【文献】
藤川辰一郎,純アルミニウムおよびアルミニウム合金におけるスカンジウム−その挙動と添加効果,軽金属,日本,社団法人軽金属学会,1999年 3月30日,Vol.49, No.3,p.128-144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1又は2記載の鋳造物において、常温での伸び率が1〜10%であり、且つ200〜250℃で100時間曝露した後の0.2%降伏応力が100〜190MPaであることを特徴とするAl合金鋳造物。
請求項4又は5記載の製造方法において、前記溶湯を、Cu又はMnの少なくともいずれか一方を最大で4.3重量%含むものとすることを特徴とするAl合金鋳造物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
航空機や自動車用の構成部品には、軽量でありながら高強度、高耐熱性、高耐久性を示すことが求められる。このような部品を低コストで量産するべく、該部品を、Al合金から得ることが試みられている。例えば、特許文献1では、La及びScを添加したAl合金のアトマイズ粉を出発材料としてターボ過給器用コンプレッサを得ることが提案されている。この場合、アトマイズ粉に対してHIP処理を施した後、押出加工等が行われる。
【0003】
ところで、この種の部品は、複雑な形状をなすことが一般的である。上記したようにHIP処理を行って焼結体とし、押出加工を行う場合、複雑な形状のものを得ることは困難である。すなわち、焼結体に対して切削加工等を行い、これにより、最終製品(部品)としての形状・寸法に仕上げる必要がある。また、アトマイズ粉を用いる粉末冶金であっても、複雑な形状のものを得ることは困難である。このため、生産効率が十分に大きいとはいえず、また、煩雑である。
【0004】
そこで、該部品を、Al合金の溶湯から鋳造物として得ることが検討されている。鋳造加工によれば、複雑形状の物体を容易に形成することができるからである。また、最終製品の寸法に近い寸法のものが得られるので、バリ取り加工等の小規模な仕上げ加工を施す程度で十分であるからである。
【0005】
一般的に高温強度が比較的高い鋳造用のAl合金としては、Al−Si−Mg系(AC4CH等)やAl−Si−Cu−Mg合金(AC4D等)、Al−Si−Cu−Mg−Ni系合金(AC9A等)が周知である。Al−Si−Cu−Mg−Ni系合金(AC9A等)は常温での靭性が低く、また、鋳造が難しいため、実際の鋳造品としては適用が少ない。
【0006】
一方、該Al合金は、従来、展伸材として用いられていたが、近時、鋳造物に適用されている例がある。例えば、特許文献2には、Scを0.01〜0.8%含有する耐熱アルミ合金鋳物に関する技術(薄肉石膏鋳造品)が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、粒径が約40〜60μmであるAl
3(Sc,Zr)析出粒子と、約5nmのη’相析出物とを金属組織中に含むAl合金鋳造物が、熱間割れに対して有効な耐性を示す、との報告がなされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2では、高温強度について200℃までしか記述がなく、それ以上の温度における強度が十分であるか否かは不明である。また、高温強度を得るためには溶体化処理を行わなければならないという側面がある。さらに、航空機や自動車用の構成部品に必要な伸び率に関する記述はなく、如何なる程度の伸び率であるのかも不明である。
【0010】
また、特許文献3に記載のAl合金鋳造物は、100℃/秒以上という非常に大きな冷却速度として得られるが、一般的な砂型・金型鋳造では同様の特性を出すことが困難である。しかも、このAl合金を出発材料として得られた鋳造物を航空機や自動車用の部品とするには、切削加工等を行い最終製品として寸法・形状を合わせる必要があり、複雑な形状を得るのは困難である。
【0011】
以上のことから、特許文献2、3に記載の技術によって得られたAl合金鋳造物に比して複雑な形状の鋳造が可能であり、且つ必要な強度・靭性等が一層優れているものが求められている。
【0012】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、良好な鋳造性を示し、且つ高温強度等の諸特性に優れたAl合金鋳造物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記の目的を達成するために、本発明に係るAl合金鋳造物は、Mgを3.2〜7.2重量%、Scを0.28〜0.6重量%含み、且つFe、Siがともに0.1重量%以下
、残部がAl及び不可避的不純物であり、
金属組織中に、粒径が100nm以下であるAl
3Sc粒子が3体積%以下で存在することを特徴とする。
【0014】
ここで、粒径が100nmを超えると、Al
3Sc粒子の析出効果が減少するため、Al合金鋳造物の強度を向上させることが困難である。また、3体積%を超えるAl
3Sc粒子を析出させることは、Al
3Scを過飽和に固溶させる必要があるためにかなり大きな冷却速度が必要であり、製法上困難である。しかも、この場合、膨大なコストがかかる。
【0015】
成分組成比が上記したように設定されるAl合金の溶湯から得られた鋳造物では、鋳造欠陥が少ない。すなわち、該Al合金は鋳造性に優れる。のみならず、微細なAl
3Sc粒子が金属組織中に存在することから、強度(特に高温強度)に優れたものとなる。
【0016】
この鋳造物は、Cu又はMnの少なくともいずれか一方を含むものであってもよい。このような元素が存在することにより、Al合金鋳造物の強度を一層向上させることができる。なお、Cu又はMnの合計値は、最大で4.3重量%に設定される。
【0017】
該鋳造物は、典型的には、常温で1〜10%の伸び率を示し、200〜250℃の範囲内で100時間曝露した後の250℃における高温引張試験において、100〜190MPaの0.2%降伏応力を示す。
【0018】
また、本発明に係るAl合金鋳造物の製造方法は、Mgを3.2〜7.2重量%、Scを0.28〜0.6重量%、且つFe、Siをともに0.1重量%以下
、残部をAl及び不可避的不純物としたAl合金の溶湯を得る工程と、
前記溶湯から鋳造物を得る工程と、
前記鋳造物に対して溶体化処理を施すことなく時効処理を施し、金属組織中に、粒径が100nm以下であるAl
3Sc粒子を3体積%以下の割合で析出させる工程と、
を有することを特徴とする。
【0019】
このような過程を経ることにより、鋳造性に優れ且つ強度(特に高温強度)に優れたAl合金鋳造物を得ることができる。この理由は、溶体化処理(及び焼入れ処理)を施すことなく時効処理を施すようにしているため、Al
3Sc粒子の粒径が100nm以下と極めて微細になっているからであると考えられる。
【0020】
なお、時効処理は、例えば、250〜350℃で5〜100時間保持することによって行うことができる。
【0021】
さらに、前記溶湯に、Cu又はMnの少なくともいずれか一方を最大で4.3重量%含めるようにしてもよい。この場合、上記したように、強度が一層向上したAl合金鋳造物を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、Al合金鋳造物の成分組成比を所定の範囲内に設定するとともに、その金属組織中に、粒径が100nm以下であるAl
3Sc粒子を3体積%以下で存在させるようにしている。このため、鋳造性に優れ、且つ強度(特に高温強度)に優れた鋳造物を歩留まりよく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るAl合金鋳造物及びその製造方法につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0025】
先ず、本実施の形態に係るAl合金鋳造物につき説明する。このAl合金鋳造物は、少なくとも、Mgを3.2〜7.2重量%、Scを0.28〜0.6重量%含み、且つFe、Siがともに0.1重量%以下である。
【0026】
Mgは、Al合金鋳造物に強度をもたらす成分である。Mgが3.2重量%未満では十分な強度が得られず、一方、7.2重量%を超えると、鋳造性が低下して鋳造欠陥が目立つようになる。
【0027】
Scは、AlとともにAl
3Sc粒子を形成する成分である。このAl
3Sc粒子が金属組織中に存在することにより、Al合金鋳造物が優れた強度(特に高温強度)を示すようになる。また、凝固組織を微細化し、湯周り性も良好なものとなる。
【0028】
Scの割合は、上記の通り、0.28〜0.6重量%に設定される。0.28重量%未満であると、Al
3Sc粒子の析出量が低減して強度の向上が認められない。一方、0.6重量%を超えると、粗大なAl
3Sc粒子が析出し始めて強度向上へ寄与しなくなる。以上のことから、Al合金鋳造物の強度が十分でなくなる。
【0029】
図1は、Al合金鋳造物の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。この
図1から、粒径が100nm以下、典型的には5〜10nmであるAl
3Sc粒子が金属組織中に含まれていることが分かる。なお、Al
3Sc粒子であることは、エネルギ分散型X線分析(EDS)によって確認される。
【0030】
図1からは、Al
3Sc粒子が3体積%以下の割合であることも諒解される。すなわち、本実施の形態に係るAl合金鋳造物は、その金属組織中に、粒径が100nm以下のAl
3Sc粒子を3体積%以下含むものである。
【0031】
一般的なAl合金には、Fe及びSiが不可避的不純物として含まれる。ここで、本実施の形態に係るAl合金鋳造物においては、Fe及びSiの割合は、ともに0.1重量%以下に設定される。
【0032】
すなわち、本実施の形態では、Fe及びSiの割合が可及的に小さくなるようにしている。本発明者は、特に、Siが、Al合金鋳造物の強度及び鋳造特性に影響を与えることを見出した。すなわち、Si量を可及的に小さくすると、Al合金鋳造物の特に高温強度が良好となる。また、Fe量を可及的に小さくすると、室温での延性が向上するとともに鋳造性も改善できる。
【0033】
Al合金鋳造物は、さらに、Cu又はMnの少なくともいずれか一方を含むものであってもよい。これにより、強度が大きくなるという利点が得られる。
【0034】
その場合、両元素の割合は、鋳造加工時の鋳造性が低下することや、製品の延性が低下することを回避するべく、合計で最大4.3重量%に設定される。すなわち、Cuのみが添加されている場合、Mnのみが添加されている場合、Cu及びMnの双方が添加されている場合のいずれにおいても、その添加割合は最大で4.3重量%である。
【0035】
以上のような元素を上記した割合で含み、且つ金属組織中にAl
3Sc粒子が存在するAl合金鋳造物は、優れた諸特性(特に高温強度)を示す。すなわち、典型的には、常温での伸び率が1〜10%であり、且つ250℃での0.2%降伏応力が100〜190MPaである。
【0036】
次に、上記したAl合金鋳造物の製造方法につき説明する。
【0037】
はじめに、溶湯を得るべく、溶解すべき純Al材又はAl合金材を用意する。ここで、純Al材やAl合金材は、Mgが3.2〜7.2重量%、Scが0.28〜0.6重量%となり、且つFe、Siの双方が0.1重量%以下となるような割合で混合される。すなわち、例えば、Mgを7.5重量%含むようなAl合金材を選定した場合には、Mgの含有量が少ないAl合金材や、純Al材を混合することによってMgの割合を相対的に低下させ、3.2〜7.2重量%の範囲内とする。
【0038】
Al合金材には、Cu及びMnの少なくともいずれか一方が含まれていてもよい。この場合、上記したようにCu及びMnの割合は最大で4.3重量%に設定される。
【0039】
なお、純Al材やAl合金材、添加元素源等は粉末であってもよい。例えば、純Al粉末、純Mg粉末、純Sc粉末、純Cu粉末及び純Mn粉末を用意し、純Mg粉末が3.2〜7.2重量%、純Sc粉末が0.28〜0.6重量%、純Cu粉末及び純Mn粉末の合計が4.3重量%以内、残部が純Al粉末となるように粉末同士の添加・混合を行えばよい。この場合、純金属粉末を用いるので、不可避的不純物であるSi及びFeの割合はともに0.1重量%以下となる。
【0040】
次に、これら純Al材やAl合金材を溶解して溶湯を得る。勿論、例えば、ある種のAl合金材を溶解して溶湯とした後、該溶湯に別のAl合金材を添加するようにしてもよい。
【0041】
次に、この溶湯を、鋳造加工装置の成形型内に導入する。溶湯は、キャビティの形状に対応する形状で冷却固化し、これによりAl合金鋳造物が得られる。
【0042】
Mg及びScの成分組成比が所定の範囲内に設定され、且つCu及びMnを含む場合には、これらの成分組成比の最大値が所定の値に設定されている。このため、優れた鋳造性が発現する。従って、鋳造欠陥が発生することが抑制されたAl合金鋳造物を得ることができる。
【0043】
通常、このようにして得られたAl合金鋳造物には、均一固溶体とするための溶体化処理が施され、次に、焼入れ処理(急冷)が行われる。周知の通り、その後に時効処理がさらに施され、これにより金属組織中に析出物が析出する。
【0044】
これに対し、本実施の形態においては、溶体化処理及び焼入れ処理が行われない。すなわち、溶湯が冷却固化されることで得られたAl合金鋳造物には、溶体化処理及び焼入れ処理が施されることなく、次工程である時効処理が施される。
【0045】
このように、溶体化処理及び焼入れ処理を施すことなく時効処理を行うと、粒径100nm以下の微細なAl
3Sc粒子が金属組織中に析出する。金属組織中におけるAl
3Sc粒子の占有面積(体積)率は、Al合金鋳造物におけるAl
3Sc粒子の占有量と、その際のAl合金鋳造物の抵抗値との関係から得られた検量線を用いる電気抵抗法によって求めることができる。この手法により求められたAl
3Sc粒子の占有面積(体積)率は、3体積%以下である。
【0046】
なお、時効処理は、Al
3Sc粒子が上記したように析出する条件で行えばよい。例えば、250〜350℃で5〜100時間保持することが好適であるが、温度や時間は、特にこれに限定されるものではない。
【0047】
その後、得られたAl合金鋳造物を室温となるまで放冷すればよい。以上のようにして、金属組織中にAl
3Scの析出粒子を含むAl合金鋳造物が得られるに至る。
【0048】
必要に応じ、バリ取り加工等の仕上げ加工がなされる。これにより、所定形状・寸法の最終製品が得られるに至る。この最終製品(Al合金鋳造物)は、例えば、航空機や自動車用の部品として用いられる。上記したように、強度等の諸特性が優れるからである。
【0049】
鋳造加工によれば、複雑形状の部品を容易に得ることができる。すなわち、本実施の形態によれば、強度等の諸特性が優れる複雑形状物を効率よく得ることが可能となる。
【0050】
なお、上記した実施の形態では、所定形状をなす鋳造加工品を得る場合を例示して説明しているが、例えば、板材や棒材等を鋳造物として得るようにしてもよい。そして、これら板材や棒材に対して鍛造加工を施し、上記のAl合金鋳造物を出発材料とする所定形状の物品(鍛造加工品)を作製することも可能である。
【0051】
勿論、この鍛造加工品も諸特性に優れる。上記のAl合金鋳造物を出発材料として成形加工されたものであるからである。
【実施例1】
【0052】
純Al、純Mg、純Sc、純Cu及び純Mnを用意し、
図2に示す割合で混合した。各原材料のSiやFeがともに0.1重量%以下であれば、粉末やインゴットあるいは粒子の如何なる形態であってもよい。勿論、Mgは3.2〜7.2重量%の範囲内とし、且つScは0.28〜0.6重量%の範囲内とした。また、Cu又はMnを添加するときには、これらの合計を最大で4.3重量%とした。
【0053】
この混合粉末を溶解して溶湯を得、さらに鋳造加工を行うことによって、Al合金からなる実施例1〜14の試験片を各々複数個得た。なお、複数個の試験片は、同一成分組成比であっても同一形状のものではなく、後述する各試験に適切な形状のものをそれぞれ作製した。さらに、各々の試験片が所定温度まで降下した直後、時効処理を施した。
【0054】
これらの試験片の金属組織をTEM等で観察したところ、粒径が30nm以下である粒子が金属組織中に1体積%以下の割合で存在することが確認された。また、前記粒子につきEDSにて同定を行ったところ、Al
3Scであることが認められた。
【0055】
比較のため、実施例1、4、12の各々と同一成分・組成比のAl合金からなる試験片を作製し、これらについては溶体化処理を施した。その後、焼入れ処理を施し、上記に準拠した時効処理を施した。なお、この場合、Al
3Scの粒径は30nmを超えており、粗大化していることが確認できた。
【0056】
図3は、溶体化処理及び焼入れ処理を行うことなく時効処理を施した試験片と、溶体化処理、焼入れ処理及び時効処理を施した試験片における、時効処理での保持時間と、Bスケールのロックウェル硬度との関係を示すグラフである。
図3中、前者の試験片については実線、後者の試験片については破線で示している。また、四角(■、□)、菱形(◆、◇)、三角(▲、△)の各プロットは、それぞれ、実施例1、実施例4、実施例12の成分組成比のものであることを表している。
【0057】
この
図3から、前者、すなわち、溶体化処理及び焼入れ処理を行うことなく時効処理を施した試験片の方が高硬度であることが分かる。高硬度である素材は高強度であることから、前者の試験片の方が高強度であると換言することができる。このように硬度(強度)が相違する理由は、前者の試験片の方が、Al
3Sc粒子の粒径が小さいためであると考えられる。
【0058】
さらに、Siの添加割合を1.9重量%以上とした比較例1〜4の試験片、Scを全く添加していない比較例5、6の試験片を各々複数個鋳造加工によって作製し、所定温度まで降下した後、上記と同様にして時効処理を施した。これら比較例1〜6の試験片における成分組成比も、
図2に纏めて示している。
【0059】
先ず、実施例4、12及び比較例1〜4の各試験片における時効処理(250℃曝露)での保持時間と、Bスケールのロックウェル硬度との関係をグラフにして
図4に示す。この
図4から、Siの割合が大きな比較例1〜4の試験片では、保持時間が長くなると低硬度となること、換言すれば、高温強度が十分でないことが分かる。これに対し、実施例4、実施例12の試験片では、保持時間とともに硬度が上昇していることから、十分な高温強度を示すものであることが認められる。
【0060】
次に、実施例1〜14及び比較例1〜6の試験片につき鋳造性を評価した。鋳造性が極めて良好であるものを「◎」、良好であるものを「○」とし、
図2に併せて示す。鋳造性が良好であるものは、鋳造欠陥が少ないことを意味する。
【0061】
Siは、鋳造性を向上させる元素として知られている。一方、実施例1〜14の試験片は、Siの割合が極めて少ないにも関わらず優れた鋳造性を示していることが分かる。
【0062】
次に、実施例1〜14及び比較例1〜6の試験片を用い、200〜250℃に到達してさらに100時間曝露した後に0.2%降伏強度を測定した。各試験片で得られた値を
図2に示す。200〜250℃で100時間曝露後の0.2%降伏強度で十分な強度が得られれば、その後の耐久性能もほとんど低下しないと判断できた。
【0063】
また、150〜250℃における温度領域で引っ張り試験を行い、AC4D材における試験結果と比較した。全温度域でAC4D材よりも高強度であったものを「◎」、150℃前後で同等であり且つ250℃で高強度であったものを「○」、150℃前後で若干低強度であり且つ250℃で高強度であったものを「△」、全温度域で低強度であったものを「×」と表し、
図2に併せて示した。
【0064】
図2から、実施例1〜14の試験片が、100時間曝露後も200〜250℃にて十分な高強度(高温強度)を示していることが明らかである。
【0065】
次に、室温にて伸び率を測定し、AC4D材における試験結果と比較した。AC4D材が2%程度の伸び率を示すことから、4%以上の伸び率を示したものを「◎」、2〜4%の伸び率を示したものを「○」、1〜2%の伸び率を示したものを「△」と表し、
図2に併せて示した。なお、比較例1〜4の試験片は、伸び率が1%に達しないうちに破断した。
【0066】
図2から、実施例1〜14の試験片が十分な伸び率を示すものであることが明らかである。
【実施例2】
【0067】
図5に示す砂型10を用い、実施例12のAl合金、AC4D材、又はAC9A材を用いてギアボックスの鋳物を鋳造した。実施例12では厚さ3〜20mmの部位に至るまで湯周りよく鋳造することができた。
【0068】
また、各鋳物から試験片を切り出した。この中、実施例12及びAC4D材の試験片は、試験前に250℃で100時間曝露した。一方、AC9A材には前記の曝露を行わなかった。その後、各々の試験片に対し、室温、150℃、250℃のそれぞれにて引張試験を行った結果を
図6に示す。
図6中の棒グラフは0.2%耐力を表し、線グラフは伸びを表す。
【0069】
実施例12は室温強度及び高温強度が高く、ギアボックスとしての延性も十分であることが確認された。これに対し、AC4D材は、延性は認められるものの、破断の起点にSi晶出物が観察されており、これにより延性が低下しているものと考えられる。一方、実施例12には粗大な晶出物が存在しないため、強度及び延性が確保されたものと考えられる。また、AC9A材は、延性が最も低かった。