特許第6385453号(P6385453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6385453気泡噴出部材、気液噴出部材、局所アブレーション装置及び局所インジェクション装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385453
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】気泡噴出部材、気液噴出部材、局所アブレーション装置及び局所インジェクション装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20180827BHJP
   C12N 15/89 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   C12M1/00 A
   !C12N15/89 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-557770(P2016-557770)
(86)(22)【出願日】2015年11月4日
(86)【国際出願番号】JP2015080998
(87)【国際公開番号】WO2016072408
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2017年3月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-226699(P2014-226699)
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】山西 陽子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和基
(72)【発明者】
【氏名】小見 駿
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/129657(WO,A1)
【文献】 日本機械学会マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集,2014年10月,vol.6,p.21pm3-PM004
【文献】 日本機械学会誌,2014年 7月,vol.117, no.1148,pp.28-30
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−1/42
C12N 15/00−15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気泡噴出部材および外側外郭部を含み、
前記気泡噴出部材は、
導電材料で形成された芯材、
絶縁材料で形成され、前記芯材の先端より延伸した延伸部を含み、且つ前記芯材に少なくとも一部が密着して芯材を覆う外郭部、及び、
前記延伸部及び前記芯材の先端との間に形成され且つ気泡噴出口を有する空隙、を含み、
前記延伸部の先端に、他の延伸部より肉厚の肉厚部が形成され、
前記外側外郭部は、
前記気泡噴出部材の外郭部の外側に形成され、前記外郭部との間に空間を有するように前記外郭部から離間した位置に形成され、
前記外側外郭部と前記気泡噴出部材とが、相対移動が可能となるように形成されていることを特徴とする気液噴出部材。
【請求項2】
前記外側外郭部の端部が、伸縮部材を介して前記気泡噴出部材に接続していることを特徴とする請求項に記載の気液噴出部材。
【請求項3】
前記外側外郭部と前記気泡噴出部材が相対移動する際のガイドの役割をする狭窄部が、前記外側外郭部に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の気液噴出部材。
【請求項4】
前記気液噴出部材の芯材とで一対の電極を構成する対向電極を更に含み、
前記対向電極が、前記外郭部の外面又は前記外側外郭部の内面に形成されていることを特徴とする請求項の何れか一項に記載の気液噴出部材。
【請求項5】
前記外側外郭部の先端部分が、他の外側外郭部より肉厚に形成されていることを特徴とする請求項の何れか一項に記載の気液噴出部材。
【請求項6】
求項の何れか一項に記載の気液噴出部材を含む局所アブレーション装置。
【請求項7】
請求項の何れか一項に記載の気液噴出部材を含む局所インジェクション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡噴出部材、気液噴出部材、局所アブレーション装置及び局所インジェクション装置に関する。特に、従来の気泡噴出部材の先端を肉厚加工することで気泡噴出口を小さくし且つ高電圧を印加しても破損し難い気泡噴出部材、及び気泡噴出部材と相対移動が可能な外側外郭部を形成することで加工対象物を加工する際の気泡噴出部材の位置を容易に調整できる気液噴出部材、気泡噴出部材又は気液噴出部材を含む局所アブレーション装置、並びに気液噴出部材を含む局所インジェクション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のバイオテクノロジーの発展に伴い、細胞の膜や壁に孔をあけ、細胞から核を除去又はDNA等の核酸物質の細胞への導入等、細胞等の局所加工の要求が高まっている。局所加工技術(以下、「局所アブレーション」と記載することがある。)としては、電気メス等のプローブを用いた接触加工技術や、レーザー等を用いた非接触アブレーション技術などを用いた方法が広く知られている。
【0003】
しかしながら、従来の電気メス等のプローブを用いた接触加工技術においては、(1)連続高周波によって発生させたジュール熱により対象物を焼き切る性質があるため、切断面の粗さと熱による周辺組織への熱侵襲の影響が大きく、特に液相中の生体材料加工においては熱による切断面のダメージが大きい、(2)タンパク質の変性やアミド結合の寸断により、再結合や再生が困難である、(3)また持続的な加工においてはプローブへの熱変性タンパク質等の吸着や熱により発生する気泡の吸着によって、切開面の観察環境は著しく悪化し、高分解性加工は困難である、という問題があった。
【0004】
また、フェムト秒レーザー等のレーザーによる非接触加工技術においても、高密度エネルギーが局所的に当たることで切断面周囲組織の熱の影響が存在し、特に液相中の対象物の加工においては加工時に発生する熱による気泡等の発生により持続的加工が困難である等の問題があった。
【0005】
一方、細胞等への核酸物質等のインジェクション物質を導入するための局所的な物理的インジェクション技術(以下、「局所インジェクション」と記載することがある。)としては、電気穿孔法、超音波を用いたソノポレーション技術及びパーティクルガン法等が広く知られている。しかしながら、従来の電気穿孔法技術においては、電界強度により細胞膜の透過性を向上させるのに限界があり、柔軟な脂質2重膜ではなくて硬い細胞膜や細胞壁を有する対象物へインジェクションが困難であり、電極の配置などの制限により局所的な狙った場所へのインジェクションが困難である等の問題があった。また、超音波を利用したソノポレーション技術においては超音波の集束が困難であり、局所的な気泡のキャビテーションを発生させ解像度を上げることが困難である等の問題があった。更に、パーティクルガン法によるインジェクション方法においても、粒子表面に付着させた物質が粒子を打ち込む際に表面から離脱してしまい導入効率が低い等の問題があった。
【0006】
上記問題点を解決するため、本発明者らは、導電材料で形成された芯材と、絶縁材料で形成され、前記芯材を覆い、かつ前記芯材の先端から延伸した部分を含む外郭部、及び前記外郭部の延伸した部分及び前記芯材の先端との間に形成された空隙を含む気泡噴出部材を作製し、該気泡噴出部材を溶液に浸漬させ、溶液中で高周波電圧を印加することで気泡を発生し、該気泡を加工対象物に連続的に放出することで加工対象物を切削(局所アブレーション)できることを新たに見出した。更に、前記気泡噴出部材の外郭部の外側に、外郭部と空間を有するように外側外郭部を設け、前記空間にインジェクション物質を溶解及び/又は分散した溶液を導入することで、インジェクション物質が溶解及び/又は分散した溶液が界面に吸着した気泡を発生することができ、該気泡を加工対象物に連続的に放出することで加工対象物を切削するとともに、気泡を覆う溶液に含まれるインジェクション物質を加工対象物にインジェクションできることを新たに見出し、特許出願を行っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5526345号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている気泡噴出部材を用いて局所アブレーションを行う場合、加工対象物が細胞等、柔らかい物の場合には局所アブレーションをすることができる。一方、比較的固い加工対象物を局所アブレーションする場合、気泡の噴出速度を速くして衝突エネルギーを上げる為、気泡噴出部材に高電圧を印加する必要がある。しかしながら、特許文献1に記載されている気泡噴出部材に高電圧を印加すると、気泡噴出部材の先端部分が破損してしまうという新たな問題が発生した。
【0009】
また、加工対象物を局所アブレーションする際には、顕微鏡観察下で気泡噴出部材の気泡噴出口を観察しながら加工対象物との位置関係を調整する必要がある。しかしながら、気泡噴出部材はガラス等を引き切って作成することから気泡噴出口は鋭利な形状となっており、局所インジェクションをする際に加工対象物を傷つけてしまうという新たな問題が発生した。
【0010】
更に、特許文献1に記載されている気液噴出部材は、気泡噴出部材に嵌めた位置決めワッシャに外側外郭部を外挿していることから、気泡噴出部材の気泡噴出口と外側外郭部先端との距離を変えることはできない。そのため、噴出したインジェクション物質を含む液体が界面に吸着した気泡(以下、「気液」と記載することがある。)が加工対象物に到達するまでにエネルギーを損失し、加工対象物によっては、気液が加工対象物に跳ね返されてしまうという新たな問題が発生した。そのため、気泡噴出部材に印加する電圧を高くして気液の衝突エネルギーを大きくする必要があるが、上記のとおり、高電圧を印加すると、気泡噴出部材の先端部分が破損してしまうという新たな問題が発生した。
【0011】
本発明は、上記問題点を解決するためになされた発明であり、鋭意研究を行ったところ、(1)絶縁材料を引き切って作成した延伸部の先端を肉厚にすることで、気泡噴出部材に高電圧を印加しても先端部分が破損しないこと、(2)先端部分が肉厚となるため、加工対象物を突き刺して破損し難くなること、(3)先端部分を肉厚に加工する際に、気泡噴出口の口径を小さくできるので、先端部分が破損することなく加工対象物をより微細加工できること、(4)気泡噴出部材と外側外郭部とが相対移動できるように気液噴出部材を作製することで、局所アブレーション又は局所インジェクションする際の気泡噴出部材と加工対象物の位置調整が容易になること(5)そして、外側外郭部を加工対象物に押し当てることでインジェクション物質を含む溶液が外側外郭部から外に漏れだすことを防止でき、その状態で気泡噴出部材と加工対象物の位置関係を調整できる。そのため、本発明の気液噴出部材を含んだ局所アブレーション装置又は局所インジェクション装置は大気中でも使用することができ、例えば、針なし注射装置へ応用が可能であること、を新たに見出した。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、気泡噴出部材、気液噴出部材、局所アブレーション装置及び局所インジェクション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下に示す、気泡噴出部材、気液噴出部材、局所アブレーション装置及び局所インジェクション装置に関する。
【0014】
(1)導電材料で形成された芯材、
絶縁材料で形成され、前記芯材の先端より延伸した延伸部を含み、且つ前記芯材に少なくとも一部が密着して芯材を覆う外郭部、及び、
前記延伸部及び前記芯材の先端との間に形成され且つ気泡噴出口を有する空隙、
を含む気泡噴出部材において、
前記延伸部の先端に、他の延伸部より肉厚の肉厚部が形成されていることを特徴とする気泡噴出部材。
(2)上記(1)に記載の気泡噴出部材、及び、
前記気泡噴出部材の外郭部の外側に形成され、前記外郭部との間に空間を有するように前記外郭部から離間した位置に形成した外側外郭部、
を含むことを特徴とする気液噴出部材。
(3)前記外側外郭部と前記気泡噴出部材とが、相対移動が可能となるように形成されていることを特徴とする上記(2)に記載の気液噴出部材。
(4)前記外側外郭部の端部が、伸縮部材を介して前記気泡噴出部材に接続していることを特徴とする上記(3)に記載の気液噴出部材。
(5)前記外側外郭部と前記気泡噴出部材が相対移動する際のガイドの役割をする狭窄部が、前記外側外郭部に形成されていることを特徴とする上記(2)〜(4)の何れか一に記載の気液噴出部材。
(6)前記気液噴出部材の芯材とで一対の電極を構成する対向電極を更に含み、
前記対向電極が、前記外郭部の外面又は前記外側外郭部の内面に形成されていることを特徴とする上記(2)〜(5)の何れか一に記載の気液噴出部材。
(7)前記外側外郭部の先端部分が、他の外側外郭部より肉厚に形成されていることを特徴とする上記(2)〜(6)の何れか一に記載の気液噴出部材。
(8)上記(1)に記載の気泡噴出部材、又は上記(2)〜(7)の何れか一に記載の気液噴出部材を含む局所アブレーション装置。
(9)上記(2)〜(7)の何れか一に記載の気液噴出部材を含む局所インジェクション装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明の気泡噴出部材は先端部分が肉厚となっているので、本発明の気泡噴出部材又は気液噴出部材を用いた局所アブレーション装置は、高電圧を印加しても先端部分が破損し難くなる。したがって、噴出する気泡の衝突エネルギーを大きくすることができるので、より固い加工対象物であっても局所アブレーションすることができる。また、気泡噴出部材の気泡噴出口は、肉厚加工の際に小さくできるので、加工対象物を微細加工することができる。更に、本発明の気泡噴出部材は、先端を平面状にできるので局所インジェクション時に加工対象物を損傷し難い。
【0016】
本発明の気液噴出部材は、気泡噴出部材と外側外郭部とが相対移動できるように作製されている。したがって、本発明の気液噴出部材を用いた局所アブレーション装置又は局所インジェクション装置を用いて加工対象物を局所アブレーション又は局所インジェクションする場合、加工対象物と気泡噴出口の位置調整を容易に行うことができる。更に、位置調整の際には、外側外郭部を加工対象物に押し当てることで導電性溶液又はインジェクション物質を含む溶液が外に漏れだすことを防止でき、その状態で気泡噴出部材と加工対象物の位置関係を調整できるので、本発明の局所アブレーション装置又は局所インジェクション装置は大気中でも使用することができる。したがって、例えば、針なし注射装置として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の気泡噴出部材1の作製方法の一例を示す図である。
図2図2は、本発明の気液噴出部材10の実施形態の一例の作製方法を示す図である。
図3図3は、外側外郭部13の他の作製手順を示す図である。
図4図4は、局所アブレーション装置20の全体構成を示す図である。
図5図5は、本発明の局所インジェクション装置の実施形態の一例を示す図である。
図6図6(1)は、図面代用写真で、実施例1で作製した気泡噴出部材1の先端部分の写真である。図6(2)は、図面代用写真で、比較例1で作製した気泡噴出部材1の先端部分の写真である
図7図7は、図面代用写真で、実施例2で作製した局所インジェクション装置の全体写真、並びに、気液噴出部材10の先端部分及び伸縮部分を拡大した写真である。
図8図8は、図面代用写真で、図8(1)は実施例2で作製した局所インジェクション装置の先端を加工対象物に押し当てる前の写真で、図8(2)は加工対象物に先端を押し付けた後の写真である。
図9図9は、図面代用写真で、実施例3で作製した局所インジェクション装置の全体写真、並びに、気液噴出部材10の先端部分及び伸縮部分を拡大した写真である。
図10図10は、図面代用写真で、図10(1)は実施例4において電力を印加する前の気泡噴出部材1の先端部分の写真、図10(2)は電力の印加により破損した直後の先端部分の写真である。また、図10(3)は比較例3において電力を印加する前の気泡噴出部材1の先端部分の写真、図10(4)は電力の印加により破損した直後の先端部分の写真である。
図11図11は、図面代用写真で、図11(1)は、実施例5においてアフリカツメガエル未受精卵に気泡を噴出した直後の写真である。図11(2)は、比較例4においてアフリカツメガエル未受精卵に気泡を噴出した直後の写真である。
図12図12は、図面代用写真で、図12(1)〜(4)は実施例6において、アフリカツメガエル未受精卵に局所インジェクションを行った際の時系列の写真である。図12(5)〜(8)は比較例5において、アフリカツメガエル未受精卵に局所インジェクションを行った際の時系列の写真である。
図13図13は、実施例6の気泡を衝突させて10秒経過後の未受精卵に、水銀ランプを照射してCCDカメラで撮影した写真である。
図14図14は、実施例7で局所インジェクションを行った後のトマトの写真である。
図15図15は、図面代用写真で、局所インジェクション後のカイワレ大根の葉の暗視野での写真である。
図16図16は、図面代用写真で、局所インジェクション後の鶏ささみ肉の暗視野での写真である。
図17図17は、図面代用写真で、局所インジェクション後の玄米の暗視野での写真である。
図18図18は、図面代用写真で、本発明の局所インジェクション装置の他の実施形態で、実施例11で作製した局所インジェクション装置の外観を示す写真である。
図19図19は、図面代用写真で、本発明の実施例8で作製した局所インジェクション装置の先端部分の動きを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は本発明の気泡噴出部材1の作製方法の一例を示す図である。本発明の気泡噴出部材1は以下の手順により形成することができる。
(1)中空の絶縁材料2を準備し、前記中空の絶縁材料2に導電材料で形成された芯材3を挿入し、熱をかけて引き切る。
(2)絶縁材料2と芯材3の粘弾性の差により、芯材3の先端から絶縁材料2が更に延伸した延伸部4を含む外郭部5が、芯材3の外周に密着するように形成される。
(3)延伸部4の先端に加熱手段6を配置し、延伸部4に押し当てる。
(4)前記延伸部4の先端に肉厚部41が形成され、前記芯材3の先端部分と延伸部4で形成され且つ気泡噴出口8を有した空隙7を含む気泡噴出部材1を作製することができる。
(5)なお、局所アブレーション装置、又は局所インジェクション装置の電極に接続し易くするため、芯材3の周囲を導電性材料9で充填し、周りを絶縁材料91で被覆してもよい。
【0019】
絶縁材料2としては、電気を絶縁するものであれば特に限定はなく、例えば、ガラス、マイカ、石英、窒化ケイ素、酸化ケイ素、セラミック、アルミナ、等の無機系絶縁材料、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム等ゴム材料、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、シラン変性オレフィン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン系樹脂、弗素系樹脂、シリコン系樹脂、ポリサルファイド系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、セルロース系樹脂、UV硬化樹脂等の絶縁性樹脂が挙げられる。
【0020】
芯材3を形成する導電材料としては、電気を通す電極として使用できるものであれば特に制限はないが、好ましくは金属で、例えば、金、銀、銅、アルミニウム等、これらにスズ、マグネシウム、クロム、ニッケル、ジルコニウム、鉄、ケイ素などを少量加えた合金等が挙げられる。上記のとおり、空隙7は、芯材3の先端及び該先端から絶縁材料2が更に延伸した延伸部5とで形成されることから、絶縁材料2の粘弾性が芯材3の粘弾性より大きくなるように適宜材料を組み合わせればよく、例えば、絶縁材料2及び芯材3の組み合わせとしては、ガラス及び銅、ガラス及びプラチナ、ガラス及びアルミニウム、ガラス及び金、ガラス及び銀、ガラス及びニッケル、エポキシ樹脂及び銅、エポキシ樹脂及びプラチナ、エポキシ樹脂及びアルミニウム、エポキシ樹脂及び金、エポキシ樹脂及び銀、エポキシ樹脂及びニッケル、アクリル樹脂及び銅、アクリル樹脂及びプラチナ、アクリル樹脂及びアルミニウム、アクリル樹脂及び金、アクリル樹脂及び銀、アクリル樹脂及びニッケル、シリコン樹脂及び銅、シリコン樹脂及びプラチナ、シリコン樹脂及びアルミニウム、シリコン樹脂及び金、シリコン樹脂及び銀、シリコン樹脂及びニッケル等が挙げられる。
【0021】
なお、気泡噴出部材1を用いて気泡を噴出する際には、電気を出力すると空隙7で一端形成された気泡が引き千切られるように気泡噴出口8から噴出するので、気泡噴出部材1に外部から気体を供給する必要は無い。したがって、図1に示すように、本発明の芯材3は導電材料が延伸した中実な状態で形成され、芯材3の内部には空気を供給する管等は形成されていない。また、絶縁材料2と芯材3との粘弾性の差により、気泡噴出部材1の先端付近において、外郭部5の少なくとも一部は芯材3に密着するようになっている。
【0022】
噴出する気泡の大きさは、気泡噴出口8の直径を変えることで調整することができる。なお、局所アブレーション装置又は局所インジェクション装置を使用する際には、気泡噴出部材1の空隙7に毛管現象により電気を通す溶液(以下、「導電性溶液」と記載することがある。)を充填する必要がある。そのため、気泡噴出口8の直径は、毛管現象により導電性溶液が通過できる大きさである必要があり、約100nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましく、500nm以上が特に好ましい。一方、上限は、気泡を噴出することができ、且つ、加工対象物にダメージを与えない範囲であれば特に制限は無いが、細胞のアブレーションや動物等へのインジェクションに用いる場合は、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、15μm以下が特に好ましい。気泡噴出口8の直径は、加熱する際の温度及び引き切るスピード、及び加熱手段6の押圧具合によって調整することができる。
【0023】
加熱手段6は、絶縁材料2の融点以上の温度に加熱し、延伸部4の先端部分を溶融しながら押圧することで肉厚加工できるものであれば特に制限は無い。例えば、マイクロフォージ等の公知の装置を用いればよい。なお、従来の気泡噴出部材の延伸部4は、絶縁材料2を引き切ったものをそのまま用いていた。そのため、気泡噴出口8を小さくすればするほど、気泡噴出口8付近の延伸部4の厚さが薄くなり、加工対象物を傷つけやすかった。更に、噴出する気泡の指向性を向上するため、延伸部全体がテーパー状となるようなスピードで引き切っていたことからも、延伸部が薄肉となっていた。
【0024】
一方、本発明の気泡噴出部材1の気泡噴出口8の大きさは、加熱手段6で延伸部4の先端部分を溶融して調整することができる。したがって、芯材3及び絶縁材料2は、従来の気泡噴出部材1より大きいものを使用することができる。また、(1)所望とする気泡噴出口8より大きい状態、つまり、芯材3は引っ張ることで引き切られるが、延伸部4は粘弾性の差により引き切る前の肉厚の状態で引っ張ることを中止し、(2)延伸した部分を切断することで開口部を形成し、(3)次いで、加熱手段6で開口部を溶融し、肉厚部を形成しながら気泡噴出口8を形成することで、(4)延伸部4の厚みをより確保しつつ、気泡噴出口8を小さくすることができる。したがって、従来の気泡噴出部材1の気泡噴出口8と同じ大きさの気泡噴出口8を有する気泡噴出部材1を作製する場合、本発明の気泡噴出部材1は、延伸部4をより厚くすることができ、耐久性を向上することができる。なお、マイクロフォージで肉厚部を形成する際に、延伸部4の先端部分を肉厚にすれば破損し難くなるので肉厚部の形状について特に制限は無いが、延伸部4の内側が先端に向けてテーパー状となるように肉厚にすると、噴出する気泡の指向性を高めることができるので好ましい。
【0025】
なお、加工対象物を局所アブレーションする際に、加工対象物を傷つけないようにするためには、気泡噴出口8部分の延伸部4を加熱して押し込むことで肉厚にするとともに、加工対象物に接触する面が平面となるように加熱手段6で加工することが望ましい。
【0026】
図2は、本発明の気液噴出部材10の実施形態の一例の作製方法を示す図である。図2に示す気液噴出部材10は、以下の手順により形成することができる。
(1)図1に示す中空の絶縁材料2より内径の大きな絶縁材料11を準備し、熱をかけて引っ張る。
(2)引き切ることで、先端の尖った管12を作製する。
(3)管12の先端部分を、加熱手段6を用いて加熱する。
(4)管12の先端部分カットすることで、外側外郭部13を作製する。なお、図示はしていないが、先端部分をカットするとともに、気泡噴出部材1の延伸部4の先端部分と同様の手順により、外側外郭部13の先端部分に肉厚部を形成してもよい。
(5)外側外郭部13と気泡噴出部材1が相対移動する際に、気泡噴出部材1をガイドするための狭窄部を形成するために、加熱手段6を外側外郭部13に押し当てる。
(6)外側外郭部13に狭窄部14を形成する。
(7)第1リング15を埋め込んだワッシャ16を気泡噴出部材1にはめ込む。
(8)外側外郭部13を気泡噴出部材1の外側に挿入する。
(9)第1リング15と外側外郭部13の端部を伸縮部材17で接続することで、気液噴出部材10を作製する。
なお、上記工程において、狭窄部14は必要に応じて形成すればよく、狭窄部14の形成は必須ではない。
【0027】
絶縁材料11は、上記絶縁材料2と同じ材料を用いればよい。狭窄部14を形成する場合は、気泡噴出部材1が移動する際の位置ズレを抑えるため、少なくとも3か所に対称形となるように形成することが好ましい。第1リング15も、絶縁材料2と同様の材料を用いればよい。ワッシャ16は、ポリマーフィルム、シリコン、ゴム、又はPDMS(ポリジメチルシロキサン)を使用したソフトリソグラフィー・3次元光造形法等の方法により作製したものを使用すればよい。伸縮部材17は、第1リング15と外側外郭部13の端部に接続することができ、且つ伸縮することで気泡噴出部材1と外側外郭部13を相対移動することができれば特に制限は無く、例えば、PDMSシート、ゴム、バネ等が挙げられる。伸縮部材17は、加工対象物に当接していない状態では、外側外郭部13が気泡噴出口8より前方に位置するように押出す方向に力がかかっていることが望ましいので、伸縮部材17は押圧を止めると元の形状に戻る材料で形成することが好ましい。
【0028】
図3は、外側外郭部13の他の作製手順を示す図である。図3に示す外側外郭部13は、絶縁材料11に熱をかけて引っ張り、加熱部分が気泡噴出部材1の外径よりやや大きくなった状態で止めることで、作製することができる。図2の(8)、(9)の外側外郭部13として、図3に示す外側外郭部13を用いることで、図2とは異なる実施形態の気液噴出部材10を作製することができる。加工対象物が細胞等の小さいものの場合は、図2に示す実施形態の気液噴出部材10を用いればよい。また、ヒトなどの動物に局所インジェクションする場合、外側外郭部13の開口部分が小さいとヒトや動物を傷つける可能性があるので、図3に示すような開口部分の大きな外側外郭部13を含む気液噴出部材10を用いればよい。
【0029】
なお、図2に示す作製手順では、第1リング15と外側外郭部13を伸縮部材17で接続しているが、気泡噴出部材1と外側外郭部13とが相対移動でき、且つ、気泡噴出部材1と外側外郭部13の間に充填した導電性溶液が漏れないような構造であれば特に制限は無い。例えば、外側外郭部13の端部に第2リングを取り付け、第1リング15と第2リングとを伸縮部材17で接続してもよいし、第1リング15を形成せず、伸縮部材17の一方の端部を外側外郭部13の端部に接着し、伸縮部材17の他方の端部を気泡噴出部材1に接着してもよい。また、伸縮部材17は、単一の材料に限定されず材料を組み合わせて形成してもよい。例えば、バネ等の隙間がある伸縮可能な材料を第1リング15と外側外郭部13の端部に嵌めて接着剤で固定した後、バネ等の周りを導電性溶液が漏れないように薄膜フィルムで密閉することで伸縮部材17を形成してもよい。
【0030】
なお、本発明の「外側外郭部と前記気泡噴出部材とが、相対移動が可能となるように形成されている」とは、図2及び図3に示している形状が変化しない硬質の外側外郭部13を、伸縮部材17を介して気泡噴出部材1と相対移動が可能となるように接続している例に限定されず、外側外郭部13の端部と気泡噴出部材1の気泡噴出口8の位置関係を変えることができる構造であれば特に制限はない。例えば、外側外郭部13全体を樹脂等の材料で形成し、その一部を蛇腹状にすることで外側外郭部13の一部を伸縮し易い構造にしてもよい。また、外側外郭部13全体を可撓性のある材料で形成し、加工対象物に押し付けることで外側外郭部13が外側に膨らみ、気泡噴出部材1の位置を調整できるようにしてもよい。
【0031】
なお、上記した気液噴出部材10は、気泡噴出部材1と外側外郭部13とが、相対移動が可能となるように形成したものであるが、本発明の気泡噴出部材1は従来の気泡噴出部材と比較して優れた効果を示すものであることから、公知の気液噴出部材の気泡噴出部材のみを本発明の気泡噴出部材1に置き換えてもよい。その場合は、例えば、ポリマーフィルムやゴムワッシャ、PDMS(ポリジメチルシロキサン)を使用したソフトリソグラフィー・3次元光造形法等の方法により作製した位置決めワッシャを図1に示す気泡噴出部材1に嵌め、図2(5)又は(6)に示す外側外郭部13をワッシャに外挿すればよい。
【0032】
図4は、局所アブレーション装置20の全体構成を示す図である。電気出力手段は、一般商用交流電源装置21、並びに気泡噴出部材1又は気液噴出部材10の芯材3(アクティブ電極)と対向電極22とで回路を形成するための電線23、を少なくとも含み、必要に応じて、無誘導抵抗24、電圧増幅回路25、図示しないDIO(Digital Input Output)ポート等を設けてもよい。電気出力手段は、従来の電気メス用電気回路に無誘導抵抗24やDIOポート等を組み込み、微小対象用の出力構成にセッティングすることで簡単に作成することができる。
【0033】
なお、対向電極22は、気泡噴出部材1又は気液噴出部材10とは別体として形成してもよいが、気液噴出部材10を用いる場合は、外郭部5の外面又は外側外郭部13の内面に配置してもよい。対向電極22を気液噴出部材10に設ける場合、対向電極22は芯材3と回路が形成できればよいので、気泡噴出部材1の外郭部5と外側外郭部13の間に充填される導電性溶液と接触する場所であれば特に制限は無い。対向電極22は、芯材3で例示した材料を使えばよい。
【0034】
電気出力手段から芯材3及び対向電極22に出力する電流、電圧及び周波数は、加工対象物を局所アブレーション、局所インジェクションすることができ、気泡噴出部材1、気液噴出部材10を損傷しない範囲であれば特に制限は無いが、例えば、電流は、1mA〜10Aが好ましく、1mA〜80mAがより好ましく、2mA〜75mAが特に好ましい。電流が1mAより小さいと気泡をうまく生成できないことがあり、10Aより大きいと電極摩耗を生じることとなり好ましくない。電圧は、0.1V〜100kVが好ましく、100V〜1800Vがより好ましく、200V〜1200Vが特に好ましい。電圧が0.1Vより小さいと気泡生成が困難となり、100kVより大きいと芯材3の摩耗や気泡噴出部材1が破損する恐れがあり好ましくない。周波数は、0.1kHz〜10GHzが好ましく、1kHz〜1GHzがより好ましく、5kHz〜1MHzが更に好ましく、10kHz〜60kHzが特に好ましい。周波数が0.1kHzより小さいと、加工対象物に与える衝撃が大きく、また、気泡噴出部材1が破損する恐れがあり、10GHzより大きいと気泡が生成できなくなる恐れがあり好ましくない。
【0035】
局所アブレーション装置を使用する場合は導電性溶液に気泡噴出部材1又は気液噴出部材10、及び対向電極22を浸漬し、電圧を印加すればよい。加工対象物としては、気泡を衝突させることで孔をあけたり、切削できる物であれば特に制限は無い。例えば、ヒトまたは非ヒト動物の組織から単離した幹細胞、皮膚細胞、粘膜細胞、肝細胞、膵島細胞、神経細胞、軟骨細胞、内皮細胞、上皮細胞、骨細胞、筋細胞、卵細胞等などや、植物細胞、昆虫細胞、大腸菌、酵母、カビなどの微生物細胞などの細胞、タンパク質等の有機結晶等が挙げられる。
【0036】
特許文献1において、本発明者らは、気泡噴出部材から噴出する気泡がインジェクション物質を吸着できることを明らかにしている。芯材3に通電することで発生した気泡は電気を帯びており、電気によりインジェクション物質が気泡に吸着すると考えられる。したがって、気液噴出部材10を用いて局所アブレーションを行う際に、気液噴出部材10を浸漬する導電性溶液にインジェクション物質を含ませると、インジェクション物質が周りに吸着した気泡を噴出することができる。そのため、加工対象物を局所アブレーションしながらインジェクション物質を導入する局所インジェクション装置として使用することができる。
【0037】
インジェクション物質は、気体、固体、液体を問わず、溶液に溶解及び/又は分散できるものであれば特に制限は無く、気体としては空気、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、一酸化炭素、アルゴン、酸素等が挙げられ、液体としては、DNA、RNA、タンパク質、アミノ酸等の生体分子を含有する溶液、薬剤溶液等が挙げられる。
【0038】
図5は、本発明の局所インジェクション装置の実施形態の一例を示す図である。本発明の局所インジェクション装置も、従来と同様に導電性溶液に気液噴出部材10を浸漬して用いることができる。しかしながら、本発明の気液噴出部材10は、図5(1)に示すように、気液噴出部材10の外側外郭部13の内側の空間にインジェクション物質を含む溶液(以下、「インジェクション溶液」と記載することがある。)を充填し、加工対象物30に当接することでインジェクション溶液が外に漏れないようにし、そして、図5(2)に示すように、気泡噴出部材1を押し込み、気泡噴出口8を局所インジェクションに適した位置に配置することができる。したがって、本発明の局所インジェクション装置は大気中で使用することができる。
【0039】
更に、上記のとおり、気泡噴出部材1の延伸部4には肉厚部41が形成されているので高電圧を印加することができることから、従来の細胞等の他、動物等への局所インジェクションに用いることができる。また、本発明の局所インジェクション装置は空気中で使用することができ、且つ、高電圧をかけることができるので、針なし注射装置として用いることもできる。特に、従来の注射針を用いる注射器は、針を刺される痛みに加え、針の使いまわしや使用済み針を誤って刺すことによるウィルス感染等の問題があるが、本発明の局所インジェクション装置を針なし注射装置として用いることで、上記の問題を解決することができる。
【0040】
気液噴出部材10の外側外郭部13の内側の空間へのインジェクション溶液の充填は、インジェクション溶液に気液噴出部材10の先端を浸漬して毛管現象により充填してもよいし、気泡噴出部材1と外側外郭部13の間の空間に、チューブ等を接続して注入してもよい。
【0041】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例】
【0042】
〔気泡噴出部材1の作製〕
<実施例1>
マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径1.37mm、内径0.93mm、Drummond Scientific Company)に直径30μmのCu線を挿入し、ガラスプラー(サッター社製、P−1000IVF)によって加熱しながら引き切ることで、ガラスをCu線より延伸させた。次いで、マイクロフォージ(MF−900、株式会社ナリシゲ)を使用し、延伸したガラスの先端部分を溶融しながら押し込むことで肉厚部を形成し、本発明の気泡噴出部材1を作製した。図6(1)は実施例1で作製した気泡噴出部材1の先端部分の写真である。写真から明らかなように、延伸部4の内側が先端に向けてテーパー状に肉厚になっていることが確認できた。また、芯材3の直径は約30μm、気泡噴出口8は直径約6μmの円形状であった。
【0043】
<比較例1>
延伸したガラスの先端部分を肉厚加工せず、引き切ったものを比較例1の気泡噴出部材とした。図6(2)は、比較例1で作製した気泡噴出部材1の先端部分の写真である。写真から明らかなように、延伸部4全体が薄肉で且つテーパー状に形成されていることを確認した。また、気泡噴出口8は直径約14μmの円形状であった。
【0044】
〔局所インジェクション装置(注射装置)の作製〕
<実施例2>
(1)外側外郭部13の作製
マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径2.03mm、内径1.68mm、Drummond Scientific Company)を、ガラスプラー(サッター社製、P−1000IVF)によって加熱しながら引き切った。引き切ったガラス管をマイクロフォージ(MF−900、株式会社ナリシゲ)にセットし、先端を直径約100μmになるようにカットした。更に、先端から約300μm後ろの位置にマイクロフォージを当接し、90°間隔で4か所加熱して狭窄部14を作製した。外側外郭部13の先端部分の内径は、約100μmであった。
【0045】
(2)局所インジェクション装置の組立
先ず、実施例1で作製した気泡噴出部材1を、Agペースト(H20E、株式会社理経)を用いて医療用電気メス(ConMed社製、714−S)に接続した。その後、ホットプレートで、120℃、15分間加熱し、接続部を硬化させた。
次に、OHPフィルム(住友スリーエム株式会社)の上に真空脱泡を30分間かけたPDMS(溶剤:硬化剤=25:1)(東レ・ダウコーニング(株))を塗布し、スピンコーターで4000rpm、20秒間スピンコートした。その後、オーブンにて120℃、60分間加熱硬化させた。
そして、マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径2.03mm、内径1.68mm、Drummond Scientific Company)を1.5cm程度にカットしたものに、シリコンチューブ(内径2mm、外径3mm)を2cmほどに切ったものを被せ、更にシリコンチューブの中央に切れ目を入れ、切れ目の部分から気泡噴出部材1の根本まで挿入し、空気の漏れのないよう接着剤(スーパーX、セメダイン株式会社)で結合した。最後に、上記(1)で作製した外側外郭部13を気泡噴出部材1に外挿し、上記1.5cm程度にカットしたガラス管の端部と外側外郭部13の端部を約3mm程度離した位置で、先に作製した上記のPDMSシートをOHPフィルムから剥がしてガラス管と外側外郭部13の端部同士をラッピングして結合することで、実施例2の局所インジェクション装置を作製した。図7は、実施例2で作製した局所インジェクション装置の全体写真、並びに、気液噴出部材10の先端部分及び伸縮部分を拡大した写真である。
【0046】
また、図8は実施例2で作製した局所インジェクション装置を使用する際の先端部分の動きを示す写真である。図8(1)は実施例2で作製した局所インジェクション装置の先端を加工対象物に押し当てる前の写真で、図8(2)は加工対象物に先端を押し付けた後の写真である。図8に示すように、気泡噴出部材1と外側外郭部13が相対移動し、加工対象物と気泡噴出口8の位置関係を調整できることが明らかとなった。
【0047】
<実施例3>
(1)外側外郭部13の作製
マイクロピペット用ボロシリケイトガラス管(外径2.03mm、内径1.68mm、Drummond Scientific Company)を、ガラスプラー(サッター社製、P−1000IVF)によって加熱しながら引き、中央にくびれ構造を作り、くびれ構造の両端を適度な長さにカットすることで外側外郭部13を作製した。外側外郭部13の内径は約1.6mmであった。
【0048】
(2)局所インジェクション装置の組立
次に、真空脱泡を30分間かけたPDMS(溶剤:硬化剤=10:1)(東レ・ダウコーニング(株))を、約7cm×7cm×3cmのプラスチック製のトレイに高さが3mm程になるように流し込み、さらに真空脱泡を20分間かけた後に、90℃のオーブンで20分間ベークした。その後、硬化したPDMSをプラスチック容器から取り出し、穴径8mmの生検トレパン(貝印(株))でくり抜き、更にその中心を穴径2mmの生検トレパン(貝印(株))でくり抜いてリングスペーサーを作製した。
次に、実施例2の(2)の手順において、1.5cm程度にカットしたガラス管の端部に上記リングスペーサーを挿入し、外側外郭部13を実施例3(1)で作製した外側外郭部13の端部に上記リングスペーサーを挿入したものに代え、2つのリングスペーサーを約1cm程度離し、2つのリングスペーサーをPDMSシートでラッピングした以外は、実施例2と同様の手順で局所インジェクション装置を作製した。図9は、実施例3で作製した局所インジェクション装置の全体写真、並びに、気液噴出部材10の先端部分及び伸縮部分を拡大した写真である。
【0049】
<比較例2>
実施例2の気泡噴出部材1に代え、比較例1の気泡噴出部材を用いた以外は、実施例2と同様の手順で局所インジェクション装置を作製した。なお、気泡噴出口8を加工対象物に近付けるようにするため、気泡噴出口8と外側外郭部13は、ほぼ同じ平面状になるように配置した。
【0050】
〔気泡噴出部材1の先端の強度試験〕
<実施例4>
実施例3で作製した局所インジェクション装置の気液噴出部材10及び銅板で作製した対向電極22を、Steinberg溶液(NaCl 3.4g/L、KCl 0.05g/L、Ca(NO32・4H2O 0.08g/L、MgSo4・7H2O 0.205g/L、HEPES 0.715g/L、超純水 1L)に浸漬した。次いで、芯材3と対向電極22に印加する電力を徐々に上げたところ、約8.80mA、2160Vで気泡噴出部材1の先端部分が破損した。図10(1)は電力を印加する前の気泡噴出部材1の先端部分の写真、図10(2)は電力の印加により破損した直後の先端部分の写真である。図10(2)の矢印は破損箇所を示しており、芯材3と外郭部5の境界付近で外郭部5が破損していた。
【0051】
<比較例3>
実施例3の局所インジェクション装置に代え、比較例2の局所インジェクション装置を用いた以外は、実施例4と同様に電力を印加したところ、約5.33mA、1560Vで気泡噴出部材1の先端部分が破損した。図10(3)は電力を印加する前の気泡噴出部材1の先端部分の写真、図10(4)は電力の印加により破損した直後の先端部分の写真である。図10(4)の矢印は破損箇所を示しており、延伸部4の先端部分が破損していた。
【0052】
以上の結果より、気泡噴出部材1の先端に肉厚部を形成することで、気泡噴出部材1に印加する電力を高くできることが明らかとなった。
【0053】
〔局所インジェクション装置による加工対象物の損傷実験〕
<実施例5>
実施例2で作製した局所インジェクション装置の気泡噴出口8(口径6μm)を、顕微鏡下で観察しながら、PDMSで作製した卵子把持具で固定したアフリカツメガエル未受精卵(以下、「未受精卵」と記載することがある。)に反対側から近付け、次いで、1.8mA,440Vの電力を印加した。図11(1)は、電力を印加して気泡を噴出した直後の写真である。未受精卵に気泡を噴出すると、気泡の衝突エネルギーで未受精卵は気泡の進行方向に一端押し込まれるが、気泡の噴出を止めると反作用で未受精卵が気泡噴出口8側に押し戻されて気泡噴出口8に接触することがある。しかしながら、気泡噴出部材1の先端は平面上になっていることから未受精卵を損傷することは無かった。
【0054】
<比較例4>
比較例2で作製した局所インジェクション装置を用いた以外は、実施例5と同様に、気泡噴出口8(口径14μm)を、未受精卵に近付け、電力を印加した。図11(2)は、電力を印加して気泡を噴出した直後の写真である。比較例4では、気泡噴出部材の先端が尖っていることから、未受精卵が反作用で気泡噴出口8側に変形した際に、未受精卵に気泡噴出口8が突き刺さってしまった。
【0055】
<実施例6>
実施例5で、本発明の気泡噴出部材1を用いると、気泡噴出時に未受精卵を傷つけないことを確認したが、局所インジェクションの一連の操作による未受精卵への影響を調べた。なお、未受精卵の損傷程度を観察するため、Steinberg溶液には蛍光試薬(Dextran, Alexa FluorR 594 10,000 MW; ライフテクノロジーズ・ジャパン社製)を添加した。未受精卵が損傷して内容物が外部に漏れだすと蛍光試薬が内容物と結合し可視化することができる。その他の手順は実施例5と同様に行った。図12(1)は電力の印加前(t=0秒)、図12(2)は電力を印加し噴出した気泡を衝突させた瞬間(t=0.3秒)、図12(3)は気泡噴出口8を未受精卵から離した直後(t=5秒)、図12(4)は気泡を衝突させた後、10秒経過した後の写真である。
【0056】
<比較例5>
比較例2で作製した局所インジェクション装置を用いた以外は、実施例6と同様の手順で電力を印加した。図12(5)は電力の印加前(t=0秒)、図12(6)は電力を印加し噴出した気泡を衝突させた瞬間(t=0.3秒)、図12(7)は気泡噴出口8(口径14μm)を未受精卵から離した直後(t=5秒)、図12(8)は気泡を衝突させた後、10秒経過した後の写真である。
【0057】
図12から明らかなように、従来の気液噴出部材10を用いた場合は、未受精卵から中身が飛び出してしまうことが確認できた。これは、従来の気液噴出部材10の気泡噴出口8の口径が大きいため未受精卵に気泡が衝突する際の衝撃が大きいこと、及び気泡噴出口8の先端部分がガラスを引き切ったものであることから、気泡噴出時に気泡噴出口8が未受精卵を傷つけた可能性があるためと考えられる。
【0058】
一方、本発明の局所インジェクション装置を用いると、気泡噴出部材1の先端部分は肉厚で滑らかな形状であるため、気泡噴出部口8を未受精卵に近付ける際に、未受精卵を損傷し難い。更に、気泡噴出口8の直径が従来の気泡噴出部材1の直径より小さいことから、気泡が未受精卵に衝突する際に与える衝撃が少なかったためと考えられる。
【0059】
図13は、実施例6の気泡を衝突させて10秒経過後の未受精卵に、水銀ランプを照射してCCDカメラで撮影した写真である。図13の写真の矢印に示すように、蛍光試薬が局所的にインジェクションされていることが確認できた。以上の結果より、本発明の局所インジェクション装置を用いることで、加工対象物の損傷を抑えながら、局所インジェクションを行えることが確認できた。
【0060】
〔局所インジェクション装置(注射装置)を用いた空気中でのインジェクション〕
<実施例7:トマトへのインジェクション>
気泡噴出口の直径が4μmの気泡噴出部材1を用いた以外は、実施例3と同様の手順で局所インジェクション装置を作製した。次いで、外側外郭部13の内部に実施例4のSteinberg溶液を充填しトマトに押し付けた。また、対向電極22をトマト底面に接するように配置した。次いで、2.3mA、1740Vの電圧を印加した。図14は、局所インジェクション後のトマトの写真で、矢印の部分がインジェクションをした場所である。
【0061】
<実施例8:カイワレ大根の葉への局所インジェクション>
実施例3で作製した外側外郭部13の内部に、純水を充填し、カイワレ大根の葉に押し付けた。なお、純水には、蛍光試薬(Fluorescein Isothiocyanate−Dextran(10,000MW;SIGMA−Aldrich社製)を添加した。また、対向電極22をカイワレ大根の葉の裏側に配置した。次いで、81.8mA、1.3kVの電圧を印加した。図15は局所インジェクション後のカイワレ大根の葉の暗視野での写真である。図15に示すように、蛍光が確認されたことから、カイワレ大根の葉に蛍光試薬をインジェクションすることができた。
【0062】
<実施例9:鶏ささみ肉への局所インジェクション>
直径30μmのCu線に代え、直径100μmのCu線を用いた以外は、実施例1と同様の手順で気泡噴出部材1を作製した。芯材の直径は約100μm、気泡噴出口8は直径約6μmの円形状であった。次に、作製した気泡噴出部材1を用いた以外は実施例3と同様の手順で、局所インジェクション装置を作製した。
作製した局所インジェクション装置の外側外郭部13の内部に、NaCl溶液(0.9%w/v)を充填し、鶏ささみ肉に押し付けた。NaCl溶液には、蛍光ビーズ(φ2.1μm;Thermo Scientrific社製)を添加した。なお、実施例9で蛍光ビーズを用いたのは、実施例8の蛍光試薬は鶏ささみ肉に染み込んでしまうためである。また、対向電極22は鶏ささみ肉の下に置いた。次いで、200mA、1.3kVの電圧を印加した。図16は局所インジェクション後の鶏ささみ肉の暗視野での写真である。図16に示すように、鶏ささみ肉に蛍光ビーズを局所インジェクションすることができた。
【0063】
<実施例10:玄米(もみ殻除去後)へのインジェクション>
鶏ささみ肉に代え玄米(もみ殻除去後)を用い、該玄米をPDMSで作製した治具に固定し、対向電極22を気泡噴出部材1と外側外郭部13の間のNaCl溶液に接するように配置し、420mA、1.8kVの電圧を印加した以外は、実施例9と同様の手順で局所インジェクションを行った。図17は局所インジェクション後の玄米の暗視野での写真である。図17に示すように、玄米に局所インジェクションすることができた。
【0064】
実施例7〜10に示すように、本発明の局所インジェクション装置を用いると、空気中で、柔らかいものから硬い加工対象物に対して局所インジェクションができることを確認した。
【0065】
〔局所インジェクション装置(注射装置)の他の実施形態の作製〕
<実施例11>
実施例2の外側外郭部13に代え、PDMSを用いて中空円筒形状になるようにプラスチック型やガラス・金属棒を用いて転写及び3次元形状に成形することで、外側外郭部13全体をPDMSで作製した。図18は、作製した局所インジェクション装置の外観を示す写真である。
【0066】
図19は実施例11で作製した局所インジェクション装置の先端部分の動きを示す写真である。図19(1)は押し当てる前の写真、図19(2)は押し当てた後の写真、そして、図19(1)及び(2)の上段は外側外郭部13の全体写真で、下段は先端部分を拡大した写真である。図19から明らかなように、外側外郭部13全体を可撓性のある材料を用いて形成することで、伸縮部材17を使用しなくても、気泡噴出部材1と外側外郭部13とを相対移動し、加工対象物と気泡噴出口8の位置関係を調整できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明に係る気泡噴出部材、気液噴出部材、局所アブレーション装置及び局所インジェクション装置を用いることで、従来技術と比較して、加工対象物をより微細加工することができる。更に、本発明の局所インジェクション装置は大気中でも使用することができ、針なし注射装置として用いることもできる。したがって、医療機関、大学、企業などの研究機関等において、加工対象物の微細加工に用いることができる他、医療機関、畜産・農林水産機関等において針なし注射装置として用いることもできる。
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