【実施例】
【0053】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0054】
実験例1 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(モデル系)
表1及び表2の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
注1)「サンサポート※P−90*」を使用。
なお、本発明で用いたカラギナンは全て硫酸基含量が20〜40%の範囲内である。
注2)「サンサポート※P−30*」を使用。
注3)「サンサポート※P−40*」を使用。
注4)「カラギニンHi−pHive*」(μ成分を2〜7質量%、ν成分を10〜17質量%含有するカラギナン100質量%)を使用。
注5)ゲル化が阻害されなかったもの(容器から取り出して静置した場合に、容器の形状を保つもの)を○、ゲル化しなかったもの(容器から取り出して静置した場合に、容器の形状を保たずに広がるもの、ペースト状あるいはゾル状のもの)を×とした。
【0058】
(ゲル強度の測定(注6))
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品について、各々のゲル強度を測定した。ゲル強度は、テクスチャーアナライザー TA-XT2i(Stable Micro Systems社製)を用いて測定した(測定条件:プランジャー直径11.3mm、侵入速度1mm/s、品温5℃)。
表中、斜線で示している部分(比較例1−1)はゲル化せず、ゲル強度の測定が不可能であったものを示す(ゲル化の阻害)。
【0059】
(凝集物形成の評価)
下記表3に示す基準に従って凝集物形成を評価した。
【0060】
【表3】
【0061】
安定剤を不使用とした比較例1−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びキサンタンガムの相互作用によりゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった。
ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンを各々用いて調製した実施例1−1〜1−8のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びキサンタンガムを含有しつつも、両者が凝集物を形成したり、ゲル化が阻害されることなく、均一な組織を有するゲルを形成した。また、得られたゲルは弾力的な食感を有していた。
一方、上記特定のカラギナン以外のカラギナン、例えばκカラギナンを用いた場合は、目的とするタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製することができなかった。
例えば、κカラギナンを0.3%添加した比較例1−2のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、凝集物形成を抑制することができなかった。更にはゲル強度が弱く、キサンタンガム及びローカストビーンガムを用いたゲル特有の弾力ある食感を有することができなかった。
κカラギナンの添加量を0.6%まで増加した比較例1−3のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、一定のゲル強度を有するものの、1m程遠目にも凝集物の形成が確認され、商品価値がないゲル状飲食品であった。
【0062】
実験例2 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(モデル系)
表4及び表5の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で60分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表5に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
安定剤を不使用とした比較例2−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びネイティブ型ジェランガムの相互作用によりゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった。
ιカラギナン、λカラギナン、κ2カラギナン、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンを各々用いて調製した実施例2−1〜2−4のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びネイティブ型ジェランガムを含有しつつも、両者が凝集物を形成したり、ゲル化が阻害されることなく、均一な組織を有するゲルを形成した。また、得られたゲルは弾力的な食感を有していた。
また、表5に示すように上記特定のカラギナンを用いることで、0.05質量%と低添加量であってもタンパク質及び酸性多糖類(ネイティブ型ジェランガム)の凝集物形成を顕著に抑制することができた。
一方、上記特定のカラギナン以外のカラギナン、例えばκカラギナンを用いた場合(比較例2−2)はゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった。
【0066】
実験例3 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(モデル系)
表6及び表7の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。90℃で20分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表7に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
注7)κカラギナン40質量%、ローカストビーンガム40質量%及びキサンタンガム20質量%含有製剤を使用。
【0069】
【表7】
【0070】
安定剤無添加区では、タンパク質及びLMペクチンの相互作用によりゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった(比較例3−1)。かかるところ、安定剤としてιカラギナン(実施例3−1)及びμ成分及びν成分を含有するカラギナン(実施例3−2)を用いることで、凝集物形成もなく、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製できた。また、得られたゲルは弾力的な食感を有していた。
カラギナンとしてκカラギナンを用いた比較例3−2は凝集物形成の程度がひどく、分離も発生してしまい、商品価値がないものであった。
比較例3−3及び比較例3−4は、酸性条件下における乳タンパク質の安定化剤として多用される水溶性大豆多糖類及びHMペクチンを各々用いた例である。
水溶性大豆多糖類を用いた場合(比較例3−3)は1m程遠目からも確認できるほどの凝集物が形成され、かつ得られた酸性ゲル状飲食品のゲル強度も低く、商品価値がないものであった。HMペクチンを用いた場合(比較例3−4)は、ゲルを形成しなかった。
【0071】
実施例3−3〜3−5及び比較例3−5〜3−6は、酸性多糖類としてκカラギナン及びキサンタンガム、並びに中性多糖類としてローカストビーンガムをゲル化剤として用いた例である。
安定剤としてιカラギナン(実施例3−3)、κ2カラギナン(実施例3−4)並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナン(実施例3−5)を用いることで、顕著に凝集物の形成を抑制することができ、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製できた。
安定剤無添加区(比較例3−5)は、酸性多糖類及びタンパク質の相互作用によりゲルを形成しなかった。安定剤としてκカラギナンを用いた場合(比較例3−6)は、凝集物形成の程度がひどく、更には分離も発生していた。
【0072】
実験例4 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)
表8及び表9の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
具体的には、水、ヤシ油にグラニュー糖、脱脂粉乳、ゲル化剤、安定剤及び乳化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌した。マンゴーピューレ、色素、香料及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行い、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
得られた酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表9に示す。
【0073】
【表8】
【0074】
注8)κカラギナン30質量%、グルコマンナン20質量%、ローカストビーンガム12質量%及びこんにゃく粉10質量%含有製剤を使用。
注9)κカラギナン33質量%及びローカストビーンガム45質量%含有製剤を使用。
【0075】
【表9】
【0076】
λカラギナン(実施例4−1、実施例4−5)、μ成分及びν成分を含有するカラギナン(実施例4−2、4−6)、ιカラギナン(実施例4−3)、並びにκ2カラギナン(実施例4−4)を用いたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びκカラギナンを含有しつつも、両者が凝集物を形成したり、ゲル化が阻害されることなく、均一で弾力のある食感を有するゲルを形成した。一方、安定剤不使用の比較例4−1及び比較例4−3は、タンパク質及びゲル化剤中に含まれるκカラギナンが相互作用して凝集物を形成し、ゲルを形成しなかった。
同様にして、酸性条件下における乳タンパク質の安定化剤として多用される水溶性大豆多糖類及びHMペクチンを用いた比較例4−2及び比較例4−4も、タンパク質及びκカラギナンが相互作用して凝集物を形成し、ゲルを形成しなかった。
【0077】
実験例5 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(ヨーグルト風ゼリー)
表10の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(ヨーグルト風ゼリー)を調製した。具体的には、水にグラニュー糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌溶解した。クエン酸及び香料を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。容器に充填し、85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(ヨーグルト風ゼリー)を調製した。
【0078】
【表10】
【0079】
注10)κカラギナン20質量%、キサンタンガム7.7質量%及びローカストビーンガム6.6質量%含有製剤を使用。
【0080】
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品(ヨーグルト風ゼリー)は、タンパク質、κカラギナン及びキサンタンガムを含有しつつも、両者が相互作用して凝集物を形成したり、ゲル化が阻害されることなく、均一な組織で滑らかな食感を有する弾力あるゲル状飲食品であった。
【0081】
実験例6 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(モデル系)
表10の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表10に示す。
【0082】
【表10】
【0083】
安定剤無添加区では、タンパク質及び脱アシル型ジェランガムの相互作用によりゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった(比較例6−1)。
一方、安定剤としてιカラギナン(実施例6−1)を用いることで、凝集物形成もなく、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製できた。また、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品に従来使用することができなかった脱アシル型ジェランガムを使用することで、ゲル状飲食品に耐熱性を付与することができた。
【0084】
実験例7 pH変化に対する安定化試験(モデル系)
pH変化に伴う、安定剤によるタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の安定化試験を実施した。
(タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の調製)
表11及び表12の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
(評価)
pH3〜4の試験区はゲル化の有無を「○、×」で評価した。pH4.5〜6の試験区は実施例及び比較例のいずれもゲルを形成したため、凝集物形成の様子を表3の基準と同様に「−、±、+、++、+++」で5段階評価した。
【0085】
【表11】
【0086】
注11)水溶性大豆多糖類50質量%及びHMペクチン50質量%含有製剤を使用。
【0087】
【表12】
【0088】
安定剤無添加区の比較例7−1は、pH4以下ではゲルを形成しなかった。pH4.5以上ではゲルを形成したが、タンパク質及び酸性多糖類(κカラギナン及びキサンタンガム)の相互作用により凝集物を形成し、その程度はひどく、分離も発生していた。
同様にして、酸性条件下における乳タンパク質の安定化剤として多用される水溶性大豆多糖類及びHMペクチンを含有する安定化剤を用いた比較例7−2も、pH4以下ではゲルを形成せず、pH4.5以上ではゲルを形成したが、凝集物形成の程度はひどく、分離も発生していた。
一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例7−1は、pH3〜6までの広範囲でゲルを形成し、更に凝集物形成の程度がひどいpH4.5〜6での凝集物形成を顕著に抑制し、均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供できた。また、得られたゲルは弾力的な食感を有していた。
【0089】
実験例8 pH変化に対する安定化試験(モデル系)
pH変化に伴う、安定剤(ιカラギナン)による、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の安定化試験を実施した。
(タンパク質含有酸性ゲル状飲食品の調製)
表13及び表14の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
(評価)
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無、ゲル強度及び凝集物の形成)を評価した。結果を表14に示す。
【0090】
【表13】
【0091】
【表14】
【0092】
安定化剤としてιカラギナンを用いた場合、pH3.8〜6の広範囲で酸性多糖類及びタンパク質の相互作用による凝集物形成を顕著に抑制することができた。
一方、安定剤無添加区では、pH3.8〜4でゲルを形成せず、pH4.5〜6では酸性多糖類及びタンパク質による凝集物形成が発生し、商品価値を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を提供できなかった。
【0093】
実験例9 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)
表15に示す処方に従って、酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
具体的には、水、ヤシ油にグラニュー糖、脱脂粉乳、ゲル化剤、安定剤及び乳化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌した。マンゴーピューレ、色素、香料及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行った後、108℃で10秒のUHT殺菌を行い、容器に充填及び冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)を調製した。
【0094】
【表15】
【0095】
安定剤無添加区(比較例9−1)では、タンパク質及び酸性多糖類の相互作用によりゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった。比較例9−1のマンゴープリン(冷却固化後のプリン)の組織を一部採取し、顕微鏡にて観察して得られた画像を
図1に示す。
図1からも明らかなように、タンパク質粒子が非常に粗く、ゲル化が阻害されているのが分かる。
一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例9−1は、UHT殺菌後も粗い粒子が形成されることなく、ざらつきのない均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品(マンゴープリン)であった。
図1と同様にして、撮影したUHT殺菌後の様子を
図2に示す。
【0096】
実験例10 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)
表16に示す処方に従って、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
具体的には、常温で水、油脂を撹拌しながら脱脂粉乳、カゼインナトリウム、デキストリン、乳化剤、水溶性大豆多糖類、HMペクチン、安定剤及びゲル化剤を添加し、80℃まで加温後、80℃で10分間撹拌した。クエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。容器に充填し、85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態評価(ゲル化の有無、凝集物の形成)、及び物性測定を実施した。結果を表17に示す。
【0097】
【表16】
【0098】
【表17】
【0099】
(物性測定)
「えん下困難者用食品の試験方法」に従って各種力学特性を測定した。
直径40mm、高さ15mmの容器の中でゲル化させた試料(酸性ゲル状濃厚流動食)について、直径20mm、高さ8mmのプランジャーおよびテクスチャーアナライザーTA−XT2i(Stable Micro Systems社製)を用いて、各種力学特性を測定した。測定温度20℃、圧縮速度10mm/秒、クリアランス5mmで2回連続圧縮を行った。
(かたさ(注12))
実験例1とは異なり、実験例10では上記「えん下困難者用食品の試験方法」に準拠して「かたさ」を測定した。具体的には、2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第一バイトにおける最大圧縮応力を「かたさ」とした。
表中、「測定不能」とは、ゲル化せず、「かたさ」の測定が不可能であったものを示す。
(付着性(注13))
2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第一バイトの圧縮後に現れる負の応力値と移動距離の積により求められる面積を「付着性」とした。本数値が小さい程、付着性が小さいことを意味する。
(凝集性(注14))
2回連続圧縮を行った際に得られる応力−距離曲線より、第二バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A2を、第一バイトの圧縮時の正の応力値と移動距離の積により求められる面積A1で割った値、すなわちA2/A1を「凝集性」とした。ゲル状試料の場合、本数値が小さい程まとまりがなく、大きいほどまとまりがあることを意味する。ただし、咀嚼・嚥下機能低下者向けには0.2〜0.6程度が適してるとされる。
【0100】
μ成分及びν成分を含有するカラギナンを使用した実施例10−1及び10−2は、タンパク質と、酸性多糖類としてκカラギナン(実施例10−1)又はキサンタンガム(実施例10−2)を含有しつつも、両者が凝集物を形成したり、ゲル化が阻害されることなく、均一なゲルを形成した。更に、実施例10−1及び10−2で得られた酸性ゲル状濃厚流動食は、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適したかたさ、良好な食塊形成性を有しており、付着性も小さく、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感及び物性を有していた。加えて、実施例10−1及び10−2の酸性ゲル状濃厚流動食は離水の発生も顕著に抑制されていた。
一方、安定剤不使用の比較例10−1及び比較例10−2は、タンパク質と、ゲル化剤中に含まれるκカラギナン、キサンタンガムが相互作用して凝集物を形成し、ゲルを形成しなかった。
【0101】
実験例11 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)
表18に示す処方に従って、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
具体的には、常温で水、油脂を撹拌しながら脱脂粉乳、カゼインナトリウム、デキストリン、乳化剤、水溶性大豆多糖類、HMペクチン、κカラギナン(ゲル化剤)及び安定剤を添加し、80℃まで加温後、80℃で10分間撹拌した。クエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。容器に充填し、85℃で30分間殺菌後、冷却することで、タンパク質を含有する酸性ゲル状飲食品(酸性ゲル状濃厚流動食)を調製した。
μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例11−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質、脂質及び炭水化物を複合的に含有する濃厚流動食であっても、酸性多糖類とタンパク質が凝集物を形成することなく、均一で滑らかな食感を有していた、更には、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適したかたさ、良好な食塊形成性を有しており、付着性も小さく、咀嚼・嚥下機能低下者の喫食に適した食感及び物性を有していた。また、実施例11−1の酸性ゲル状濃厚流動食は、離水の発生も顕著に抑制されており、保水性も高かった。
一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いていない比較例11−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質とκカラギナンが相互作用して凝集物を形成し、ゲル自体を形成できなかった。
【0102】
【表18】
【0103】
実験例12 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(イチゴプリン)
表19に示す処方に従って、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(イチゴプリン)を調製した。
具体的には、水、ヤシ油、牛乳、生クリームに砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤、メタリン酸ナトリウム、乳化剤の粉体混合物を添加し、80℃で10分間加熱撹拌した。イチゴ果汁、色素、香料及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行い、容器に充填後、121℃で20分間レトルト殺菌し、冷却することでタンパク質含有ゲル状飲食品(イチゴプリン)を調製した。
得られた酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表19に示す。
【0104】
【表19】
【0105】
注15)キサンタンガム8質量%、ローカストビーンガム8質量%、寒天14質量%、グァーガム3質量%、発酵セルロース8質量%含有製剤を使用。
【0106】
安定剤無添加区(比較例12−1)はゲルを形成するものの、タンパク質及びキサンタンガムの相互作用により凝集物が形成された(30cmの距離で凝集物形成が確認された)。
一方、安定剤としてμ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例12−1のタンパク質含有酸性ゲル状飲食品は、タンパク質及びキサンタンガムを含有しつつも、両者が凝集物を形成することなくゲルを形成し、滑らかで弾力のあるイチゴプリンであった。
【0107】
実験例13 タンパク質含有 酸性ゲル状飲食品(モデル系)
表20の処方に基づき、タンパク質含有酸性ゲル状飲食品(モデル系)を調製した。具体的には、水に砂糖、脱脂粉乳、ゲル化剤及び安定剤を添加し、80℃で10分間加熱溶解した。色素及びクエン酸を添加し、全量が100質量部となるようにイオン交換水で補正した。15MPaで均質化処理を行なった後、容器に充填した。85℃で30分間殺菌後、冷却することでタンパク質含有酸性ゲル状飲食品を調製した。
得られたタンパク質含有酸性ゲル状飲食品の状態(ゲル化の有無及び凝集物の形成)を評価した。結果を表20に示す。
【0108】
【表20】
【0109】
安定剤無添加区(比較例13−1)では、タンパク質及び酸性多糖類の相互作用によりゲルを形成せず、凝集物形成も著しかった。一方、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いた実施例13−1は、殺菌後も凝集物が形成されることなく、ざらつきのない均一な組織を有するタンパク質含有酸性ゲル状飲食品であった。