【実施例】
【0042】
〔気泡噴出部材1の作製〕
<実施例1>
マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径1.37mm、内径0.93mm、Drummond Scientific Company)に直径30μmのCu線を挿入し、ガラスプラー(サッター社製、P−1000IVF)によって加熱しながら引き切ることで、ガラスをCu線より延伸させた。次いで、マイクロフォージ(MF−900、株式会社ナリシゲ)を使用し、延伸したガラスの先端部分を溶融しながら押し込むことで肉厚部を形成し、本発明の気泡噴出部材1を作製した。
図6(1)は実施例1で作製した気泡噴出部材1の先端部分の写真である。写真から明らかなように、延伸部4の内側が先端に向けてテーパー状に肉厚になっていることが確認できた。また、芯材3の直径は約30μm、気泡噴出口8は直径約6μmの円形状であった。
【0043】
<比較例1>
延伸したガラスの先端部分を肉厚加工せず、引き切ったものを比較例1の気泡噴出部材とした。
図6(2)は、比較例1で作製した気泡噴出部材1の先端部分の写真である。写真から明らかなように、延伸部4全体が薄肉で且つテーパー状に形成されていることを確認した。また、気泡噴出口8は直径約14μmの円形状であった。
【0044】
〔局所インジェクション装置(注射装置)の作製〕
<実施例2>
(1)外側外郭部13の作製
マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径2.03mm、内径1.68mm、Drummond Scientific Company)を、ガラスプラー(サッター社製、P−1000IVF)によって加熱しながら引き切った。引き切ったガラス管をマイクロフォージ(MF−900、株式会社ナリシゲ)にセットし、先端を直径約100μmになるようにカットした。更に、先端から約300μm後ろの位置にマイクロフォージを当接し、90°間隔で4か所加熱して狭窄部14を作製した。外側外郭部13の先端部分の内径は、約100μmであった。
【0045】
(2)局所インジェクション装置の組立
先ず、実施例1で作製した気泡噴出部材1を、Agペースト(H20E、株式会社理経)を用いて医療用電気メス(ConMed社製、714−S)に接続した。その後、ホットプレートで、120℃、15分間加熱し、接続部を硬化させた。
次に、OHPフィルム(住友スリーエム株式会社)の上に真空脱泡を30分間かけたPDMS(溶剤:硬化剤=25:1)(東レ・ダウコーニング(株))を塗布し、スピンコーターで4000rpm、20秒間スピンコートした。その後、オーブンにて120℃、60分間加熱硬化させた。
そして、マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径2.03mm、内径1.68mm、Drummond Scientific Company)を1.5cm程度にカットしたものに、シリコンチューブ(内径2mm、外径3mm)を2cmほどに切ったものを被せ、更にシリコンチューブの中央に切れ目を入れ、切れ目の部分から気泡噴出部材1の根本まで挿入し、空気の漏れのないよう接着剤(スーパーX、セメダイン株式会社)で結合した。最後に、上記(1)で作製した外側外郭部13を気泡噴出部材1に外挿し、上記1.5cm程度にカットしたガラス管の端部と外側外郭部13の端部を約3mm程度離した位置で、先に作製した上記のPDMSシートをOHPフィルムから剥がしてガラス管と外側外郭部13の端部同士をラッピングして結合することで、実施例2の局所インジェクション装置を作製した。
図7は、実施例2で作製した局所インジェクション装置の全体写真、並びに、気液噴出部材10の先端部分及び伸縮部分を拡大した写真である。
【0046】
また、
図8は実施例2で作製した局所インジェクション装置を使用する際の先端部分の動きを示す写真である。
図8(1)は実施例2で作製した局所インジェクション装置の先端を加工対象物に押し当てる前の写真で、
図8(2)は加工対象物に先端を押し付けた後の写真である。
図8に示すように、気泡噴出部材1と外側外郭部13が相対移動し、加工対象物と気泡噴出口8の位置関係を調整できることが明らかとなった。
【0047】
<実施例3>
(1)外側外郭部13の作製
マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径2.03mm、内径1.68mm、Drummond Scientific Company)を、ガラスプラー(サッター社製、P−1000IVF)によって加熱しながら引き、中央にくびれ構造を作り、くびれ構造の両端を適度な長さにカットすることで外側外郭部13を作製した。外側外郭部13の内径は約1.6mmであった。
【0048】
(2)局所インジェクション装置の組立
次に、真空脱泡を30分間かけたPDMS(溶剤:硬化剤=10:1)(東レ・ダウコーニング(株))を、約7cm×7cm×3cmのプラスチック製のトレイに高さが3mm程になるように流し込み、さらに真空脱泡を20分間かけた後に、90℃のオーブンで20分間ベークした。その後、硬化したPDMSをプラスチック容器から取り出し、穴径8mmの生検トレパン(貝印(株))でくり抜き、更にその中心を穴径2mmの生検トレパン(貝印(株))でくり抜いてリングスペーサーを作製した。
次に、実施例2の(2)の手順において、1.5cm程度にカットしたガラス管の端部に上記リングスペーサーを挿入し、外側外郭部13を実施例3(1)で作製した外側外郭部13の端部に上記リングスペーサーを挿入したものに代え、2つのリングスペーサーを約1cm程度離し、2つのリングスペーサーをPDMSシートでラッピングした以外は、実施例2と同様の手順で局所インジェクション装置を作製した。
図9は、実施例3で作製した局所インジェクション装置の全体写真、並びに、気液噴出部材10の先端部分及び伸縮部分を拡大した写真である。
【0049】
<比較例2>
実施例2の気泡噴出部材1に代え、比較例1の気泡噴出部材を用いた以外は、実施例2と同様の手順で局所インジェクション装置を作製した。なお、気泡噴出口8を加工対象物に近付けるようにするため、気泡噴出口8と外側外郭部13は、ほぼ同じ平面状になるように配置した。
【0050】
〔気泡噴出部材1の先端の強度試験〕
<実施例4>
実施例3で作製した局所インジェクション装置の気液噴出部材10及び銅板で作製した対向電極22を、Steinberg溶液(NaCl 3.4g/L、KCl 0.05g/L、Ca(NO
3)
2・4H
2O 0.08g/L、MgSo
4・7H
2O 0.205g/L、HEPES 0.715g/L、超純水 1L)に浸漬した。次いで、芯材3と対向電極22に印加する電力を徐々に上げたところ、約8.80mA、2160Vで気泡噴出部材1の先端部分が破損した。
図10(1)は電力を印加する前の気泡噴出部材1の先端部分の写真、
図10(2)は電力の印加により破損した直後の先端部分の写真である。
図10(2)の矢印は破損箇所を示しており、芯材3と外郭部5の境界付近で外郭部5が破損していた。
【0051】
<比較例3>
実施例3の局所インジェクション装置に代え、比較例2の局所インジェクション装置を用いた以外は、実施例4と同様に電力を印加したところ、約5.33mA、1560Vで気泡噴出部材1の先端部分が破損した。
図10(3)は電力を印加する前の気泡噴出部材1の先端部分の写真、
図10(4)は電力の印加により破損した直後の先端部分の写真である。
図10(4)の矢印は破損箇所を示しており、延伸部4の先端部分が破損していた。
【0052】
以上の結果より、気泡噴出部材1の先端に肉厚部を形成することで、気泡噴出部材1に印加する電力を高くできることが明らかとなった。
【0053】
〔局所インジェクション装置による加工対象物の損傷実験〕
<実施例5>
実施例2で作製した局所インジェクション装置の気泡噴出口8(口径6μm)を、顕微鏡下で観察しながら、PDMSで作製した卵子把持具で固定したアフリカツメガエル未受精卵(以下、「未受精卵」と記載することがある。)に反対側から近付け、次いで、1.8mA,440Vの電力を印加した。
図11(1)は、電力を印加して気泡を噴出した直後の写真である。未受精卵に気泡を噴出すると、気泡の衝突エネルギーで未受精卵は気泡の進行方向に一端押し込まれるが、気泡の噴出を止めると反作用で未受精卵が気泡噴出口8側に押し戻されて気泡噴出口8に接触することがある。しかしながら、気泡噴出部材1の先端は平面上になっていることから未受精卵を損傷することは無かった。
【0054】
<比較例4>
比較例2で作製した局所インジェクション装置を用いた以外は、実施例5と同様に、気泡噴出口8(口径14μm)を、未受精卵に近付け、電力を印加した。
図11(2)は、電力を印加して気泡を噴出した直後の写真である。比較例4では、気泡噴出部材の先端が尖っていることから、未受精卵が反作用で気泡噴出口8側に変形した際に、未受精卵に気泡噴出口8が突き刺さってしまった。
【0055】
<実施例6>
実施例5で、本発明の気泡噴出部材1を用いると、気泡噴出時に未受精卵を傷つけないことを確認したが、局所インジェクションの一連の操作による未受精卵への影響を調べた。なお、未受精卵の損傷程度を観察するため、Steinberg溶液には蛍光試薬(Dextran, Alexa FluorR 594 10,000 MW; ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)を添加した。未受精卵が損傷して内容物が外部に漏れだすと蛍光試薬が内容物と結合し可視化することができる。その他の手順は実施例5と同様に行った。
図12(1)は電力の印加前(t=0秒)、
図12(2)は電力を印加し噴出した気泡を衝突させた瞬間(t=0.3秒)、
図12(3)は気泡噴出口8を未受精卵から離した直後(t=5秒)、
図12(4)は気泡を衝突させた後、10秒経過した後の写真である。
【0056】
<比較例5>
比較例2で作製した局所インジェクション装置を用いた以外は、実施例6と同様の手順で電力を印加した。
図12(5)は電力の印加前(t=0秒)、
図12(6)は電力を印加し噴出した気泡を衝突させた瞬間(t=0.3秒)、
図12(7)は気泡噴出口8(口径14μm)を未受精卵から離した直後(t=5秒)、
図12(8)は気泡を衝突させた後、10秒経過した後の写真である。
【0057】
図12から明らかなように、従来の気液噴出部材10を用いた場合は、未受精卵から中身が飛び出してしまうことが確認できた。これは、従来の気液噴出部材10の気泡噴出口8の口径が大きいため未受精卵に気泡が衝突する際の衝撃が大きいこと、及び気泡噴出口8の先端部分がガラスを引き切ったものであることから、気泡噴出時に気泡噴出口8が未受精卵を傷つけた可能性があるためと考えられる。
【0058】
一方、本発明の局所インジェクション装置を用いると、気泡噴出部材1の先端部分は肉厚で滑らかな形状であるため、気泡噴出部口8を未受精卵に近付ける際に、未受精卵を損傷し難い。更に、気泡噴出口8の直径が従来の気泡噴出部材1の直径より小さいことから、気泡が未受精卵に衝突する際に与える衝撃が少なかったためと考えられる。
【0059】
図13は、実施例6の気泡を衝突させて10秒経過後の未受精卵に、水銀ランプを照射してCCDカメラで撮影した写真である。
図13の写真の矢印に示すように、蛍光試薬が局所的にインジェクションされていることが確認できた。以上の結果より、本発明の局所インジェクション装置を用いることで、加工対象物の損傷を抑えながら、局所インジェクションを行えることが確認できた。
【0060】
〔局所インジェクション装置(注射装置)を用いた空気中でのインジェクション〕
<実施例7:トマトへのインジェクション>
気泡噴出口の直径が4μmの気泡噴出部材1を用いた以外は、実施例3と同様の手順で局所インジェクション装置を作製した。次いで、外側外郭部13の内部に実施例4のSteinberg溶液を充填しトマトに押し付けた。また、対向電極22をトマト底面に接するように配置した。次いで、2.3mA、1740Vの電圧を印加した。
図14は、局所インジェクション後のトマトの写真で、矢印の部分がインジェクションをした場所である。
【0061】
<実施例8:カイワレ大根の葉への局所インジェクション>
実施例3で作製した外側外郭部13の内部に、純水を充填し、カイワレ大根の葉に押し付けた。なお、純水には、蛍光試薬(Fluorescein Isothiocyanate−Dextran(10,000MW;SIGMA−Aldrich社製)を添加した。また、対向電極22をカイワレ大根の葉の裏側に配置した。次いで、81.8mA、1.3kVの電圧を印加した。
図15は局所インジェクション後のカイワレ大根の葉の暗視野での写真である。
図15に示すように、蛍光が確認されたことから、カイワレ大根の葉に蛍光試薬をインジェクションすることができた。
【0062】
<実施例9:鶏ささみ肉への局所インジェクション>
直径30μmのCu線に代え、直径100μmのCu線を用いた以外は、実施例1と同様の手順で気泡噴出部材1を作製した。芯材の直径は約100μm、気泡噴出口8は直径約6μmの円形状であった。次に、作製した気泡噴出部材1を用いた以外は実施例3と同様の手順で、局所インジェクション装置を作製した。
作製した局所インジェクション装置の外側外郭部13の内部に、NaCl溶液(0.9%w/v)を充填し、鶏ささみ肉に押し付けた。NaCl溶液には、蛍光ビーズ(φ2.1μm;Thermo Scientrific社製)を添加した。なお、実施例9で蛍光ビーズを用いたのは、実施例8の蛍光試薬は鶏ささみ肉に染み込んでしまうためである。また、対向電極22は鶏ささみ肉の下に置いた。次いで、200mA、1.3kVの電圧を印加した。
図16は局所インジェクション後の鶏ささみ肉の暗視野での写真である。
図16に示すように、鶏ささみ肉に蛍光ビーズを局所インジェクションすることができた。
【0063】
<実施例10:玄米(もみ殻除去後)へのインジェクション>
鶏ささみ肉に代え玄米(もみ殻除去後)を用い、該玄米をPDMSで作製した治具に固定し、対向電極22を気泡噴出部材1と外側外郭部13の間のNaCl溶液に接するように配置し、420mA、1.8kVの電圧を印加した以外は、実施例9と同様の手順で局所インジェクションを行った。
図17は局所インジェクション後の玄米の暗視野での写真である。
図17に示すように、玄米に局所インジェクションすることができた。
【0064】
実施例7〜10に示すように、本発明の局所インジェクション装置を用いると、空気中で、柔らかいものから硬い加工対象物に対して局所インジェクションができることを確認した。
【0065】
〔局所インジェクション装置(注射装置)の他の実施形態の作製〕
<実施例11>
実施例2の外側外郭部13に代え、PDMSを用いて中空円筒形状になるようにプラスチック型やガラス・金属棒を用いて転写及び3次元形状に成形することで、外側外郭部13全体をPDMSで作製した。
図18は、作製した局所インジェクション装置の外観を示す写真である。
【0066】
図19は実施例11で作製した局所インジェクション装置の先端部分の動きを示す写真である。
図19(1)は押し当てる前の写真、
図19(2)は押し当てた後の写真、そして、
図19(1)及び(2)の上段は外側外郭部13の全体写真で、下段は先端部分を拡大した写真である。
図19から明らかなように、外側外郭部13全体を可撓性のある材料を用いて形成することで、伸縮部材17を使用しなくても、気泡噴出部材1と外側外郭部13とを相対移動し、加工対象物と気泡噴出口8の位置関係を調整できることが明らかとなった。