフィを行った結果である。対照群と同様、期待される103kD大きさのタンパク質のみが検出されたことを確認した。
【
図23】
図23の(A)は、本発明で製作したCH3突然変異対がscFab−Fc(scIgG)の形態で導入された二重特異性抗体を図式化した図である。使用した親抗体は、
図20のscFv−Fc形態の二重抗体で使用したものと同じヒト化hAY4a抗体とAU5H抗体であり、VH−CHドメインとVL−CLドメインを26個のアミノ酸鎖リンカーで連結した形態の単鎖化Fab(scFab)をFc部分のN−末端に融合してscFab−Fc形態のDR4×DR5二重特異性抗体を構築した。
図23の(B)は、二重特異性scFab−Fc抗体を発現するベクターをHEK293F細胞に共形質転換して、一時的に導入して発現、精製したものを非還元性条件と還元性条件のSDS−PAGEで分析した結果である。構築したCH3ドメイン突然変異対EW−RVTを重鎖に導入し、陽性対照群としてノブ・イントゥ・ホール二重特異性抗体を利用して構築した。対照群と同様、目的とした二重抗体が主に生成されたことを確認することができる。
図23の(C)は、
図20で精製されたDR4×DR5二重特異性scFv−Fc抗体および
図21におけるDR4×DR5二重特異性scFab−Fc抗体の、DR4およびDR5抗原に対する結合能および特異性を確認するためにELISAを行った結果である。その結果、作製された二重抗体が抗原であるDR4とDR5に特異性を持つことが確認され、この時、DR4およびDR5の類似抗原としては、DcR1およびDcR2を対照抗原として用いた。
【
図24】
図24は、
図20で精製されたDR4×DR5二重特異性scFv−Fc抗体および
図21におけるDR4×DR5二重特異性scFab−Fc抗体のガン細胞死滅能を確認するために、HCT116とHeLa細胞株において細胞毒性試験(MTT assay)を行った結果である。作製した2つの形態の二重抗体は、親抗体であるhAY4 IgGとAU5H scFvと比較して、細胞毒性がより増加して、陽性対照群として用いたTRAILと細胞毒性が似ているか、もう少し優れていることが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0050】
自然状態での抗体の重鎖は、同種二量体として存在する。この時、重鎖間二量体の形成は、重鎖不変領域のCH3−CH3ドメイン間の非共有結合相互作用によって二重体生成されhinge領域のジスルフィド結合(disulfide bond)によって安定化される(Schroeder and Cavacini2010)(
図1参照)。重鎖不変部位のCH3ドメイン間二量体の生成は、一方の重鎖のベータ−シート(beta−sheet)残基が、他方のベータ−シート(beta−sheet)残基の側鎖の間に非共有結合することにより行われ、これにより、熱力学的に安定した同種二量体が形成される(Schroeder and Cavacini2010)。
【0051】
IgG抗体の重鎖不変部位の同種二量体を形成させるCH3ドメイン間の相互作用分析は、X−ray結晶構造を見て分析したが、用いられた構造は、PDB code=1FC1、1L6Xおよび3AVEである。
【0052】
CH3ドメイン間相互作用面の残基を分析した結果、相互作用面の内部には、疎水性結合により、同種二量体の形成に最も大きく寄与する疎水性結合コア構造が存在するが、これはLeu351、Thr366、Leu368、Tyr407残基である。また、相互作用面上において、静電相互作用でCH3ドメイン間の二量体形成に寄与するAsp356、Glu357、Lys370、Lys392、Asp399、Lys409、Lys439残基が存在する。特に、一方の重鎖のCH3ドメインのLys409残基と他方の重鎖のCH3ドメインのAsp399残基との間の静電相互作用(electrostatic interactions)と、一方の重鎖のCH3ドメインのGlu357残基と他方の重鎖のCH3ドメインのLys370残基間の静電相互作用(electrostatic interactions)はCH3ドメイン間の内部に存在しながら、静電気的引力による同種二量体の形成増進に寄与する。
【0053】
また、相互作用面には存在するが、隣接するアミノ酸残基と疎水性結合や静電結合のようなCH3ドメイン間の二量体形成の増進に大きく寄与する相互作用が存在しない残基であるGln347、Tyr349、Thr350、Ser354、Lys360、Ser364、Asn390、Thr394、Pro395、Val397、400Sが存在する(
図2参照)。これらの残基の一部は、比較的弱い非共有結合でドメイン間の相互作用に寄与する。
【0054】
このとき、上記用語「非共有結合(non−covalent interaction)」は、原子または分子が共有結合以外の相互作用によって集合体を形成する際に結合力が弱い相互作用を意味するもので、静電結合(electrostatic interation)、疎水性結合(hydrophobic interaction)、水素結合(hydrogen bonding)、ファンデルワールス結合(Van Der Waals interation)による相互作用を含む。
【0055】
上記用語「静電結合(electrostatic interation)」は、反対電荷を有するイオン間の電気的引力に依存する結合を意味し、上記用語「疎水性結合(hydrophobic interaction)」は、極性溶媒との相互作用を避けて、熱力学的に安定化するための疎水性分子の傾向による結合を意味し、上記用語「水素結合(hydrogen bonding)」は、水素とフッ素、酸素、窒素が会って生じた極性共有結合分子間に生じる双極子−双極子間の相互作用を意味する。また、上記用語「ファンデルワールス結合(Van Der Waals interaction)」は、Van Der Waals力によって分子に極性が生じて相互間に引力と斥力の作用で行われる結合を意味する。
【0056】
また、上記用語「同種二量体」は、同じアミノ酸配列を有する抗体ドメインまたはこれを含む抗体の一部または全体の二量体を意味し、具体的には抗体の重鎖不変部位のCH3ドメイン間の二量体またはこの同じCH3ドメインを含む抗体重鎖不変部位二量体のことを意味する。
【0057】
また、上記用語「同種二量体重鎖不変部位(homodimeric Fc)」は、同じアミノ酸配列を持つ重鎖不変部位(hinge−CH2−CH3)間の二量体を意味する。
【0058】
本発明では、CH3ドメイン間の相互作用に寄与するアミノ酸残基を変形して、一方の重鎖のCH3ドメインである「CH3A」、他方の重鎖のCH3ドメインである「CH3B」が非共有結合により、互に選択的に相互作用ができる対(CH3A:CH3B)の形成を誘導することにより、CH3突然変異体対がヒンジ(hinge)−CH2のC−末端に融合された重鎖不変部位対、つまり、hinge−CH2−CH3Aおよびhinge−CH2−CH3Bの間に異種二量体の重鎖不変部位(heterodimeric Fc)が形成される収率を向上させようと努力した結果、本発明を完成した。
【0059】
ここで、前記用語「異種二量体」は、アミノ酸配列が互いに異なる2種の抗体ドメインまたはこれを含む抗体の一部または全体からなる二量体を意味し、具体的には抗体の重鎖不変部位の配列が他のCH3ドメイン対の二量体または配列が異なるCH3ドメイン対を含む抗体の一部または全体からなる二量体を意味する。
【0060】
また、上記用語「異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)」は、アミノ酸配列が異なるCH3A、CH3Bをそれぞれ含む重鎖不変部位(hinge−CH2−CH3)間の二量体を意味する。
【0061】
また、上記用語「異種二量体重鎖不変部位の形成収率」は、CH3ドメイン突然変異体対を含む重鎖不変部位対をHEK293F動物細胞に同時に形質転換して発現し精製した時、全重鎖不変部位二量体(homodimer、heterodimer)またはモノマー(monomer)の合計から、異種二量体に形成された重鎖不変部位の割合をパーセントで表したものを意味する。
【0062】
本発明は、下記の(a)結合を含む、抗体CH3ドメインの異種二量体を提供する。
【0063】
(a)CH3ドメインのうち、位置Tyr349、Asp356、Glu357、Ser364、Lys370、Lys392、Asp399、Phe405およびLys409からなる第1群の位置において、
i)前記第1群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、アラニン(A)、スレオニン(T)、セリン(S)、バリン(V)、メチオニン(M)、およびグリシン(G)からなる群より選択されるアミノ酸と、
ii)前記第1群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)からなる群より選択されるアミノ酸との間の結合(ただし、上記位置は、EU indexによる)。
【0064】
前記抗体CH3ドメインの異種二量体は、下記の(b)結合をさらに含むことができる。
【0065】
(b)CH3ドメインのうち、位置Gln347、Tyr349、Thr350、Ser354、Lys360、Ser364、Asn390、Thr394、Pro395、Val397およびSer400からなる第2群の位置において、
i)前記第2群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、リシン(K)、またはアルギニン(R)と、
ii)前記第2群のCH3ドメイン位置の1種以上選択された位置において置換された、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)との間の結合(ただし、上記の位置は、EU indexに従う)。
【0066】
前記第1群の位置は、Tyr349、Glu357、Asp399、Phe405およびLys409からなる群より選択されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0067】
また、一方のCH3ドメインのLys409はトリプトファン(W)に置換され、他方のCH3ドメインのAsp399はバリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されていることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0068】
また、一方のCH3ドメインのTyr349はセリン(S)に置換され、他方のCH3ドメインのGlu357はトリプトファン(W)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0069】
また、前記第2群の位置は、Gln347またはLys360であることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0070】
また、一方のCH3ドメインのLys360はグルタミン酸(E)に置換され、他方のCH3ドメインのGln347はアルギニン(R)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0071】
また、一方のCH3ドメインのGln347はグルタミン酸(E)に置換されていることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0072】
また、一方のCH3ドメインのLys360はグルタミン酸(E)に、Lys409はトリプトファン(W)に置換されて、他方のCH3ドメインのGln347はアルギニン(R)に、Asp399はバリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0073】
また、一方のCH3ドメインのGln347はグルタミン酸(E)に、Lys360はグルタミン酸(E)に、Lys409はトリプトファン(W)に置換され、他方のCH3ドメインのGln347はアルギニン(R)に、Asp399はバリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0074】
また、一方のCH3ドメインのTyr349はセリン(S)に、Lys409はトリプトファン(W)に置換され、他方のCH3ドメインのGlu357はトリプトファン(W)に、Asp399はバリン(V)に、Phe405はスレオニン(T)に置換されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0075】
また、本発明の上記抗体CH3ドメインの異種二量体は、下記の(c)結合をさらに含んでもよい。
【0076】
(c)CH3ドメインのうち、位置Tyr349およびSer354からなる第3群の位置において、
i)前記第3群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置にて置換された、システイン(C)と、
ii)前記第3群のCH3ドメイン位置の1種以上選択された位置において置換されたシステイン(C)との結合。
【0077】
また、前記抗体CH3ドメインの異種二量体は、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEからなる群より選択された免疫グロブリンのFc部分に含まれることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されなく、前記IgGはヒトIgGであることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されなく、前記ヒトIgGはIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4からなる群より選択されることを特徴とする、抗体CH3ドメインの異種二量体が好ましいが、これに限定されない。
【0078】
本発明の一実施例において、異種のCH3ドメインであるCH3AとCH3Bに誘導される突然変異対は、従来の戦略とは異なる方法により、異種二量体の形成収率が増進され、安定化した異種二量体の重鎖不変部位(heterodimeric Fc)が形成されるようにするために、CH3ドメイン変異体対を考案した。
【0079】
具体的に、CH3ドメイン間の相互作用面の内部に位置して外部に露出されないアミノ酸残基のうち、CH3ドメイン間の二量体形成に寄与度の高い疎水性コアをそのまま保ちながら、相互作用面の内部に存在し、静電相互作用でCH3ドメイン間の同種二量体形成に寄与するアミノ酸残基Asp356、Glu357、Lys370、Lys392、Asp399、Lys409残基に突然変異を誘導して、一方の重鎖の相互作用面の疎水性残基が他方の重鎖の相互作用面の疎水性残基の間に挿入されるように、空間補完的な疎水性結合突然変異を有する突然変異体対を作製した。このようなアプローチは、既存のCH3ドメイン間の同種二量体の形成に寄与する相互作用を除去し、異種二量体においてのみ疎水性引力形成を誘導することができる相互作用に置換することで、より高い異種二量体の形成能の増進を期待することができる。また、このようなアプローチは、野生型CH3ドメインの相互作用疎水性コアのアミノ酸残基を最大限に保存したものであって、これにより生成される異種二量体の安定性を向上させることができるだけでなく、既存の疎水性コアの部分に選択的な疎水性結合が形成されて異種二量体抗体を作製したノブ・イントゥ・ホール技術とは(Ridgway、Presta et al.,1996)差別化した戦略である。
【0080】
また、CH3ドメイン間の相互作用面に存在するが隣接するアミノ酸残基と疎水性結合や静電結合をするような、CH3ドメイン間の二量体形成の増進には大きく寄与しない残基である、Gln347、Tyr349、Thr350、Ser354、Lys360、Ser364、Asn390、Thr394、Pro395、Val397、Ser400残基に、一方の重鎖のアミノ酸残基の電荷と他方の重鎖の残基の電荷とを相反するように持つ選択的な静電結合突然変異体対を誘導した。これにより、同種CH3ドメイン間では相互作用が排除され、異種二量体の形成を増加させることができる長距離静電結合が選択的に形成されるように誘導した。このようなアプローチ方法は、アミノ酸残基が互いに向き合う他方のCH3ドメインの残基と、比較的遠い距離においても相互作用ができるように静電的引力を導入することにより、新たな相互作用を付与したものであり、これは選択的な異種二量体の形成に寄与することになる。
【0081】
また、上記のようなアプローチにおいて、CH3ドメイン間の相互作用面の内部に位置する疎水性コアの部分を維持した異種二量体CH3ドメイン変異体対は、野生型に類似の熱力学的安定性、免疫原性、動物細胞における発現生産性を維持することができる。
【0082】
また、従来のFcRn(neonatal Fc receptor)が結合する部位であるThr250、Met252、Ile253、Ser254、Thr256、Thr307、His310、Glu380、Met428、His433、Asn434、His435、Tyr436と、FcgR(fc gamma receptors)結合部位であるLeu234、Leu235、Gly236、Gly237は維持して、抗体重鎖とFcRnまたはFcgRの結合による血清内半減期の増進(long serum half−life)、抗体依存性細胞毒性(antibody−dependent cellular cytotoxicity)および補体依存性細胞毒性(complement−dependent cellular cytotoxicity)などの抗体の固有活性を維持することができる(Wines、Powell et al.,2000; Roopenian and Akilesh 2007)。
【0083】
また、本発明の他の一実施例において、考案されたCH3ドメイン変異体の異種二量体の形成能を評価することができるシステムを構築した。具体的には、上記システムは、それぞれのCH3ドメイン変異体対が含まれる抗体の重鎖不変部位が融合された抗体を動物細胞において発現精製し、この時、突然変異体対でCH3Aドメインが含まれている一方の重鎖不変部位にのみ一本鎖抗体断片(scFv)を融合して発現されるようにして、CH3Bドメインが含まれている重鎖不変部位は抗体断片の融合することなく単独で発現されるようにした。これにより、CH3Aドメインが含まれている重鎖は、CH3Bドメインが含まれている重鎖に比べて大きな分子量を持つようになり、これにより異種二量体(scFv−Fc:Fc)と同種二量体(scFv−Fc:scFv−Fc、Fc:Fc)が非還元性条件のSDS−PAGE上で互いに異なる移動速度を持つようになり発現精製された抗体中の異種二量体(heterodimer)の量を相対的に比較することができる(
図15参照)。
【0084】
また、本発明の別の一実施例では、上記構築された異種二量体の形成能評価システムで、本発明に係るCH3ドメイン変異体対を含む抗体の場合、その形成収率が約90%〜95%で、既存のノブ・イントゥ・ホール技術を利用した異種二量体形成収率に比べて、大幅に高いことを確認した(
図16および17を参照)。
【0085】
また、本発明は、上記CH3ドメインの異種二量体を含む異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)対と、前記CH3ドメインの異種二量体を含む二重特異性抗体を提供する。
【0086】
上記二重特異性抗体は、scFv−Fc、scIgG(scFab−Fc)、(Fv)2−Fc、mAb−FvおよびFv−Fcからなる群より選択されたいずれかの形態であることが好ましいが、これに限定されず、上記融合タンパク質は、Protein−Fc型であることが好ましいが、これに限定されない。
【0087】
本発明に係る抗体の重鎖不変部位CH3ドメインに突然変異が誘導されたCH3異種二量体は、異種二量体重鎖不変部位対タンパク質を構成することができ、上記異種二量体重鎖不変部位対のタンパク質は、抗原特異性の異なる抗体を重鎖可変部位(VH)、軽鎖可変部位(VL)、一本鎖抗体断片(scFv)または一本鎖抗体断片(scFab)の形で融合して二つの異なる抗原に同時に結合することができる二重特異性抗体および典型的なIgGの重鎖C−末端に可変単一抗原結合ドメイン(VH、VL)をそれぞれ融合した二重特異性可変部位融合モノクローナル抗体(mAb−Fv)の様々な形態の二重特異性抗体、または単一抗原に結合する重鎖可変部位(VH)および軽鎖可変部位(VL)を融合して、単一抗原に一価(monovalent)で結合することができる抗体(Fv−Fc)、特定のタンパク質と結合することができる細胞膜受容体の細胞外ドメイン、ペプチド、単一ドメイン抗体、リガンド、毒素などを融合して、1種または2種のタンパク質を特異的に認知することができる抗体不変部位融合タンパク質(Protein−Fc)の形態であってもよい。
【0088】
具体的には、本発明の一実施例では、本発明に係るCH3ドメイン変異体対を使用して、scFv形態およびscFab形態の抗−DR4×DR5二重特異性抗体を作製し、上記二重特異性抗体が、それぞれ標的分子DR4およびDR5に対する特異性を有することを確認し(
図22および23を参照)、これにより、本発明のCH3ドメイン変異体対を用いて作製された二重特異性抗体は、抗原結合部位の結合能をそのまま保持することが分かった。
【0089】
このとき、上記用語「一本鎖抗体断片(scFv)」は、1つのVHと1つのVLとを12残基以上の適当なペプチドリンカー(L)を使用して接続したVH−L−VL〜VL−L−VHポリペプチドであって、抗原結合活性を有する抗体断片を意味する。
【0090】
また、上記用語一本鎖抗体断片(scFab)は、1つのVHからCH1まで発現された重鎖断片と、1つのVLとCL部分が含まれている軽鎖に34残基以上の適当なペプチドリンカー(L)を使用して接続したVL−CL−L−VH−CH1〜VH−CH1−L−VL−CLポリペプチドであり、抗原結合活性を有する抗体断片を意味する。
【0091】
また、Fvは、完全な抗原結合部位を含む最小抗体断片を意味し、本発明で使用された前記用語「Fv−Fc」は、単一抗原に結合する重鎖可変部位(VH)および軽鎖可変部位(VL)を異種二量体重鎖不変部位対タンパク質のN−末端またはC−末端に融合して、単一抗原に一価(monovalent)形態で結合することができる抗体を意味する。
【0092】
また、本発明で使用された上記用語「mAb−Fv」は、典型的な形のIgG重鎖C−末端に重鎖可変部位(VH)および軽鎖可変部位(VL)がそれぞれ融合して、抗原に三価(trivalent)形態で結合することができる抗体、またはmAb抗原に二価で、Fv抗原に一価で結合することができる二重特異性抗体を意味する。
【0093】
また、本発明で使用された前記用語「抗体不変部位融合タンパク質(Protein−Fc)」は、本発明に係る異種二量体重鎖不変部位対タンパク質のN−末端またはC−末端に特定のタンパク質と結合することができる細胞膜受容体の細胞外ドメイン、ペプチド、単一ドメイン抗体、リガンド、毒素などが融合して、1種または2種のタンパク質を特異的に認知することができる融合タンパク質を意味する。
【0094】
さらに、本発明は、前記異種二量体重鎖不変部位対タンパク質を含む、二重特異性抗体または融合タンパク質を含む薬学的組成物を提供する。
【0095】
本発明によって作製された二重特異性抗体または融合タンパク質は、腫瘍または自己免疫疾患に関連する抗原またはタンパク質を特異的に標的とすることができるので、上記の疾患を治療または予防することができる薬学的組成物に有効に用いられる。
【0096】
この時、本発明によって作製された二重特異性抗体または融合タンパク質を含む薬学的組成物は、一つのタンパク質によって発症機序が誘導されるのではなく、様々なタンパク質が重複的、迂回的、段階的に作用して、発生する腫瘍または自己免疫疾患に関連する2種の抗原を同時に標的とすることができるので、1種のターゲットタンパク質のみを標的とするモノクローナル抗体を含む薬学的組成物に比べて疾患の治療効果を高めることができる。
【0097】
具体的には、本発明の一実施例では、本発明で作製された抗−DR4×DR5 scFv−FcおよびscFab−Fc二重特異性抗体のガン細胞死滅能を確認するために、ヒト由来ガン細胞であるHCT116(colorectal carcinoma)とHeLa(adenocarcinoma)細胞株にて細胞毒性試験(MTT assay)を行っており、上記二つの形態の二重特異性抗体は、親抗体であるヒト化抗体hAY4a IgGと、ヒト抗体AU5H−scFvとに比べて、ガン細胞の死滅能が増加し、陽性対照群として用いたTRAILに比べて、細胞毒性が似ているか、少し優れていることが確認できた(
図24参照)。
【0098】
本発明で使用される用語、「治療」とは、本発明の組成物の投与によって疾患による症状が好転したり、有利に変更されるすべての行為を意味する。
【0099】
本発明による前記薬学的組成物を製剤化する場合、通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調製される。
【0100】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、トローチ剤などが含まれ、これらの固形製剤は、一以上の本発明に示される化合物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、でん粉、炭酸カルシウム、スクロースまたはラクトースもしくはゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤以外にマグネシウムスチレートタルクのような潤滑剤も使用される。経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤またはシロップ剤などが該当するが、よく使用される単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に様々な賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれてもよい。
【0101】
非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁溶剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれる。
【0102】
非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが用いられる。坐剤の基剤としては、ウイテプソル(witepsol)、マクロゴール、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロール、ゼラチンなどが用いられる。
【0103】
本発明の組成物は、所望の方法に応じて、経口投与するか、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)することができ、投与量は、患者の状態や体重、疾病の程度、薬物の形態、投与経路、および時間に応じて異なるが、当業者によって適切に選択することができる。
【0104】
本発明による組成物は、薬学的に有効な量で投与する。本発明において、「薬学的に有効な量」とは、医学的治療に適用可能な合理的なベネフィット/リスク比を以て疾患を治療するのに十分な量を意味し、有効容量のレベルは、患者の疾患の種類、重症度、薬物の活性、薬物に対する感度、投与時間、投与経路、および排出率、治療期間、同時使用される薬剤を含む要素およびその他の医学分野でよく知られている要素に応じて決定することができる。本発明の組成物は、個々の治療剤として投与するか、または他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次または同時に投与することができ、単一または複数投与することができる。上記の要素をすべて考慮して、副作用なく最小限の量で最大の効果を得ることができる量を投与することが重要であり、これは当業者によって容易に決定することができる。
【0105】
具体的には、本発明に係る化合物の有効量は、患者の年齢、性別、体重に応じて異なる場合があり、一般的には体重1Kgあたり10mg〜100mg、好ましくは10mgを毎日または隔日投与するか、1日1回〜3回に分けて投与することができる。しかし投与経路、肥満の重症度、性別、体重、年齢などによって増減されることがあるので、上記投与量は如何なる方法によっても、本発明の範囲を限定するものではない。
【0106】
また、本発明は、下記の段階を含むCH3ドメイン変異体(heterodimeric Fc)対の作製方法を提供する。
【0107】
(a)CH3ドメインのうち、位置Tyr349、Asp356、Glu357、Ser364、Lys370、Lys392、Asp399、Phe405およびLys409からなる第1群の位置において、
i)前記第1群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置を、アラニン(A)、スレオニン(T)、セリン(S)、バリン(V)、メチオニン(M)、およびグリシン(G)からなる群より選択されるアミノ酸に置換し、
ii)前記第1群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置を、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、およびトリプトファン(W)からなる群より選択されるアミノ酸に置換して突然変異対を作製する段階と、
(b)CH3ドメインのうち、位置Gln347、Tyr349、Thr350、Ser354、Lys360、Ser364、Asn390、Thr394、Pro395、Val397およびSer400からなる第2群の位置において、
i)前記第2群のCH3ドメイン位置のうち1種以上選択された位置を、リシン(K)、またはアルギニン(R)に置換し、
ii)前記第2群のCH3ドメイン位置の1種以上選択された位置を、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)に置換して突然変異対を作製する段階と、
(c)前記(a)および(b)の突然変異対を結合する段階。
【0108】
また、本発明は、
(d)上記において作製されたCH3ドメイン変異体対が、抗体重鎖不変部位の野生型ヒンジ(hinge)−CH2ドメインのC−末端に融合された形態の核酸(nucleic acids)を含む、組み換え重鎖不変部位(Fc)対タンパク質の発現ベクターを作製する段階と、
(e)前記作製された発現ベクターを細胞に共形質転換して、組み換え重鎖不変部位(Fc)対タンパク質を発現する段階と、
(f)前記共発現された組み換え重鎖不変部位(Fc)対タンパク質を精製および回収する段階と、を含む、
異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)対((hinge−CH2−CH3A) (hinge−CH2−CH3B))タンパク質の作製方法を提供する。
【0109】
(実施例)
以下、本発明の理解を促すために好ましい実施例を提示する。しかし、下記の実施例は、本発明をより容易に理解するために提供されるのみのものであり、下記の実施例により本発明の内容が限定されるものではない。
【0110】
<実施例1>
抗体重鎖不変部位の異種二量体形成能を増進するためのCH3ドメイン変異体の考案
ヒト抗体IgG1の重鎖不変部位(Fc)の異種二量体を形成するためのCH3ドメイン突然変異体の誘導のために、上述のように、まずCH3ドメイン間の相互作用に主に作用する非共有結合対のアミノ酸残基を分析し、それに基づいてCH3ドメイン間同種二量体形成は排除され、異種二量体の形成が熱力学的に望ましい突然変異対を考案した。つまり、CH3ドメイン間の相互作用に寄与するアミノ酸残基の変形により一方の重鎖のCH3ドメインである「CH3A」と、他方の重鎖のCH3ドメインである「CH3B」が、互いに選択的な相互作用が増進され得る、非共有結合を生成するためのアミノ酸残基置換をCH3A、CH3Bに誘導して、異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)であるCH3A:CH3B形成を誘導しようとした。
【0111】
この時、異種のCH3A:CH3Bに誘導される突然変異対は、既存の文献や特許に開示された重鎖不変部位異種二量体の形成を増進させるための突然変異対とは異なる戦略で、CH3A:CH3B形成が高収率で形成されるようにし、安定して維持するように考案した。また、突然変異アミノ酸残基は、潜在的な免疫原性を最小化するためにCH3ドメイン間の相互作用面に存在する残基に限定し、FcRnおよびFcRs結合部位残基の突然変異も排除して、抗体重鎖不変部位の固有機能を維持させようとした(Roopenian and Akilesh 2007)。また、CH3A:CH3Bに最小限の突然変異対とそれらの組み合わせで構成されたCH3A:CH3Bに生成される異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)の形成収率を評価し、最も高い異種二量体重鎖不変部位(heterodimeric Fc)形成収率を示すCH3A:CH3B突然変異体対を開発しようとした。
【0112】
そのために、CH3ドメイン間の相互作用面に位置するアミノ酸残基のうち、
1)CH3ドメインの相互作用内部の静電結合によりCH3ドメイン同種二量体形成に寄与する残基を、空間補完的疎水性結合を生成することができるアミノ酸残基の突然変異対に置換して、同種二量体(homodimer)形成は排除され、異種二量体(heterodimer)の形成に望ましい突然変異対と、
2)CH3ドメインと間の二量体形成に大きく寄与していないアミノ酸残基を長距離静電的引力が選択的に形成されるアミノ酸残基の突然変異対に置換して、同種二量体形成は排除され、異種二量体の形成が熱力学的に望ましいCH3突然変異体対を構想し構築した。
【0113】
つまり、CH3ドメインの相互作用内部の選択的な空間補完疎水性結合の突然変異体対の誘導のためには、CH3ドメイン間の相互作用面内部に位置する親水性、疎水性アミノ酸残基の位置および相互結合を分析して、これらのうち異種二量体の形成のための、空間的に選択的な疎水性結合の形成に望ましい突然変異対をCH3A:CH3Bに導入した。
【0114】
また、CH3ドメインの相互作用面に新たな長距離静電結合の突然変異体対を誘導するために相互作用面の内部の疎水性結合部位およびすでに静電結合に関与している残基を除く、CH3ドメインの相互作用面には存在するが隣接する残基との相互作用は存在しないかまたは比較的弱い水素結合やファンデルワールス引力による相互作用をする残基と、比較的隣接残基と側鎖との間の距離が遠くて相互作用に適していない残基との位置および相互結合を分析して、これらのうち異種二量体を形成するための選択的な長距離静電結合の形成に望ましい突然変異対をCH3A:CH3Bに導入して異種二量体の形成を誘導した。
【0115】
CH3ドメインの相互作用内部の疎水性結合のコアアミノ酸残基の外に静電的結合に替わる選択的な疎水性結合を生成することができるアミノ酸突然変異対と、新たな静電的引力を相互作用面に導入したアミノ酸変異体対は、次のように分析して構築した。
【0116】
[CH3A(Lys409Trp):CH3B(Asp399Val、Phe405Thr)]
CH3AのLys409は、CH3ドメインの相互作用内部に位置し、CH3BのLeu368、Asp399、Phe405、Tyr407と隣接している。このうち、Lys409と他の鎖のAsp399との静電的引力は、CH3ドメイン同士の相互作用に寄与している。CH3BのAsp399は、CH3AのLys392、Lys409と隣接しており、これらの間の静電的引力はCH3ドメイン間の相互作用に寄与している。このようなCH3ドメイン間の相互作用の疎水性コアに隣接している静電的引力を、選択的な疎水性結合が形成されるよう置換すると、既存のCH3ドメイン間の同種二量体の形成に寄与していた静電的結合は消え、空間補完的な疎水性結合によって選択的にCH3ドメイン間の異種二量体形成が誘導され、異種二量体の形成能の増進を期待することができる。そのために、CH3AのLys409Trpと、CH3BのAsp399Valとの突然変異対を誘導した(
図4)。
【0117】
また、CH3BのPhe405は、CH3AのLys392、Thr394、Lys409と隣接しているが、突然変異が誘導されたCH3AのLys409Trpの側鎖がCH3BのPhe405の大きい疎水性側鎖との空間的な衝突により異種二量体の形成が阻害されることがある。したがって、側鎖と空間的に配置され、かつ、疎水性結合が維持されるようにPhe405Thr突然変異を誘導した。
【0118】
CH3AドメインのLys409をトリプトファン(W)に置換すると、CH3Aドメイン間の同種二量体の生成が阻害される。これは、従来のLys409:Asp399の静電的結合を維持することができないだけでなく、隣接する他のチェーンのPhe405、Tyr407の側鎖によってCH3ドメイン境界面内の空間配置が難しくなるからである。
【0119】
CH3BドメインのAsp399をバリン(V)に置換すると、既存のAsp399:Lys392、Asp399:Lys409対の静電引力が消え同種二量体の生成を相対的に阻害することができる。
【0120】
また、CH3BドメインのPhe405をスレオニン(T)に置換すると、同種二量体の生成を相対的に阻害する効果はないが、異種二量体の形成時CH3AドメインのLys409Trpと疎水性結合に寄与することができる。
【0121】
したがって、CH3AドメインのLys409Trp置換とCH3BのAsp399Val置換との組み合わせ、およびCH3AドメインのLys409Trp置換とCH3BドメインのPhe405Thr置換との組み合わせは、CH3ドメイン間の相互作用境界面において最も適切な距離を維持しながら、相互補完的な疎水性結合を維持するようになり、CH3A:CH3Bの異種二量体の生成に望ましい。
【0122】
[CH3A(Lys360Glu):CH3B(Gln347Arg)]
CH3AのLys360は、CH3ドメインの相互作用外部に位置し、CH3BのGln347、Tyr349の側鎖と隣接しているが、距離が遠く、非常に弱い水素結合によりCH3ドメイン間の相互作用に寄与する。したがってCH3AのLys360、CH3BのGln347残基に、側鎖が大きく、互いに反対の電荷を帯びるアミノ酸残基に変えると、長距離静電引力により異種二量体の形成に望ましい。したがってCH3AのLys360をGluに置換し、CH3BのGln347をアルギニン(R)に置換すると、CH3AのGlu360とCH3BのArg347間の相互作用によりCH3A:CH3B形成に望ましい。しかし、CH3Bの場合は、Lys360:Gln347Arg対の静電反発により同種二量体の形成が阻害される(
図5)。
【0123】
[CH3A(Gln347Glu):CH3B(Lys360)]
上記のCH3AドメインのLys360とCH3BドメインとのGln347側鎖間の弱い相互作用と同様に、CH3AドメインのGln347側鎖とCH3BドメインのLys360側鎖間において、長距離の弱い水素結合によりCH3ドメイン間の相互作用に寄与する。したがって、互いに反対の電荷を帯びるアミノ酸残基に置き換えることにより、比較的長距離の静電的引力を導入して、異種二量体の形成を助けることができる。この時、上記のCH3AドメインのLys360GluとCH3BドメインのGln347Argとの突然変異体対と一緒に利用するために、CH3AドメインのGln347にはGluに置換して、CH3BドメインのLys360と相互作用ができるようにした(
図6)。
【0124】
したがって、上記のCH3AドメインのLys360GluとCH3BドメインのGln347Argとの突然変異対と、CH3AドメインのGln347GluとCH3BドメインのLys360との突然変異対は、それぞれの静電相互作用により異種二量体の形成に望ましいと同時に、CH3Aドメイン同士はGln347GluとLys360Glu間の静電的反発力により同種二量体の形成が阻害され、CH3Bドメイン同士はGln347ArgとLys360との間の静電反発力により同種二量体の形成が阻害される。
【0125】
[CH3A(Tyr349Ser):CH3B(Glu357Trp)]
CH3AのTyr349は、CH3ドメインの相互作用外部に位置し、CH3BのSer354、Asp356、Glu357、Lys360の側鎖と隣接している。CH3BのGlu357は、CH3ドメインの相互作用外部に位置し、CH3AのTyr459、Lys370の側鎖と隣接しており、このうちLys370と長距離静電結合によりCH3ドメイン間の相互作用に関与している。
【0126】
したがってCH3AのTyr349をセリン(S)に置換して、CH3BのGlu357をトリプトファン(W)に置換すると、既存CH3BのGlu357とCH3AのLys370との静電的結合がなくなり、CH3AのTyr349SerとGlu357Trp間の側鎖の大きさによる相互補完的な作用でCH3A:CH3Bの形成に望ましい(
図7)。
【0127】
また、CH3BのGlu357Trpは、CH3AのLys370との静電的結合を除去する役割に加え、CH3BのTyr349とも隣接することになり、ドメイン境界面内の空間配置が難しくなってCH3Bドメイン間の同種二量体の生成を阻害することができる。
【0128】
[CH3A(Ser354Cys):CH3B(Tyr349Cys)/CH3A(Tyr349Cys):CH3B(Ser354Cys)]
CH3AドメインのSer354は、CH3BドメインのTyr349と隣接しており、両残基を両方ともシステイン(C)に置換すると、ドメイン間のジスルフィド架橋が生成される。ジスルフィド架橋の導入により生成された異種二量体の安定化を図ることができ、導入した一つのジスルフィド架橋は、CH3ドメインの相互作用面に非対称的に存在するので、異種二量体の生成収率を向上させるのに役立つ。CH3AドメインのTyr349とCH3BドメインのSer354残基をシステイン(C)に置換することも同じ役割ができる。
【0129】
<実施例2>
抗体重鎖不変部位の異種二量体の形成能を増進するためのCH3ドメイン突然変異体の構築方法
上記実施例1で考案されたCH3ドメインの突然変異体対は、それぞれ、または組み合わせで構成されたCH3A:CH3Bに構築されて、5種のCH3A:CH3B異種二量体対を構築しており、構築した異種二量体対の安定化および異種二量体の生成収率の向上のためにジスルフィド架橋を導入した突然変異体の2種を構築した(
図11および表1)。
【0130】
CH3AおよびCH3B突然変異体は、IgG1の重鎖不変部位CH3ドメイン塩基配列に基づいて、設計された突然変異が誘導されるようにDNAを合成(Bioneer、Korea)した。塩基配列は、シークエンシングで確認し(Macrogen、Korea)、構築したCH3A:CH3B突然変異対は、下記[表1]の通りである。
【0132】
<実施例3>
本発明で作製したCH3ドメイン変異体の異種二量体形成能評価システムの構築
上記<実施例2>で作製したCH3ドメイン突然変異体の異種二量体の形成収率を評価するために構築されたCH3AドメインはscFv−Fcフォーマットに、CH3Bドメインはdummy−Fcフォーマットに発現されるよう、動物発現ベクターにクローニングした(
図13及び
図14)。使用したscFv抗体は、DR4に特異的に結合するヒト化抗体hAY4の親和性が向上されたバージョンであるhAY4aのVHとVL部位を接続した抗体である(Lee、Park et al.2010)。
【0133】
hAY4a scFv−Fcとdummy−Fcとを、CMVプロモーターを有する動物細胞発現ベクターであるpcDNA3.1(+)(Invitrogen、USA)に、signal sequence−hAY4a scFv−Hinge−CH2−CH3またはsignal sequence−Hinge−CH2−CH3を有するように、インフレーム(in−frame)でSacI/XbaIを用いてクローニングした。
【0134】
上記のように、CH3AドメインはscFv−Fcフォーマットで、CH3Bドメインはdummy−Fcフォーマットで発現すると、精製された抗体をSDS−PAGE上で同種二量体と異種二量体の収率を確認することができる。これは、scFv−Fcの形態がdummy−Fcの形態よりも分子量が大きいため、scFv−Fc同種二量体とscFv−Fc/dummy−Fc異種二量体、dummy−Fc同種二量体の分子量がそれぞれ異なって表示され、SDS−PAGE上でバンド移動度の違いにより区別が可能である原理を利用したものである(
図15)。下記[表2]は、構築したscFv−Fc/dummy−Fc CH3ドメインの突然変異体対を示したもので、構築されたCH3ドメインの変異体対を含む重鎖不変部位の異種二量体の形成能を評価するためのscFv−Fcおよびdummy−Fc発現形態を示しており、KiHは対照群として使用した。
【0136】
<実施例4>
CH3ドメイン変異体を含む抗体の発現及び精製
HEK293−Fシステム(Invitrogen社)を使用して、前記<実施例3>で構築された、それぞれのプラスミドCH3A変異体を含む重鎖およびCH3B変異体を含む重鎖の一時的形質感染(transient transfection)を利用して、二重特異性抗体を生成した。振とうフラスコまたは撹拌発酵機において、無血清FreeStyle293発現培地(Invitrogen)で浮遊成長するHEK293−F細胞(Invitrogen)を、2つの発現プラスミドおよびPolyethylenimine(PEI、Polyscience)の混合物で形質感染した。1Lの振とうフラスコ(Corning)の場合、HEK293−F細胞を、200mL中1.0E×6細胞/mLの密度で播種し、120rpm、8%CO
2で培養した。一日後、細胞を約2.0E×6細胞/mLの細胞密度において同じモル比で、CH3A変異体を含む重鎖およびCH3B変異体を含む重鎖をエンコードするプラスミドDNAを、計400(2/mL)を含有する10mLのFreeSytle293発現培地(Invitrogen社)および10mLのFreeSytle293発現培地+800PEI(4/mL)の、約21mLの混合物でトランスフェクションした。上澄みを5日後に採取した。
【0137】
標準プロトコルを参照して、採取した細胞培養の上澄みからタンパク質を精製した。タンパク質Aセファロースカラム(Protein A Sepharose column)(GE healthcare)に抗体を適用してPBS(pH7.4)で洗浄した。0.1Mグリシン緩衝液を用いてpH3.0から抗体を溶離した後、1MのTris緩衝液を用いてサンプルを即座に中和した。溶離した抗体分画は、Pierce Dextran Desalting Column(5KのMWCO)を用いてPBS(pH7.4)で緩衝液を交換した後、MILLIPORE Amicon Ultra(10MWCO)遠心分離濃縮器を使用して濃縮し、精製されたFc変異体抗体はBCA法により定量した。
【0138】
<実施例5>
CH3ドメイン変異体を含む抗体の異種二量体の形成能評価と収率比較、タンパク質2次構造およびFcRnに対する結合能分析
上記<実施例4>で精製されたCH3突然変異体対が挿入された抗体10gを12%非還元性条件でSDS−PAGE上で分析した(
図16)。CH3A変異体の同種二量体は103kD、CH3B変異体の同種二量体は53kD、CH3B変異体の単量体は25kDで観察され、CH3A変異体とCH3B変異体の異種二量体は78kDで観察された。
【0139】
CH3A変異体を含む重鎖およびCH3B変異体を含む重鎖プラスミドDNAを、同じモル濃度で一時的形質感染して発現精製した時、対照群である野生型CH3ドメインが導入された異種二量体と比較して、突然変異体の異種二量体形成能がより高いことを確認した。E−R変異体およびW−VT変異体に比べて、2つの対をすべて組み合わせたEW−RVTとEEW−RVT変異体の異種二量体形成能がそれぞれ91%程度と、より増加したことを確認しており、上記2つの変異体は、対照群であるノブ・イントゥ・ホールの異種二量体形成能の約86%よりも異種二量体の形成能が増加したことが分かった(表3)。また、野生型抗体を含むすべての変異体においてFc単量体が少量観察されたが、これは重鎖間の発現程度の差に起因するものと予想される。
【0140】
また、E−R変異体の場合、scFv−Fc/Fc異種二量体の形成が約53%を示し、W−VT変異体のscFv−Fc/Fc異種二量体の形成能が約77%を示すことを確認することにより、異種二量体の形成能の増加は、長距離静電結合を新たに追加することによっても寄与することができるが、相互作用面内部に既存の同種二量体形成能に作用していた相互作用を除去し、選択的な空間補完的疎水性結合を追加した戦略が比較的もっと寄与したことが確認できた。
【0141】
また、CH3ドメインの相互作用面内部に追加的な空間補完的疎水性結合を導入するための戦略や、相互作用面に新たな長距離静電的引力の突然変異対をさらに導入する戦略を単独で実行するよりも、2つの戦略を同時に実行することが異種二量体形成能の増進に役立つことを確認した。
【0142】
そして、構築されたCH3突然変異体対が導入された重鎖不変部位Fc二量体タンパク質が、野生型重鎖不変部位Fcのように、タンパク質A樹脂によく精製されるのは、CH3突然変異体対に導入された突然変異が、タンパク質Aと重鎖不変部位との間の相互作用には影響を与えていないことを示唆している。
【0143】
また、精製された野生体および突然変異体CH3ドメインを含む異種二量体抗体0.1gを、それぞれ非還元性および還元性条件下でウェスタンブロット(western blot)によっても確認した(
図17及び
図18)。上記の方法でSDS−PAGEを行ったゲルをPVDF膜に移し、goat抗−human IgG(Sigma)、抗−goat IgG HRP(SantaCruz)を標識し、PowerOpti−ECL reagent(Animal Genetics Inc)で検出して、分析にはImageQuant LAS4000mini(GE Healthcare)を用いた。ウェスタンブロットで異種二量体の形成を確認した結果、上記のSDS−PAGE上で確認された結果と類似して、(
図16)、ER変異体およびW−VT変異体と対照群ノブ・イントゥ・ホールに比べて、2つの対をすべて組み合わせたEW−RVTおよびEEW−RVT変異体の同種二量体の形成が阻害されたことが確認できた。
【0144】
上記の実験において異種二量体の形成能の増加は、長距離静電結合を新たに追加したときよりも、相互作用面の内部に既存の同種二量体形成能に作用していた相互作用を除去し、選択的な空間補完的疎水性結合を追加した戦略が、比較的多く寄与したことを確認したので(
図16)、W−VT変異体に付加的な空間補完的結合対(Tyr349Ser:Glu357Trp)を組み合わせたSW−WVT変異体を構築し、異種二量体の形成能を確認した(
図19)。SW−WVT変異体の場合、EW−RVT変異体に比べて、同種二量体の形成能はやや減少したものの、Fc単量体が観察され、約89%の異種二量体形成能を有することを確認した(表3)。これは、重鎖間の発現程度の違いによるもので、形質感染時にプラスミドのモル比を調節することにより、異種二量体形成能を向上させることができると予想される。
【0145】
また、EW−RVT変異体とSW−WVT変異体とにジスルフィド架橋を導入し、異種二量体形成能を比較した(
図19)。EW−RVT変異体の場合には、導入されたE−R突然変異対(Lys360Glu:Gln347Arg)による長距離静電的結合がCH3ドメインの相互作用面の外郭部位に非対称的に存在するので、反対側の静電結合が存在しない部位にジスルフィド架橋を導入するために、CH3AドメインにTyr349Cys、CH3BドメインにSer354Cysの突然変異を導入した。SW−WVT変異体にジスルフィド架橋を導入するに当たっては、S−W突然変異対(Tyr349Ser:Glu357W)によって導入された空間補完的結合に影響を与えないようにするために、CH3AドメインにSer354Cys、CH3BドメインにTyr349Cysの突然変異を導入し、S−W突然変異対の位置の反対側CH3ドメインの相互作用面にジスルフィド架橋が生成された。
【0146】
ジスルフィド架橋が導入された変異体は、導入されていない変異体に比べて、EW−RVTの場合は約3%、SW−WVTの場合は約9%が増加したことを確認し(表3)、ジスルフィド架橋の導入が異種二量体の形成能向上に寄与することを確認した。SDS−PAGE上において、ジスルフィド架橋が導入された変異体が、導入されていない変異体に比べて、より小さいサイズで確認されるが、これは異種二重体が、SDS変性条件下でジスルフィド架橋によって比較的密集した形で存在するため、PAGE上の移動能の違いを有するものであって、実際に自然状態での異種二量体の大きさの違いではないと判断される。
【0147】
また、それぞれの突然変異体を含む異種二量体を繰り返し発現精製してImageJプログラム(Wayne Rasband、NIH)を用いて、SDS−PAGE上の各バンド(band)の密度(density)を分析した結果、既存の陽性対照群のノブ・イントゥ・ホール異種二量体の収率が約85%〜90%程度であるのに対し、EW−RVTとEEW−RVT突然変異が含まれている異種二量体の形成収率が約90%〜95%程度と高いことが確認できた(表3)。下記[表3]は、構築されたCH3ドメイン突然変異対を含む重鎖不変部位の異種二量体形成能を比較したもので、KiHを対照群として使用し、結果値は、3回以上の独立した実験を実行した後、平均の標準誤差(meanS.EM)で示した。
【0149】
CH3ドメイン変異体が含まれている異種二量体タンパク質の発現収率を確認した(表4)。HEK293細胞に一時的形質感染し、約20mlの培養液の量で5日間発現して、精製過程が終わった後のタンパク質の濃度と体積を定量してタンパク質の発現収率を計算した。実験は、3回〜5回繰り返して行われたことを平均標準誤差(meanS.EM)で表したものである。
【0150】
その結果、CH3ドメイン変異体が含まれている異種二量体タンパク質は、野生型CH3ドメインを含む異種二量体に比べて収率がやや減少し、対照群のノブ・イントゥ・ホールよりは近似しているか、やや高い程度の収率を持っていることを確認した。これにより、CH3ドメインに導入された変異体対は、野生型抗体と比較したとき、タンパク質の安定性を大きく阻害しないと判断することができる。
【0152】
突然変異対を含むCH3ドメインのタンパク質二次構造が、野生型のCH3ドメインのタンパク質二次構造と同じように保存されているかどうかを確認するために円二色性(Circular dichroism)を測定した。CH3AドメインおよびCH3Bドメインをそれぞれdummy−Fcベクターで構築してFcドメイン二量体を作製して分析に利用した(
図14)。Chirascan(登録商標)−plus(AppliedPhotophysics、UK)を用いており、分析温度25℃で行った。測定緩衝液の条件は、PBS(pH7.4)を用いており、195nm〜260nmの区間で分析した。
【0153】
その結果、EW−RVT突然変異対が導入されたCH3ドメインを持つFc二量体は、野生型CH3ドメインを持つFc二量体と同じ値の平均残余楕円率(mean residue ellipticity)を持つことが確認できた。これは、突然変異体対が導入されても、タンパク質の二次構造には変化がないことを示す(
図20)。
【0154】
また、突然変異対が導入されたCH3ドメインを含む抗体が野生型CH3ドメインを持つ抗体と比較してFcRnに対する結合能を保持しているかを確認するためにSPR(Surface plasmon resonance)を行った。Biacore2000(GE healthcare、USA)を用いており、EW−RVT突然変異対のCH3変異体が含まれている異種二量体抗体と、対照群として野生型CH3ドメインを持つIgG1抗体であるRemicade(登録商標)(インフリキシマブ、Janssen Biotech)とを、sFcRn(Feng et al .,2011)に対して結合能を分析した。sFcRnを10mM Na−酢酸緩衝液(pH4.0)に希釈してCM5センサーチップ(GE healthcare、USA)に約1000反応単位(reponse units、RU)で固定化した。泳動用緩衝液としては、Tween20が0.005%含まれているPBS(pH6.0)およびHBS−EP緩衝液(pH7.4)を用いており、CH3突然変異体を0.625μM、1.25μM、2.5μM、5μMの濃度で分析した。
【0155】
その結果、突然変異体対が導入されたCH3ドメインを含む抗体は、野生体CH3ドメインを含む抗体と同様に、FcRnに対する結合能をそのまま保持していることを確認した(
図21)。
【0156】
<実施例6>
scFvの形態の抗−DR4×DR5抗体が融合された形態のCH3ドメイン変異体を用いた抗−DR4×DR5 scFv−Fc二重特異性抗体の発現および精製分析
標的抗原DR4に特異的に結合するヒト化hAY4a scFv抗体(Lee、Park et al.,2010)と、標的抗原DR5に特異的に結合するヒトHW1 scFv抗体(Park、Lee et al.,2007)の親和性向上バージョンであるAU5H scFv抗体を、CH3ドメイン変異体が使用されたFcのN−末端に融合して二重特異性抗体を構築した(
図22−A)。
【0157】
この際使用した突然変異体対は、EW−RVT対であり、構築したscFv−Fc形態の二重特異性抗体は、上記<実施例5>における方法と同様にして発現および精製し、SDS−PAGE上でタンパク質を分析した。突然変異体対が導入されたscFv−Fc形態の抗−DR4×DR5二重特異性抗体は、対照群であるノブ・イントゥ・ホールを導入したscFv−Fc形態の抗体と比較して、目的の抗体が二量体の形で組み合わせ(assembly)されていないか、または、タンパク質の不安定性による切断副産物もなく精製されることを確認した(
図22−B)。
【0158】
また、二重特異性抗体の結合状態を測定するためにHPLC(The Agilent1200 Series LC Systems and Modules、Agilent、USA)を使用して、サイズ排除クロマトグラフィ(Superdex10/300GL、GE Healthcare、Sweden)を行った。溶出緩衝液は、PBS(pH7.4、137mM NaCl、10mM Phosphate、2.7mM KCl、SIGMA−ALDRICH co.,USA)を利用しており、流速は0.5ml/minであった。タンパク質のサイズマーカーとして、IgG(150kD)、アルブミン(66kDa)、炭酸無水化酵素(carbonic anhydrase)(29kDa)タンパク質を用いた。M7突然変異体対が導入されたscFv−Fc形態の抗−DR4×DR5二重特異性抗体は、サイズ排除クロマトグラフィ上でも対照群のノブ・イントゥ・ホールを導入したscFv−Fc形態の抗体と比較して、二量体の形で組み合わせ(assembly)されないか、タンパク質の不安定性による切断副産物もなく精製されることを確認した(
図22−C)。
【0159】
<実施例7>
scFab形態の抗−DR4×DR5抗体が融合された形態のCH3ドメイン変異体を用いた抗−DR4×DR5 scFab−Fc二重特異性抗体の作製および二重特異性抗体の抗原に対する結合能分析
製作したCH3突然変異体対を導入し、scFab−Fc(scIgG)の形で二重特異性抗体を構築した。使用した親抗体は、前記<実施例6>のscFv−Fc形態の二重抗体で使用したものと同じヒト化hAY4a抗体とAU5H抗体であり、VH−CHドメインとVL−CLドメインを26個のアミノ酸の鎖で連結した形態の単鎖化Fab(scFab)をFcのN−末端に融合して作製した(
図23−A)。
【0160】
この時使用した突然変異体対は、EW−RVT対であり、構築したscFab−Fc形態の二重特異性抗体は、実施例6と同じ方法で発現および精製し、SDS−PAGE上でタンパク質を分析した。非還元性条件下で突然変異体対が導入されたscFab−Fc形態の二重特異性抗体が、対照群のノブ・イントゥ・ホールが導入された二重特異性抗体と同様に、目的とする二価(bivalent)の形で結合(assembly)された抗体として主要に精製されることを確認し、還元性条件下で目的とする二重特異性抗体の単量体(monomer)が凝集反応(aggregation)や切断(cleavage)なく精製されたことを確認した(
図23−B)。
【0161】
精製されたFc変異体の二重特異性抗体の二重特異結合能を測定するためにELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)を行った。標的分子BSA、DR4、DR5と、対照群であるDcR1、DcR2を、96well EIA/RIAプレート(COSTAR Corning In.,USA)に1時間37℃で結合させた後、0.1%PBST(0.1%Tween20、pH 7.4、137mM NaCl、10mM Phosphate、2.7mM KCl、SIGMA−ALDRICH co.,USA)で10分間3回洗浄した。5%のスキームミルク(5%Skim milk、pH 7.4、137mM NaCl、10mM Phosphate、2.7mM KCl、SIGMA−ALDRICH co.,USA)で1時間結合した後、0.1%PBST(0.1%Tween20、pH 7.4、137mM NaCl、10mM Phosphate、2.7mM KCl、SIGMA−ALDRICH co.,USA)で10分間3回洗浄した。精製されたFc変異体の二重特異性抗体を結合させた後、0.1%PBSTで10分間3回洗浄した。APが接合された抗ヒト抗体(alkaline phosphatase−conjugated anti−human mAb、Sigma、USA)で結合させた後、pNPP(p−nitrophenyl palmitate、SIGMA−ALDRICH co.,USA)で反応させて405nmの吸光度を定量した。ELISAの結果により発現精製したscFv−Fc形態とscFab−Fc形態の二重特異性抗体がそれぞれ標的分子DR4とDR5に対する特異性を持つことを確認した(
図23−C)。突然変異体対のM7が導入されたscFv−Fc形態とscFab−Fc形態の二重特異性抗体は、対照群のノブ・イントゥ・ホールが導入された二重特異性抗体と比較して、類似する程度の標的分子であるDR4とDR5に対する結合力を持っており、DcR1とDcR2には交差反応性なく標的分子に対する特異性が維持された。これによって、改良されたCH3ドメインの突然変異体対を導入することが抗原結合部位の結合能には影響を及ぼさないことを確認した。
【0162】
<実施例8>
抗−DR4×DR5抗体が融合した形態のCH3ドメイン変異体を用いた抗−DR4×DR5scFv−FcおよびscFab−Fc二重特異性抗体の細胞毒性評価
上記<実施例6>と<実施例7>で作製された抗−DR4×DR5scFv−FcおよびscFab−Fc二重特異性抗体のガン細胞死滅能を確認するために、ヒト由来ガン細胞であるHCT116(colorectal carcinoma)とHeLa(adenocarcinoma)細胞株からの細胞毒性試験(MTT assay)を行った。
【0163】
具体的には、96well plateにガン細胞株をwellあたり1×10
4cellsで播種(seeding)をした後、37℃、5%CO
2インキュベーターで1.5日培養した後、親抗体である抗−DR4ヒト化抗体hAY4a IgGと抗−DR5ヒト抗体AU5H−scFv、作製されたscFv−FcおよびscFab−Fc形態の二重抗体と、陽性対照群としてDR4およびDR5のリガンドであるTRAIL(TNF−related apoptosis inducing ligand)を、インキュベーターで20時間培養した。この時、TRAILは、大腸菌から発現精製したものを用いた。この後、5mg/mlのMTT solution(Sigma)をウエル(well)あたり20μl処理した後、34時間培養し、ウエル内の培養液を除去し、100μlのDMSOでホルマザン(formazan)を溶解し、595nmで溶解されたホルマザンの吸光度を測定して細胞毒性を定量した。
【0164】
その結果、上記二つの形態の二重特異性抗体は、親抗体であるヒト化抗体hAY4aIgGとヒト抗体AU5H−scFvとを比較して、ガン細胞の死滅能が増加しており、陽性対照群として用いたTRAILと比較して、細胞毒性が類似するか、やや優れたことを確認することができた(
図24)。
【0165】
下記表5は、本発明の抗体CH3ドメインの異種二量体および異種二量体重鎖不変部位対の配列情報を示す。
【0167】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野の通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更しないで、他の具体的な形で容易に変形が可能であることを理解するべきである。したがって、以上で述べた実施例は、すべての面において例示的なものであり、限定的ではないものと理解されるべきである。