(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385371
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】好ましくはオイルフリー式の往復動式圧縮機のクランク伝動機構
(51)【国際特許分類】
F16C 7/02 20060101AFI20180827BHJP
F16C 35/077 20060101ALI20180827BHJP
F16B 19/02 20060101ALI20180827BHJP
F04B 39/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
F16C7/02
F16C35/077
F16B19/02
F04B39/00 107B
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-557395(P2015-557395)
(86)(22)【出願日】2014年2月11日
(65)【公表番号】特表2016-509177(P2016-509177A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】EP2014052595
(87)【国際公開番号】WO2014124917
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2017年1月5日
(31)【優先権主張番号】102013101498.4
(32)【優先日】2013年2月14日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】503159597
【氏名又は名称】クノル−ブレムゼ ジステーメ フューア シーネンファールツォイゲ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Knorr−Bremse Systeme fuer Schienenfahrzeuge GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル ハートル
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シュナイダー
【審査官】
尾形 元
(56)【参考文献】
【文献】
欧州特許出願公開第1314898(EP,A1)
【文献】
実開平02−009331(JP,U)
【文献】
実開平05−014573(JP,U)
【文献】
特表2007−536473(JP,A)
【文献】
仏国特許発明第928641(FR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 7/02
F16C 35/077
F16B 19/02
F04B 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動式圧縮機のクランク伝動機構であって、該クランク伝動機構が、クランクシャフトのクランクピン(3)に配置された転がり軸受け(2)を備えており、該転がり軸受け(2)に中間リング(4)を介してコネクティングロッド(1)が取り付けられており、中間リング(4)が、コネクティングロッド(1)に対する回動を防止するための回動防止手段と協働している、往復動式圧縮機のクランク伝動機構であって、
回動防止手段が、コネクティングロッド(1)内にねじ山を介して遊びなしに固定されたピンアッセンブリ(5)を有しており、該ピンアッセンブリ(5)が、中間リング(4)内に、遊びを伴った嵌合を介して形状接続的に係合されており、
ピンアッセンブリ(5)が、2つの部材から形成されていて、滑らかな周面を備えた円筒状のピン(6)を有しており、該ピン(6)が、コネクティングロッド(1)内に螺入するための雄ねじ山(8)を備えたブシュ(7)内に圧入されていることを特徴とする、往復動式圧縮機のクランク伝動機構。
【請求項2】
円筒状のピン(6)が、焼入れ焼戻しされた調質鋼から成っているのに対して、ブシュ(7)は、前記調質鋼に比べて軟質の予め調質された鋼材料から成っている、請求項1記載のクランク伝動機構。
【請求項3】
雄ねじ山(8)を介してコネクティングロッド(1)内に螺入されたピンアッセンブリ(5)が、ねじ緩み止め接着剤によって固定されている、請求項1記載のクランク伝動機構。
【請求項4】
ブシュ(7)が、雄ねじ山(8)に軸方向で隣接した半径方向外向きの鍔(9)を有しており、該鍔(9)が、コネクティングロッド(1)内への螺入深さを制限するためのストッパを成している、請求項1記載のクランク伝動機構。
【請求項5】
ブシュ(7)が、該ブシュ(7)を越えてピン(6)が突出する箇所に、丸み付け部(10)を備えている、請求項1記載のクランク伝動機構。
【請求項6】
ピン(6)の、ブシュ(7)内に圧入されている部分が、ピン(6)の、ブシュ(7)を越えて突出している部分と少なくとも等しい長さに設定されている、請求項1記載のクランク伝動機構。
【請求項7】
中間リング(4)に設けられた、ピンアッセンブリ(5)のピン(6)に対応する基礎孔が表面焼入れされており、表面層の硬さが、ピン(6)の硬さに相当している、請求項1記載のクランク伝動機構。
【請求項8】
中間リング(4)が、鋼材料から成っている、請求項7記載のクランク伝動機構。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載のクランク伝動機構を備えた、圧縮空気を発生させるためのオイルフリー式の圧縮機ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復動式圧縮機のクランク伝動機構であって、該クランク伝動機構が、クランクシャフトのクランクピンに配置された転がり軸受けを備えており、該転がり軸受けに中間リングを介してコネクティングロッドが取り付けられており、中間リングが、コネクティングロッドに対する回動を防止するための回動防止手段と協働している、往復動式圧縮機のクランク伝動機構に関する。さらに、本発明は、このようなクランク伝動機構を備えた、圧縮空気を発生させるためのオイルフリー(無潤滑)式の圧縮機ユニットにも関する。
【0002】
本発明の使用分野は、とりわけレール車両構造における圧縮空気コンプレッサに及んでいる。この圧縮空気コンプレッサは、運転の間、過酷な要求、特に−50℃〜+50℃の高い温度変動にさらされている。その際には、長い運転時間と長い作動期間とが経過するので、圧縮空気コンプレッサは、度々、構成部材の最大の温度限界で運転されることになる。これに加えて、レール車両に設けられた圧縮空気コンプレッサは、しばしば狭い室内に格納されなければならず、これによって、冷却空気の供給が困難となってしまう。これら全ての周辺条件は、構成部材の著しい熱膨張を促進してしまう。この熱膨張は、駆動装置のパワーフローに位置しかつ形状接続的な回動防止手段を介して協働する構成部材に全くもって特に負荷をかける。
【0003】
実際、特に圧縮空気コンプレッサの回転数が短時間落ち込み、次いで、急激に再び激しく上昇することを招く短時間の、いわゆる「ビューゲルバウンド」、すなわち、第三レール離線が生じた場合に、上述のような高負荷が回動防止手段に作用することが判った。これによって、特に往復動式圧縮機のクランク伝動装置の領域における回動防止手段に激しい負荷がかかってしまう。
【0004】
一般的に公知の先行技術によれば、往復動式圧縮機のクランク伝動機構の内部のコネクティングロッドは分割式に形成されている。このコネクティングロッドの組立ては複数回のステップで行われる。まず、クランクピンに転がり軸受けがプレス嵌めされたクランクシャフトが、クランクケース内に組み込まれる。その後、コネクティングロッドが、クランクケースに設けられた開口を通して導入される。なお、この開口は、のちに、シリンダ組付けのために用いられる。各コネクティングロッドと、これに対応したクランクシャフト側の分割された半割シェルとが、クランクシャフトの転がり軸受けに嵌められる。これによって、コネクティングロッドと転がり軸受けとの間の、この箇所に設けるべき回動防止手段を遊びなしに形成することができない。すなわち、コネクティングロッドは、クランクシャフトの転がり軸受けの位置決め部内に遊びを伴って嵌められなければならない。
【0005】
温度が高くなると、コネクティングロッドのアルミニウム材料が、転がり軸受けと、通常ではコネクティングロッドと転がり軸受けとの間に配置されていて、この転がり軸受けとシール部材とが圧入された鋼製の中間リングとに対して、構成部材同士の互いに異なる熱膨張率のため、プレス嵌めを失ってしまい、これによって、圧縮機ピストンのその都度の圧縮および膨張の際に、形状接続的な回動防止手段に負荷がかかってしまう。脈動による負荷によって、回動防止手段の遊びで常に相対運動が生じる。この相対運動は、この先行技術では、組付け可能性の理由から存在していなければならない。
【0006】
欧州特許出願公開第1314898号明細書に基づき、特に往復動式圧縮機に用いられるクランク伝動機構が明らかである。このクランク伝動機構は、主として、クランクシャフトから成っている。このクランクシャフトは少なくとも1つのクランクピンを備えている。このクランクピンには、少なくとも1つの転がり軸受けを介して、軽金属から成るコネクティングロッドが相対回動可能に取り付けられている。転がり軸受けとコネクティングロッドとの間には、中間リングが配置されている。この中間リングは、一方では、プレス嵌めを介して転がり軸受けに相対回動不能に結合されていて、他方では、コネクティングロッドに形状接続的に相対回動不能に結合されている。中間リングは、温度変動時にコネクティングロッドに対する転がり軸受けの解離を回避するために、少なくとも転がり軸受けの材料とほぼ等しい比熱膨張率を有する材料から成っている。転がり軸受けとコネクティングロッドとの間の形状接続的な結合は、ローレット加工部または半径方向に突出した少なくとも1つのピンを介して実現されている。このピンは、別個の構成部材として形成されていてもよいし、コネクティングロッドの構成要素または中間リングの構成要素として形成されていてもよい。
【0007】
実際、製造技術的な理由ならびに運転理由から、別個のピンの形態での回動防止手段の構成が有利であると判った。なぜならば、高負荷のため、ピンが可能な限り抵抗性の材料から成っていることが望ましいからである。これに対して、コネクティングロッドは、通常、軽量の金属から製造されている。ピンを含めた回動防止手段が鋼から製造される場合には、ピンがコネクティングロッドの軽金属材料内にアンカ固定されなければならない。しかしながら、先行技術による単純なプレス嵌めは、材料同士の互いに異なる熱膨張率にさらされているので、解離され、遊びを提供し、かつ/または傾いてしまう傾向にある。回動防止手段の傾けられたピンは、著しい軸受け損傷に繋がってしまう。
【0008】
したがって、本発明の課題は、コネクティングロッドに対する回動を防止するための、製造技術的に簡単にかつ運転安全に形成された回動防止手段を有する、往復動式圧縮機のクランク伝動機構を提供することである。
【0009】
この課題は、請求項1の上位概念部に記載のクランク伝動機構を起点として、請求項1の特徴部に記載の特徴に結び付けて解決される。後続の従属請求項には、本発明の有利な改良態様が記載してある。
【0010】
本発明は、コネクティングロッドと中間リングとの間に設けられた回動防止手段が、コネクティングロッド内にねじ山を介して遊びなしに固定されたピンアッセンブリを有しており、このピンアッセンブリが、中間リングの側に、遊びを伴った嵌合を介して形状接続的に係合されているという技術的な教示を含んでいる。
【0011】
本発明による解決手段の利点は、特に、1つには、コネクティングロッド内への回動防止手段のねじ山固定によって、コネクティングロッドに対して不動の装着を保証することができ、もう1つには、中間リングと協働する遊びを伴う嵌合が、簡単な組付けを保証している点にある。
【0012】
好適な態様によれば、ピンアッセンブリが、2つの部材から形成されていて、この限りにおいて、滑らかな周面を備えたほぼ円筒状のピンを有しており、このピンが、コネクティングロッド内に螺入するための雄ねじ山を備えたブシュ内に圧入されている。2つの部材から成る構成によって、コネクティングロッドに対するねじ山固定だけでなく、中間リングに対する形状接続的な隙間嵌めも、製造技術的に簡単に実現することができる。
【0013】
ピンアッセンブリの不動の結合を提供するためには、円筒状のピンが、好ましくは焼入れ焼戻しされた調質鋼から成っているのに対して、ブシュは、当該調質鋼に比べて軟質の予め調質された鋼材料から成っていることが提案される。好適な態様によれば、ピンが、少なくとも45HRC(ロックウェル)の硬さを有していて、ブシュが、最大で45HRCの硬さを有していることが望ましい。
【0014】
さらに、雄ねじ山を介してコネクティングロッド内に螺入されたピンアッセンブリをねじ緩み止め接着剤によって付加的に固定することが提案される。これによって、ピンアッセンブリがコネクティングロッドから自動的に解離してしまうことが阻止される。
【0015】
コネクティングロッド内へのピンアッセンブリの螺入深さを制限するためには、ブシュが、選択的に、雄ねじ山に軸方向で隣接した半径方向外向きの鍔を有しており、この鍔が、ストッパを成していることが提案される。このストッパは、コネクティングロッドの螺合貫通孔に設けられた対応する座繰り部内に格納される。
【0016】
本発明を改善する別の手段によれば、ブシュが、このブシュを越えてピンが突出する箇所に、丸み付け部を備えていることが提案される。これによって、ピンにおける切欠き応力が減じられるので、この簡単な製造技術的な手段によって、不変荷重が高い場合のピンの破折が予防される。
【0017】
本発明による回動防止手段の強度を改善する別の手段は、中間リングの側の、ピンアッセンブリのピンに対応する基礎孔が、表面層で焼入れされて、つまり、表面焼入れされて形成されており、表面層の硬さが、ピンの硬さに相当している点にある。この態様では、中間リングが、少なくとも基礎孔の領域で相応に焼入れされていることが望ましい。当然ながら、中間リングが全体的に、ピンの硬さにほぼ相当する焼入れされた材料から成っていることも可能である。
【0018】
ピンアッセンブリの高い安定性は、選択的に、ピンの、ブシュ内に圧入されている部分が、ピンの、ブシュを越えて突出している部分と少なくとも等しい長さに設定されていることによって保証することができる。これによって、荷重が加えられている際にピンの内部に好適な応力分布を確保することができる。
【0019】
本発明を改善する更なる手段を、以下に、図面に基づく本発明の好適な実施の形態の説明と共に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】回動防止手段の領域を一部断面したクランク伝動機構のコネクティングロッドの側面図である。
【
図2】
図1に示した回動防止手段の領域における縦断面図(詳細X)である。
【
図3】回動防止手段のピンアッセンブリの縦断面図である。
【
図4】
図3に示したピンアッセンブリの斜視図である。
【0021】
図1によれば、往復動式圧縮機の、詳細には図示していないクランク伝動機構のコネクティングロッド1が、転がり軸受け2を介してクランクシャフトのクランクピン3に相対回動可能に配置されている。軽金属から成るコネクティングロッド1は、鋼材料から製造された中間リング4を介して転がり軸受け2に外側で取り付けられている、すなわち、転がり軸受け2の、同じく鋼材料から製造された軸受け外輪に取り付けられている。中間リング4は、コネクティングロッド1に対する回動を防止するための回動防止手段と協働している。この回動防止手段は、コネクティングロッド1内にねじ山を介して遊びなしに固定されたピンアッセンブリ5を有している。このピンアッセンブリ5は、中間リング4の側に設けられた対応する切欠き内に、遊びを伴った嵌合を介して形状接続的に係合されている。
【0022】
回動防止手段の領域における
図2に示した詳細Xによれば、ピンアッセンブリ5は、2つの部材から形成されている。これに関して、滑らかな周面を備えた円筒状のピン6が、ブシュ7内に圧入されている。このブシュ7は、コネクティングロッド1内に螺入するための雄ねじ山8を備えている。ピンアッセンブリ5の、雄ねじ山8を介してコネクティングロッド1内に螺入されたブシュ7は、ねじ緩み止め接着剤によって固定される。
【0023】
図3によれば、ブシュ7は、雄ねじ山8に軸方向で隣接した半径方向外向きの鍔9を有している。ブシュ7に一体成形された鍔9は、コネクティングロッド1(図示せず)内へのブシュ7の螺入深さを制限するためのストッパを成している。ピン6の、ブシュ7内に圧入されている部分は、この実施の形態では、ピン6の、ブシュ7を越えて突出している部分よりも長く設定されている。
【0024】
図4によれば、ブシュ7は、このブシュ7を越えてピン6が突出する箇所に、切欠き応力を回避するために、丸み付け部10を備えている。
【0025】
本発明は、前述した好適な実施の形態に限定されるものではない。これについて、以下の特許請求の範囲の保護範囲により一緒に包括されているかまたは特許請求の範囲に関して少なくとも容易に想到すると思われる複数の変更形態も可能である。たとえば、本発明によるピンアッセンブリを転がり軸受けの軸受け外輪と直接協働させることも可能である。この形態では、この軸受け外輪が適切な箇所に基礎孔を備えて形成されていなければならない。
【符号の説明】
【0026】
1 コネクティングロッド
2 転がり軸受け
3 クランクピン
4 中間リング
5 ピンアッセンブリ
6 ピン
7 ブシュ
8 雄ねじ山
9 鍔
10 丸み付け部
X 詳細