特許第6385378号(P6385378)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385378
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】散布作業機
(51)【国際特許分類】
   A01M 7/00 20060101AFI20180827BHJP
   A01C 23/00 20060101ALI20180827BHJP
   B05B 17/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   A01M7/00 N
   A01C23/00 G
   A01C23/00 H
   B05B17/00 102
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-14193(P2016-14193)
(22)【出願日】2016年1月28日
(65)【公開番号】特開2017-131161(P2017-131161A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2017年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141174
【氏名又は名称】株式会社丸山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大悟
【審査官】 坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−259366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 7/00
A01C 23/00
B05B 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)と、前記車両(2)に搭載されて噴霧ノズル(10)から薬液を噴霧することにより前記薬液を散布する散布装置(3)とを備えた散布作業機(1)であって、
前記散布装置(3)によって散布する前記薬液の単位面積あたりの目標散布量を取得する第1取得部(31)と、
前記噴霧ノズル(10)における噴霧に関するノズル特性を取得する第2取得部(32)と、
前記第1取得部(31)で取得された前記目標散布量と、前記第2取得部(32)で取得された前記ノズル特性とに基づいて、前記目標散布量で前記薬液を散布可能な前記車両(2)の速度範囲を演算する範囲演算部(36)と、
前記範囲演算部(36)で演算された前記車両(2)の速度範囲を表示する表示部(22)と、
回転力を駆動源として前記薬液を前記噴霧ノズル(10)に供給するポンプ(6a)と、
前記ポンプ(6a)の回転数を取得するポンプ回転数取得部(34)と、
前記ポンプ回転数取得部(34)で取得された前記ポンプ(6a)の回転数に基づいて、前記噴霧ノズル(10)に供給される前記薬液の供給量を演算する供給量演算部(35)と、を備え、
前記ノズル特性は、前記噴霧ノズル(10)における前記薬液の供給圧力と噴霧量との相関と、前記噴霧ノズル(10)に対して予め設定された前記薬液の供給圧力の許容範囲とを含み、
前記範囲演算部(36)は、
前記第1取得部(31)で取得された前記目標散布量と、前記第2取得部(32)で取得された前記薬液の供給圧力と噴霧量との相関及び前記薬液の供給圧力の許容範囲とに基づいて、前記薬液の供給圧力の許容範囲内において前記目標散布量で前記薬液を散布可能な前記車両(2)の速度範囲を演算し、
前記第2取得部(32)で取得された前記薬液の供給圧力と噴霧量との相関及び前記薬液の供給圧力の許容範囲に基づいて、前記薬液の供給圧力の許容範囲内における前記噴霧ノズルの最大の噴霧量を演算し、
前記供給量演算部(35)で演算された前記薬液の供給量が前記噴霧ノズルの最大の噴霧量よりも小さい場合、前記第1取得部(31)で取得された前記目標散布量と前記供給量演算部(35)で演算された前記薬液の供給量とに基づいて、前記車両の速度範囲の上限値を演算する、散布作業機。
【請求項2】
車両(2)と、前記車両(2)に搭載されて噴霧ノズル(10)から薬液を噴霧することにより前記薬液を散布する散布装置(3)とを備えた散布作業機(1)であって、
前記散布装置(3)によって散布する前記薬液の単位面積あたりの目標散布量を取得する第1取得部(31)と、
前記噴霧ノズル(10)における噴霧に関するノズル特性を取得する第2取得部(32)と、
前記第1取得部(31)で取得された前記目標散布量と、前記第2取得部(32)で取得された前記ノズル特性とに基づいて、前記目標散布量で前記薬液を散布可能な前記車両(2)の速度範囲を演算する範囲演算部(36)と、
前記範囲演算部(36)で演算された前記車両(2)の速度範囲を表示する表示部(22)と、
回転力を駆動源として前記薬液を前記噴霧ノズル(10)に供給するポンプ(6a)と、
前記ポンプ(6a)の回転数を取得するポンプ回転数取得部(34)と、
前記ポンプ回転数取得部(34)で取得された前記ポンプ(6a)の回転数に基づいて、前記噴霧ノズル(10)に供給される前記薬液の供給量を演算する供給量演算部(35)と、を備え、
前記ノズル特性は、前記噴霧ノズルに対して予め設定された前記薬液の噴霧量の許容範囲を含み、
前記範囲演算部(36)は、
前記第1取得部(31)で取得された前記目標散布量と、前記薬液の噴霧量の許容範囲とに基づいて、前記薬液の噴霧量の許容範囲内において前記目標散布量で前記薬液を散布可能な前記車両(2)の速度範囲を演算し、
前記供給量演算部(35)で演算された前記薬液の供給量が、前記第2取得部(32)で取得された前記薬液の噴霧量の許容範囲内における最大の噴霧量よりも小さい場合、前記第1取得部(31)で取得された前記目標散布量と前記供給量演算部(35)で演算された前記薬液の供給量とに基づいて、前記車両(2)の速度範囲の上限値を演算する、散布作業機。
【請求項3】
前記車両(2)の速度を検出する速度検出部(5)を更に備え、
前記表示部(22)は、前記速度検出部(5)で検出された前記車両(2)の速度を、前記車両(2)の速度範囲と共に表示する、請求項1又は2に記載の散布作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液を散布する散布作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
薬液を散布しながら移動する散布作業機として、例えば特許文献1に記載された散布作業機が知られている。特許文献1には、車両の走行速度に応じて噴霧ノズルに供給する薬液の供給圧力を制御することにより、予め設定された単位面積あたりの目標散布量で薬液を散布する散布作業機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−178819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような散布作業機においては、作業条件によって散布の作業に適した動作範囲が変化する。例えば、散布作業機では、使用する噴霧ノズルの特性や目標散布量によって、散布の作業に適した車両の走行速度範囲が変化する。このため、作業者に対して適切な動作範囲を通知することが望まれている。
【0005】
そこで、本発明は、作業者に対して適切な動作範囲を通知可能な散布作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車両(2)と、車両(2)に搭載されて噴霧ノズル(10)から薬液を噴霧することにより薬液を散布する散布装置(3)とを備えた散布作業機(1)であって、散布装置(3)によって散布する薬液の単位面積あたりの目標散布量を取得する第1取得部(31)と、噴霧ノズル(10)における噴霧に関するノズル特性を取得する第2取得部(32)と、第1取得部(31)で取得された目標散布量と、第2取得部(32)で取得されたノズル特性とに基づいて、目標散布量で薬液を散布可能な車両(2)の速度範囲を演算する範囲演算部(36)と、範囲演算部(36)で演算された車両(2)の速度範囲を表示する表示部(22)と、回転力を駆動源として薬液を噴霧ノズル(10)に供給するポンプ(6a)と、ポンプ(6a)の回転数を取得するポンプ回転数取得部(34)と、ポンプ回転数取得部(34)で取得されたポンプ(6a)の回転数に基づいて、噴霧ノズル(10)に供給される薬液の供給量を演算する供給量演算部(35)と、を備え、ノズル特性は、噴霧ノズル(10)における薬液の供給圧力と噴霧量との相関と、噴霧ノズル(10)に対して予め設定された薬液の供給圧力の許容範囲とを含み、範囲演算部(36)は、第1取得部(31)で取得された目標散布量と、第2取得部(32)で取得された薬液の供給圧力と噴霧量との相関及び薬液の供給圧力の許容範囲とに基づいて、薬液の供給圧力の許容範囲内において目標散布量で薬液を散布可能な車両(2)の速度範囲を演算し、第2取得部(32)で取得された薬液の供給圧力と噴霧量との相関及び薬液の供給圧力の許容範囲に基づいて、薬液の供給圧力の許容範囲内における噴霧ノズルの最大の噴霧量を演算し、供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量が噴霧ノズルの最大の噴霧量よりも小さい場合、第1取得部(31)で取得された目標散布量と供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量とに基づいて、車両の速度範囲の上限値を演算する。
【0007】
この散布作業機(1)において、範囲演算部(36)は、目標散布量とノズル特性とに基づいて、目標散布量で薬液を散布可能な車両(2)の速度範囲を演算することができる。表示部(22)は、演算された速度範囲を表示することにより、適切な動作範囲として車両(2)の適切な速度範囲を、作業者に対して通知することができる。これにより、作業者は、表示部(22)を確認することにより、適切な速度範囲を把握することができる。
また、範囲演算部(36)は、目標散布量と、薬液の供給圧力と噴霧量との相関と、薬液の供給圧力の許容範囲とに基づいて、車両(2)の速度範囲を演算することができる。この速度範囲内であれば噴霧ノズル(10)に供給される薬液の供給圧力を許容範囲内にできるため、噴霧ノズル(10)から薬液を適切に噴霧できる。
さらに、供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量が噴霧ノズル(10)の最大の噴霧量よりも小さい場合とは、噴霧ノズル(10)には噴霧の余力があるにも関わらず、ポンプ(6a)からの薬液の供給量が不足している場合である。この場合、範囲演算部(36)は、第1取得部(31)で取得された目標散布量と供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量とに基づいて、車両(2)の速度範囲の上限値を演算する。これにより、ポンプ(6a)からの薬液の供給量も考慮して、車両(2)の速度範囲を演算することができる。
【0008】
本発明は、車両(2)と、車両(2)に搭載されて噴霧ノズル(10)から薬液を噴霧することにより薬液を散布する散布装置(3)とを備えた散布作業機(1)であって、散布装置(3)によって散布する薬液の単位面積あたりの目標散布量を取得する第1取得部(31)と、噴霧ノズル(10)における噴霧に関するノズル特性を取得する第2取得部(32)と、第1取得部(31)で取得された目標散布量と、第2取得部(32)で取得されたノズル特性とに基づいて、目標散布量で薬液を散布可能な車両(2)の速度範囲を演算する範囲演算部(36)と、範囲演算部(36)で演算された車両(2)の速度範囲を表示する表示部(22)と、回転力を駆動源として薬液を噴霧ノズル(10)に供給するポンプ(6a)と、ポンプ(6a)の回転数を取得するポンプ回転数取得部(34)と、ポンプ回転数取得部(34)で取得されたポンプ(6a)の回転数に基づいて、噴霧ノズル(10)に供給される薬液の供給量を演算する供給量演算部(35)と、を備え、ノズル特性は、噴霧ノズルに対して予め設定された薬液の噴霧量の許容範囲を含み、範囲演算部(36)は、第1取得部(31)で取得された目標散布量と、薬液の噴霧量の許容範囲とに基づいて、薬液の噴霧量の許容範囲内において目標散布量で薬液を散布可能な車両(2)の速度範囲を演算し、供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量が、第2取得部(32)で取得された薬液の噴霧量の許容範囲内における最大の噴霧量よりも小さい場合、第1取得部(31)で取得された目標散布量と供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量とに基づいて、車両(2)の速度範囲の上限値を演算する。
【0009】
この散布作業機(1)において、範囲演算部(36)は、目標散布量とノズル特性とに基づいて、目標散布量で薬液を散布可能な車両(2)の速度範囲を演算することができる。表示部(22)は、演算された速度範囲を表示することにより、適切な動作範囲として車両(2)の適切な速度範囲を、作業者に対して通知することができる。これにより、作業者は、表示部(22)を確認することにより、適切な速度範囲を把握することができる。
また、範囲演算部(36)は、目標散布量と、薬液の噴霧量の許容範囲とに基づいて、車両(2)の速度範囲を演算することができる。この速度範囲内であれば噴霧ノズル(10)から噴霧される薬液の噴霧量を許容範囲内にできるため、噴霧ノズル(10)から薬液を適切に噴霧できる。
さらに、供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量が噴霧ノズル(10)の最大の噴霧量よりも小さい場合とは、噴霧ノズル(10)には噴霧の余力があるにも関わらず、ポンプ(6a)からの薬液の供給量が不足している場合である。この場合、範囲演算部(36)は、第1取得部(31)で取得された目標散布量と供給量演算部(35)で演算された薬液の供給量とに基づいて、車両(2)の速度範囲の上限値を演算する。これにより、ポンプ(6a)からの薬液の供給量も考慮して、車両(2)の速度範囲を演算することができる。
【0012】
散布作業機(1)は、車両(2)の速度を検出する速度検出部(5)を更に備え、表示部(22)は、速度検出部(5)で検出された車両の速度を、車両(2)の速度範囲と共に表示してもよい。この場合、作業者は、車両(2)の速度範囲に対して現在の車両(2)の速度がどのような状態であるかを把握することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業者に対して適切な動作範囲を通知できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る散布作業機の全体構成を示す図である。
図2図1の散布装置の配管系統図である。
図3】表示制御部周りの機能構成を示すブロック図である。
図4】表示部に表示される表示画像例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
図1に示されるように、本実施形態のスピードスプレーヤ(散布作業機)1は、例えば果樹園等の圃場に薬液を散布するための農作業機である。スピードスプレーヤ1は、走行部である車輪2aを有する車両2と、車両2に装着された薬液の散布装置3とを備える。車両2の前部には、作業者が着座する空間を形成するキャビン4が設けられている。車両2は、エンジンルーム6に搭載されるエンジンで発生した動力によって走行可能になっている。車両2を走行させるエンジンの回転数は、エンジン制御装置9によって制御される。車両2の走行速度は、キャビン4内の操作部に設けられたシフトレバー(図示せず)により設定可能になっている。車両2には、車両2の走行速度を検出するための速度センサ(速度検出部)5が設けられている。速度センサ5は、例えば、エンジンの動力を車輪2aに伝達する伝達部の回転数を検出する。
【0017】
散布装置3は、薬液を貯留するための薬液タンク7と、薬液タンク7内の薬液を噴霧ノズル10に供給して噴霧させる噴霧用ポンプ6a(図2参照)とを有する。車両2の中央部には薬液タンク7が装着されている。噴霧用ポンプ6aは、車両2を走行させるエンジンで発生した動力によって駆動される。
【0018】
車両2の最後部には、噴霧ノズル10から噴霧された薬液を所定の方向及び所定の範囲に送るための送風機8が装着されている。エンジンルーム6と送風機8との間には、複数の噴霧ノズル10が円弧状に配列されている。噴霧ノズル10は、一列の円弧状に配列されてもよいし、複数列の円弧状に配列されてもよい。
【0019】
図2は、散布装置3の配管系統図である。薬液タンク7には、給水ラインL1が接続されており、給水ラインL1に設けられた給水ポンプ11によって、薬液タンク7内に給水可能になっている。給水ポンプ11は、車両2を走行させるエンジンで発生した動力によって駆動される。給水ラインL1には、ストレーナ12が設けられている。薬液タンク7内には、撹拌装置が設けられてもよい。
【0020】
薬液タンク7には、噴霧ラインL2が接続されており、噴霧ラインL2に設けられた噴霧用ポンプ6aによって、調圧弁14、分水器15及びコック17を介して、各噴霧ノズル10から薬液を噴霧可能になっている。噴霧用ポンプ6aは、車両2を走行させるエンジンで発生した動力(回転力)を駆動源として、薬液を噴霧ノズル10に供給する。噴霧用ポンプ6aは、薬液タンク7から吸水ラインL4を通じて薬液を吸入する。吸水ラインL4には、ストレーナ13が設けられている。調圧弁14には三方コック16が設けられており、噴霧用ポンプ6aから送られた薬液の一部を、戻りラインL3を介して薬液タンク7に戻せるようになっている。調圧弁14は、噴霧ノズル10に供給される薬液の供給圧力を調整することができる。
【0021】
噴霧ノズル10は、通常同一種のものが使用されるが、複数種類用いることも可能である。使用される噴霧ノズル10の種類・個数、配列等は、薬液散布の目的や圃場等に応じて作業者によって決定される。
【0022】
ここで、散布装置3は、速度センサ5で検出された車両2の速度に応じて噴霧ノズル10に供給される薬液の供給圧力を自動で調節することにより、単位面積あたりの薬液の散布量が目標散布量となるように制御する速度連動散布制御を行っている。
【0023】
図1および図3に示されるように、スピードスプレーヤ1は、更に、表示制御部21、表示部22、及び入力部23を備えている。本実施形態においては、表示部22として、液晶ディスプレイが用いられる。表示部22は、表示制御部21に接続されており、表示制御部21で生成された画像を表示する。表示部22は、キャビン4内において、キャビン4内の作業者から視認可能な位置に設けられている。入力部23は、表示制御部21に接続されており、表示制御部21に情報を入力可能な例えばキーボード、タッチパネル又はスイッチ等である。入力部23は、キャビン4内において、作業者が操作可能な位置に設けられている。
【0024】
表示制御部21は、目標散布量で薬液を散布可能な車両2の速度範囲を演算し、演算した速度範囲を表示部22に表示させる。表示制御部21は、例えば、CPU[Central Processing Unit]、ROM[Read Only Memory]、RAM[Random Access Memory]、EEPROM[Electrically Erasable Programmable Read Only Memory]等を有する電子制御ユニットである。表示制御部21は、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、EEPROMに記憶されている数値等を用いてCPUで実行することで、処理を実行する。表示制御部21は、スピードスプレーヤ1の始動と共に処理を開始し、速度の範囲(上限値、下限値)の更新、及び速度範囲の表示を続ける。
【0025】
これらの表示制御部21、表示部22、及び入力部23は、本実施形態における目標散布量で薬液を散布可能な車両2の速度範囲を表示する処理のみに使用されるのではなく、他の処理も実行可能な構成であってもよい。また、表示制御部21、表示部22、及び入力部23は、一体であってもよく別体であってもよい。
【0026】
表示制御部21は、機能的には、散布量取得部(第1取得部)31、特性取得部(第2取得部)32、記憶部33、ポンプ回転数取得部34、供給量演算部35、範囲演算部36、及び画像生成部37を備えている。
【0027】
記憶部33は、ノズル特性、薬液の噴霧に使用される噴霧ノズル10の個数(n[個])、薬液の散布作業幅(W[m])、噴霧用ポンプ6aの一回転あたりの薬液の供給量(Q[L])、散布装置3によって散布する薬液の単位面積あたりの目標散布量(S[L/m])を記憶している。記憶部33は、例えば、EEPROMによって構成されていてもよい。作業者は、記憶部33が記憶するこれらの値を、入力部23を通じて入力したり変更したりすることができる。
【0028】
記憶部33が記憶するノズル特性とは、噴霧ノズル10における噴霧に関する特性である。ノズル特性は、噴霧ノズル10における薬液の供給圧力と噴霧量との相関と、噴霧ノズル10に対して予め設定された薬液の供給圧力の許容範囲(Pmax/Pmin[MPa])とを含んでいる。ここで、噴霧ノズル10の1個あたりの噴霧量qは、噴霧ノズル10に供給される薬液の供給圧力をpとしたときに、次の式(1)によって求めることができる。
【数1】

【0029】
式(1)における定数(a)、(b)及び(c)は、噴霧ノズル10ごとに予め設定された値である。このように定数(a)、(b)及び(c)、式(1)より、薬液の供給圧力から噴霧量を演算できる。記憶部33は、供給圧力pから噴霧量qを演算するために用いられる定数(a)、(b)及び(c)を、薬液の供給圧力と噴霧量との相関として記憶している。噴霧ノズル10に対して予め設定された薬液の供給圧力の許容範囲とは、噴霧ノズル10ごとに設定されており、正常な噴霧が可能な推奨される供給圧力の範囲である。
【0030】
薬液の散布作業幅とは、車両2を走行させながら散布装置3によって散布する薬液の散布幅である。噴霧用ポンプ6aの一回転あたりの薬液の供給量とは、一回転あたりに噴霧用ポンプ6aが吐出し、噴霧ノズル10に供給する薬液の量である。
【0031】
散布量取得部31は、記憶部33から、薬液の単位面積当たりの目標散布量を取得する。特性取得部32は、記憶部33から、ノズル特性を取得する。詳細には、特性取得部32は、薬液の供給圧力と噴霧量との相関としての定数(a)、(b)及び(c)と、薬液の供給圧力の許容範囲とを取得する。
【0032】
ポンプ回転数取得部34は、噴霧用ポンプ6aの回転数を取得する。ここで、噴霧用ポンプ6aは、車両2のエンジンによって駆動されている。すなわち、噴霧用ポンプ6aの回転数は、車両2のエンジンの回転数より求めることができる。このため、本実施形態においてポンプ回転数取得部34は、車両2のエンジンの回転数を制御するエンジン制御装置9からエンジン回転数を取得し、エンジン回転数より噴霧用ポンプ6aの回転数を求める。なお、ポンプ回転数取得部34は、噴霧用ポンプ6aの回転数を検出する回転数センサ等の検出結果に基づいて、噴霧用ポンプ6aの回転数を直接取得してもよい。
【0033】
供給量演算部35は、現在の噴霧用ポンプ6aの作動状態において噴霧ノズル10全体に供給される薬液の最大の供給量を演算する。具体的には、供給量演算部35は、ポンプ回転数取得部34で取得された噴霧用ポンプ6aの回転数(N[/min])と、記憶部33が記憶する噴霧用ポンプ6aの一回転あたりの薬液の供給量(Q)と、次の式(2)とに基づいて、噴霧ノズル10全体に供給される薬液の最大の供給量(Qmax1)を演算する。
【数2】

【0034】
範囲演算部36は、散布量取得部31で取得された目標散布量と、特性取得部32で取得されたノズル特性(薬液の供給圧力と噴霧量との相関としての定数(a)、(b)及び(c)、薬液の供給圧力の許容範囲)とに基づいて、薬液の供給圧力の許容範囲内において目標散布量で薬液を散布可能な車両2の速度範囲(上限値、下限値)を演算する。
【0035】
詳細には、範囲演算部36は、噴霧ノズル10全体から噴霧される薬液の最大噴霧量(Qmax)を演算する。最大噴霧量(Qmax)を求めるため、まず、範囲演算部36は、噴霧ノズル10に対して予め設定された薬液の供給圧力の許容範囲内における最大の噴霧量(Qmax2)を演算する。具体的には、範囲演算部36は、最大の噴霧量(Qmax2)を、記憶部33が記憶する薬液の供給圧力の許容範囲の最大値(Pmax)及び噴霧ノズル10の個数(n)と、式(1)と、次の式(3)とに基づいて演算する。
【数3】

【0036】
次に、範囲演算部36は、演算した最大の噴霧量(Qmax2)と、供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)とを比較し、値が小さい方を噴霧ノズル10全体から噴霧される薬液の最大噴霧量(Qmax)として用いる。
【0037】
また、範囲演算部36は、噴霧ノズル10に対して予め設定された薬液の供給圧力の許容範囲の最小値に基づいて得られる最小噴霧量(Qmin)を演算する。具体的には、範囲演算部36は、最小噴霧量(Qmin)を、記憶部33が記憶する薬液の供給圧力の許容範囲の最小値(Pmin)及び噴霧ノズル10の個数(n)と、式(1)と、次の式(4)とに基づいて演算する。
【数4】

【0038】
ここで、任意の噴霧量(Q)によって、単位面積あたりの目標散布量を実現するための車両2の速度(V)は、次の式(5)に基づいて演算することができる。なお、範囲演算部36は、式(5)における目標散布量(S)及び散布作業幅(W)として、記憶部33に記憶された値を用いる。
【数5】

【0039】
すなわち、噴霧ノズル10の最大噴霧量(Qmax)によって、単位面積あたりの目標散布量を実現するための車両2の速度の最大値(Vmax)は、次の式(6)に基づいて演算することができる。同様に、噴霧ノズル10の最小噴霧量(Qmin)によって、単位面積あたりの目標散布量を実現するための車両2の速度の最小値(Vmin)は、次の式(7)に基づいて演算することができる。範囲演算部36は、式(6)及び式(7)に基づいて、車両2の速度範囲の上限値及び下限値をそれぞれ演算する。
【数6】

【0040】
このように、供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)が、薬液の供給圧力の許容範囲に基づいて演算された最大の噴霧量(Qmax2)よりも小さい場合、範囲演算部36は、最大の供給量(Qmax1)を最大噴霧量(Qmax)として用いる。このため、最大の供給量(Qmax1)が最大の噴霧量(Qmax2)よりも小さい場合、範囲演算部36は、式(6)を用いて、目標散布量と、供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)とに基づいて、車両2の速度範囲の上限値を演算する。一方、薬液の供給圧力の許容範囲に基づいて演算された最大の噴霧量(Qmax2)が、供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)よりも小さい場合、範囲演算部36は、最大の噴霧量(Qmax2)を最大噴霧量(Qmax)として用いる。このため、最大の噴霧量(Qmax2)が最大の供給量(Qmax1)よりも小さい場合、範囲演算部36は、式(6)を用いて、目標散布量と、式(3)より得られる最大の噴霧量(Qmax2)とに基づいて、車両2の速度範囲の上限値を演算する。
【0041】
画像生成部37は、範囲演算部36で演算された車両2の速度範囲を示す画像を生成し、生成した画像を表示部22に表示させる。車両2の速度範囲を示す画像とは、演算された車両2の速度範囲を作業者が把握することができる画像である。例えば、画像生成部37は、範囲演算部36で演算された速度範囲がどの範囲であるかが容易に把握できるように、この速度範囲を強調して示す画像を生成する。
【0042】
具体例として、画像生成部37は、図4に示す表示画像例のように、速度を示す円形の指示器Xの画像を生成する。この場合、画像生成部37は、矢印Aで示す部分のように、範囲演算部36で演算された速度範囲を強調するために、この速度範囲の盤面の色が他の領域と異なる色で表示された画像を生成する。また、画像生成部37は、速度センサ5で検出された車両2の速度を示す指針Bを、速度範囲と共に表示するための画像を生成する。
【0043】
目標散布量、使用するノズル、及び散布幅等、作業者が入力部23を通じて薬液の散布の作業条件を変更すると、範囲演算部36は、変更された作業条件に応じた車両2の速度範囲を演算する。画像生成部37は、変更された作業条件に応じた車両2の速度範囲等を示す画像を生成し、生成した画像を表示部22に表示させる。これにより、作業条件が変更された場合に、変更された作業条件に応じた速度範囲が直ちに表示される。また、画像生成部37は、速度センサ5によって検出される速度の変化に応じて、指針Bが示す速度を変化させる。これにより、現在の車両2の速度が表示部22に表示される。
【0044】
本実施形態は以上のように構成され、スピードスプレーヤ1において、範囲演算部36は、目標散布量とノズル特性とに基づいて、目標散布量で薬液を散布可能な車両2の速度範囲を演算する。表示部22は、演算された速度範囲を表示する。このように、表示部22が速度範囲を表示することにより、スピードスプレーヤ1は、適切な動作範囲としての車両の適切な速度範囲を、作業者に対して通知することができる。これにより、作業者は、表示部22を確認することにより、適切な速度範囲を把握することができる。
【0045】
範囲演算部36は、目標散布量と、薬液の供給圧力と噴霧量との相関と、薬液の供給圧力の許容範囲とに基づいて、車両2の速度範囲を演算する。この速度範囲内であれば噴霧ノズル10に供給される薬液の供給圧力を許容範囲内にできるため、噴霧ノズル10から薬液を適切に噴霧できる。
【0046】
範囲演算部36は、供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)が、薬液の供給圧力の許容範囲に基づいて演算された最大の噴霧量(Qmax2)よりも小さい場合、最大の供給量(Qmax1)を最大噴霧量(Qmax)として用いる。ここで、供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)が噴霧ノズル10の最大の噴霧量(Qmax2)よりも小さい場合とは、噴霧ノズル10には噴霧の余力があるにも関わらず、噴霧用ポンプ6aからの薬液の供給量が不足している場合である。この場合、範囲演算部36は、目標散布量と供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)とに基づいて、車両2の速度範囲の上限値を演算する。これにより、噴霧用ポンプ6aからの薬液の供給量も考慮して、車両2の速度範囲を演算することができる。
【0047】
表示部22は、速度センサ5で検出された車両2の速度を、車両2の速度範囲と共に表示する。この場合、作業者は、車両2の適切な速度範囲に対して現在の車両2の速度がどのような状態であるかを把握することができる。
【0048】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、表示部22は、範囲演算部36で演算された車両2の速度範囲を示すことができれば、液晶ディスプレイ以外の機器であってもよい。例えば、表示部22は、盤面の目盛部分に液晶ディスプレイ又はLEDアレイ等の表示素子を備える指示器であってもよい。この場合、表示部22は、盤面の目盛部分に設けられた液晶ディスプレイ又はLEDアレイ等によって、範囲演算部36で演算された車両2の速度範囲を強調して表示してもよい。
【0049】
実施形態において範囲演算部36は、ノズル特性として薬液の供給圧力の許容範囲を用いたが、薬液の供給圧力の許容範囲に代えて、噴霧ノズル10に対して予め設定された薬液の噴霧量の許容範囲を用いて、車両2の速度範囲を演算してもよい。噴霧ノズル10に対して予め設定された薬液の噴霧量の許容範囲とは、噴霧ノズル10ごとに設定されており、正常な噴霧が可能な推奨される噴霧量の範囲である。この場合、記憶部33は、薬液の供給圧力の許容範囲に代えて、薬液の噴霧量の許容範囲を記憶している。範囲演算部36は、散布量取得部31で取得された目標散布量と、特性取得部32で取得されたノズル特性(薬液の噴霧量の許容範囲)とに基づいて、薬液の噴霧量の許容範囲内において目標散布量で薬液を散布可能な車両2の速度範囲(上限値、下限値)を演算する。
【0050】
さらに、範囲演算部36は、供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)が、噴霧ノズル10に設定された薬液の噴霧量の許容範囲内において噴霧ノズル10全体での最大の噴霧量よりも小さい場合、目標散布量と供給量演算部35で演算された薬液の最大の供給量(Qmax1)とに基づいて、車両2の速度範囲の上限値を演算する。このように、範囲演算部36は、薬液の噴霧量の許容範囲を用いる場合であっても、車両2の速度範囲を演算することができる。この速度範囲内であれば噴霧ノズル10から噴霧される薬液の噴霧量を許容範囲内にできるため、噴霧ノズル10から薬液を適切に噴霧できる。また、実施形態と同様に、範囲演算部36は、噴霧用ポンプ6aからの薬液の供給量も考慮して、車両2の速度範囲を演算することができる。
【0051】
散布装置3は、車両2の速度に応じて噴霧ノズル10に供給される薬液の供給圧力を自動で調節して薬液の散布量を制御する速度連動散布制御を行うことに限定されない。例えば、散布装置3は、薬液の供給圧力を作業者が手動で設定する構成であってもよい。この場合、範囲演算部36は、作業者によって設定された供給圧力で噴霧ノズル10から薬液を噴霧する場合に目標散布量を実現可能な車両2の速度を演算する。画像生成部37は、実施形態で説明した速度範囲等と共に、範囲演算部36で演算された速度を表示部22に表示させてもよい。
【0052】
実施形態において、表示制御部21は、目標散布量で薬液を散布可能な車両2の速度範囲を表示部22に表示させたが、速度範囲以外の表示を行ってもよい。例えば、表示制御部21は、エンジン回転数から演算される噴霧用ポンプ6aの給水量の範囲、送風機8の風量の範囲、噴霧ノズル10に供給される薬液の供給圧力の範囲等の表示を行ってもよい。
【0053】
また、本発明は、噴霧ノズルを備える散布装置が搭載された散布作業機であれば、スピードスプレーヤ1以外の散布作業機にも適用可能であり、例えば、ブームスプレーヤ等に適用可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…スピードスプレーヤ(散布作業機)、2…車両、3…散布装置、5…速度センサ(速度検出部)、6a…噴霧用ポンプ(ポンプ)、10…噴霧ノズル、22…表示部、31…散布量取得部(第1取得部)、32…特性取得部(第2取得部)、35…供給量演算部、36…範囲演算部。
図1
図2
図3
図4