(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アンテナエレメントを設置する面部の面積をそれぞれ前記アンテナエレメントの高さと、当該面積により確保されるアンテナ利得との関係に基づいてk分割(kは2以上の自然数)する分割工程と、
それぞれ、分割された面積を有するk個の面状導体と、その一端部が前記面部から実質的に最も離れた部位で前記面状導体と導通し、その他端部が前記面部に実質的に最も近い部位で、k系統の増幅回路のうちいずれかの系統の増幅回路と電気的に接続される線状導体とを、前記面部と平行の平面上で無指向性となるように前記面部に並列配置する配置工程とを有し、
前記面部に、同一信号の受信又は送信するk個のアンテナエレメントを構成することを特徴とする、アンテナ装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
[第1実施形態]
第1実施形態では、本発明をFM帯(76[MHz]〜108[MHz])及びAM帯(0.520[MHz]〜1.710[MHz])において使用可能な低背型のアンテナ装置に適用した場合の例を説明する。このアンテナ装置は、例えば車両ルーフに取り付けて使用されるものであり、水平面で無指向性を呈するものである。
【0013】
図1は、本実施形態に係るアンテナ装置の構造例を示す外観斜視図である。また、
図2は、その分解斜視図である。このアンテナ装置1は、アルミダイキャスト等の金属部材で構成されるアンテナベース10を有する。このアンテナベース10は、車両ルーフに取り付けるための部品であり、その上面(車両ルーフを指向する底面と逆の方向。以下同じ。)には、動作時に車両ルーフと導通して接地電位となる面部(「アンテナ取付面部」)と、カバー部50を水密に接合するためのカバー接合部とが形成されている。
【0014】
アンテナベース10は4辺の長さがそれぞれ160[mm]の正方形状のものであり、アンテナ取付面部は、アンテナベース10の外周部分のカバー接合部よりやや窪んだ領域に22500[mm
2](=150[mm]×150[mm])の面積で形成される。
アンテナ取付面部の厚みは約0.5[mm]、カバー接合部の厚みは約1.0[mm]である。
【0015】
アンテナ取付面部の略中央部には、車両ルーフに取り付けるための取付機構(図示省略)を挿入するための取付孔10aが形成されている。アンテナ取付面部には、回路基板20が配設される。回路基板20の厚みは約0.5[mm]である。
【0016】
回路基板20は、1枚の樹脂基板に電子回路が実装されたものである。具体的には、基板表面が6つに区画され、各区画毎に、それぞれ配線パターンを介して電気的に接続されたアンテナ給電端子及び増幅器を含む増幅回路が形成されている。つまり、6系統の増幅回路が形成されている。また、各系統の出力信号(増幅信号)を合成する合成回路と、合成回路の出力を外部装置へ伝達するための出力端子も回路基板20に形成されている。
【0017】
回路基板20の上面には、6つのエレメント支持体301〜306(これらを区別する必要がない場合はエレメント支持体30という。)が並列配置されている。「並列配置」とは、互いに重なることなく、同一面内に並べられることをいう。
エレメント支持体301〜306は、誘電体ブロックなどで構成され、それぞれ対応するアンテナエレメント401〜406(これらを区別する必要がない場合はアンテナエレメント40という。)が支持されている。
【0018】
誘電体ブロックで構成する場合、各エレメント支持体30は、アンテナベース10と平行に対向する天頂部と、この天頂部の周縁から下方(回路基板20の方向。以下同じ)に延びる枠体とを含むものとなる。天頂部は開口面であっても良く、枠体は複数本の柱の組み合わせで構成しても良い。
各エレメント支持体30の枠体で囲まれた部分は、中空の空間となる。回路基板20から突出する回路部品は、この中空の空間に収容される。これにより、アンテナ装置全体のサイズの節約を図ることができる。枠体の外表面には、所定ピッチで溝がヘリカル状に形成されている。
【0019】
アンテナエレメント40は、それぞれ、線状導体と、対地容量確保用の面状導体とを含んで構成される。面状導体は、例えば、エレメント支持体30の天頂部とほぼ同じ面積(天頂部の外周で囲まれた部分の面積)で、その厚みが0.2[mm]の矩形平板状となる網状又は板状の導体(以下、「天頂容量板」という。)である。
【0020】
本実施形態では、4つのFM帯用のアンテナエレメント401〜404と、2つのAM帯用のアンテナエレメント405,406とを並列配置している。FM帯用のアンテナエレメント401〜404の各天頂容量板の面積は3500[mm
2](=70[mm]×50[mm])である。また、AM帯用のアンテナエレメント405,406の各天頂容量板の面積は2800[mm
2](=70[mm]×40[mm])である。
各アンテナエレメント40は、それぞれ隣り合うものとの隙間を5〜10[mm]空けて配置される。つまり、全体として、22500[mm
2]のアンテナ設置面部に、6つのアンテナエレメント40が並列配置される。このような面積にした理由については、後述する。
【0021】
天頂容量板には、両端部を有する線状導体の一端部が、アンテナベース10から実質的に最も離れた部位で電気的に接続される。「実質的に最も離れた部位」とは、対地容量を最も多く確保できる高さとなる部位を意味する。線状導体の他端部は、回路基板20に形成されたアンテナ給電端子(図示省略)に接続される。
【0022】
線状導体は、FM帯用のものは、例えば線径0.4[mm]の銅線をエレメント支持体30の枠部の外周の溝に数回巻回されたものである。つまり、所定間隔(ピッチ)で巻回されたヘリカルコイルである。銅線は枠部の溝に嵌装されるので、溝の深さを銅線の直径にすることで、ヘリカル径は、天頂容量板の外径とほぼ同じとなる。ヘリカル径及びピッチは、FM帯の周波数で共振するように調整される。
線状導体をヘリカルコイルとする場合、それぞれ隣り合う銅線(ヘリカルコイル)の巻方向は、互いに逆巻とするのが望ましい。このようにすることで、銅線に流れる電流が同相となり、そうでない場合に比べてアンテナエレメント同士の結合が抑制され、アンテナ特性の劣化が抑制される。
【0023】
AM帯用の線状導体は、一定のインダクタンス成分を確保できれば良いので、必ずしもヘリカルコイルでなくとも良い。但し、ヘリカルコイルとする場合は、巻方向を互いに逆巻とすることが望ましい。
【0024】
組み立てられたアンテナ装置のうちカバー部50を外した部分の外観を
図3に示す。
図3(a)は上面図、同(b)及び(c)はその側面図である。
図3(a)に示されるように、アンテナエレメント40の天頂容量板は、それぞれ略矩形状の平板で、アンテナベース10から突出するエレメント支持体30の天頂部と同じ形状及びサイズに成形される。そのため、天頂容量板は、アンテナベース10のアンテナ取付面部に対して平行に対向し、動作時に対地容量を確保する。
【0025】
なお、天頂容量板は、図示の例では矩形平板であるが、必要な電気性能を確保する観点からは、必ずしも矩形平板である必要はなく、円形、多角形、環状、網状、環と格子との組み合わせ、その他の形状の平板であっても良い。この場合、エレメント支持体30の天頂部の形状も、天頂容量板の形状に合わせたものとなる。
【0026】
カバー部50は、アンテナベース10、回路基板20、アンテナエレメント40を覆うものであり、アンテナベース10の周縁のカバー接合部に水密に装着される。このカバー部50は、例えば電波透過性の合成樹脂で構成され、箱状に成形されるが、車体の色に合わせたものであっても良い(
図1では説明の便宜上、透光性の樹脂で構成している)。また、単一のカバー部でなく、二重構造のカバー部にすることもできる。
【0027】
図4は、回路基板20に実装される電子回路の構成例を示す図である。FM帯用アンテナエレメント401〜404で受信された信号は、個々のアンテナエレメント401〜404とそれぞれ1対1に対応するFM増幅器201〜204にそれぞれ入力され、増幅される。FM増幅器201とFM増幅器202の出力は合成回路211で合成される。また、FM増幅器203とFM増幅器204の出力は合成回路212で合成される。2つの合成回路211、212の出力は合成回路221でさらに合成される。
【0028】
AM帯用アンテナエレメント405,406で受信された信号もまた、個々のアンテナエレメント405,406とそれぞれペアとなるAM増幅器205,206にそれぞれ入力され、増幅される。各AM増幅器205,206の出力は、合成回路213で合成される。各合成回路221、213の出力は、出力端子231へ出力される。
なお、電子回路には、適宜、帯域通過フィルタ、AGC(Automatic Gain Control:自動利得制御)器などが付加される。
【0029】
ここで、FM増幅器201〜204について、詳しく説明する。各FM増幅器201〜204の初段の増幅素子は、76[MHz]〜108[MHz]のような広い周波数の範囲で低雑音となる素子が好ましい。具体的には、受信周波数帯においてその最小雑音指数Fminが0.2[dB]以下で、等価雑音抵抗Rnが4[Ω]以下となるような素子が好ましい。このような素子としては、例えばGaAs系、InP系、GaN系、SiGeなどの化合物半導体で作製されたHEMT(High Electron Mobility Transistor:高電子移動度トランジスタ)がある。HEMTは、半導体ヘテロ接合に誘起された高移動度の二次元電子ガスをチャネルとしたFET(Field Effect Transistor:電界効果トランジスタ)であり、一般に、FM帯を超える高周波帯で使用される素子である。
【0030】
本実施形態でHEMTを使用するのは、入出力インピーダンス整合の追求よりも、アンテナエレメントに接続したときの雑音指数(Noise Figure:以下、「NF」という)を所望の周波数帯域全体でほぼ一定になるように動作させるという視点を重視するためである。なお、NFは、増幅器の入力における信号対雑音比(Si/Ni)と出力における信号対雑音比(So/No)の比で表される指標であり、小さいほど低雑音特性となる。
【0031】
AM用増幅器205,206は、1/f雑音、すなわち、低周波域の雑音である3[dB]/オクターブでその強度が減衰する雑音を考慮し、HEMTではなく、一般的なFETもしくはバイポーラトランジスタを利用している。
【0032】
次に、本実施形態のアンテナ装置1のアンテナ性能について詳しく説明する。
接地電位の面から最も離れたアンテナエレメントまでの距離、つまりアンテナエレメントの高さが低くなると、アンテナエレメントに接続されている電子回路とアンテナエレメントとの整合周波数範囲が狭帯域化することは、よく知られていることである。アンテナ利得が、上記高さの2乗に比例することも同様である。
本実施形態のアンテナ装置1では、アンテナエレメントを低背化するにつれて狭帯域化する整合周波数範囲を、天頂容量板の面積を大きくして対地容量を確保することで、広帯域化する。低背化に伴って低下するアンテナ利得については、同一信号を複数のアンテナエレメント(上記のように天頂容量板の面積を大きくしたもの)で受信し、受信した信号を増幅した後に合成することで補う。なお、合成後に増幅しても良い。これにより、低背化しても、実用的なアンテナ性能を得ることができる。以下、その理由を説明する。
【0033】
図5は、上記構造のアンテナエレメント40において、高さを10[mm]、20[mm]、30[mm]と変えたときの天頂容量板の面積とアンテナ利得との関係を表した特性図である。ここにいう「高さ」とは、接地電位であるアンテナ設置面部から天頂容量板までの距離をいう。
図5(a)はFM帯、同(b)はAM帯の例である。それぞれ横軸は天頂容量板面積[mm
2]、縦軸はアンテナ利得[dB]である。アンテナ利得[dB]は、帯域内平均利得を表す。
【0034】
この特性図は、ANSYS社の三次元電磁界シミュレータである「HFSS」を使用して計算したものである。比較のため、接地電位の平面(アンテナ装着面部に相当)からの高さが60[mm]で、天頂容量板の面積が10×40(=400)[mm
2]のFM帯及びAM帯で共用するアンテナ装置のアンテナ利得を基準(0[dB])とした。このようなアンテナ装置を、便宜上「基準アンテナ」という。
【0035】
天頂容量板の面積を400[mm
2]のまま、60[mm]から30[mm]、20[mm]、10[mm]と低背化していくと、アンテナ利得はそれに対応して小さくなる。例えば、
図5(a),(b)に示された例では、高さを10[mm]まで低くすると、アンテナ利得は、FM帯、AM帯ともに、約1/36すなわち−15[dB]となる。
【0036】
一方、天頂容量板の面積を大きくしていくと、どの高さの場合も、整合周波数範囲の広帯域化によりアンテナ利得の向上を図ることができる。
但し、AM帯では天頂容量板の面積を大きくするほどアンテナ利得は向上するが、FM帯では、天頂容量板の面積が3500[mm
2]辺りからアンテナ利得の向上の度合いが鈍る。このことは、車両に搭載されるアンテナ装置のように、アンテナエレメントの収容空間が限られる条件の下では、必要以上に面積を大きくするだけでは、全体として、十分なアンテナ利得を確保できるわけではないことを意味する。
【0037】
本実施形態では、アンテナエレメントをFM帯とAM帯とで共用せず、独立のものとした。そして、FM帯用のアンテナエレメント401〜404の天頂容量板の面積として3500[mm
2]を確保するために、それぞれ長辺が70[mm]で短辺が50[mm]の天頂容量板とした。このように4つのアンテナエレメント401〜404の天頂容量板を用いることにより、アンテナ利得を6[dB]改善させることができた。つまり、アンテナ設置面部からの高さを10[mm]まで低くしても、60[mm]の高さの基準アンテナとのアンテナ利得差を約−9[dB]にまで縮めることが可能となった。但し、上記の約90%の面積(3000[mm
2])でも、上記のアンテナ利得差は−9.5[dB]程度であり、このようなサイズの天頂容量板を用いることもできる。
【0038】
AM帯の場合は、長辺が70[mm]で短辺が40[mm](=2800[mm
2])の天頂容量板を用いることにより、アンテナ設置面部からの高さを10[mm]まで低くしても、60[mm]の高さの基準アンテナとのアンテナ利得差を−3[dB]にまで縮めることが可能となった。但し、上記の約90%の面積(2500[mm
2])でも、上記のアンテナ利得差は−4[dB]程度であり、このようなサイズの天頂容量板を用いることもできる。
【0039】
また、上記面積の天頂容量板を有するアンテナエレメント401〜404と増幅器201〜204とをそれぞれ1対1で対応させ、増幅器201〜204の増幅信号を合成して出力信号を得ることにより、FM帯で4倍(6[dB])、AM帯で2倍(3[dB])のアンテナ利得の改善が可能となった。
これにより、FM帯におけるアンテナ利得は、−9[dB]から−3[dB]に改善することができた。このアンテナ利得は、同じ面積で、一つのアンテナエレメントを使用する場合に比べて高めることができている。すなわち、70[mm]×50[mm]の天頂容量板を有する4つのアンテナエレメント401〜404を並列設置したときの面積は、14000[mm
2]である。このような面積の天頂容量板を、一つのアンテナエレメントで構成した場合、
図5(a)の高さ10[mm]のグラフから明らかなように、アンテナ利得は−7.5[dB]である。したがって、同じ面積であっても、アンテナ4個使用した場合は4.5[dB]利得が高くなった。
【0040】
なお、
図5(a),(b)からわかるように、限られたアンテナ設置面部の面積の中で個々の天頂容量板の面積を上記サイズよりも小さくしてアンテナエレメントの数を増やし、かつ、対応する増幅器の数を増やそうとしても、天頂容量板を小さくした分のアンテナ利得の低下が大きく、かつ合成回路の損失が大きくなり、全体として十分なアンテナ性能を得ることができない場合があるので、アンテナエレメント数については、一定の限界がある。
他方、アンテナエレメントの高さを20[mm]又は30[mm]にした場合は、アンテナエレメント及び対応する増幅器の数を減らすことができる。
【0041】
次に、電子回路側でのアンテナ性能の改善の仕組みについて説明する。
車両に装着される従来のFM帯及びAM帯用の低背型アンテナ装置は、アンテナエレメント等の収容スペースが限られているため、典型的には、
図6に示した構成のものとなる(上述した基準アンテナも同じ)。すなわち、従来型アンテナ装置は、FM帯とAM帯とを一つのアンテナエレメント601で共用し、受信した信号を分波回路602でFM帯信号とAM帯信号とに分離した後、FM帯信号はFM増幅器603に入力し、AM帯信号はAM増幅器604に入力している。そして、FM増幅器603の出力と、AM増幅器604の出力とを出力端子605を通じて外部の電子機器へ導いている。
【0042】
ところが、分波回路602は集中定数で組まれるハイパス・フィルタとローパス・フィルタの組み合わせなので、FM帯信号とAM帯信号とを完全に分離することは、一般には困難である。その結果、FM帯信号の一部はAM増幅器に流れ込む。同様に、AM帯信号の一部もFM増幅器へと流れ込む。そのため、受信した信号のエネルギーの一部取りこぼしが生じてしまう。その結果、出力端子605における信号のエネルギーは、FM増幅器603の出力とAM増幅器604の出力との合算値にならない。
【0043】
これに対し、本実施形態のアンテナ装置1では、FM帯用のアンテナエレメント401〜404と、AM帯用のアンテナエレメント405,406とを用い、FM帯信号はFM増幅器201〜204、AM帯信号はAM増幅器205,206でそれぞれ独立に増幅した後に、各合成回路211〜213,221で合成している。そのため、信号対雑音比(S/N)が向上し、これがアンテナ利得の向上につながっている。
【0044】
このことを、一対のアンテナエレメントの例を挙げて説明する。これらのアンテナエレメントと増幅器によるS/Nは、以下の式で表される。
So/No=GSi/(GNi+Na)・・・(1)
但し、Soは出力信号、Noは出力雑音、Siは入力信号、Niは入力雑音、Naは増幅器雑音、Gは増幅利得である。
【0045】
出力信号Soは、単純に入力信号SiがG倍されたものであるのに対し、出力雑音Noは、入力雑音NiがG倍されたものに増幅器が発生する雑音Naが加わる。ここで、アンテナエレメントと増幅器とが2個並列に接続された場合は、入力信号Niと入力雑音Noは、ともに同じものが加わるので単純に合算値となる。しかし、増幅器から発生する雑音Naはランダムであり、互いに相関性がない。そのため、単純に合算することはできず、2乗平均の和の平方根、すなわち、√2Naとなる。
【0046】
つまり、アンテナエレメントと増幅器との組が並列接続された場合のS/Nは、以下のようになる。
So/No=2GSi/(2GNi+√2Na) ・・・(2)
(1)式と(2)式とを比較すると、(2)式(並列接続)の方が出力S/Nが大きくなることがわかる。
【0047】
本発明者らの実測によれば、
図6に示した分波回路601を削減して、FM帯用のアンテナエレメント401〜404と増幅器201〜204、及び、AM帯用のアンテナエレメント405,406と増幅器205,206を並列接続させることで、それぞれ3[dB]のアンテナ利得を改善することができることが判明した。
【0048】
図7(a)はFM帯、同(b)はAM帯における水平面内の指向特性図である。アンテナエレメント40を
図1〜
図3のような構造にすることにより、FM帯、AM帯ともに、全方位にわたってほぼ同じ受信感度を得ることができた。つまり、本実施形態のアンテナ装置1は、アンテナ設置面部と平行となる面内で無指向性となるものである。
そのため、例えば指向性をもつアンテナエレメントを複数方向に配置することなく、全方位からの電磁波を受信することができる。
【0049】
このように、本実施形態のアンテナ装置1は、FM帯用のアンテナエレメント401〜404の天頂容量板の面積を3150[mm
2]以上、好ましくは3500[mm
2]以上とすることで約6[dB]、それらを4つ同一平面上に並べることで[6dB]、さらに、分波回路を削減することで3[dB]のアンテナ利得を改善することができた。つまり、高さ60[mm]の基準アンテナと同等のアンテナ性能を、高さ10[mm]まで低背化しても維持することができることが判明した。
【0050】
また、AM帯用のアンテナエレメント405,406の天頂容量板の面積を2520[mm
2]以上、好ましくは2800[mm
2]以上とすることで約12[dB]、それらを同一平面上に2つ並べることで3[dB]、分波回路を削減することで3[dB]のアンテナ利得を改善することができた。つまり、高さ60[mm]の基準アンテナと同等以上のアンテナ性能を、高さ10[mm]まで低背化しても維持することができることが判明した。
【0051】
[第2実施形態]
次に、FM帯及びAM帯用のアンテナ装置としての基本構成は第1実施形態と同じで、アンテナエレメントの高さ、すなわちアンテナ設置面部から天頂容量板までの距離を第1実施形態のアンテナ装置1よりも高くした場合の実施の形態例を説明する。アンテナ装置の構成要素の名称等については、第1実施形態と同様とする。
【0052】
アンテナエレメントを10[mm]よりも高くすると、補償する天頂容量板の面積を小さくできること、つまり、アンテナ設置面部の面積を小さくできることは、
図5(a),(b)に示した特性図からわかることである。そこで、第2実施形態では、アンテナエレメントの高さを20[mm]、アンテナ設置面部の面積を10000[mm
2](=100[mm]×100[mm])とする場合の例を示す。
【0053】
図8は、第2実施形態に係るアンテナ装置のうち、カバー部を外した部分の外観を示す図である。
図8(a)は上面図、同(b)及び(c)はその側面図である。
図8(a)に示されるように、第2実施形態のアンテナ装置は、2つのFM帯用のアンテナエレメント401a,402aの間に、1つのAM帯用のアンテナエレメント403aをアンテナベース210のアンテナ設置面部に並列配置して構成される。各FM帯用のアンテナエレメント401a,402aには、それぞれ第1実施形態で説明したものと同じFM増幅器が接続されている。これらのFM増幅器の出力は合成回路で合成される。また、AM帯用のアンテナエレメント403aには、第1実施形態で説明したものと同じAM増幅器が接続されている。
【0054】
FM帯用のアンテナエレメント401a,402aは、それぞれ誘電体ブロックで構成されるエレメント支持体301a,302aの天頂部に天頂容量板を設けるとともに枠部に線状導体(ヘリカルコイル)を巻回して構成される。また、AM帯用のアンテナエレメント403aは、エレメント支持体303aの天頂部に設けられた天頂容量板と、エレメント支持体303aの中空部を通じて一端が天頂容量板、他端が回路基板と電気的に接続された線状導体(ヘリカルコイル)とを備えて構成される。
【0055】
FM帯用のアンテナエレメント401a,402aの天頂容量板のサイズは、長辺が100[mm]で短辺が27[mm]である。また、AM帯用のアンテナエレメント403aの天頂容量板のサイズは、長辺が100[mm]で短辺が42[mm]である。
図5(a)に示されるように、FM帯用のアンテナエレメント401a、402aの高さが20[mm]で天頂容量板の面積が2700[mm
2]の場合、1つのアンテナエレメントでアンテナ利得が−4.5[dB]となる。したがって、この面積の天頂容量板を有するアンテナエレメントを2つ用いることで3[dB]、さらに、分波回路を使わないことで3[dB]補償され、計6[dB]補償されるため、基準アンテナ以上のアンテナ性能となる。
本実施形態においても、複数個のアンテナエレメントを使用することにより、一つのアンテナエレメントを使用する場合に比べて、アンテナ特性を高めることができることがわかる。すなわち、本実施形態のアンテナ装置2のFMアンテナでは、100[mm]×27[mm]の天頂容量板を有する2つのアンテナエレメント401a、402aを並列設置したときの面積は、5400[mm
2]である。
図5(a)から明らかなように、高さ20[mm]で5400[mm
2]の面積の天頂容量板を有する一つのアンテナエレメントと比較すると、アンテナ利得は−3.5[dB]であるから、これに比較して、同じ面積であっても、アンテナエレメントを2個使用した場合よりも2[dB]利得が高くなった。
【0056】
AM帯のアンテナエレメント403aについても、20[mm]の高さで天頂容量板の面積が4200[mm
2]の場合、それだけでアンテナ利得が+4[dB]を超えるため、基準アンテナよりもアンテナ性能を高めることができる。
【0057】
また、第1実施形態のアンテナ装置1では、アンテナ設置面部の面積が22500[mm
2](=150[mm]×150[mm])であったのに対し、第2実施形態のアンテナ装置は、10000[mm
2](=100[mm]×100[mm])で済むので、高さが10[mm]増えるだけで、アンテナエレメントの設置スペースを半分以下にすることができる。なお、第2実施形態のアンテナ装置も、水平面内で無指向性となる。
【0058】
アンテナエレメントの高さを30[mm]とし、同じアンテナ性能のアンテナ装置を実現する場合は、アンテナエレメントの設置スペースをより小さくすることができる。
すなわち、
図5(a),(b)を参照すると、例えばFM帯では、天頂容量板の面積を700[mm
2]とすることでアンテナ利得が−4dBとなる。そのため、このサイズの天頂容量板を有するアンテナエレメントを2つ用いることで、アンテナ利得は−1[dB]となる。分波回路を削除することでさらに3[dB]のアンテナ利得が得られるので、基準アンテナと同等以上のアンテナ性能を確保しつつ、アンテナエレメントの設置スペースをより小さくすることができる。
【0059】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。この実施形態では、セルラー方式の800[MHz]帯、すなわち、800[MHz]〜1000[MHz]の周波数で送受信できるアンテナ装置の例を説明する。アンテナ装置の構成要素の名称等については、第1実施形態と同様とする。この実施形態のアンテナ装置もまた、車両ルーフのように、導電性を有するアンテナ設置面に取り付けて使用される。
【0060】
図9は、第3実施形態に係るアンテナ装置の構造例を示す外観斜視図、
図10は、その分解斜視図である。このアンテナ装置101は、アンテナベース110、回路基板120、4つのエレメント支持体1301〜1304(これらを区別する必要がない場合はエレメント支持体130という。)、4つのアンテナエレメント1401〜1404(これらを区別する必要がない場合はアンテナエレメント140という。)、及びカバー部150を備えている。カバー部150は、電波透過性の合成樹脂で構成される。
【0061】
アンテナベース110の上面には、動作時に車両ルーフと導通して接地電位となるアンテナ取付面部と、カバー部150を水密に接合するためのカバー接合部とが形成されている。アンテナ取付面部は、アンテナベース110の外周部分のカバー接合部よりやや窪んだ領域に900[mm
2](=30[mm]×30[mm])の面積で形成されている。アンテナ取付面部の厚みは約0.5[mm]、カバー接合部の厚みは約1.0[mm]である。
【0062】
アンテナ取付面部の略中央部には、車両ルーフに取り付けるための取付機構(図示省略)を挿入するための取付孔110aが形成されている。アンテナ取付面部には、回路基板120が配設される。回路基板120の厚みは約0.5[mm]である。
【0063】
アンテナエレメント140は、第1及び第2実施形態の場合と同様、それぞれ天頂容量板と線状導体とで構成される。天頂容量板は、例えば厚み0.2[mm]、4辺がそれぞれ13[mm](面積では13×13[mm
2])の銅板などで構成される。線状導体は、例えば線径0.1[mm]の銅線からなり、エレメント支持体130の周囲に数回巻回され、一方端は、それぞれ対となる天頂容量板に接続され、他方端は回路基板120上に形成されたアンテナ給電端子に接続される。それぞれ隣り合う線状導体の巻方向は互いに逆巻である。このようにすることで、銅線に流れる電流が同相となり、そうでない場合に比べてアンテナエレメント同士の結合が抑制され、アンテナ特性の劣化が抑制される。
【0064】
エレメント支持体130は、対応する線状導体を巻回する際の位置決めガイド及び対応する天頂容量板を保持固定する役割を持ち、アンテナ設置面に対して垂直方向に突出する中空の誘電体ブロックなどで構成される。アンテナ設置面から天頂容量板までの高さは、略10[mm]である。
【0065】
回路基板120は、アンテナエレメント140に接続される送受信端子と、送信時には信号を分配し、受信時には信号を合成する分配・合成回路を含む電子回路と、外部回路との信号の受け渡しを行うための出力端子とを搭載した基板である。
回路基板120は、エレメント支持体130の中空部に収容され、これにより、アンテナ装置全体のサイズの節約を図ることができる。
【0066】
組み立てられたアンテナ本体外観を
図11に示す。
図11(a)は上面図、(b)及び(c)は側面図である。
図11(a)に示されるように、天頂容量板は、略矩形状の平板で、アンテナベース110から突出するエレメント支持体130の天頂部と同じ形状及びサイズに成形される。そのため、アンテナ設置面部に対して略平行となる。
【0067】
なお、天頂容量板が、必ずしも矩形平板である必要はなく、円形、多角形、環状、網状、環と格子との組み合わせ、その他の形状であっても良い点は、第1実施形態及び第2実施形態と同じである。
【0068】
また、線状導体は、エレメント支持体130の外側面に、所定間隔(ピッチ)で巻かれたヘリカルコイルになっており、ヘリカル径は、天頂容量板の外径とほぼ同じである。つまり、ヘリカル径の大きさは、天頂容量板の面積(外周で囲まれた部分の面積)と同等になっている。ヘリカル径及びピッチは、800[MHz]帯のアンテナエレメントにおいてはセルラー帯の周波数で共振するように調整される。
【0069】
次に、
図9〜
図11に示した構造のアンテナ装置101の各部の構成を詳しく説明する。アンテナエレメント140は、それぞれ天頂容量板と線状導体が上記のように設けられる結果、13×13×10[mm
3]のサイズとなる。アンテナエレメント140間の隙間は4[mm]である。そのため、アンテナベース110上のアンテナ取付面部の面積は900[mm
2](=30×30[mm
2])となる。また、アンテナエレメント140全体の収容空間のサイズは、30×30×10[mm
3]となる。
【0070】
回路基板120に実装される電子回路の構成例を
図12に示す。アンテナエレメント1401とアンテナエレメント1402は、分配・合成回路1201と接続されており、アンテナエレメント1403とアンテナエレメント1404は、分配・合成回路1202と接続されている。また、2つの分配・合成回路1201、1202は、分配・合成回路1203と接続され、分配・合成回路1203は、出力端子1204を介して、受信機と送信機とを備えた外部装置と接続されている。
【0071】
分配・合成回路1201,1202,1203は、アンテナエレメント1401〜1404が信号を受信したときは、これらの受信信号を合成して外部装置の受信機に導く。同一信号を同時に受信するので、アンテナ利得は格段に高まる。一方、信号を送信するときは、外部装置の送信機から出力される送信対象信号を分配して各アンテナエレメント1401〜1404に給電する。この場合も同一信号を同時に送信するので、アンテナ利得は格段に高まる。
【0072】
図13は、800[MHz]帯におけるアンテナの利得と天頂容量板の面積との関係を示す図である。縦軸は、基準アンテナ比のアンテナ利得[dB]であり、横軸は面積[mm
2]である。アンテナ利得[dB]は、帯域内平均利得を表す。
この実施形態では、基準アンテナを、13[mm]四方に巻かれた、高さ10[mm]の1つのヘリカルアンテナとした。つまり、アンテナエレメント140から天頂容量板を外したものと同じである。
【0073】
基準アンテナ1つ分の開口面積は、169[mm
2](=13[mm]×13[mm])となるので、その利得A1を基準0[dB]としている。
図13において、A2は、この基準アンテナに天頂容量板を付加し、それを
図9〜
図11に示したように、4つ並べたときのアンテナ利得であり、その値は5.4[dB]である。A3は、高さを10[mm]に維持した状態で、天頂容量板の面積を変化させたときのアンテナ利得の変化を示している。
【0074】
図13を参照すると、基準アンテナに天頂容量板を付加した1つのアンテナエレメントのアンテナ利得は、1.8[dB]ほど高い。逆に、基準アンテナと同等のアンテナ利得となる天頂容量板アンテナの面積は80[mm
2]で足りる。つまり、天頂容量板を付加することで、アンテナ利得が大きくなり、広帯域化も図れている。
一方、本実施形態のアンテナ装置101のように、13[mm]×13[mm]の天頂容量板を有する4つのアンテナエレメント1401〜1404を並列設置したときの面積は、約900[mm
2]である。
図13のA3から明らかなように、900[mm
2]の面積の天頂容量板を有する一つのアンテナエレメントのアンテナ利得は4.0[dB]であるから、同じ面積であっても、4つに分割して使用した場合は1.4[dB]高くなった。
【0075】
このように、第3実施形態のアンテナ装置101においても、アンテナエレメントの天頂容量板の面積を広げることにより広帯域化し、また、同じ面積でも、複数個に分割して使用することにより、アンテナ利得を高めることができた。
【0076】
なお、この実施形態では、受信時には外部装置の受信機で増幅し、送信時には外部装置の送信機で増幅する場合の例を示したが、これらの増幅器をアンテナ装置側に設けても良い。但し、この場合は、送信時の電波のシールド対策を講じることが望ましい。
図14〜
図16は、増幅器をアンテナ装置側に設けた場合の構成例を示す図である。アンテナ装置側で増幅するときは、
図14に例示される構成の高周波回路を設ける。この高周波回路は、端子C1,C2に接続された一対の分配・合成回路RT10,RT11の間に、受信増幅器R10と送信増幅器T10とを並列に設けた回路である。
【0077】
図15は、4つのアンテナエレメント1401〜1404の直下にそれぞれ、
図14に示した構成の高周波回路1211〜1214を設けた例である。高周波回路1211と高周波回路1212には、分配・合成回路1215が接続され、高周波回路1213と高周波回路1214には、分配・合成回路1216が接続される。さらに、2つの分配・合成回路1215、1216は、分配・合成回路1217に接続され、この分配・合成回路が
図12に示した出力端子1204に接続される。
【0078】
図16は、4つのアンテナエレメント1401〜1404の直下にそれぞれ、
図14に示した構成の高周波回路1221〜1224を設け、これらを一つの分配・合成回路1225に接続した例である。この分配・合成回路1225が出力端子1204に接続される。
【0079】
図14ないし
図16の場合、分配・合成回路RT10,RT11,1215〜1217、1225は、送信時は分配回路として機能し、受信時は合成回路として機能する。
【0080】
[変形例]
以上、3つの実施形態例を説明したが、本発明のアンテナ装置は、以下のように変形して実施することが可能である。
(1)第1実施形態では、4つのFM帯用のアンテナエレメントと、2つのAM帯用のアンテナエレメント、第2実施形態では、2つのFM帯用のアンテナエレメントと、1つのAM帯用のアンテナエレメントを並列配置した場合の例を示したが、アンテナエレメント数は、これらの数以外にしても良い。また、FM帯のアンテナエレメントだけをアンテナ設置面部に並べてアンテナ装置を構成することもできる。
【0081】
(2)第1実施形態及び第2実施形態では、回路基板20に増幅器と合成回路とを設けた場合の例を説明したが、回路基板20又はそれに実装される電子回路をアンテナベース10ではなく、アンテナ装置と別体の部位に設け、インタフェースを介して電気的に接続可能な構成にしても良い。また、回路基板20に周波数帯域の信号ごとに合成する合成回路だけを設け、合成された受信信号をアンテナ装置の外部装置で増幅するようにしても良い。
【0082】
(3)第1実施形態及び第2実施形態ではAM帯用とFM帯用のアンテナ装置、第3実施形態では、セルラーの800[MHz]帯用のアンテナ装置の例を説明したが、GPSの周波数帯、ナビゲーションシステム用の周波数帯、あるいは、衛星放送用の周波数帯を受信できるアンテナエレメントを有するアンテナ装置としても良い。
【0083】
[第4実施形態]
次に、第1ないし第3実施形態で示したアンテナ装置の製造方法について説明する。これらのアンテナ装置は、以下の製造工程を経て製造することができる。便宜上、第1実施形態のアンテナ装置1について説明するが、第2実施形態及び第3実施形態のアンテナ装置の場合も同様となる。
(1)分割工程
アンテナベース10において、アンテナエレメントを設置することが可能なアンテナ設置面部の面積を定める。そして、この面積を、エレメント間の隙間を考慮しつつ周波数帯ごとにk分割(kは2以上の自然数)する。具体的には、
図5(a),(b)に示されるアンテナ利得、アンテナエレメントの高さ及び天頂容量板の面積の相互関係と、電子回路において補償可能な利得(3[dB])とを考慮して、確保できるアンテナ設置面部の面積から分割数(k)と、分割後の天頂容量板の面積とを決定する。
【0084】
(2)配置工程
分割した系統分の電子回路を実装した回路基板20をアンテナ設置面部に収容した後、分割された面積を有するk個の天頂容量板と線状導体とを、アンテナ装着面部と平行の平面上で無指向性を呈するように取り付ける。すなわち、天頂容量板をアンテナ取付面部と平行又は略平行となるように、エレメント支持体30に取り付ける。線状導体は、その一端部がアンテナ設置面部から実質的に最も離れた部位で天頂容量板と導通し、その他端部が他の線状導体の他端部と独立に電子回路に接続されるようにする。
このようにして、アンテナベース10上に、同一周波数帯の同一信号の同時受信が可能となるk個のアンテナエレメントを構成する。
【0085】
(3)組立工程
最後に、アンテナベース10のカバー接合部にカバー部を接合してアンテナ装置1を完成させる。