特許第6385688号(P6385688)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6385688
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】中空銀粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20180827BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20180827BHJP
   G01N 21/65 20060101ALN20180827BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
   B22F1/00 K
   !G01N21/65
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-35742(P2014-35742)
(22)【出願日】2014年2月26日
(65)【公開番号】特開2015-160972(P2015-160972A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年2月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ▲1▼掲載アドレス http://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2014/ra/c4ra00087k#!divAbstract 刊行物名 RSC Advances Issue21,2014 掲載年月日 2014年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】504145283
【氏名又は名称】国立大学法人 和歌山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 恵一
(72)【発明者】
【氏名】門 晋平
(72)【発明者】
【氏名】横峯 翔一
【審査官】 米田 健志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0311822(US,A1)
【文献】 特表2013−536065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00〜9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空銀粒子の製造方法であって、
(1)溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、前記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程1、及び
(2)前記チオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程2
を含む、中空銀粒子の製造方法。
【請求項2】
前記銀イオン源は、前記溶媒に可溶性の銀化合物である、請求項1に記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項3】
前記銀イオン源は、硝酸銀及びトリフルオロ酢酸銀から選択される少なくとも一種である、請求項1又は2に記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項4】
前記チオシアン酸イオン源は、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸テトラメチルアンモニウム、チオシアン酸テトラブチルアンモニウム、チオシアン酸メチルイミダゾリウム及びチオシアン酸グアニジンから選択される少なくとも一種である、請求項1〜3のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項5】
前記チオシアン酸イオン源は、チオシアン酸ナトリウムである、請求項1〜4のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項6】
前記還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ヒドラジン及び没食子酸から選択される少なくとも一種である、請求項1〜5のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項7】
前記溶液中の銀イオン源の濃度は、0.01〜0.5mmol/Lである、請求項1〜6のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項8】
前記溶液中のチオシアン酸イオン源の濃度は、0.015〜0.75mmol/Lである、請求項1〜7のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項9】
前記溶液の温度は、0〜50℃である、請求項1〜8のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
【請求項10】
前記工程1により、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、前記工程2により前記溶液に還元剤を添加するまでの時間は、1〜10分である、請求項1〜9のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空銀粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微量物質の高感度分析や、生体物質の分析のためのイメージング技術において、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定が用いられており、局在表面プラズモン共鳴を示す物質としては、金属ナノ粒子が用いられている。特に、分子と相互作用し易い波長である、可視光領域から近赤外領域の波長での局在表面プラズモン共鳴を示す物質として、銀等の中空金属粒子や、コアであるシリカ等の表面に金属がシェルとして被覆したコアシェル粒子が用いられている。
【0003】
シリカ粒子をコアとし、銅、鉄等の金属をシェルとするコアシェル粒子の製造方法として、加水分解性の銅、鉄、ジルコニウム、アルミニウム、クロミウムおよびイットリウムから選ばれる金属の塩並びに水溶性高分子を含有する水溶液中にシリカ粒子を均一に分散せしめ、次いで加水分解反応により該シリカ粒子上に金属化合物被覆層を設けることを特徴とする、粒子径が0.1〜20μmの複合粒子の製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、このようなコアシェル粒子の製造方法においては、先ずコアであるシリカ粒子を製造し、当該シリカ粒子を水溶液中に均一に分散させた上で、更にシリカ粒子上に金属化合物被覆層を形成しなければならず、工程が煩雑であるという問題がある。
【0005】
また、金属ナノ粒子を生体物質の分析のためのイメージング技術に用いるためには、可視光領域から近赤外領域の波長の中でも、特に生体組織での吸収が少ない650〜900nmの波長での局在表面プラズモン共鳴を示すことが必要である。上述の製造方法により製造されたコアシェル粒子を生体物質の分析のためのイメージング技術に用いるためには、コアであるシリカ粒子の粒径を特定の範囲に制御し、且つ、シェルである金属化合物被覆層の厚みを特定の範囲に制御して、650〜900nmの波長での局在表面プラズモン共鳴を示すよう調整しなければならず、工程が非常に煩雑であるという問題がある。
【0006】
本発明者等は、金属として銀を用い、且つ、コアであるシリカ等を用いずに中空銀粒子を製造する製造方法によれば、コアであるシリカ等を調製する必要がなく、且つ、当該シリカ等の粒径を調整する必要がないことに着目した。
【0007】
しかしながら、上述の波長での局在表面プラズモン共鳴を示す中空銀粒子とするためには粒径を制御する必要があり、コアであるシリカ等を用いずに粒径を制御して、上述の波長での局在表面プラズモン共鳴を示す中空銀粒子を製造することは極めて困難である。局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な中空銀粒子を容易に得ることができ、中空銀粒子の粒子径を制御することができる製造方法は、未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3273375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な中空銀粒子を容易に得ることができ、得られる中空銀粒子の粒子径を、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長とするのに適した範囲に制御することができる中空銀粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、(1)溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程1、及び(2)上記チオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程2を含む中空銀粒子の製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記の中空銀粒子の製造方法に関する。
1.中空銀粒子の製造方法であって、
(1)溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、前記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程1、及び
(2)前記チオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程2
を含む、中空銀粒子の製造方法。
2.前記銀イオン源は、前記溶媒に可溶性の銀化合物である、上記項1に記載の中空銀粒子の製造方法。
3.前記銀イオン源は、硝酸銀及びトリフルオロ酢酸銀から選択される少なくとも一種である、上記項1又は2に記載の中空銀粒子の製造方法。
4.前記チオシアン酸イオン源は、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸テトラメチルアンモニウム、チオシアン酸テトラブチルアンモニウム、チオシアン酸メチルイミダゾリウム及びチオシアン酸グアニジンから選択される少なくとも一種である、上記項1〜3のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
5.前記チオシアン酸イオン源は、チオシアン酸ナトリウムである、上記項1〜4のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
6.前記還元剤は、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ヒドラジン及び没食子酸から選択される少なくとも一種である、上記項1〜5のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
7.前記溶液中の銀イオン源の濃度は、0.01〜0.5mmol/Lである、上記項1〜6のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
8.前記溶液中のチオシアン酸イオン源の濃度は、0.015〜0.75mmol/Lである、上記項1〜7のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
9.前記溶液の温度は、0〜50℃である、上記項1〜8のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
10.前記工程1により、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、前記工程2により前記溶液に還元剤を添加するまでの時間は、1〜10分である、上記項1〜9のいずれかに記載の中空銀粒子の製造方法。
11.上記項1〜10のいずれかに記載の製造方法により製造された中空銀粒子。
12.前記中空銀粒子の粒子径は、200nm以下である、上記項11に記載の中空銀粒子。
【0012】
以下、本発明の中空銀粒子の製造方法について詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法は、(1)溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程1、及び(2)上記チオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程2を含む中空銀粒子の製造方法である。
【0014】
上記製造方法によって中空銀粒子が製造できる理由は明確ではないが、以下のように推測される。すなわち、上記製造方法では、工程1において、溶媒に銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、溶液中でチオシアン酸銀の中実粒子が形成される。ここで、第2工程により、上記チオシアン酸銀の中実粒子を含む溶液に還元剤を添加すると、チオシアン酸銀の中実粒子の表面と、溶液との界面上で、チオシアン酸銀に溶液中の還元剤から電子が供給されて銀の被膜が形成される。この際、チオシアン酸銀の中実粒子の内部に存在するチオシアン酸銀の銀イオンを消費しながら銀の被膜が形成されるので、チオシアン酸銀の中実粒子の内部が空洞となり、中空銀粒子が形成されると考えられる。
【0015】
上記製造方法では、工程1において、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製し、工程2において当該溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を容易に製造することができる。
【0016】
また、上記製造方法によれば、得られる中空銀粒子の粒子径及び膜厚が、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長及び膜厚となり易く、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を含む溶液に還元剤を添加するという簡単な工程で、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な中空銀粒子を容易に得ることができる。
【0017】
更に、上記製造方法によれば、工程1により、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、上記工程2により前記溶液に還元剤を添加するまでの時間を調整すること、又は、上記溶液の温度を調整することにより、中空銀粒子の粒子径を容易に調整することができるので、得られる中空銀粒子の粒子径を、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長とするのに適した範囲に制御することができる。
【0018】
1.工程1
工程1は、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製する工程である。
【0019】
<銀イオン源>
上記工程1に用いられる銀イオン源としては特に限定されず、例えば、硝酸銀、トリフルオロ酢酸銀、硫酸銀、酢酸銀等が挙げられる。中でも、溶液中に銀イオンを容易に供給できる点で、溶媒に可溶性の銀化合物が好ましい。上記溶媒に可溶性の銀化合物としては、硝酸銀、及びトリフルオロ酢酸銀が挙げられる。上記銀イオン源は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
銀イオン源の溶液中の濃度は、0.0025〜5mmol/Lであることが好ましく、0.01〜0.5mmol/Lであることがより好ましい。銀イオン源の溶液中の濃度が高過ぎると、得られる中空銀粒子が凝集するおそれがあり、濃度が低過ぎると中空銀粒子が十分に製造できないおそれがある。
【0021】
<チオシアン酸イオン源>
上記工程1に用いられるチオシアン酸イオン源としては、溶液中にチオシアン酸イオンを供給できれば特に限定されず、例えば、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸リチウム、チオシアン酸グアニジン等が挙げられる。また、上記チオシアン酸イオン源としては、四級アンモニウム塩を用いることができ、上記四級アンモニウム塩としては、例えば、チオシアン酸テトラメチルアンモニウム、チオシアン酸テトラブチルアンモニウム、チオシアン酸メチルイミダゾリウムが挙げられる。これらの中でも、溶媒に容易に溶解することができる点で、チオシアン酸ナトリウムを用いることが好ましい。上記チオシアン酸イオン源は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
チオシアン酸イオン源の溶液中の濃度は、0.00375〜7.5mmol/Lであることが好ましく、0.015〜0.75mmol/Lであることがより好ましい。チオシアン酸イオン源の溶液中の濃度が高過ぎる場合、又は低過ぎる場合は、中空銀粒子が十分に製造できないおそれがある。
【0023】
<溶媒>
上記工程1で用いられる溶媒としては、水を用いることが好ましい。水を用いることにより、安価で、且つ安全にチオシアン酸銀を調製することができる。
【0024】
上記工程1において、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源は、上記溶媒に添加されて溶液が調製されてもよいし、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源が、それぞれ予め溶媒に添加した状態で用意され、銀イオン源を含む溶媒と、チオシアン酸イオン源を含む溶媒とが混合されることにより溶液が調製されてもよい。
【0025】
上記工程1では、上記溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製することにより、上記溶液中で、チオシアン酸銀を調製することができる。当該チオシアン酸銀は、溶液中で中実の粒子として調製されると考えられる。
【0026】
以上説明した工程1により、溶液中で、チオシアン酸銀が調製される。
【0027】
2.工程2
工程2は、工程1により得られたチオシアン酸銀を含む溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を形成する工程である。工程2において溶液中に還元剤が添加されることにより、チオシアン酸銀の中実粒子の表面と溶液との界面上で、チオシアン酸銀に溶液中の還元剤から電子が供給されて銀の被膜が形成され、チオシアン酸銀の中実粒子の内部に存在するチオシアン酸銀の銀イオンが消費されるので、チオシアン酸銀の中実粒子の内部が空洞となり、中空銀粒子が形成されると考えられる。
【0028】
上記工程2に用いられる還元剤としては特に限定されず、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ヒドラジン、没食子酸等が挙げられる。中でも、充分な還元力を有しており、溶液に容易に溶解することができる点で、水素化ホウ素ナトリウムを用いることが好ましい。上記還元剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
還元剤の溶液中の濃度は、0.025〜50mmol/Lであることが好ましく、0.1〜5mmol/Lであることがより好ましい。還元剤の溶液中の濃度が高過ぎる場合、又は低過ぎる場合は、還元が適切でなく、中空銀粒子を製造できないおそれがある。
【0030】
上記工程1により溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、工程2により溶液に還元剤を添加するまでの時間は、1〜10分であることが好ましい。上記時間を上述の範囲とすることにより、得られる中空銀粒子の粒子径を、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのにより適した範囲に制御することができる。なお、上記時間は、工程1において、溶媒に銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を両方添加し終えてから、工程2において、溶液に還元剤を添加するまでの時間である。
【0031】
工程2において、上記時間を短くすると得られる中空銀粒子の粒子径が小さくなり、上記時間を長くすると粒子径が大きくなるので、上記時間を調整することにより、本発明の製造方法において得られる中空銀粒子の粒子径を制御することが可能となる。
【0032】
工程2においては、溶液に、更に、保護剤を添加するのが好ましい。保護剤を添加することにより、得られる中空銀粒子が安定に分散することが可能となり、形状や粒径を保った状態となる。上記保護剤は、溶液に還元剤を添加する前に予め添加してもよいが、溶液に還元剤を添加した後に添加することが好ましい。
【0033】
上記保護剤としては、溶液に溶解すれば特に限定されないが、例えば、L−システイン、グルタチオン等の水溶性チオール化合物が挙げられる。
【0034】
保護剤の溶液中の濃度は、0.00025〜0.5mmol/Lであることが好ましく、0.001〜0.05mmol/Lであることがより好ましい。保護剤の溶液中の濃度が高過ぎると、中空銀粒子の安定な分散を阻害するおそれがあり、濃度が低過ぎると、中空銀粒子の保護が十分でないおそれがある。
【0035】
以上説明した工程2により、溶液中で中空銀粒子が形成される。
【0036】
上記工程1及び2において、溶液の温度は0〜50℃であることが好ましい。溶液の温度を上述の範囲とすることにより、反応効率に優れ、効率よく中空銀粒子を得ることができる。溶液の温度を低くすると得られる中空銀粒子の粒子径が小さくなり、溶液の温度を高くすると得られる中空銀粒子の粒子径が大きくなるので、溶液の温度を調整することにより、本発明の製造方法において得られる中空銀粒子の粒子径を制御することが可能となる。
【0037】
3.中空銀粒子
本発明は、また、上記製造方法により製造された中空銀粒子でもある。上記製造方法により製造された本発明の中空銀粒子は、可視光領域から近赤外領域の波長での局在表面プラズモン共鳴を示すので、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用である。
【0038】
また、上記製造方法によれば、得られる中空銀粒子の粒子径及び膜厚が、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長及び膜厚となり易い。特に、上記製造方法においては、得られる中空銀粒子の粒子径を、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長とするのに適した範囲に制御することができるので、本発明の中空銀粒子を、生体物質の分析のためのイメージング技術において有用である650〜900nmの波長での局在表面プラズモン共鳴を示す中空銀粒子とすることも可能である。
【0039】
上記中空銀粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長は380〜2500nmが好ましく、380〜1000nmがより好ましく、500〜900nmが更に好ましく、650〜900nmが特に好ましい。中空銀粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長を上述の範囲とすることで、中空銀粒子を、微量物質の高感度分析や生体物質の分析のためのイメージング技術に有用に用いることができる。なお、上記中空銀粒子の局在表面プラズモン共鳴の波長は、上述の中空銀粒子の製造方法において、工程1により、溶媒に、銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製してから、工程2により溶液に還元剤を添加するまでの時間を調整し、又は溶液の温度を調整して、中空銀粒子の粒子径を制御することにより調整することができる。
【0040】
本発明の中空銀粒子の粒子径は、200nm以下であることが好ましい。中空銀粒子の粒子径が上述の範囲であると、可視光領域から近赤外領域の波長での局在表面プラズモン共鳴を示すので、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに適した中空銀粒子となる。上記粒子径は、20〜100nmがより好ましく、50〜60nmが特に好ましい。
【0041】
上記中空銀粒子の粒子径は、透過型顕微鏡(日本電子株式会社製 型番:JEOLJEM−2100IM)を用いて撮影した透過型電子顕微鏡(TEM)像から、縮尺により粒子径を求める方法により測定することができる。
【0042】
上記中空銀粒子の膜厚は、30nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましく、10nm以下が更に好ましい。また、上記膜厚は、5nm以上が好ましい。中空銀粒子の膜厚を上述の範囲とすることにより、中空銀粒子が、可視光領域から近赤外領域の波長での局在表面プラズモン共鳴を、より示し易くなる。上記製造方法により中空銀粒子を製造すると、得られる中空銀粒子の膜厚が上述の範囲となり易い。
【0043】
本明細書において、中空銀粒子の膜厚は、透過型顕微鏡(日本電子株式会社製 型番:JEOLJEM−2100IM)を用いて撮影した透過型電子顕微鏡(TEM)像から、縮尺により膜厚を求める方法により測定することができる。
【発明の効果】
【0044】
本発明の製造方法によれば、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な中空銀粒子を容易に得ることができ、得られる中空銀粒子の粒子径を、表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用な波長とするのに適した範囲に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明の製造方法により製造された中空銀粒子のTEM像を示す図である。
図2】本発明の製造方法により製造された中空銀粒子の分光光度計による吸収スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0047】
実施例1
<中空銀粒子の製造>
銀イオン源として用意した1.0×10−4mol/Lの硝酸銀水溶液5mLに、チオシアン酸イオン源として用意した1.5×10−4mol/Lのチオシアン酸ナトリウム水溶液5mLを添加して5分間撹拌し、溶液を調製した。溶液の温度は30℃であった。
【0048】
5分間経過後に、溶液を30℃に保ち、撹拌しながら、還元剤として用意した1mmol/Lの水素化ホウ素ナトリウム水溶液を5mL添加した。次いで、保護剤として用意した1mmol/LのL−システイン水溶液を50μL添加して、中空銀粒子を調製した。
【0049】
銀イオン源、チオシアン酸イオン源、還元剤及び保護剤を添加後の溶液に対する硝酸銀(銀イオン源)の濃度は0.03322mmol/Lであり、チオシアン酸ナトリウム(チオシアン酸イオン源)の濃度は0.04983mmol/Lであり、水素化ホウ素ナトリウム(還元剤)の濃度は0.3322mmol/Lであり、L−システイン(保護剤)の濃度は0.003322mmol/Lであった。
【0050】
<性状測定>
得られた中空銀粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)像を、透過型顕微鏡(日本電子株式会社製 型番:JEOLJEM−2100IM)を用いて撮影し、粒子の構造を確認した。結果を図1に示す。
【0051】
また、得られた中空銀粒子の吸収スペクトルを、分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製 型番:U−3900)により、光路長1cmの石英セルを用いて測定した。結果を図2に示す。
【0052】
<結果>
図1のTEM像から、粒子の内部が空洞となっており、中空銀粒子が形成されていることが分かった。このことから、溶媒に銀イオン源及びチオシアン酸イオン源を添加して溶液を調製し、当該溶液に還元剤を添加することにより、中空銀粒子を容易に製造することができることが分かった。
【0053】
また、図1のTEM像から、縮尺により求めた中空銀粒子の粒子径は50〜80nm程度であり、中空銀粒子の膜厚は8〜20nm程度であることが分かった。
【0054】
図2の結果から、実施例1において調製した中空銀粒子の、分光光度計による吸収スペクトルは380〜1000nm程度の波長を示し、特に650〜750nmの範囲で強い吸収スペクトルを示し、680nm程度の波長でピークを示した。このことから、実施例1により調製した中空銀粒子は、局在表面プラズモン共鳴を利用した表面増強ラマン散乱測定に用いるのに有用であり、特に、生体物質の分析のためのイメージング技術において有用であることが分かった。
図1
図2