(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ウエブ材料の巻出機または巻取機の巻軸の一端に接続された第1モータを、第1制限トルクを超えない範囲で生成した第1内部指令トルクに基づいて駆動させる第1インバータと、前記巻軸の他端に接続された第2モータを、第2制限トルクを超えない範囲で生成した第2内部指令トルクに基づいて駆動させる第2インバータとを制御し、前記ウエブ材料のライン速度を基準速度から増速または減速させて、基準位置から変位したダンサーロールを前記基準位置に戻すダンサー制御装置であって、
前記ダンサーロールが前記基準位置にある場合に前記ウエブ材料に生じる張力を一定に保つための張力分トルクを算出する張力分トルク算出部と、
前記第1モータと前記巻軸間に生じる第1メカロス分トルクと、前記第2モータと前記巻軸間に生じる第2メカロス分トルクとを算出するメカロス分トルク算出部と、
前記ライン速度の増速時または減速時に生じる慣性分トルクを算出する慣性分トルク算出部と、
前記張力分トルク以下の第1張力分トルクと、前記第1メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さい第1慣性分トルクとを加算して第1合成トルクを算出し、前記第1インバータが前記第1合成トルクを前記第1制限トルクとして設定するための第1トルク制限指令を出力する第1トルク制限指令部と、
前記張力分トルク以下で、かつ前記第1張力分トルクとの合成トルクが前記張力分トルクよりも大きい第2張力分トルクと、前記第2メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さく、かつ前記第1慣性分トルクとの合成トルクが前記慣性分トルクとなる第2慣性分トルクとを加算して第2合成トルクを算出し、前記第2インバータが前記第2合成トルクを前記第2制限トルクとして設定するための第2トルク制限指令を出力する第2トルク制限指令部と、を備えた
ことを特徴とするダンサー制御装置。
前記第1メカロス分トルクと前記第1慣性分トルクとを加算して第1補償トルクを算出し、前記第1インバータに前記第1補償トルクを含む前記第1内部指令トルクを生成させるための第1トルク補償指令を出力する第1トルク補償指令部と、
前記第2メカロス分トルクと前記第2慣性分トルクとを加算して第2補償トルクを算出し、前記第2インバータに前記第2補償トルクを含む前記第2内部指令トルクを生成させるための第2トルク補償指令を出力する第2トルク補償指令部と、をさらに備えた
ことを特徴とする請求項1に記載のダンサー制御装置。
ウエブ材料の巻出機または巻取機の巻軸の一端に接続された第1モータを、第1制限トルクを超えない範囲で生成した第1内部指令トルクに基づいて駆動させる第1インバータと、前記巻軸の他端に接続された第2モータを、第2制限トルクを超えない範囲で生成した第2内部指令トルクに基づいて駆動させる第2インバータとを制御し、前記ウエブ材料のライン速度を基準速度から増速または減速させて、基準位置から変位したダンサーロールを前記基準位置に戻すためのダンサー制御プログラムであって、コンピュータに、
前記ダンサーロールが前記基準位置にある場合に前記ウエブ材料に生じる張力を一定に保つための張力分トルクを算出する張力分トルク算出処理と、
前記第1モータと前記巻軸間に生じる第1メカロス分トルクと、前記第2モータと前記巻軸間に生じる第2メカロス分トルクとを算出するメカロス分トルク算出処理と、
前記ライン速度の増速時または減速時に生じる慣性分トルクを算出する慣性分トルク算出処理と、
前記張力分トルク以下の第1張力分トルクと、前記第1メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さい第1慣性分トルクとを加算して第1合成トルクを算出し、前記第1インバータが前記第1合成トルクを前記第1制限トルクとして設定するための第1トルク制限指令を出力する第1トルク制限指令処理と、
前記張力分トルク以下で、かつ前記第1張力分トルクとの合成トルクが前記張力分トルクよりも大きい第2張力分トルクと、前記第2メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さく、かつ前記第1慣性分トルクとの合成トルクが前記慣性分トルクとなる第2慣性分トルクとを加算して第2合成トルクを算出し、前記第2インバータが前記第2合成トルクを前記第2制限トルクとして設定するための第2トルク制限指令を出力する第2トルク制限指令処理と、を実行させる
ことを特徴とするダンサー制御プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、1台のモータで巻取機を駆動させるには過大なトルクが必要になることから、巻取機の両端にそれぞれモータを接続し、2台のモータで巻取機を駆動させることが考えられる。この構成において、2台のモータを同時に回転させた場合、各モータのトルクは、1台のモータで巻取機を駆動させたときの1/2になる。
【0005】
しかしながら、実際の制御では、2台のモータが同一の構成・仕様であっても両者の間で回転の遅れが生じることがあり、その場合、モータ同士が互いに反発してしまうおそれがある。例えば、各モータの制限トルクが150%トルクで、かつ巻取機の回転に必要なトルクが30%トルクの場合、2台のモータ間で回転の遅れが生じると、30%トルクを発生させるために、一方のモータが150%トルクを発生させ、他方のモータが−120%トルクを発生させることがある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、モータ同士が互いに反発してしまうのを防ぐことが可能なダンサー制御装置、ダンサー制御プログラムおよびスリッター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るダンサー制御装置は、
ウエブ材料の巻出機または巻取機の巻軸の一端に接続された第1モータを、第1制限トルクを超えない範囲で生成した第1内部指令トルクに基づいて駆動させる第1インバータと、前記巻軸の他端に接続された第2モータを、第2制限トルクを超えない範囲で生成した第2内部指令トルクに基づいて駆動させる第2インバータとを制御し、前記ウエブ材料のライン速度を基準速度から増速または減速させて、基準位置から変位したダンサーロールを前記基準位置に戻すダンサー制御装置であって、
前記ダンサーロールが前記基準位置にある場合に前記ウエブ材料に生じる張力を一定に保つための張力分トルクを算出する張力分トルク算出部と、
前記第1モータと前記巻軸間に生じる第1メカロス分トルクと、前記第2モータと前記巻軸間に生じる第2メカロス分トルクとを算出するメカロス分トルク算出部と、
前記ライン速度の増速時または減速時に生じる慣性分トルクを算出する慣性分トルク算出部と、
前記張力分トルク以下の第1張力分トルクと、前記第1メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さい第1慣性分トルクとを加算して第1合成トルクを算出し、前記第1インバータが前記第1合成トルクを前記第1制限トルクとして設定するための第1トルク制限指令を出力する第1トルク制限指令部と、
前記張力分トルク以下で、かつ前記第1張力分トルクとの合成トルクが前記張力分トルクよりも大きい第2張力分トルクと、前記第2メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さく、かつ前記第1慣性分トルクとの合成トルクが前記慣性分トルクとなる第2慣性分トルクとを加算して第2合成トルクを算出し、前記第2インバータが前記第2合成トルクを前記第2制限トルクとして設定するための第2トルク制限指令を出力する第2トルク制限指令部と、を備えた
ことを特徴とする。
【0008】
上記ダンサー制御装置は、
前記第1メカロス分トルクと前記第1慣性分トルクとを加算して第1補償トルクを算出し、前記第1インバータに前記第1補償トルクを含む前記第1内部指令トルクを生成させるための第1トルク補償指令を出力する第1トルク補償指令部と、
前記第2メカロス分トルクと前記第2慣性分トルクとを加算して第2補償トルクを算出し、前記第2インバータに前記第2補償トルクを含む前記第2内部指令トルクを生成させるための第2トルク補償指令を出力する第2トルク補償指令部と、をさらに備えた
ことが好ましい。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るダンサー制御プログラムは、
ウエブ材料の巻出機または巻取機の巻軸の一端に接続された第1モータを、第1制限トルクを超えない範囲で生成した第1内部指令トルクに基づいて駆動させる第1インバータと、前記巻軸の他端に接続された第2モータを、第2制限トルクを超えない範囲で生成した第2内部指令トルクに基づいて駆動させる第2インバータとを制御し、前記ウエブ材料のライン速度を基準速度から増速または減速させて、基準位置から変位したダンサーロールを前記基準位置に戻すためのダンサー制御プログラムであって、コンピュータに、
前記ダンサーロールが前記基準位置にある場合に前記ウエブ材料に生じる張力を一定に保つための張力分トルクを算出する張力分トルク算出処理と、
前記第1モータと前記巻軸間に生じる第1メカロス分トルクと、前記第2モータと前記巻軸間に生じる第2メカロス分トルクとを算出するメカロス分トルク算出処理と、
前記ライン速度の増速時または減速時に生じる慣性分トルクを算出する慣性分トルク算出処理と、
前記張力分トルク以下の第1張力分トルクと、前記第1メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さい第1慣性分トルクとを加算して第1合成トルクを算出し、前記第1インバータが前記第1合成トルクを前記第1制限トルクとして設定するための第1トルク制限指令を出力する第1トルク制限指令処理と、
前記張力分トルク以下で、かつ前記第1張力分トルクとの合成トルクが前記張力分トルクよりも大きい第2張力分トルクと、前記第2メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さく、かつ前記第1慣性分トルクとの合成トルクが前記慣性分トルクとなる第2慣性分トルクとを加算して第2合成トルクを算出し、前記第2インバータが前記第2合成トルクを前記第2制限トルクとして設定するための第2トルク制限指令を出力する第2トルク制限指令処理と、を実行させる
ことを特徴とする。
【0010】
上記ダンサー制御プログラムは、
前記コンピュータに、
前記第1メカロス分トルクと前記第1慣性分トルクとを加算して第1補償トルクを算出し、前記第1インバータに前記第1補償トルクを含む前記第1内部指令トルクを生成させるための第1トルク補償指令を出力する第1トルク補償指令処理と、
前記第2メカロス分トルクと前記第2慣性分トルクとを加算して第2補償トルクを算出し、前記第2インバータに前記第2補償トルクを含む前記第2内部指令トルクを生成させるための第2トルク補償指令を出力する第2トルク補償指令処理と、をさらに実行させる
ことが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るスリッター装置は、
ウエブ材料の巻出機と、
前記ウエブ材料の巻取機と、
前記巻出機と前記巻取機との間で前記ウエブ材料を切断するスリッターナイフと、
前記ウエブ材料に張力を付与するダンサーロールと、
前記巻出機または前記巻取機の巻軸の一端に接続された第1モータと、
前記巻軸の他端に接続された第2モータと、
第1制限トルクを超えない範囲で生成した第1内部指令トルクに基づいて前記第1モータを駆動させる第1インバータと、
第2制限トルクを超えない範囲で生成した第2内部指令トルクに基づいて前記第2モータを駆動させる第2インバータと、
前記第1インバータおよび前記第2インバータを制御し、前記ウエブ材料のライン速度を基準速度から増速または減速させて、基準位置から変位した前記ダンサーロールを前記基準位置に戻すダンサー制御を行うダンサー制御装置と、
を備えたスリッター装置であって、
前記ダンサー制御装置は、
前記ダンサーロールが前記基準位置にある場合に前記ウエブ材料に生じる張力を一定に保つための張力分トルクを算出する張力分トルク算出部と、
前記第1モータと前記巻軸間に生じる第1メカロス分トルクと、前記第2モータと前記巻軸間に生じる第2メカロス分トルクとを算出するメカロス分トルク算出部と、
前記ライン速度の増速時または減速時に生じる慣性分トルクを算出する慣性分トルク算出部と、
前記張力分トルク以下の第1張力分トルクと、前記第1メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さい第1慣性分トルクとを加算して第1合成トルクを算出し、前記第1インバータが前記第1合成トルクを前記第1制限トルクとして設定するための第1トルク制限指令を出力する第1トルク制限指令部と、
前記張力分トルク以下で、かつ前記第1張力分トルクとの合成トルクが前記張力分トルクよりも大きい第2張力分トルクと、前記第2メカロス分トルクと、前記慣性分トルクよりも小さく、かつ前記第1慣性分トルクとの合成トルクが前記慣性分トルクとなる第2慣性分トルクとを加算して第2合成トルクを算出し、前記第2インバータが前記第2合成トルクを前記第2制限トルクとして設定するための第2トルク制限指令を出力する第2トルク制限指令部と、を備えた
ことを特徴とする。
【0012】
上記スリッター装置では、
前記ダンサー制御装置は、
前記第1メカロス分トルクと前記第1慣性分トルクとを加算して第1補償トルクを算出し、前記第1インバータに前記第1補償トルクを含む前記第1内部指令トルクを生成させるための第1トルク補償指令を出力する第1トルク補償指令部と、
前記第2メカロス分トルクと前記第2慣性分トルクとを加算して第2補償トルクを算出し、前記第2インバータに前記第2補償トルクを含む前記第2内部指令トルクを生成させるための第2トルク補償指令を出力する第2トルク補償指令部と、をさらに備えた
ことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、モータ同士が互いに反発してしまうのを防ぐことが可能なダンサー制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るダンサー制御装置、ダンサー制御プログラムおよびスリッター装置の実施形態について説明する。
【0016】
[スリッター装置]
図1に、本実施形態に係るスリッター装置100を示す。スリッター装置100は、巻出機101と、巻取機102a,102bと、上下一対のスリッターナイフ103と、ダンサーロール104とを備える。スリッター装置100では、巻出機101から基準速度で巻き出された紙、フィルム、アルミ箔等のウエブ材料Wが、スリッターナイフ103により切断され、巻取機102a,102bで巻き取られる。
【0017】
ダンサーロール104は、予め規定された基準位置を中心に左右方向に揺動可能に構成されており、ダンサーロール104を揺動可能に支持するアームに設けられたエアーシリンダの圧力に応じて、ウエブ材料Wに張力を付与する。ダンサーロール104が基準位置よりも左側に揺動した場合、ウエブ材料Wのライン速度を予め規定された基準速度から増速させることでダンサーロール104を基準位置に戻すことができる。一方、ダンサーロール104が基準位置よりも右側に揺動した場合、ウエブ材料Wのライン速度を基準速度から減速させることでダンサーロール104を基準位置に戻すことができる。ダンサーロール104の基準位置からの変位量は、エンコーダ等の検出手段110により検出することができる(
図2参照)。なお、ダンサーロール104を基準位置に固定した状態にしておくこともできる。
【0018】
図2に示すように、スリッター装置100は、巻出機101の巻軸の一端にギア等を介して接続された第1モータ105と、上記巻軸の他端にギア等を介して接続された第2モータ106と、第1モータ105を駆動させる第1インバータ107と、第2モータ106を駆動させる第2インバータ108と、第1インバータ107および第2インバータ108に共通の速度指令を出力する速度指令部109と、ダンサーロール104の基準位置からの変位量を検出する検出手段110と、第1モータ105の回転数を検出するエンコーダ等の検出手段111と、第2モータ106の回転数を検出するエンコーダ等の検出手段112と、本実施形態に係るダンサー制御装置1とを備える。第1モータ105と第2モータ106は、同一の構成・仕様の電動機である。
【0019】
詳細は後述するが、ダンサー制御装置1は、第1インバータ107および第2インバータ108を制御し、ウエブ材料Wのライン速度を基準速度から増速または減速させて、基準位置から変位したダンサーロール104を基準位置に戻す制御(以下、「ダンサー制御」という。)と、ダンサーロール104を基準位置に固定した状態で、第1インバータ107および第2インバータ108に第1トルク指令および第2トルク指令を出力する制御(以下、「トルク制御」という。)とを、選択的に行う。
【0020】
速度指令部109は、例えばマイコンにより構成され、検出手段110で検出されたダンサーロール104の変位量に応じて、第1モータ105および第2モータ106の回転速度に関する速度指令を生成する。ダンサーロール104が基準位置にある場合、速度指令の指令値は、基準速度に対応した値(例えば、回転数)になる。ダンサーロール104が基準位置から右側または左側に揺動した場合、速度指令の指令値は、上記基準速度に対応した値をダンサーロール104の変位量に応じて補正した値(例えば、回転数)となる。速度指令は、第1インバータ107および第2インバータ108に出力される。なお、本実施形態では速度指令部109とダンサー制御装置1を別々に配置しているが、ダンサー制御装置1が、速度指令部109を含んでいてもよい。
【0021】
図3に示すように、第1インバータ107と第2インバータ108は、同一の構成であり、それぞれ速度制御器(ASR)120,130と、優先回路121,131と、速度制限回路122,132と、リミット回路123,133と、制御信号生成回路124,134と、スイッチ回路125,135とを備える。
【0022】
速度制御器120は、速度指令の指令値と検出手段111からの第1速度フィードバック値とでPI制御を行い、その偏差を電流指令トルクとして優先回路121に出力する。同様に、速度制御器130は、速度指令の指令値と検出手段112からの第2速度フィードバック値とでPI制御を行い、その偏差を電流指令トルクとして優先回路131に出力する。
【0023】
優先回路121は、入力された電流指令トルクと第1トルク指令の指令トルクとを比較し、値が低い方を出力する。同様に、優先回路131は、入力された電流指令トルクと第2トルク指令の指令トルクとを比較し、値が低い方を出力する。ダンサー制御時は、第1トルク指令および第2トルク指令の指令トルクが最大トルク(本実施形態では、150%トルク)となるので、優先回路121,131は、常に速度制御器120,130からの電流指令トルクを出力する。
【0024】
速度制限回路122,132は、第1速度フィードバック値、第2速度フィードバック値が所定の閾値を超えた場合(例えば、ウエブ材料Wが破断したことにより第1モータ105および第2モータ106の回転速度が急上昇した場合)に、閾値を超えた分に比例したトルクを算出し、抑制トルクとして出力する。
【0025】
リミット回路123は、優先回路121からのトルクと、速度制限回路122からの抑制トルクと、第1トルク補償指令の第1補償トルクとの合成トルクを第1制限トルクと比較し、上記合成トルクが第1制限トルクを超える場合、第1制限トルクを第1内部指令トルクとして出力する一方、上記合成トルクが第1制限トルク以下の場合、上記合成トルクを第1内部指令トルクとして出力する。
【0026】
リミット回路133は、優先回路131からのトルクと、速度制限回路132からの抑制トルクと、第2トルク補償指令の第2補償トルクとの合成トルクを第2制限トルクと比較し、上記合成トルクが第2制限トルクを超える場合、第2制限トルクを第2内部指令トルクとして出力する一方、上記合成トルクが第2制限トルク以下の場合、上記合成トルクを第2内部指令トルクとして出力する。
【0027】
リミット回路123の第1制限トルクは、デフォルトで150%トルク(第1モータ105および第2モータ106の定格トルクを100%トルクとする。)に設定されているが、第1トルク制限指令が入力された場合、第1トルク制限指令のトルクに変更される。同様に、リミット回路133の第2制限トルクは、デフォルトで150%トルクに設定されているが、第2トルク制限指令が入力された場合、第2トルク制限指令のトルクに変更される。
【0028】
制御信号生成回路124は、入力された第1内部指令トルクに基づいてスイッチ回路125のスイッチを制御するための制御信号(例えば、PWM信号)生成し、出力する。同様に、制御信号生成回路134は、入力された第2内部指令トルクに基づいてスイッチ回路135のスイッチを制御するための制御信号(例えば、PWM信号)生成し、出力する。
【0029】
スイッチ回路125は、トランジスタやIGBT等の複数のスイッチで構成され、入力された制御信号に応じてスイッチング動作を行い、制御信号に応じた電流または電圧を第1モータ105に供給する。同様に、スイッチ回路135は、トランジスタやIGBT等の複数のスイッチで構成され、入力された制御信号に応じてスイッチング動作を行い、制御信号に応じた電流または電圧を第2モータ106に供給する。
【0030】
[ダンサー制御装置]
図2に示すように、本実施形態に係るダンサー制御装置1は、外部と有線または無線で通信を行う通信部1aと、演算処理および各種指令の生成を行う処理部1bと、各種データおよびプログラム等が格納された記憶部1cと、ディスプレイ等を含む表示部1dと、キーボードやマウス等を含む入力部1eとを備える。なお、表示部1dおよび入力部1eは、少なくとも一方を省略することができる。
【0031】
図4に示すように、処理部1bは、張力分トルク算出部2と、本発明の「メカロス分トルク算出部」に相当する第1メカロス分トルク算出部3aおよび第2メカロス分トルク算出部3bと、本発明の「慣性分トルク算出部」に相当する第1慣性分トルク算出部4aおよび第2慣性分トルク算出部4bと、判定部J1〜J6と、演算部C1〜C8とを備えている。これらは、例えば、ダンサー制御プログラムを含むソフトウェアにより構成される。なお、
図4において、ダンサー制御時は判定部J1〜J6を示すスイッチ記号がon状態になり、トルク制御時は上記スイッチ記号がoff状態になる。
【0032】
判定部J1および演算部C1,C2は、第1張力分トルク算出部2aを構成する。判定部J4および演算部C5,C6は、第2張力分トルク算出部2bを構成する。演算部C3は、第1トルク補償指令部5を構成する。演算部C4および判定部J3は、第1トルク制限指令部6を構成する。判定部J2は、第1トルク指令部7を構成する。演算部C7は、第2トルク補償指令部8を構成する。演算部C8および判定部J6は、第2トルク制限指令部9を構成する。判定部J5は、第2トルク指令部10を構成する。
【0033】
張力分トルク算出部2は、ダンサーロール104が基準位置にある場合にウエブ材料Wに生じる張力(例えば、100[N])を一定に保つために必要なトルクを、言い換えれば、基準位置にあるダンサーロール104がウエブ材料Wに付与する張力(例えば、200[N])を一定に保つために必要なトルクを、張力分トルクM
REFとして算出する。具体的には、張力分トルク算出部2は、下記の式に基づいて張力分トルクM
REFを算出する。
M
REF=F
SET×K×D/2
【0034】
ここで、F
SETは、オペレータが入力部1eにおいて設定した設定張力[N]である。オペレータは、基準位置にあるダンサーロール104がウエブ材料Wに付与する張力、ウエブ材料Wのライン速度(基準速度)等に応じて、設定張力F
SETを設定する。Kは、オペレータが入力部1eにおいて設定した各種補正係数(比率)であり、ウエブ材料Wの種類やスリッター装置100の構成によって異なる値になる。Dは、巻出機101の巻軸に巻かれているウエブ材料Wの巻径[Φm]であり、ダンサー制御時に当該巻径を検出する検出手段から入力される。
【0035】
第1張力分トルク算出部2aは、張力分トルクM
REFに基づいて、張力分トルクM
REF以下の第1張力分トルクを算出する。具体的には、第1張力分トルク算出部2aは、ダンサー制御時においては、張力分トルクM
REFを1で除算した値を第1張力分トルクとして算出し、トルク制御時においては、張力分トルクM
REFを2で除算した値を第1張力分トルクとして算出する。ダンサー制御時においては、張力分トルクM
REFと第1張力分トルクとが一致するので、演算部C1を省略してもよい。
【0036】
第2張力分トルク算出部2bは、張力分トルクM
REFに基づいて、張力分トルクM
REF以下の第2張力分トルクを算出する。具体的には、第2張力分トルク算出部2bは、ダンサー制御時およびトルク制御時の双方において、張力分トルクM
REFを2で除算した値を第2張力分トルクとして算出する。このため、第2張力分トルク算出部2bでは、演算部C5,C6のいずれか一方と判定部J4とを省略してもよい。
【0037】
第1メカロス分トルク算出部3aは、摩擦等によって第1モータ105と巻出機101間に生じる機械的なトルク損失を、第1メカロス分トルクとして算出する。具体的には、第1メカロス分トルク算出部3aは、検出手段111から入力された第1モータ105の回転数と、予め記憶部1cに格納された第1モータ105の回転数と上記トルク損失の関係を示す第1データ(例えば、線形補間した関数)とに基づいて、第1メカロス分トルクを算出する。第1データは、ウエブ材料Wが巻かれていない巻出機101を第1モータ105のみで駆動し、第1モータ105の回転数を適宜増減させることにより生成される。
【0038】
第2メカロス分トルク算出部3bは、摩擦等によって第2モータ106と巻出機101間に生じる機械的なトルク損失を、第2メカロス分トルクとして算出する。具体的には、第2メカロス分トルク算出部3bは、検出手段112から入力された第2モータ106の回転数と、予め記憶部1cに格納された第2モータ106の回転数と上記トルク損失の関係を示す第2データ(例えば、線形補間した関数)とに基づいて、第2メカロス分トルクを算出する。第2データは、ウエブ材料Wが巻かれていない巻出機101を第2モータ106のみで駆動し、第2モータ106の回転数を適宜増減させることにより生成される。
【0039】
第1慣性分トルク算出部4aは、第1慣性分トルクM
1(本実施形態では、ライン速度の増速時または減速時に巻出機101で生じる慣性分トルクの1/2のトルク)を算出する。
【0040】
具体的には、第1慣性分トルク算出部4aは、最初に下記の式に基づいて慣性補償値GD
T2を算出する。
GD
T2=GD
2+GD
M2
GD
2=1/2×w×(D
2+d
2)
GD
M2=GD
2/i
2
ここで、wは、巻出機101に巻かれているウエブ材料Wの重量[kg]である。Dは、巻出機101に巻かれているウエブ材料Wの直径[Φm]であり、dは、巻出機101の巻軸の直径[Φm]である。iは、第1モータ105(第2モータ106)と巻軸間のギア比である。
【0041】
次いで、第1慣性分トルク算出部4aは、下記の式に基づいて第1慣性分トルクM
1を算出する。
M
1=1/2×GD
T2×1/375×dN/dT
ここで、dN/dTは、単位時間当たりの回転数の変化分、すなわち第1モータ105の加速度である。
【0042】
第2慣性分トルク算出部4bは、第1慣性分トルク算出部4aと同様に、慣性補償値GD
T2に基づいて第2慣性分トルクM
2を算出する。本実施形態では、第2慣性分トルクM
2は、慣性分トルクの1/2の値になる。
【0043】
第1トルク補償指令部5は、第1メカロス分トルクと第1慣性分トルクM
1とを加算した合成トルク(第1補償トルク)を、第1トルク制限指令部6に出力するとともに、第1トルク補償指令として第1インバータ107に出力する。
【0044】
第1トルク制限指令部6は、第1補償トルクと第1張力分トルクとを加算して第1合成トルクを算出し、ダンサー制御時においては、その第1合成トルクを第1トルク制限指令として第1インバータ107に出力し、トルク制御時においては、150%トルクを第1トルク制限指令として第1インバータ107に出力する。
【0045】
第1トルク指令部7は、ダンサー制御時においては、150%トルクを第1トルク指令として第1インバータ107に出力し、トルク制御時においては、第1張力分トルクを第1トルク指令として第1インバータ107に出力する。
【0046】
第2トルク補償指令部8は、第2メカロス分トルクと第2慣性分トルクM
2とを加算した合成トルク(第2補償トルク)を、第2トルク制限指令部9に出力するとともに、第2トルク補償指令として第2インバータ108に出力する。
【0047】
第2トルク制限指令部9は、第2補償トルクと第2張力分トルクとを加算して第2合成トルクを算出し、ダンサー制御時においては、その第2合成トルクを第2トルク制限指令として第2インバータ108に出力し、トルク制御時においては、150%トルクを第2トルク制限指令として第2インバータ108に出力する。
【0048】
第2トルク指令部10は、ダンサー制御時においては、150%トルクを第2トルク指令として第2インバータ108に出力し、トルク制御時においては、第2張力分トルクを第2トルク指令として第2インバータ108に出力する。
【0049】
結局、ダンサー制御装置1は、ダンサー制御時において、第1合成トルクを第1トルク制限指令として第1インバータ107に出力し、第2合成トルクを第2トルク制限指令として第2インバータ108に出力するので、第1インバータ107は、第1合成トルクを超えない範囲で生成した第1内部指令トルクに基づいて第1モータ105を駆動させ、第2インバータ108は、第2合成トルクを超えない範囲で生成した第2内部指令トルクに基づいて第2モータ106を駆動させる。
【0050】
例えば、変位したダンサーロール104を基準位置に戻しつつ、巻出機101の巻軸を回転させるのに必要なトルクが35%トルクの場合(ダンサーロール104を基準位置に戻すためのトルクを5%トルクとする。)、本実施形態では、第1モータ105の最大トルク(第1インバータ107の第1制限トルク)は約30%トルクになる一方、第2モータ106の最大トルク(第2インバータ108の第2制限トルク)は約15%トルクになり、いずれも35%トルク以下になる。したがって、本実施形態に係るダンサー制御装置1よれば、第1モータ105と第2モータ106間で回転の遅れが生じても、第1モータ105と第2モータ106とが互いに反発してしまうのを防ぐことができる。
【0051】
[ダンサー制御プログラム]
本実施形態に係るダンサー制御プログラムは、コンピュータにダンサー制御を実行させるためのプログラムである。具体的には、ダンサー制御プログラムは、張力分トルク算出処理と、メカロス分トルク算出処理と、慣性分トルク算出処理と、第1トルク制限指令処理と、第2トルク制限指令処理と、第1トルク補償指令処理と、第2トルク補償指令処理と、をコンピュータに実行させる。
【0052】
張力分トルク算出処理は、張力分トルク算出部2で実行される処理と同様である。メカロス分トルク算出処理は、第1メカロス分トルク算出部3aおよび第2メカロス分トルク算出部3bで実行される処理と同様である。慣性分トルク算出処理は、第1慣性分トルク算出部4aおよび第2慣性分トルク算出部4bで実行される処理と同様である。
【0053】
第1トルク制限指令処理は、トルク制御時の処理を除き、第1張力分トルク算出部2a、第1トルク補償指令部5および第1トルク制限指令部6で実行される処理と同様である。第2トルク制限指令処理は、トルク制御時の処理を除き、第2張力分トルク算出部2b、第2トルク補償指令部8および第2トルク制限指令部9で実行される処理と同様である。第1トルク補償指令処理および第2トルク補償指令処理は、第1トルク補償指令部5および第2トルク補償指令部8で実行される処理と同様である。
【0054】
したがって、本実施形態に係るダンサー制御プログラムよれば、第1モータ105と第2モータ106間で回転の遅れが生じても、第1モータ105と第2モータ106とが互いに反発してしまうのを防ぐことができる。
【0055】
以上、本発明に係るダンサー制御装置、ダンサー制御プログラムおよびスリッター装置の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0056】
例えば、上記実施形態のダンサー制御装置1は、巻出機101の巻軸に接続された第1モータ105および第2モータ106に対してダンサー制御を行うが、本発明に係るダンサー制御装置は、巻取機102aまたは巻取機102bの巻軸に接続された各2台のモータに対してもダンサー制御を行うことができる。
【0057】
張力分トルク算出部2および張力分トルク算出処理は、ダンサーロール104が基準位置にある場合にウエブ材料Wに生じる張力を一定に保つための張力分トルクを算出することができるのであれば、その構成および算出方法を適宜変更することができる。
【0058】
メカロス分トルク算出部3a,3bおよびメカロス分トルク算出処理は、第1メカロス分トルクおよび第2メカロス分トルクを算出することができるのであれば、その構成および算出方法を適宜変更することができる。
【0059】
慣性分トルク算出部4a,4bおよび慣性分トルク算出処理は、慣性分トルクを算出することができるのであれば、その構成および算出方法を適宜変更することができる。
【0060】
第1張力分トルク算出部2a、第1トルク制限指令部6および第1トルク制限指令処理は、第1張力分トルクと第1メカロス分トルクと第1慣性分トルクとを加算した第1合成トルクを第1トルク制限指令として出力することができるのであれば、その構成および算出方法を適宜変更することができる。
【0061】
第2張力分トルク算出部2b、第2トルク制限指令部9および第2トルク制限指令処理は、第2張力分トルクと第2メカロス分トルクと第2慣性分トルクとを加算した第2合成トルクを第2トルク制限指令として出力することができるのであれば、その構成および算出方法を適宜変更することができる。
【0062】
第1張力分トルクおよび第2張力分トルクは、それぞれの値が張力分トルク以下で、かつ両者の合成トルクが張力分トルクよりも大きいのであれば、それぞれ任意の値をとることができる。
【0063】
第1慣性分トルクおよび第2慣性分トルクは、両者の合成トルクが慣性分トルクとなるのであれば、それぞれ任意の値をとることができる。
【0064】
本発明に係るダンサー制御装置は、必ずしも第1トルク補償指令および第2トルク補償指令を出力する必要はなく、そのための構成を適宜省略することもできるが、これらの指令を出力することで、ダンサーロール104の揺動を抑制でき、より安定したダンサー制御が可能になる。ダンサー制御プログラムについても同様のことがいえる。