(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2無機バリア層の屈折率n1と、前記有機バリア層の屈折率n0との差(Δn1=n1−n0)は、0.25以上である、請求項1から3のいずれかに記載の有機EL表示装置。
【背景技術】
【0002】
有機EL(Electro Luminescence)表示装置が実用化され始めた。有機EL表示装置の特徴の1つにフレキシブルな表示装置が得られる点が挙げられる。有機EL表示装置は、画素ごとに少なくとも1つの有機EL素子(Organic Light Emitting Diode:OLED)と、各OLEDに供給される電流を制御する少なくとも1つのTFT(Thin Film Transistor)とを有する。以下、有機EL表示装置をOLED表示装置と呼ぶことにする。このようにOLEDごとにTFTなどのスイッチング素子を有するOLED表示装置は、アクティブマトリクス型OLED表示装置と呼ばれる。また、TFTおよびOLEDが形成された基板を素子基板ということにする。
【0003】
OLED(特に有機発光層および陰極電極材料)は、水分の影響を受けて劣化しやすく、表示むらを生じやすい。OLEDを水分から保護するとともに、柔軟性を損なわない封止構造を提供する技術として、薄膜封止(Thin Film Encapsulation:TFE)技術が開発されている。薄膜封止技術は、無機バリア層と有機バリア層とを交互に積層することによって、薄膜で十分な水蒸気バリア性を得ようとするものである。OLED表示装置の耐湿信頼性の観点から、薄膜封止構造のWVTR(Water Vapor Transmission Rate:WVTR)としては、典型的には1×10
-4g/m
2/day以下が求められている。
【0004】
現在市販されているOLED表示装置に使われている薄膜封止構造は、厚さが約5μm〜約20μmの有機バリア層(高分子バリア層)を有している。このように比較的厚い有機バリア層は、素子基板の表面を平坦化する役割も担っている。しかしながら、有機バリア層が厚いと、OLED表示装置の屈曲性が制限されるという問題がある。
【0005】
特許文献1には、第1の無機材料層、第1の樹脂材、および第2の無機材料層を素子基板側からこの順で形成する際に、第1の樹脂材を第1の無機材料層の凸部(凸部を被覆した第1の無機材料層)の周囲に偏在させた薄膜封止構造が開示されている。特許文献1によると、第1の無機材料層によって十分に被覆されないおそれのある凸部の周囲に第1の樹脂材を偏在させることによって、その部分からの水分や酸素の侵入が抑制される。また、第1の樹脂材が第2の無機材料層の下地層として機能することで、第2の無機材料層が適正に成膜され、第1の無機材料層の側面を所期の膜厚で適切に被覆することが可能になる。第1の樹脂材は次の様にして形成される。加熱気化させたミスト状の有機材料を、室温以下の温度に維持された素子基板上に供給し、基板上で有機材料が凝縮し、滴状化する。滴状化した有機材料が、毛細管現象または表面張力によって、基板上を移動し、第1の無機材料層の凸部の側面と基板表面との境界部に偏在する。その後、有機材料を硬化させることによって、境界部に第1の樹脂材が形成される。特許文献2にも同様の薄膜封止構造を有するOLED表示装置が開示されている。
【0006】
特許文献1または2に記載されている偏在した樹脂で構成された有機バリア層を有する薄膜封止構造は、厚い有機バリア層を有しないので、OLED表示装置の屈曲性は改善されると考えられる。
【0007】
特許文献3には、画素の境界に形成されるバンク層の側面を各画素の周囲のうちの大部分を傾斜角が90°以上の断崖部とし、一部を傾斜角が90°未満の緩傾斜部とすることによって、その上に形成される薄膜封止構造に含まれる平坦化層(本明細書の有機バリア層に対応する。)の剥がれを抑制したOLED表示装置が開示されている。特許文献3の
図5に記載されている緩傾斜部の平坦化層の傾斜角は12°程度である。また、特許文献3の
図12に記載されている従来の薄膜封止構造における平坦化層の傾斜角は、10°程度である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態によるOLED表示装置およびその製造方法を説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に例示する実施形態に限定されない。例えば、本発明の実施形態による有機EL表示装置は、フレキシブル基板に代えて、例えばガラス基板を有してもよい。
【0024】
まず、
図1(a)および(b)を参照して、本発明の実施形態によるOLED表示装置100の基本的な構成を説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態によるOLED表示装置100のアクティブ領域の模式的な部分断面図であり、
図1(b)は、OLED3上に形成されたTFE構造10の部分断面図である。
【0025】
OLED表示装置100は、複数の画素を有し、画素ごとに少なくとも1つの有機EL素子(OLED)を有している。ここでは、簡単のために、1つのOLEDに対応する構造について説明する。
【0026】
図1(a)に示すように、OLED表示装置100は、フレキシブル基板(以下、単に「基板」ということがある。)1と、基板1上に形成されたTFTを含む回路(バックプレーン)2と、回路2上に形成されたOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10とを有している。OLED3は例えばトップエミッションタイプである。OLED3の最上部は、例えば、上部電極またはキャップ層(屈折率調整層)である。TFE構造10の上にはオプショナルな偏光板4が配置されている。
【0027】
基板1は、例えば厚さが15μmのポリイミドフィルムである。TFTを含む回路2の厚さは例えば4μmであり、OLED3の厚さは例えば1μmであり、TFE構造10の厚さは例えば1.5μm以下である。
【0028】
図1(b)は、OLED3上に形成されたTFE構造10の部分断面図である。TFE構造10は、第1無機バリア層(例えばSiN層)12と、有機バリア層(例えばアクリル樹脂層)14と、第2無機バリア層(例えばSiN層)16とを有する。第1無機バリア層12は、OLED3の直上に形成されている。有機バリア層14は、第1無機バリア層12の上面に接し、かつ、離散的に分布する複数の中実部を有する。第2無機バリア層16は、第1無機バリア層12の上面および有機バリア層14の複数の中実部の上面に接する。有機バリア層14は、透明(厚さが1μmのとき、可視光の透過率が95%以上)である。
【0029】
例えば、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16は、例えば厚さが400nmのSiN層(例えばSi
3N
4層)であり、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16の厚さはそれぞれ独立に、200nm以上1000nm以下である。TFE構造10の厚さは400nm以上2μm未満であることが好ましく、400nm以上1.5μm未満であることがさらに好ましい。有機バリア層14の厚さは、第1無機バリア層12の表面の凸部やパーティクルの大きさにもよるが、大きくても1μm程度であればよい。有機バリア層14の厚さは、典型的には200nm以上500nm以下である。
【0030】
TFE構造10は、OLED表示装置100のアクティブ領域(
図2中のアクティブ領域R1参照)を保護するように形成されており、少なくともアクティブ領域には、上述したように、OLED3に近い側から順に、第1無機バリア層12、有機バリア層14、および第2無機バリア層16を有している。なお、有機バリア層14は、アクティブ領域の全面を覆う膜として存在しているのではなく、開口部を有している。有機バリア層14の内、開口部を除く、実際に有機膜が存在する部分を「中実部」ということにする。また、「開口部」(「非中実部」ということもある。)は、中実部で包囲されている必要はなく、切欠きなどを含み、開口部においては、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している。有機バリア層14が有する開口部は、少なくとも、アクティブ領域を包囲するように形成された開口部を含み、アクティブ領域は、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している部分(以下、「無機バリア層接合部」という。)で完全に包囲されている。
【0031】
図2から
図7を参照して、本発明の実施形態によるOLED表示装置の構造および製造方法を説明する。
【0032】
図2に本発明の実施形態によるOLED表示装置100の模式的な平面図を示す。
【0033】
OLED表示装置100は、フレキシブル基板1と、フレキシブル基板1上に形成された回路(バックプレーン)2と、回路2上に形成された複数のOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10とを有している。複数のOLED3が配列されている層をOLED層3ということがある。なお、回路2とOLED層3とが一部の構成要素を共有してもよい。TFE構造10の上にはオプショナルな偏光板(
図1中の参照符号4を参照)がさらに配置されてもよい。また、例えば、TFE構造10と偏光板との間にタッチパネル機能を担う層が配置されてもよい。すなわち、OLED表示装置100は、オンセル型のタッチパネル付き表示装置に改変され得る。
【0034】
回路2は、複数のTFT(不図示)と、それぞれが複数のTFT(不図示)のいずれかに接続された複数のゲートバスライン(不図示)および複数のソースバスライン(不図示)とを有している。回路2は、複数のOLED3を駆動するための公知の回路であってよい。複数のOLED3は、回路2が有する複数のTFTのいずれかに接続されている。OLED3も公知のOLEDであってよい。
【0035】
OLED表示装置100は、さらに、複数のOLED3が配置されているアクティブ領域(
図2中の破線で囲まれた領域)R1の外側の周辺領域R2に配置された複数の端子38と、複数の端子38と複数のゲートバスラインまたは複数のソースバスラインのいずれかとを接続する複数の引出し配線30を有しており、TFE構造10は、複数のOLED3の上および複数の引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分の上に形成されている。すなわち、TFE構造10はアクティブ領域R1の全体を覆い、かつ、複数の引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分の上に選択的に形成されており、引出し配線30の端子38側および端子38は、TFE構造10では覆われていない。
【0036】
以下では、引出し配線30と端子38とが同じ導電層を用いて一体に形成された例を説明するが、互いに異なる導電層(積層構造を含む)を用いて形成されてもよい。
【0037】
次に、
図3(a)〜(c)を参照して、OLED表示装置100のTFE構造10を説明する。
図3(a)に
図2中の3A−3A’線に沿った断面図を示し、
図3(b)に
図2中の3B−3B’線に沿った断面図を示し、
図3(c)に
図2中の3C−3C’線に沿った断面図を示す。
【0038】
図3(a)および
図3(b)に示すように、TFE構造10は、OLED3上に形成された第1無機バリア層12と、有機バリア層14と、第1無機バリア層12および有機バリア層14に接する第2無機バリア層16とを有している。第1無機バリア層12および第2無機バリア層16は、例えば、SiN層であり、マスクを用いたプラズマCVD法で、アクティブ領域R1を覆うように所定の領域だけに選択的に形成される。一般に、薄膜堆積法(例えばCVD法、スパッタ法、真空蒸着法)によって形成される層の表面は、下地の段差を反映する。有機バリア層(中実部)14は、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ形成される。
【0039】
図3(a)は、
図2中の3A−3A’線に沿った断面図であり、パーティクルPを含む部分を示している。パーティクルPは、OLED表示装置の製造プロセス中に発生する微細なゴミで、例えば、ガラスの微細な破片、金属の粒子、有機物の粒子である。マスク蒸着法を用いると、特にパーティクルPが発生しやすい。
【0040】
図3(a)に示すように、有機バリア層(中実部)14は、パーティクルPの周辺に形成された部分14bを含む。これは、第1無機バリア層12を形成した後に付与されたアクリルモノマーが、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面(テーパー角が90°超)の周辺に凝縮され、偏在するからである。第1無機バリア層12の平坦部上は、有機バリア層14の開口部(非中実部)となっている。
【0041】
ここで、
図4(a)〜(c)を参照して、パーティクルPを含む部分の構造を説明する。
図4(a)は
図3(a)のパーティクルPを含む部分の拡大図であり、
図4(b)はパーティクルPと、パーティクルPを覆う第1無機バリア層(SiN層)12と、有機バリア層14との大きさの関係を示す模式的な平面図であり、
図4(c)はパーティクルPを覆う第1無機バリア層12の模式的な断面図である。
【0042】
図4(c)に示すように、パーティクル(例えば直径が約1μm以上)Pが存在すると、第1無機バリア層12にクラック(欠陥)12cが形成されることがある。これは、後に説明するように、パーティクルPの表面から成長するSiN層12aと、OLED3の表面の平坦部分から成長するSiN層12bとが衝突(インピンジ)するために生じたと考えられる。このようなクラック12cが存在すると、TFE構造10のバリア性が低下する。
【0043】
OLED表示装置100のTFE構造10では、
図4(a)に示すように、有機バリア層14が、第1無機バリア層12のクラック12cを充填するように形成し、かつ、有機バリア層14の表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面と、OLED3の平坦部上の第1無機バリア層12bとの表面を連続的に滑らかに連結する。有機バリア層14は、後述するように、液状の光硬化性樹脂を硬化することによって形成されるので、表面張力によって凹状の表面を形成する。このとき、光硬化性樹脂は、第1無機バリア層12に対して良好な濡れ性を示している。光硬化性樹脂の第1無機バリア層12に対する濡れ性が悪いと、逆に凸状になることがある。なお、有機バリア層14がパーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面にも薄く形成されることがある。
【0044】
凹状の表面を有する有機バリア層(中実部)14によって、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面と、平坦部上の第1無機バリア層12bとの表面が連続的に滑らかに連結されるので、この上に、欠陥の無い、緻密な膜で第2無機バリア層16を形成することができる。このように、有機バリア層14によって、パーティクルPが存在しても、TFE構造10のバリア性を維持することができる。
【0045】
有機バリア層(中実部)14は、
図4(b)に示す様に、パーティクルPの周りにリング状に形成される。法線方向から見たときの直径(面積円相当径)が例えば1μm程度のパーティクルPに対して、例えば、リング状の中実部の直径(面積円相当径)D
oは2μm以上である。
【0046】
ここでは、有機バリア層14が、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12の不連続部分にのみ形成された例について、パーティクルPがOLED3上に第1無機バリア層12を形成する前に存在していた例を説明したが、パーティクルPは、第1無機バリア層12上に存在することもある。この場合には、有機バリア層14は、第1無機バリア層12上に存在するパーティクルPと第1無機バリア層12との境界の不連続部分にのみ形成され、上記と同様に、TFE構造10のバリア性を維持することができる。有機バリア層14はパーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面、または、パーティクルPの表面にも薄く形成されることがある。本明細書では、これらすべての態様を含む意図で、有機バリア層14がパーティクルPの周辺に存在するという。
【0047】
図3(a)に示す例に限られず、有機バリア層(中実部)14は、上記と同様の理由で、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ形成される。有機バリア層(中実部)14が形成される箇所の他の例を以下に示す。
【0048】
次に、
図3(b)を参照して、引出し配線30上のTFE構造10の構造を説明する。
図3(b)は、
図2中の3B−3B’線に沿った断面図であり、引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分32の断面図である。
【0049】
図3(b)に示すように、有機バリア層(中実部)14は、引出し配線30の部分32の断面形状を反映した第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺に形成された部分14cを含む。
【0050】
引出し配線30は、例えば、ゲートバスラインまたはソースバスラインと同じプロセスでパターニングされるので、ここでは、アクティブ領域R1内に形成されるゲートバスラインおよびソースバスラインも、
図3(b)に示した引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分32と同じ断面構造を有する。ただし、典型的には、アクティブ領域R1内に形成されるゲートバスラインおよびソースバスラインの上には平坦化層が形成され、ゲートバスラインおよびソースバスライン上の第1無機バリア層12の表面には段差が形成されない。
【0051】
引出し配線30の部分32は、例えば、側面のテーパー角が90°未満である順テーパー側面部分(傾斜側面部分)を有してもよい。引出し配線30が順テーパー側面部分を有すると、その上に形成される第1無機バリア層12および第2無機バリア層16に欠陥が形成されることを防止することができる。すなわち、TFE構造10の耐湿信頼性を向上させることができる。順テーパー側面部分のテーパー角は、70°以下であることが好ましい。
【0052】
OLED表示装置100のアクティブ領域R1は、有機バリア層14が選択的に形成されている部分を除いて、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触する無機バリア層接合部によって実質的に覆われている。したがって、有機バリア層14が水分の侵入経路となって、OLED表示装置のアクティブ領域R1に水分が到達することがない。
【0053】
本発明の実施形態によるOLED表示装置100は、例えば、高精細の中小型のスマートフォンおよびタブレット端末に好適に用いられる。高精細(例えば500ppi)の中小型(例えば5.7型)のOLED表示装置では、限られた線幅で、十分に低抵抗な配線(ゲートバスラインおよびソースバスラインを含む)を形成するために、アクティブ領域R1内における配線の線幅方向に平行な断面の形状は矩形(側面のテーパー角が約90°)に近いことが好ましい。したがって、低抵抗な配線を形成するためには、順テーパー側面部分TSFのテーパー角を70°超90°未満としてもよいし、順テーパー側面部分TSFを設けず、配線の全長にわたってテーパー角を約90°としてよい。
【0054】
次に、
図3(c)を参照する。
図3(c)は、TFE構造10が形成されていない領域の断面図である。ここでは、端子部38も、
図3(c)に示した引出し配線30の部分36と同じ断面構造を有する。
図3(c)に示す引出し配線30の部分36は、例えば、テーパー角が約90°であってよい。
【0055】
次に、
図5および
図6を参照して、バンク構造BS周辺に形成される有機バリア層14を説明する。有機バリア層(中実部)14は、バンク構造BSを構成する第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にも形成される。
図5は、OLED表示装置100が有する複数の画素およびバンク層48を模式的に示す平面図である。
図6(a)に
図5中の6A−6A’線に沿った断面図を示し、
図6(b)に
図5中の6B−6B’線に沿った断面図を示す。
【0056】
図6(a)に示すように、OLED表示装置100は、複数の画素のそれぞれを規定するバンク構造BSをさらに有する。バンク構造BSは、複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面を有する。有機バリア層14の複数の中実部は、第1無機バリア層12の斜面S12上の部分から画素内の周辺に至る画素周辺中実部14aを有する。
【0057】
図6(a)に示すように、バンク構造BSは、絶縁材料から形成されたバンク層(「PDL(pixel defining layer)」と呼ばれることもある。)48を含む。バンク層48は、OLED3の下部電極42と有機層44との間に形成されている。
図6(a)に示すように、OLED3は、下部電極42と、下部電極42上に形成された有機層44と、有機層44上に形成された上部電極46とを含む。ここでは、下部電極42および上部電極46は、それぞれ、OLED3の陽極および陰極を構成する。上部電極46は、アクティブ領域の画素全体にわたって形成されている共通の電極である。一方、下部電極(画素電極)42は画素ごとに形成されている。下部電極42と有機層44との間にバンク層48が存在すると、下部電極42から有機層44に正孔が注入されない。従って、バンク層48が存在する領域は画素Pixとして機能しないので、バンク層48が画素Pixの外縁を規定する。
【0058】
図5に示すように、バンク層48の開口部によって各画素Pixが規定される。バンク層48は、例えば格子状に形成されている。バンク層48の開口部の側面は、順テーパー側面部分TSFを有する斜面を有する。バンク層48の斜面は、各画素の周囲を包囲している。バンク層48は、例えば感光性樹脂(例えばポリイミドまたはアクリル樹脂)を用いて形成される。バンク層48の厚さは、例えば1μm〜2μmである。バンク層48の斜面の傾斜角θbは、60°以下である。バンク層48の斜面の傾斜角θbが60°超であると、バンク層48の上に位置する層に欠陥が生じることがある。バンク層48上に位置する層(例えば、有機層44、上部電極46、第1無機バリア層12、および第2無機バリア層16を含む)もバンク構造BSを構成し得る。バンク構造BSを構成する層は、それぞれ、複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面を有し得る。バンク層48上に形成された層の厚さが、いずれもバンク層48の厚さに比べて小さい場合、バンク構造BSの斜面の傾斜角は、バンク層48の斜面の傾斜角θbとほぼ同じであると考えられる。第1無機バリア層12は、バンク構造BSを構成し、複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面S12を有する。有機バリア層(中実部)14は、第1無機バリア層12の斜面S12上の部分から画素内の周辺に至る画素周辺中実部14aを含む。
【0059】
画素内の中央部においては、有機バリア層14は、例えば
図6(a)に示すように、パーティクルPによって形成される第1無機バリア層12の不連続部分にのみ形成されている。すなわち、
図6(b)に示すように、画素内の中央部でパーティクルPが存在しない部分には有機バリア層14は存在しない。パーティクルPが存在しないOLED表示装置は、画素内の中央部に有機バリア層を有しない。ここで、パーティクルPの大きさ(球相当直径)は、典型的には0.3μm以上5μm以下である。G4.5(730mm×920mm)の基板には、例えば、数十個から100個程度のパーティクルが存在することがあり、1つのOLED表示装置(アクティブ領域)については、数個程度のパーティクルが存在することがある。もちろん、パーティクルPが存在しないOLED表示装置もある。有機バリア層14は、例えば光硬化性樹脂を硬化することによって形成された光硬化樹脂によって形成されており、実際に光硬化樹脂が存在する部分を「中実部」という。上述してきたように、有機バリア層14(中実部)は、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ選択的に形成されている。
【0060】
例えば
図6(a)に示すように、画素内の中央部にパーティクルPが存在すると、パーティクルPによって形成される不連続部分に有機バリア層14が形成される。
図4(b)を参照して説明したように、有機バリア層(中実部)14は、パーティクルPの周りにリング状に形成される。法線方向から見たときの直径(面積円相当径)が例えば1μm程度のパーティクルPに対して、例えば、リング状の中実部の直径(面積円相当径)D
oは2μm以上である。例えば、5.7型の2560×1440ピクセルの表示装置(およそ500ppi)の場合、画素ピッチは49μmである。画素ピッチに比べて、パーティクルPおよびパーティクルPの周辺に形成された有機バリア層(中実部)14の大きさは十分に小さいので、パーティクルPの周辺に形成された有機バリア層14(中実部)による透過率の変化が表示に与える影響は小さい。
【0061】
図7を参照して、OLED表示装置100が有するTFE構造10の画素周辺中実部14a(有機バリア層14)の作用・効果を説明する。
【0062】
OLED表示装置100は、上述した様に、それぞれが複数の画素のそれぞれに配置された複数の有機EL素子と、複数の画素のそれぞれを規定するバンク層48とを有する素子基板と、複数の画素を覆うTFE構造10とを有する。バンク層48は、複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面を有し、TFE構造10は、第1無機バリア層12と、第1無機バリア層12の上面に接しかつ離散的に分布する複数の中実部を有する有機バリア層14と、第1無機バリア層12の上面および有機バリア層14の複数の中実部の上面に接する第2無機バリア層16とを有し、複数の中実部は、第1無機バリア層12の斜面上の部分から画素内の周辺に至る画素周辺中実部14aを全周にわたって有し、有機バリア層14の屈折率n0は第1無機バリア層12の屈折率n1よりも小さく、画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaは、20°以上であり、上面の傾斜角θaは、30°以上であることが好ましく、40°以下であることが好ましい。傾斜角θaは、画素の全周にわたって実質的に同じである。複数の画素は、実質的に同じ構造のバンク層を有している。本明細書において、「実質的に」とは、特に断らない限り、製造ばらつきの範囲内にあることをいう。
【0063】
OLED表示装置100のTFE構造10は、このような画素周辺中実部14aを有するので、従来よりも高い正面輝度および指向性を有している。以下に、その理由を説明する。
【0064】
図7に矢印Lで示す光線Lに注目する。光線Lは、有機層44で発せられ、TFE構造10を通過し、OLED表示装置100から出射される光線のうち、画素内の平坦な領域Rpaに形成された、画素周辺中実部14aの部分に垂直に入射した光線の軌跡を表している。すなわち、有機層44から表示面の法線方向に発せられた光線Lは、上部電極46および第1無機バリア層12を通過し、画素周辺中実部14aに入射する。光線Lの画素周辺中実部14aへの入射角θ1は0°であり、画素周辺中実部14a内に侵入した光線Lは、θ2=0°の方向に進行する。その後、光線Lは、画素周辺中実部14aの上面(傾斜角をθaとする。)にθ3で入射し、θ4で画素周辺中実部14aの上面から出射し、第2無機バリア層16に入射する。
【0065】
ここで、有機バリア層14の屈折率n0は第2無機バリア層16の屈折率n1よりも小さい(n0<n1)。有機バリア層14は、例えば、屈折率1.54の光硬化性アクリル樹脂で形成されており、第2無機バリア層16は、例えば、屈折率が1.80以上1.90以下の窒化シリコン(Si
3N
4)で形成されている。有機バリア層14の屈折率n0<第2無機バリア層16の屈折率n1なので、スネルの法則から、θ3>θ4となる。なお、屈折率が1.80以上1.90以下の窒化シリコン(Si
3N
4)はバリア性に優れている。第1無機バリア層12も屈折率が1.80以上1.90以下の窒化シリコン(Si
3N
4)で形成されていることが好ましい。よく知られているように、窒化シリコン膜の成膜条件によって、屈折率を制御することができる。
【0066】
次に、光線Lは、第2無機バリア層16と空気との界面にθ5で入射し、第2無機バリア層16からθ6で出射する。空気の屈折率は、第2無機バリア層16の屈折率n1よりも小さい。従って、スネルの法則から、θ6>θ5となる。このθ6を表示面の法線からの角度で表したものをθ6
*とする。すなわち、θ6
*は、OLED表示装置100から出射される光線Lの表示面の法線からの極角を表している。なお、ここでは、第2無機バリア層16の上面は空気と接触している場合を説明したが、第2無機バリア層16の上面に有機絶縁層および/または無機絶縁層(屈折率が第2無機バリア層16の屈折率n1よりも小さい。)と接していても同様の傾向になる。
【0067】
下記の表1に、有機バリア層、すなわち画素周辺中実部14aの有無による、θ6
*への影響を求めた結果を示す。表1には、画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaが、10°、20°、30°および40°の場合を示している。表1のθ6
*の括弧内の数値は、有機バリア層が有る場合のθ6
*の値から有機バリア層が無い場合のθ6
*の値を引いた値を示している。
【0068】
ここで、有機バリア層の屈折率n0は、1.54とし、第2無機バリア層16の屈折率n1は1.85とした。なお、有機バリア層14が無い場合の構成は、有機バリア層14の屈折率n0を1.85(=n1)とすることによって求めた。
【0070】
表1から分かるように、有機バリア層14を設けることによって、θ6
*の値が小さくなっている。特に、画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaが20°以上のとき、θ6
*の値が小さくなる傾向が顕著になる。すなわち、画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaを20°以上とすることによって、有機EL表示装置の正面輝度および指向性を効果的に向上させることができる。この利点は、画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaを30°以上とすることによってより大きくなる。ただし、θaは40°以下が好ましい。θaが40°超の構成では、有機EL表示装置から出射される光線の量が減る恐れがある。表1において、有機バリア層が無い場合のθaが40°の欄に数値が記載されていないのは、光線Lが第2無機バリア層16から出射されないことを表している。有機バリア層14を設けることによって、θaが40°の構成であっても、光線Lは、第2無機バリア層16からθ6
*=41.8°で出射され得るが、θaが40°を超えると、第2無機バリア層16から出射されないおそれがある。もちろん、θaの上限は、有機バリア層および第2無機バリア層の屈折率の値に依存し、上述のように、スネルの法則に従って計算することによって求められる。
【0071】
第2無機バリア層16の屈折率n1と、有機バリア層14の屈折率n0との差(Δn1=n1−n0)は、0.25以上であることが好ましい。ここで例示(Δn=1.85−1.54=0.31)したように、Δnは、0.3以上であることがさらに好ましい。
【0072】
画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaは、バンク層48の斜面の傾斜角θbと、有機バリア層14を形成する樹脂材料の粘度等とによって制御される。画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaを20°以上40°以下に制御するためには、バンク層48の斜面の傾斜角θbは20°以上60°以下であることが好ましい。バンク層48の斜面の傾斜角θbがこの範囲内にあれば、比較的低い粘度の光硬化性樹脂(例えば、紫外線硬化性アクリル樹脂)を用いて、画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaを20°以上40°以下に制御することが容易にできる。また、バンク層48の斜面の傾斜角θbが60°以下であれば、バンク層48上に形成される層(例えば配線または電極)が段差によって切断されるおそれが無い。
【0073】
なお、画素周辺中実部14aの上面の傾斜角θaが20°以上であれば、特許文献3に記載されているような、有機バリア層14の剥がれの問題を抑制することもできる。また、バンク層に対する密着性(濡れ性)に優れた樹脂を用いると、凹状の表面を有する画素周辺中実部14aが形成される。言い換えると、凹状の表面を有する画素周辺中実部14aが形成されるような、樹脂材料を用いて、有機バリア層14を形成することが好ましい。
【0074】
有機バリア層14は、無色透明の光硬化性樹脂(例えば、紫外線硬化性アクリル樹脂)で形成されることが好ましい。有機バリア層14が可視光を吸収すると、光の利用効率(輝度)が低下するからである。
【0075】
また、画素周辺中実部14aによって、正面輝度および指向性を向上させる効果は、画素の全周にわたって均一に発揮されることが好ましい。したがって、上述した様に、複数の画素は、それぞれの全周にわたって、実質的に同じ構造のバンク層48および画素周辺中実部14aを有することが好ましい。画素の全周の一部において構造が異なると、配光分布が異なることになり、例えば、特定の斜め視角から見たときに色づくなどの現象が現れるおそれがある。
【0076】
有機バリア層14は、例えば、上記特許文献1または2に記載の方法で形成され得る。例えば、チャンバー内で、蒸気または霧状の有機材料(例えばアクリルモノマー)を、室温以下の温度に維持された素子基板上に供給し、素子基板上で凝縮させ、液状になった有機材料の毛細管現象または表面張力によって、第1無機バリア層12の凸部の側面と平坦部との境界部に偏在させる。その後、有機材料に例えば紫外線を照射することによって、凸部の周辺の境界部に有機バリア層(例えばアクリル樹脂層)14の中実部を形成する。この方法によって形成される有機バリア層14は、平坦部には中実部が実質的に存在しない。有機バリア層の形成方法に関して、特許文献1および2の開示内容を参考のために本明細書に援用する。このとき、バンク層の斜面に液膜が形成されるように、光硬化性樹脂の粘度、斜面に対する濡れ性等が制御される。斜面の表面を改質してもよい。最初に成膜する樹脂層の厚さを調整する(例えば、100nm未満とする)、および/または、アッシング条件(時間を含む)を調整することによって、有機バリア層14を形成することもできる。
【0077】
有機バリア層14は、例えば、スプレイ法、スピンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷またはインクジェット法を用いて形成してもよい。アッシング工程をさらに含んでもよい。有機バリア層を、感光性樹脂を用いて形成し、マスク露光を行ってもよい。マスク露光によって、画素周辺中実部を形成するとともに、第1無機バリア層と第2無機バリア層とが直接接触する無機バリア層接合部を形成してもよい。
【0078】
なお、第1無機バリア層および第2無機バリア層として、上述した様に、屈折率が1.80以上1.90以下の窒化シリコン(Si
3N
4)を好適に用いることができるが、この他、屈折率n1が1.75以上のSiON層、SiNO層、Al
2O
3層などを用いることもできる。
有機EL表示装置(100)は、基板と、基板に支持され、それぞれが各画素に配置された複数の有機EL素子と、各画素を規定するバンク層(48)とを有する素子基板と、複数の画素を覆う薄膜封止構造(10)とを有し、バンク層は、各画素の周囲を包囲する斜面を有し、薄膜封止構造は、第1無機バリア層(12)と、第1無機バリア層の上面に接しかつ離散的に分布する複数の中実部を有する有機バリア層(14)と、第1無機バリア層の上面および有機バリア層の複数の中実部の上面に接する第2無機バリア層(16)とを有し、複数の中実部は、第1無機バリア層の斜面上の部分から画素内の周辺に至る画素周辺中実部(14a)を全周にわたって有し、有機バリア層の屈折率n0は第2無機バリア層の屈折率n1よりも小さく、画素周辺中実部の上面の傾斜角θaは、20°以上である。