(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と言う。)について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0019】
本実施形態の多孔質膜は、疎水性高分子と非水溶性の親水性高分子を含有し、膜の濾過下流部位に緻密層を有し、細孔の平均孔径が濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる傾斜型非対称構造を有し、及び緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5〜12.0である。
【0020】
本実施形態の多孔質膜は、疎水性高分子と非水溶性の親水性高分子を含有する。
本実施形態において、膜基材となる疎水性高分子としては、例えば、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリケトン、PVDF、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、及びポリスルホン系高分子等が挙げられる。
高い製膜性、膜構造制御の観点から、ポリスルホン系高分子が好ましい。
疎水性高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0021】
ポリスルホン系高分子とは、下記式1で示される繰り返し単位を有するポリスルホン(PSf)であるか、下記式2で示される繰り返し単位を有するポリエーテルスルホン(PES)であり、ポリエーテルスルホンが好ましい。
【0024】
ポリスルホン系高分子としては、式1や式2の構造において、官能基やアルキル基等の置換基を含んでもよく、炭化水素骨格の水素原子はハロゲン等の他の原子や置換基で置換されてもよい。
ポリスルホン系高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0025】
本実施形態の多孔質膜は、非水溶性の親水性高分子を含有する。
タンパク質の吸着による膜の目詰まりによる濾過速度の急激な低下を防止する観点で、本実施形態の多孔質膜は、疎水性高分子を含有する基材膜の細孔表面に非水溶性の親水性高分子が存在することにより親水化される。
基材膜の親水化方法としては、疎水性高分子からなる基材膜製膜後の、コーティング、グラフト反応、及び架橋反応等が挙げられる。また、疎水性高分子と親水性高分子のブレンド製膜後に、コーティング、グラフト反応、架橋反応等により、基材膜を親水化させてもよい。
【0026】
本実施形態においては、高分子フィルム上にPBS(日水製薬社から市販されているダルベッコPBS(−)粉末「ニッスイ」9.6gを水に溶解させ全量を1Lとしたもの)を接触させたときの接触角が90度以下になるものを、親水性高分子という。
本実施形態において、親水性高分子の接触角は60度以下が好ましく、接触角40度以下がより好ましい。接触角が60度以下の親水性高分子を含有する場合には、多孔質膜が水に濡れ易く、接触角が40度以下の親水性高分子を含有する場合には、水に濡れ易くなる傾向が一層顕著である。
接触角とは、フィルム表面に水滴を落とした時に、水滴表面がなす角度を意味し、JIS R3257で定義される。
【0027】
本実施形態において、非水溶性とは、有効膜面積3.3cm
2になるように組み立てられたフィルターを、2.0barの定圧デッドエンド濾過により、25℃の純水を100mL濾過した場合に、溶出率が0.1%以下であることを意味する。
溶出率は、以下の方法により算出する。
25℃の純水を100mL濾過して得られた濾液を回収し、濃縮する。得られた濃縮液を用い、全有機炭素計TOC−L(島津製作所社製)にて、炭素量を測定して、膜からの溶出率を算出する。
【0028】
本実施形態において、非水溶性の親水性高分子とは、上記接触角と溶出率を満たす物質である。非水溶性の親水性高分子には、物質自体が非水溶性である親水性高分子に加え、水溶性の親水性高分子であっても、製造工程で非水溶化された親水性高分子も含まれる。すなわち、水溶性の親水性高分子であっても、上記接触角を満たす物質であって、製造工程で非水溶化されることで、フィルターを組み立てた後の定圧デッドエンド濾過において、上記溶出率を満たすのであれば、本実施形態における非水溶性の親水性高分子に含まれる。
【0029】
非水溶性の親水性高分子は、溶質であるタンパク質の吸着を防ぐ観点で、電気的に中性であることが好ましい。
本実施形態においては、電気的に中性とは、分子内に荷電を有さない、又は、分子内のカチオンとアニオンが等量であることをいう。
【0030】
非水溶性の親水性高分子としては、例えば、ビニル系ポリマーが挙げられる。
ビニル系ポリマーとしては、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1−カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等のホモポリマー;スチレン、エチレン、プロピレン、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、メトキシエチルメタクリレート等の疎水性モノマーと、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、グルコキシオキシエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1−カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーのランダム共重合体、グラフト型共重合体及びブロック型共重合体等が挙げられる。
また、ビニル系ポリマーとしては、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等のカチオン性モノマーと、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、スルホプロピルメタクリレート、ホスホオキシエチルメタクリレート等のアニオン性モノマーと、上記疎水性モノマーとの共重合体等が挙げられ、アニオン性モノマーとカチオン性モノマーを電気的に中性となるように等量含有するポリマーであってもよい。
【0031】
非水溶性の親水性高分子としては、多糖類であるセルロース等や、その誘導体であるセルローストリアセテート等も例示される。また、多糖類又はその誘導体として、ヒドロキシアルキルセルロース等が架橋処理されたものも含まれる。
非水溶性の親水性高分子としては、ポリエチレングリコール及びその誘導体であってもよく、エチレングリコールと上記疎水性モノマーとのブロック共重合体や、エチレングリコールと、プロピレングリコール、エチルベンジルグリコール等とのランダム共重合体、ブロック共重合体であってもよい。また、ポリエチレングリコール及び上記共重合体の片末端又は両末端が疎水基で置換され、非水溶化されていてもよい。
ポリエチレングリコールの片末端又は両末端が疎水基で置換された化合物としては、α,ω−ジベンジルポリエチレングリコール、α,ω−ジドデシルポリエチレングリコール等が挙げられ、また、ポリエチレングリコールと分子内の両末端にハロゲン基を有するジクロロジフェニルスルホン等の疎水性モノマーとの共重合体等であってもよい。
非水溶性の親水性高分子としては、縮合重合により得られる、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等の主鎖中の水素原子が親水基に置換され、親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等も例示される。親水化されたポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等としては、主鎖中の水素原子が、アニオン基、カチオン基で置換されていてもよく、アニオン基、カチオン基が等量のものでもよい。
ビスフェノールA型、ノボラック型エポキシ樹脂のエポキシ基が開環されたものや、エポキシ基にビニルポリマーやポリエチレングリコール等が導入されたものでもよい。
また、シランカップリングされたものでもよい。
非水溶性の親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上混合して使用してもよい。
【0032】
非水溶性の親水性高分子としては、製造のしやすさの観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマー;3−スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、1−カルボキシジメチルメタクリロイルオキシエチルメタンアンモニウム等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレートの疎水性モノマーとのランダム共重合体が好ましく、非水溶性の親水性高分子をコートするときのコート液の溶媒の選択のしやすさ、コート液中での分散性及び操作性の観点から、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマー;3−スルホプロピルメタクリルオキシエチルジメチルアンモニウムベタイン、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の親水性モノマーと、ブチルメタクリレート、エチルヘキシルメタクリレート等の疎水性モノマーとのランダム共重合体がより好ましい。
【0033】
水溶性の親水性高分子を、膜の製造過程で非水溶化した非水溶性の親水性高分子としては、例えば、疎水性高分子の基材膜に、側鎖にアジド基を有するモノマーと2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン等の親水性モノマーを共重合させた水溶性の親水性高分子をコーティングした後、熱処理をすることにより、基材膜に水溶性の親水性高分子を共有結合させることで、水溶性の親水性高分子を非水溶化したものであってもよい。また、疎水性高分子の基材膜に対して、2−ヒドロキシアルキルアクリレート等の親水性モノマーをグラフト重合させてもよい。
【0034】
本実施形態の多孔質膜として、あるいは、本実施形態における基材膜として、親水性高分子と疎水性高分子がブレンド製膜されたものであってもよい。
ブレンド製膜に用いられる親水性高分子は良溶媒に疎水性高分子と相溶するものであれば、特に限定されないが、親水性高分子としては、ポリビニルピロリドン又はビニルピロリドンを含有する共重合体が好ましい。
ポリビニルピロリドンとしては、具体的には、BASF社より市販されているLUVITEC(商品名)K60、K80、K85、K90等が挙げられ、LUVITEC(商品名)K80、K85、K90が好ましい。
ビニルピロリドンを含有する共重合体としては、疎水性高分子との相溶性や、タンパク質の膜表面への相互作用の抑制の観点で、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体が好ましい。
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合比は、タンパク質の膜表面への吸着やポリスルホン系高分子との膜中での相互作用の観点から、6:4から9:1が好ましい。
ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体としては、具体的には、BASF社より市販されているLUVISKOL(商品名)VA64、VA73等が挙げられる。
親水性高分子は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0035】
本実施形態においては、濾過中の膜からの異物の溶出を抑制するという観点から、ブレンド製膜時に水溶性の親水性高分子を使用した場合は、ブレンド製膜後、熱水で洗浄することが好ましい。洗浄により、疎水高分子との絡み合いが不十分である親水性高分子が膜中から除去され、濾過中の溶出が抑制される。
熱水での洗浄として、高圧熱水処理、コート後の温水処理を行ってもよい。
【0036】
本実施形態の多孔質膜は、膜の濾過下流部位に緻密層を有する。
本実施形態において、多孔質膜の形態としては、例えば、中空糸膜及び平膜が挙げられる。
本実施形態において、多孔質膜を分離濾過膜としての用途を考える場合、膜の濾過上流部位が粗大構造、膜の濾過下流部位が緻密構造になるようにして使用される。
多孔質中空糸膜に濾過溶液を通液する際に、外表面側に通液すれば、内表面部位が濾過下流部位であり、内表面側に通液すれば、外表面部位が濾過下流部位となる。
多孔質平膜においては、一方の膜表面部位が膜の濾過上流部位となり、他方の膜表面部位が濾過下流部位となるが、平膜においては、粗大構造を有する膜表面部位から、緻密構造を有する膜表面部位に通液される。
本実施形態において、濾過下流部位とは、一方の膜表面に相当する濾過下流面から膜厚の10%までの範囲を指し、他方の膜表面に相当する濾過上流部位とは濾過上流面から膜厚10%までの範囲を指す。
多孔質中空糸膜においては、外表面側に通液すれば、内表面から膜厚10%までの範囲が濾過下流部位であり、外表面から膜厚10%までの範囲が濾過上流部位であり、内表面側に通液すれば、内表面から膜厚10%までの範囲が濾過上流部位であり、外表面から膜厚10%までの範囲が濾過下流部位となる。
【0037】
本実施形態の多孔質膜は、膜の濾過下流部位に緻密層を有し、細孔の平均孔径が膜の濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる傾斜型非対称構造を有し、及び緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5〜12.0である。
本実施形態において、多孔質膜の緻密層と粗大層は、膜断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により撮影することで決定される。例えば、撮影倍率を50,000倍に設定し、膜断面の任意の部位において膜厚方向に対して水平に視野を設定する。設定した一視野での撮像後、膜厚方向に対して水平に撮像視野を移動し、次の視野を撮像する。この撮影操作を繰り返し、隙間なく膜断面の写真を撮影し、得られた写真を結合することで一枚の膜断面写真を得る。この断面写真において、(膜厚方向に対して垂直方向に2μm)×(膜厚方向の濾過下流面から濾過上流面側に向かって1μm)の範囲における平均孔径を濾過下流面から濾過上流面側に向かって1μm毎に算出する。
【0038】
平均孔径の算出方法は、画像解析を用いた方法で算出する。具体的には、MediaCybernetics社製Image−pro plusを用いて空孔部と実部の二値化処理を行う。明度を基準に空孔部と実部を識別し、識別できなかった部分やノイズをフリーハンドツールで補正する。空孔部の輪郭となるエッジ部分や、空孔部の奥に観察される多孔構造は空孔部として識別する。二値化処理の後、空孔/1個の面積値を真円と仮定し、孔径を算出する。全ての孔毎に実施し、1μm×2μmの範囲毎に平均孔径を算出していく。なお、視野の端部で途切れた空孔部についてもカウントすることとする。
【0039】
本実施形態の多孔質膜においては、緻密層と粗大層とを有する。
平均孔径が50nm以下の視野を緻密層と定義し、平均孔径が50nm超の視野を粗大層と定義する。具体的なSEM画像を二値化した結果を
図1に示す。
【0040】
細孔の平均孔径が膜の濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる傾斜型非対称構造を有するとは、濾過下流部位における平均孔径が最も小さい領域から、濾過上流部位における平均孔径が最も大きい領域に向かって、細孔の平均孔径が大きくなることをいう。本実施形態においては、上記SEM画像の解析から平均孔径を算出することにより数値化により確認することができる。
本実施形態において、多孔質中空糸膜である場合、内表面部位に粗大層を有し、外表面部位に緻密層を有する場合と、外表面部位に粗大層を有し、内表面部位に緻密層を有する場合とがある。内表面部位に粗大層を有し、外表面部位に緻密層を有する場合、内表面部位が濾過上流部位であり、外表面部位が濾過下流部位である。外表面部位に粗大層を有し、内表面部位に緻密層を有する場合、外表面部位が濾過上流部位であり、内表面部位が濾過下流部位である。
【0041】
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数とは、緻密層と定義された第1の視野とこれに隣接する粗大層と定義された第2の視野に基づいて算出される。平均孔径が50nm以下の緻密層と定義された視野から平均孔径が50nm超の粗大層と定義された視野に移行する箇所が出現する。この隣接した緻密層と粗大層の視野を用いて傾斜指数を算出する。具体的には、下記式(1)により、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数を算出することができる。
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数=(粗大層(第1の視野)の平均孔径−緻密層(第2の視野)の平均孔径)/1・・・(1)
【0042】
本実施形態の多孔質膜は、緻密層における10nm以下の細孔の存在割合(%)が8.0%以下であることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましい。
緻密層における10nm以下の細孔の存在割合(%)は、上記SEM画像の解析から、下記式(2)で算出した値の、緻密層と定義した全視野の平均をいう。
(緻密層と定義した一視野における孔径が10nm以下の細孔の総数/同視野における細孔の総数)×100・・・(2)
【0043】
本実施形態の多孔質膜は、緻密層における10nm超20nm以下の細孔の存在割合(%)が20.0%以上35.0%以下であることが好ましい。
緻密層における10nm超20nm以下の細孔の存在割合(%)は、上記SEM画像の解析から、下記式(3)で算出した値の、緻密層と定義した全視野の平均をいう。
(緻密層と定義した一視野における孔径が10nm超20nm以下の細孔の総数/同視野における細孔の総数)×100・・・(3)
【0044】
本実施形態の多孔質膜は、緻密層における空隙率(%)が30.0%以上45.0%以下であることが好ましくい。
緻密層における空隙率(%)は、上記SEM画像の解析から、下記式(4)で算出した値の、緻密層と定義した全視野の平均をいう。
(緻密層と定義した一視野における孔の総面積/同視野の面積)×100・・・(4)
【0045】
本実施形態の多孔質膜は、緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径の値が0.85以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましい。
緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径の値は、上記SEM画像の解析から、下記式(5)で算出した値の、緻密層と定義した全視野の平均をいう。
緻密層と定義した一視野について算出される孔径の標準偏差/同視野における平均孔径・・・(5)
【0046】
ウイルス除去膜におけるウイルス除去機構は次のように考えられている。ウイルスを含んだ溶液は透過方向に対して垂直なウイルス捕捉面が何層も重なったウイルス除去層を透過する。この面の中の孔の大きさには必ず分布が存在し、ウイルスのサイズよりも小さな孔の部分でウイルスが捕捉される。この時、一つの面でのウイルス捕捉率は低いが、この面が何層も重なることにより、高いウイルス除去性能が実現される。例えば、一つの面でのウイルス捕捉率が20%であっても、この面が50層重なることにより、全体としてのウイルス捕捉率は99.999%となる。平均孔径が50nm以下の領域において、多数のウイルスが捕捉される。
【0047】
濾過溶液の透過速度を意味するFluxは膜中の最も孔径の小さい領域である緻密層を溶液が透過する速度に支配される。緻密層での孔の閉塞を抑制することで、濾過中の経時的なFlux低下を抑制することができる。濾過中の経時的なFlux低下の抑制がタンパク質の効率的な回収につながる。
【0048】
主な濾過対象生理活性物質である免疫グロブリンの分子サイズは約10nmであり、パルボウイルスのサイズは約20nmである。多孔質膜に通液される濾過溶液である免疫グロブリン溶液中には、免疫グロブリンの会合体等の夾雑物がウイルスよりも大量に含まれている。
タンパク質溶液中の夾雑物の量がわずかでも多くなると、Fluxが著しく低下することが経験的に知られている。夾雑物による緻密層の孔の閉塞が、経時的なFlux低下の原因の一つである。夾雑物による緻密層での孔の閉塞を抑制するためには、緻密層に夾雑物を透過させないことが重要となるので、タンパク質溶液が緻密層を透過する前の粗大層で夾雑物を捕捉させることが好ましい。
粗大層において夾雑物をできるだけ多く捕捉するためには、粗大層における夾雑物の捕捉容量を多くすることが好適である。粗大層における透過面にも孔径分布が存在するため、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜が緩やかであれば、夾雑物を捕捉できる面が増え、層として夾雑物を捕捉できる領域が増えることになる。
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜を緩やかにすることが、夾雑物が緻密層の孔を閉塞することによるFlux低下を抑制するために重要となる。緻密層直前の粗大層で効果的に夾雑物を捕捉させるためには、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数が0.5〜12.0であることが好ましく、2.0〜12.0であることがより好ましく、2.0〜10.0であることがさらに好ましい。
【0049】
本実施形態の多孔質膜は、他の実施態様として、疎水性高分子と非水溶性の親水性高分子を含有し、膜の濾過下流部位に緻密層を有し、細孔の平均孔径が濾過下流部位から濾過上流部位に向かって大きくなる傾斜型非対称構造を有し、1.5質量%の免疫グロブリンを2.0barで定圧濾過したときの、180分間の積算免疫グロブリン透過量が8.0〜20.0kg/m
2であり、濾過開始後60分経過時の免疫グロブリンフラックスF60に対する、濾過開始後180分経過時の免疫グロブリンフラックスF180の比が0.70以上である。
【0050】
本実施形態においては、高い濾過圧で操作することができ、かつ、濾過中の経時的なFlux低下が抑制された多孔質膜であることによって、タンパク質を高効率で回収することができる。
また、本実施形態の多孔質膜は、純水の透水量が高いことによって、タンパク質をより高効率で回収することができる。
本実施形態においては、耐圧性を有する疎水性高分子を基材として用いることにより、高い濾過圧での操作を可能としている。
また、本実施形態においては、1.5質量%の免疫グロブリンを2.0barで膜の内表面側から外表面側へ定圧濾過したときの、濾過開始後60分経過時の免疫グロブリンフラックスF60に対する、濾過開始後180分経過時の免疫グロブリンフラックスF180の比が0.70以上であることにより、経時的なタンパク質の透過量を高くすることができ、免疫グロブリン積算透過量が180分で8.0〜20.0kg/m
2となり、高効率なタンパク質の回収を行うことができる。
【0051】
血漿分画製剤やバイオ医薬品の膜を用いた精製工程においては、一般的に、濾過は1時間以上行われ、3時間以上行われることもある。タンパク質を高効率に回収するためには、Fluxが長時間低下しないことが重要である。しかるに、一般的に、タンパク質を濾過すると、経時的にFluxが低下し、濾液回収量が低下する傾向がある。これは、濾過中、経時的な孔の目詰まり(閉塞)に起因するものと考えられる。経時的に閉塞された孔が増加するということは、膜中に含まれるウイルスを捕捉することができる孔の数が減少することになる。従って、経時的にFluxが低下することは、初期のウイルス除去能が高くても、孔の閉塞により、経時的にウイルス除去性能が低下するリスクが生じると考えられる。
そこで、本実施形態においては、1.5質量%の免疫グロブリンを2.0barで定圧濾過したときの、濾過開始後60分経過時の免疫グロブリンフラックスF60に対する、濾過開始後180分経過時の免疫グロブリンフラックスF180の比が0.70以上とすることで、経時的なFluxの低下を抑制することができ、高効率なタンパク質の回収を実現させ、かつ、持続したウイルス除去性能の発揮にもつながることにより、溶液中に含まれるウイルス等の除去に十分な性能を発揮するタンパク質処理用膜とすることができる。
本実施形態においては、ウイルス除去膜において、濾過後期のFlux低下の抑制により、高効率なタンパク質の回収と持続的なウイルス除去性能を両立させたタンパク質処理用膜とすることができる。
【0052】
本実施形態において、濾過開始後60分経過時の免疫グロブリンフラックスF60に対する、濾過開始後180分経過時の免疫グロブリンフラックスF180の比とは、1.5質量%の免疫グロブリンを2.0barで膜の内表面側から外表面側へ定圧濾過したときに、20分間隔で濾液を回収し、40分から60分の濾液回収量と160分から180分の濾液回収量の比であるF
180/F
60を意味する。
【0053】
本実施形態において、1.5質量%の免疫グロブリンを2.0barで定圧濾過したときの、180分間の積算免疫グロブリン透過量と、濾過開始後60分経過時の免疫グロブリンフラックスF60に対する、濾過開始後180分経過時の免疫グロブリンフラックスF180の比は、「免疫グロブリンの濾過試験」として実施例に記載の方法により測定される。
【0054】
純水の透水量もタンパク質溶液の濾過速度Fluxの目安となる。タンパク質溶液は純水に比べ溶液の粘度が高くなるため、純水の透水量よりも低くなるが、純水の透水量が高いほど、タンパク質溶液の濾過速度は高くなる。そこで、本実施形態においては、純水の透水量を高くすることによって、より高効率なタンパク質の回収を実現させられ得るタンパク質処理用膜とすることができる。
本実施形態のタンパク質処理用膜の純水の透水量は160〜500L/hr・m
2・barが好ましい。
純水の透水量が、160L/hr・m
2・bar以上であることにより、高効率なタンパク質の回収は実現することができる。また、純水の透水量は500L/hr・m
2・bar以下であることにより、持続的なウイルス除去性能を発揮させることができる。
本実施形態において、純水の透水量は、「透水量測定」として実施例に記載の方法により測定される。
【0055】
本実施形態においては、多孔質膜が、傾斜型多孔質構造を有することにより、タンパク質処理用として用いた場合に、Fluxを高くすることができる。
【0056】
また、本実施形態においては、濾過溶液中に最も大量に含まれている免疫グロブリン単量体による緻密層での孔の閉塞も経時的なFlux低下の原因の一つである。従って、Flux低下を防ぐためには免疫グロブリン単量体による閉塞の原因となり得る10nm以下の孔の割合を小さくすることが重要となる。しかしながら、単純に平均孔径を大きくすることにより10nm以下の孔の割合を小さくすると、緻密層が薄くなりウイルス除去性能が低下してしまう。ウイルス除去性能を保持しつつ、10nm以下の孔の割合を小さくするためには、平均孔径50nm以下の緻密層における孔径の分布をコントロールして緻密層における10nm以下の孔の割合を小さくすることが重要となる。本発明者らの検討により、ウイルス除去性能を保持しつつ、単量体による孔の閉塞を抑制し、高効率なタンパク質回収を実現させるためには、緻密層における10nm以下の孔の存在割合を8.0%以下とすることが好ましく、5.0%以下であることがより好ましい。ウイルス除去性能の観点から、緻密層における10nm超20nm以下の孔の存在割合が20.0以上35%以下であることが好ましい。
【0057】
純水の透水量はタンパク質溶液の濾過速度Fluxの目安となる。タンパク質溶液は純水に比べ溶液の粘度が高くなるため、純水の透水量よりも低くなるが、純水の透水量が高いほど、タンパク質溶液の濾過速度は高くなる。本実施形態においては、純粋の透水量を高くすることによって、より高効率なタンパク質の回収を実現させられ得る膜とすることができる。耐圧性を有し、高い透水性能を実現するためには、緻密層における空隙率を30.0以上50.0%以下とすることが好ましい。空隙率が30.0%以上であることにより、高効率なタンパク質の回収を実現することができる。また、緻密層での空隙率が高くなるということは、緻密層における孔の総数が増加することを意味し、ウイルス捕捉面あたりのウイルス捕捉量が増加することとなり、持続的なウイルス除去性能を発揮することにもなる。また、空隙率が45.0%以下であることにより、高い濾過圧での操作が可能となる。
【0058】
さらに、ウイルス除去性能を保持しつつ、高効率なタンパク質回収を実現させるためには、緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径が小さいことも重要である。過度に大きな孔が多く存在するとウイルス除去性能を低下させ、過度に小さな孔が多く存在すると、効率的なタンパク質の回収ができなくなる。緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径が小さいということは、過度に大きな孔と過度に小さな孔の存在量が少ないということになる。本発明者らの検討により、ウイルス除去性能を保持しつつ、単量体が緻密層で孔を閉塞させることを抑制し、高効率なタンパク質回収を実現させるためには、緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径は0.85以下であることが好ましく、0.70以下であることがより好ましい。
【0059】
上記のように、ウイルス除去膜において、ウイルスは主に平均孔径が50nm以下の領域において捕捉されるため、ウイルス捕捉能力を高くするためには、緻密層を厚くすることが好ましい。しかし、緻密層を厚くするとタンパク質のFluxが低下する。高効率なタンパク質の回収を行うためには、緻密層の厚みは、1〜8μmであることが好ましく、2〜6μmであることがより好ましい。
【0060】
本実施形態において、血漿分画製剤やバイオ医薬品の精製工程において、タンパク質溶液濾過中の目詰まりを抑制しつつ、高効率に有用成分を回収することができ、水溶液を濾過しても膜からの溶出物が少ない多孔質膜を提供するためには、(1)高い濾過圧で操作することができ、(2)タンパク質溶液を濾過した時に、経時的なFlux低下が抑制され、タンパク質回収量が多いことが好ましく、(3)純水の透水量が高いことが、より好ましく、(4)膜が非水溶性の親水化された材料から構成されることが好ましい。
【0061】
(1)高い濾過圧での操作は、基材に耐圧性を有する疎水性高分子を用いることにより、実現することができる。
(2)一般的に、血漿分画製剤やバイオ医薬品の精製工程における濾過は1時間以上行われる。タンパク質溶液を濾過した時に、その経時的なFlux低下が抑制されているとは、濾過開始60分後と濾過開始180分後のFlux比を考慮すればよい。また、そのタンパク質としては、ウイルス除去膜を用いて、最も多く濾過させる、グロブリンを対象とすればよい。
濾過をするときの免疫グロブリンの濃度を考えた場合、近年、生産効率を向上させる目的で、免疫グロブリン溶液の濃度は高くなる傾向にあるので、1.5質量%の濃度に設定するのが好ましい。また、濾過圧力を考えた場合、高圧で濾過すればFluxが高くなり、高効率な免疫グロブリンの回収が可能となるが、濾過システムの密閉性保持の観点で、濾過圧力は2.0barとするのが好ましい。
本実施形態において、濾過開始60分後(F
60)と濾過開始180分後(F
180)のFlux比、F
180/F
60が0.70以上であることが好ましい。
また、本実施形態においては、1.5質量%の免疫グロブリンを2.0barで定圧濾過したときの、免疫グロブリン積算透過量が180分で8.0〜20.0kg/m
2となり、高効率なタンパク質の回収を行うことができる。
(3)純水の透水量はタンパク質溶液の濾過速度Fluxの目安となる。タンパク質溶液は純水に比べ溶液の粘度が高くなるため、純水の透水量よりも低くなるが、純水の透水量が高いほど、タンパク質溶液の濾過速度は高くなる。
多孔質膜の純水の透水量は160〜500L/hr・m
2・barが好ましい。高効率なタンパク質の回収の観点で、純水の透水量は160L/hr・m
2・barであることが好ましく、ウイルス除去性能と孔径との観点から、純水の透水量は500L/hr・m
2・barであることが好ましい。
(4)膜が非水溶性の親水性高分子により親水化された疎水性高分子から構成されることは、上述の方法により、実現することができる。
【0062】
血漿分画製剤やバイオ医薬品の膜を用いた精製工程においては、一般的に、濾過は1時間以上行われ、3時間以上行われることもある。タンパク質を高効率に回収するためには、Fluxが長時間低下しないことが重要である。すなわち、一般的に、タンパク質を濾過すると、経時的にFluxが低下し、濾液回収量が低下する傾向がある。これは、濾過中、経時的に孔の目詰まり(閉塞)が生じて閉塞された孔が増加することにより、膜中のウイルスを捕捉することができる孔の数が減少することに起因すると考えられる。従って、経時的にFluxが低下すると、初期のウイルス除去能が高くても、孔の経時的な閉塞により、濾液の累積回収量が減少し、ウイルス除去性能が低下するリスクが生じる。
本実施形態の多孔質膜によれば、Fluxの経時的な低下を抑制し、高効率なタンパク質の回収と持続的なウイルス除去性能を両立させることができる。
【0063】
本実施形態において、バブルポイント(BP)は、ヘキサフルオロエチレンに含浸させた膜の濾過上流面から空気で圧力をかけていった時に、濾過下流面側から気泡が発生するときの圧力を意味する。溶媒を含浸した膜に空気を透過させる際、小さい径の孔ほど高い印加圧で透過する。空気が最初に透過した時の圧力を評価することで、膜の最大孔径を評価することができる。
バブルポイントと最大孔径の関係を式(6)に示す。
D
BP=4γ・cosθ/BP・・・(6)
ここでD
BPは最大孔径を、γは溶媒の表面張力(N/m)を、cosθは溶媒と膜の接触角(−)を、BPはバブルポイント(MPa)を示す。
【0064】
多孔質膜のパルボウイルスクリアランスは、ウイルス除去膜として用いる場合には、LRVとして4以上が好ましく、5以上であることがより好ましい。パルボウイルスとして、実際の精製工程中に混入するウイルスに近似しているもの、操作の簡便性からブタパルボウイルス(PPV)であることが好ましい。
膜の最大孔径はLRVと相関があり、バブルポイントが高いほど、ウイルス除去性能が高くなるが、有用成分であるタンパク質の透過性を維持しつつ、ウイルス除去性能を発揮するためには、また、純水の透水量を制御する観点から、バブルポイントが1.40〜1.80であることが好ましく、1.50〜1.80がより好ましく、1.60〜1.80がさらに好ましい。
本実施形態において、バブルポイントは、「バブルポイント測定」として実施例に記載の方法により測定される。
【0065】
パルボウイルスクリアランスは以下の実験により求められる。
(1)濾過溶液の調製
田辺三菱製薬社より市販されている献血ヴェノグロブリン IH 5%静注(2.5g/50mL)を用いて、溶液の免疫グロブリン濃度が15g/L、塩化ナトリウム濃度が0.1M、pHが4.5になるように溶液を調製する。この溶液に0.5容積%のブタパルボウイルス(PPV)溶液をspikeして得られる溶液を濾過溶液とする。
(2)膜の滅菌
有効膜面積が3.3cm
2になるように組み立てられたフィルターを122℃で60分高圧蒸気滅菌処理をする。
(3)濾過
(1)で調整した濾過溶液をデッドエンドで、2.0barの一定圧力で180分間濾過を行う。
(4)ウイルスクリアランス
濾過溶液を濾過して得られた濾液のTiter(TCID
50値)をウイルスアッセイにて測定する。PPVのウイルスクリアランスはLRV=Log(TCID
50)/mL(濾過溶液))−Log(TCID
50)/mL(濾液))により算出する。
【0066】
本実施形態において、多孔質膜は、特に限定されるものではないが、例えば多孔質膜を中空糸形状の多孔質膜である多孔質中空糸膜とする場合、以下のようにして製造することができる。疎水性高分子として、ポリスルホン系高分子を用いた場合を例にして以下説明する。
例えば、ポリスルホン系高分子、溶媒、非溶媒を混合溶解し、脱泡したものを製膜原液とし、芯液とともに二重管ノズル(紡口)の環状部、中心部から同時に吐出し、空走部を経て凝固浴に導いて膜を形成する。得られた膜を、水洗後巻取り、中空部内液抜き、熱処理、乾燥させる。その後、親水化処理させる。
【0067】
製膜原液に使用される溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド、ε−カプロラクタム等、ポリスルホン系高分子の良溶媒であれば、広く使用することができるが、NMP、DMF、DMAc等のアミド系溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0068】
製膜原液には非溶媒を添加するのが好ましい。製膜原液に使用される非溶媒としては、グリセリン、水、ジオール化合物等が挙げられ、ジオール化合物が好ましい。
ジオール化合物とは、分子の両末端に水酸基を有する化合物であり、ジオール化合物としては、下記式化3で表され、繰り返し単位nが1以上のエチレングリコール構造を有する化合物が好ましい。
ジオール化合物としては、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TriEG)、テトラエチレングリコール(TetraEG)、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられ、DEG、TriEG、TetraEGが好ましく、TriEGがより好ましい。
【0070】
詳細な機構は不明であるが、製膜原液中に非溶媒を添加することにより、製膜原液の粘度が上がり、凝固液中での溶媒、非溶媒の拡散速度を抑制させることにより、凝固を制御し、多孔質膜として好ましい構造制御をしやすくなり、所望の構造形成に好適である。
製膜原液中の溶媒/非溶媒の比は、質量比で40/60〜80/20が好ましい。
【0071】
製膜原液中のポリスルホン系高分子の濃度は、膜強度や透過性能の観点で、15〜35質量%が好ましく、20〜30質量%がより好ましい。
【0072】
製膜原液は、ポリスルホン系高分子、良溶媒、非溶媒を一定温度で、撹拌しながら溶解することで得られる。この時の温度は、常温より高い、30〜80℃が好ましい。3級以下の窒素を含有する化合物(NMP、DMF、DMAc)は空気中で酸化され、加温するとさらに酸化が進行しやすくなるため、製膜原液の調製は不活性気体雰囲気下で行うことが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴン等が挙げられ、生産コストの観点から、窒素が好ましい。
【0073】
紡糸中の糸切れ防止や、製膜後のマクロボイドの形成抑制の観点で、製膜原液を脱泡することが好ましい。
脱泡工程は、以下のようにして行うことができる。完全に溶解された製膜原液が入ったタンク内を2kPaまで減圧し、1時間以上静置する。この操作を7回以上繰り返す。脱泡効率をあげるため、脱泡中に溶液を撹拌してもよい。
【0074】
製膜原液は、紡口から吐出される前までに、異物を除去することが好ましい。異物を除去することにより、紡糸中の糸切れ防止や、膜の構造制御を行うことができる。製膜原液タンクのパッキン等からの異物の混入を防ぐためにも、製膜原液が紡口から吐出される前に、フィルターを設置することが好ましい。孔径違いのフィルターを多段で設置してもよく、特に限定されるものではないが、例えば、製膜原液タンクに近い方から、順に孔径30μmのメッシュフィルター、孔径10μmのメッシュフィルターを設置することが好適である。
【0075】
製膜時に使用される芯液の組成は、製膜原液、凝固液に使用される良溶媒と同じ成分を使用することが好ましい。
例えば、製膜原液の溶媒としてNMP、凝固液の良溶媒/非溶媒としてNMP/水を使用したならば、芯液はNMPと水から構成されることが好ましい。
芯液中の溶媒の量が多くなると、凝固の進行を遅らせ、膜構造形成をゆっくりと進行させる効果があり、水が多くなると、凝固の進行を早める効果がある。凝固の進行を適切に進行させ、膜構造を制御して多孔質膜の好ましい膜構造を得るためには、芯液中の良溶媒/水の比率を質量比で60/40〜80/20にすることが好ましい。
【0076】
紡口温度は、適当な孔径とするために、25〜50℃が好ましい。
製膜原液は紡口から吐出された後、空走部を経て、凝固浴に導入される。空走部の滞留時間は0.02〜0.6秒が好ましい。滞留時間を0.02秒以上とすることにより、凝固浴導入までの凝固を十分にし、適切な孔径とすることができる。滞留時間を0.6秒以下とすることにより、凝固が過度に進行するのを防止し、凝固浴での精密な膜構造制御を可能にすることができる。
【0077】
また、空走部は密閉されていることが好ましい。詳細な機構は不明であるが、空走部を密閉することにより、空走部に水及び良溶媒の蒸気雰囲気が形成され、製膜原液が凝固浴に導入される前に、緩やかに相分離が進行するため、過度に小さな孔の形成が抑制され、孔径のCV値も小さくなると考えられる。
【0078】
紡糸速度は、欠陥のない膜が得られる条件であれば特に制限されないが、凝固浴中での膜と凝固浴の液交換をゆるやかにし、膜構造制御を行うためには、できるだけ遅い方が好ましい。従って、生産性や溶媒交換の観点から、好ましくは4〜15m/minである。
【0079】
ドラフト比とは引取り速度と紡口からの製膜原液吐出線速度との比である。ドラフト比が高いとは、紡口から吐出されてからの延伸比が高いことを意味する。
一般的に、湿式相分離法で製膜されるとき、製膜原液が空走部を経て、凝固浴を出たときに、大方の膜構造が決定される。膜内部は、高分子鎖が絡み合うことにより形成される実部と高分子が存在しない空孔部から構成される。詳細な機構は不明であるが、凝固が完了する前に膜が過度に延伸されると、言い換えると、高分子鎖が絡み合う前に過度に延伸されると、高分子鎖の絡み合いが引き裂かれ、空孔部が連結されることにより、過度に大きな孔が形成されたり、空孔部が分割されることにより、過度に小さな孔が形成される。過度に大きな孔はウイルス漏れの原因となり、過度に小さな孔は目詰まりの原因となる。
構造制御の観点で、ドラフト比は極力小さくすることが好ましいが、ドラフト比は1.1〜6が好ましく、1.1〜4がより好ましい。
【0080】
製膜原液はフィルター、紡口を通り、空走部で適度に凝固された後、凝固液に導入される。詳細な機構は不明であるが、紡糸速度を遅くすることにより、膜外表面と凝固液の界面に形成される境膜が厚くなり、この界面での液交換が緩やかに行われることにより、紡糸速度が早い時に比べ、凝固が緩やかに進行するため、緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜も緩やかになると考えられる。
良溶媒は凝固を遅らせる効果があり、水は凝固を早める効果があるため、凝固を適切な速さで進め、適当な緻密層の厚みとし、好ましい孔径の膜を得るため、凝固液組成として、良溶媒/水の比は、質量比で50/50〜5/95が好ましい。
凝固浴温度は、孔径制御の観点で、10〜40℃が好ましい。
【0081】
凝固浴から引き上げられた膜は、温水で洗浄される。
水洗工程では、良溶媒と非溶媒を確実に除去することが好ましい。膜が溶媒を含んだまま乾燥されると、乾燥中に膜内で溶媒が濃縮され、ポリスルホン系高分子が溶解又は膨潤することにより、膜構造を変化させる可能性がある。
除去すべき溶媒、非溶媒の拡散速度を高め、水洗効率を上げるため、温水の温度は50℃以上が好ましい。
十分に水洗を行うため、膜の水洗浴中の滞留時間は10〜300秒が好ましい。
【0082】
水洗浴から引き上げられた膜は、巻取り機でカセに巻き取られる。この時、膜を空気中で巻き取ると、膜は徐々に乾燥していき、わずかであるが、膜は収縮する場合がある。同一の膜構造として、均一な膜とするために、膜は水中で巻き取られることが好ましい。
【0083】
カセに巻き取られた膜は、両端部を切断し、束にし、弛まないように支持体に把持される。そして、把持された膜は、熱水処理工程において、熱水中に浸漬、洗浄される。
カセに巻き取られた状態の膜の中空部には、白濁した液が残存している。この液中には、ナノメートルからマイクロメートルサイズのポリスルホン系高分子の粒子が浮遊している。この白濁液を除去せず、膜を乾燥させると、この微粒子が膜の孔を塞ぎ、膜性能が低下することがあるため、中空部内液を除去することが好ましい。
熱水処理工程では、膜内側からも洗浄されるため、水洗工程で除去しきれなかった、良溶媒、非溶媒が効率的に除去される。
熱水処理工程における、熱水の温度は50〜100℃が好ましく、洗浄時間は30〜120分が好ましい。
熱水は洗浄中に数回、交換することが好ましい。
【0084】
巻き取られた膜は高圧熱水処理をすることが好ましい。具体的には、
膜を完全に水に浸漬させた状態で、高圧蒸気滅菌機に入れ、120℃以上で2〜6時間処理するのが好ましい。詳細な機構は不明であるが、高圧熱水処理により、膜中に微残存する溶媒、非溶媒が完全に除去されるだけでなく、緻密層領域でのポリスルホン系高分子の絡み合い、存在状態が最適化される。
【0085】
高圧熱水処理された膜を乾燥させることによりポリスルホン系高分子からなる基材膜が完成する。乾燥方法は風乾、減圧乾燥、熱風乾燥等、特に制限されないが、乾燥中に膜が収縮しないように、膜の両端が固定された状態で、乾燥されることが好ましい。
【0086】
基材膜はコート工程を経て、本実施形態の多孔質膜となる。
例えば、コーティングにより親水化処理させる場合には、コート工程は、基材膜のコート液への浸漬工程、浸漬された基材膜の脱液工程、脱液された基材膜の乾燥工程からなる。
浸漬工程において、基材膜は親水性高分子溶液に浸漬される。コート液の溶媒は親水性高分子の良溶媒であり、ポリスルホン系高分子の貧溶媒であれば特に制限されないが、アルコールが好ましい。
コート液中の非水溶性の親水性高分子の濃度は、親水性高分子によって基材膜の孔表面を十分に被覆させ、濾過中のタンパク質の吸着による経時的なFlux低下を抑制する観点から1.0質量%以上が好ましく、適切な厚さで被覆させ、孔径が小さくなりすぎて、Fluxが低下することを防ぐ観点から、10.0質量%以下が好ましい。
コート液への基材膜の浸漬時間は8〜24時間が好ましい。
【0087】
所定時間、コート液に浸漬された基材膜は、脱液工程において、膜の中空部及び外周に付着している余分なコート液が遠心操作により、脱液される。残存する親水性高分子による乾燥後の膜同士の固着を防止する観点で、遠心操作時の遠心力を10G以上、遠心操作時間を30min以上とすることが好ましい。
【0088】
脱液された膜を乾燥させることにより、本実施形態の多孔膜を得ることができる。乾燥方法は特に限定されないが、最も効率的であるため、真空乾燥が好ましい。
フィルター加工のしやすさから、多孔質膜の内径は200〜400μmであることが好ましく、膜厚は30〜80μmであることが好ましい。
【実施例】
【0089】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。実施例において示される試験方法は以下の通りである。
【0090】
(1)内径及び膜厚測定
多孔質膜の内径及び膜厚は、多孔質膜の垂直割断面を実体顕微鏡で撮影することにより求めた。(外径−内径)/2を膜厚とした。
また、膜面積は内径と膜の有効長より算出した。
実施例14においては、多孔質膜の垂直割断面を実体顕微鏡で撮影することにより膜厚を求めた。
【0091】
(2)傾斜型非対称構造測定及び緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数測定
多孔質膜の垂直割断面をSEMにより、撮影倍率を50、000倍、垂直割断面の膜厚方向に対して水平に視野を設定して撮影した。設定した一視野での撮影後、膜厚方向に対して水平に撮影視野を移動し、次の視野を撮影した。この撮影操作を繰り返し、隙間なく膜断面の写真を撮影し、得られた写真を結合して一枚の膜断面写真を得た。この膜断面写真において、(膜厚方向に対して垂直方向に2μm)×(膜厚方向の濾過下流面から濾過上流面側に向かって1μm)の範囲における平均孔径を算出し、濾過下流面から濾過上流面側に向かって1μm毎に膜断面の傾斜構造を数値化した。
平均孔径は、以下のようにして算出した。
MediaCybernetics社製Image−pro plusを用いて、明度を基準に空孔部と実部を識別し、識別できなかった部分やノイズをフリーハンドツールで補正し、空孔部の輪郭となるエッジ部分や、空孔部の奥に観察される多孔構造は空孔部として識別して、空孔部と実部の二値化処理を行った。二値化処理の後、連続している部分は1つの空孔とみなし、空孔1個の面積値を真円の面接値と仮定し、孔径を算出した。視野の端部で途切れた空孔部についてもカウントして、全ての空孔毎に実施し、2μm×1μmの範囲毎に平均孔径を算出した。平均孔径が50nm以下の範囲を緻密層と定義し、平均孔径が50nm超の範囲を粗大層と定義した。
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数は、濾過下流部位から膜厚方向に対して水平に移動して評価した場合、平均孔径が50nm以下の緻密層と定義された範囲から平均孔径が50nm超の粗大層と定義された範囲に移行する箇所について、隣接した緻密層と粗大層から、下記式(1)により求めた。
緻密層から粗大層への平均孔径の傾斜指数=(粗大層の平均孔径−緻密層の平均孔径)/1・・・(1)
【0092】
(3)緻密層における10nm以下の孔の存在割合、10nm超20nm以下の孔の存在割合、空隙率及び孔径の標準偏差/平均孔径の値の測定
緻密層における10nm以下の孔の割合は、下記式(2)により求めた。
緻密層における10nm以下の孔の存在割合=緻密層と定義した2μm×1μmの範囲における10nm以下の孔の総数/同範囲における孔の総数×100・・・(2)
緻密層における10nm超20nm以下の孔の割合=緻密層と定義した2μm×1μmの範囲における10nm超20nm以下の孔の総数/同範囲における孔の総数×100・・・(3)
緻密層における空隙率=緻密層と定義した2μm×1μmの範囲における孔の総面積/視野面積(2μm
2)・・・(4)
緻密層における孔径の標準偏差/平均孔径の値=緻密層と定義した一視野における孔径の標準偏差/平均孔径・・・(5)
【0093】
(4)緻密層の厚み
緻密層の厚みは、平均孔径50nm以下を示した範囲の数×1(μm)とした。
【0094】
(5)透水量測定
有効膜面積が3.3cm
2になるように組み立てられたフィルターを1.0barの定圧デッドエンド濾過による25℃の純水の濾過量を測定し、濾過時間から透水量を算出した。
【0095】
(6)バブルポイント測定
有効膜面積が0.83cm
2になるように組み立てられたフィルターの膜の濾過下流面側をヘキサフルオロエチレンで満たし、デッドエンドで濾過上流側から圧縮空気で昇圧させ、濾過下流面側から気泡の発生が確認されたとき(空気の流量が2.4mL/minになったとき)の圧力をバブルポイントとした。
【0096】
(7)免疫グロブリンの濾過試験
有効膜面積が3.3cm
2になるように組み立てられたフィルターを122℃で60分高圧蒸気滅菌処理をした。田辺三菱製薬社より市販されている献血ヴェノグロブリン IH 5%静注(2.5g/50mL)を用いて、溶液の免疫グロブリン濃度が15g/L、塩化ナトリウム濃度が0.1M、pHが4.5になるように溶液を調製した。調製した溶液をデッドエンドで、2.0barの一定圧力で180分間濾過を行った。
そして、20分間隔で濾液を回収し、40分から60分の濾液回収量と160分から180分の濾液回収量の比をF
180/F
60とした。
また、180分間の積算免疫グロブリン透過量は、180分間の濾液回収量、濾液の免疫グロブリン濃度、フィルターの膜面積より算出した。
【0097】
(8)ブタパルボウイルスクリアランス測定
(7)免疫グロブリンの濾過試験において調製した溶液に0.5容量%のPPV溶液をspikeした溶液を濾過溶液とした。調製した濾過溶液をデッドエンドで、2.0barの一定圧力で180分間濾過を行った。
濾液のTiter(TCID
50値)をウイルスアッセイにて測定した。PPVのウイルスクリアランスはLRV=Log(TCID
50)/mL(濾過溶液)−Log(TCID
50)/mL(濾液)により算出した。
【0098】
(9)溶出評価
(7)と同様の方法で作成したフィルターを、2.0barの定圧デッドエンド濾過により、25℃の純水を100mL濾過し、濾液を回収し、濃縮した。得られた濃縮液を用い、全有機炭素計TOC−L(島津製作所社製)にて、炭素量を測定し、膜からの溶出率を算出した。
【0099】
実施例にて使用した、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートのランダム共重合体、2−(N−3−スルホプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム)エチルメタクリレートとn−ブチルメタクリレートのランダム共重合体は開始剤にα,α−アゾビスイソブチロニトリル(関東化学社製)を用いて、コンベンショナルなラジカル重合により合成した。
また、ポリエチレングリコール−b−ポリスチレンは、Biomaterials, Vol.20, p.963(1999)に従い、合成した。
【0100】
(実施例1)
PES(BASF社製ULTRASON(登録商標)E6020P)24質量部、NMP(キシダ化学社製)36質量部、TriEG(関東化学社製)40質量部を35℃で混合した後、2kPaでの減圧脱泡を7回繰り返した溶液を製膜原液とした。二重管ノズルの環状部から紡口温度は35℃に設定して、製膜原液を吐出し、中心部からNMP75質量部、水25質量部の混合液を芯液として吐出した。吐出された製膜原液と芯液は、密閉された空走部を経て、20℃、NMP25質量部、水75質量部からなる凝固液が入った凝固浴に導入された。
凝固浴から引き出された膜は、55℃に設定された水洗槽をネルソンロール走行させた後、水中でカセを用いて巻き取った。紡糸速度は5m/minとし、ドラフト比を2とした。
巻き取られた膜はカセの両端部で切断し、束にし、弛まないように支持体に把持させ、80℃の熱水に浸漬させ、60分間洗浄した。洗浄された膜を128℃、3時間の条件で、高圧熱水処理した後、真空乾燥させることにより中空糸状の基材膜を得た。
得られた中空糸状の基材膜を、重量平均分子量80kDaのポリヒドロキシエチルメタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート(関東化学社製)を用いて製造した。)2.5質量部、メタノール97.5質量部のコート液に24時間浸漬させた後、12.5Gで30min遠心脱液した。遠心脱液後、18時間真空乾燥させて、中空糸状の多孔質膜を得た。
得られた多孔質膜の(1)〜(9)の測定結果を表1に示した。
【0101】
(実施例2)
凝固液組成をNMP15質量部、水85質量部、凝固液温度を15℃にした以外は、実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0102】
(実施例3)
コート液組成を重量平均分子量80kDaの2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、東京化成工業社製)とn−ブチルメタクリレート(BMA、関東化学社製)のランダム共重合体(モル分率、MPC/BMA=3/7)3.5質量部、メタノール96.5質量部にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0103】
(実施例4)
コート液組成を重量平均分子量90kDaの2−(N−3−スルホプロピル−N,N−ジメチルアンモニウム)エチルメタクリレート(SPMA、Sigma−Aldrich社製)とBMA(関東化学社製)のランダム共重合体(モル分率、SPMA/BMA=3/7)3質量部、メタノール97質量部にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0104】
(実施例5)
コート液組成をヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製、商品名SSL)3質量部、メタノール97質量部にして、基材膜をコーティング後、122℃で20分、高圧蒸気滅菌処理した以外は実施例1と同様に中空糸状の多孔質膜を得た。
【0105】
(実施例6)
コート液組成をポリエチレングリコール(2kDa)−b−ポリスチレン(3kDa)2.5質量部、メタノール97.5質量部にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0106】
(実施例7)
実施例1で得られた基材膜を25kGyでガンマ線照射した後、50℃の2−ヒドロキシプロピルアクリレート(東京化成工業社製)7質量部、t−ブタノール(関東化学社製)25質量部、水68質量部の溶液に浸漬させ、1時間グラフト重合を行った。グラフト重合後、50℃のt−ブタノールで洗浄し、未反応物を除去した後、18時間真空乾燥させて、中空糸状の多孔質膜を得た。
【0107】
(実施例8)
凝固浴温度を25℃にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0108】
(実施例9)
紡口温度を40℃、芯液組成をNMP74質量部、水26質量部、凝固液組成をNMP45質量部、水55質量部、凝固浴温度を18℃にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0109】
(実施例10)
紡口温度を25℃、芯液組成をNMP73質量部、水27質量部、凝固浴組成をNMP10質量部、水90質量部、凝固浴温度を15℃にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0110】
(実施例11)
凝固浴温度を15℃にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0111】
(実施例12)
製膜原液組成をPES(BASF社製ULTRASON(登録商標)E6020P)27質量部、NMP(キシダ化学社製)30.4質量部、TriEG(関東化学社製)33.6質量部、ビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体(BASF社製LUVISKOL(登録商標)VA64)9質量部、紡口温度を50℃、芯液組成をNMP45.1質量部、TriEG49.9質量部、水5質量部、凝固液組成をNMP28.5質量部、TriEG31.5質量部、水40質量部、凝固液温度を30℃にして、製膜後、ヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達社製(商品名)SSL)0.5質量部、2−プロパノール(関東化学社製)20質量部、水79質量部に25℃で浸漬させ、−0.07MPaに減圧後20分間静置させた。その後、膜を取り出し、中空部の内液を除去した後、80℃の水に60分間浸漬させた以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0112】
(実施例13)
製膜原液組成をPVDF(SOLVAY社製SOFEF1012)23質量部、NMP37質量部、TriEG40質量部、芯液組成をNMP73質量部、水27質量部、紡口温度を40℃、凝固浴組成をNMP10質量部、水90質量部、凝固浴温度を50℃にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0113】
(実施例14)
製膜原液組成をPES(BASF社製ULTRASON(登録商標)E6020P)22質量部、NMP(キシダ化学社製)33質量部、TriEG(関東化学社製)45質量部を35℃で混合した後、2kPaでの減圧脱泡を7回繰り返した溶液を製膜原液とした。
この製膜原液を55℃に温調し、膜厚が80μmとなるように、加圧式キャスターを用いて移動担体上へシート状に塗布した。吐出速度は5m/minとし、ドラフト比を2とした。形成されたシートを、凝固浴組成をNMP5質量部、水95質量部、凝固浴温度を30℃にした凝固浴の中に10分間浸漬して凝固させた後、水で洗浄し、真空乾燥を行い、平膜状の基材膜を得た。
得られた平膜状の基材膜を、重量平均分子量80kDaのポリヒドロキシエチルメタクリレート(ヒドロキシエチルメタクリレート(関東化学社製)を用いて製造した。)2.5質量部、エタノール97.5質量部のコート液に24時間浸漬させた後、12.5Gで30min遠心脱液した。遠心脱液後、18時間真空乾燥させて、平膜状の多孔質膜を得た。
【0114】
(比較例1)
凝固液組成を水100質量部にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0115】
緻密層での10nm以下の孔の割合が多くなり、目詰まりが起こりやすくなり、タンパク質の効率的な回収ができなかった。
【0116】
(比較例2)
紡糸速度を20m/min、ドラフト比を10にした以外は、実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0117】
紡糸速度とドラフト比を高くすることにより、緻密層での10nm以下の孔の割合が多くなったために、目詰まりが起こりやすくなり、また、ドラフト比を高くすることにより、膜にピンホールができたため、パルボウイルス除去性能が低下した。
【0118】
(比較例3)
コート液組成をテトロニック1307(BASF社製)4質量部、メタノール96質量部にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の中空糸膜を得た。
【0119】
親水性高分子が水溶性であるため、水濾過後に親水性高分子の溶出が確認された。また、タンパク質の膜への吸着により180分間濾過を行うことができなかった。
【0120】
(比較例4)
コート液組成を重量平均分子量80kDaのスルホプロピルメタクリレート(SPM)とBMAの共重合体(モル分率、SPM/BMA=3/7)3.5質量部、メタノール96.5質量部にした以外は実施例1と同様にして中空糸状の多孔質膜を得た。
【0121】
タンパク質の膜への吸着により180分間濾過を行うことができなかった。
【0122】
実施例1〜14及び比較例1〜4について、得られた多孔質膜の(1)〜(9)の測定結果を表1及び表2に示した。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
本出願は、2014年8月25日出願の日本特許出願(特願2014−170768号)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。