特許第6385417号(P6385417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6385417-複合成形品の成形方法および成形用金型 図000002
  • 特許6385417-複合成形品の成形方法および成形用金型 図000003
  • 特許6385417-複合成形品の成形方法および成形用金型 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385417
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】複合成形品の成形方法および成形用金型
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20180827BHJP
   B29C 33/12 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   B29C45/14
   B29C33/12
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-246121(P2016-246121)
(22)【出願日】2016年12月20日
(65)【公開番号】特開2018-99796(P2018-99796A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2017年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100097696
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100147072
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 裕通
(72)【発明者】
【氏名】山本 惟由
(72)【発明者】
【氏名】松崎 孝治
(72)【発明者】
【氏名】須佐 圭呉
(72)【発明者】
【氏名】河本 粋和
(72)【発明者】
【氏名】西田 正三
【審査官】 ▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−113227(JP,A)
【文献】 特開2010−243659(JP,A)
【文献】 特開2007−022905(JP,A)
【文献】 特開2001−113352(JP,A)
【文献】 特開2004−034491(JP,A)
【文献】 特開2006−205571(JP,A)
【文献】 特開2000−271968(JP,A)
【文献】 特開2007−136799(JP,A)
【文献】 特開2010−100006(JP,A)
【文献】 特開2009−297960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00− 45/84
B29C 33/00− 33/76
B29C 43/00− 43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品を金型にインサートし、型締めして樹脂を射出して前記金属部品と樹脂が一体化した複合成形品を成形するとき、保圧工程において所定のプランジャを前記金型のパーティングラインと並行に駆動して前記プランジャの先端部を前記金型のランナ内に侵入させ、それによって前記ランナ内の容積を減少させて、前記金型のキャビティ内の樹脂圧力を大きくすることを特徴とする複合成形品の成形方法。
【請求項2】
金属部品がインサートされ、型締めされ、樹脂が射出されると複合成形品が成形されるようになっている成形用金型であって、
前記成形用金型には、パーティングラインと並行に駆動されるプランジャが設けられ、保圧工程において前記プランジャが駆動されるとその先端部が液密的にランナ内に侵入して、前記ランナ内の容積が減少し、それによって前記金型のキャビティ内の樹脂圧力が大きくなるようになっていることを特徴とする複合成形品の成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品をインサートして樹脂を射出し該金属部品と樹脂が一体化した複合成形品を得る複合成形品の成形方法、およびその成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属部品と樹脂とからなる複合成形品は、色々な分野で利用されている。例えば自動車用の部品は、強度が要求されると共に軽量化が要求されているが、強度が必要な部分に金属部品が適用され、他の部分が軽量な樹脂からなる複合成形品が利用されている。複合成形品は射出成形により成形することができ、金型に金属部品をインサートして型締めし、金型に樹脂を射出する。そうすると金属部品と樹脂が一体化した複合成形品が得られる。複合成形品は、金属部品と樹脂の接合強度が重要である。そこで金属部品は、その表面にトリアジンジチオール処理等の表面処理を施して樹脂との親和性を高めたり、あるいは金属部品の表面にメッキ処理等を施して多孔質被膜を形成して樹脂がそれらの孔に入り込んでアンカー効果が得られるようにし、必要な接合強度が得られるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−243729号公報
【0004】
特許文献1には金属部品と樹脂の接合強度を高めることができる複合成形方法が記載されている。特許文献1に記載の方法では、その表面が予めトリアジンジチオール処理された金属部品を金型にインサートする。金型を型締めして射出するが、このときスクリュを前後に往復的に駆動して樹脂を振動させるようにする。そうすると、樹脂の振動により金属部品と樹脂とが密に接合し、結果的に接合強度が高い複合成形品が得られる。
【0005】
接合強度を高めるには、射出成形において樹脂の圧力を高くすることが有効であることが周知である。例えば、金属部品の表面に多孔質被膜が形成されている場合には、樹脂がこの多孔質被膜の隙間に浸透し、それによって樹脂がアンカー効果により接合される。接合強度は多孔質被膜の隙間に樹脂が浸透される度合いが高いほど大きくなる。従って、樹脂圧力が高いほど多孔質被膜の隙間に浸透してアンカー効果が大きくなり十分な接合強度が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、射出成形においてスクリュを前後に往復運動させ、それによって樹脂に振動を与え、それによって接合強度が高くなるようになっている。しかしながら、具体的な振動の周波数の記載がないので、実施が難しい。また、比較的高い周波数の振動を与える場合、スクリュの駆動をその周波数で制御しなければならず、制御が困難であるという問題もある。これに対して、射出成形において樹脂の圧力を高くする方法は、スクリュを複雑に駆動する必要がなく、実施は容易である。「発明を実施するための形態」において説明するが、本発明者等は接合強度を高めるには保圧工程における樹脂圧力が重要であることを見いだした。保圧工程において高い樹脂圧力を印加させれば高い接合強度が得られる。ところで、スクリュによって印加される樹脂の圧力は射出ノズル、金型内のスプル、ランナ等の樹脂流路を経由してキャビティ内に印加されるので、小径の樹脂流路において圧力損失が大きい。そうすると保圧工程においてキャビティ内に十分大きい樹脂圧力を作用させるためには、大型の射出成形機が必要になり、コストが大きいという問題がある。
【0007】
本発明は、上記したような問題点を解決した複合成形品の成形方法および成形用金型を提供することを目的とし、具体的には、比較的小型の射出成形機であってもインサート品である金属部品と樹脂の接合強度が高くすることができる、複合成形品の成形方法、およびそのような成形方法が実施できる成形用金型を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、金属部品を金型にインサートし、型締めして樹脂を射出して金属部品と樹脂が一体化した複合成形品を成形する成形方法を対象とする。そして本発明によると、保圧工程において金型に設けられているプランジャをパーティングラインと並行に駆動してその先端部をランナ内に侵入させる。これによってランナ内の容積を減少させて、樹脂圧力を大きくするように構成する。
【0009】
かくして、請求項1記載の発明は、上記目的を達成するために、金属部品を金型にインサートし、型締めして樹脂を射出して前記金属部品と樹脂が一体化した複合成形品を成形するとき、保圧工程において所定のプランジャを前記金型のパーティングラインと並行に駆動して前記プランジャの先端部を前記金型のランナ内に侵入させ、それによって前記ランナ内の容積を減少させて、前記金型のキャビティ内の樹脂圧力を大きくすることを特徴とする複合成形品の成形方法として構成される。
請求項2に記載の発明は、金属部品がインサートされ、型締めされ、樹脂が射出されると複合成形品が成形されるようになっている成形用金型であって、前記成形用金型には、パーティングラインと並行に駆動されるプランジャが設けられ、保圧工程において前記プランジャが駆動されるとその先端部が液密的にランナ内に侵入して、前記ランナ内の容積が減少し、それによって前記金型のキャビティ内の樹脂圧力が大きくなるようになっていることを特徴とする複合成形品の成形用金型として構成される。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明は、金属部品を金型にインサートし、型締めして樹脂を射出して金属部品と樹脂が一体化した複合成形品を成形する成形方法を対象としている。そして、保圧工程において所定のプランジャを金型のパーティングラインと並行に駆動してプランジャの先端部を金型のランナ内に侵入させ、それによってランナ内の容積を減少させて、金型のキャビティ内の樹脂圧力を大きくするように構成されている。後で詳しく説明するように、複合成形品は保圧工程において樹脂圧力を大きくすると、金属部品と樹脂の接合強度が大きくなるが、本発明によると保圧工程において樹脂の圧力を大きくしているので接合強度が大きい複合成形品が得られる。そして本発明によると、保圧工程において樹脂圧力は、射出装置のスクリュを駆動するのではなく、ランナ内の容積を減少させることによって大きくしている。つまり金型内のキャビティに近い位置であるランナ内で直接樹脂圧力を大きくしている。そうすると射出ノズル、スプル等の樹脂流路において発生する圧力損失がなく、効率よくキャビティ内の樹脂圧力を大きくすることができる。キャビティ内の樹脂圧力を高くするために、格別に大型の射出装置を使用する必要もない。つまり本発明の成形方法は、比較的小型で安価な射出成形機であっても、接合強度が高い複合成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る複合成形品の成形用金型の正面断面図である。
図2】その(ア)〜(ウ)は、本発明の実施の形態に係る成形用金型を使用して複合成形品を成形する各工程を示す、成形用金型の正面断面図で、その(エ)は成形された複合成形品の正面断面図である。
図3】その(ア)は、アルミプレートと樹脂とからなる試験用複合成形品の斜視図であり、その(イ)は試験用複合成形品を引っ張り試験したときのアルミプレートを示す平面図であり、その(ウ)は、金属部品と樹脂からなる複合成形品を成形するときの保圧工程における樹脂圧力と、金属部品と樹脂の接合強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。金属部品と樹脂とからなる複合成形品を成形する本発明の実施の形態に係る成形用金型1は、図1に示されているように、第1の金型2と、第2の金型3とから構成されている。図には型締装置は示されていないが、型締装置の固定盤に第1の金型2が、そして可動盤に第2の金型3が取付けられている。つまり第1の金型2が固定側金型2、第2の金型3が可動側金型3ということができる。
【0013】
固定側金型2には、スプル5とランナ部6が形成され、背面から射出装置のノズル8がスプル5に当接している。可動側金型3には、そのパーティングラインにランナ部10とコールドプラグキャッチャー11が形成されている。従って成形用金型1が型締めされると、ランナ部6、10からランナ6、10が構成され、コールドプラグキャッチャー11がランナ6、10内においてスプル5に対応する位置に配置されることになる。可動側金型3には、複合成形品成形用の凹部13が設けられており、この凹部13に金型部品をインサートして、成形用金型1を型締めすると、樹脂を射出するためのキャビティが形成される。このキャビティにはランナ6、10がゲート15を介して接続されている。
【0014】
本実施の形態に係る成形用金型1には、樹脂圧力を大きくするための機構が設けられている。具体的には、可動側金型3にランナ内に進退自在なプランジャ16が設けられている。プランジャ16は、油圧シリンダ17によって駆動されるようになっており、油圧シリンダ17を駆動するとプランジャ16の先端部が液密的にランナ内に侵入して、侵入した体積だけランナ6、10内の容積を小さくして樹脂圧力を大きくすることができる。なお、ランナ6、10はこのようにプランジャ16を侵入させることができるように、比較的その容積が大きく形成されている。
【0015】
本実施の形態に係る成形用金型1を使用して、金属部品と樹脂とからなる複合成形品を成形する方法を説明する。図2の(ア)に示されているように、型開きされている状態の成形用金型1において、可動側金型3の凹部13に、金型部品19をインサートする。金型部品19には予め表面処理により多孔質被膜が形成されており、樹脂がこの多孔質被膜に浸透してアンカー効果により樹脂と金属部品19とが接合されるようになっている。油圧シリンダ17を駆動してプランジャ16は後退させておき、成形用金型1を型締めする。そうすると金型部品19と凹部13、固定側金型2のパーティングラインとからキャビティが形成される。射出工程を実施する。すなわち図示されない射出装置を駆動する。そうすると、図2の(イ)に示されているように、射出ノズル8から樹脂が射出され、樹脂はスプル5、ランナ6、10を経由してゲート15からキャビティに充填される。射出工程を完了する。保圧工程において、図2の(ウ)に示されているように、油圧シリンダ17を駆動する。そうするとプランジャ16の先端部がランナ6、10内に侵入する。この侵入したプランジャ16の体積の分だけランナ6、10内の容積が減少し、それによって樹脂が圧縮されて樹脂圧力が大きくなる。この樹脂圧力がキャビティ内に作用し、樹脂は金属部品19の多孔質被膜の隙間に浸透する。キャビティ内の樹脂が冷却固化したら、油圧シリンダ17を駆動してプランジャ16を後退させる。型開きすると、金属部品19と樹脂20とからなる複合成形品21が得られる。
【実施例1】
【0016】
射出成形により金属部品と樹脂とからなる複合成形品を成形するとき、保圧工程における樹脂圧力と、金属部品と樹脂の接合強度の関係を調べるため実験を行った。
実験内容:図3の(ア)に示されているような、長方形状のアルミプレート25と、円柱樹脂26とからなる試験用複合成形品27A、27B、27Cを3個、次のようにして射出成形により得た。アルミプレート25は事前に表面処理を施してその表面に多孔質被膜を形成し、120℃に調整した金型内にアルミプレート25をインサートし、樹脂を射出して第1〜3の試験用複合成形品27A、27B、27Cを成形した。第1〜3の試験用複合成形品27A、27B、27Cは、それぞれ保圧工程における樹脂圧力を変えて成形した。すなわち第1の試験用複合成形品27Aは、保圧工程における樹脂圧力を75MPaとし、第2、3の試験用複合成形品27B、27Cはそれぞれ保圧工程における樹脂圧力を100MPa、140MPaとした。成形により得た第1〜3の試験用複合成形品27A、27B、27Cについて、符号X、Yで示されるようにアルミプレート25と円柱樹脂26とに引っ張り力を作用させて、アルミプレート25から円柱樹脂26を引き剥がす引っ張り試験を実施した。円柱樹脂26が引き剥がされたアルミプレート25には、図3の(イ)に示されているように、樹脂片26’、26’が残った。これらは円柱樹脂26が破断してその一部が残存したものである。円柱樹脂26が接合していた全体部分29に比して、樹脂片26’、26’の占める面積を割合で算出したところ、第1〜3の試験用複合成形品27A、27B、27Cは、それぞれ14%、52%、77%であった。
考察:図3の(イ)に示されているアルミプレート25において、円柱樹脂26が接合していた全体部分29のうち、金属表面が露出している部分30は、円柱樹脂26が完全にアルミプレート25から剥離した部分である。この部分30は、アルミプレート25の表面の多孔質被膜に樹脂が十分に浸透しておらず、アンカー効果が十分に得られなかった部分であると言える。これに対して樹脂片26’、26’が残った部分は、多孔質被膜に樹脂が十分に浸透して大きなアンカー効果が得られ、その結果円柱樹脂26の途中で破断が生じた。実験の結果から、保圧工程において樹脂圧力を大きくすればするほど、引っ張り試験後にアルミプレート25に残存する樹脂片26’、26’の面積が大きくなることが分かった。保圧工程において樹脂圧力が大きいほど、アルミプレート25の表面の多孔質被膜に樹脂が十分に浸透し、それによって大きなアンカー効果が得られたと言える。アルミプレート25と円柱樹脂26の接合強度は、アンカー効果が大きいほど大きい。複合成形品を成形するときの、保圧工程における樹脂圧力と接合強度の関係は図3の(ウ)のようになることが推定される。以上の実験から、金属部品と樹脂とからなる複合成形品を射出成形により得るとき、金属部品と樹脂の接合強度を大きくするには保圧工程において樹脂圧力を大きくすることが重要であることが確認できた。
【0017】
本実施の形態に係る成形用金型1は色々な変形が可能である。本実施の形態においては、成形用金型1にはプランジャ16が設けられ、保圧工程においてプランジャ16を駆動してランナ6、10の容積を小さくするようになっているが、他の手段でランナ6、10の容積を小さくするようにしてもよい。例えば、ランナ6、10の内壁を円柱穴状に形成し、この円柱穴内に摺動自在にピストンが侵入するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0018】
1 成形用金型 2 固定側金型
3 可動側金型 6 ランナ部
8 射出ノズル 10 ランナ部
13 凹部 16 プランジャ
17 油圧シリンダ 21 複合成形品
図1
図2
図3