【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程1、及び(2)上記チオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程2を含む中空銀粒子の製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の中空銀粒子の製造方法に関する。
1.中空銀粒子の製造方法であって、
(1)溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、前記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程1、及び
(2)前記チオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程2
を含む、中空銀粒子の製造方法。
2.前記銀イオン源は、前記溶媒に可溶性の銀化合物である、上記項1に記載の中空銀粒子の製造方法。
3.前記銀イオン源は、硝酸銀及びトリフルオロ酢酸銀から選択される少なくとも一種である、上記項1又は2に記載の中空銀粒子の製造方法。
4.前記チオシアン酸イオン源は、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸テトラメチルアンモニウム、チオシアン酸テトラブチルアンモニウム、チオシアン酸メチルイミダゾリウム及びチオシアン酸グアニジンから選択される少なくとも一種である、上記項1〜3のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
5.前記チオシアン酸イオン源は、チオシアン酸ナトリウムである、上記項1〜4のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
6.前記還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ヒドラジン及び没食子酸から選択される少なくとも一種である、上記項1〜5のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
7.前記溶液中の銀イオン源の濃度は、0.01〜0.5mmol/Lである、上記項1〜6のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
8.前記溶液中のチオシアン酸イオン源の濃度は、0.015〜0.75mmol/Lである、上記項1〜7のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
9.前記溶液の温度は、0〜50℃である、上記項1〜8のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
10.前記工程1により、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、前記工程2により前記溶液に還元剤を添加するまでの時間は、1〜10分である、上記項1〜9のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
11.上記項1〜10のいずれかに記載の製造方法により製造された中空銀粒子。
12.前記中空銀粒子の粒子径は、200nm以下である、上記項11に記載の中空銀粒子。
【0012】
以下、本発明の中空銀粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法は、(1)溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程1、及び(2)上記チオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程2を含む中空銀粒子の製造方法である。
【0014】
上記製造方法によって中空銀粒子が製造できる理由は明確ではないが、以下のように推測される。すなわち、上記製造方法では、工程1において、溶媒に銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、溶液中でチオシアン酸銀の中実粒子が形成される。ここで、第2工程により、上記チオシアン酸銀の中実粒子を含む溶液に還元剤を添加すると、チオシアン酸銀の中実粒子の表面と、溶液との界面上で、チオシアン酸銀に溶液中の還元剤から電子が供給されて銀の被膜が形成される。この際、チオシアン酸銀の中実粒子の内部に存在するチオシアン酸銀の銀イオンを消費しながら銀の被膜が形成されるので、チオシアン酸銀の中実粒子の内部が空洞となり、中空銀粒子が形成されると考えられる。
【0015】
上記製造方法では、工程1において、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製し、工程2において当該溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を容易に製造することができる。
【0016】
また、上記製造方法によれば、得られる中空銀粒子の粒子径及び膜厚が、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長及び膜厚となり易く、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を含む溶液に還元剤を添加するという簡単な工程で、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な中空銀粒子を容易に得ることができる。
【0017】
更に、上記製造方法によれば、工程1により、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、上記工程2により前記溶液に還元剤を添加するまでの時間を調整すること、又は、上記溶液の温度を調整することにより、中空銀粒子の粒子径を容易に調整することができるので、得られる中空銀粒子の粒子径を、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長とするのに適した範囲に制御することができる。
【0018】
1.工程1
工程1は、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程である。
【0019】
<銀イオン源>
上記工程1に用いられる銀イオン源としては特に限定されず、例えば、硝酸銀、トリフルオロ酢酸銀、硫酸銀、酢酸銀等が挙げられる。中でも、溶液中に銀イオンを容易に供給できる点で、溶媒に可溶性の銀化合物が好ましい。上記溶媒に可溶性の銀化合物としては、硝酸銀、及びトリフルオロ酢酸銀が挙げられる。上記銀イオン源は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
銀イオン源の溶液中の濃度は、0.0025〜5mmol/Lであることが好ましく、0.01〜0.5mmol/Lであることがより好ましい。銀イオン源の溶液中の濃度が高過ぎると、得られる中空銀粒子が凝集するおそれがあり、濃度が低過ぎると中空銀粒子が十分に製造できないおそれがある。
【0021】
<チオシアン酸イオン源>
上記工程1に用いられるチオシアン酸イオン源としては、溶液中にチオシアン酸イオンを供給できれば特に限定されず、例えば、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸グアニジン等が挙げられる。また、上記チオシアン酸イオン源としては、四級アンモニウム塩を用いることができ、上記四級アンモニウム塩としては、例えば、チオシアン酸テトラメチルアンモニウム、チオシアン酸テトラブチルアンモニウム、チオシアン酸メチルイミダゾリウムが挙げられる。これらの中でも、溶媒に容易に溶解することができる点で、チオシアン酸ナトリウムを用いることが好ましい。上記チオシアン酸イオン源は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
チオシアン酸イオン源の溶液中の濃度は、0.00375〜7.5mmol/Lであることが好ましく、0.015〜0.75mmol/Lであることがより好ましい。チオシアン酸イオン源の溶液中の濃度が高過ぎる場合、又は低過ぎる場合は、中空銀粒子が十分に製造できないおそれがある。
【0023】
<溶媒>
上記工程1で用いられる溶媒としては、水を用いることが好ましい。水を用いることにより、安価で、且つ安全にチオシアン酸銀を調製することができる。
【0024】
上記工程1において、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源は、上記溶媒に添加されて溶液が調製されてもよいし、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源が、それぞれ予め溶媒に添加した状態で用意され、銀イオン源を含む溶媒と、チオシアン酸イオン源を含む溶媒とが混合されることにより溶液が調製されてもよい。
【0025】
上記工程1では、上記溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製することができる。当該チオシアン酸銀は、溶液中で中実の粒子として調製されると考えられる。
【0026】
以上説明した工程1により、溶液中で、チオシアン酸銀が調製される。
【0027】
2.工程2
工程2は、工程1により得られたチオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程である。工程2において溶液中に還元剤が添加されることにより、チオシアン酸銀の中実粒子の表面と溶液との界面上で、チオシアン酸銀に溶液中の還元剤から電子が供給されて銀の被膜が形成され、チオシアン酸銀の中実粒子の内部に存在するチオシアン酸銀の銀イオンが消費されるので、チオシアン酸銀の中実粒子の内部が空洞となり、中空銀粒子が形成されると考えられる。
【0028】
上記工程2に用いられる還元剤としては特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ヒドラジン、没食子酸等が挙げられる。中でも、充分な還元力を有しており、溶液に容易に溶解することができる点で、水素化ホウ素ナトリウムを用いることが好ましい。上記還元剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
還元剤の溶液中の濃度は、0.025〜50mmol/Lであることが好ましく、0.1〜5mmol/Lであることがより好ましい。還元剤の溶液中の濃度が高過ぎる場合、又は低過ぎる場合は、還元が適切でなく、中空銀粒子を製造できないおそれがある。
【0030】
上記工程1により溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、工程2により溶液に還元剤を添加するまでの時間は、1〜10分であることが好ましい。上記時間を上述の範囲とすることにより、得られる中空銀粒子の粒子径を、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのにより適した範囲に制御することができる。なお、上記時間は、工程1において、溶媒に銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を両方添加し終えてから、工程2において、溶液に還元剤を添加するまでの時間である。
【0031】
工程2において、上記時間を短くすると得られる中空銀粒子の粒子径が小さくなり、上記時間を長くすると粒子径が大きくなるので、上記時間を調整することにより、本発明の製造方法において得られる中空銀粒子の粒子径を制御することが可能となる。
【0032】
工程2においては、溶液に、更に、保護剤を添加するのが好ましい。保護剤を添加することにより、得られる中空銀粒子が安定に分散することが可能となり、形状や粒径を保った状態となる。上記保護剤は、溶液に還元剤を添加する前に予め添加してもよいが、溶液に還元剤を添加した後に添加することが好ましい。
【0033】
上記保護剤としては、溶液に溶解すれば特に限定されないが、例えば、L−システイン、グルタチオン等の水溶性チオール化合物が挙げられる。
【0034】
保護剤の溶液中の濃度は、0.00025〜0.5mmol/Lであることが好ましく、0.001〜0.05mmol/Lであることがより好ましい。保護剤の溶液中の濃度が高過ぎると、中空銀粒子の安定な分散を阻害するおそれがあり、濃度が低過ぎると、中空銀粒子の保護が十分でないおそれがある。
【0035】
以上説明した工程2により、溶液中で中空銀粒子が形成される。
【0036】
上記工程1及び2において、溶液の温度は0〜50℃であることが好ましい。溶液の温度を上述の範囲とすることにより、反応効率に優れ、効率よく中空銀粒子を得ることができる。溶液の温度を低くすると得られる中空銀粒子の粒子径が小さくなり、溶液の温度を高くすると得られる中空銀粒子の粒子径が大きくなるので、溶液の温度を調整することにより、本発明の製造方法において得られる中空銀粒子の粒子径を制御することが可能となる。
【0037】
3.中空銀粒子
本発明は、また、上記製造方法により製造された中空銀粒子でもある。上記製造方法により製造された本発明の中空銀粒子は、可視光領域から近赤外領域の波長での局在表面プラズモン共鳴を示すので、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用である。
【0038】
また、上記製造方法によれば、得られる中空銀粒子の粒子径及び膜厚が、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長及び膜厚となり易い。特に、上記製造方法においては、得られる中空銀粒子の粒子径を、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長とするのに適した範囲に制御することができるので、本発明の中空銀粒子を、生体物質の分析のためのイメージング技術において有用である650〜900nmの波長での局在表面プラズモン共鳴を示す中空銀粒子とすることも可能である。
【0039】
上記中空銀粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長は380〜2500nmが好ましく、380〜1000nmがより好ましく、500〜900nmが更に好ましく、650〜900nmが特に好ましい。中空銀粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長を上述の範囲とすることで、中空銀粒子を、微量物質の高感度分析や生体物質の分析のためのイメージング技術に有用に用いることができる。なお、上記中空銀粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長は、上述の中空銀粒子の製造方法において、工程1により、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、工程2により溶液に還元剤を添加するまでの時間を調整し、又は溶液の温度を調整して、中空銀粒子の粒子径を制御することにより調整することができる。
【0040】
本発明の中空銀粒子の粒子径は、200nm以下であることが好ましい。中空銀粒子の粒子径が上述の範囲であると、可視光領域から近赤外領域の波長での局在表面プラズモン共鳴を示すので、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに適した中空銀粒子となる。上記粒子径は、20〜100nmがより好ましく、50〜60nmが特に好ましい。
【0041】
上記中空銀粒子の粒子径は、透過型顕微鏡(日本電子株式会社製 型番:JEOLJEM−2100IM)を用いて撮影した透過型電子顕微鏡(TEM)像から、縮尺により粒子径を求める方法により測定することができる。
【0042】
上記中空銀粒子の膜厚は、30nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。また、上記膜厚は、5nm以上が好ましい。中空銀粒子の膜厚を上述の範囲とすることにより、中空銀粒子が、可視光領域から近赤外領域の波長での局在表面プラズモン共鳴を、より示し易くなる。上記製造方法により中空銀粒子を製造すると、得られる中空銀粒子の膜厚が上述の範囲となり易い。
【0043】
本明細書において、中空銀粒子の膜厚は、透過型顕微鏡(日本電子株式会社製 型番:JEOLJEM−2100IM)を用いて撮影した透過型電子顕微鏡(TEM)像から、縮尺により膜厚を求める方法により測定することができる。