特許第6385514号(P6385514)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6385514永久磁石モータのロータ位置を決定する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385514
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】永久磁石モータのロータ位置を決定する方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/18 20160101AFI20180827BHJP
【FI】
   H02P6/18
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-87292(P2017-87292)
(22)【出願日】2017年4月26日
(65)【公開番号】特開2017-200433(P2017-200433A)
(43)【公開日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年4月26日
(31)【優先権主張番号】1607290.2
(32)【優先日】2016年4月26日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】508032310
【氏名又は名称】ダイソン テクノロジー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100123607
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 徹
(72)【発明者】
【氏名】リボ チェン
【審査官】 池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−188135(JP,A)
【文献】 特開2015−002676(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0340982(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0194734(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレス永久磁石モータのロータの位置を決定する方法であって、
前記モータの相巻線を励起してフリーホイールさせ、ここで、前記相巻線は、相電流が上側閾値を越えるときにフリーホイールされ、フリーホイールは、(i)固定された期間にわたるフリーホイール、又は、(ii)前記相電流が下側閾値よりも低下するまでのフリーホイールであり、
更に、(i)前記相巻線が、固定された期間にわたってフリーホイールされるとき、フリーホイール中又はフリーホイール終了時の相電流の大きさに一致するパラメータを測定し、(ii)相電流が前記下側閾値よりも低下するまで前記相巻線がフリーホイールされるとき、フリーホイールの開始と終了の間の時間間隔、及び、励起の開始と終了の間の時間間隔のいずれかに一致するパラメータを測定し、
前記測定したパラメータを用いて、整列位置よりも前の所定の角度位置に一致する飽和閾値を定め、
前記相巻線を順次励起してフリーホイールさせ、ここで、前記相巻線は、相電流が上側閾値を越えるときにフリーホイールされ、フリーホイールは、(i)固定された期間にわたるフリーホイール、又は、(ii)前記相電流が下側閾値よりも低下するまでのフリーホイールであり、
更に、(i)前記相巻線が、固定された期間にわたってフリーホイールされるとき、フリーホイール中又はフリーホイール終了時の相電流の大きさに一致するパラメータを測定し、(ii)相電流が前記下側閾値よりも低下するまで前記相巻線がフリーホイールされるとき、フリーホイールの開始と終了の間の時間間隔、及び、励起の開始と終了の間の時間間隔のいずれかに一致するパラメータを測定し、
測定したパラメータを飽和閾値と比較し、
前記測定したパラメータが前記飽和閾値よりも小さいとき、前記ロータが前記所定の角度位置にあることを決定する、方法。
【請求項2】
前記測定したパラメータを使用して、飽和閾値を定めることは、前記測定したパラメータから、固定されたオフセット値を引き算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ロータが前記所定の角度位置にあることを決定することに応答して、更に、整流期間の経過後に前記相巻線を整流する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記整流期間の長さは、前記ロータの速度に依存する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法を実行する、永久磁石モータ用の制御システム。
【請求項6】
請求項5に記載の制御システムであって、
前記制御システムは、インバータと、ゲートドライバモジュールと、コントローラと、電流センサとを有し、前記インバータは、前記相巻線に結合され、前記ゲートドライバモジュールは、前記コントローラによって出力された制御信号に応答して前記インバータのスイッチの開閉を駆動し、前記電流センサは、前記相電流の測定値を提供する信号を前記コントローラに出力し、前記コントローラは、前記相巻線を順次励起してフリーホイールさせる制御信号を出力し、前記測定したパラメータを前記飽和閾値と比較し、前記測定したパラメータが前記飽和閾値よりも小さいとき、前記ロータが前記所定の角度位置にあることを決定する、制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石モータのロータ位置を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータの相巻線を正しい時点で整流するために、ロータの位置を知ることが本質的である。永久磁石モータは、しばしば、ロータ位置を示す信号出力するホール効果センサを含む。センサの構成要素のコストは比較的安価であるが、センサをモータに一体化すると、しばしばモータの設計及び製造が複雑になる。加えて、センサによって出力される信号は、しばしば、モータ内に生じる電磁ノイズに敏感である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/132249号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロータの位置を間接的に決定するセンサレス手法も知られている。永久磁石モータでは、相巻線に誘起される逆起電力の極性の遷移を用いて、ロータの位置を決定する。しかしながら、逆起電力の大きさはロータの速度に比例するので、低速時には、逆起電力の極性の遷移を信頼できるように常に決定することができるわけではない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ブラシレス永久磁石モータのロータの位置を決定する方法であって、モータの相巻線を励起してフリーホイールさせ、ここで、相巻線は、相電流が上側閾値を越えるときにフリーホイールされ、フリーホイールは、(i)固定された期間にわたるフリーホイール、又は、(ii)前記相電流が下側閾値よりも低下するまでのフリーホイールであり、更に、(i)相巻線が、固定された期間にわたってフリーホイールされるとき、フリーホイール中又はフリーホイール終了時の相電流の大きさに対応するパラメータを測定し、(ii)相電流が下側閾値よりも低下するまで相巻線がフリーホイールされるとき、フリーホイールの開始と終了の間の時間間隔、及び、励起の開始と終了の間の時間間隔のいずれかに対応するパラメータを測定し、測定したパラメータを用いて飽和閾値を定め、相巻線を順次励起してフリーホイールさせ、ここで、相巻線は、相電流が上側閾値を越えるときにフリーホイールされ、フリーホイールは、(i)固定された期間にわたるフリーホイール、又は、(ii)相電流が下側閾値よりも低下するまでのフリーホイールであり、更に、(i)相巻線が、固定された期間にわたってフリーホイールされるとき、フリーホイール中又はフリーホイール終了時の相電流の大きさに対応するパラメータを測定し、(ii)相電流が下側閾値よりも低下するまで相巻線がフリーホイールされるとき、フリーホイールの開始と終了の間の時間間隔、及び、励起の開始と終了の間の時間間隔のいずれかに対応するパラメータを測定し、測定したパラメータを飽和閾値と比較し、測定したパラメータが飽和閾値よりも小さいとき、ロータが所定の位置にあることを決定する、方法を提供する。
【0006】
本発明の方法は、ロータの位置を決定するために、逆起電力に依存しない。その代わりに、この方法は、ロータが1つの整列位置から次の整列位置に回転するときに生じる相巻線のインダクタンスの変化を利用する。ロータが整列位置に近づくにつれて、相巻線のインダクタンスが減少する。その結果、励起中に相電流が上昇する速度、及び、フリーホイール中に相電流が低下する速度が増大する。相巻線を、固定された期間にわたってフリーホイールさせることによって、ロータが整列位置に近づくにつれて、フリーホイール終了時の相電流の大きさが減少する。変形例として、相電流を上側閾値と下側閾値との間で往復させることによって、励起中に相電流が上側閾値まで上昇するのにかかる時間が、フリーホイール中に相電流が下側閾値まで低下するのにかかる時間と同様に減少する。これらのパラメータのうちの1つを測定し、それを飽和閾値と比較することによって、ロータの位置を決定する。
【0007】
大量生産されたモータに同じ飽和閾値を使用すると、各モータの電磁特性の公差は、ロータの所定の位置を信頼できるように決定できないことを意味することがある。加えて、相巻線のインダクタンスは、モータ、特にロータの温度の変化に敏感であることがある。相巻線のインダクタンスは、励起中及びフリーホイール中に相電流が増大又は減少する速度に影響を及ぼすので、固定された飽和閾値を使用し且つモータの温度が変化すると、ロータの位置が十分に決定されないことがある。ステータが飽和していないときのパラメータを測定し、次いで、測定したパラメータから、固定されたオフセット値を引き算することによって、各モータに固有であり且つモータの温度の変化に敏感な飽和閾値が取得される。その結果、ロータの位置をさらに信頼できるように決定することができる。
【0008】
飽和閾値は、測定したパラメータから、固定されたオフセット値を引き算することによって定めるのがよい。これは、比較的簡単で安価なコントローラを用いて上記方法を実行できる利点がある。
【0009】
ロータが所定の位置にあることの決定に応答して、上記方法は、整流期間の経過後に相巻線を整流する。飽和閾値は、ロータが整列位置又はその非常に近くにあるときにだけ、測定したパラメータが、飽和閾値よりも小さくなるように定められるのがよい。この場合、上記方法は、測定したパラメータが飽和閾値よりも小さいとき、相巻線を直ちに整流する。しかしながら、この手法の難点は、飽和閾値の設定が小さすぎるとき、測定したパラメータが飽和閾値よりも小さいことを上記方法が検出しそこない、かくして、整列位置を完全に見逃すことがある点である。従って、飽和閾値は、ロータが小さい角度だけ回転した後に、測定したパラメータが飽和閾値よりも小さくなるように、比較的大きい値に定められるのがよい。例えば、飽和閾値は、ロータが電気角180度ではなく電気角160度だけ回転した後、測定したパラメータが飽和閾値よりも小さくなるように定められる。この場合、整流期間は、ロータが、残りの角度にわたって、例えば電気角20度回転するように定められる。その結果、相巻線は、整列位置で整流される。比較的大きい飽和閾値(すなわち、電気角180度ではなく、電気角160度に対応する飽和閾値)を採用することによって、上記方法が飽和イベント(すなわち、測定したパラメータが飽和閾値よりも小さくなる時点)を見逃す可能性は低くなる。その結果、相巻線は、より信頼できるように整列位置で整流される。
【0010】
固定された整流期間について、それに対応する電気角は、ロータの速度に依存する。従って、整流期間の長さは、ロータの速度に依存する。このことは、上記方法がロータの速度を測定すること含むことを必ずしも意味しない。例えば、上記方法を使用して、ロータの加速中にモータを制御してもよいし、上記方法は、各整流後の整流期間を減少させてもよい。
【0011】
本発明をさらに容易に理解するために、添付図面を参照して、本発明の実施形態を例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による永久磁石モータの概略図である。
図2】永久磁石モータのコントローラが発する制御信号に応答して許容されるインバータの状態の詳細を示す図である。
図3】始動中及び初期加速中の永久磁石モータの相電流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の永久磁石モータ1は、ロータ2と、ステータ3と、制御システム4を含む。
【0014】
ロータ2は、シャフト6に固着された4極永久磁石5を含む。ステータ3は、4つの突出極を有する1対のコア7と、コア7の周りに巻かれた相巻線8を含む。
【0015】
制御システム4は、インバータ10と、ゲートドライバモジュール11と、コントローラ12と、電流センサ13を含む。
【0016】
インバータ10は、4つの電源スイッチQ1〜Q4のフルブリッジを含み、フルブリッジは、相巻線8を電源(図示せず)の電圧線に結合する。
【0017】
ゲートドライバモジュール11は、コントローラ12が出力した制御信号に応答して、スイッチQ1〜Q4の開閉を駆動する。
【0018】
コントローラ12は、モータ1の作動を制御する役割を担い、3つの制御信号DIR1、DIR2、FW#を発生させる。これらの制御信号は、ゲートドライバモジュール11に出力され、ゲートドライバモジュール11は、これに応答して、スイッチQ1〜Q4の開閉を駆動する。
【0019】
DIR1が、論理的にハイに引かれ、DIR2が、論理的にローに引かれると、ゲートドライバモジュール11は、スイッチQ1、Q4を閉じ、スイッチQ2、Q3を開く。その結果、第1の極性を有する電圧が相巻線8に印加され、相巻線8の中を左から右に流れる電流を生じさせる。これとは逆に、DIR2が論理的にハイに引かれ、DIR1が論理的にローに引かれると、ゲートドライバモジュール11は、スイッチQ2、Q3を閉じ、スイッチQ1、Q4を開く。その結果、第1の極性と反対の第2の極性を有する電圧が相巻線8に印加され、相巻線8の中を右から左に流れる電流を生じさせる。従って、DIR1及びDIR2は、相巻線8に印加される電圧の極性を制御し、従って、相巻線8の中の電流の方向を制御する。DIR1及びDIR2が両方とも論理的にローに引かれると、ゲートドライバモジュール11は、全てのスイッチQ1〜Q4を開く。
【0020】
FW#が論理的にローに引かれると、ゲートドライバモジュール11は、ハイ側のスイッチQ1、Q3を両方とも開く。この場合、相巻線8内の電流は、インバータ10のロー側のループ内を、DIR1及びDR2によって定められる方向に循環し、すなわち、フリーホイールする。各スイッチQ1〜Q4は、単一の方向に導通するだけでなく、ボディダイオードを含む。従って、インバータ10のロー側のループの周りをフリーホイールする電流は、ロー側のスイッチQ2、Q4の一方の中を流れ、ロー側のスイッチQ2、Q4の他方のボディダイオードの中を流れる。いくつかのタイプの電源スイッチは、それが閉じたときに両方向の導通を可能にする。この場合、FW#が論理的にローに引かれると、ロー側のスイッチQ2、Q4が両方とも閉じるのがよく、その結果、電流が、両方のスイッチQ2、Q4の中を流れ、ボディダイオードの一方の中を流れない。
【0021】
図2は、コントローラ12の制御信号に応答して許容されるスイッチQ1〜Q4の状態の概略である。以下、用語「セット」及び「クリア」をそれぞれ、信号が論理的にハイに引かれたこと、及び、論理的にローに引かれたことを指示するのに用いる。
【0022】
電流センサ13は、インバータ10とゼロ電圧レールの間に配置された感知抵抗R1を含む。電流センサ13の両側の電圧は、DIR1又はDIR2のいずれか一方がセットされたときの相電流(すなわち、相巻線8内の電流)の測定値を提供する。電流センサ13の両側の電圧は、信号I_PHASEとしてコントローラに出力される。
【0023】
〔始動〕
ロータ2が静止しているとき、コントローラ12は、ロータ2が停止した位置に関わらずにロータ2が順方向に駆動されることを確保する所定のシーケンスに従って、相巻線8を励起する。例えば、コントローラ12は、特許文献1に記載された始動方法を採用する。ロータ2を始動するためにコントローラ12が採用する特定の方法は、本発明に関係しない。
【0024】
〔加速〕
ロータ2が順方向に移動していれば、コントローラ12は、ロータ2を加速させる制御方法を採用する。
【0025】
コントローラ12は、ロータ2を順方向に駆動し続ける方向に相巻線8を励起することを始める。この場合、例えば、コントローラ12は、DIR1をセットし且つDIR2をクリアして、相巻線8を左から右に励起する。特定の励起方向は、始動のときに採用される方法に依存する。
【0026】
励起の間、コントローラ12は、I_PHASE信号を介して相電流の大きさをモニタする。相電流が上側閾値を越えると、コントローラ12は、FW#をクリアすることによって、相巻線8をフリーホイールさせる。フリーホイールは、固定されたフリーホイール期間にわたって継続され、この期間、相電流は減衰する。フリーホイール期間の終了時、コントローラ12は、FW#をセットすることによって、相巻線8を再び励起させる。加えて、コントローラ12は、I_PHASE信号を介して相電流を測定する。この測定値は、フリーホイール期間の終了時の相電流の大きさに一致する。コントローラ12は、測定した相電流と飽和閾値とを比較する。相電流が飽和閾値よりも小さければ、コントローラ12は、ロータ2が所定の角度位置にあることを決定する。そうでなければ、コントローラ12は、ロータ2が所定の角度位置にまだいないことを決定する。
【0027】
コントローラ12が、ロータ2が所定の角度位置にまだいないことを決定したら、コントローラ12は、上記プロセスを繰返す。具体的には、コントローラ12は、励起中の相電流の大きさをモニタし、相電流が上側閾値を越えるときに相巻線8をフリーホイールさせる。フリーホイールをフリーホイール期間にわたって継続させ、その後、コントローラ12は、相巻線8を再び励起して、相電流を測定する。次いで、コントローラ12は、測定した相電流と飽和閾値とを比較し、相電流が飽和閾値よりも小さければ、ロータ2が所定の角度位置にあることを決定する。そうでなければ、コントローラ12は、上記プロセスをもう一度繰返す。
【0028】
コントローラ12が、ロータ2が所定の角度位置にあることを決定すれば、コントローラ12は、これ以降「整流期間」と称する期間にわたって、相巻線8を順次励起してフリーホイールさせ続ける。従って、コントローラ12は、励起中の相電流の大きさをモニタし、相電流が上側閾値を越えるとき、相巻線8をフリーホイールさせる。フリーホイールがフリーホイール期間にわたって継続し、その後、コントローラ12は、相巻線8を再び励起する。しかしながら、上述したプロセスとは対照的に、コントローラはもはや、相電流と飽和閾値とを比較しない。その代わりに、コントローラ12は、整流期間が経過するまで、相巻線8を励起することとフリーホイールさせることを継続し、整流期間が経過した時点で、相巻線8を整流する。整流は、相巻線8の中を流れる電流の方向を反転させることを伴う。従って、コントローラは、DIR1及びDIR2を切り換え、FW#をセットする。この例では、最初に、電流が相巻線8の中を左から右に駆動されるようにDIR1をセットした。従って、整流は、電流が相巻線8の中を右から左に駆動されるように、DIR1をクリアし、DIR2をセットして、FW#をセットすることを含む。
【0029】
従って、コントローラ12は、相巻線8を順次励起してフリーホイールさせる。相巻線8は、相電流が上側閾値を越えるまで励起され、相電流が上側閾値を越えた時点で、相巻線8は、固定されたフリーホイール期間にわたってフリーホイールされる。フリーホイール期間の終了時に、コントローラ12は、相電流を測定して、それを飽和閾値と比較して、ロータ2が所定の位置にあるかどうかを決定する。コントローラ12は、ロータ2が所定の位置にあることを決定するとき、整流期間にわたって相巻線8を順次励起してフリーホイールさせ続け、その後、コントローラ12は、相巻線8を整流する。
【0030】
コントローラ12は、相巻線8を整流するとき、上記プロセスを繰返すと共に、整流期間が次第に短くなり、この理由については後で説明する。コントローラ12が採用するプロセスは、整流期間次第に短くなることを除いて変わっていない。コントローラ12は、相巻線8を設定回数(例えば、7回)整流するまで、このように続ける。この時点で、ロータ2は、特定の速度まで加速されたと推定され、コントローラ12は、ロータ2をさらに加速させるために別の方法に切り換わる。例えば、コントローラ12は、特許文献1に記載されている加速方法を採用する。
【0031】
コントローラ12が採用する制御手法は、ロータ2の位置を決定するために磁気飽和を利用する。永久磁石ロータ2が反発側整列位置(ロータ極が同じ極性のステータ極と整列する位置)から吸引側整列位置(ロータ極が反対の極性のステータ極と整列する位置)に移動するとき、ステータコア7によって結合される全磁束が増大する。ロータ2が吸引側整列位置に近づくとき、ステータコア7は飽和し始め、かくして、相巻線8のインダクタンスが減少する。その結果、励起中に相電流が上昇する速度、及び、フリーホイール中に相電流が低下する速度が増大する。相巻線8が固定期間にわたってフリーホイールされるので、各フリーホイール期間の終了時の相電流の大きさは、ロータ2が整列位置に近づくにつれて減少し、ロータ2が整列位置にあるときに最小になる。
【0032】
コントローラ12は、フリーホイール期間の終了時の相電流と飽和閾値とを比較する。相電流が飽和閾値よりも小さいとき、コントローラ12は、ロータ2が所定の角度位置にあることを決定する。ロータ2が整列位置にあるとき、コントローラ12は、相巻線8を整流しようと試み、すなわち、ロータ2によって相巻線8内に誘導される逆起電力の極性の遷移と同期して、相巻線8を整流しようと試みる。従って、飽和閾値を比較的小さい値に設定して、ロータ2が整列位置のところに又はそれに非常に近くにあるときにだけ、測定した相電流が飽和閾値よりも小さくなることが適当であると考えられる。次いで、コントローラ12は、測定した相電流が飽和閾値よりも小さいことを決定したらすぐに、相巻線8を整流する。しかしながら、この手法の難点は、コントローラ12が、ロータ2の整列位置を完全に見逃すことがある点である。このことは、大量生産されたモータを制御するのに同じ飽和閾値が使用され、これらのモータの電磁特性がモータ毎に異なる可能性がある場合に特に当てはまる。コントローラ12は、整列位置に一致する飽和閾値を採用する代わりに、整列位置の直前の角度位置に一致する飽和閾値を採用する。ロータ2が整列位置と整列位置の間を移動するとき、ロータ2は、電気角180度(又は、この例では機械角90度)にわたって回転する。このとき、飽和閾値は、ロータ2が電気角約160度(又は、機械角80度)にわたって回転するときに測定した相電流が飽和閾値よりも小さくなるようにセットされる。このとき、整流期間は、その間にロータが電気角約20度(又は、機械角10度)にわたって回転するようにセットされる。その結果、相巻線8は、整列位置のところで整流される。より比較的大きい飽和閾値(すなわち、電気角180度ではなく、電気角160度に対応する飽和閾値)を採用することによって、コントローラ12は、飽和イベント(すなわち、測定した相電流が飽和閾値よりも小さい時点)を見逃すおそれが低くなる。その結果、コントローラ12は、相巻線8を整列位置のところでさらに確実に整流する。
【0033】
測定した相電流が飽和閾値よりも小さいとき、ロータ2が正確に電気角160度のところにある可能性は低いこと、及び、整流期間中、ロータ2が正確に電気角20度にわたって移動した可能性は低いことを認識すべきである。この1つの理由は、コントローラ12が、相電流を各フリーホイール期間の終了時に測定するだけだからである。従って、コントローラ12は、各励起及びフリーホイールの期間の後に、ロータ2が所定の位置にあるかどうかを決定することが可能であるに過ぎない。上述した実施形態では、飽和閾値は、ロータが電気角160度にわたって回転した後に測定した相電流が飽和閾値よりも小さくなる値にセットされる。対応する角度位置が、ステータコア7の飽和が起こる領域内にある限り、飽和閾値を異なる値に設定してもよいことを認識すべきである。もしも大きすぎる飽和閾値をセットすれば、コントローラ12は、ロータ2が所定の位置にないときにロータ2が所定の位置にあることを誤って決定することがあり、すなわち、ロータ2が、未だ非飽和領域内にあるときに、測定した相電流が飽和閾値よりも小さくなることがある。これとは逆に、小さすぎる飽和閾値を設定すれば、コントローラ12は、所定の位置を完全に見逃してしまうことがあり、すなわち、測定した相電流は、飽和閾値よりも決して小さくならない。
【0034】
図3は、始動中、及び、加速中の最初のいくつかの電気半サイクルにわたって、相電流が時間と共にどのように変化するのかを示す。
【0035】
上で説明したように、整流期間は、ロータ2が各整流期間中に電気角約20度にわたって移動するように設定される。整流期間を固定すれば、それに対応する電気角は、ロータ2が加速するにつれて増大する。この理由で、コントローラ12は、各整流後の整流期間を減少させる。ロータ2は、十分に特徴的な仕方で加速する。その結果、コントローラ12は、始動以降に起こった整流の回数に依存する整流期間を採用することが可能である。この場合、コントローラ12によって採用される制御手法が簡単化される。例えば、コントローラ12は、整流回数に従って順次インデックス付けされた整流期間のルックアップテーブルを記憶する。しかしながら、コントローラ12は、整流期間を決定する別の方法を用いてもよい。このことは、ロータ2が十分に特徴的な仕方で加速しない場合、すなわち、始動時のロータ2に作用する負荷が変化する場合に特に当てはまる。例として、コントローラ12は、ロータ2の速度を測定するために、整流イベント(すなわち、コントローラ12が相巻線8を整流する時点)と飽和イベント(すなわち、相電流が飽和閾値よりも小さいことをコントローラが決定する時点)との間の時間長さを測定し、次いで、この時間間隔を用いて整流期間を定める。例えば、整流イベントの1.6ms後に飽和イベントが起これば、このことは、ロータ2が電気角160度にわたって回転するのに1.6msかかったことを暗示する。この場合、コントローラ12は、0.2msの整流期間を採用する。
【0036】
上述した実施形態では、電流センサ13は、単一の感知抵抗R1を含み、感知抵抗R1は、制御システム4の構成要素のコストを低減させる利点がある。ただ1つの抵抗器しか有していないので、電流センサ13は、励起中にだけ相電流を測定することができる。フリーホイール中、相電流は、インバータ10のロー側のループ内を循環し、電流センサ13を迂回する。この理由で、コントローラ12は、フリーホイールの終了時に相電流を測定するために、最初、相巻線8を励起しなければならない。電流センサ13が、1対の感知抵抗を含み、その各々がインバータ10のロー側レッグ(leg)に配置されてもよいことが考えられる。この場合、一方の抵抗器は、相巻線8が励起又はフリーホイールされるときの相左から右への電流の測定値を提供し、他方の抵抗器は、相巻線8が励起又はフリーホイールされるときの右から左への相電流の測定値を提供する。この場合、コントローラ12は、最初に相巻線8を励起する必要なしに、フリーホイールの終了時の相電流を測定することができる。さらに、コントローラ12は、フリーホイール期間の終了まで待たないで、フリーホイール中、連続的に相電流を測定し、飽和閾値と比較してもよい。測定した相電流が飽和閾値よりも小さいとき、コントローラ12は、最初にフリーホイール期間の終了を待つことなしに、整流期間を開始する。コントローラ12は、フリーホイールの間中、相電流を飽和閾値と比較するので、ロータ2の位置をより正確に決定する。
【0037】
ロータ2が整列位置に近づくにつれて、フリーホイール中に相電流が低下する速度が増大する。この場合、コントローラ12は、ロータ2の位置を決定するために、上記特徴を利用する。具体的には、コントローラ12は、固定されたフリーホイール期間の終了時の相電流の大きさを測定し、それを飽和閾値と比較する。コントローラ12は、相巻線8を固定された期間にわたってフリーホイールさせるのではなく、相電流が下側閾値よりも低下するまで相巻線8をフリーホイールさせるのがよい。この場合、コントローラ12は、相電流が上側閾値を越えるまで、相巻線8を励起し、相電流が上側閾値を越えたとき、相巻線8をフリーホイールさせる。引続いて、相電流が下側閾値よりも低下するとき、コントローラ12は、相巻線8を再び励起する。その結果、相電流は、上側閾値と下側閾値の間で往復する。ロータ2の位置を決定するために、コントローラ12は、フリーホイールの開始と終了の間の時間間隔(すなわち、相電流が上側閾値から下側閾値まで低下するのにかかる時間)を測定するのがよい。ロータ2が整列位置に近づくにつれて、相電流が低下する速度が増大するので、フリーホイールの開始と終了との間の時間間隔は減少する。変形例として、ロータ2の位置を決定するために、コントローラ12は、励起の開始と終了との間の時間間隔(すなわち、相電流が下側閾値から上側閾値まで上昇するのにかかる時間)を測定してもよい。ロータ2が整列位置に近づくにつれて、相電流は、フリーホイール中により速い速度で低下するだけでなく、励起中により速い速度で上昇する。このことは、図3で分かる。相電流が上昇する速度が増大するので、ロータ2が整列位置に近づくにつれて、励起の開始と終了との間の時間間隔は減少する。従って、コントローラ12は、フリーホイールの開始と終了の間の時間間隔、又は、励起の開始と終了の間の時間間隔を測定すると言うことができる。両方の例において、コントローラ12は、測定した時間間隔を飽和閾値と比較し、時間間隔が飽和閾値よりも小さいときにロータ2が所定位置にあることを決定する。
【0038】
〔飽和閾値〕
上で注目したように、飽和閾値を大きく設定しすぎると、コントローラ12は、ロータ2が所定の位置にいないときに所定の位置にあることを不正確に決定することがある。これとは逆に、飽和閾値を小さく設定しすぎると、コントローラ12は、所定の位置を完全に見逃すことがある。従って、飽和閾値を、モータに適した値に設定することが重要である。モータが大量生産されるとき、全てのモータについて共通である単一の飽和閾値を使用することが可能であることもある。変形例として、各モータに固有の飽和閾値を採用することが必要であること又は望ましいことがある。両方の例において(すなわち、飽和閾値が共通であるか固有であるかに関わらず)、飽和閾値は固定される。しかしながら、可変飽和閾値を使用することが必要である又は望ましい場合がある。
【0039】
ロータ2の温度と、ロータ2の温度ほどではないが相巻線8の温度は、ステータコア7に結合される全磁束に影響を及ぼす。その結果、相巻線8のインダクタンスは、モータ1の温度の変化に応答する。相巻線8のインダクタンスは、励起中及びフリーホイール中の相電流の上昇速度及び下降速度に影響を及ぼすので、固定された飽和閾値を使用し且つモータ1の温度が変化すると、コントローラ12は、ロータ2の位置を不正確に決定することがある。従って、コントローラ12は、モータ1の温度に依存する飽和閾値を採用するのがよい。例えば、制御システム4は、温度センサを有し、コントローラ12は、温度センサの出力に依存する飽和閾値を選択する。しかしながら、この特定の実現は、制御システム4の構成要素のコストを増加させる。その代わりに、これから説明するように、コントローラ12は、モータ1の温度の変化に応答する飽和閾値を、温度センサを必要とすることなしに定める方法を採用する。
【0040】
前に注目したように、コントローラ12は、加速モードに入るとき、相巻線8を、ロータ2を順方向に駆動し続ける方向に励起することから始める。従って、例えば、コントローラ12は、DIR1をセットし且つDIR2をクリアして、相巻線8を左から右に励起する。コントローラ12は、相電流が上側閾値を越えるまで相巻線8を励起し続け、上側閾値を越える時点で、固定されたフリーホイール期間にわたって相巻線8をフリーホイールさせる。コントローラ12は、フリーホイール期間の終了時の相電流を測定する。この測定は、加速モードに入るときの相電流のまさに最初の測定を表す。結果として、この測定は、ロータ2が依然として非飽和領域内にある時間に行われる。次いで、コントローラ12は、測定した相電流から、固定されたオフセット値を引き算し、その結果を飽和閾値として記憶する。
【0041】
相巻線8のインダクタンスは、モータ1の温度の変化に応答する。このことは、ステータコア7が飽和されているか否かに関わらず当てはまる。従って、各フリーホイールの終了時の相電流の大きさは、非飽和領域で作動しているときと大まかには同じであるけれども、それでもなお、相電流の大きさは、モータ1の温度の変化に応答している。従って、非飽和領域における相電流を測定して、固定されたオフセット値を引き算することによって、モータ1の温度の変化に応答する飽和閾値を取得する。重要なことは、温度センサを必要とすることなしに、飽和閾値が取得され、かくして、制御システム4の構成用品のコストを減少させることである。
【0042】
測定した相電流から、固定されたオフセット値を引き算するとうまくいくことが見出された。それにも関わらず、コントローラ12は、測定した相電流を用いて、飽和閾値を他の方法で取得することができることも考えられる。例えば、コントローラ12は、異なる飽和閾値のルックアップテーブルを記憶し、次いで、測定した相電流を使用して、飽和閾値をルックアップテーブルから選択する。変形例として、コントローラ12は、飽和閾値を、測定した相電流の関数として定める方程式を解くことができてもよい。従って、より一般的な意味において、コントローラ12は、飽和閾値を取得するために、測定した相電流を使用すると言ってもよい。しかしながら、測定した相電流から、固定されたオフセット値を引き算することは、それを比較的簡単で安価なコントローラを用いて実行することがでるという利点がある。例えば、コントローラが複雑な方程式を解いたり、ルックアップテーブルのためのメモリを追加したりする必要はない。
【0043】
直前に述べた実施形態では、コントローラ12は、飽和閾値を取得するために、フリーホイール期間の終了時に相電流を測定して、固定されたオフセット値を引き算する。しかしながら、前に注目したように、コントローラ12は、フリーホイール期間の終了時に相電流を測定するのではなく、相電流が上側閾値と下側閾値との間で往復するフリーホイールの開始と終了との間の時間間隔、又は励起の開始と終了との間の時間間隔を測定することがある。この例において飽和閾値を取得するプロセスは、本質的に同じである。具体的には、コントローラ12は、最初に上記時間間隔の測定を行い、固定されたオフセット値を引き算して、飽和閾値を定める。
【0044】
ロータ2の位置を決定する既存の方法は、しばしば、ロータ2によって相巻線8に誘起される逆起電力の極性の遷移を測定することに依存する。しかしながら、比較的低速では、逆起電力の大きさは、比較的小さく、かくして、逆起電力の極性の遷移を常に信頼できるように測定することはできない。コントローラ12が採用する制御手法は、ロータ2の位置を決定するために、逆起電力に依存しない。この制御手法は、その代わりに、ロータ2が1つの整列位置から次の整列位置に回転するときに生じる相巻線8のインダクタンスの変化を利用する。その結果、コントローラ12は、ロータ2が比較的低い速度で回転しているとき、ロータ2の位置をより信頼でききるように決定することができる。
【0045】
コントローラ12は、相電流の各往復を用いて、ロータ2が所定の位置にあるかどうかを評価する(すなわち、測定したパラメータを飽和閾値と比較する)。従って、電流の往復の周波数(すなわち、相巻線が励起され、フリーホイールされる回数)は、ロータ2の位置を決定する分解能を定める。比較的低いロータ速度では、コントローラ12は、典型的には、相電流を各電気半サイクルにわたって多くの回数、往復させ、かくして、ロータ2の位置は、比較的良好な正確さで決定される。ロータ2の速度が増大するにつれて、各電気半サイクルの長さが減少し、かくして、コントローラ12が相電流を往復させる周波数は減少する。その結果、ロータ2の位置を決定する正確さは低下する。最終的に、ロータ位置の正確さが比較的不十分である速度に達する。この理由で、コントローラ12は、ロータ2をさらに加速させるために、異なる手法に切り換わる。
【0046】
コントローラ12は、相巻線8を設定回数(例えば、7回)整流し、その後、ロータ2をさらに加速させるために別の手法に切り換わる。しかしながら、コントローラ12は、相巻線8を1回だけ整流した後に別の手法に切り換わることも考えられる。言いかえれば、相巻線8を1回だけ整流した後、コントローラ12は、ロータをさらに加速させるために、別の手法に切り換わるのに十分に迅速にロータ2が移動していることがある。この例では、コントローラ12は、単一の整流期間だけを記憶する必要がある。
【0047】
上述した実施形態では、制御手法は、ロータ2を比較的低速で純粋に加速させるのに採用される。制御手法は、モータを定常状態の条件下で制御するのに使用されることも考えられる。唯一の要件は、定常状態で作動しているとき、ロータ2の位置を十分な精度で決定することができるのに十分な周波数で相電流が往復することである。加速モードに費やされる時間は比較的短い。従って、可変の飽和閾値を採用するとき、飽和閾値を1回のみ計算すれば十分である。しかしながら、制御手法を定常状態の条件下でモータを制御するのに使用したとすれば、飽和閾値をより頻繁に、例えば、各整流後に、又は、各n回の整流の後に計算することが必要であり又は望ましいことがある。
【0048】
コントローラ12は、相巻線8を整流するとき、上記プロセスを、整流期間が短くなるように繰返すが、この理由を以下に説明する。コントローラ12が採用するプロセスは、整流期間が短くなることを除いて変化しない。コントローラ12は、相巻線8を設定回数整流するまでこのように続ける。この時点で、ロータ2は、特定の速度まで加速したと推定され、コントローラ12は、ロータ2をさらに加速させるために、別の手法に切り換わる。例えば、コントローラ12は、特許文献1に記載されている加速手法を採用する。
【0049】
上述した制御手法は、整流期間と可変の飽和閾値の両方を採用する。しかしながら、制御手法がこれら両方を採用することは必須ではない。例えば、上で注目したように、制御手法は、固定された飽和閾値、例えば、全てのモータに共通の飽和閾値、又は、各モータに固有の閾値を採用する。それにも関わらず、整流期間と、より大きい飽和閾値とを組み合わせて採用することによって、たとえ飽和閾値が固定されていても、コントロータ12が飽和イベントを見逃すおそれが減少する。同様に、制御手法は、整流期間を必要とすることなしに、可変の飽和閾値を採用してもよい。コントローラ12は、ロータ2が整列位置にあるときに相巻線8を整流しようとするので、測定したパラメータが、ロータ2が整列位置又はその非常に近くにあるときにだけ飽和閾値よりも低くなるように、飽和閾値は、十分に小さく設定されるのがよい。この場合、コントローラ12は、測定したパラメータが飽和閾値よりも小さいときに相巻線8をすぐに整流する。上で説明したように、この手法の難点は、飽和閾値を小さく設定しすぎると、コントローラ12が飽和イベントを完全に見逃すことがある点である。このことは、量産されたモータを制御するのに同じ飽和閾値を使用するときに当てはまる。しかしながら、各モータに固有なだけでなく、モータの各始動に固有の飽和閾値を採用することによって、飽和イベントをずっと大きい信頼度で決定することができる。その結果、モータを、整流期間を必要することなしに、制御することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 モータ
8 相巻線
10 インバータ
11 ゲートドライバモジュール
12 コントローラ
13 電流センサ
図1
図2
図3